5.科学技術・学術審議会による前回中間評価について

 今回の中間評価においては、平成10年12月の事前評価に加え、平成18年2月に科学技術・学術審議会海洋開発分科会により行われた前回中間評価を踏まえることとしているため、前回中間評価に示された以下の内容について確認を行った。

5.1 深海地球ドリリング計画に対する評価

5.1.1 地球深部探査船に関する取組について

(1)「ちきゅう」の建造
 「ちきゅう」はライザー掘削方式などの採用によって、事前評価で適当とされた性能を満足する船となっている。今後、国際運用に向けて着実に準備を進めるとともに、科学者のニーズに応え、地殻とマントルとの境界(モホロヴィチッチ不連続面)を貫くため、機器開発及び運用技術の検討を行なっていくことで、水深4,000m級での大深度掘削の実現に向けて取り組むべきである。
 「ちきゅう」の建造については、我が国に技術力が蓄積するような建造形態を確保しつつ、適切な体制で建造されたと認められる。

(2)「ちきゅう」及び関連施設の運用環境
 「ちきゅう」の運用環境は、その艤装に携わり、十分な実績を有する国内外の会社の人材が配置されることにより、円滑な運用に必要な体制が備えられている。また、安全管理システムの導入、事前調査としての地質の把握などにより、安全な運用のための総合的な体制が適切に構築されている。
 「ちきゅう」の船上研究支援体制の整備については、専門家の意見を反映しつつコアを適切に処理し、解析できるよう取り組まれている。高知大学海洋コア総合研究センターについても、IODPなどにより採取されたコアの適切な保存・解析に必要な整備が行われている。

5.1.2 IODPの構造と我が国の取組について

(1)IODPの意義
 IODPの科学目標は地球環境変動解明、地球内部構造解明及び地殻内生命探求を3大テーマとしたもので、我が国の国民の関心も高いと思われる地震発生機構などの理解を含めた地球と生命に関する広範囲な科学分野に大幅な前進をもたらすと考えられる。また、IODPで日米欧の複数の掘削船を用いることは、掘削の目的などに応じた計画的運用を可能とし、科学目標を効率的に達成するために適切な体制となっている。
 IODPにおける「ちきゅう」の運用により、地震発生予測及び緊急通報による地震防災、気候変動モデルの検証による将来予測の精密化などの科学的成果を用いた実用分野の発展が期待され、我が国の社会・経済に対する波及的効果も大きい。

(2)IODP主導国としての我が国の取組
 IODPにおいて、日米は重要事項の決定について、同等に主導できることとなっており、IODPの枠組みの構築に係る取組は評価できる。IODPを国際的なプロジェクトとして発展させることは、主導国である我が国の課題であり、今後も、積極的に諸外国に参加を働きかけるべきであるが、我が国の貢献に見合う科学的、技術的成果が十分に還元されるよう、戦略的に取り組むことも必要である。
 我が国は、「ちきゅう」及び海洋コア総合研究センターをIODPに提供することで、強くその存在をアピールできている。今後はこれらハードの活用を含むソフト面で参加各国をリードしていくことが重要である。
 我が国の研究者は関連会合に数多く参加しており、その活動は業績として高く評価されるべきである。今後は、会合においてより積極的に参加できる体制の確立及び会合への派遣の継続による人材育成が必要である。また、我が国の研究者がIODPの研究航海に参加し、共同首席研究者として活動していることは評価できる。乗船研究は、関連研究推進などの観点から最も重要な活動の一つであり、継続して参加できるよう一層配慮されるべきである。

(3)国内におけるIODP関連研究の推進体制
 海洋研究開発機構内でのIODP関連研究を我が国の中心として総合的に推進する組織の設置、J-DESCの設立、国内統一目標の策定などIODPを主導するための研究体制の構築が進められ、継続的な検討が行われており、これらの活動に研究者が主体的に取り組んでいる。今後も、研究者の活動の円滑化及び活性化に努めるべきである。
 しかし、必要な事前調査費の確保などの問題のために、掘削計画の提案というIODPの根幹となる活動において、我が国はリードできていないことから、新規の掘削計画開拓のための研究を担う競争的資金及び我が国がIODP主導国としての責務を果たすための活動を担う経常的な予算措置による研究支援体制について早急に検討する必要がある。

5.1.3 人材の育成について

 海洋研究開発機構及びJ-DESCは、研究者の経験蓄積の促進、大学・研究機関におけるIODP関連活動への理解に繋がる活動など研究者の育成に取り組んでいる。今後は、次代のIODPをリードする研究者の育成のため、若手研究者の乗船研究機会の拡大及び興味を喚起するアウトリーチ活動に一層取り組んでいくことが重要である。
 また、同機構は、米国の掘削船への乗船を支援することで技術者を育成してきた。ライザー掘削技術については、海底油田の探査のために開発され、発展してきたものであることから、我が国が遅れていることは事実であり、欧米の優れた掘削技術の我が国への移転に早急に取り組むことが必要である。
 更に、我が国のIODPにおけるプレゼンス向上及び国内研究者組織運営のため、科学的知識を持ちながら国内外の機関でマネジメントに従事する人材育成が課題である。

5.1.4 国民への説明について

 「ちきゅう」の必要性及びIODPの科学的成果に関する理解はもとより、科学技術の理解増進及び活性化を図る活動が行なわれている。今後は完成した「ちきゅう」を活用し、国民の関心の高いプロジェクトとして認知されるよう努力すべきであり、特に、中高生を対象とした教育的な観点からの広報などに継続的に取り組んでいくことが必要である。
 更に、IODP推進を通じて育成された人材の産業界での活躍の場の提供などが実現するよう努力すべきである。

5.2 総合評価

 事前評価の際に大きな価値を有すると評価された深海地球ドリリング計画は、我が国にとって科学的及び社会的に意義が高いものであることを確認した。また、世界最高の科学掘削船である「ちきゅう」の建造及び関連施設の運用環境の整備、国際的なIODPの推進体制の構築を中心とした我が国の主導国としての取組、人材の育成並びに国民への説明といった我が国の取組は、科学的、社会的ニーズなどを踏まえ、関係各機関により適切に行われてきていると認められる。よって、我が国が深海地球ドリリング計画を推進することは極めて有意義であると評価できる。今後は、その成果が最大限に得られ、社会に大きく貢献していくために、関係者が更に協力し、計画推進により一層取り組むべきである。
 但し、深海地球ドリリング計画の推進に際しては、本評価において指摘された留意点に対処することが必要である。特に、事前評価でも指摘された研究体制の整備については、必要な研究推進組織が構築されたと評価できるものの、IODPの根幹となる掘削計画の提案など関連研究活動については課題があり、引き続き改善に向けて努力することが必要である。

5.3 科学技術・学術審議会による前回中間評価についての確認

 前回中間評価の結果として、本計画は科学的、技術的及び社会的意義が大きいものであることが確認され、「ちきゅう」を提供するIODPの主導国として取り組むことが極めて有意義であると確認された。今回の中間評価においても、この結論について、現在も妥当であることを確認した。

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