今回策定する計画(平成21〜25年度)は,地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)と、第7次火山噴火予知計画の成果を引き継ぎ,更に発展させるためのものとして位置付けられる。同時に、両者の計画を発展的に統合した計画とも位置づけられる。
地震は、地殻・上部マントルで進行する広域的で不均質な変形の蓄積によって特定の震源断層に加わる力が破壊強度を超えて発生する現象である。その過程では、地殻・上部マントルの変形、小さな破壊、物質の移動が発生する。これらの地震発生に至る地殻および上部マントルで進行する地殻変動、中小地震の発生、地殻内流体等の物質の移動現象、大地震の発生とその余効過程等を地震現象と総称する。この中には、地殻内で進行する火山現象も含まれる。地震予知のための新たな観測研究(第1次、第2次)では、地震発生とその直前の現象にだけ注目するのではなく、地震発生にいたる地殻とマントルの活動を地震発生サイクル全体にわたって理解することによって、多様な地殻の活動と異常現象を地下の物理・化学過程として理解し,その理解に基づいて地震現象の推移を予測して地震発生を予測する研究手法がとられた。
一方、海洋プレートの沈み込みに伴って発生したマグマが上昇して地殻内で蓄積し、さらに上昇して地表に到達すると噴火が発生する。その結果、火山灰とガスの大気中への放出や溶岩の流出など地表面近傍で顕著な活動が発生する。火山やカルデラ及びその周辺では、マグマの蓄積、移動、噴出に伴い地震や微動が発生し、地殻変動が観測される。また、噴火に至る過程で地熱や噴気活動に変化が認められることが多い。これらを、火山現象と総称する。
地震予知(研究)計画と火山噴火予知計画は、これまで、相互に連携を図りながらも、独立の計画として進められてきた。近年の研究の進展によって、海洋プレートの沈み込みと巨大地震の発生、マグマの発生と蓄積・移動、内陸の大地震の発生を、一連の現象として実証的に研究することが現実の課題となってきた。
地震予知が難しいのは,地震が応力・歪状態の突然の変化を伴う突発的・瞬間的な現象だからである。火山噴火も、多くの場合、上昇したマグマや火山ガスの圧力の瞬間的な解放を伴う現象である。このような状態変化に伴う突発現象は地震・火山噴火以外にも自然界に数多く存在し,その予測は一般に極めて難しい。しかし,予測科学の分野では,突発的で偶然の発生とみなされてきた現象を物理・化学的に必然の結果として理解し,予測問題に新しい切り口を見出す努力が始められている。地震予知と火山噴火予知の計画においては,今後は、予測科学的視点を重視していく必要があり、共通な地球科学的背景を持つ地震と火山噴火を予測する研究を連携して実施していくことは、ますます重要となってくる。
地震現象と火山現象には、共通の測地学的・地震学的手法で観測して研究することのできる対象が多い。我が国には、世界に類を見ない稠密な地震・地殻変動の観測網が国の基盤的調査観測網として整備され、これらは、地震現象と火山現象のいずれの調査研究にも貢献しうる。
内陸の大地震発生とマグマの移動・蓄積過程は、地殻の不均質構造が大きく関与している。内陸地殻の構造探査の研究では、地震予知研究と火山噴火予知研究でこれまで独立に蓄積されてきた知見を共有化することが、それぞれの現象について理解を深めるために必要である。さらに、共通の目的を設定して、共同で観測を実施することは、共通の科学的背景を持った現象の理解には有効である。また、内陸大地震発生機構を解明するためには、火山活動との関係を明らかにする必要もあり、地震予知研究と火山噴火予知研究が共同して観測研究を実施することが有効である。
以上述べたように、地震予知研究と火山噴火予知研究のこれまでの成果を継承してさらにこれらを統合した計画を作るにあたって、まず、地震予知研究の基本的な考え方と、火山噴火予知の基本的な考え方をまとめた後で、両者を統合した計画について、次節「2.本計画の基本的な考え方」で述べる。
地震の発生を定量的に予測するためには,まず,長期にわたる地殻や上部マントル内の変形によってもたらされる広域応力が,特定の断層域に集中していく地震発生の準備過程を理解し,それに引き続く地震発生直前の過程における地震断層域での応力の再配分機構を解明しなければならない(地殻の活動の理解)。これまでの地震予知のための観測研究によって、プレート境界における大地震の準備過程に関する理解が進み、「アスペリティモデル」が提唱され、その妥当性が検証されてきた。
次の研究の段階では、観測を通じてこれらの準備から地震発生にいたる諸過程を迅速に把握(モニタリング)し、地震現象予測シミュレーションモデル(地殻やマントルの活動の推移予測を目的とした現実的な物理モデルに基づいた数値シミュレーションモデル)にデータを取り込み(データ同化)、地震現象の推移を予測するシステムを開発することが重要である(地震現象予測シミュレーションモデル)。内陸の地震発生機構については、統一的な物理モデルに基づき予測シミュレーションモデルを開発することを目指す。また、これまでは取り上げてこなかった沈み込む海洋プレート(スラブ)内の地震についても、その発生機構を解明する必要がある。
地震現象の予測を数値モデルによって行うというこれまでの方法を継承するためには、予測モデルの精緻化と共に、総合化にも配慮する必要がある。とりわけ、地震発生に先行して発生する様々な現象は多岐にわたっていて、簡単な力学モデルでは説明できない。地震現象データのモデルへの同化によって数値的に活動を予測して、地震発生を予知するためには、多様なデータをモデルに取り込めるようにする努力が必要である。これまで得られた、地震発生に至る地殻とマントルの活動の理解に基づいて、地震に先行して発生する現象の理解を進める必要がある。
第1次および第2次新計画の観測研究及び基礎研究の成果に基づき,地震現象の現状をモニターし,そのデータを地震現象予測シミュレーションモデルに取り込む(データ同化)ことで,大地震の発生に向けた地殻の活動の推移予測を行う。シミュレーションによる地殻の活動の予測結果と観測データとの比較を通じて,モデルの妥当性の検証を行い,実用化に向けた予測モデルの高度化を推進する。予測科学として、データと予測手法の厳密な選択、予測結果の検証手法を開発する。
地殻・上部マントルの構造,広域のテクトニクス及び地震現象の履歴・現状を明らかにする観測研究とともに,地震発生の素過程の理解を深める基礎研究を推進する。
このような地震現象の理解,モデル化,モニタリングを総合化したものとして,「総合予測システム」を構築し,「地震がいつ,どこで,どの程度の規模で発生するか」の定量的な予測を可能とすることが,地震予知研究の目標である。
現在の地震予知研究は上記目標への途上にある。プレート境界地震については、位置と規模の予測に一定の見通しが得られたが、時期の予測に関しては一般に長期予測の段階にあり、内陸の地震やスラブ内地震については、発生機構のモデル化が始まった段階である。
この段階においても,地震に至る地殻やマントルの状態を常時観測により把握し,地震現象の推移をシミュレーションすることによって,長期予測の誤差を段階的に小さくすることを試みる。さらに,予想される地震による地表の揺れの程度や津波の大きさを予測し,地震災害軽減に寄与することを目指す。【註:予知研究の範囲として、これを含めて良いか?】
このために,(1)地殻と上部マントルの状態を実時間で把握する地震現象モニタリングシステムの高度化のための観測研究と地震現象の推移予測を行うための地震現象予測シミュレーションモデルの開発研究、データベースの構築、(2)地震発生に至る地震現象の全過程と,その過程に伴って現れる種々な現象の発生機構を解明するための総合的観測研究,(3)地震発生に至る一連の過程で発生する現象を高精度で検出するための新たな観測・実験技術の開発研究を推進する。さらに,これらの観測研究を効果的に推進して地震災害軽減に寄与するために,(4)計画を一層効果的に推進できる体制の整備,観測研究プロジェクトを立案・推進するための広く開かれた仕組みの整備を図り,また,成果を社会に効果的に伝えるなど,震災軽減に関する社会的要請に答えるよう努める。
火山噴火予知研究の最終的な目的は、噴火の場所、時期、規模、様式及び推移を予測することである(火山噴火予知の5要素)。第7次火山噴火予知計画までの観測体制の整備と観測研究の成果により、噴火時期に関しては噴火予測が可能になってきた。しかし、時期以外の要素については経験則が成立する場合以外は依然として予測困難であり、また、経験則が成立する場合でも定性的な予測に留まっており、より定量的な予測が課題となっている。
火山活動を定量的に予測するためには、上部マントルで発生したマグマが上昇して地殻内のマグマ溜りに蓄積し、さらに火道を移動して山体内に貫入する噴火準備過程、噴火の発生や場所・様式・規模が変化しながら活動が継続する噴火推移などの噴火過程を理解し、これらの過程の物理・化学モデルを構築する必要がある。そして、この物理・化学モデルに基づいた噴火予測モデルを開発することを目指すべきである。したがって、噴火準備過程から噴火推移に至る噴火の全過程を解明するための観測研究に加え、噴火の素過程なども含めた基礎研究を今後さらに推進する。
また、定量的な噴火予測のためには、個々の火山の現在の活動度を観測によって正確に評価し、火山活動の観測データを噴火予測モデルに取り込まなければならない(データ同化)。気象庁が連続観測を実施している火山は徐々に増えてはいるが、わが国の108の活火山のうち未だ30火山に留まっていることから、今後も火山監視観測網の整備と高度化を進め、火山活動度評価のためのモニタリングの強化をはかる必要がある。
一方、大学などの観測は、噴火準備過程や噴火過程を理解することが主たる目的であり、この目的を効果的に達成できるよう必要に応じて観測網の再編を検討し、実験的・研究的な観測を重点的に行う。しかしながら、火山については地震調査研究のような基盤的観測網が整備されていないことや上記のように監視観測が不十分な火山が多いことから、当面は火山活動度評価のための観測を支援しながら、観測技術・解析手法の開発を継続してモニタリングの高度化に貢献する。
火山噴火予知研究を効果的に進めるための体制に関しては、第7次火山噴火予知計画のレビューや外部評価報告書で抜本的な対策の必要性が指摘されており、地震調査研究推進本部のように、噴火予知計画の方針・総予算・実行計画を統括する組織を設けることを検討すべきである。火山噴火予知連絡会には「火山噴火予知に関する研究及び観測の体制の整備のための施策について総合的に検討する」任務があることから、まずは火山噴火予知連絡会において、基盤的観測網整備も含めた今後の観測体制やデータ流通体制及び研究体制の在り方について検討を始めることが適切である。
(下線部の修正意見:そのため、火山噴火予知連絡会において、基盤的観測網整備も含めた今後の観測体制やデータ流通体制及び研究体制の在り方について、検討を行なう方策について議論を始めることが必要である。)
現在の火山噴火予知研究は、社会が期待する予知の5要素すべての実用的な噴火予知にはほど遠い段階にあるが、現段階でも研究成果を防災に役立てることは十分可能である。したがって、火山噴火予知連絡会の機能を強化し、大学・関係機関と地方公共団体等との連携をさらに進めることで、研究成果を積極的に社会に発信するように努める。
火山監視観測が未整備の火山に順次観測網を整備し、活動的な火山において多項目観測を実施することにより、各火山の活動状況を十分に把握するとともに、観測技術や解析手法の開発などにより火山活動のモニタリングの高度化をはかる。一方、各火山の活動履歴やこれまでの火山噴火予知研究の成果から、噴火シナリオを作成し、噴火シナリオに基づいた火山活動予測を行う。
マグマが生成してから噴火に至るまでの過程、噴火機構および噴火開始後終息に至るまでの過程を理解するための観測研究を推進し、噴火準備過程と噴火過程の物理・化学モデルを作ることを目指す。
噴火準備過程と噴火過程の物理・化学モデルに基づいて、数値シミュレーションを取り入れた噴火予測モデルを開発し、より定量的な火山活動予測を行う。火山活動の予測結果と観測データとの比較を通じて、予測モデルの妥当性の検証を行い、実用化に向けた予測システムの高度化を推進する。
火山噴火予知には大きく分けて3つの段階がある。
現在の火山噴火予知研究は、観測がなされている火山の多くは段階1、活動的で噴火履歴があり、多項目観測や各種調査が実施されているいくつかの火山では段階2のレベルにあると考えられる。実用的な噴火予知の実現を目指して、今後も引き続き観測網の整備、噴火事例の積み重ね、基礎研究の推進によって、各火山の予知の段階を上げていくことが求められている。特に、噴火予測モデルの開発とその予測モデルに基づく火山活動予測の試行と検証、また、噴火予測モデルの高度化のための火山活動のメカニズムの理解が当面の課題である。
このために、
を実施し、火山災害軽減に関する社会的要請に応えるように努める。
前記の基本的考え方に基づいて,次により本計画を推進するものとする
地震・火山噴火を予知するためには、観測を通じて地殻やマントルで進行している諸過程を迅速に把握し、地震現象を予測する数値シミュレーションにデータを同化したり、噴火シナリオに基づいた火山活動を予測したりする必要がある。このためには、地震・火山現象のモニタリングシステムの整備と高度化が基本的に重要である。同時に、地震・火山現象を予測するシステムをそれぞれ構築し、さらに、地震・火山現象のデータベースを構築して、情報の統合化を図る。
日本列島全域に整備された稠密な地震・地殻変動の観測網及び全国の火山に配備された火山活動観測網から得られるデータを活用し、地震活動・地殻変動及び火山活動を的確にモニターするとともに、活動の予測に有用な情報の収集に努める。このために必要な監視観測網の維持・強化や常時観測体制の整備を行うとともに、活動の的確な把握と評価に役立つ新たな観測手法等の導入を進めて、モニタリングシステムの性能向上を図る。さらに、大地震の発生や火山噴火の可能性の高い地域では、活動の予測に有用な情報を数多く収集することが可能であり、地殻現象・火山現象モニタリングの観測項目の多項目化などの高度化,観測点の高密度化や観測データの実時間処理システムの一層の整備が必要である。本計画では、データ同化による地震現象予測シミュレーションへの組み込みや、シミュレーション結果の検証及び、噴火シナリオに基づく火山現象の予測を行うために組織的なモニタリングを行う。
地震発生にいたる地震現象の理解に基づいて、地殻やマントルの状態の推移を予測するシミュレーションモデルを構築する。さらに、地震現象の常時モニタリングシステムによって得られる膨大な観測データを予測シミュレーションモデルに取り込む(データ同化)手法を開発して、データ同化実験を試行する。さらに,これらのシミュレーションを継続的に高度化していくために,地震発生の物理・化学過程に関する基礎的なシミュレーション研究を推進する。統計モデルや物理モデルに基づいて地震活動を評価し、時・空間的に高分解能な地震活動評価を行う手法を確立するために、地震活動予測アルゴリズムの妥当性を評価・検証する枠組みを構築する.
これまでの火山噴火予知研究の成果に加え,地質調査・解析による噴火履歴の解明,過去の噴火活動時の観測データの詳細な検討等に基づき,予想される噴火前駆現象や噴火活動推移を網羅した噴火シナリオをわが国の主要な活火山に対して順次作成する。モニタリングの高度化と噴火準備過程の研究を通してマグマ蓄積量の時間変化等を推定し,火山活動の現状を定量的に評価する。火山活動の評価と噴火シナリオに基づき,その後の火山活動の推移予測を行う。噴火事例の積み重ねや噴火活動のメカニズムの理解に基づいて噴火シナリオの高度化を図り,より定量的な火山活動評価手法と噴火予測システムを開発する。
地震活動や噴火史を明らかにするにための日本列島及びその周辺域の地震・火山現象の基礎データベースを構築するとともに,地震現象予測シミュレーションに活用するために地震・火山現象に関する情報を統合化する。噴火シナリオの高度化および火山活動評価に基づく噴火予測に資する予測データベースを開発し活用することを目指す。
地震・火山現象の予測のためには、地殻やマントルで進行している諸過程の正し理解が不可欠である。このために、地震・火山現象の解明のための観測研究を推進する。
日本列島及びその周辺域の地震・火山現象は,列島とその周辺に位置するプレートの相互作用に起因する応力・歪場に支配されている。地震現象予測シミュレーションと噴火シナリオの高度化・火山活動評価に基づく噴火予測実現のためには,日本列島を含むより広範囲で長期的なプレートの相対運動を明らかにすることが基本的に重要で,周辺国との国際協力の下に広域GPS観測及び広帯域地震観測を実施する。同時に,沈み込むプレートの形状とプレート境界の摩擦特性,マントルウェッジとマグマの発生場、広域の地殻構造と地殻内流体の分布の把握は、地震現象と火山現象の理解の基礎となる。地震発生サイクルの把握には,列島規模での応力場の形成機構と島弧地殻内部にみられる長期地殻歪みの実体の解明が必要である。
地震発生の準備過程を解明するために、地殻とマントルで応力が特定の領域に集中し地震発生に至る過程を明らかにする観測研究を実施する。プレート境界地震に関しては、アスペリティモデルに基づく数値シミュレーションによる地震発生予測の実現に向け、モデルの高度化を図るとともに、その精緻化に必要なアスペリティ分布などの推定を行う。それとともに、シミュレーションへのデータ同化や、地震発生の切迫度評価に資するために、プレート境界面上で進行する非地震性すべりの時空間変化の実体把握を重点的に推進する。内陸地震の準備過程では、断層周辺の非弾性変形が応力集中に重要な役割を果たしている。そこで、下部地殻・上部マントルの不均質構造とその変形を高精度で把握し、地震発生層である上部地殻の構造や変形と総合したモデリングを行うことにより、歪集中帯の成因を理解し、内陸地震の発生準備過程に関する定量的なモデルを構築する。また、スラブ内地震の発生機構を解明するため、スラブ内の震源分布や地震波速度構造を詳細に明らかにすることにより、スラブ内にとりこまれた流体の地下深部における分布と挙動の理解を図る。
噴火シナリオの高度化及び火山活動評価に基づく噴火予測実現のためには,マグマの発生から噴火に至るまでの物理・化学過程の理解が不可欠である。そのため,多項目の観測や探査を実施して,火山下の地殻内におけるマグマの上昇・蓄積,これらのマグマの上昇・蓄積を支配する火山体構造と深部マグマ供給系,火山体浅部における火山流体の状態と変動をそれぞれ把握し,それらのモデル化に向けた研究を推進する。また,わが国の活火山の中長期的噴火予測モデル構築のため,各火山の地質調査やボーリング・トレンチ調査及び噴出物の分析等により,高精度の噴火履歴の復元,特定噴火の推移の解明,マグマ供給系の復元と変遷の把握を行う。
本計画で目指している大地震発生断層への歪蓄積のモニタリングとモデリングに基づく地震予測において,先行現象を捕捉してこれを予測モデルに組み込むことができれば,予測時間の精度向上に貢献することになる。このため,地震の先行現象の有無を明確にし,そのメカニズムを明らかにする研究を推進する。
大地震の断層破壊と強震動生成に関わる物理の理解を一層深め、強震動予測の確度向上を目的として、震源解析よび震源物理に基づく研究を推進する.強震動生成域の事前マッピングを念頭に,地震活動や不均質地殻構造等との関連性を調査する。また、震源断層の微細構造と不均質な地下構造を適切に評価した、大規模数値シミュレーションに基づく新しい強震動および津波予測モデルを整備する。
噴火シナリオの高度化及び火山活動評価に基づく噴火予測実現のためには,噴火活動の物理・化学過程の理解,特に噴火機構の解明と噴火の推移と多様性の把握が必要である。そのため,地球物理学・物質科学的観測により,火道浅部におけるマグマの増圧を含む噴火過程の詳細を高時空間分解能で明らかにして,マグマ移動と爆発的噴火のモデル化を行う。また,噴火様式を支配する要因や,噴火様式を支配する噴火発生場を理解するための観測研究を推進する。さらに,これらの研究結果を用いて噴火シナリオを作成するための研究を実施する。
地震のダイナミックな滑りや火山噴火の多様性の理解において,実験で得られた知見は重要な貢献を果たしてきた。しかし、地震に至る過程が、深部の流動的な岩石の変形によって駆動されることなどが知られるようになり、地震の予測のためには、そのような領域までの岩石の変形・破壊の性質を知る必要がある。地球構成物質の性質を実験・理論を中心として、従来にない広い条件範囲にわたって拡充していくことを目指す。また,地下深部の岩石の物性及び環境をリモートセンシングにより推定することができるようにするため,可観測量との関係を様々な条件の下で定量的に求める。火山噴火のモデル化のために,マグマの分化・発泡・脱ガス過程を明らかにするとともに,それらのパラメータを取り込んだマグマ上昇の数値モデルを作成することを目指す。室内実験で得られた知見を実際の自然現象に適用できるようにするためスケール依存性を明らかにする。
地震や火山現象に関する新たな知見あるいはモニタリングの飛躍的な進歩は、しばしば新たな観測・実験技術の開発によってもたらされる。このような観点から、本計画においても地震・火山噴火予知に資する新たな観測・実験技術の開発を行う。また新たな観測・実験技術は、例えばGPSのように地震予知および火山噴火予知の研究で、共通の技術も多く存在するため、地震予知研究と火山噴火予知研究で共同して行う。
地震及び火山噴火予知のためには、深海、深地層、噴火口など通常の観測器機では対応することのできない、いわば極限環境における観測が不可欠である。例えば、巨大地震の震源域のほとんどは海域にあるため、陸上の観測だけでは不十分なデータしか得られない。また火山島のかなりの部分は海底域である。それらの観測のため水圧の高い海底で地震や地殻変動を安定に観測するための技術開発が不可欠である。また気象の擾乱や人工的なノイズからはなれて安定で高感度のデータを取得するためには大深度ボアホールにおける計測技術の開発が必要である。さらに噴火口など噴火活動域近傍でのデータは非常に重要であるにもかかわらず、危険が伴うため取得が難しい。このような極限環境下での観測にむけた技術開発を行う。
地震発生場や火山などにおいて地下の状態をモニタリングする技術や、センサー技術や観測ネットワーク技術など、高度化によって知見やモニタリングデータが量的にあるいは質的に飛躍的に増大する可能性のある技術開発を進める。断層面の固着状態、マグマや流体の移動、またそれらに付随する現象のモニタリングのために、精密に制御された弾性波・電磁波や宇宙線素粒子等を用いた手法の高度化を図る。また山間地・離島・火山近傍など電源・通信インフラの不十分な場所における効率的データ取得のためのセンサー技術やネットワーク技術の高度化を図る。
GPSや衛星搭載合成開口レーダ(SAR)等の宇宙技術は、地震及び火山活動を深く理解するとともにそれらの活動を的確に把握するための観測手段として重要な役割を果たしている。それらのデータを利用した解析技術の高度化を図ることにより、より高精度な測地手法の実現や様々な地震や火山活動をより高い精度で把握するリモートセンシング手法の実現をめざす。
地震及び火山噴火予知研究計画(仮称)に基づいた計画遂行を担う各大学や関係機関が、それぞれの機能に応じた役割分担と密接な協力・連携の下に、計画全体を組織的に推進する体制の確立及び評価体制の充実を図る。
国立大学が法人化したことにより、各大学の独自性が強まり競争的な研究環境となり、ボトムアップ型の基礎研究が活性化する可能性が広がった。一方、予知のための観測研究の推進のためには、各大学及び観測・研究機関の連携・協力を一層強めなければならない。そのためには全国共同利用研究所の役割はこれまで以上に重要なものとなり、機能強化する必要がある。大学間の連携を緊密にし、研究の有効な推進を図るため組織された大学における地震・火山噴火予知研究協議会は,組織的な観測研究を推進していくために,これまで果たしてきた機能の強化を図り,多くの分野から広く英知を結集する体制を通して研究の一層の活性化を図る必要がある。同時に、本計画の主要な担い手である各大学の地震・噴火予知関連研究センターの充実を図る必要がある。
地震・火山噴火の予知の実現という最終目標を達成するためには、長期的な観測研究が必要であるので、これを担う人材の養成と確保が不可欠である。現在、人材確保が困難な原因として、大学院終了後博士研究員など任期付職は一定程度あっても、任期を定めない職が減少しているため、大学院生、若手研究者にとって将来展望が見えないという状況がある。このため,地震火山分野への進学を断念したり、早期に他分野に転身したりするという事態も生じている。したがって,人材の確保のためには任期を定めない職へのキャリアパスの道筋を早めに明示できる仕組みの実現や、関連分野の民間企業も含めた雇用の拡大を図る必要がある。また,自治体・防災官庁にあっては、研修や大学院の社会人入学制度などを活用して、地震・火山分野の専門家の育成にも努力すべきである.
地震・火山現象に関する理解を深め、地震予知および火山噴火予知の研究を推進するためには、日本列島周辺でのプレート運動に関する研究、国外の大規模な地震や津波の緊急調査研究、多様な地震・火山活動の比較研究や研究成果・知識の交換が有効である。また、得られた研究成果を日本以外の国に還元するためにも、緊急調査体制の整備、国際共同研究の推進、研究者の交流、技術協力等に取り組む必要がある。
本計画の成果を社会に効果的に伝えて、震災軽減に関する社会的要請に答えるために、地震・火山に関する普及活動を組織的に推進する。また、地震・火山噴火による被害軽減のため、情報や報道発表内容の質的向上を図り、的確かつ迅速に提供するように努める。