第1章 背景

地球深部探査船「ちきゅう」は統合国際深海掘削計画(IODP)(平成15年~平成25年)の枠組みにおける最先端の科学掘削を達成するために建造され、米国のJOIDES Resolution (以下JR)号、欧州の特定任務掘削船とともに国際共同プロジェクトの研究プラットフォームに供されてきた。平成17年7月に就航後、約2年間の慣熟航海を行い、平成19年9月から本格的にIODP航海を開始し、途中、平成20年のアジマススラスター(360度方向転換できる推進器)の不具合や、平成23年東北地方太平洋沖地震による津波被災のため、2回の長期離脱を挟んで、現在までに4海域で6シーズン、13回のIODP航海を実施してきている。
IODPの研究航海実施は、日本と米国が基本合意した枠組みにより、国際的な英知を集めた科学審査・技術審査及び出資者による政策的な判断を経て決定されており、日本は相当の費用負担をする中で、意思決定の各段階において米国と同等の決定権を有し、国際的な研究者・技術者の支援を受けながら日本としても重要と判断される科学的な課題に取り組み、その推進に貢献してきた。平成25年10月より新たな枠組みである国際深海科学掘削計画(新IODP)へと移行したことにより、科学審査プロセスはそのまま引き継がれたものの、掘削箇所決定にかかる技術審査や政策的な判断はそれぞれのプラットフォームを保有する組織で実施することとなった。
現在、「ちきゅう」が実施中である南海トラフ地震発生帯掘削計画は、前IODPでの合意のほか、独立行政法人評価委員会においても承認されている。現在実施している超深度掘削では、海底下約5,200mの巨大分岐断層/プレート境界断層接合部に到達する予定であり、昨年度の航海を終えた段階で科学掘削としては世界最深記録である海底下約3,000mまで到達している。前人未踏の超深度掘削では孔壁崩壊など多くの困難を克服してきており、事業実施主体である独立行政法人海洋研究開発機構(以下JAMSTEC)は、これまで得られた知見を生かしつつ、国内外の技術者による詳細な検討に基づき、今後の掘削計画案を複数策定し比較検討を行っている。
今般、科学技術・学術審議会海洋開発分科会深海掘削委員会では、新IODPの枠組みでの「深海地球ドリリング計画」の推進方針を検討する観点から、南海トラフ地震発生帯掘削計画を継続的に実施すべきか、実施する場合には掘削計画案の考え方は妥当であるかについて調査・審議を行った。

お問合せ先

研究開発局海洋地球課