海洋鉱物資源の探査に関する技術の実証の当面の進め方

平成22年8月25日
科学技術・学術審議会 海洋開発分科会
海洋資源の有効活用に向けた検討委員会

海洋資源の有効活用に向けた検討委員会 委員名簿

浦辺 徹郎

東京大学大学院理学系研究科教授(主査)

阿部 一郎

住友金属鉱山株式会社取締役専務執行役

磯崎 芳男

独立行政法人海洋研究開発機構海洋工学センター長

浦 環

東京大学生産技術研究所海中工学国際研究センター長

沖野 郷子

東京大学大気海洋研究所准教授

小池 勲夫

琉球大学監事

鈴木 賢一

日本水産株式会社元相談役

平 朝彦

独立行政法人海洋研究開発機構理事

瀧澤 美奈子

科学ジャーナリスト

寺島 紘士

海洋政策研究財団常務理事

増田 信行

独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構特別顧問

1.はじめに

 四方を海に囲まれた我が国が、新たな海洋立国の実現を目指し、総合的な海洋政策を推進するため、「海洋基本法」が制定(平成19年4月)され、これに基づき、「海洋基本計画」が策定(平成20年3月閣議決定)された。同計画では、資源小国の我が国が、自らの資源供給源を確保するため、海底熱水鉱床やコバルトリッチクラスト等の海洋資源の計画的な開発等を推進することを求めている。

 本委員会においては、これらの海洋鉱物資源を広域から狭域にわたる様々なスケールで効率的に探査するために必要な技術開発の内容等について審議し、「海洋鉱物資源の探査に関する技術開発のあり方について」中間とりまとめを行った(平成21年6月)。現在、文部科学省において、これに沿った施策が進められているところである。

 その後、「新成長戦略~「元気な日本」復活のシナリオ~」が策定(平成22年6月閣議決定)され、海洋資源の開発・普及の推進が「グリーン・イノベーションによる成長を支える資源確保の推進」を担う政府の重点事項と位置づけられたところである。

 このような状況を踏まえ、本委員会では、新たに、海洋鉱物資源の探査における活躍が期待されている自律型無人探査機(AUV)の開発・運用を中心に、文部科学省における当面の技術開発の進め方についての検討を実施した。

2.海洋鉱物資源の探査に関する取組の現状

 独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)においては、(1)保有する各種研究船、(2)世界一の連続航走距離記録を持つAUV「うらしま」、(3)世界トップクラスの潜航能力を持つ「かいこう7000 2」をはじめとする遠隔操作型無人探査機(ROV)、(4)海底下のコア試料を採取できる地球深部探査船「ちきゅう」等、各種プラットフォームと、深海調査のための高度な技術を活用し、詳細な海底地形や海底下構造の科学的調査等を実施している。加えて、今年度中に、海底微細地形データ等が取得可能な高精度センサーを積んだ新たなAUVの整備に着手する予定※である。

 大学等においても、文部科学省が実施している競争的資金制度「海洋資源の有効活用に向けた基盤ツール開発プログラム(以下「基盤ツール」という。)」により、海洋鉱物資源を効果的、効率的に探査するセンサー技術の開発を進める等の取組が進んでいる。一例として、東京大学生産技術研究所では、センサーとAUVを組み合わせたシステムの開発を進めている。同研究所は、海底面から数十mの高度を保ちつつ長距離を比較的高速で航行する機能を有し、広域を効率的に調査することのできる「巡航型AUV」とサイドスキャンソナーを用いて詳細な海底地形を得る技術を確立するとともに、海底面近くを低速で航行し、狭い範囲を詳細に調査することのできる「作業型AUV」を用いた海底の撮影及び画像処理による海底の状況の詳細な把握にも成功している。

 資源量把握については、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)において、沖縄海域及び伊豆・小笠原海域の海底熱水鉱床を対象に、ボーリング調査等により、鉱床の深部方向の連続性の調査を実施している。

※本AUVは、日本学術振興会の「最先端研究開発戦略的強化費補助金」により整備。JAMSTECによる「海底下実環境ラボの整備による地球科学―生命科学融合拠点の強化」が補助対象事業として採択された。本事業は、青森県下北半島沖における掘削によるコア資料を、海底下の実環境に保持して研究を実施する海底下実環境ラボをJAMSTEC高知コア研究所に整備するもので、AUVにより海底微細地形データ等の取得を行い当該海域における海底下の状況分析や二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)に関する評価を実施する計画である。

3.海洋鉱物資源の探査に関する技術の実証

 海底熱水鉱床等の海洋鉱物資源の開発技術は、世界的にも事例のない未踏の分野であり、その探査手法も確立されていない。基盤ツール、新たなAUVの開発等、現在取り組んでいる技術開発は、世界的にみても革新的なもので、資源に乏しい我が国がその高度化を進めていくことには大きな意味があり、我が国がリーダーシップを発揮していくべきである。我が国周辺には、資源的に有望な海域が広がっていることが知られており、調査を進めることによって、探査技術の実証を進めていくことが重要である。

 具体的には、(1)複数の機能の異なるAUVの効果的な組合せと高性能化による調査技術、(2)海底下の三次元構造を把握できるセンサー技術、(3)ROVによる複雑な地形に対応したサンプリング技術、(4)地球深部探査船による海底下のサンプリング技術、(5)支援母船、AUV、ROV、センサーを組み合わせた探査システムとしての全体の効率的、効果的な運用の実証が必要である。さらに、各機器の実利用に伴う技術課題の抽出、高度化の検討を通じて、海洋鉱物資源の探査に関する技術を総合的な技術に完成させるため、海底熱水鉱床やコバルトリッチクラストの有望海域に探査技術を適用していく必要がある。また、早期に成果を上げるため、探査機技術の開発とあわせて、センサーの開発を促進することが肝要である。

 さらに、当該実証を通じて得られたデータは、これまでにない新しいものであり、次のような科学的な成果にも容易につながるものである。

  1. 海底熱水鉱床の構造と成因及びその生成に寄与したテクトニクス、火山活動、海洋環境変動、地下生命圏の活動の解明
  2. コバルトリッチクラストについて、プレートテクトニクスに伴う海洋底の移動、海洋環境変動の観点からの層状構造、成分変動の起源の解明

 また、JOGMECと協力しつつ実証を進めることにより、資源量把握に直接貢献することも期待される。

 さらに、海底鉱物資源の研究を通じて、地球物質循環及びそれにかかわる地下生命圏の役割を解明するとともに、新たな海域で鉱物資源開発の可能性を判断するためには、海底下構造等の科学的研究が不可欠である。

4.AUVの整備に当たって留意すべき事項

 AUVは、技術の進展により、前述したように海洋鉱物資源調査を行う切り札的重要機器となりつつあり、資源探査に必要な機能・性能については、本委員会でも議論を行ったところである。今般、JAMSTECにおいて、AUVの整備に着手することとなったため、その具体的な仕様について検討を実施し、後述3の考え方を踏まえて2種類を整備することとし、別添の仕様を作成した。

 本AUVについては、青森県下北半島沖の海底下生命圏の調査のために開発するものであるが、船舶のスケジュールから当該海域の海底調査を実施していないときや当該海域での海底調査の終了後において、海洋鉱物資源の調査に必要な海底調査を実施するためにも活用されれば、効率的かつ効果的に成果が得られることは明らかである。このため、両目的のニーズに柔軟に対応できる設計にしておくことが非常に重要である。

 海洋鉱物資源調査に必要な海底調査を実施する海域については、海底熱水鉱床が存在していることが有望視される沖縄海域とすることが適当である。

 また、深海探査に関する技術を効果的に実証するため、本AUV開発にあたっての基本的考え方は以下のとおりとする。

  1. 限られたシップタイムを最大限有効に活用していくため、AUVに必要な自律性を持たせる必要があり、将来的には支援母船1隻で機能の異なる複数のAUVを複合的に活用する調査を行うことを視野に入れたものとすることが重要である。
  2. センサーの開発を同時並行で行う必要があるため、各種センサーを試験的に搭載できるものとすることが必要であるが、三次元の調査等必要な調査を行うための機動力、操作性とのバランスを考慮することが重要である。
  3. 様々な条件の海域で調査を実施することや、広い範囲の概略調査と、狭い範囲の詳細な海底の状況把握を組み合わせることで、効率的な調査を実現し、早期に成果を上げていくことが重要であるため、巡航型と作業型の両型を併せて整備すべきである。

5.今後検討すべき課題

 「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」(平成21年3月総合海洋政策本部了承)において、海底熱水鉱床の開発について、平成30年度までの10年計画で商業化を目指すとしていること、「新成長戦略」が平成32年度までの10年間での目標達成を目指していることを踏まえ、今後10年間で実施する研究開発の具体的内容、スケジュールについて、引き続き審議を行っていく必要がある。その際、関係機関との連携や、調査を実施する海域についても、検討すべきである。また、あわせてこれまでの技術開発成果の検証や、更なる機能向上のための新たな技術、例えば海中において探査機に充電できる技術などの評価を実施すべきである。

別添

巡航型システム仕様(案)

  • 最大潜航深度: 3000m
  • 最大速力: 3knot以上
  • 最小旋回半径: マルチビーム測深機のスワス幅以下
  • 最小高度: 平坦な場所において10mプラスマイナス2m程度
  • 垂直運動: 勾配30度程度の丘を越える能力を有する
  • 搭載センサの要求に合わせた制御を行う
  • 機体サイズ: 4m以下(機体のみ、突起物含まず)
  • 連続航行時間: 10時間以上(*1)
  • 観測センサ(目的別積替え式)
    • 標準搭載: CTD(塩分濃度、温度、深度計)
    • オプション搭載: サイドスキャンソーナー、マルチビーム測深機、CO2+pHハイブリッドセンサ、ハイドロホン
    • ユーザ拡張領域: 30kg、30リットル (磁力計等基盤ツール関連)

*1 使用する観測センサーならびに航行パターンによる

作業型システム仕様(案)

  • 最大潜航深度: 3000m
  • 最大速力: 1.5 knot以上
  • 最小旋回半径: その場回頭
  • 最小高度: 1m (着底可能)
  • 機体サイズ: 2.5m以下(機体のみ、突起物含まず)
  • 連続航行時間: 8時間程度(*1)
  • 観測センサ(目的別積替え式)
    • 標準搭載: CTD(塩分濃度、温度、深度計)、 スティルカメラ
    • オプション搭載: CO2、pH

*1 使用する観測センサーならびに航行パターンによる

 

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研究開発局海洋地球課

電話番号:03-5253-4111(代表)、03-6734-4142(直通)

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