海洋生物資源に関する研究の在り方について(本文)

はじめに

 地球表面の約7割を占める海洋には多様な生物が相互に影響を与え、環境に適応しながら生息・生育している。四方を海に囲まれた我が国においては、そこに生息・生育する生物は身近な存在でもあり、海洋生物の生態や生理に関する研究が積極的に行われてきた。また、日本近海は亜寒帯域から亜熱帯域に及ぶ幅広い気候帯に位置し、そこには多様な生息・生育環境が存在しており、生物多様性も極めて高く、これまで3万種以上の海洋生物種数が確認されている。海洋基本法(平成19年4月)及び海洋基本計画(平成20年3月閣議決定)においても、海洋の生物多様性の確保の重要性が指摘されている。

 一方、近年では、地球温暖化、海洋環境破壊、乱獲等、人間活動による海洋生物への様々な影響が健在化してきており、海洋生物多様性の保全や持続可能な利用の実現等に資する研究がこれまで以上に求められている。特に、平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及びそれによる巨大な津波により、三陸の海洋生態系が激変するとともに、福島第一原子力発電所から放射性物質が流出する等、海洋生物の研究分野にも極めて大きな課題を投げかけた。大学等の研究機関においては、これまでに蓄積してきた知見や地元の関係者とのつながりを活かしつつ、学術的な調査研究を実施し、海洋生態系の変化や回復のメカニズムの解明を図り、科学的エビデンスを提供することにより、漁場や資源の回復に貢献することが求められている。また、このことを歴史の証言として後世に伝えることは、我が国が背負った国際的責務であると考えられる。

 このような状況を踏まえ、本報告書においては、海洋生物研究に関して、中長期的な視点から、文部科学省や関連する研究機関が取り組むべき施策を提言する。

第1章 背景

 国際的には、海洋法秩序に関する包括的な条約として国連海洋法条約が昭和57年に作成・採択され、平成6年に発効し、我が国も平成8年に批准している。生物多様性に関しては、平成22年10月に我が国で開催された生物多様性条約第10回締約国会議において、2011年以降の新たな戦略目標(愛知目標)が決定され、海洋生物の持続可能な利用や人為的圧力の減少、海洋保護区の設定等について目標が定められている。また、国際的に協調して海洋資源を管理することへの認識が高まり、特に資源の減少が指摘されているマグロ類については、回遊範囲ごとに設立された5つの地域漁業管理機関において資源管理が実施されている。

 日本国内においては、平成19年4月に、「海洋の平和的かつ積極的な開発及び利用と海洋環境の保全との調和を図る新たな海洋立国を実現することが重要であることにかんがみ」、海洋基本法が制定され、同法に基づく海洋基本計画が平成20年3月に閣議決定された。海洋基本計画では、その基本的な方針のなかで、「豊かな海洋資源や海洋空間の持続可能な利用及び安全・安心な国民生活の実現を図る観点から、海洋調査と海洋に関する研究開発について戦略的に推進すること」を謳っている。具体的には、総合的かつ計画的に講ずべき施策として、地球温暖化の生物資源や生態系への影響の解明等の政策課題対応型研究開発を重点的かつ戦略的に推進することとしている。また、第4期科学技術基本計画(平成23年8月閣議決定)においては、「グリーンイノベーションの推進」や「地球規模の問題解決への貢献」のなかで、生物多様性の保全に資する研究開発の推進を提言している。さらに、東日本大震災復興構想会議が、6月25日に決定した復興への提言は、震災に関する学術調査の重要性を指摘するとともに、「産業・技術集積とイノベーション」の下で、「三陸沿岸域を拠点とする大学、研究機関、民間企業等によるネットワークを形成し、震災により激変した海洋生態系を解明し、漁場を復興させるほか、関連産業の創出にも役立たせる」ことについて記載している。

 関係省庁の取組について、水産庁においては、平成13年に制定された水産基本法及びその下の水産基本計画に沿って、独立行政法人水産総合研究センターを中心に水産物の安定供給の確保と水産業の健全な発展に資する技術開発等を実施している。環境省においては、生物多様性基本法(平成20年)に基づく生物多様性国家戦略2010(平成22年閣議決定)に沿って、本年3月に海洋生物多様性保全戦略を策定している。また、環境省生物多様性センターが、我が国の自然環境や生態系の現状の把握について継続的な調査を実施している。

 文部科学省関連では、これまで、大学において、競争的資金等も活用しつつ、海洋生物に関する基礎的な研究活動がボトムアップ的に進められるとともに、練習船や臨海臨湖実験所、水産実験所も活用しつつ、研究人材の育成が行われてきた。また、独立行政法人海洋研究開発機構においては、船舶等の海洋調査に関するプラットフォームの運用や海洋生物のデータベースの構築を行い、海洋観測に関する技術開発を進めるとともに、主に深海底に生息する生物群の研究を実施している。これらに加え、平成23年度には、海洋生物の生理機能を解明して革新的な生産につなげる研究開発や、海洋生物の正確な資源量の変動予測を目的に生態系を総合的に解明する研究開発を行う公募型事業を立ち上げた。

第2章 海洋生物研究の必要性

 海洋生物は、これまで世界三大漁場とされる豊かな我が国の周辺海域から、栄養的に優れた動物性タンパク質を有する食料資源としての利活用が進められ、我が国の多様な食文化の形成に大きく貢献してきた。しかしながら、近年では、その供給が低下傾向を示す資源や低位水準にとどまっている資源も多く、体系的・総合的な研究を推進し、海洋環境等の変化による影響や資源再生のメカニズムを解明することによって、適正な資源管理方策の確立や資源量の回復に貢献することが求められている。世界的に重要性が高まりつつある養殖についても、科学的知見や新たな応用手法を積極的に取り入れることにより、生産性や安全性の向上につながると考えられる。また、最近、再生可能なエネルギー源や医薬品としての海洋生物資源の利用に注目が集まっているが、国民の期待にこたえる新たな産業を創出するためには、先端技術の活用が不可欠である。

 このほか、海洋生物は、海洋の物質循環や環境調整にも大きな役割を果たしており、人間が住みやすい環境の保全を図っていくためにも、生態系と環境変動との関係について科学的理解の深化が求められている。

 生態系から人類が得ることのできる恵みについて、海洋生物多様性保全戦略においては、生態系サービスと呼んでいる。それらは、魚介類等の食料や薬品等に使われる遺伝資源等の資源の供給サービス、気候の安定や水質の浄化等の調整サービス、海水浴や潮干狩り等のレクリエーションや精神的な恩恵に関わる文化的サービス及び栄養塩の循環や光合成等の基盤サービスに区分されている。このようなサービスを持続的に享受しつつ、経済、社会的発展につなげていくためには、我が国独自の視点としての海洋生態系の役割を掘り下げ、人間活動との調和を図ることを目的に、海洋生物に関する研究や技術開発を一層推進することが重要である。

 海洋は今もなおフロンティア領域である。深海底生物の研究は地球の生命誕生の歴史を明らかにする可能性がある等、海洋に住む生物の生理機能や生態の解明が大きな意義をもつことは論をまたない。

第3章 重点化すべき研究課題

 海洋生物を取り巻く現状や社会的な課題を踏まえ、本委員会においては、文部科学省が重点的かつ戦略的に推進すべき研究課題を「海洋生態系に関する知見の充実」、「生理機能の解明と革新的な生産技術」、「新たな有用資源としての活用」、「観測、モニタリング技術の開発」の4項目に整理した。また、3月11日に発生した東日本大震災後の三陸周辺海域の調査研究について、水産業の復興への貢献や地元への連携等の視点も重視しつつ、早急に具体化する必要があるため、(5)として「東日本大震災への対応」を追加した。

(1)海洋生態系に関する知見の充実

 我が国周辺における海洋生物資源のより持続的な有効利用を図るためには、生態系の構造と機能を十分に理解した上で種々の活動を行っていくことが不可欠である。食料資源として直接利用可能な海洋生物については、水産庁を中心にこれまでも数多くの研究が進められてきたが、海洋には、水温・塩分等の物理的な環境に適応して、様々な生物種が生息・生育しており、特定の種を対象とした研究のみでは、生態系の構造や機能を十分に理解することはできない。

 そのため、海洋環境変動との関わりを考慮しつつ、生物資源の生産の場として、海洋生態系の構造と機能及びその変動の様子を総合的に理解するための研究を進めることが重要である。例えば、ニシンやイワシ類等の小型浮魚類資源は海洋環境変動と関わって大規模に変動するが、そのメカニズムについては未だ解明されていない。このような課題を解明し、資源の持続的な利用へとつなげるためには、回遊経路の変化要因、産卵の成否に深く関わる藻場等の産卵場及び生育場の状態、水を介して密接につながる森林生態系等の陸域の影響、地球規模での環境変動との関わり等を、長期的かつ体系的に調査研究することが必要である。その他の海洋生物についてもその生態が解明されていない部分は多く、まずは、海洋生態系解明の基盤を築くための適切なモデルケースを選定して、複数の種が多様に関わり合う海洋生態系のより深い理解につながる研究の推進が求められる。

 また、海洋生物から人類が受ける恩恵としては、水産資源に加え、海洋レジャーや水質浄化、光合成や栄養塩の循環、二酸化炭素の吸収等、多岐にわたっており、このため、海洋生物多様性を維持しつつ、海洋の総合的な利用を進めることが重要である。海洋生物多様性保全にあたっては、科学的な知見に基づき、管理や対策を行うことが重要であるが、陸域と比較して海洋の生態系は、生息・生育空間が直接観測の困難な水中であることや生息・生育種の多様性のゆえに、解明されていない部分が多い。このため、例えば、これまで情報が少なかった深海や海底の生物のデータを蓄積する、生態系モデルを構築する、海洋酸性化や海水温上昇による影響を評価する、陸域と海域の相互作用を解明する等の基礎的な科学的知見を充実させることが必要である。

 (2)生理機能の解明と革新的な生産技術

 近年、世界各国において、海洋生物の養殖や放流が盛んに行われるようになっており、我が国においてもその重要性が増している。しかし、持続的に海洋の利用を展開していくには、海洋生態系の保全への配慮が不可欠であり、天然資源の維持に配慮した稚魚の確保や生育環境の保全と改善、病原体の世界的な拡散防止等、未だ課題は多い。これまでも、水産庁関連の試験研究機関、近畿大学、東京海洋大学等の研究機関において、先進的事例としてクロマグロ完全養殖の技術開発やニホンウナギの生理機能の解明を基にした種苗生産技術開発等が進められている。しかし、放流時の遺伝的多様性の確保、沿岸域での養殖による海洋汚染の緩和、種苗としての稚魚やその餌の確保、感染症の制御等、長期的な取組を視野に入れ、革新的な手法の導入を検討すべき課題は多い。

 一方、発生生物学とその応用研究の展開により、例えば、ヤマメからニジマスを産ませることが可能になる等、革新的技術が開発されてきており、増養殖技術への応用の期待が高まっている。このような新しい芽を確かなものにするためには、海洋生物の生理機能に関する研究分野と生命工学分野等との融合による革新的な生産技術の研究を実施することが求められる。

(3)新たな有用資源としての活用

 海洋生物は、これまで魚介類や海藻類が主に食料資源として利用されてきたが、近年では、再生可能エネルギー、医薬品やバイオテクノロジー等の材料としても注目されている。例えば、カニやエビ等の甲殻類の外骨格を活用して生成されるキトサンは、再生医療材料等としての応用が進んでいる。また、重金属を多く含む深海の熱水域に生息している生物は、重金属耐性や高温耐性、化学物質の解毒等の機能を備えており、耐熱性を有した新たな酵素の開発や環境中からの有害物質の除去等につながるものとして、産業応用が期待される。さらに、藻類等が高い脂質蓄積能力や多様な炭化水素系燃料の生産能力を有することが明らかにされてきており、次世代のバイオ燃料生産系として、大型藻類や微細藻類の研究開発が進められている。現在、再生可能エネルギーへの国民の期待は高まっており、この点でも海洋生物の有する潜在性を引き出す研究の強力な推進が求められる。

 海洋は陸上とは異なる環境であり、また、そのアクセスの困難性から、未だ生理機能等が明らかにされていない生物が多く存在する。これまでは考えられなかったような新たな機能物質が発見される可能性を秘めており、海洋は未知の遺伝資源 の宝庫であると言える。

 このような背景から、海洋生物の機能の利用に関する多様な技術の創出を最終的な目的として、基礎的な研究開発を着実に進めることが求められている。

(4)観測、モニタリング技術の開発

 海洋に関する基盤的なデータや知見を充実させるためには、海洋生物の分布や密度とその変動を長期的かつ体系的に観測することが不可欠である。海洋の調査は、陸上からのアクセスの困難性とともに、海面から深海底までの深さ方向への広がりが大きいことや海洋生物の移動が広範囲に及ぶこと等から、高度な技術を必要とする。

 これまでも、有人潜水艇、無人探査機、DNAバーコーディング、メタゲノミクス、生元素や安定同位体比等を高精度に分析する技術、バイオロギング、バイオインフォマティクス、衛星リモートセンシング等の研究開発が進められてきている。海洋の有効利用への国民の期待の高まりを踏まえれば、これをさらに推進し、より先進的な技術を開発していく必要がある。この際、工学や生命科学を専門とする研究者と海洋生物学の研究者が、協同で研究開発を実施することが重要である。また、生命科学分野で急速に発展しつつあるomics (ゲノミクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクス、メタボロミクス等)を海洋生物研究に積極的に導入し、新たな研究開発の局面を切り開くことも重要である。

 海洋生物研究は、海をフィールドとしており、その広範な活動は調査船をもってしかなし得ず、調査船はこの分野における研究推進の最も重要な研究設備である。調査船の効率的な運用に努めるとともに、計画的整備が必要である。

(5)東日本大震災への対応

 3月11日の大地震とそれに伴う巨大な津波は、東北太平洋沖沿岸域及び沖合域の海洋生態系に大きな打撃を与えた。沿岸域においては、多量のがれきの堆積や藻場・干潟の喪失、岩礁への砂泥の堆積、地盤沈下による陸と海の移行帯の破壊等により、漁場にも大きな被害がもたらされた。被災地の一刻も早い復興と沿岸漁業の再生のためには、沿岸域の物理化学環境調査と生物調査を行い、調査結果を解析して海洋生態系の構造と機能の変化の実態とそのメカニズムを理解したうえで、漁場の回復を図ることが必要不可欠である。沖合域においても、海底地殻の変動や陸由来の物質の流入等により海洋環境が変化している可能性や、沿岸域と沖合域を行き来している生物群も存在すること等から、沿岸域と同様に調査研究を実施する必要がある。この海域の生態系の再生は、おそらく10~20年をかけて進行していくものと考えられ、研究の長期的な継続が不可欠である。また、海洋生態系の回復を促進させる技術や手法についても検討し、適用していくことが必要である。

 この際、重油や多種類の人工化学合成物質等の陸由来汚染物質の海域への広がりや海洋生物への影響についても評価することも求められている。特に、福島第一原子力発電所の事故により、放射性物質が海洋に流出しており、海洋生物に与える影響が懸念されている。水産物や海水の定期的なモニタリングや拡散シミュレーションは政府機関等が実施しているが、海洋生物、特に底生生物への放射性物質の蓄積過程や放射性物質の沿岸部における挙動等について、大学等研究機関による重点的な調査研究を緊急に立ち上げる必要に迫られている。

 我が国の東日本大震災に対する対応は、国際的にも極めて大きな関心を集めており、調査結果を積極的に情報発信することは、風評被害を防ぐ等、信頼の確保にもつながると考えられる。また、海洋生態系及び海洋環境のかく乱の実態把握と経時的に修復していく機構の解明は、学術的にも重要な課題であり、歴史の証言として成果を世界に発信・共有することが我が国の国際的責務である。

 さらに、継続的に被災地の経済発展を図るため、地域の特性やニーズを踏まえつつ、新たな産業につながる技術開発を大学等研究機関が漁業協同組合や民間企業と連携しつつ、進めることも重要である。具体的な研究内容としては、陸上養殖等新たな養殖技術の開発や未利用資源の利用が考えられる。

 このような中、震災対応のための取組は既に開始されている。水産庁においては、水産復興マスタープラン(平成23年6月水産庁)を策定し、水産業の復興に向けた取組を進めている。独立行政法人水産総合研究センターは、県水産試験場等の要望を踏まえ、海洋モニタリングへの協力、漁場環境調査、種苗の代替生産、水産物の放射性物質の調査等を実施している。

 また、大学等においても、地元自治体等と連携して、調査研究を既に実施しており、例えば、震災後に、岩手県の東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センターは、大槌湾等の水質、プランクトンや魚介類の調査研究を実施している。宮城県の東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センターでは、女川湾等の調査研究を開始するとともに、宮城県と連携して沿岸の水質調査を実施している。東京海洋大学では、福島県沖合で放射性物質に関する調査研究を行っている。独立行政法人海洋研究開発機構では、深海調査技術を活用して、沖合から地震震源域にかけて海洋生態系の調査研究を行っている。また、学術研究船「淡青丸」においては、震災対応研究航海の公募を行い、順次実施している。

 一方、大学等における以上のような取組を中長期的かつ体系的な研究開発を可能とするものにすることが重要であり、このための体制の整備が喫緊の課題となっている。具体的には、海洋調査船・分析機器等の基盤を整備し、全国の関連研究者のネットワークとして、三陸沖沿岸域を活動拠点とする大学等を中心としたマリンサイエンスの拠点を東北に形成することが必要である。マリンサイエンスの拠点における活動については、地元からの要望・意見を踏まえるとともに、海外の研究機関や民間企業とも連携することが必要である。マリンサイエンス拠点は、将来的には、国際的な海洋研究拠点として発展、継続していくことが期待される。巨大地震と津波が東北太平洋沖海洋生態系へ及ぼした影響を解明し、沿岸域の復興支援へつなげるためには、海洋生物研究がこれまで蓄積してきた技術・知見を結集させる必要があり、我が国の海洋生物関連研究者が社会への研究成果の還元を強く意識し、一丸となって取組むことが求められる。

第4章 他分野等との連携

 海洋生物に関連する分野は、生命科学、海洋化学、海洋物理学、海洋工学、情報工学等多岐にわたっており、様々な分野の研究者が協力して研究課題に取り組むことが必要である。また、海洋生物多様性の保全や地球環境変動の影響の緩和、海洋生物資源の管理については、人間の経済・社会活動と密接に関わっており、社会科学分野の研究者との協力も重要である。このためには、分野横断型の研究プロジェクトを実施することに加え、異分野の研究者が定期的に意見や情報の交換を行うことが有効である。

 近年の情報科学の進展はめざましいものがあり、それらの成果を複雑な系である海洋生物や海洋生態系に関する多様なデータの重層化や統合・解析に役立てることは非常に重要である。適切なデータベースの整備は重要な取組であるが、研究計画・評価分科会地球観測推進部会においては、地球観測データの統合とその有効な利用は極めて優先度の高い課題として議論され、海洋生物関係の観測データも含めてデータ統合を行うためのプラットフォームの構築が進められていることから、今後、連携・協力してより統合化されたデータの整備を進めていく必要がある。なお、海洋生物関係のデータに関しては、その調査項目が多岐にわたっており、かつデータとしての比較するための基準化が進んでいないといった課題にも対応する必要がある。

 最先端の研究開発を実施するに当たっては、海外の研究者とも連携しつつ研究を行う重要性が高まっている。特に、海洋生物に関する研究については、海域による比較研究ができること、潮流により栄養塩や有害物質等が運ばれること、大型魚類は広い範囲の回遊を行うこと等から、国内外の研究者の協力が必要不可欠である。個々の研究者と海外の研究者の協力は進められており、国内外の研究機関のネットワークの形成も進められているが、今後は、国際連携のより積極的・体系的な推進が必要である。

 最後に、成果を着実に社会に実装させるため、民間企業、水産庁や環境省、地方自治体等のニーズを踏まえた課題設定を行うとともに、研究の実施にあたっても意見を聞きつつ進めることが重要である。

第5章 人材育成・アウトリーチ

 海洋生物研究を着実に進展させていくためには、若手人材を育成することが必要不可欠であり、研究プロジェクトの実施にあたっては幅広い分野から積極的に若手人材を登用することが重要である。また、国際連携プロジェクトに参加させる等、世界で活躍できる人材に育てるための取組も、今後、本分野が世界に伍していくためには不可欠である。研究者の養成に加えて、船上での海洋観測や生物資源調査の支援を行う専門技術者の養成も求められている。人材育成には、大学の練習船や沿岸に設置されている実験施設が重要な役割を果たしており、今後も着実に整備を図ることが必要である。

 また、海洋関連産業等に従事する者だけでなく、国民に、分かりやすく研究成果を伝えるアウトリーチ活動の推進も重要である。このため、この分野において研究する者それぞれが、高い意識を持って、研究成果を求め、これを発信していくことが必要である。

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研究開発局海洋地球課