6.前回中間評価後の深海地球ドリリング計画に対する評価

6.1 深海地球ドリリング計画に対する評価

 科学技術・学術審議会海洋開発分科会(平成18年2月)による前回中間評価後の深海地球ドリリング計画への取組について、これを推進してきた国内の関係者より説明を受け、以下の結論を得た。

6.1.1 IODPの構造と我が国の取組について

 IODPは、我が国が提供する「ちきゅう」(ライザー掘削船)及び米国が提供するJR号(ノンライザー掘削船)に欧州の提供するMSP(任務形態に応じた傭船)を加えた3船体制による相互補完により、統一した科学目的を実現する国際掘削計画である。この多国間国際協力プロジェクトの意義、主導国としての我が国の取組、国内における関連研究の推進体制について評価を行った。

(1)IODPの意義

  1. IODP科学目標とその意義
     IODPは、深海掘削によって地球システム変動などに関する科学的調査を行うことを目的とし、その科学目標はIODP初期科学計画(Initial Science Plan、以下「ISP」という)において示され、国際的に共有されている。ISPは「地球環境変動解明」、「地球内部構造解明」、「地殻内生命探求」を3大テーマとしたものである。これは、航空・電子等技術審議会で評価された科学的目的ともその方向性は一致し、前回中間評価においても我が国にとって意義のあることが確認された。
     また、平成21年9月にドイツのブレーメン大学にて、平成25年10月以降の次期IODPにおける科学目標(NSP)について議論を行う次期科学目標検討会議(IODP New Ventures in Exploring Scientific Targets、以下「INVEST」という)が開催され、世界21箇国から約600名の科学者が参加した。INVESTでは、現行IODPのISPに対する取組状況及び研究者コミュニティの意見を踏まえて、次期IODPにおける科学計画の策定作業が行われ、我が国からは、我が国の意見が十分に反映されるよう、J-DESCを中心とした国内ワークショップにおける議論を経てINVESTへの意見書提出を行うとともに、INVEST運営委員会やNSPの執筆委員会にも日本研究者の推薦を行った。会議の結果、「気候・海洋変動~過去を読み解き、未来を語る~」、「生命圏フロンティア~深部生命、生物多様性、生態系の環境影響力~」、「地球活動の関連性~地球深部の活動とその表層環境への影響~」及び「変動する地球~人間活動の時間スケールにおける地球変動プロセスと災害~」の4つの科学研究テーマと14の研究課題を定めたNSPが平成23年6月に策定された。
     以上から、IODP科学目標は海洋掘削によって期待される地球科学の分野で最も先鋭的な課題をテーマとしており、我が国が主導して海洋掘削科学を進めて行く意義は大きいと認められる。また、次期IODPの目標も、人類が直面している自然環境や生物多様性などの問題解決の糸口となる優れた課題がテーマとなっており、引き続き我が国がこの分野を主導する意義は大きい。これらの科学目標に取り組むことは、我が国の科学技術の発展に寄与が期待されるとともに国際的研究における我が国のプレゼンス高揚も期待され、その意義は極めて大きい。(詳細は参考資料2-1.1 科学目標)
  2. 「ちきゅう」による科学的成果
     科学掘削を目的として建造された船は「ちきゅう」以外に存在せず、世界の研究者が「ちきゅう」を用いた調査研究に参加するべく、科学提案を競っている。IODPの科学目標に沿った審査によって選ばれた科学提案に基づき、これまでに地球内部構造解明-地震発生帯を対象とした「南海トラフ地震発生帯掘削」、「東北地方太平洋沖地震調査掘削(Japan Trench Fast Drilling Project、以下「JFAST」という)」及び地殻内生命探求-深部生物圏を対象とする「沖縄熱水海底下生命圏掘削」、「下北八戸沖石炭層生命圏掘削」の4箇所での研究航海(全12回)を行っている。
     南海トラフでは、東南海地震(海溝型巨大地震)の想定震源域において掘削を行い、プレート境界浅部、巨大分岐断層浅部、付加体などの部分から地質試料を採取することに成功し、過去の巨大地震時(1944年東南海地震)に活動した断層を特定するとともに、断層部分の摩擦特性の変化の把握に成功した。また、本掘削域地層内の応力状態(方向や大きさ)の把握に成功した。これら海洋プレート沈み込み帯の構造解明に資する重要な知見の蓄積によって、地震発生メカニズムの解明に向けた研究が促進されている。更に、「ちきゅう」によって設置された長期孔内観測装置が地震・津波観測監視システム(DONET)に接続されたことにより、海底下に設置された観測装置を通じて、ノイズの少ない地震情報(歪、温度、圧力、地震波など)の収集や、想定震源地に近い場所でのリアルタイムのモニタリングが可能となった。
     JFASTは2011年3月に発生した東日本大震災の震源域の海溝軸周辺の断層滑りメカニズムを解明するために計画され、速やかな研究航海の実施により、世界で初めて地震発生後の早期段階で海底下断層部の掘削を行い、摩擦熱を直接計測することに成功した。優れた操船・操縦技術により水深6,889.5mの海底に設けられた孔口装置に55台の温度計群を挿入し回収するという快挙を成し遂げている。また南海トラフと同様に断層部の地質試料の採取と応力調査も行われ、これまで地震性滑りが発生しないと考えられていた海溝軸付近の断層においても、歪エネルギーが蓄積し大きな滑りが発生する可能性のあることを科学的に裏付けることに成功した。
     沖縄トラフでは、伊平屋北熱水活動域の海底熱水噴出口周辺を掘削することによって、海底下生命圏の限界を探るとともに海底熱水鉱床の形成メカニズム解明を目指した。海底下の熱水滞留帯の物理化学的な分析を行い、熱水域で活動する微生物は水温約150度を境に活動領域が限られることを発見した。また、周辺域の掘削調査により熱水域の立体的な広がりを明らかにし、これまで考えられたよりも規模の大きな熱水循環系が存在することを明らかにした。
     下北八戸沖では、海底下に存在する石炭層やメタンハイドレートを巡る炭素循環の解明を図ることを目的とし、これまでのライザー方式における科学海洋掘削の世界最深記録(2,111m)を更新する海底下2,466mの石炭層までの掘削を行った。調査で深海底下の生命圏の限界を探る中で、極限環境に適応して進化したユニークな生命活動の実態が少しずつ明らかになりつつある。これまで海底下にはバクテリアが優先的に存在すると考えられていたが、細菌でもバクテリアでもない古細菌(アーキア)が大量に生育していることが確認された。更に採取された掘削コア試料中の微生物の培養に成功し、二酸化炭素を同化するメタン菌の存在を確認し、海底下の炭素循環システムを解明する手掛かりを得ることに成功した。
     以上のように、「ちきゅう」の研究航海の成果として多くの新しい科学的知見が明らかにされ、成果を取り纏めた研究論文の多くが表彰を受けるなど、学術的な評価は高く、我が国の科学の進歩に大きく貢献した。次期IODPにおいても、伊豆・小笠原・マリアナ島弧やコスタリカ沖など世界の海を対象とした科学掘削が計画されており、引き続き人類が直面している自然環境や生物多様性などの問題解決に対する取組が行われる予定である。(詳細は参考資料2-1.2 「ちきゅう」の科学的成果)
  3. その他の掘削船による科学的成果
     IODPでは、ライザーシステムによって深部まで掘削可能な日本の「ちきゅう」と、浅部を柔軟なスケジュールで掘削する米国のJR号、また浅海や氷海などの特殊な条件下における掘削に使用される欧州のMSPの3船がそれぞれの特性に応じて分担して科学航海を実施する枠組みとなっており、IODPとしての科学的成果は3船合わせたものとして評価される。
     米国のJR号は前回中間評価以降に19回(全29回)の研究航海を実施しており、ニュージーランド・カンタベリー堆積盆地における海水準変動の解明、赤道太平洋やベーリング海における古海洋環境変動の解明及び南太平洋環流域や北大西洋中央海嶺における地下生命圏の解明などに資する研究成果を得た。また、欧州のMSPは前回中間評価以降に2回(全4回)の研究航海を実施し、ニュージャージー沖における海水準変動解明及びグレートバリアリーフの環境変動の解明などに資する成果を得ている。これらの科学航海には日本からも毎回数人の研究者が乗船している。
     以上より、米国が提供するJR号や欧州のMSPにより得られた研究成果は、日本の周辺海域のみならず世界的な広がりを持ち、地球科学の様々な分野を網羅しており、非常に多彩な科学的成果を得ている。またそれらの研究航海には総計242名(うち20名が共同主席研究者)の日本人研究者が参加しており、我が国の科学コミュニティの能力向上に大きく貢献している。(詳細は参考資料2-1.3 その他の掘削船による成果)
  4. 社会・経済への波及効果
     深海地球ドリリング計画は、第一義的には人類が共有しうる知的資産である地球科学の成果に我が国が率先して貢献するため、世界の科学者の支持の下に進めていく科学目的の計画である。一方で、我が国の社会が直面する課題の解決に結びつくものでもあるべきであり、国内研究においても最重要テーマとして位置づけられている。
     これまでの「ちきゅう」の科学掘削による防災・減災対策への波及効果として、南海トラフ掘削の調査結果から海溝軸付近において断層滑りによると考えられる高温度履歴を検出し、プレート境界断層浅部が地震時に動いている可能性があることが分かり、地震・津波規模推定の見直しが図られたことや、長期孔内観測装置を設置し、地震・津波観測監視システムに接続されたことにより、微小な地殻変動や地震動を即刻にとらえることが可能になったことが上げられる。今後、被害予測などのモデリングや警報システムの精度が向上し、人的、経済的被害の軽減に結びつくことが期待される。
     また、海洋資源の利活用に対しては、沖縄トラフで従来の予測を上回る海底熱水鉱床が発見され、その熱エネルギーに対する発電利用及び有用金属鉱物資源の回収の可能性が示唆されたことや、下北八戸沖の孔井で採集されたメタン生成菌などの有用微生物の培養で、二酸化炭素の地下貯留と地下微生物の活動によるメタン生成・回収などの基礎研究が開始されたことがあげられる。
     技術開発成果による波及効果としては、資源エネルギー庁のメタンハイドレート海洋産出試験において「ちきゅう」が使用され、実際に生産井、観測井の掘削に成功し、生産性テストも行い商業化評価の推進役となったことがあげられる。また「ちきゅう」用に開発された自動船位保持システム及びアジマススラスタなどは、4ノット程度の強い海流下でも安定して船位を保持し掘削可能であることが実証され、次世代掘削船などで採用され始めており、既に我が国のアジマススラスタが複数船に装備されるまでになっている。
     人材育成による波及効果としては、海洋掘削を行える国内人材が育成されたことがあげられる。「ちきゅう」が導入された当初は、掘削船運用業務を担える国内企業が存在せず、海外の企業に委託していたが、平成19年度より新たに設立された国内企業に引き継がれた。その後、徐々に日本人比率を増大させたことにより、国内人材による操船及び掘削の経験が蓄積されてきている。これまで操船を行う船位保持システムオペレーター、ドリリングを担当する掘削技術者など種々の人材が育成されている。
     「ちきゅう」が取り組んだ沈み込み帯における地震メカニズムの解明に関する研究は世界をリードするものであり、「ちきゅう」でしか為し得ない活動を通じて、防災分野に対して重要な科学的知見を集積する貢献をしている。これらについては、今後も防災・減災に関する総合システムへの組み込みに向けた取組が必要である。また、海底下生命圏や資源に関する研究については、二酸化炭素と地下微生物の活動によるメタン生成・回収などの基礎研究が開始されている。更に海底熱水域においては鉱物採取源としての可能性を探る研究活動が行われており、今後の展開が期待される。一方、技術開発の成果としては、我が国唯一のライザー掘削船として数多くの波及効果が発現されつつあり、「ちきゅう」のポテンシャルが高く評価される中で、今後、資源探査や防災対策のための利用と基礎科学推進のための利用とのバランスをどのようにとるか、一層の議論が必要である。(詳細は参考資料2-1.4 期待される社会・経済への波及効果)

(2)IODP主導国としての我が国の取組

  1. 国際的なIODP推進体制の構築とリーダーシップ
     現行IODPは、文部科学大臣と米国国立科学財団(NSF)長官が署名した覚書に基づき平成15年10月より開始され、平成16年3月には欧州及びカナダ、平成16年4月には中国、平成18年6月には韓国、平成21年6月にはインド、豪州・ニュージーランド(コンソーシアム)、平成24年8月にはブラジルが参加し、全26箇国が参加する多国間国際協力プロジェクトとなっている。IODPでは参加各国を代表する科学者及び技術者により構成される科学諮問組織(Science Advisory Structure、以下「SAS」という)が科学計画について長期的な指針を提示すると共に国際的な科学コミュニティから提出される掘削研究提案について科学的優先順位などに関する審査を行い、結果を中央管理組織であるIODP-MIに勧告する。これに基づき掘削船を擁する実施機関が運用計画を作成し、IODP-MIはこれを統合してIODP年間事業計画案を作成する。日米両政府は、IODP評議会を主宰し、年間計画をはじめIODP全体の流れを監理している。IODP参加国の代表者から構成される評議会は年1回開催され、議長は1年毎に交互に日米両国から選出される。我が国は、この枠組みを主導するために、積極的な科学提案や委員などの派遣を行い、我が国の意見が適切に反映されるよう尽力してきた。
     また、次期IODP枠組みのあり方について各国が議論する場として、International Working Group Plus(IWG+)が平成21年6月から計9回開催され、平成24年6月に開催されたIWG+において関係国間で、SASの見直しや中央管理組織の合理化及び国際資金の収集・配分制度の廃止などで大筋合意し、その後、次期IODPの基本的な枠組みのあり方に係る合意文書「Framework for International Ocean Discovery Program」が策定された。
     我が国は、IODPの枠組みの中で「ちきゅう」という主力掘削船を提供し、その研究計画に責任を持つ国として、国際枠組みにおける運用や、研究計画管理を主導する取組を行ってきている。また次期IODPの枠組みの構築については、航海毎に詳細な国際契約をすることがなくなり、また「ちきゅう」が担う深部掘削の研究提案評価や大規模プロジェクト連携業務が実施され、「ちきゅう」を効率的に運用できる枠組みとなるよう検討され、適切に取り組まれていると評価できる。
     なお、我が国がこのような国際プロジェクトを主導するためには研究者・技術者の高いポテンシャルとともに、交渉担当者の強い交渉力、優れた国際共通言語能力が必要不可欠である。(詳細は参考資料2-2.1 国際的なIODP推進体制の構築とリーダーシップ)
  2. アジアを中心とした諸外国のIODPへの参加促進及び連携
     IODPを主導的な立場で推進する我が国が取り組むべき重要な課題の一つとして、諸外国のIODPへの参加促進及び外国人研究者との連携により、IODPをより国際的なプロジェクトとして発展させることがあげられる。
     これまで、深海掘削研究に関する共同研究課題の発掘や研究提案の共同作成を目的とした国際シンポジウム・ワークショップの開催や、国内及び国際学会での展示ブースによる研究活動報告といった普及広報活動を行ってきている。また、日本人枠を使いアジアの若手研究者に乗船研究の機会を与えることも行っている。平成20年9月から3回に渡って開催された日韓合同ワークショップでは、J-DESC執行部会委員の尽力によって合同掘削提案の土台が作られた後に提案書が提出され、しかるべき審査を経て掘削計画に組み込まれるのを待つ段階まで到達している。また平成25年4月に東京において開催された国際ワークショップ「CHIKYU+10」に、世界各国から研究者や技術者約300名が参加し、次期10 年間に実施する「ちきゅう」を活用したIODPプロジェクトについて議論した。
     次期IODPにおいては、「ちきゅう」を利用した諸外国との連携の形態として、日米欧間の相互協力関係に加え、分担金額により、「ちきゅう」レギュラーメンバー、「ちきゅう」パートナーシップ、「ちきゅう」プロジェクトメンバーの3つのメンバーカテゴリーが創設され、諸外国の多様なニーズに対応しつつ、IODPへの参加促進及び連携強化を図るとともに、J-DESCや高知コアセンターではコアスクールの英語化によるアジアの潜在的乗船予定者の参加を促進することが計画されている。
     これまで、アジアを中心とした諸外国のIODPへの参加促進や連携構築に向け、様々な取組がなされていると評価する。なお、貢献に見合うだけの科学的、技術的成果が我が国に十分に還元されるよう、引き続き戦略的に取り組むことが求められる。(詳細は参考資料2-2.2 アジアを中心とした諸外国のIODPへの参加促進及び連携)
  3. 世界的研究拠点の提供
     我が国は、「ちきゅう」という世界唯一のライザー掘削方式による科学掘削船と「高知コアセンター」というコア保管・分析施設をIODPに提供しており、地球科学の国際コミュニティからは常に高度な研究インフラの提供を行うことが求められている。
     平成19年9月から平成25年1月の期間において、「ちきゅう」によるIODP研究航海は11回実施され、82名の国内研究者を含む計265名の研究者が乗船し、船上での研究機会を得た。高知コアセンターでは、現在約94km分のコア試料(IODP以前に採取されたコア試料を含む)を保管しており、これまで国内外の研究者から約1,000件の要請があり、約1万本のコア試料の提供が行われた。また、IODPによる研究航海後に、参加した研究者が高知コアセンターを利用する際の分析機器の利用支援などが行われている。更に、高知大学における全国共同利用枠を通じて大学など全国の研究機関への研究機器利用の開放が行われるなど、研究拠点としての有効活用に資する取組が積極的に行われている。
     次期IODPにおいても、引き続き「ちきゅう」の最重要任務はIODPにおける科学掘削であるという方針の下に、「ちきゅう」というプラットフォームを世界の海に提供するとともに、高知コアセンターにおけるIODPの世界3大コア保管庫としての機能・サービスを提供することとしている。
     我が国は、世界唯一のライザー掘削方式による科学掘削を可能とする「ちきゅう」を提供することにより、IODPの主導国としての立場を強固なものにしている。また、世界3大コア保管庫の一画をなす高知コアセンターは、コア提供及び研究施設として機能するのみならず、膨大な数の試料情報がウェブサイトから見られるようにするなど、ソフト面でも参加各国をリードした活動を行っている。我が国がIODP主導国として果たすべき取組を適切に実施しており、高く評価できる。(参考資料2-2.3 世界的研究拠点の提供)
  4. IODP運営への国内研究者の参加促進に関する取組
     我が国がIODPを主導的な立場で推進していくにあたり、IODP関連会合における議論や掘削船上における研究活動を主導できるよう、適切な国内研究者を委員会委員や乗船研究者として派遣することが重要であり、そのための国内支援体制の整備が必要である。
     これまで、文部科学省及び海洋研究開発機構は、J-DESCと連携の下、国内研究者がSASの委員会・パネルに出席するための旅費を支援するほか、SAS会議の検討内容に我が国の意見が適切に反映されるための方策として、各委員会・パネルに対応してJ-DESC所属研究者で構成する国内委員会を設置し、SAS会議の事前打ち合わせを継続的に実施している。次期IODPでは、「ちきゅう」のIODPにおける運用方法を決定する重要な会議である「ちきゅう」IODP運用委員会(Chikyu IODP Board、以下「CIB」という)について、議長を日本人研究者から選出するなど、我が国の委員の意見が適切に反映される体制となる。
     乗船研究者の派遣に関しては、海洋研究開発機構予算において、乗船に係る旅費のみならず、乗船前の準備段階から乗船後研究までの一連の活動を支援する制度が整備されている。また、次期IODPにおいても、我が国の研究者が米国及び欧州が提供する掘削船による研究航海に参加できるよう、日本人研究者の他船への乗船枠が一定数設けられることで米国及び欧州と合意がされている。
     IODPでは米国と同等程度の日本人枠を設けて取り組んだことにより、これまで多くの国内研究者が各委員会や乗船研究に参画している。更に乗船研究や委員会参加者にむけた様々な支援がなされ、国際的な場で活躍する日本人研究者が育ちつつあることは高く評価できる。今後も国際会議などで主導権を握ることができるような人材育成に向けて継続した取組が求められる。(詳細は参考資料2-2.4 IODP運営への国内研究者の参加促進に関する取組)

(3)国内におけるIODP関連研究の推進体制
 我が国がIODPを主導する観点からは、単に委員会や共同研究に日本人研究者が参画するだけではなく、我が国の研究者が提案した掘削計画が採択され、掘削実施を経て事後研究へと展開するという一連の活動が十分に行なわれることによって初めてIODPを真に主導しているといえる。このため、国内において研究者が主体的にIODP関連研究を推進する体制を構築・運営することが大きな課題であり、そのため、米国に倣って独立した科学者コミュニティとして、J-DESCが平成15年2月に設立され、文部科学省による継続的な支援が行われてきている。
 J-DESCは、国内のIODPにおける科学計画検討や掘削研究提案の促進を担っており、SASなどの委員及び乗船研究者の推薦といった研究活動における国際的な調整や、国内におけるIODP普及活動などを行っている。また、参画する国内研究者支援として掘削提案書作成に向けたワークショップやIODP科学掘削による成果に関するシンポジウムなどを開催している。これまで、次期IODPの科学目標を策定するINVEST会議に向けた国内研究者コミュニティの取組強化を目的とした「INVEST国内ワークショップ」や、次期IODP期間中に特に「ちきゅう」を使って重点的に取り組むべき科学テーマについて議論する「深海掘削検討会」を主宰し、それぞれ報告書を取り纏めた。
 更に、我が国発の掘削提案を継続的に実行化していくための取組として、将来IODPの掘削提案作成に繋がる萌芽的な研究テーマを見つけ、合同ワークショップを行うことなどによる育成を図っている。また、具体的な掘削提案につなげるために必要となる事前調査などについて、海洋研究開発機構において必要な費用を支援する制度が整備されている。
 以上より、J-DESCを通じた研究者支援により国内の掘削科学が活性化し、IODPを支える研究者コミュニティとして確固たる体制が築かれた。また、研究者による研究提案などは活発に行われており、IODP航海において多くの日本人研究者による科学提案が採用されて実施にまで至っており、国内におけるIODP推進体制は十分に機能していると評価できる。
 今後も、研究活動を一層活性化させるためには、「ちきゅう」向けの大規模プロジェクトの提案を絞り込んで人的資源を集中させる必要のある中で、若手研究者の挑戦的研究提案も受入れながら研究者の裾野を広げていくという、相反する課題に取り組んでいかなければならない。また、地震学や地球環境史学など、関連する科学分野の他のコミュニティとの連携強化に取り組む必要がある。(詳細は参考資料2-3. 国内におけるIODP関連研究の推進体制)

6.1.2 地球深部探査船「ちきゅう」に関する取組について

 IODPの主力掘削船として重要な役割を担う地球深部探査船「ちきゅう」の性能及び関連施設の運用環境について評価を行った。

(1)「ちきゅう」の性能と研究者・運航者などの技術提案の反映状況
 「ちきゅう」によるIODP航海は日本近海の南海トラフ地震発生帯掘削計画から着手されており、強い海流と低気圧の常襲する海域で運航されてきた。このような厳しい条件下での大水深のライザー掘削及び試料採取では、従来にはない極めて困難な技術的課題の克服が求められる。このため、最新の外国技術を導入するとともに、要素技術を独自開発するため、従事する研究者・運航者の創意工夫などを積極的かつ適切に反映することが求められる。
 「ちきゅう」は平成17年7月末に海洋研究開発機構に引き渡された後、試験航海によって、ライザー掘削システムや自動船位保持システム(Dynamic Positioning System、以下「DPS」という)などの性能確認及び作動状況の把握が行なわれた。これらの作業を通して、運用管理や保守管理、安全管理などのソフト面についても整備し、平成19年9月よりIODPによる運用が開始された。
 「ちきゅう」による最初のIODP航海として南海トラフ地震発生帯が選ばれ、現場海域では、強い黒潮海流と台風や低気圧の常襲という厳しい海象気象条件での運航を強いられることとなった。そのため、標準の掘削能力に加え、高度な船位保持やライザーパイプの渦励振(Vortex Induced Vibration、以下「VIV」という)対策が必要となった。これまでに、海流により生じるライザーパイプのVIVを抑制するための整流装置「ライザーフェアリング」とライザーの挙動を観察するシステムの開発を行い、世界で唯一、強流下での掘削が可能な掘削船となっている。また、船位保持については運航方法やソフトウェアの改良を重ね、位置制動誤差は数mの範囲にまで縮められてきている。
 これらの技術の蓄積により、「ちきゅう」は科学掘削における海面下ドリルパイプ長の世界記録(水深6,889.5m+海底下850.5m=7,740m:東北沖の掘削)となるライザーレス掘削に成功するとともに、海底下掘削深度の世界記録(海底下2,466m:下北八戸沖の掘削)となるライザー掘削に成功した。更に、海底下の圧力を維持したままで試料採取するシステムを開発し、メタンハイドレートを海底下の状態のまま回収することに成功している。
 以上、様々な技術改良の積み重ねにより、「ちきゅう」は日本近海の強い海流、厳しい海象気象条件下でも掘削可能な能力を備えるプラットフォームとなった。また、大深部の海底下からメタンハイドレートや微生物をそのまま採取することが可能な高品質のコアサンプルシステムが開発され、調査研究の基盤が飛躍的に整備されてきた。将来、地殻とマントルとの境界を掘削することを目指して、目標とする水深4,000mライザーシステムや高温に耐えるドリルビット、測定機器の開発に引き続き取り組む必要がある。(詳細は参考資料2-4.「ちきゅう」の性能と研究者・運航者等の技術提案の反映状況)

(2)「ちきゅう」及び関連施設の運用環境

  1. 効率的な運用体制の整備
     「ちきゅう」は、多くの乗船人員及び掘削関連機器、船位保持装置、アジマススラスタなど非常に特殊な機器を搭載しているため、その運用については、円滑な運用体制を確保するために十分な検討が必要である。
     「ちきゅう」は大水深・大深度の掘削が行える我が国で唯一の掘削船であり、建造当初は「ちきゅう」を単独で運用するノウハウを持った会社が国内に存在しなかったため、運航委託会社が掘削作業と操船作業のノウハウを補完するため、個別に海外の掘削会社と契約し技術者を受入れた。平成19年度に、日本マントル・クエスト株式会社が設立され、技術審査などを経て同社への運航委託が決定し、我が国で掘削・操船業務を一元的に実施する体制が実現した。その後、日本人船員の育成が進められ、技術移転が図られるとともに、陸上支援部門(船員確保、掘削資機材調達、保守修繕業務など)においても、国内と海外の2拠点であったものが国内事務所で一元管理されるようになり、業務の効率化とともに陸上支援業務のノウハウの蓄積が図られた。
     以上より、効率的な運用体制が整備されているだけでなく、ライザー掘削船の運用が日本企業によって行われ、日本人船員、掘削要員が育っていることは高く評価される。「ちきゅう」は、その特殊さゆえに運用スケジュール管理に様々な困難を伴うため、スケジュール変更時における研究活動との調整をマニュアル化するなどの工夫が求められる。
  2. 継続的な運用のための維持管理体制の整備
     「ちきゅう」による調査の対象となる海域は世界各地に及ぶため、各地を移動しながら高度なライザー掘削システムを継続して運用するためには、維持管理について特段の配慮が必要である。
     「ちきゅう」の性能を維持するための保守業務は、海洋研究開発機構が整備した設備(アジマススラスタ、水中テレビカメラシステムなど)については同機構が行い、その他の法定検査などの保守業務は運航委託先が運航と保守を一括して実施する契約となっている。法定検査を実施するにあたっては、科学掘削船の整備・補修ノウハウを国内の造船所に広めるよう、中間検査(2~3年に一度)及び定期検査(5年に一度)を実施する造船所については一般競争入札により決定している。
     以上より、「ちきゅう」の運用に伴う定期検査は確実に行われている。また、機器の保守・整備・更新を順次行っており、老朽化に備えている。また、科学目的達成のために必要な機器開発、搭載の迅速化も進められている。(詳細は参考資料2-5.1 「ちきゅう」運用及び維持管理体制の整備、5.2 「ちきゅう」の運用実績)
  3. 安全及び環境保全に配慮した運用体制の整備
     「ちきゅう」が実施するライザー掘削は、パイプの連結など、重量物を直接取り扱う危険作業であるとともに、暴噴などによって生態系に重大な影響を与える恐れがあり、事前審査から現場作業監理まで、安全及び環境保全に関する多岐にわたる事項について、特段の配慮が必要である。
     そのため、「ちきゅう」の研究航海実施にあたっては、研究提案が承認されてから実施に至るまで凡そ3年の準備期間を要する。掘削候補地周辺の海底下の地質状況を調べるために衝撃波による3次元解析を行い、ガス噴出の可能性などを調査し、生態系への影響を最小限にとどめる対策を検討する。更に海流や気象条件の情報収集分析を行い、漁業調整、掘削許可申請、保守申請などの必要な手続きを行う。
     また運航委託会社及び海洋研究開発機構それぞれで環境保全管理システム(Health Safety & Environment Management System、以下「HSE-MS」という)を構築し業務実施の管理監督を行っており、これまでメキシコ湾原油流出事故や東日本大震災での津波被害事故を踏まえてガイドラインなどの見直しを逐次行っている。
     これまで安全及び環境保全管理が徹底されたことにより、厳しい海象気象条件下での運用が続く中で、更に津波といった天災にも見舞われながらも、大きな人的災害を起こしていないことは高く評価できる。また、ヘリコプター発着設備、実験器具の放射性物質管理、化学薬品の廃液処理といった「ちきゅう」ならではの特殊な安全・環境保全対策にもしっかりと対処している。今後も慢心することなく、安全及び環境保全管理に万全を期すよう努める必要がある。(詳細は参考資料2-5.3 「ちきゅう」安全及び環境保全体制の整備)
  4. 船上研究設備・支援体制の整備
     「ちきゅう」が担うIODP科学掘削の多くは、ライザー掘削の利点を生かして、できるだけ深海底下の状態を維持してコアサンプルを回収し、それらを船上で即座に処理し分析・解析を行うことが必須となっている。そのため、「ちきゅう」が「海の上の研究所」として機能するよう継続した維持・整備が重要となっている。
     SASで決定されたIODP統一の測定項目に従って分析を実施すべく、X線CTスキャンやガスモニタリングシステムなど、試料分析に必要な多くの設備が整備された。また、「ちきゅう」船上で行われた分析の結果や乗船研究者による記録などの科学データを蓄積・配布することを目的とした船上データベース(JAMSTEC-Core Systematics、以下「J-CORES」という)が整備され、乗船研究者に優先的にコア試料やデータの使用権があるモラトリアム期間(下船後1年間)の後、インターネットを通して世界中に公開されている。船上研究設備の維持管理及びIODP統一の測定項目に沿った船上分析の実施については、海洋研究開発機構から外部事業者に業務委託しており、「ちきゅう」が運航していない期間においても同事業者によるメンテナンスが行われ、分析機器などが継続的に使用できる状態が確保されている。
     以上から、「ちきゅう」における研究施設は極めて先進的なシステムを備えており、国際的にも最先端の水準にあると評価できる。コア試料を船上にて解析する文字通り船上研究所としての機能を有していることを高く評価したい。また、人的な研究支援体制も充実しており、外部事業者に委託している維持管理体制並びに技術者の質も高い。今後も「ちきゅう」の能力に見合った研究成果を達成するために、機器の老朽化・陳腐化に備え、継続した研究機器更新が求められる。(詳細は参考資料2-5.4 「ちきゅう」の船上研究設備、支援体制の整備)
  5. 高知コアセンターの整備・運営
     高知コアセンターは、米国及びドイツのコア試料保管施設と地域分担し、西太平洋及びインド洋を担当範囲とした、DSDP、ODP、IODPなどにより採取されたコア試料を保管・運用するための陸上施設であり、同時に、コア試料に関する分析・解析の中核的な施設として機能することが求められている。
     同センターが掘削研究の世界的な陸上拠点施設として機能するよう、これまでに、コア試料の地球科学的、生物学的特性を明らかにするための解析を高精度に行える分析機器が整備された。また、高知大学と海洋研究開発機構が協力して専門のスタッフを置き、適切なメンテナンスによって分析機器などが継続的に使用できる状態が確保されている。センターの利用については、高知大学が全国共同利用施設として共同利用研究課題を公募し、広く国内研究者に利用の機会を提供し、同機構は分析機器の利用支援などを通じて協力を行っている。
     以上から、高知コアセンターは陸上における保管施設として、またコア試料の処理や解析を行う施設としても世界に誇れる3大コアセンターの一つとして機能しており、保管施設の拡張や膨大な数の試料情報がウェブサイト検索できる機能強化など、設備の充実に向けた取組も積極的に行われている。貴重な資試料を保管するだけに、今後も津波対策などに万全を期すことが求められる。(参考資料2-5.5 高知コアセンターの整備・運営)

6.1.3 人材の育成について

 我が国の海洋掘削の推進を担う国内の研究者、技術者、計画推進実務者のIODPを通じた育成状況について評価を行った。

(1)研究者の育成
 IODPに関係する研究者の人材育成を図り、次代のIODP活動をリードする研究者を確保するためには、研究者のIODPに関する経験の蓄積、国内コミュニティの拡大、各大学・研究機関におけるIODP関連活動への理解増進が重要である。
 IODPの活動をリードする研究者の育成に関しては、全国37大学など55機関、15の企業体が参加するJ-DESCが中心となり、全国の大学と海洋研究開発機構や独立行政法人産業技術総合研究所などの研究機関が協力しながら、学生や若手研究者を対象にボランティアベースで教育・普及活動を実施している。また、国際陸上科学掘削計画(International Continental Scientific Drilling Program、以下「ICDP」という)部会を通じて陸上掘削と連携した取組も行っている。具体的には、コア試料解析に必要なスキルを習得するための「J-DESCコアスクール」や、地球科学の各分野の最先端で活躍する研究者などが講演を行う「地球システム・地球進化ニューイヤースクール」、イベント会場と掘削船上をインターネット接続によりライブ中継し掘削科学の現場の魅力を伝える「IODP普及キャンペーン」などを開催している。
 6.1.1(3)でも記述しているとおり、J-DESCを通じた研究者支援はよく機能しており、研究者の経験蓄積やコミュニティの拡大、IODP関連活動への理解促進に向け、大学院生や若手研究者を対象にした教育・普及活動が活発に行われていることは評価される。今後は、若手研究者の参画を促進し裾野を広げるための継続した取組が必要である。(詳細は参考資料2-6.1 研究者の育成)

(2)技術者の育成
 ライザー掘削技術は年々進歩していることから、海外企業の人材派遣を受けて我が国への技術移転を図るとともに、常に最新の技術導入に努めながら事業を円滑、効率的に実施することが求められる。また、「ちきゅう」の船上研究設備を常に最適な状態に保つとともに円滑な研究活動を行うためには、研究機器の整備・保守や試料採取・分析、データの品質管理などを行う科学支援員の育成も重要である。
 これまで、国内外における科学掘削及び資源掘削を通じたOn the Job Trainingによって掘削船運用技術(掘削部門、操船部門)に関する日本人船員の育成が進められ、我が国への技術移転が図られている。掘削部門においては、平成19年度には日本人の割合が0%であったものが平成24年度には37%に増加している。操船部門においては、操船業務の重要職部門である船位保持システムのオペレーターについて、平成19年度には日本人の割合が30%未満であったが、平成21年度には100%となっている。
 科学支援業務については、入札により業務を外部委託しているため、同機構は本業務を通じて得られる運用上のノウハウ・改善点の書面化を行い、それらが次の契約においても適切に承継されるよう努めている。また、同機構が新たに調達した計測機器などの講習会に事業者を参加させることで、科学支援員によるサービスレベルの維持・向上を図っている。
 6.1.2(2)でも記述されているように、ライザー掘削船を運用するための国内人材が着実に育成されている。特に、大水深及び強海流という世界で最も過酷な条件での掘削を成功させていることは、日本にとって必要な技術能力向上に貢献している。更に、科学技術支援のような高度な人材育成を、公募により業務委託の形をとりつつ効率性に配慮しながら実施していることは高く評価される。(詳細は参考資料2-6.2 技術者の育成)

(3)計画推進実務者の育成
 IODPの中心的役割を担う機関において我が国の人材が活躍することは、我が国のIODPにおける存在感を高めることに繋がる。また国内研究者組織のより効率的、戦略的運営のためにも、科学的知識を持ちながらマネジメントに従事する者が重要な役割を果たしてきており、その育成が課題となっている。
 現行IODPにおいて中央管理組織を請け負っているIODP-MIは、平成15年の創設以来ワシントン事務所と札幌事務所の2事務所体制で運営されてきたが、平成21年の役員改選によって日本人が代表に就任するとともに、同年11月に2つの事務所を統合し東京に移転した。その後、日本人の人材登用も進み、平成25年1月時点で職員15名のうち9名が日本人(平成18年1月時点では職員22名のうち6名が日本人)となっている。また、平成15年10月より文部科学省からNSFにリエゾンを派遣し、IODP-MIとの契約管理業務など、NSFとの情報共有が図られた。
 なお、次期IODPでは、中央管理組織は廃止され、中央管理組織が担っていた業務は各掘削船保有国に設置される運用委員会などに移管される。日本は今後、「ちきゅう」のための運用委員会である「ちきゅう」IODP運用委員会(CIB)を主宰することとなり、これまでに培った計画実務経験を生かして国際計画を独自に運営していくことが求められる。
 IODP開始当初は人材不足が懸念されながらも、常に米国と同等程度の議決権、参加者枠を求めていく中で、IODPに参画する日本人研究者、技術者、マネジメント担当者の責任分担も同等に求められてきたことから、その能力が高まってきていると評価される。国際的な場で活躍できる人材の育成は我が国の科学技術・学術分野共通の大きな課題であり、一朝一夕に達成できるものではなく、地道な努力が必要である。例えば、博士取得者を科学的知識・経験が必要とされるマネジメントや専門技術支援に就かせるキャリアパスを用意するなど、人事体制の工夫も必要である。

6.1.4 国民への情報発信及び交流について

 「ちきゅう」がどのような研究活動を行っているかを国民に説明し、IODPの科学研究成果やその将来性を分かりやすく国民に伝えることが重要である。また、展示や教育プログラムを通じて知的好奇心を喚起させ、将来の人材候補である小中高生をはじめ、多くの国民に関心をもってもらうことが地球科学の底上げのためにも重要である。更に、産業に応用できる技術分野を中心に、産業界にも広く本計画の内容を説き、活動への支援や本計画を通じて育成された人材活用につなげるよう努める必要がある。
 海洋研究開発機構では国民への情報発信を広報業務と教育活動の2本柱で実施している。広報業務としては、ウェブを活用した情報発信、サイエンスカフェやシンポジウムなどにおける講演、「ちきゅう」一般公開などによる普及広報が行われている。若い世代の人材育成による教育への貢献としては、小中高校との地学野外実習協力や出前授業、ネット中継授業、小中高校向け船内見学会、理科教員向け船上研修、科学館との展示協力などが行われている。また、専門家への普及広報活動としては、国内及び国際学会において展示ブースを出展し研究活動などの報告が行われた。
 様々な広報活動の結果、「ちきゅう」の知名度は高まり、その研究活動にも関心が集まっている。そして、研究活動に対する科学的な好奇心に対して、更なる詳細な情報提供が行われる、といった好循環が見られる。一方、他の科学コミュニティとの横断的な繋がりについては、日本地球惑星科学連合などを通じた学術界での情報発信が積極的に行われているものの、他学会との連携など更なる取組が必要である。(詳細は参考資料2-7.国民への情報発信及び交流について)

6.2 総合評価

 事前評価及び前回中間評価の際に大きな価値を有すると評価された深海地球ドリリング計画は、今回の中間評価においても我が国にとって科学的、海洋技術的及び社会的に意義が高いものであることを確認した。また、世界最高の科学掘削船である地球深部探査船「ちきゅう」の建造及び高知コアセンターなどの関連施設の運用環境の整備、国際的なIODP推進体制の構築を中心とした我が国の主導国としての取組、人材の育成並びに国民への情報発信といった我が国の取組は、科学的、社会的ニーズなどを踏まえ、関係各機関により適切に行われてきていると認められる。
 次期IODPにおいても「ちきゅう」は主要プラットフォームであり、すでに米国、欧州と乗船交換枠が交渉・合意されるなど、国際的な枠組みの中で引き続き重要な役割を担うことが期待されている。
 これらより、引き続き我が国が深海地球ドリリング計画を世界の海で推進することは極めて有意義であると評価できる。今後は、その成果が最大限に得られ、社会に大きく貢献していくために、関係者が更に協力し、計画の充実・強化と一層の推進に取り組むべきである。
 ただし、深海地球ドリリング計画の推進に際しては、本評価において指摘された留意点に対処することが必要である。特に、前回中間評価でも指摘された研究体制の整備及び人材育成については引き続き積極的な取組が必要である。これまで、必要な研究推進組織は構築されたと評価できるものの、IODPの根幹となる掘削計画の提案など関連研究活動については引き続き改善に向けて努力する必要がある。

お問合せ先

研究開発局海洋地球課