一.現状の認識と今後の方針

1.地震及び火山噴火予知のための観測研究に関する現状認識

○ プレート沈み込み帯に位置する我が国では,これまで,地震や火山噴火による災害が度々発生し,多くの国民の生命や暮らしが奪われるなど多大な被害を受けてきた。平成7年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)では,建造物崩壊や火災により6000人以上が亡くなり,平成23年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では,津波による死者・行方不明者が2万人近くに上った。平成12年の三宅島噴火では,約4000人の全島民が島外へ避難し,長期間不便な生活を強いられた。
○ 特に,東北地方太平洋沖地震では,その震源域で大地震が発生する可能性について従来から危惧され,これまで多くの調査研究が行われていた。しかし,その規模がマグニチュード9に達する超巨大地震となる可能性については,観測研究計画の中で追究されていなかった。観測研究計画の問題点を以下のようにまとめ,計画の見直しを行い,平成24年11月に建議された。

  •  プレート境界の巨大地震発生機構に関して限られたモデルに固執していた。
  • 観測環境の厳しい海溝付近の観測網を整備するには至っておらず,十分なデータがなかったためプレート境界での滑り特性を理解することができていなかった。
  • 歴史資料・考古資料や津波堆積物の地質学的調査研究等の広い研究分野の成果の活用が不十分であった。
  • 発生間隔が数百年以上の低頻度であっても極めて甚大な災害をもたらす地震や火山噴火の研究への取組が不足していた。
  • 行政機関等と協力して,地震や火山の研究成果を防災や減災に役立てることを十分に考慮した研究計画になっていなかった。
    これらの指摘のうち直ちに対応できることは,平成24年11月の観測研究計画の見直しを行い,超巨大地震に関する観測研究を強化した際に対処した。しかし,計画の残り期間が短いこともあり,全ての問題点には対応はできていない。これらの課題を考慮して計画を策定する必要がある。

○「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の在り方について(建議)」(平成25年1月)では,特に,地震研究において,大地震の発生やそれに伴う巨大津波の発生可能性を事前に国民に十分に伝えられなかったことが,大きな問題であると指摘された。その対応として,地震,火山,防災分野だけでなく,人文・社会科学分野を含めた研究体制で総合的かつ学際的に研究を推進することや,低頻度で大規模な自然現象に対しても正しく理解し,防災・減災に貢献できる体制にすることなどが必要であるとされた。また,地震学・火山学の現状を丁寧に説明するとともに,地方自治体が適切な防災対策が取れるように,科学的見地から助言を与える取組なども必要とされた。
○ また,平成24年10月には,「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」の外部評価が行われ,地震や火山噴火による災害の多い我が国において,地震火山現象の科学的な研究成果を防災・減災につなげていくことは重要であるとされた。学術的には,国際的に見ても重要な研究成果が挙げられていることは評価された。しかし,東北地方太平洋沖地震の発生を踏まえて,以下の課題を改善すべきであるという強い指摘を受けた。

  • 国民の命を守る実用科学としての地震・火山研究の推進
  • 低頻度ながら大規模な地震及び火山噴火に関する研究の充実
  • 研究計画の中・長期的なロードマップの提示
  • 世界的視野での観測研究の一層の推進
  • 火山の観測・監視体制の強化
  • 研究の現状に関する社会への正確な説明
  • 社会要請を踏まえた研究と社会への関わり方の改善
    また,40年以上にわたる予知に関わる計画の抜本的見直しが必要であるとされた。
    以上を踏まえ,かつ以下に記述するこれまでの観測研究計画の経緯と成果に鑑みて,今後の計画を策定した。

2.地震及び火山噴火予知のための観測研究のこれまでの経緯と成果

2-1. 地震・噴火予知研究のこれまでの経緯

○ 過去40年有余,地震や火山現象に関する学術研究を推進し,その成果を地震や火山噴火による災害の軽減に生かすことが地震・火山研究者の責務であると考え,計画を推し進めてきた。
○ 地震予知は防災・減災に効果的であるという認識の下,地震予知のための観測研究計画が進められてきたが,これまでに大地震の短期的予知には成功していない。
○ 昭和40年度に開始された第1次計画から平成6年度に開始された第7次計画まで,高感度の地震観測網,地殻変動観測網を整備し,前兆現象の観測に基づく地震予知に力を注いだ。平成7年に発生した兵庫県南部地震を契機にそれまでの計画を総括した際に,前兆現象の発現様式は複雑多様であり,その多様性の中に系統性が見いだせるほどにはデータが蓄積していないとされ,推進すべき研究の方向を大きく見直した。
○ 平成11年度から開始された計画では,地震発生に関する基礎的研究を重視し,地震発生のモデルと観測データに基づいた地殻活動の推移予測を目指して研究を進めてきた。地震に先行する現象の観測事例が増加し,地震現象の理解は深まったものの,大震発生予測の実現には至っていない。
○ 歴史地震研究においては,地震史料集の編纂が進み,江戸時代より前の地震・噴火史料のデータベース化が進んだ。さらに,考古データから地震災害を読み取る地震考古学という学術分野ができるなど大きな進展があったが,それらの成果を十分には活用できていなかった。
○ 高感度高密度の地震,測地観測網により,ゆっくり滑りや低周波微動などが発見され,プレート境界滑りの多様性が明らかになった。また,それらの物理過程についても理解が進展し,プレート境界における大地震の発生過程との関連についても研究が進められている。
○ 釜石沖の繰り返し地震など,地震の発生時期・規模の予測が可能な場合があることが明らかになった。
○ 昭和49年度に開始された火山噴火予知計画では,火山周辺の観測網の整備と実験観測の推進が図られた。稠密(ちゅうみつ)で多項目にわたる観測が実施されている幾つかの火山では,噴火に至るまでの現象や,噴火の直前の異常が確実に観測により捉えられるようになった。また,マグマの物性やマグマ上昇速度などと噴火規模・様式の関連が見られる例も見つかり,火山噴火予知のために重要な知見が蓄積された。
○ 火山監視体制の強化と噴火前に現れる地震活動や地殻変動に基づき,有珠山や三宅島などでは噴火発生の予知が実践された。また,これらの成果を踏まえて,平成19年より防災機関や住民が取るべき防災対策と連携した噴火警戒レベルが火山ごとに順次導入されている。
○ しかし,噴火の規模や様式,活動推移の予測に成功するまでには火山噴火の理解は進んでいない。例えば,2000年の三宅島噴火の山頂カルデラ形成や火山ガスの長期噴出を活動初期には予測できなかった。また,2011年の新燃岳の噴火規模・様式の予測に成功しなかった。
○ 平成21年度からの計画では,地震予知研究と火山噴火予知研究が統合され,プレートの沈み込みという共通の地球科学的環境で発生する地震と火山噴火の相互作用の研究が始まるとともに,観測基盤の有効利用が進められた。

2-2. 今後につながる成果

○ 我が国は,地震及び火山噴火を原因とする災害に立ち向かうことを宿命付けられている。これまでの観測研究計画では,地震や火山噴火の防災・減災に役立てることを目指して推進してきた。以下にその成果を例示する。
○ 地震の発生機構,断層モデル,地震波伝播過程等の研究が進展し,科学的な理解に基づき,地震発生の長期評価や,地震による強震動・津波の予測が行われるようになった。
○ 地震の防災・減災に活用可能な研究成果が得られるようになってきた。

  • 陸域の高密度な地震及びGNSS観測網に加え,震源域直上の海底地震観測や海底地殻変動観測とそのデータ解析手法開発により,東北地方太平洋沖地震など多くの地震の詳細な滑り分布や,本震発生に至る過程のかなりの部分が短期間に解明された。特に,近年実用化された海底地殻変動観測の貢献は大きく,今後も,プレート境界のひずみ蓄積過程の解明や地震発生ポテンシャル評価等での利用が期待されている。
  • 東北地方太平洋沖地震で発生した巨大津波は,海底に敷設したケーブル式津波計により沿岸到着の約20分前に捉えられていた。この実績に基づき,政府により太平洋岸に海底観測網が敷設される計画である。
  • 陸域のGNSS観測網の即時解析から,超巨大地震の規模を短時間で正確に把握できる手法が開発され,地震動や津波の即時予測等の防災情報高度化への実用化が進められている。
  • 上記の方法による地震規模の推定や,海底観測やブイによる沖合の津波計データを即時的に解析し,津波浸水域を高精度に推定する手法の開発が進められている。さらに,直近のデータを逐次的に処理し,津波浸水域の予測を高精度化する研究も進められている。

○ 地球物理学的な多項目にわたる観測及び物質科学的調査に基づく火山活動のモニタリングが進み,マグマ蓄積や火道浅部活動の理解が進み,噴火活動の評価が行われるようになった。
○ 火山の噴火規模や様式,その推移の予測に関する新たな研究成果が得られるようになってきた。

  • 富士山の火山体構造とその活動史の解明が進み,地殻中・深部のマグマの混合により,マグマの多様性や噴火様式の違いが生じ得ることが明らかとなった。マグマ特性の物質科学的分析を進めることにより,火山噴火活動の予測などにつながることが期待されている。
  • 小規模な噴火現象の発生時間や規模,様式と,火口近傍で観測された山体膨張などの先行現象との間の相関が得られた。限られた事例ではあるものの,この関係は噴火規模や様式の予知に重要な新たな経験則として利用できることが期待されている。
  • 噴火履歴の解読や近年の地震・地殻変動データに基づき,三宅島や桜島,伊豆東部火山群,霧島山新燃岳などの火山について,火山噴火事象系統樹(噴火シナリオ)の高度化が図られた。噴火事象系統樹は,火山活動の推移を俯瞰(ふかん)的に理解して防災対策を立てるときに役立てられ,地域防災計画の中で参考にされている。

○ 伊豆半島東方沖では,マグマの貫入による地殻変動と群発地震活動度の関係が明らかになり,火山活動が地震活動に及ぼす影響についての理解が進展すると同時に,その知見は気象庁の発表する「地震活動の見通しに関する情報」に応用された。

3.観測研究計画の長期的な方向

3-1. 基本的考え方

○ 地震・火山の観測研究は,国民の生命と暮らしを守るための災害科学の一部であると考え,計画を推進すべきである。災害科学とは,災害を引き起こす現象の発生から災害の発生,推移を総合的に理解し,その知見を防災・減災に活かすための科学である。一旦発災すると被害が甚大となる地震・津波・火山噴火による災害を軽減するためには,長期的展望に基づき,災害を起こす原因にまで遡った理解に基づく方策を探る必要がある。つまり,自然現象である地震や火山噴火現象を理解し,それらが引き起こす災害を知ることが災害科学の基礎となる。地震や火山噴火が引き起こす強震動,津波,火砕流などの「誘因」が外力として,人の住む自然環境や社会環境に作用し,その脆弱(ぜいじゃく)性が「素因」となって災害が発生する。このような概念を念頭において研究を推進する。この際に,地震・火山噴火の発生の場所,規模,時期などの予測に始まり,災害の発生から,地震・火山噴火の発展段階に応じて起こり得る災害の推移を予測することも重要である。観測研究は,以上を踏まえ,防災,減災にも貢献できる研究として機能すべきであり,今がそのような転換点にあると認識する。
○ これまでの計画では「予知」という言葉を使用してきた。予知という言葉は,「前もって知る」という意味から予言や警告という意味までの広い語感をもつ。そのため,最近の理学研究では,「予測」という言葉を使うことが多い。他方,災害科学においては,災害の発生を「前もって認知して対応できるようにする」という意味での「予知」の必要性は大きい。これからの観測研究計画では,災害科学の観点から,後者の意味で「予知」と言う語を用いる。地震や火山噴火によりどのような災害が起こるかを事前に知りそれに備え,災害が発生する可能性をその原因となる地震や火山噴火発生に遡って予知し,防災・減災につなげることが,「災害予知」の基本である。

3-2. 課題への対応

○ 新たに計画を策定するに当たり,現状認識に挙げられた課題を以下のようにまとめ,その対応を後述する。

  • 国民の命を守る実用科学としての地震・火山研究を推進すること,
  • 低頻度大規模現象について取り組むこと,その際,地震や火山噴火の発生間隔の長さや頻度の低さを考慮して,歴史学,考古学,地質学の関連研究分野と協力して研究を推進するとともに,国外の事例も取り入れて研究すること,
  • 計画の中長期的なロードマップを提示すること,
  • 研究成果を防災・減災につなげるため防災学,人文・社会科学等の関連研究分野と協力して研究を推進すること,
  • 研究と社会への関わり方を改善すること。

○ 外部評価で指摘された「実用科学」を,本計画では,地震・火山研究の科学的知見を防災・減災に活用し,国民の生命と暮らしを守る災害科学,と捉えて計画を策定した。そのため,自然現象である地震・火山現象の理解を深めつつ,地震や火山噴火の発生の予測を目指した研究を継続的にかつ着実に実施することに加えて,地震動や津波,降灰や噴石など災害を起こす現象の予測などを含めた災害の予測の研究を推進する。
○ 大地震の発生時期を予測することは現段階では難しいが,釜石沖の繰り返し地震や伊豆東部の群発地震の活動予測など限られた事象ではあるものの,地震発生予測に関連した新たな成果が生まれている。また,火口近傍での観測により,噴火規模の予測に結び付く可能性の高い新たな知見も得られている。このような事例を参考に,地震発生と火山噴火の予測を目指した研究を行う。その際,多様なデータ,手法,モデルを考慮して,地震・火山現象の物理・化学過程の理解に基づく地震発生や火山噴火の予測の研究を進めると同時に,十分な精度を持つ観測データに裏付けられた経験則も,その適用範囲を熟慮して,活用する。
○ 海底観測装置の開発や高度化,津波浸水域の高精度逐次予測,GNSSリアルタイム処理による巨大地震震源域の即時予測,火山防災計画の参考にされた噴火事象系統樹(噴火シナリオ)など,これまでの観測研究計画の成果が社会に役立てられている例も多い。今後の計画では,ここで挙げられたような災害の予測に役立つ研究成果を増やし,社会に貢献することを目指す。
○ 低頻度で大規模な巨大地震や大規模噴火現象は,未解明な部分が多い。そのため,それらに起因する災害の軽減を図るためには,まずはその発生機構の解明が必要である。東北地方太平洋沖地震の発生機構を理解し,この地震が隣接域の地殻活動に及ぼす影響を研究する。また,これまでに南海トラフで発生した巨大地震の特性を解明する。大規模噴火は近年日本では発生していないものの,史料・考古・地質データからこれまで繰り返して発生してきたことは明らかである。歴史学・考古学・地質学等の研究者と連携し,近代観測開始以前の地震や火山噴火の特性を理解する。また,日本以外の事例との比較が重要であることから,国際共同研究を実施する。
○ 地震・火山噴火による災害を軽減するため,
(1)地震や火山噴火が引き起こす災害がどのようなものがあるかを,国民や関係機関に広く知らせること,
(2)地震や火山噴火が,どこで,どのくらいの頻度・規模で発生し,それらによる地震動,津波,噴火規模・様式等を想定し,長期的な防災・減災対策の基礎とすること,
(3) 地震や火山噴火の発生直後に,地震動や津波,火砕流や降灰,溶岩流などを予測することにより避難に役立てること,
(4)地震の発生や火山噴火の発生や推移を事前に予測することにより防災・減災対応を取ること,
が必要である。
(1)については,地震や火山噴火が引き起こす災害の特徴を科学的に解明して,災害に対する専門家と社会との共通理解を醸成する。自然現象としての通常の地震と火山噴火現象によって引き起こされる災害の理解は進められてきたが,低頻度で発現する巨大地震や大規模噴火の理解は不足し,その災害についての知見も限られている。今後10年程度,歴史学や考古学,地質学に基づく地震・津波・火山災害学を系統的・組織的な研究に推進し,国内外で発生する大規模な地震・噴火現象と災害事例を集積することにより低頻度現象についても一定の知見が得られると期待される。
(2)では,観測データ,史料,考古学や地質学によるデータによる地震の統計学的解析や火山噴火の活動履歴の調査により,地震や火山噴火とそれによって引き起こされる災害の発生場所と発生規模・頻度を推定し,長期的な防災・減災対策の基礎的知見を得る。これまでも,地震・火山研究の成果に基づき地震発生の長期評価や地震による揺れの予測図(地震ハザードマップ),降灰や溶岩流を予測した火山ハザードマップ等が作成され,防災行政や国土計画の策定等に貢献している。今後10年程度は,特に中小の地震の統計的性質も考慮した大地震の長期予測法の開発や,発生の繰り返し間隔や規模の揺らぎに関する理論的研究を進める。火山噴火は,着実に地質調査を実施し,国内火山の詳細な噴火履歴の作成に努める。
(3)では,自然現象としての地震発生や火山活動を観測により実時間で把握して,地震動や津波,火砕流や降灰,溶岩流などを予測する。近年,地震発生による強い揺れや津波到来の予測が可能となり,緊急地震速報や津波警報など既に実用化されている。また,火山噴火に伴う噴石や降灰の予測手法の開発は,現在進められている。このような予測は,避難や防災行動に直接的に結び付き,その精度向上は短期的には最も効果が高いと思われる。そのため,今後5年間は,既に実用化されているものについてはその信頼性や精度の向上をはかり,開発中のものは開発を効率的に進める。また,情報通信網等の社会基盤の発展や,社会の構造変化により,求められる情報が時代と共に変化することも考慮し,今後の災害情報の在り方についての研究も同時に進める。
(4)で示す地震や火山噴火の発生が予測できれば,防災・減災への応用は広く,効果も大きいと考えられる。地震や火山噴火の発生前の現象を検知し,経験的な法則や理論的な裏付けのあるモデルを用いて,地震発生や火山噴火の予測を目指す。予測のためには観測データは不可欠であり,震源近傍や火口付近などでの観測を強化することが重要である。地震現象や火山噴火現象は非線形性が強く,これまでの研究の蓄積があるにも関わらず,予測が確実に行える状況ではなく,予測の実現には息の長い取組が必要である。
プレート境界地震の短期予測については,断層摩擦滑りの物理モデルと観測データを総合して,地震を含めた断層滑りの時空間発展の予測をする研究を進める。そのために,観測,実験,理論研究により物理モデルを高度化することと,モニタリングデータの利用法に関する研究を重視し,次期計画中に予測を試行する。内陸地震については,地震発生機構の物理モデルが確立していない。そのため,まず,モデル構築のための研究に集中しモデルとデータを総合した予測の準備をして,プレート境界地震と同じように予測のための研究を行うことを目指す。また,多様な観測で得られる大地震の先行現象に関する経験則を利用して地震発生予測をするために,地震活動の変化などの先行現象の研究を進め,今後10年程度で先行現象についての統計評価を行う。
火山噴火予測では,観測データに現れる異常現象を基に噴火発生を予測する研究を中心に進める。起こり得る火山現象を網羅的に示した噴火事象の系統樹を活用し,火山活動の進行により発現する事象を支配している物理・化学過程を,観測データや火山噴出物や火山ガスの解析結果,理論的な研究成果から明らかにする。一つ一つの事象発現の理解の積み重ねと,それに基づく事象分岐の解明により,予測の実現に近付ける。噴火履歴に基づく高度な噴火事象系統樹の作成を着実に進めるとともに,今期に,火山事象分岐の判定方法を加えた新たな噴火事象系統樹の原型(プロトタイプ)を作る。その後も,基礎研究の成果を取り入れながら,実際の火山噴火活動の判断基準として試用し,高度化を進める。

3-3. 観測研究計画実施体制の整備と計画の推進

○ 国民の生命と暮らしを守る実用科学として,地震・火山噴火災害に関する科学(災害科学)が活用され,防災・減災に効果的に役立つためには,地震発生・火山噴火の仕組みを理解する基礎研究,それらを予測する応用研究,更に防災・減災に役立つ方策を示す開発研究を組織的に進める必要がある。
○ 東日本大震災を踏まえた科学技術・学術政策の在り方の検討の中で,基礎研究,応用研究,開発研究のいずれの段階でも,研究者の内在的動機に基づく学術研究,政府が設定する目標等に基づく戦略研究,政府の要請に基づく要請研究の三つの方法によって進められるべきであることが指摘された。また,学術研究においても課題解決とともに自ら研究課題を探索し発見する行動が求められている(東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の在り方について(建議),平成25年1月17日)。
○ さらに,地震・火山噴火研究においては,特に人文・社会科学も含めた研究体制の構築,海外の地震多発国との連携強化,防災や減災に十分貢献できるような研究体制の見直しなどが指摘されている。
○ 本計画を推進し,成果を社会の防災・減災に効果的に役立てるためには,政府の地震・火山噴火防災施策で設定する要請や目標を十分考慮し,さらに,研究者が創意工夫に基づいて設定する本計画の成果が,防災・減災に貢献できる体制を構築する必要がある。
○ 大規模な地震・火山噴火は人間の生活時間に比べて発生間隔が長く,近代的な観測データが十分に得られていないことから,その発生の仕組みには未解明なことが多い。このため,長期的視点に立ち,学術的な基礎研究を主体として実施する観測研究体制が必要である。同時に,長期にわたる継続的な観測・調査と観測データ・資料の総合的な解析を地震・火山噴火防災研究全体として実現する体制が重要である。観測データ・資料及び研究成果のデータベースの構築等の研究基盤の開発・整備に努める一方,現在の技術では困難に見える観測や解析の新展開を図るため,新たな技術開発を行う。
○ 地震及び火山噴火等の自然現象である災害誘因だけでなく,地形・地盤等の環境や人間社会の持つ脆弱(ぜいじゃく)さが災害素因となり,災害の大きさが決まる。本計画を災害科学の一部として捉えた場合,これまで実施してきた災害誘因としての地震及び火山噴火研究に加えて,災害素因との関係を意識して研究を進めることが必要となる。このため,理学だけではなく,防災研究や工学,人文・社会科学等の関連研究分野との連携を図りつつ,災害予測の研究を推進する。
○ 地震や火山噴火現象の推移を理解し,予測するには,近代的な観測の実施期間が短すぎることから,歴史学・考古学などと連携して過去の事例を調査する歴史災害研究を行うことが不可欠である。ただし,過去の地震と噴火の史料・考古データを収集して歴史災害研究を行う組織が存在せず,後継者養成も行われていない状況は,従来から大きな問題となってきた。歴史災害に関する学際研究は,これを解決する長期的な見通しをもって行われる必要がある。
○ 長期的な展望の下に,防災力の高い社会に変えていくための研究と防災業務に携わる人材の養成を行う必要がある。
○ 研究成果が適切に理解され実際の防災・減災に活用されるため,その内容を分かりやすく社会に伝える組織的な活動が重要である。地震・火山科学が社会に発信する情報の在り方を含め,広く災害情報についても検討する。さらに,そのための人材の確保と人材の交流を図る必要がある。
○ 低頻度の災害予測の研究をするためには,日本だけでなく海外の他の地域の事例を取り入れるなどの国際的な共同研究を行う必要がある。同時に,本計画の成果を外国,特にアジアの諸国の地震・津波,火山災害の軽減に役立ててもらうことは,災害科学の先進国である我が国の責務である。

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)

-- 登録:平成25年08月 --