北極域研究の在り方について(議論の取りまとめ)概要

1.はじめに

○ 近年、北極域は、急激な海氷の減少など、気候変化の影響が最も顕著に現れており、北極域における環境変化が地球全体の環境や生態系への深刻な懸念が国際的に共有。

○ 他方、北極域は、海氷の減少等に伴う北極海航路の確立や資源開発の可能性への期待など、非北極域の諸国も含め、世界的に大きな注目

○ 北極域に関する広範な課題を解明のため、北極域研究全体を俯瞰しつつ、我が国として今後、どのように戦略的に取り組んでいくべきかについて取りまとめ。


2.北極域研究の意義、我が国の役割

(1)北極域研究の意義

○ 我が国の強みである科学技術を活かして北極域における環境変化の原因やメカニズムを解明し、全球的な影響の可能性や精緻な将来予測を行うことにより、社会・経済的なインパクトを明らかにすること。

○ 我が国は、北極域国の領域や利害得失に直接関与しない立場を活かした北極域の持続的発展、利用における国際的なルール形成や政策形成過程へ、科学的知見の観点から関与し、貢献すること。


(2)我が国の役割

○ 北極域全体を俯瞰し、中長期的な課題と短期的な課題を整理しつつ、国際的に未着手になっている課題や、我が国の強みを活かしうる課題解決を通じて国際社会に貢献できるよう、戦略的に研究・観測を推進し、世界の北極域研究をリードしていくこと。

○ また、これまでの研究・観測の実績やそれらのデータ管理・公開の実績をもとに、オープンデータサイエンスを積極的に主張していくことも必要。

○ 科学的知見に基づく情報、課題解決のための手法や選択肢を適切に北極域に暮らす地域住民や自治体等に発信していくとともに、北極域に係わる様々なステークホルダー等のニーズを踏まえた、漁業資源や海底資源の探査・調査に資する研究・観測を行うことも必要。


3..北極域研究におけるこれまでの取り組み、成果、現状

○ 我が国の研究・観測活動は、1950年代から雪氷、大気・超高層大気、海洋・海氷、陸域等を対象に北極域全般で実施されており、これまでに多くの成果を創出。


(1)これまでの主な取り組み

・国立極地研究所のニーオルスン基地における大気、雪氷、生態系等の観測

・海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」を用いた海洋観測

・北極気候システム及び全球的な影響の総合的解明を目的としたGRENE事業の開始 等


(2)これまでの主な成果

○ 上記の取り組みにより、北極域における気象・大気・海氷等に関する多くのデータを蓄積するとともに、北極温暖化増幅の季節変動とその仕組み、地球全体に影響を及ぼす北極域の変化や海氷分布の将来予測等の多くの研究成果を創出するとともに、我が国の北極域における科学技術によるプレゼンスに貢献。

○ こうした取り組みが評価され、国際北極科学委員会(IASC)への加盟や北極評議会(AC)へのオブザーバー参加資格が承認。


(3)現状

○ 2015年から開始されたArCSでは、GRENEで醸成された北極研究コミュニティを活かし、組織的な研究及び課題解決に資する研究・観測等をより促進するとともに、人文・社会科学分野と自然科学分野との連携を促進する取り組みを実施。

○ 2016年4月、ネットワーク型の共同利用・共同研究拠点として文部科学大臣認定された「北極域研究共同推進拠点」は、北海道大学、国立極地研究所、JAMSTECという異なる法人の特長を活かした北極域研究の推進の役割を果たすことが期待


4.今後、取り組むべき課題

(1)研究全般

○ 北極域における環境変動は、全球的な気象への影響、極端気象の頻発など非北極域国にも影響を与える課題であるため、これまで取り組んできた北極域に関する研究・観測を引き続き着実に実施するとともに、これまで組織的な研究プロジェクトとして十分に取り組まれていない課題や我が国が主導的立場を取りうる課題についても、新たに取り組むことが必要。


(これまで組織的な研究プロジェクトとして十分取り組まれていない課題例)

・ 永久凍土域における物質循環(氷・炭素)の定量的な解明等、重要な課題にもかかわらずこれまで組織的な研究・観測が不十分であった課題

・ 中層・超高層大気の詳細なモニタリング観測による気候変動プロセスの解明とさらなる予測精度向上に関する課題

・ 人間活動や気候変動の生態系への影響等、人間社会に直接影響する生物多様性に関する課題

(我が国が主導的立場を取り得る課題例)

・ 北極域研究における我が国の主導権を発揮するための国際的な観測データベースの実データの共有化に関する課題


(2)研究枠組み

○ 北極域研究を通じた国際貢献を目指す我が国としては、ArCS終了後も目的を明確にした研究推進の枠組みや北極域における環境変化に弾力的に対応できるような柔軟な研究体制の構築が必要。

○ また、大気、海氷、海洋、陸域、超高層等における各種データを長期間にわたる取得のための人的・インフラ面においても、長期間の観測実施を可能とする体制の確保が必要。


(3)人文・社会科学分野を含めた研究者ネットワークの強化

○ 人文科学や社会科学の間でも学際的な研究を進めることが必要。

○ その上で、北極域における持続可能な発展のため、人文・社会科学、自然科学分野全体における研究者ネットワークの構築、協働のもとに、北極域全体を総合的に理解していくことが必要。


(4)観測データの共有の促進

○ 北極域における研究・観測データのうち、メタデータについては一定の連携が進んでいるが、実データの連携については、不十分な状況。

○ 我が国の研究者がこれまでの研究・観測を通じて得た多くのデータをもとに、我が国が率先して実データの連携構築に取り組むことが必要。


(5)研究拠点の整備

○ ArCSと北極域研究共同推進拠点は、役割分担を明確にしつつ、それぞれの有する特徴を活かしながら相互補完し、活動することが必要。

○ 北極域について長期間にわたり確実に観測が実施できる体制を構築するとともに、現在空白となっている観測網の強化を図ることが必要。


(6)国際連携、国際協力

○ 北極域における研究・観測は、北極域諸国の主権等を尊重する必要があるため、国際的な連携の下で進めることが必要。

○ 北極域の影響は北極域に限定されたものではないため、アジアを含む非北極域国との連携・協力も、効果的・効率的な研究・観測の実施のためには必要。


(7)研究・観測のための施設・設備

○ 北極域における研究・観測を実施のためには、観測機器等の開発及び維持するために技術とともに、必要な技術力の開発・維持及びそれらの技術を担う人材の育成が必要。

○ 我が国が主体的に研究・観測を実施していくための研究船の必要性については、今後取り組むべき課題に対応する観点から、どの程度の規模(大きさ、砕氷・耐氷能力等)で、どのような装備が必要かについて、費用対効果の面も含め、さらに、検討を進めることが必要。

○ 無人探査機(AUV)等、船舶以外の海氷下観測機器の開発等も併せて進めていくことが必要。


(8)人材育成

○ 次代の北極域研究の担い手となる若手研究者の育成は重要であるため、大学院連携プログラムの構築など若手研究者育成の枠組みが必要。

○ 若手研究者が北極域研究者としてのキャリアパスを描けることが重要であり、北極域研究を実施する大学、研究機関が積極的にポストを増加する枠組みを構築していくことが必要。


(9)社会との連携、社会への情報発信

○ 研究・観測を実施のためには、企業との技術開発を含めた長期的な計画を作成することが必要。

○ 民間企業のリスク負担を軽減など、民間企業が長期的な研究開発資金を投入しやすくなるような、産官学連携による魅力的な研究支援の枠組を構築することが必要。

○ 北極域研究に対する国民や政策決定者等、ステークホルダーの理解を得るための積極的なアウトリーチ活動が必要。

○ 北極域における研究観測で得られた成果については、北極域で生活する人々へ情報提供し、人々の暮らしに貢献することが必要。


5.おわりに

○ 北極域を対象とした研究領域は非常に広範であり、その要素間の相互作用の複雑さもあり、科学的にも未解明な点がまだまだ多い。

○ より戦略的に北極域における研究・観測を進めて行くためには、必要な施設・設備の在り方等を含め、多面的に議論をさらに継続し、深化していくことが必要。

お問合せ先

研究開発局海洋地球課