海洋生物研究に関する今後の在り方について(改訂概要)

令和2年3月
海洋生物委員会

背景

 国連「持続可能な開発目標(SDGs)」等の取組が進展するとともに、ゲノム技術や情報科学技術などの基盤的技術が発展するなど、海洋生物研究が果たすべき役割や取り巻く環境に近年大きな変化が生じていること等を踏まえ、海洋生物委員会として、「海洋生物研究に関する今後の在り方について」(平成27年8月策定)の改訂を行うもの。

海洋生物研究に関する今後の在り方について

 今後、重点的かつ戦略的に推進すべき取組について、以下の7項目に再整理した。

(1)包括的・総合的な海洋生物研究強化の緊急性及び重要性

 海洋国家である我が国にとって、海洋の持続可能な利用と保全へ向けた国際的な議論が、科学的な知見に基づく適切なものとなるように、海洋生態系の変化をデータに基づいて科学的に理解し、得られた知見を発信することが重要。また、幅広く学問分野を超えた総合的・統合的なアプローチにより、その知見を社会に還元することが必要。

(2)国際協力・国際展開の強化

 海洋生物研究は、海洋の持続可能な利用・保全に関する国際的ルール作りに直結することから、「国連海洋科学の10年」等の枠組みを積極的に活用した国際連携による推進が必要。生物多様性のホットスポットである日本近海における知見充実を、国際的な貢献に活かすことが重要。

(3)海洋生態系に関する知見の充実

 海洋生物資源の持続的な利用・保全には、生態系に基づく管理(エコシステムマネジメント)を目指すことが重要。そのためには地球規模での環境変動と里海・沿岸・外洋・深海などの海洋生態系の構造・機能との関わりや海域間・生態系間の相互関係の理解が重要。また、魚食文化の維持と地域振興のために、沿岸生態系の地域特性の理解が重要。

(4)統合的な観測・モニタリング体制の構築

 新たな観測技術を統合してモニタリングを継続し、データを集積・公開する枠組みが必要(「海しる」等も活用)。オミクスデータの取得・解析技術やAI・ビッグデータ解析技術などの情報科学技術を活用し、複合的なストレスを受ける海洋生態系について情報の充実が必要。

(5)海洋生物情報の量的・動的な把握・解析・予測システムの構築

 データを共有し、複雑な海洋生態系に関する多様なデータの重層化や統合・解析するシステムの構築が必要。海洋生物の資源情報や行動特性を把握し、AIやモデリング技術の高度化による統合的解析を基に、海洋生態系の将来予測精度を向上させ、海洋生物資源管理(開発と保全)を実現していくことが重要。

(6)海洋科学の将来を担う人材育成及び地域等へのアウトリーチ・協働

 海洋科学の進展のために、若手人材の登用・国際的な人材の育成・女性の活躍の推進と、海洋のSociety5.0の実現に必要な情報技術者の養成が重要。また、海洋の持続的利用の実現のためには研究成果の社会への発信が重要で、成果の社会還元には地方自治体・漁業関係者と協働して研究に取り組むことが効果的。

(7)海洋生物がもたらすイノベーションの創出に向けて

 10~20年後の社会実装を見据えて、沿岸生態系の指標化による環境保全など、SDGsを意識したイノベーション創出が重要。異分野連携・多機関連携などによりオープンサイエンスを推進し、我が国の総合力を活かしたイノベーションを実現していくことが必要。

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研究開発局海洋地球課