海洋科学掘削委員会(第2回) 議事録

1.日時

令和4年5月12日(木曜日)13時30分~16時45分

2.場所

文部科学省15階第1会議室又はオンライン

3.議題

  1. 2024年以降を見据えた国際動向について(非公開)
  2. 我が国における海洋科学掘削の取組について
  3. 地球惑星科学分野の研究開発動向について(ヒアリング)
  4. 意見交換
  5. その他

4.出席者

委員

川幡主査、石井委員、小原委員、窪川委員、阪口委員、鈴木委員、巽委員

文部科学省

大土井海洋地球課長、戸谷深海地球探査企画官、伊藤海洋地球課長補佐 ほか

オブザーバー

【説明者】石井 正一 SIP「革新的深海資源調査技術」プログラムディレクター、黒田 潤一郎 東京大学大気海洋研究所准教授 

5.議事録

【川幡主査】  では、皆様そろったと思いますので始めたいと思います。主査の川幡と申します。よろしくお願いいたします。
 ただいまより、第11期科学技術・学術審議会海洋開発分科会海洋科学掘削委員会の第2回会合を開催いたします。
 本日は御多用中にもかかわらず、委員の皆様に御出席いただき、誠にありがとうございます。
 本日冒頭は、前回確認したとおり、国際動向の詳細について取り扱うため、議題1は委員、事務局のみとし、非公開の会議としますので、よろしくお願いいたします。
 まずは、事務局より定足数の確認及び配付資料の確認をお願いいたします。
【事務局】  本日は野田委員より御欠席との御連絡をいただいております。
 現在、8名中7名の委員に御出席いただいておりまして、本委員会の運営規則第2条に定める定足数の過半数を満たしておりますことを御報告いたします。
 また、事務局としましては、文部科学省研究開発局海洋地球課長の大土井、深海地球探査企画官の戸谷、課長補佐の伊藤のほか、海洋地球課の関係者が出席しております。どうぞよろしくお願いいたします。
 続きまして、配付資料の確認をさせていただきます。本日は、議事次第にありますとおり、資料1から参考資料2まで御用意させていただいております。また、冒頭非公開部分の資料を机上配付資料として御用意させていただいております。
事務局からの連絡は以上とさせていただきます。
【川幡主査】  では、始めたいと思います。
 議題に入る前に第1回の振り返りを少しさせていただこうと思います。まず最初にバックグラウンド、それから3つ申し上げます。
 まず最初でありますが、地球惑星科学において掘削科学は重要な一つの分野で、これまで技術開発と並行して発展してきたということを述べました。技術開発、お金を全部科学に振り向けられたわけではなくて、産業界の貢献というのもあって技術開発にそれ相応のお金がかかったということはこの前述べたと思います。また、大土井課長のほうから、「ちきゅう」に期待されるミッションというか期待、そういうのが広くなってきていると。それで2006年の深海地球ドリリング計画の中間評価、それ以降も世の中は随分変わってきたということを多分述べられたのだと思います。
 私なりに整理してみますと、3つあるかと思います。第1番目、2006年の次が二千十何年かな、3年かな。それで、もう3.11はそのとき起こっていましたが、その後、国の防災会議のほうが、マグニチュード9というのをきちっと考えなさいというようにオーソライズされるように、想定外をなくすというのが今、掘削科学のほうに求められている大きな課題じゃないかと思います。
 2番目が、昨年ですかね、政府が掲げたようにカーボンニュートラルの2050。キーワードとしたら脱炭素。
 それから3番目は、国際的なフレームワークも随分変わってきましたねと。端的な例が、ウクライナでも皆さん御存じのように、地政学的要因。そういうので、安ければ資源買ってきていいよという時代は随分変わるようになって、安全保障の面からも資源を確保しましょうというふうに昨日かおとといも政府が言っていましたが、そんな感じに世の中変わってきた中で掘削を行っていくということになるかと思います。この会議は、この前お願いしましたように、組織の代表としてではなくて、科学者として御発言していただければと思います。
 では、あと3つ確認しておきます。その中間評価のときのマントル掘削の扱いについて委員より御発言がありましたが、海洋地球課長のほうからも基本的に掘削がきちっとできる船であることを確認の上、本格的運用を開始して、並行して技術開発も進めていきましょうということで評価委員会は終わったという御報告がありましたが、それを前提としてやっていきたいと思います。その後、石井委員のほうから、スペックのほうからもそうですよというサポートの御発言がありました。
 それから2番目、議論の対象とする時間レンジ。これに関してはこの前確認しましたが、数年からマキシマムで10年ぐらい。その間にどうしますかとかいうところに焦点を絞って議論を進めると。もちろん、その後のこと、2050年とかそういうのも議論の中に入ってくるかもしれないけれども、メインのターゲットはこの数年から10年でやりましょうということで、議事録に皆さんからも賛同があったというふうに書いてあります。
 3番目として、皆さんから御発言がありましたが、特に最後、巽先生から要約されましたとおり、反省すべき点、また改善すべき点、そういうのをきちっと考えましょうと。その上で将来を見据えましょうという御発言がありました。
 というわけで、これから今日発表があると思いますが、発表者の方には事前にお願いはしていませんが、質問の時間も入れてまず3つのことを聞こうと思っています。
 1番目は、当初の予定、もしくは目標は何だったんですかという点。2番目は実績。3番目は反省もしくは改善点。これら三点を指摘してください。プレゼンテーションの中で御説明がもしなかったら、質問のときに伺うということで進めたいと思います。第1回委員会で確認した会議の方針は大体このような感じだったと思いますが、何か間違っているよとかいうのがありましたら御指摘ください。よろしいですか。
 では、次に行きたいと思います。それでは、議題1に入りたいと思います。
 
<議題1(非公開)>
 
【川幡主査】  それでは、議題2「我が国における海洋科学掘削の取組について」に移りたいと思います。
 科学的視点から見た我が国における海洋科学掘削の取組について、巽委員から御説明いただきますが、これから発表するときに大体何分お願いしますというのを私言いますので、それを大体守っていただければと思います。
 それから、皆様にまだお願いしていなかったですけど、話の中で、当初予定はこんなでしたよ、実績としてこんなことができました、それで反省点とか改善点はこんなですよということが分かると、聞いている人によく分かると思いますので、質問も含めて、1つのトピックスについてそれを確認できるような形で進めたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 では、巽先生、よろしくお願いいたします。20分です。
【巽委員】  ありがとうございます。では、早速始めたいと思います。
 私のミッションは、我が国における科学掘削の取組の科学的な視点で振り返る。川幡先生がおっしゃったように、目標は何で、何を達成して、何が反省点であるか、今後どうすべきかというようなことを皆さんと一緒に考えていくための題材を提供したいと思います。私は、御存じの方もいらっしゃると思いますが、この20年ぐらい、IODPの科学計画の策定をはじめとするいろんな枠組みの中で動いてきました。ですから、そういうふうな私の経験も踏まえて今回の発表をさせていただきたいと思います。
 もちろん、我が国の科学的な取組は、IODP全体の科学的なフレームワークにのっとって行われていますけれども、IODPの科学フレームワークそのものの策定にも日本としては非常に強く関わってきました。IODPは設立された当初、それから2回目の、今ここで示しているような4つのテーマのもの、それから2050年の3回目、3つのIODPの科学的なテーマに関して、私は最初の2回、それから3回目の策定に関しても多くの日本人の方が関与してこられたということは知っておいていただければと思います。
 そういう背景もありますので、そういうIODPの枠組みの中で日本がどういう科学的な成果を求めていこうとするか、そもそもIODPを始めた理由の1つは……(音声途絶)戦ってきたのだというふうに私は理解しています。先ほど申し上げたようなIODPのフレームワークを日本バージョン、すなわち日本がどういうふうなところで貢献していくか、どういうふうなところに焦点を当てるかということの議論は、コミュニティの中で非常に多く議論されてきました。
 今ここに示してあるのが、第2期のときの科学計画の4つのフレームワークが示してあります。この中で日本が一体何をやるのかというふうなことに関しては、例えば「変動する地球」の中では、もちろん地震発生帯掘削をはじめ、それから「地球の関連性」に関しては、破局的噴火、そのほかの巨大災害的なもの、それから「海洋変動」的なもの、それから「生命フロンティア」、そういうものについてそれぞれ日本が独自のサンエンスとして貢献していきたいというふうな目標を立てたと理解をしています。
 それでこの図は、実は2010年に私たちが中心となって文科省に提出したものです。これは、第2期のIODPの中で2014年以降、第2期の中で何をしていくかということを端的にまとめた図です。この図の中には、実は南海掘削、もしくは地震発生帯掘削は入っていません。それはなぜかというと、2014年までにそれは終了して、その次、日本として世界をどうリードしていくかということを語ったストーリーであります。このストーリーでは、「炭素と水の循環」という言葉をキーワードとして、地球の様々な現象を包括的に理解するということをテーマとして日本は取り組むということを宣言したわけであります。
 それで、実際何が行われてきたかということ。これは前回からも幾つかの報告があって、もう皆さん御存じだと思いますが、今この図で示してありますように、IODPの枠組み、SIPの枠組み、それからSCOREの枠組み等で「ちきゅう」を使って何が行われてきたかということをこの図の中に示してあります。こういうふうな「ちきゅう」を中心とするような掘削活動というのが、我々が最初に立てた計画とどういうふうな整合性があり、どういうふうな達成度がありといったことが重要だというふうに理解しています。
 それで、先ほどの4つのフレームワーク、これは国際のフレームワークですけれども、国際のフレームワークの中に、それぞれ「ちきゅう」を中心として行ってきた掘削計画の内容がここに示してあります。それぞれ満遍なくという言葉が適切なのかどうかよく分かりませんが、幾つかの分野で日本が主導して比較的重要な貢献が行われてきたものというふうに理解しています。ただ、後から申し上げますけれども、本当に日本がやりたかったことがこれはできていたのかということに関しては、後からもう少しコメントしたいと思います。
 論文のデータに関しては、前回にも少し出て議論等もありましたが、私は論文の数はもちろん重要ですけれども、一番最初に申し上げたように、こういうふうな国際的な大型のプロジェクトというのは、いかに世界のサイエンスをリードすることができるかと。そのリードというのは、論文の数だけでは決してないというふうに思っています。もちろん数が重要なのは当然ですけれども。ですから、いかにそういうふうな枠組みを維持しながら新しいサイエンスプランを立てていくかというようなところも重要だと思っています。それはそれとしても、それなりの成果が上がっているということは御理解いただけると思います。
 それぞれの項目に関してごく簡単にお話をしたいと思いますけれども、例えば気候変動に関しては、先ほど川幡さんがおっしゃったような北極の件等もありまして、非常に多くの成果が上がっています。ただ、これも日本人が日本人のコミュニティを中心としてつくった計画ではなくて、これはヨーロッパ・アメリカが中心でしたが、それに日本人が加わって、そこである意味で学びながら、これからこういうふうなことをどうやっていくかというふうなことを学んだという意味では、非常に大きな成果があったというふうに私は理解しています。
 その次は生命圏ですが、生命圏に関してはもちろん、例えば論文数が伸びても圧倒的な論文数があり、非常に評価が高い分野ではあります。ただ、これも初めてそこまで掘って見つけているわけですから、ある意味で当然の成果といえば当然の成果で、こういうふうにして行われてきたことが、一体これからの地球生命科学をどういうふうな新しい視点で切り開いていくのかというところを今後十分に考えていくべきだと思いますし、このことに関しては、また後ほど鈴木先生のほうから現在の動向があるという、鈴木先生でしたかね、次回か何かに専門的なお話があるというふうに聞いています。ただ、もちろん、数多くの新たな発見があったということは事実であります。
 地球活動の関連性に関してなんですが、これははっきり申し上げると、日本がやろうと思ってきたことはほとんどできなかったと言ってもいいかと思います。もちろん、例えばIBM掘削に関しては4つの航海――3つのジョイデス・レゾリューション号航海と1つの「ちきゅう」掘削で、トータルで太陽系の中で地球にしかない大陸の性質を理解するということで、ジョイデス・レゾリューション号のほうの航海は終わっていますけれども、肝腎の我々が一番やりたかった部分、実際に大陸を採取するということはできていません。ですが、それなりの成果はもちろんあったと思いますし、そこへ至る頭の中の論理的な思考過程の確立という意味では、非常に重要な貢献をしたと思っています。
 地震発生帯掘削に関しては、これは前回、川幡先生もおっしゃっていたと思いますが、当然、地震大国の日本として重要な貢献があったということは私も重々承知しております。ただ、これが果たして当初我々が地震発生帯、もしくは地震発生予測にどれほどつなげるのかと思っていた思いと、今回の今挙がっている成果がどれほど果たして一致しているのかというところはきちんと検証した上で、掘削プラスそれ以外の地震観測も併せた上で総合的な判断をしていく必要があるというふうに私は理解しています。
 時間が迫ってきましたので、そろそろまとめに入りたいと思うんですが、今ここにあるのが、幾つか日本、それから国際で出されていたプログラムの中でまだ貫通していない、できていないプログラムです。先ほど申し上げましたように、当初、IODPを始めた頃に日本がしたいと思っていた「ちきゅう」、それからジョイデス・レゾリューション号などを複合的に使ってやりたいと思っていたことの、さて、何割ができたかというと、なかなか数字を言うのは難しいですけれども、それほど高くないことは事実だと思います。ただ、それだからこの計画は失敗であったのかというようなことには、私は決してそうではないと思っています。最後、そのことを少し反省も含めてお話をしたいと思っています。
 これは到達度、それから反省点を一般的な文章でまとめてあります。もちろん当初思ったもの以外でも幾つかの重要な成果が上がっていますし、それなりの成果があるというふうには認識することができると思います。
 実は、今ここに示してある「Post-IODPへ向けて」というのが、昨年度ですかね、日本の掘削コミュニティが今後、我々が何をしたいかということをまとめたものです。ですから、これまでのIODPの中で我々がつくってきた科学計画、日本の科学計画の到達度、それからその反省を踏まえて、今後はこういうふうなことをやっていこうということを取りまとめたものだというふうに理解しています。
 このことに至ったことを含めて、到達度とその反省を少しまとめてみたいと思うんですが、先ほどから何度も申し上げましたように、現状、決して我々が当初思っていたとおりに計画が進んだというふうには残念ながら申し上げることができないと思います。その究極的な理由は何かということなんですけれども、もちろん予算のことはあると思いますが、私自身の反省も含めて、この計画自身がサイエンス主導ではなかったのではないかと、ある意味で。もしくは、サイエンスプランが、それほど完成度の高い、もしくはリーダーシップのあるようなサイエンスプランではなかったのではないか。これは私自身の反省が非常に大きいわけですけれども、そういうふうに思っています。
 例えばサイエンス主導でなかったというのはどういう意味かと申し上げると、よく言われる言い方で、「ちきゅう」は何のためにあるのですかというふうなことを――船の「ちきゅう」ですけど、何のためにあるのですかということを語るときに、人類未踏のマントルへの挑戦という言葉がよく言われます。でも、そんなことはサイエンスのテーマではないと私は思います。第1期、第2期のIODPの科学計画でも、ほぼそれに近いような科学的プランでしかない。これまで掘ったことがないAというようなモデルかBというモデルか、それを掲出しなければいけないというような、ある意味で未成熟なサイエンスプランであったと。そういうふうなサイエンスプランであると、なかなか大きなプロジェクトを前へ進めていくという原動力にはならないというふうに私たちは十分に経験したと思います。
 翻って、当初我々が考えた大陸形成であるとか白亜紀の温暖化というのは、なかなかよくできたサイエンスプランであったと私は今思っています。ですから、こういうふうなことを反省点にして、全体的な科学ロードマップで個々の成果を着実に上げながら全体としてサイエンスを深化させる、深くさせる、それからエボリューションさせるという手法が今後我々がやっていくことではないかというふうに考えています。例えば、地震発生帯の掘削に関しても、技術的な課題と併せて掘削としてはどこまでをターゲットとするのか。それと、ほかと組み合わせてどうするのかということが今後議論されるのではないかと思います。
 これらのことをまさに表したのが、最後に示してあるJ-DESCが示しているプランだと思っています。「ちきゅう」はもちろん、あと何年か、退役までは大いに今後活用することを考えつつ、我々がやはり真に世界をリードするテーマは何であるかということを、我々ももちろんこれまで真剣には考えてきたんですが、これまでの反省も踏まえて、例えば世界一の変動帯、火山と地震が密集する変動帯日本にいる我々が、しかもそれらが海域で生じるというようなところで暮らしている我々が、一体何をすればこの変動現象の理解につながるのか。それから、そういうふうな理解に伴って、ダイナミックな地球――これはアースのほうですけど、ダイナミックアースのエボリューションというものをどういうふうに理解できるかと。そういうふうな包括的なサイエンスプランを綿密に立てること。それに合わせた掘削計画、インプリメンテーション計画を立てることが重要だというふうに私は痛感いたしました。
 以上です。すごく長くなりました。すみません。
【川幡主査】  どうもありがとうございます。巽先生、16分です。平気ですよ。まだ4分ありますので、話し足りないことがあったら、どうぞ。
【巽委員】  じゃあ、質問にお答えすることにします。
【川幡主査】  質問、コメント、お願いします。ありませんか。
 今、発言の中で、うまくいかなかった部分、もちろん船を運航する予算の問題はありますけど、2個目、学問というのをもうちょっときちっと詰めてからというのをきちっとやるのが改善策ですよというお話だったと思います。マントルについて、マントルは行ったことないから掘るといいんだという話がいろんなところであったから、何か浮ついちゃってサイエンスの詰めが甘かったんじゃないかとかいうふうにも取れたような感じがしましたけど。
 マントルについてはまた別途議論しますが、今日、鈴木先生の御発表の中に、オーシャニッククラストを掘ったコアの長さとか何かありますので、そこのところでちょっと504Bについては私がコメントしたいと思いますので。
 ここで。皆さんご質問ありますか?何か質問しにくいですかね。窪川先生、お願いします。
【窪川委員】  では、私から。巽先生、どうもありがとうございました。先生の、日本は海域の火山密集帯で非常に危険な状況にある。これは大変なことでというのは大変感銘深くいろいろなところで読ませていただいております。
 質問は、私、多分この中で一番の素人で、一般的な質問で大変恐縮なんですけれども、科学目標、4つ掲げていらっしゃるんですけれども、これが当初、「ちきゅう」を開発、建造する、あるいは科学目標に対してこれが必要であるという、そういう目的に対してこの4つというよりも、実際にプランを具体的に進めていく上でこの4つを重点的にやろうということになって、それぞれに対して具体的な成果を今御説明いただいたのかなと思っているんですけれども、そうすると、4つもある中で、先生からこの部分がまだ到達していないとか、この部分はここが不足しているという非常に具体的に細かくお話をいただいたんですけれども、この4つというのは、それぞれが関連するというお考えでということよりも、やっぱりばらばら――ばらばらというか、その全体像ということは、先生のお考えではどのように4つの目標を捉えていらっしゃるかということをお伺いしたいと思いました。
【巽委員】  御質問ありがとうございます。お答えします。まず、簡単にお答えしますと、4つは決して独立したものではなくて関連しているものです。先ほど御説明しました通り、科学的なテーマが、我々はそれなりに能力の限り頑張ったんですけれども、不十分であったという認識に今至っているわけですが、その最大の要因は、4つのテーマを結びつける一つのストーリーを頭の中につくることができなかったということだと思っています。ですから、そういう意味で、2010年、文科省へ提出した書類というのを先ほどお見せしたと思うんですけれども、あの図は私の頭の中では比較的よくできているので、それぞれを関連させることに成功しつつあったというふうには思っています。ですから今後、日本が世界をリードしていくときには、サイエンステーマのこの部分でリードするというものではなくて、それぞれのテーマ、それから掘削以外の検討方法のデータ等も全て包括的に取り組んだ上で、世界をリードする方法は何かということを考えることが重要なんだろうなと。考えてみれば当たり前のことなんですけど、なかなかやってみると難しいというのが私の実感でございます。
 以上でよろしいでしょうか。
【窪川委員】  ありがとうございました。よく分かりました。
【川幡主査】  鈴木先生、お願いします。
【鈴木委員】  「ちきゅう」ができて17年たって、ちょっと計画がずさんだったんじゃないかというのは少し残念だなというふうに思って聞いていたんですけれども、それで、今後の実績総括として、今後に向けてというのを今お話しされたと思うんですけど、重要な課題というのを。これというのは本当にしっかり練られたものなんでしょうか。どういった審査とかどういった部分までしっかり練られたものなのかというのが、ちょっとよく見えてこなかったんですけれども。
【巽委員】  お答えします。決して私はずさんと言っているつもりはありません。
【鈴木委員】  言葉が悪くてすみません。
【巽委員】  ずさんとおっしゃっているのは、私の頭が悪いとおっしゃっていることと同じだと思いますので、それは甘んじて受けることといたしますが、それを経験するということが我々コミュニティにとっていかに大事かということだと私は思います。恐らくそういう発想を我々は持つことができなかったんだと思うんです。それで、そういういろんな、世界をリードするというのは、本当にリードすることは一体何かということを学んできた上で今のJ-DESCのテーマはできているというふうに、少なくとも昨年1年間、このテーマをつくっていく過程を委員会のほうから見ていてそのことを要求してきたつもりですし、そういうふうなことはコミュニティの中で議論されているというふうに理解していますし、今後も議論されていくというふうに理解しています。それでよろしいでしょうか。
【鈴木委員】  はい。すみませんでした、言葉が。
【川幡主査】  鈴木先生の御発表の中に、蛇紋岩のことが書いてあるじゃないですか、水素発生。
【鈴木委員】  そうですね、はい。
【川幡主査】  要するに海底で熱水噴出孔が見つかったよとかということを含めて、例えばそれが生物というもので水素と酸素、酸化してエネルギーを得るという意味では重要じゃないですか。水素が直接。そういう生命の概念にとかいうところまで全部総括して、それが地球というのと生物と云々という形でポンチ絵がきれいに描けるようなそんな形の学問、そういうのをきちっと最初から詰められてやっていれば、ずさんにならなかったかなというそういう話で。だと思いますよ。生命のほうはみんなすばらしくよくやっていると思うのでポジティブだと思うんですけど。今、ずさんというキーワードが出てきたのでちょっと言っただけで、それ以上ではありません。と御理解ください。
【鈴木委員】  これまでのというよりも、今後これが本当に世界をリードするクエスチョンなのかというところは、かなりしっかりと議論されるべきところだなというふうに感じているということです。
【川幡主査】  そうですね。電子受容体云々といって、生命というのと電子受容体がどう働いているのかとかいうところまで消化できると、それで掘削でそこを調べるんだというと、もっと世界をリードする突破口になりますよとかいう、そういう話が巽先生のお話じゃないかと思いました。
 ほかにありますでしょうか。またおのおののテーマで戻ってきますので、そのときでもいいですかね。
【大土井課長】  ちょっと1点だけ。
【川幡主査】  どうぞ、どうぞ。
【大土井課長】  すみません、海洋地球課の大土井です。巽先生、ありがとうございます。1点、「ちきゅう」が建造される前、この分野の先生はどういうふうな研究をされておられたんでしょうか。あるいは、「ちきゅう」ができてからこの分野というのが起こったというか、そういうふうに理解したほうがよろしいんでしょうか。
【巽委員】  私は全ての方のお答えをすることはできませんけれども、少なくとも私、それから私の周囲の中で、それまで海洋掘削科学にあまり貢献していなかった、もしくは参加していなかった者が、「ちきゅう」ができたことによって、それを使うことによって新しい道が切り開ける可能性を十分に感じて、かつそれは我々だけではなくて、文科省もJAMSTECもきっと感じたからこそIFREEと言われる組織をつくって、そこで世界の固体地球科学をリードしようという道へ走ったんだと思っています。ですから、そういう意味で、「ちきゅう」が果たした役割というのは非常に大きなものであるというふうに、起爆剤としての「ちきゅう」としての役割はすごく大きいと思います。
【川幡主査】  阪口先生、お願いします。
【阪口委員】  海洋政策研究所の阪口です。巽先生に教えていただきたいんですが、先ほど鈴木委員から17年という時間的な数字が出たと思うんですが、巽先生の最後の結論のほうでは、全てがうまくいったわけではないですという謙虚なお言葉があったと思うんですが、どの辺でうまくいってないということに気がついて、どういう修正が途中でかけられたかということに少し興味があります。17年ずっとうまくいっていると思っていて、気がついたらうまくいってなかったというわけではないはずなので、どの辺でちょっと立ち返る必要があるなとコミュニティは感じ、そのときにどういう措置が取られたかということをもし御存じだったら教えてください。
【巽委員】  阪口さん、ありがとうございます。それにお答えできるのは1つあると思います。それは、実は先ほど、2010年に文科省に提出したポンチ絵というのをお見せしました。あれは、それまでの第1期のIODPの中での反省を十分に踏まえた上で、言葉はなかなか難しいんですけれども、南海掘削をこのままずっと続けていくことだけでいくと、なかなかそのほかのサイエンスを展開して日本が主導できる掘削科学、もしくは地球惑星科学を主導できるようにならないのではないかという思いがあったので、2014年までに南海掘削は終了して、その後はこういうテーマに変更して傾注していくということを述べたものです。日本学術会議でもこの話はしています。ですが、そこから先は私は分かりませんが、現実的にはそうはならなかったというのが事実です。ですから、これは非常に大きな反省点だと思いますし、先ほど申し上げたこのポンチ絵は、いろんなサイエンスチームをまとめ上げるということを念頭に置いたポンチ絵ですので、そういうことも含めて、なぜこうならなかったかということは考えておく必要があると思います。
 以上です。
【阪口委員】  ありがとうございます。
【川幡主査】  阪口先生、いいですか、それで。
【阪口委員】  追加質問していいですか、今のことに関係して。
【川幡主査】  はい。
【阪口委員】  これは私の全くうがった見方かも分からないので、間違っていたら修正していただければと思うんですが、今、巽先生がおっしゃられた南海掘削一直線ではということが議論されたということは、関係者はよく記憶していると思います。ただし、予算をより効率的に取るためには、防災という単語を入れる。2011年に我が国に甚大な被害があったということも踏まえると、防災という単語を入れると予算が取りやすいということでそっちに向きがちだったと私は思うんですが、その辺の真意はいかがでしょうか。
【川幡主査】  どなたが答えられますかね。
【巽委員】  では巽が分かる部分は巽がお答えして、ほかのことはほかの方にお答えいただくとして、今おっしゃったことはまさにそうだと思うんです。ですから、2014年でやめると言っていたのがやめなかったのは、最大の理由はそこにあると私も理解しています。ただ、ということは、一体、裏返すと何かというと、南海掘削以外、我々は「ちきゅう」の運用に関して、国民及び行政、政府を十分に納得させるような科学的なテーマを持っていなかったということになります。そこが私の反省点の全てだというふうに申し上げたつもりです。ですから、人類未踏のマントルではなくて、ダイナミックな地球を知るためのこういうテーマですということを出されていなかったことへの反省です。
 以上です。
【阪口委員】  ありがとうございました。
【川幡主査】  よろしいでしょうか。では、おのおののテーマについてまた深めていきたいと思いますので、よろしくお願いします。巽先生のところ、全部で30分で終わりました。
 では、次、小原先生、お願いいたします。
【小原委員】  東大地震研の小原でございます。
【川幡主査】  すみません、先生の時間、10分程度でお願いできればと思います。
【小原委員】  分かりました。私からは、資料に書いてありますように、防災・減災という社会的視点から見た海洋科学掘削の実績について紹介したいと思います。話の流れはそこに書いてあるとおりですけれども、10分なのでかなり飛ばしながら進めていきたいと思います。
 まず、掘削の防災・減災に対する意義についてとてもざっくり言うと、この図にあるように、巨大地震は特に海の領域で発生しますので、その発生場を掘削することで巨大地震を直接理解する、それが防災・減災に貢献するというふうに考えられるということです。
 防災・減災への貢献といってもいろんなことがありますけれども、私のプレゼンの中では、特にここにもありますけれども、国の防災計画とか施策に活用・反映されることをイメージしています。つまり、地震活動の現状評価であったり、大地震の長期評価、あと地震動予測地図、緊急地震速報などに活用されることをもって防災・減災への貢献というふうに考えたいと思います。そのような観点で掘削の成果がどのように防災・減災に貢献したかについて、個別に次から紹介していきたいと思います。
 まずは、掘削試料を用いた物質科学的な成果について幾つか紹介したいと思いますけれども、このスライドは、南海トラフの海底堆積物の掘削によってタービダイトという巨大地震の痕跡を調べたもので、過去数万年間に約200枚のタービダイト層が確認されたと。ざっくり平均すると200年ということになりますが、今後その年代決定を進めていくことによって、これまでにない非常に長期間にわたる地震の履歴情報が得られます。これは文科省などが進めている地震発生の長期評価に大きく貢献するものです。
 これは巽先生の図にもありましたけれども、海底火山の掘削によって、過去10万年間の大規模噴火履歴が解明されたというもので、これも今後の大規模火山噴火予測に貢献するものであります。
 東北地震の発生直後に、その地震を引き起したプレート境界断層を掘削して、その地震断層からコア試料の採取に成功しました。あわせて、断層運動で生じた残留摩擦熱の直接計測にも成功したということで、これらはそこにありますような3つの重要な発見に基づいて、プレート境界断層浅部では地震性滑りは起きないというこれまでの常識を覆す非常に重要な結果が得られたということで、地震発生予測や強振動評価にも貢献するというものです。
 先ほど述べたような海溝軸付近まで地震性の高速滑りが起きていたという証拠については、東北地震の直前に、このように南海トラフでも得られていたわけで、この結果が、南海でもマグニチュード9という可能性が評価されたということに貢献しているということになります。
掘削と同時に行う検層によって、海溝付近の地下の力学的特性や状態が把握できたということで、これも地震発生予測へ貢献するというものになります。
 次から、孔内観測による地球物理学的成果について紹介したいと思いますけれども、紀伊半島南東沖では、我々が2005年に浅部の超低周波地震というスロー地震を陸域の観測網による研究によって発見したわけですけれども、その後、ほかのスロー地震、低周波微動とかスロースリップイベントが同時に起きているだろうというふうに予測していたところ、2017年に、この図にありますように、長期孔内観測装置のDONET接続によって、スロースリップイベントの直接検出に成功しました。しかも、一番右側にありますように、超低周波地震の積算モーメント変化とスロースリップによる間隙水圧の変化が定量的に一致しているということから、一連のスロー地震が共通したプレート境界断層滑りによる現象であって、深部のスロー地震と同様のメカニズムで起きているということが証明されたという、これは非常にサイエンティフィックな成果でもありますけれども、それらは地震発生予測や強震動評価にも貢献するといった成果になります。
 孔内観測によってスロースリップイベントが検出されていますので、そのモニタリング結果については、常時、気象庁などの委員会に報告されています。その定例報告の蓄積が、その都度発生する現象の現状評価に非常に重要な貢献を果たしていると言えます。さらに、長期孔内観測装置以外の海底傾斜計でもスロースリップイベントが検出されていますので、こういったセンサーの多点設置によって、よりモニタリング精度が向上することが期待されると思います。
 そのほか幾つか関連した成果についてここに挙げていますけれども、ちょっと時間がないので説明は省きますが、いずれも孔内観測によって成果の向上が期待されるというもので、こちらは地震発生シミュレーションによるシナリオ構築、その次のスライドがプレート境界固着状態の把握、その次が、3次元地下構造の精度向上によって、地震活動の評価のクオリティがより向上するといったものになります。
 以上、これまで科学掘削による成果とその貢献を説明してきましたが、これまでに達成できていないことをまとめてみますと、南海トラフにおいては、プレート境界に掘削が達していないということで、プレート境界断層の掘削コアの採取や掘削同時検層ができていないということです。プレート境界付近での長期孔内観測もできていない。これについては、日本海溝付近でも同様になります。
 これらができれば、真ん中の列にありますけれども、プレート境界付近の物質の特定や摩擦特性、応力状態などが解明される、それができることによって、強震動予測や地震発生の長期評価の高度化が期待されるというものです。また、震源近傍でのリアルタイムモニタリングが可能になれば、地震発生に至る準備過程や直前過程、さらには直後の過程を示す重要なデータを高精度で検出できる可能性があるということになります。
 それで、今後の期待として幾つか紹介したいと思いますけれども、現在、既に説明しましたように、DONET1の領域では孔内観測を実施中です。それに加えて今後、DONET2や日向灘にこれから整備されるN-netの領域に合計3か所の孔内観測装置を設置するという計画が今進められています。これができれば、広域にわたって固着の状態やスロー地震の発生状況を監視できるということで、それとあとは、それぞれの孔内観測装置周辺にブルーの三角で示した海底地殻変動観測装置も設置予定であるということで、面的に観測がカバーされます。こういった海域観測網の整備というのは、中央防災会議の防災基本計画に沿うもので、また政府系の委員会や自治体への情報提供などを通じて、防災・減災に多大なる貢献を果たすというように考えられます。
 また、アウターライズや南海トラフなどでも計画中であるということで、それぞれプレート内地震やプレート境界地震のメカニズムの解明に貢献するだけでなく、それらの地震の発生可能性の長期評価、強震動評価にも貢献するというように期待されます。
 それから、東北地震と同様に、どこかで巨大地震が発生した場合の直後の緊急掘削というのは、その地震のメカニズムの解明だけでなく、次に起きる巨大地震に備える上でも重要なことと考えられています。
 以上をまとめて、紀伊半島南東沖について実績を総括すると、長期孔内観測装置のDONET接続によってスロースリップイベントが検出されて、リアルタイムモニタリングが可能となり、それで常時、政府系の委員会等に報告されて、現状評価については非常に大きな貢献を果たしています。また、掘削コアの解析によって地震発生の長期評価、強震動評価にも貢献しているというところであります。
 次が最後のスライドになると思いますが、これをまとめますと、掘削によるコア試料や同時検層、それから長期孔内観測によるデータというものは、まずは地震・火山現象の解明や予測といった基礎的な研究の発展に非常に重要であるとともに、それらの研究成果を活用して行政機関が防災・減災の施策を展開します。同時に、長期孔内観測のリアルタイムモニタリングについては、国の現状評価、それから将来統合評価についても大きく貢献するということが言えると思います。
 私からは以上になります。
【川幡主査】  どうもありがとうございました。まず、質問やコメントありますでしょうか。
 窪川先生お願いします。
【窪川委員】  小原先生、ありがとうございました。1か所だけ質問ですけれども、南海トラフのプレート境界まで達する掘削を進めていたことは記憶に新しいですが、当初の目的は、やはり境界まで達することが大変重要だという、それによる防災・減災への、あるいは地震の基礎的な、科学的な知見の充実というところを最大限の重要視されていたと思うのですが、今後といいますか、南海トラフの、そうすると方向転換といいますか、例えば掘削の箇所を増やすとか、何か対処ということはあるのでしょうか。未完で終わってしまって、多分、先生が一番悔しいと思っていらっしゃると思うのですが。
【小原委員】  それは私が答える立場にあるのかどうかちょっと分からないんですが、もちろんプレート境界まで達するということを当初の目標にしていたと思います。それはもちろん、実際に地震が発生する現場でのサンプルを取ることによって、そこでの摩擦特性であるとか、滑りがどのように発展してどのように止まるであるとか、そういうことも含めて実際のデータを取りたかったということもあろうかと思いますけれども、その途中のサンプルを使ってもいろいろ、分岐断層の特徴であるとか、そういうことはある程度分かってくるとは思いますので、そういった意味で、本来であれば当然プレート境界のコアサンプルを取得したかったけれども、それなりの成果は一応出たということになるかと思います。
 私的にはもちろん、技術的なところは何とも分からないので、少なくとも私の立場というか、研究者、それから地震の解明を進めたい立場としては、とにかく多点でプレート境界に達することが非常に望ましいけれども、そうじゃない部分でも、多点でのサンプルを取得して不均一性も含めた状況を明らかにするということと、あとはその掘削孔に孔内計測装置を設置してモニタリングの精度を高めることが非常に重要だというふうに考えています。
 すみません、直接の答えになっていないかもしれませんが。
【窪川委員】  いえ、よく分かりました。ありがとうございました。
【川幡主査】  どうもありがとうございました。掘削孔を使って発展的に減災に結びつけるというところかと思いますが、一方で、先生のスロースリップのご研究も含めて理論、科学的な知見から深く理解して将来を考えるというのがうまくいっていたかなと思っています。
 あと、東北のほうは、実際に境界断層までちゃんと掘削して、摩擦熱なんていうのが本当にあったというのは僕、計れたのはすごいなと思っていて。
【小原委員】  驚きですね。
【川幡主査】  摩擦してるんだよと授業でみんな言うけれど、「本当に熱いの?」 と言っていたら、実際に計測したら熱かったので、ちょっと感動したんですよ。個人的ですけど。すばらしいなと。
【小原委員】  1年後でどうなっているのかなとはちょっと思いましたけど。でも、僅かに温度が上がっていましたから。
【川幡主査】  あの掘削、Jim Mori先生に聞いたら、やるときに100%本当にできるかという自信はなかったと言っていて、実際にJAMSTECさんのほうも、技術、完璧かと言われたら開発の余地があった。それを1年間で詰めて、どうにか大深度のところどこまでたどり着いたという意味では、技術者と科学者が共同して成功したいい事例かなと、そのように私は思いましたけど。
 ほかに。では、また質問があったら戻ってくることにして、次に行きたいと思います。
【小原委員】  ありがとうございます。
【川幡主査】  小原先生、どうもありがとうございました。
 次は、石井先生です。石井先生、10分でお願いできたらと思います。
【石井プログラムディレクター】  分かりました。よろしくお願いします。石井でございます。内閣府のSIP海洋プログラムでは、文部科学省から一方ならぬ御支援をいただき、また本日、このような資源を中心とする社会的視点でSIPプログラムにおける「ちきゅう」の存在につきまして、報告の機会を賜り、厚く御礼を申し上げます。
 また、委員の皆様には、御多忙中にもかかわらず、事前に私どものプロモーション動画と「ちきゅう」の役割の動画を配信させていただき、御覧いただきましたことにも厚く御礼を申し上げます。
 内閣府のSIP第2期の革新的深海資源調査技術プログラムは、2014年からの第1期での海底熱水鉱床を主な対象とする成果を活用しまして、2,000mより深い海域での資源の調査や、回収技術を世界に先駆けて確立・実証することを目的としております。特に日本の排他的経済水域EEZに位置します南鳥島沖の深海にはレアアース泥の濃集帯が存在し、中国の南部に偏在する重希土類を多く含み、放射性物質もほとんど検知されないレアアースであることが判明しております。世界のレアアースは中国に偏在し、分離・精製も含めたサプライチェーンは中国に大宗を依存しており、レアアースの安定供給の確保は極めて重要な資源戦略になっております。そのための研究計画を大きく4分野に分けて進めております。
 SIP第1期では、2,000mより浅い沖縄トラフ海域の熱水鉱床を中心に展開しましたし、第2期では、2,000mより深く6,000mまでのコバルトリッチクラスト、レアアース、マンガンノジュールを目標に南鳥島のEEZ海域での調査研究を展開しておりますが、いずれの調査におきましても、大深度掘削船「ちきゅう」が調査研究の中心的な役割を担ってきております。
 昨年3月までに南鳥島沖のレアアース概略資源量評価を完了しまして、過去のJOGMECによる資源量調査を大きく上回る規模のレアアース資源の存在を明らかにしました。これによりまして、鉱区設定等の産業化を目指した資源量評価を行いますが、レアアース泥には高機能磁石に不可欠なネオジム、ジスプロシウムなどの重希土レアアースに富み、有害物質をほとんど含まないため、一日も早く日本における低コストの精錬・精製方法を開発しまして、最終製品への利用のための技術開発が求められております。
 SIPプログラムの全体計画概要でございますが、左側からレアアースの概略資源量評価、隣の調査効率を飛躍的に向上させるAUVの隊列制御技術、そして深海ターミナル技術開発、右端の海洋環境監視技術に加えまして、右から2番目のテーマ2-2の深海生産技術としての世界初の「ちきゅう」によります6,000mからの解泥・採泥・揚泥技術の開発でございます。第2期の出口目標といたしましては、まずは3,000mからの解泥・採泥・揚泥技術の確立を目指しております。
 水深6,000mからレアアース泥を回収する技術を目指し、既に「ちきゅう」を使いました6,000mからのレアアース泥生産システムの基本設計を完了させております。それに基づき、今年の8月には、シンガポールで製作完了しました65トン/日の解泥機にて、3,000mの海底から揚泥試験に挑戦いたします。「ちきゅう」によります3,000m海域でのこのような揚泥試験は世界初の実証試験でございます。特に世界の海洋における石油・天然ガスの生産実績は、ブラジル沖の3,000m海域での実績が最新技術とされておるわけでございます。
 SIP第2期では、レアアース生産のために新たに設計・製作しました揚泥管や各種ツール等のハンドリング試験を昨年の9月に「ちきゅう」号を使いまして実海域で実施し、各機器の性能・機能・健全性を確認いたしました。特に、従来の石油・天然ガスの資源開発とは全く異なる海外で製作しました装備品でしたので、「ちきゅう」での揚泥性能の確認試験は非常に重要な位置づけを持っておりました。
 東京から1,900mも離れた遠隔地の南鳥島海域の水深6,000mから粘性の高い泥、レアアース泥を回収するために必要とする装備や能力は、「ちきゅう」の保有する装備能力を十分活用させていただいております。このため、新たなる追加装備としては、英国、フランス、ドイツにて製作しました軽量の揚泥管であるライザーパイプと、オーストラリアにて製作しました浮力体、そしてシンガポールにて製作しまして今月初めに日本に到着しました解泥・採泥のプラントの開発・製作だけの新たなる追加装備で水深6,000mのレアアース泥の生産(回収)技術の確立を目指すことができております。
 このSIP第2期の進捗を受けまして、現在、来年の4月から、5年間のSIP第3期課題候補が内閣府で検討されておりまして、我々海洋プログラムからも、海洋経済安全保障プラットフォームの候補枠にて、「ちきゅう」を使いました南鳥島海域のレアアース泥の産業化と、同じ南鳥島の排他的経済水域EEZに位置します拓洋第5海山への「ちきゅう」を使いましたCO2の大量貯留の可能性を追求する基礎調査研究の2本の主要目標を提案中でございまして、これからプログラムの研究計画策定のための事前フィージビリティースタディに入ろうとしております。
 特にレアアース泥の生産システムでは、今年の8月には、世界初の3,000m海域から揚泥量65トン/日の揚泥試験を行いますが、6,000mに到達するにはまだ残りの下部揚泥管3,000mの製作が行われておりません。今後早急に「ちきゅう」を使うという前提条件の下で、残りの下部揚泥管3,000mの予算の確保と早急な製作が求められている状態でございます。
 最後のページをお願いします。左下に記載のように、アイスランドの玄武岩層CO2貯留試験におきまして、95%以上のCO2が2年以内に鉱物化することが確認されておりまして、日本でも海洋玄武岩海山を利用したCO2の貯留・固定化のための可能性を追求する基礎調査研究も同時に進めてまいります。
 以上がSIPプログラムとして、「ちきゅう」を使いました現在までの到達点と、第3期に向けました提案中の「ちきゅう」の使用を前提としました計画概要でございます。このように、今後のSIP目的の達成のためには、「ちきゅう」は不可欠な存在として今後も社会的な役割を担っていくと考えております。
 また、参考資料として、次のページでございますが、現在、経済産業省で検討が進められておりますCCS長期ロードマップ検討会の資料の一部でございます。経済産業省は、2050年のゼロエミッション達成に向けまして、毎年12本から24本のCO2の圧入用の井戸を掘削し、2050年度からは、毎年1.2億トンから2.4億トンのCO2を地中貯留するとの目標を6月までに決定されようとしております。この点でも深海掘削リグの「ちきゅう」の役割は、南鳥島拓洋第5海山と同様に、我が国の周辺海域でのこれからの海洋CCSにおいても極めて大きな役割を発揮するものであると考えております。まさにこれから「ちきゅう」は、レアアースを中心とする海洋鉱物資源開発への貢献だけではなく、我が国における地球温暖化対策の切り札としての海洋CCSにも貢献する社会的な存在として今後の役割がますます期待されると考えております。
 次の参考資料2でございますが、カーボンニュートラルにおきまして、日本のレアアースの輸入相手国、埋蔵量、生産量等を記載させていただいております。
 最後のページでございますが、レアアースの国内法整備につきまして御覧ください。現行の鉱業法では、レアアースは鉱物の定義には記載がないため、SIP第2期では、レアアースを鉱業法上の鉱物として規定していただくように経済産業省へ働きかけ、その結果、経産省は、左下に記載してありますように、我が国のEEZ内でレアアースが確認され、今後商業的に開発される可能性が出てきている実態に鑑み、資源を適正に管理し、レアアースの国内生産を円滑化するため、鉱業法の適用鉱物にレアアースを追加するとの法案提出理由にて、現国会で法案審議が今まさに衆議院を通過した状態でございます。この法律改正によりまして、6,000mの深海からのレアアース資源開発での「ちきゅう」の役割は一層脚光を浴びることになると考えております。
 以上が私からの御報告でございます。
【川幡主査】  どうもありがとうございました。質問を受けたいと思います。
 これは枠組みからいくと、直接の科学掘削ではないんですか。科学掘削なんですか。
【石井プログラムディレクター】  科学掘削という規定もできますし、また鉱業法で鉱物になっておりませんので、ですから、あくまでも科学掘削的な考え方で今は進めておりますが、鉱業法になりますと、今後は資源の開発技術という形の位置づけになってくると思います。
【川幡主査】  分かりました。質問ありますでしょうか。
 これから電気自動車の社会とか何かになると資源がより偏在する。今、石油とか石炭とか、あとはガス、LNGとかよりもはるかに数少ない国で80%を占めてしまうとか、さっき言われた資源安保というのが重要になってくるというのは日経にも大きく書かれていますのでいいと思うんですけど、私からちょっと質問しますと、いつもコストが書いてないんですよ。その辺りはどうなんですかね。例えばの話をします。メタンハイドレートだと大体、今、石油が1バレルでしたっけ、あれで100とか何かで高いとか言っていますけど、メタンハイドレートは200ぐらいとかいって、2倍ぐらい。実際に将来石油がなくなってくるともっと上がるから十分かなと思うんですけど、大体、お値段からいくと何倍ぐらいなんでしょうか。
【石井プログラムディレクター】  現在、レアアースの値段がこのウクライナ戦争を契機としまして、中国における主要価格が、レアアースの1トン当たり数千万円という値段がつき始めてきております。中国で今採掘している現場が南部のエリアの鉱山地帯でございまして、ここが減退してきております。今、主要な部分は、ミャンマーの国境地帯で、ミャンマーから輸入して、いわゆる中国製のレアアースとして販売しているというのが実態でございます。そういう意味では……。
【川幡主査】  いやいや、これで開発した場合、最初は高くていいんですけど、大体何倍ぐらいなんですか、海底から出したとき。
【石井プログラムディレクター】  この2月に、まだ3,000m、6,000mの生産試験をしていない段階なんですけど、シミュレーションしまして、大体、去年の値段の2.5倍から3倍ぐらいの値段で私どもできると。今、急騰しておりますので、もう既に手の届く範囲に来ているのではないかと思っております。そのためには、まず「ちきゅう」を使いまして揚泥して、それを南鳥島の島状、三角の島状のところがあるんですけれども、ここに今、航空自衛隊と、それから海上保安庁が使っておりますが、ここのエリアに敷地を確保しまして、そこで製錬・精製をして供給してくるという形のサプライチェーンを考えておる次第でございます。
【川幡主査】  どうもありがとうございます。ということだそうです。
 ほかにご質問、コメントありますか。
【黒田准教授】  私もいいですか、発言して。
【川幡主査】  お願いします。
【黒田准教授】  ありがとうございました。アイスランドのCO2貯留のお話をされていましたけれども、アイスランドのように、陸上でCO2固定化するのと、それからオフショアですかね、平頂海山でCO2固定化するのは、陸上に対する利権があるんですかね。
【石井プログラムディレクター】  やはり玄武岩海山という形のほうが、海水との科学変化で2年ぐらい後に鉱物化するという、石灰化するというほうが大量貯留にはふさわしいという状態。同時に、陸上はやはり1億トン、2億トンという規模で貯留しますと必ず漏えいの危険性がある。それからまた、地上権者に対するいわゆる財産の低下につながるとかといういろんな反対運動も起きてまいりますので、やはり拓洋第5海山のような大きな平頂海山で、これは海底面から5,500mの高さがありまして、平頂部分は神奈川県の大きさがあります。このぐらい大きな海山であれば十分、1,000億トン規模の貯留ができるという考え方で基礎研究に入りたいと思っています。
【黒田准教授】  ありがとうございます。
【川幡主査】  では、次に2-4を説明していただいて、それから全体に関する意見交換を実施します。2-4は20分でお願いします。
【石井委員】  石油資源開発の石井でございます。技術的視点という観点でご報告いたしますが、今までの科学的アカデミックなご発表と比べるとかなり掘削のテクニカルなところもあるかと思いますが、ご了解ください。
 海洋科学掘削、深海地球ドリリングにおける「きちゅう」の当初の目的は何だったのか、現状はどうなのかという切り口でまとめております。
 当初の目的は何だったのかは、第1回の委員会の付属資料として頂いた3つの報告書、深海地球ドリリングの事前報告書と中間報告書と第二次中間報告書、これらの報告書で概要を整理いたしました。事前報告書は「ちきゅう」建造前の評価報告書です。ページ2のスライドの①、②にありますように、これまでの深海掘削の限界つまりジョイデス・レゾリューション号によるライザーレス掘削の限界、これらの限界を克服するためには、掘削中の炭化水素の噴出をコントロールすること、崩壊をコントロールすることであり、よってライザー掘削が可能な掘削船が必要であることが提案されています。スペックとしては、ライザー長は2,500m、最終目標は4,000m、掘削深度は海底面下7,000m、Dynamic Positioning System(DPS)による定点保持。そして、大規模な研究室を併設することが記載されております。総括としましては、水深2,500mから開始して、水深4,000mを目指してステップ・バイ・ステップで取り組むことは妥当と評価されております。この時点より水深4,000mという目標がしっかり記載されております。
 スライドページ3にて、「ライザー掘削とは」のおさらいをさせていただきます。皆さんご存じかと思いますがが、簡単に述べますと右図にございますように、海中をライザーパイプにより海底と掘削船をつなぐことによって陸上と同じ環境下をつくって掘削するという方式でございます。海底面に噴出防止装置(サブシーBOP)を設置することで孔井からの天然ガス、石油が噴出したときにコントロールできる掘削方式です。
 一般的な大水深ライザー掘削の技術課題もまとめております。枠の中の上から2つのポイントは大水深ライザー掘削の掘削船の特徴となります。下の3つのポイントは、大水深環境特有の掘削に係ることであり、掘削するロケーション毎に地下環境が異なるため、地下の温度、圧力、応力の推定を含む様々な検討を行い、リスク分析をしっかり行った上での掘削計画が必要であるということです。
 報告書の振り返りに戻ります。スライドページ4に記載のとおり、中間報告書は、「ちきゅう」が建造され、試験航海が終わった時点。第二次中間報告書は、南海掘削のEXPの338の前の時点での報告書です。中間報告書では、当初の計画どおりの掘削船が建造されたと評価されており、またコメントとしては、水深4,000mでの大水深掘削を世界に先駆けて取組むべきと記載されています。
 第二次中間報告書においては、南海掘削の実績もあり、強い海流、厳しい海象条件下で稼働できる掘削船となったこと、また、メタンハイドレート、微生物の取得もできるコアサンプラーが開発できたことを評価しております。
 コメントとしては、やはり目標とする水深4,000mのライザーシステムの開発に取組む必要があると記載されております。
3つの報告書全てが4,000m級のライザーシステムの開発、つまりマントルへの掘削ということに焦点が当てられているものと考えます。
 「ちきゅう」建造前の事前報告書では、水深4,000mを目指してステップ・バイ・ステップで取り組むという記載もありました。4,000m級のライザーというのは、当然ながら産業界での開発、その動向を見ながら取り組むべきと考えておりますので、産業界の動向を振返ってみます。「ちきゅう」の建造時から現在までを振返ります。
「ちきゅう」は2001年に建造が開始されて2005年に完成しています。スライドページ5では、その頃のことをまとめています。産業界では優良な資源、つまり資源量が豊富で、開発が容易で、地理的に優良な地域的。このようなフィールドへのアクセスが困難な状況となっていました。イメージしていただきたいのは中東です。国営会社の技術力が向上したこと、プラス政治的な理由で、これらの地域で国際的に活動している石油・天然ガス開発会社による開発が難しくなってきたこと、また開発しやすいフィールドが減ってきたことより、開発会社は戦略の見直しをしております。
 戦略見直しの特徴としては、シェールガス、シェールオイルといった非在来型の資源開発、天然ガスを利用したLNG開発、もう一つは大水深の開発です。大水深の開発は巨額の初期投資がかかりますが、巨大な埋蔵量が期待できること、今後の高度な技術力、それに伴って効率化が期待できること、そしてリーマンショックの前の油価は約120ドルという極めて高い環境下でしたし、120ドルという高油価は継続しないものの、将来的にもそれほど下がらない高油価の継続の想定ができるということも追い風となっていました。よって、産業界ではより深い海域でのチャレンジという機運もあり、大水深技術の向上が期待された時代でした。ただし、リーマンショックが2008年に起きており、この影響は油・天然ガス開発会社に大きな影響を与えました。
 国内においては、日本近海やアジアでの開発の可能性を模索しておりましたが、大水深の掘削リグはメキシコ湾、西アフリカ、ブラジルに偏在しており、これらの海域より動員するには調整も難しいし、また動復員費用も非常大きなコストになることから、手が付けられない環境でしたが、日本を母港とする「ちきゅう」の建造はリグ調達の困難さを解決できるため、「ちきゅう」の活用に大きく期待をしておりました。
 もう一つの「ちきゅう」に対する期待は、大水深掘削技術の取得のための人材開発の場ということです。手前味噌で恐縮でございますが、当社石油資源は多くの人材をJAMSTEC殿に出向させて、技術の取得・継承を維持しております。
 スライドページ6は産業界の大水深掘削及び大水深開発における水深の進捗のグラフです。このグラフを見ることにより、大水深技術の進捗つまりライザー長の進歩を確認することができます。緑の線が掘削の水深の進捗を表したもので、赤と青の線につきましては、色によって開発の方式が違いますが、開発した生産設備の水深の進捗です。掘削に関しましては75年から90年にかけて、飛躍的に水深の進捗が見られます。生産設備の建設に関しては、開発への投資が巨額になることより、石油・天然ガス生産が10年-20年という長い生産操業ができることの確認、油価の想定、埋蔵量、生産のための掘削費用、生産設備の建設コスト等技術的な検討と経済性の検討が必要なことから、掘削に遅れること、生産設備の水深の進捗は90年から2000年にかけて飛躍的に進捗しています。ただ、掘削は2000年以降、生産設備は2010年以降停滞しており、2000年から2010年の間で風向きが変わってきたということがよく分かり、大水深技術は停滞していったと考えて良いかと思います。
ちなみに、現在の掘削でのワールドレコードは水深3,400m、生産設備においては3,000mです。
スライドページ7は、大水深技術の停滞の理由をまとめたものでございます。
右図ですが、青い線が油価、青の棒グラフは原油の生産量、赤の棒グラフはシェールオイルのみの生産量になっています。この図より、2008年のリーマンショックにより、油価が約130ドル台のピークから40ドル台に急激に下落したこと。これに加え大水深開発に大きな影響を与えたのは、2010年のメキシコ湾で起きた掘削船Deepwater Horizonの事故です。掘削船は沈没し、噴出防止装置がうまく機能させることができなかったことより、大量の原油流出による海洋汚染があったということは皆さんご存じかと思います。この事故により安全の基準が非常に強化されたこと、例えば噴出防止装置等の設備の補強が求められことによるコスト増、また保険料も増大したことで、大水深開発の意欲はこの大惨事で立ち止まったことも事実かと考えます。
 大水深開発に代って2010年以降は、赤の棒グラフにあるシェールオイルの生産量が飛躍的に増加しております。これはシェールオイル革命と言われているものであり、数キロの水平坑を掘る技術の確立、そして水平坑において10段から20段のフラクチャリング技術が飛躍的に開発された結果、開発費用が大きく低減され、シェールオイル開発が急速に拡大しました。2014年、シェールオイルの生産量増加にともなって、OPECはその対抗措置として減産に応じない判断をしたことから、高値で堅調だった油価が大幅に下落し、結果としてシェールオイル開発が制限されたことになりました。
 2015年にはパリ協定による地球温暖化の議論がなされ、脱炭素化の流れが急速に進みました。脱炭素化の流れは石油・天然ガス開発会社にとっては大きな逆風になっております。例えば、2019年に国際金融機関が化石燃料開発への投融資は制限する、もしくは停止することを決定しました。また、欧州の投資家を中心に、カーボンニュートラルが進むにつれ、石油・天然ガスの資産が将来座礁化することを嫌い、投融資を中止、撤退する傾向にあります。
 加えて、2020年からの新型コロナウイルスの蔓延は石油・天然ガス開発においても、逆風となっております。
これまで、産業界の動向を説明させていただきましたが、「ちきゅう」建造時目論んでいました、水深4,000mを目指してステップ・バイ・ステップで取り組む技術開発がなかなか進まない環境に変化してきていたということをご理解いただければと思います。
 それでは、深海地球ドリリング計画において技術面で具体的に求められていたこと、それに対して、現状がどうなっているかをスライドページ8以降でご説明いたします。
スライドページ8は技術面で具体的に求められていたことを整理したものです。1番目として大水深・大深度掘削技術。4,000m級のライザーシステムの開発は必須の技術開発であるということです。2番目としましては、過酷な海象・気象環境下での定点保持技術、ライザーのハンドリング技術。そして3番目は、「ちきゅう」を稼働する上で最優先に考えるべき、働く人たちの安全を守る労働安全衛生管理と環境の保全と整理をいたしました。
 それではひとつひとつ説明いたします。スライドページ9は、大水深・大深度掘削技術に関してです。JAMSTEC殿では、本技術開発に対してTRLの手法を用いて実施・管理をしています。なお、本技術開発は「ちきゅう」を建造当初より開始しております。表の青が達成できたところ、黄色はまだ達成できないというところでございます。これらの技術開発の詳細につきましては、JAMSTEC殿より次回以降、説明があるものと考えております。
 スライドページ10で、現状の進捗に加え自分なりの解釈と評価を記しました。表の中身の詳細、一つ一つはご紹介しませんが、自分なりの解釈のもと総合的な評価をご説明いたします。4,000m級のライザーに関しては、軽量化という観点から進めておりました。CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)つまり炭素繊維を素材として軽量化を目指しておりましたが、協力会社が撤退したことより検討はストップしており、素材変更によるライザー管の軽量化は非常に難しいというのが現状です。現在の深海地球ドリリング計画の時間軸の中では、新たな考え方によるアプローチが必要な段階と考えます。
 次にマントル掘削に必要な12,000m級のドリルパイプにつきましては、高強度のパイプに目処がつき、あとはコアリングシステムに対応するための改良、ドリルパイプ接続時に「ちきゅう」に固定する「スリップ」という機器の規格上の検査の実施のみと考えます。よって、ドリルパイプ開発には大きな課題はないものと認識しております。
 次に、高温度対策用の泥水は地熱井での実績が活用できます。また孔内機器も泥水循環にて冷却をしながらの運用で解決できると考えます。タービン式、硬岩用のコアリングシステムも機器は完成しておりますので、今後実証試験により機器の検証が行われる段階まで来ております。
 続きまして、スライドページ11にて過酷な海象・気象環境下での定点保持技術とライザーハンドリング技術に関してご説明いたします。本技術は南海掘削で既に実績があり、習得済みと判断でき、本技術に関しては大きな成果があったと評価してよいと考えます。具体的に申しますと、右上のグラフは南海トラフにおける海流速度の頻度分布です。一般に産業界では2ノットでも非常に強い海流と考えますが、この海域においては約70%が2ノット以上であり、非常に過酷な環境での船体の定点保持、かつライザーの接続、荒天対策時の緊急離脱が実施されており、世界的にも評価されるべき技術です。事実、産業界でも注目され、本技術を使ってオイルメジャーが東カナダ、ギヤナ沖での掘削に活用されております。また、ライザー挙動のモニタリングシステムにつきましては、海洋掘削の技術、実績を発表する世界的な会議であるOffshore Technology Conference(OTC)にて、新技術の賞を受賞しております。
 本委員会ではライザー掘削技術が議論される場と認識していますが、ライザーレス掘削の技術開発の一部をご紹介いたします。スライドページ12に記載のとおり、ライザーレス掘削の効率を高めるために機器開発されております。幾つかは特許申請がされていると聞いております。1番目保持コアシステムの改良型、2番目は、強い海流の中でドリルパイプの疲労、ストレス、熱劣化を防ぐための海底掘削サポートシステム、3番目はROVの稼働水深を超える水深で使用される、アンダーウォーターTV(UWTV)の開発とUWTV本体を強い海流の中でも安全に降下するためのサポート機器。4番目は海底面下に基礎となるパイプを設置後、連続して掘削できる機器の開発。通常はパイプ設置後、一旦ドリルパイプを船上まで上げて、ビットを取付けて降下、掘削しますが、この作業を省くことができる機器です。
 最後は、「ちきゅう」を稼働する上で最優先に考えるべき、働く人たちの安全を守る労働安全衛生管理と環境の保全に関してです。スライドページ13の右に記載していますが、「ちきゅう」では独自に労働安全衛生、環境を管理するHSE(Health、Safety、Environment)のマネージメントシステムを2003年に構築しております。かつ、2019年には、CDEXと海洋工学センターが統合された時点で全ての船舶を対象とした「安全・品質・事故防止マニュアル」としてマネージメントシステムを改定しております。
 「ちきゅう」に特化したHSQE統合マネージメントシステムは、マネージメントシステムの下にProcedure、Work Instructionと階層別に管理され、本マネージメントシステムは、作業現場である「ちきゅう」のみならず、本社、事務所においても、展開すべく整備が進んでいると聞いています。
 品質、環境に関してはISO 国際標準化機構の認証を取得しております。労働安全衛生に関してはOHSASの18001の認証を取得していましたが、本基準がISOに移行するときに廃止しています。これはJAMSTEC殿のマネージメントシステムで十分管理できるとの認識のもとで、廃止したと伺っており、独自に構築したマネージメントシステムに対する自信の裏付けでもあり、高く評価できるものと考えております。
 左のグラフは実際の災害の記録です。青の棒グラフが休業の災害率、緑の棒グラフは休業と不休いわゆる赤チン災害を含めた災害率です。MQJが「ちきゅう」IADCは世界のDrilling Contractorの業界団体の記録です。「ちきゅう」での実際の休業災害は13年間で4件でした。また、災害率に対しましては、IADCより低いのは確かで良いことではありますが、「ちきゅう」は稼働時間が少なく、1件に対するインパクトが大きいことから、どのように評価するかは難しいと考えます。
 スライドページ14に技術的視点におけるまとめを記載しました。大水深・大深度掘削に関しては、4,000m級のライザーは、現時点で素材変更によるライザーパイプの軽量化のアプローチは困難と考えます、よって、新たな考えのアプローチが必要だと考えます。12,000m級のドリルパイプは達成間近だと考えます。ライザーレス掘削の効率化を目的とする種々の機器の開発も進んでいると評価いたします。
 過酷な海象・気象環境下での定点保持技術、ライザーハンドリング技術は、南海掘削の実績より、確立できたものと考えます。
 労働安全衛生管理、環境保全に関係につきましては、組織的、体系的に管理されており、また継続的に改善を実施していることより、マニュアル及び改善のシステムは確立されたものと考えます。今後もPDCAを回して管理していただきたくお願いいたします。
 最後に、発表の趣旨とは若干異なるとは思いますが、今回色々とJAMSTEC殿、MQJ殿にご協力をいただき、色々と確認をさせていただいた中で、石井として特筆すべきと考えた点を、その他トピックとしてスライドページ15に記載させていただきました。1番目として現在も「ちきゅう」は石油・天然ガス開発に活用できるかどうかという点です。先ほど述べましたように、メキシコ湾の大事故、これは流出油回収、そして坑井封鎖の対策費用として600億ドルを費やしています。メキシコ湾での操業はこの大事故を境に安全基準が強化されており、現在の「ちきゅう」のBOPシステムでは基準を満たしておりません。これはメキシコ湾でのルールですが、掘削船を傭船する側の立場で考えますと最新のBOPシステムを有しない「ちきゅう」の商業掘削への活用はかなり限定されてしまうのでは考えます。
 2番目としては南海掘削に対してです。残念ながら目標深度まで達することができなかった理由は、「ちきゅう」の機械的な能力の問題ではございません。孔壁の安定性を確保できなかったことです。「ちきゅう」以外の掘削船でも同じような状況になったはずです。孔井を掘削するには孔壁をいかに安定させるかが非常に重要です。前回委員会の中でJAMSTEC殿より報告があったように、付加体はほぼ垂直の地層だということで、簡単に崩壊してしまいます。かつ時間とともに孔壁は悪化しますので、南海掘削では天候待機とか台風待機とかありましたので、その間も崩壊は継続することになります。極簡単に言ってしまうと、非常に高度な掘削マネージメントが必要ということと考えます。この一言で済ますのは大変恐縮ではありますが、南海掘削においては、リスク分析を行った上で掘削計画、それから多くのバックアッププランの策定に多くの時間を費やしたと考えますが、結果論ではありますが、今まで以上の検討と周到な準備が南海掘削には必要であったと考えます。
 最後に、3番目として日本初のヘリコプター脱出訓練設備が「ちきゅう」の運航に合わせて準備されています。ヘリコプターが不時着したときに脱出する訓練は、産業界では当然の訓練で掘削船乗船には訓練の認証が必要な会社も多くあります。日本国内にはこのような施設がないことより、マレーシア等の海外で受講するのが一般的でした。簡易的とはいえこのような設備をJAMSTECの水槽で実施されたことは画期的なことと考えます。先に述べたHSEの考え方に則ったものと考えます。その後、そのノウハウを活用して北九州に施設ができ、この施設ではOPITOという世界共通の認証が得られることになり、世界中どの掘削船にも乗船することができるようになりました。よって、石油・天然ガス開発会社のみならず、ヘリコプターが不時着したときに脱出する訓練を必要とする民間会社、そして消防等を含む公的団体からの利用実績があり、その合計は100団体以上となっております。これは見えないところですが、大きな貢献ではないかと考えます。
 以上です。
【川幡主査】  石井先生、どうもありがとうございました。質問、コメントありますか。
 最後のところで、南海トラフの掘削のところ、先生、どの船が来てもちょっと難しかったんじゃないかというふうにおっしゃっていましたけど、基本的には壁面がもろいから、なかなか将来にわたっても困難ですよと、そんな感じなんですかね。
【石井委員】  南海掘削の目的未達の原因は、深度の問題でも、ライザーの問題でもないです。南海を掘削できる機械的な能力という点では、「ちきゅう」は、ほかの大水深リグと同等に持っていますので、「ちきゅう」だからできないということではないです。おっしゃったとおり、地層が立っているので簡単に崩れてしまう。孔を空けた瞬間に崩れるような地層でしょうから、どうやって地殻の応力を抑えていくかというのが一番大切なところかと思います。それを抑えるために泥水にシール材を混入する等いろいろ対策を行ったと聞いていますけれども、結果としてそれだけでは不十分だったと考えます。例えば、ある程度掘ったら孔壁が崩れないようにケーシング等で塞ぐようなことを考える必要があると思います。しかし、なかなか簡単にはいかないというのが正直ところで、かなり技術的にも難しいと考えます。今後南海掘削に再チャレンジするのでれば、過去の状況を再認識したうえで、これまで以上の検討と準備が必要であると考えます。
【川幡主査】  分かりました。JAMSTECさん、何かコメントありますか。ないそうです。では、ちょうど予定では休憩の時間に入っています。皆さんもお疲れと思いますので、いったん5分間休憩したいと思います。今、15時32分ですので、15時37分に始めたいと思います。よろしくお願いいたします。
( 休憩 )
【川幡主査】  15時37分になりましたので、再開したいと思います。
 続いて、地球惑星科学分野の研究開発動向について、ヒアリングを行いたいと思います。古環境・古気候研究分野について、今日は、東京大学の黒田潤一郎先生から話題提供いただきたく思います。それでは、黒田先生お願いいたします。10分程度でお願いします。
【黒田准教授】  10分ですね。このような機会をいただきありがとうございます。大気海洋研究所の黒田と申します。私は、今日は古環境・古気候研究の研究開発動向について、御紹介したいと思います。
 古気候学・古海洋学は、観測とそれから数値モデルの両輪で進める科学です。こちらの観測のほうは、観測機器のない時代を対象とするため、氷床コアですとか、海域海洋堆積物などが、重要な記録媒体となります。こういった古気候アーカイブから昔の気候を知るには、観測機器の代わりになる指標、プロキシを堆積物などから得ることが、とても重要です。例えば、有孔虫の殻は、当時のグローバルな氷床量変動とか、その場の古水温の情報を記録しています。このプロキシはロバストな、堅実なものから、そうでないものまでありますので、適切なプロキシを使って古気候を論じることと、より堅実なプロキシを開発することが、並行して行われています。
 今日のプレゼンでは、この10年間の古気候学の進展について、解説したいと思います。日々、大量の研究成果が出てきますが、幾つかの重要な点を紹介したいと思います。そしてその発展に、この科学海洋掘削が、どう貢献してきたかも評価したい。具体的には、過去150万年間のCO2復元のプロシキ開発ですとか、南極や北極といった、これまで情報の空白域だったところの研究、そしてうんと古い時代、白亜紀などの海洋無酸素イベントや、天体衝突イベントについて紹介したいと思います。最後に、日本の科学コミュニティや、研究ファシリティがどう貢献してきたかを紹介したいと思います。
 この分野、この古気候学にとって、CO2の復元というのは、非常に最重要のテーマです。これまでは、氷床コアが堅実なCO2記録を保持していて、右上の図の緑で示した変動なんですけれども、間氷期で高くて、氷期で低いという傾向、周期性が明瞭でした。しかし、南極氷床では、せいぜい80万年前までしか遡ることができません。最近の大きなニュース、これは北海道大学の山本さん、関さん、彼らは、インド洋のベンガル湾の掘削コアから、陸上植物由来の脂肪酸を抽出し、その炭素同位体比が、黒で示したもの、白ポツの黒線です。これが、CO2濃度と強く連動しているということを発見しました。
 また、東京大学の阿部先生らのシミュレーションにより、インド東部では、陸上植物に影響を与えるのが、大気CO2濃度であるということを検証しました。これにより、氷床コアの倍近い、150万年前、1.5Maまで遡る大気CO2濃度を復元することができました。
 100万年前のあたりというのは、地球の気候周期が、それより前の4万年周期から10万年周期に切り替わる、中期更新世、トランディションMPTと言われる時代です。このMPTを超えるCO2記録が得られたことというのは非常に画期的で、MPT以前というのは、氷期-間氷期サイクルの振幅も小さく、比較的温暖だったとされていたのですが、予想に反して、CO2がそれほど高くなかったということも判明しました。これは、MPTの前と後で、CO2に対する気候システムの感度が変わったことも示唆していて、著しく重要な結果といえます。
 極域もまた重要な研究ターゲットであり続けました。この20年間で、南極海や北極海で掘削が実施され、掘削コアが回収されました。南極海では、乾燥した氷期に大陸から大量のダストが供給されて、それが栄養を与えた結果、基礎生産が上がって有機炭素が埋没し、大気CO2のシンクとなったという仮説がこれまでありましたが、スコティア海の掘削コアのダスト、それが増えるのがこの中のバー、青い部分です。それと基礎生産が上がる時代、インターバル、これはピンクで示しているところですが、これが、この両者の記録には、増減の歩調が合っていないということが明瞭に示されています。確かにダストは、氷期で高くなっているのですが、基礎生産は、むしろ間氷期に高い。この逆位相は、150万年前まで遡ることが分かりました。ダスト仮設に一石を投じる結果となっています。
 この古気候記録の途中にギャップがないということ、これは結構重要なポイントなんですけれども、これは、1つのサイトで、複数ホールを掘削することで、コアとコアの間のギャップを補完する掘削を行う。それにより、完全連続な記録、スプライスを得る手法、こういった掘削がなされています。これは、最近の古海洋学では、標準的な手法となっています。
 南極から、今度は北極海に移りますが、北極海でも、ACEXで新生代の古気候・古海洋記録の回収に成功しました。
 古第三期の始新世、Eoceneと書かれた時代では、温暖な環境で、浮草が繁茂するような還元的な海洋環境であったのに対して、新第三期の中新世以降は寒冷化し、海氷の記録も得られるということが判明しました。ただし、重要なインターバルが、ここに「?」で書いていますが、ハイエイタスで欠如していて、これを埋めるためのACEX2というのが、計画されています。
 新生代を見てまいりましたが、今度、最も温暖な時代、白亜紀に少し目を向けましょう。南極のアムンゼン湾では、IODPではありませんが、砕氷船により、海底設置型ボーリングが行われました。1億年前、地球が最も暖かかったとされる時代の堆積物が掘削回収されて、その中に、こちらの緑色で示した植物の根の化石、あるいは、多様な胞子や花粉化石、裸子植物とかシダ植物とか、そういったものが含まれていることが分かりまして、白亜紀の最温暖期、1億年前ぐらいには、この場所、ゴンドワナ大陸にあって、南緯82度、ほぼ南極点に近い場所、こういった場所で温帯雨林が広がっていたことが分かりました。
 気候モデルの検証、これもシミュレーションによる検証で分かったことなのですが、南極にこのような温帯雨林が存在するには、大気CO2が、少なくとも1120ppm、かつ大規模氷床がなくて植生に覆われている必要がある。これはCO2が高いだけじゃなくて、氷のアルベド、白いので光をはね返す、この氷アルベドの効果が、高緯度域に及ぼす冷却効果というのが重要であることが強調される結果となりました。
 さらに白亜紀に関しては、放射性起源同位体記録であるオスミウム同位体を使った研究、これは我々のグループが進めてまいりました。白亜紀中期を通して、オスミウム同位体比を復元したところ、幾つかの海洋無酸素イベントという、黒色頁岩がたまるイベントのタイミングで、オスミウム同位体比が低下していて、それは当時に、大規模な海台玄武岩の噴出が起っていたことを示唆していますが、こういった地球内部プロセスと表層システムが密接にリンクしている、アースコネクション、これを示す結果になっています。
 1つ、この結果で強調したいことがありまして、これは分析を通して、オスミウムのような放射性起源核種の同位体分析というのは、岩石の種類によっては、陸上露頭の試料が不向きであることが分かりました。具体的には、有機炭素を含む黒色頁岩は、風化・変質・酸化によって親核種の溶脱が起って、体積時の同位体比が再現できない。一方、ボーリングコアでは、そのような閉鎖系の崩壊が起っていなくて、適切なイニシャルの同位体比が得られたということで、掘削コアが、必ず必要になるようなタイプの研究が、オスミウムの研究になります。
 そして、オスミウムやイリジウムなど、白金族元素の研究では、チクシュルブ掘削でも日本人が活躍しました。九州大学の佐藤さんや、東工大の石川さん、彼らは、白亜紀末の天体衝突の爆心地とされるメキシコ、チクシュルブのインパクトクレーターのピークリングで掘削されたIODPのコアのイリジウム濃度や、オスミウムの同位体分析を行って、この紫色で示した衝突角礫岩ではなくて、その上にたまった細粒堆積物、これはダストに由来すると考えられているんですけれども、その中にイリジウムやオスミウム同位体の異常が見つかったと。これは、衝突天体自体は残っていないんですけれども、吹き飛ばされた小惑星起源の物質が、一旦、大気中に舞い上がって、それがしばらくして沈積したことを、非常にクリアに示しています。こういった研究がなされてきました。
 日本が主導した掘削航海としては、ジョイデス・レゾリューション号によるExpedition346、これは日本海・東シナ海の掘削で、これで日本海の海洋環境、それから発達史、そしてさらには、東アジアモンスーンの履歴について、多くの知見が得られつつあります。
 さて、日本の研究ファシリティはどうでしょうか。これまでも、巽先生の発表などでレビューされていましたが、掘削船「ちきゅう」はどうだったでしょうか。古気候モデルのほうでは、「ちきゅう」シミュレターが抜群の活躍を見せてきました。掘削船「ちきゅう」ほうは、IODPで「ちきゅう」を使った古海洋研究を主眼にした航海は、実施されてはいないんですけれども、しかし最近、スコア・プログラムで、「ちきゅう」を使った古海洋研究のための掘削が、四国沖で実施されました。また、インド洋ガスハイドレート、掘削で得られたコアから、南アジアモンスーンの変動性についても研究が進んでいます。さらに、掘削に向けた事前調査で、ロードハウライズですとか、地中海、これら既存コアを使った国際共同研究を私たちは進めておりまして、徐々に成果が得られています。
 もう一つ、非常に重要なことなんですけれども、「ちきゅう」を運航することで、日本の科学コミュニティが、欧米と対等にイニシアチブを取ってきたことというのは、気候変動に関する直接的な研究で、「ちきゅう」は使われていないですけれども、非常に重要であったというふうに、今、私は思っています。
 最後になりますが、最近、IPCCの第6次報告書、AR6が出版されました。AR5では、古気候学というのは、1つの章にまとめられていましたが、AR6では、各章に古気候の話題がちりばめられる形になっています。これは、私は大きな前進だと思っていまして、これまでの気候学の研究の中で、古気候データが同列に扱われるぐらい、定量精度が良くなってきたということを示していると、私自身は解釈しています。
 その中で、氷床コアデータのない80万年前より前の古い時代の、特に温暖期については、海洋科学掘削のデータが重要です。CO2の復元に関しても、これまで、アイスコアのない時代のCO2の変動を見積もるのは、非常に難しくて課題でしたが、冒頭説明した山本さんたちの論文が出まして、150万年前までこの記録が伸びることは、恐らく間違いないと思います。これにより気候感度に関する研究が、一気に進むと思います。
 まとめにいきます。この10年間で、古気候学・古海洋学というのが大きく進化していきました。その中で、その発展に海洋科学掘削というのは、特に氷床コアのない時代、古い時代の情報を提供してきた。それから、空間的な空白、特に極域などのデータが、どんどん出てきている。時間的な空白もカバーされつつある。プロキシ開発も行われていて、さらに、これはレジュメのほうには載せていないんですけれども、スーパーコンピューターや気候モデルの発展に伴い、古気候シミュレーションによる仮設検証が加速しつつあります。
 その結果、IPCC AR6でも、古気候学・古海洋学というのは、引き続き、非常に重要なものとして認識されつつあります。特に今の地球システムが取り得る、気候変動の幅がどのぐらいなのか。今の気候変動が、どのぐらい急激で、どのぐらい異常なのかというのは、観測機器では分かりません。せいぜい50年とか100年のデータでは。その中で、古気候のアーカイブが果たす役割というのは、非常に大きい。AR6でも重要視されている。また、気候感度が、どの程度なのか。これはAR5に比べて、AR6で、かなり変動幅が、不確定性が小さくなったと評価されています。こういったものへの、掘削資料の貢献というのは、非常に大きいと思います。
 最後に、「ちきゅう」自体で実施された古気候研究は多くありませんが、IODPでイニシアチブを取ってきたということで、非常に重要な成果につながっていると、私は考えます。今後も、この古気候・古環境情報アーカイブとしての海洋堆積物は、最重要であり続ける。特に海洋科学掘削というのは、古い時代の、特に温暖期などの時代の地球環境を知る、ほぼ唯一の手段です。今後も氷床コアですとか、陸上堆積物、サンゴ骨格といった、ほかのアーカイブも用いた研究や、気候モデル研究と共振化して、さらに正確で、高時間解像度の記録を得る必要があります。
 以上です。
【川幡主査】  どうもありがとうございました。時間いっぱいなので、質問を1つだけ、あれば受けます。ありますか。ないようでしたら、次に行きたいと思います。
 じゃ、鈴木先生、3-2に従ってお願いします。10分程度でお願いします。
【鈴木委員】  ありがとうございます。それでは、始めさせていただきます。極限環境生命圏の研究動向ということで、話させていただきます。次をお願いします。
 現在、行われている地球における極限生命圏というのは、非常に多様な場所があって、実際に掘削する必要がないところも多くあるのですが、こういった海洋の深海とか、こういった場所、蛇紋岩化反応サイトとか、深海堆積物、陸上でもそうですね。それから海域の地下圏なんかというのは、掘削を伴うサイエンスが進められています。次をお願いします。
 極限環境生命圏の研究で、何を明らかにするのか、何を私たちは知ろうとしているのかというと、主に大きく分けると2つになるかと思っています。それは、地球科学的観点から見ると、微生物を地球の成因の1つとみなして、それによって捉えていく微生物の役割というのと、もう一つは、生命科学として捉えた場合、地球生命の1つのモデルとして捉えると。そうなってくると、全球的な、地球科学的なものというのは全球規模での物質循環であるとか、気候変動における微生物の役割、地球史における微生物の役割や、エネルギー資源の成因としての微生物の役割といったところになってくると思われます。
 生命科学として捉えた場合は、生命のハビタビリティ、生命の可能性とか、生存戦略や進化戦略、生命の起源、さらには、地球外生命の可能性といったところまで言及するようなところまで、極限生命圏の科学というのは、行きつくところだと思います。
 この辺のオーバーラップとしては、地球生命の共進化であったり、地球史・生命史といったところが挙げられる。
 おのおののサイエンスが目指すところというのは、1つ、アウトプットが波及効果としている、そういうところになってくると、こうやって地球環境変動がもたらす物質循環の主要因子としての生命活動の役割が分かることによって、将来の環境変動の予測とか、海底下エネルギー資源への貢献といったところが見えてくる。
 一方で、生命のモデルとして見ていくと、特殊環境に生きる生命から、生命の普遍性や法則といった学理学説の構築につながっていくようなところがある。そういったさらに波及効果としては、極限環境の生命の持つ特殊機能を利用することで、人類への社会貢献及び、地球外生命の探査といったところになってくると思います。次お願いします。
 これは、私の研究なんですけれども、蛇紋岩化反応に支えられた生命圏というような研究を、私はこれまでやっていまして、これは陸上の、The Cedarsといいまして、特に掘削とかもすることなく、こういった場所からサンプルを取ってきた。この場所がどういう場所かというと、非常にアルカリで、非常に還元的である。地球で最も還元的な環境であるというふうに言われていまして、それはどういう特徴を持っているかというと、水素やメタン、カルシウムを多く含むような水で、炭素・窒素・リンといった栄養がほとんどない。呼吸に必要な酸化的な物質はほとんどない、非常に還元的になっているという状況である。
 非常に1つ面白い点としては、ここは、生命のエネルギーとなり得る水素が大量発生するという一方で、非生物的反応で有機物がつくられる、いわゆる化学進化的なもの、化学反応のみで有機物がつくられるような反応というのがここで起きるということで、ここで出てくるメタンなんかというのも、生物がつくったメタンではなくて、岩石と水反応によってつくられたメタンであったりする。
 ここはどういう環境かというと、いわゆるこもごも入っていますが、分子生物学的、生化学的に捉えると、非常に微生物が生育するのが難しいのではないかということで、現在の人類の知見では、仮説が立てられないような場所、どういう生命が生きられるかという仮説が立てられない場所なので、新たな生命生存戦略の理解や、先ほども言ったように、化学進化が起き得るような場所であるということから、初期生命進化、こういったのと同時に、こういった場所が非常に初期の地球にあっただろうということで、初期生命進化・生命起源との関連性が考えられています。次をお願いします。
 それで、どういうことが見つかったかというのが、こういった鉱物と水素だけで生きていけるような微生物。これは、参考文献を記載し忘れましたが、『Nature Communications』に私ので掲載させていただきます。
 あとは、新しい代謝経路を持つ微生物の発見というので、非常にこれまでに知られていないような代謝経路を持つような微生物が存在したり、さらに代謝経路だけではなくて、生命としておかしい、生合成機能とか代謝機能がないような微生物が存在して、これは一体どういうふうに生きているのか。それが非常に古いタイプの微生物ではないかというようなことが、分かってきたり。
 そういった特殊機能を持つ中で、特許出願なども行って、非常に還元的であるということは、電子が非常に多い。そういった非常に多い電子を、どうやって効率的に利用するかということで、遺伝資源なども見つかってきている。これは現在、ムーンショットなどでもやられている、電気を使ってCO2を固定するようなシステムなんかにも応用できるんじゃないかというふうに考えられています。よって、こういった極限環境の特殊サンプルを解析して、新たな知見・遺伝資源が明らかになるというような研究をしてきています。次をお願いします。
 それは、今は陸上の話でしたが、実際にはIODPの掘削サイトにも、こういう同様のサイトがあって、私もこのマリアナ海溝だったり、現在もBuilding Blockということで、このLost City周辺の掘削が試みられて、計画されていますが、こういった場所で同様の研究が進められていて、マリアナ海溝付近の、マリアナの蛇紋岩海山のところでは、The Cedarsと非常に類似したような生命が存在することが見えてきています。そういった場所というのは、地球だけではなくて、火星やエンセラダスといったほかの星にもあることから、The Cedarsをここに、エンセラダスの類似環境であると言われていることから、そういったアストロバイオロジーや、陸上、海、ほかの天体、いろんな場所への波及効果があって、そういったものはメディアなんかでも、いろいろと紹介されたりしました。次をお願いします。
 この掘削科学というもので明らかになった海底下生命圏についてなんですけれども、まず1つ目は、海底堆積物。つまり最初、上のほうから海底堆積物ですが、これまでもIODPの航海では、海底下生命圏が発見されるということが1994年に起こった。さらに言うと、堆積物の生命数というのも、こうやったいろいろな掘削で分かってきて、これまでには分かっていなかったのですが、10の29乗細胞程度が、地球全体の海底堆積に存在するのではないかというふうに濃度が明らかになってきて、それは光合成に依存するような生命圏であるということが、分かってきています。次をお願いします。
 これは、地球での航海でのデータとなりますが、深度方向は非常に深くまで掘れた、「ちきゅう」によって深くまで掘れたということで、新しいことが分かって、深海には過去に沈み込んだ森のようなものがあるとか、深度方向でどこまで生命圏がいるのか、微生物がいるのかということの大体の概要が見えているように言えます。多様性についても、いろいろな場所の多様性を解析することで、海底下生命圏には、特異的な好気的、嫌気的ありますけれども、そういった特的な生命圏が存在しているということが明らかになる。そういうことで、IODPデータを統合的に解析することで、全球規模での海底堆積物の微生物関連の基盤情報の特性を記載していくということには、成功したと考えられます。次をお願いします。
 さらに、微生物がどういう状態にあるのかについては、深度方向では、胞子化したり、いろいろな状態になっているよということが分かって、それは、地下深部においてもいろいろな生存競争が繰り広げられているのではないか、ということが、分かってきた。さらには、こういった地下の微生物は、高熱、高圧力条件下にいるわけですが、それなりに活性のある微生物がいるのではないかとか、非常に古い地層の微生物も、埋められていて休眠のようになっている可能性はあるけれども、実際に復活できる能力もあるというようなことが分かってきて、深度方向の微生物の分布や、それらの微生物は生きているということが明らかになってきた。ここで堆積物に関してですが、明らかになったことは、海底下生命圏の存在があるということ。そして、規模、分布、活性、多様性などというのが明らかになってきた。
 また一方で、先ほど、微生物の新規代謝経路がありますとか、私も言ったんですけれども、そういったような詳細な微生物のゲノム情報の取得や、培養株の解析というのは、まだこの海底堆積物においても進んでおらず、その辺の生存戦略というのは、まだ知見としては未知であるということが言えます。次をお願いします。
 海洋地殻のフロンティアの探索は、海洋科学掘削のこれからの課題であるということで、いろいろこれは掘られていまして、基盤まで到達し、さらに掘り進めているような航海もある。でも、これらというのは、ほぼ全てジョイデス・レゾリューション号によって行われたもので、実は「ちきゅう」というのは、マントル掘削を目指すと言っているにもかかわらず、まだ、基盤岩の掘削も行った経験がほとんどないという状況にあります。次をお願いします。
 じゃあ、海洋地殻はどういう状況か、生命圏はどうなっているかというと、徐々に分かり始めていて、微生物が生息するということは分かっていたり、そういうのが、こういった岩石の割れ目に生きていますといったことが分かってきたり、若干の多様性なんかが示されてきています。
 ただ、海洋地殻のサンプルという例が少ないので、海洋地殻に微生物が存在するということは分かっていて、それらは海洋堆積物と異なるのではないかというふうに考えられていますが、まだ、海洋地殻に微生物が存在すること以外は、ほとんど何も分かっていないということで、海洋地殻内生命圏というのは、まだよく分からないといえます。次をお願いします。
 これが、2050年Science Framework、こういう状況を踏まえて、生命探査関連の研究の目的などがここで示されて、IODPのサイエンスコミュニティによって示されたもの、これからやるべき課題であると考えられます。それが地球におけるハビタビリティと生命ということで、生命は多様な現象に関与していて、海域における生命の生存条件とか、生命の役割を、よって定義していくべきだと。いろいろな現象というのは、Climate Changeだったり、Global Carbon Cyclingだったり、いろんなものにいろいろ関わっているけれども、生命としてはどういうこと、生命科学としては、一体どういうことを知りたいかというと、生命のハビタビリティ、生命の起源と進化、生命限界の制約と規定、環境変動と生命変動。バイオマスを規定する因子、微化石、新たな部生物群集の発見といったところ、この辺が、今後のサイエンスで明らかにしていく、なっていく、していきたいという、目指すところであると考えられます。次をお願いします。
 そういった中で、さらに具体的な方向性としては、Exploring life and its originsということで、生命と生命の起源を探査するということになっています。海洋堆積物や海洋地殻に生息する大規模地下生命圏の調査を通して、エネルギーの乏しい環境での生命の生存戦略、生命活動と物質循環の関わり、新たなBiosignatureって、生命が生きている、存在しているということを、いろいろな指標で見ていこうということですが、そういったものの構築をすることで、生命における法則や、生命の起源と進化、この辺というのは、先ほど私も最初に、極限生命圏をやる人の全体としての課題でもあるので、そういったところも。そういったことは、地球外生命探査への貢献や、地球微生物の利用、バイオテクノロジーといったことを目指していこうということで、それがインパクトであるというとこに書かれています。次をお願いします。
 これまで話してきたように、海洋堆積物には一定の基盤情報というのを得られてきたかなと考えられる一方で、海洋地殻やマントルにかけての生命圏の知見というのは、ほとんどありません。次をお願いします。
 この辺は、極限生命圏として捉えた場合の今後の方向性の主眼というのは、これは主眼でありながら私見であるともいえるんですけれども、私が思うところではありますが、浅部においては、物質循環における微生物活性の役割。メタン発酵だったり、メタンガスだったり、CO2、炭素排出量が特に重要か、酸素・窒素サイクルかなと思うのですが。そういったものと、変動する環境変動に応答する生命変動を明らかにすることにあり、深部は、堆積層における生命圏の限界というのは、一体どこまであるのか。物質移動の少ない、深部になると圧力があって、間隙水もなくなって微生物の移動もできないといった状況になるのですが、まず、物質移動の少ない中で、生命はどんな維持戦略があるのかというところが、新たに今後、見いだされる知見かなと思います。
 海洋地殻に関しては、先ほども言ったようにあまり知見がないので、こういった一般的な微生物存在量、活性、多様性、生存戦略、適応進化といったところが重要になる。
 さらにその下、マントルまで行くと、マントルというのは、生命圏の存在の有無と言っていますが、非常に高温であることから、生命が生きる可能性というのは、非常に少ないかなというふうには思うのですが、一方で地球というのは、どこにもかしこにも微生物がいるわけで、そういう意味では、もしかしたらマントル周辺というのは、ある種の非生命圏となると考えられると、海洋における化学進化の実態というのは、唯一マントル周辺で分かることなのかと思います。もしくは他天体ですね、エンセラダスのような海洋天体なんかだと、生命がそんなにいないので、ようやく化学進化の実態というのは、明らかになるのかなと。そういうことが分かることで、生命の起源や進化というところにつなげる知見を得ることができるかなと思っています。
 以上です。ありがとうございます。
【川幡主査】  どうもありがとうございました。質問ありますでしょうか。ありませんか。
 最後のスライドから、6ページぐらい戻ったところを出してもらえませんかね。この場を借りて、ちょっと別のことを言っておきますので。
 これをちょっと見ていただきたいのですが、「ちきゅう」は、いまだに基盤の掘削を行ったことがないと、そこに書いてありますね。別なことを言いますけど、一番右側に、504Bって書いてありますね。これが、一番深く海洋地殻を掘ったコアなんです。私のドクターは、ここで取ったんですけど、そのときが、ポスドクに行ったときまでこれをやっていたんですけど、1,500m、私が31歳のとき、30年前。その後、あれしか掘れていなというのは、まず分かりますね。
 次、その左側735B何々というところに、青でハッチングがかけてありますね。そこのところ、斑レイ岩って書いてありますけど、これは深成岩なんですよ。基本的には、504Bをあと200mぐらい同じような岩石があった後、このブルーのものが、あと4kmぐらい下にあるんです。そこの下がマントルなんです。マントルがどこかという話をしているので。結構深いんですよというのを、一応、この図を見るとよく分かるので。
 今、人類は、一番ちゃんとした海洋地殻を掘ったので一番深いのが、504Bなんです。この一番の底のところは、ちょっとスタックしちゃった、ビットが入っているのかな。なので、もう掘れない。それが現状ということになります。
 今、鈴木先生のお話の中で、「ちきゅう」はいまだに基盤岩の掘削を行った経験がないというのは、一文だけど、すごくインパクトのあることを言われたんですけど、ちょっとJAMSTECに質問なんですけど、これはジョイデス・レゾリューション号で掘った穴ですよね。これ以上のスピードで掘れるんですか。スピードはどのくらい違うんですか、ジョイデス・レゾリューション号で掘ったのと「ちきゅう」で掘ったのと。
【江口部長】  JAMSTECの江口です。スピードは、ジョイデス・レゾリューション号は、1種類のビットだけで常に掘っています。それに対して「ちきゅう」は、いろんな形のビットを、今までも堆積岩に関してはですけれども使っていますので、ビットの最適化を行うことによって、ジョイデス・レゾリューション号より速く掘れてもおかしくはないというふうには思っています。
【川幡主査】  そんな感じですね。あの孔を全部掘るのに、大体1年以上かかっているんです。6年か7年ぐらい、504B。そんな感じですね。鈴木先生の今のプレゼンテーションで、ちょっと説明しやすい図があったので、マントルの位置づけをちょっとお話ししたんですけど。
 鈴木先生のお話に何かコメントがありますか。巽先生、お願いします。
【巽委員】  1つお伺いしたいのですが、掘削で地殻の物質に関しては、異常にいろんなものが見つかったというのは、そうだと思うんですけど、後に関しては20年前と全く変わっていないわけですよね、現状ね。変わっていないのは、そういう現状ともう一つは、例えば、海洋地殻の中で生命源があるということが確立されれば、生命の起源に新たな扉が開かれる、新たな知見が得られるというふうにおっしゃっていましたけど、どういう具体的な知見が得られるんですか。そこもやっぱり言わないと、そこを言わないといけないんじゃないかなというのが、私の反省だったんですけど。
【鈴木委員】  それは、今、私は海洋地殻を掘れば、生命の起源が分かるとは言っていなくて、かなりマントルに……。
【巽委員】  マントルでもいいですよ。マントルでもいいですよ。
【鈴木委員】  そうですね。地球ではどこにでもかしこでも生命がいるわけなんですよね。でも唯一、マントル付近というのは、生命がほとんどいないところかなというふうに捉えられています。地球の大部分は光合成の影響を大きく受けているし、生命がいると多くの有機物があるけれども、それと隔絶された世界、つまり、我々が光合成機能を持たなかった世界というのは、一体どういうものなのかを知ることができるのが、唯一マントル周辺かなというふうに、私は思っています。
 そうすることで、じゃ、生命が、もちろん生命がシステム化するというのは、まだ、その先にあるんですけれども、じゃ、化学進化が、どういった有機物をもたらすのか。プリミティブな酵素的なものとか、が存在するのか?。
 例えば、宇宙だったら隕石の中なんかには、非常に有機物が入っているということも既に分かってきていて、それは宇宙空間における化学進化ですね。いわば、CO2とラジエーションによってできる有機物というのは、何なのかというのが徐々に分かってきている。「はやぶさ2」なんかでもそうですけれども、そういったものの中で、非常に多様な有機物ができるということが分かってきている。じゃ、多様な有機物ができるという……。
【川幡主査】  ちょっとすみませんけど。
【鈴木委員】  はい。長いですね。
【川幡主査】  長いからよくわかんなくなっちゃったんで、何を言っているのか。短く、一文あたりで言ってもらえませんかね。もう総合討論に、今は入ったと思うので、皆さんからの意見をもらおうと思いますが、ちょっと短くもう一回。
【鈴木委員】  はい。じゃあ、短く言うと、ちゃんと説明しろということなので、一応可能な限り説明しようと思っているんですけど。
 だから、マントル周辺というのは、要は生物の影響のないような、一体、生物がなしに何を地球にもたらすのかと。生物というのは、化学的な進化の先に生まれたというふうに考えると、そういったものの中で何をもたらすのかというのが、マントルで見えてくるのが面白いんじゃないかと、私は思っています。
【川幡主査】  巽先生、何かコメントがありそうですね。
【巽委員】  でも、マントルを掘らなくていいってことね、それはね、特に。
【鈴木委員】  どういうことですかね。マントルを掘る……。
【巽委員】  それは、本当に生命が誕生することのことで、マントルを調べて、そこに生命がいないということをきちっと証明することができれば、これが分かるということが分かっていれば、マントルを掘っちゃえばいいわけですよね。でも、今お聞きしている感じだと、そうは聞こえないんですけどね。決して責めているわけじゃなくて、そういうのが分かればいいなと言っているわけですけどね。
【鈴木委員】  生命がいるかいないかっていうこと……。
【巽委員】  まあ、おらんでしょう。2,900kmには絶対にね。
【鈴木委員】  ですよね。
【巽委員】  それはいいですね。
【鈴木委員】  生命と岩石と水反応でできる有機物とか、そういった物質というのは、一体何なのかということが、そこで見えてくるということが、地球における化学進化を理解するということの最初になるかなということです。
【川幡主査】  どうもありがとうございます。自由討論です。ほかにもお願いします。今日は、幅広いトピックスを紹介してもらいました。
【大土井課長】  ちょっとよろしいですか。
【川幡主査】  お願いします。
【大土井課長】  すみません。海洋地球課の大土井です。また、鈴木先生とほかの先生も、もしも可能であったらいただきたいのですが、鈴木先生の資料の123ページに、IODPのデータを統合的に解析することで、こういうことができましたというふうに書いてあるんですけれども、例えば、日本だと高知コアセンターにコアがあって、ヨーロッパだとブレーメンにあって。それなりに、もうコアって今のところ蓄積されてきていると思うんですけれども、そのコアのデータというのは、先生の分野だと、もう大体もう研究し尽くしたのか、まだ今から引き続きやらなきゃいけないのか。既存のコアの活用状況って、今はどんな感じになっているか、ちょっと教えていただけますか。
【鈴木委員】  少なくとも、概ねもう理解できているところ、海洋堆積物なんかというのは、概ね微生物の存在とか、そういうどういうものがいるのかというところは、分かってきているんですよね。ただ、どうやって生きているかというところまでが、まだちょっといまいち分かっていない。一応、胞子化するとかいって、分かってはきているというところもあるんですけれども、それが何でそういうふうに長い間生きていけるのかとか、そういった観点での研究というのは、まだ非常に遅れていて、ゲノム情報なんかもほとんどないですし、非常に限られている情報しかなくて、その辺は生命科学といって、新しいことが出てくる可能性はあるかなと思っています。
 生命科学という観点だけで考えると、そんなにいろんなコアってあまり必要なくて、ないかなというふうに個人的には思っていて、一方で、地球規模で生命がどういう役割をしているのかなということに対しては、多様なものを比較していく必要がある。(音声中断)
 そうですね。だから生命科学的には、そんなにいろんなコアは必要としないかもしれないかなと思うんですけれども、地球環境における生命の役割というのを明らかにしようとした場合は、そうやっていろいろな比較をしていくことで、どういう分布になって、どういう活性があって、どういうふうに物質循環に影響するということが見えてくるのは、そういった比較が必要かなというふうに、統合的に考えることが必要かなというふうに。
【大土井課長】  分かりました。ありがとうございます。
【川幡主査】  今日のお話の中で、災害関連というか、基本的に地震と、それから火山については、ターゲットと、これまでできたこと、それからサイエンスに基づいて将来のことという課題が、結構明らかになったなとそんな感じがしました。
 古環境については、何がターゲットで、どこまでできて、何が目標かというのが、ちょっといまいちクリアじゃなかったので、1行ぐらいで言ってもらえますかね。
【黒田准教授】  1行ぐらい。分からないことは……。
【川幡主査】  1行、2行ぐらいでもいいですけど。
【黒田准教授】  2行ぐらい。
【川幡主査】  何がターゲットだったんですかというのが、ちょっとなかったかなと。
【黒田准教授】  今までのIODPに関しては、地球環境が、CO2にどのくらいセンシティブか。それから、過去の海水準変動がどうだったか。過去の降水パターンがどうだったか。過去の海水の化学変化に対して、生物がどうレジリエントに対応してきたかという、その4つの柱がターゲットだったんですけれども、気候変動とCO2の関係に関しては、かなり150万年前までは、遡ることができるようになったというのが、大きな前進です。あと、海水準もかなり分かりました。あとの2つ、降水パターンと海洋化学組成の変化に対するレジリエントに関しては、ほとんど研究航海が実施されずに残ったままになっていると、私は思います。
【川幡主査】  将来の環境に対しての、コントリビューションはどんなことを考えていますか。
【黒田准教授】  1つは……。
【川幡主査】  黒田先生がじゃなくて、コミュニティがという意味です。将来の、昔じゃなくて、これから私たちが体験するであろうシビアな気候変動に対しては、どんなコントリビューションをしたいなと、科学的知見も含めては、どんな感じなんでしょうか。
【黒田准教授】  将来の地球に対しては、まず、素早く応答すると言われる、干ばつとか、降水パターンの変化というのを理解するのと、割と時間をかけて変化するであろう海水準変動と、酸性化などのレスポンスが、どのぐらいの時間規模で起こるのか。今の変化が、どのぐらいの早さで起こっているのかというのを、過去の地球から知るというのが、コミュニティ全体としてのコントリビューションだと思うのと、まだいいですか。
【川幡主査】  はい、長いけど。長くなると、大体みんな分からなくなってしまうから。
【黒田准教授】  はい。あとは、どのぐらい自然の、天然の変化がどのぐらいの範囲で起こり得るのかというのを知る。その中で、今起こりつつある気候変動、環境変動が、どのぐらい急激で、どのぐらい異常なのかというのを知るという、その2点だと思います。
【川幡主査】  どうもありがとうございました。ほかに質問はありますか。
 阪口先生、お願いします。
【阪口委員】  SIPのほうの石井さんに、ちょっと教えていただきたいと思います。
 まず、レアアース泥の層は浅いので、大深度掘削は必要がないと。それから、CCSは、コアを回収する必要がないと。となると「ちきゅう」を使うメリットというのは、どこにあるのか。大水深であるということ以外に「ちきゅう」でなければならないという理由があったら、ちょっと教えてほしいんですけれども。
 というのは「ちきゅう」ってラボとか、いろいろごてごてついているので、そもそも運航費がすごく高いので、大水深の掘削は、非常にまだ難しいということを、石井委員のほうからも説明がありましたけれども、大水深以外で「ちきゅう」を使うというメリットを、ちょっと教えてほしいということです。
 以上です。
【川幡主査】  御回答お願いします。
【石井プログラムディレクター】  質問ありがとうございます。まず、海洋玄武岩、拓洋第5海山に対するCO2の大量貯留。この拓洋第5海山のちょっとこの図を出してもらえるとありがたいんですけれども、8番のところの図を出していただきたいんですけれども。この海山は、5,500mの高さがありまして、平頂部分が、神奈川県の大きさがあります。この中の山体構造が全く分かりません。まだまだ分かっていません。大陸棚の調査をしたときに、2次元の診断はかけておるんですけれども、診断をかけた上で、水深が大体、一番深いところで1,000m、浅いところでは500mぐらいになっておりますので、そこから大体、1,500mから2,000mの掘削をする必要がある。だからトータルで、3,500mぐらいの掘削をすることを考えております。そうでないと、CO2の大量貯留の山体の岩石構造が分からないという形で考えておりますので、どうしてもやはり「ちきゅう」でないと、この掘削ができない。また、コアも取る必要があります。深探関係では、よく同一の層でありますと、深探では相違がよく分からない状態になりますので、やはりコアを取って、どのぐらいの孔隙率かどうかということを調べるということを考えておりますが、どうしても「ちきゅう」でないと、これはできないと。
 それから、レアアース泥については、その次のページですけれども、確かに私どもは、6,000mの下に、約10mから15mぐらいのところまで、実は筒を突き刺す形で密閉構造をつくった上で循環させることを考えています。「ちきゅう」でないと、なぜできないかということですけど、「ちきゅう」の、やはり掘削能力、6,000mから7,000mを掘れるという、この装備しているいろんな装備類が、我々が、これは泥水を循環させるような形でやるわけですけど、6,000mの泥水を循環させるリグは、やはり「ちきゅう号」の存在がないと循環させることができなくて、揚泥することができないという考え方で、今、シミュレーション設計をしておりますので、どうしてもやはり「ちきゅう」が必要であると。確かに、海底面から10mや15mぐらいだから、「ちきゅう」でなくともできるというふうに思われるんですけど、揚泥システムに、「ちきゅう」の今持っている装備が必要であるという考え方でおります。
【阪口委員】  ありがとうございました。
【川幡主査】  今の御質問は、ほかの船を雇ったほうが安いからいいんじゃないって、そういう意味なんですか。阪口先生。
【阪口委員】  いや、「ちきゅう」の運用コストがすごく高いので、このシステムを違う船につけて、専門の揚泥ができる、そこそこ大水深で揚泥できるのだったら、最初のパイロット・スタディーとしては、今、現存している「ちきゅう」を使うというのは、すごくよいのかなとは思うんですけれども、プロダクション・ランに入るときにまで「ちきゅう」を使い続けるというのは、コスト面を考えると、すごくデメリットが大きいんじゃないかなというのが、ちょっと私の指摘です。
【川幡主査】  石井先生何かありますか。
【石井プログラムディレクター】  その部分につきましては、私どもも、2028年の3月ぐらいに出口論を考えておりまして、そこまでは「ちきゅう」を使うということ。それから以降の産業的規模での開発を行うためには、1基の「ちきゅう」だけでは駄目ですので、中古の、いわゆる大深度掘削リグを買ってきて、2基、3基体制で、やはりそこに定置化しまして、その上で、揚泥システムでの生産ラインをつくっていきたいと考えておりますので、必ずしも、一定程度の産業的規模の開発のめどがついた段階で「ちきゅう号」だけに頼るということではない。
【阪口委員】  ありがとうございます。
【川幡主査】  ということです。先生のお考えと、何か似たような感じの出口を考えていらっしゃるということで。
【石井プログラムディレクター】  はい、そうです。
【川幡主査】  ただし最初は、いろんなものを分析したりとか、検層もしなきゃいけないから「ちきゅう」を使いたいと、そういうお話だったと思います。どうもありがとうございます。
 ほかに質問はありますでしょうか。石井先生、お願いします。
【石井委員】  今までの議論から比べますと異質な質問かもしれませんけれども、今までの先生方のお話を聞いていると、「ちきゅう」に対する評価はあまり高くない、若しくは期待はされていないではと感じたのですが。
 その理由を自分なりに考えますと、多分シンボリックである南海掘削が、うまくいかなかった事実。もう一つのシンボルであるマントル掘削のための4,000m級のライザーがまだ開発できていないということなのではないか。確かにそのとおりなのですが、「ちきゅう」の掘削能力は、非常に高いものだと私は思っていまして、他の科学掘削において十分活用できる掘削船だと思っています。
 ただ、先ほど述べたように、南海掘削のように非常に難しい環境の中では、「ちきゅう」以外の掘削船でも同じ結果となると考えています。それは掘削のマネージメントの問題と考えております。「ちきゅう」の活用という観点では、多分シンボリックな案件がうまくいっていないことによって、評価が落ちてしまっているのではないか考えているのですが、この辺りに関して、研究者の皆様の率直な意見をお聞きしたいのですが。
【川幡主査】  どうですか。巽先生、お願いします。
【巽委員】  率直な意見をお答えしたいと思うのですが、シンボリックなものは、もちろんできていないんですけれども、例えば、伊豆・小笠原・マリアナ溝の掘削(IBM掘削)は、Ready to goに入っていた状況まで行っています。恐らく技術的にも、それほど難しいことはなかったというふうに、2012年、2013年当時に、私は聞いていました。ただ、それができなかったのはなぜかというと、予算がなかったからだということです。ですから、私は決して、だから予算がなかったことを恨んでいるわけではなく、予算がないということに押し付けているわけではなく、じゃ、それでシンボリックな活動というのは、科学的計画がいかに日本人、世界の人々に貢献できるのかということを、もっと言えたんじゃないかと言っているんですけれども。今、石井さんがおっしゃったような観点でいうと、できていないことが多いですね、やっぱり。
 以上です。
【川幡主査】  私は、南海トラフは、確かに目標が断面まで、プレートの境界までということだったけど、東北のほうはきちっとできたし、またさっきの話になりますけど、摩擦熱をきちっと測ったとか、それはすばらしいことで、それはやっぱり「ちきゅう」じゃなかったら無理だと思うんですね。
 それで、何か目標が、最初に何か高く設定しちゃったのが、今日のお話だと、穴の構造というんですか、地層というんですかね。その構造が悪くて、うまくいかなかった。論文は、この前、出ていましたけど、結構出ていて、コスト的にも悪くはないと思います。なので、そんなにネガティブに私は思ってはいないんですけど。私自身が乗っていないから、何とも言えないけど、皆さんが、できなかった、できなかったという目標が、そもそもの立てたものが、ちょっと厳しかったのかなとか、そういう感じを持っています。少なくとも東北は、すばらしいちゃんとバンダリーを掘ってといって、よかったなと。
 あともう一つは、南海トラフに関しては、DONETとかほかのと組み合わせて、地震のほうにもコントリビューションはあるし、最近、小原先生の理論とか何かも含めて、将来結構、大地震が来る前にどうにかというその問題についても、観測すれば分かりそうな気配が、結構してきたな、なんて期待しているんですけど。
 阪口先生、お願いします。どうぞ。
【阪口委員】  私も別に「ちきゅう」自体をけなしているわけではなくて、一番の問題は、やっぱりプロジェクト・マネジメントだと思うんですね。先ほど、石井さんがまさにおっしゃったように、立っている地層のところを掘るということは、普通の商用掘削のときは、そこは避けるわけであって、そういうところは掘らないというのがもう常識で、その非常識な部分を掘るということが、もう最初から付加体周辺の、それからあと、プレート境界断層の周辺なんて、ぐにゃぐにゃに褶曲しているところを掘るということを前提としているんだったら、それに対する、やっぱり科学者のニーズと、それからエンジニアリング、非常に難しいエンジニアリングであるということを考慮した上で、しっかりとした計画を立てて、バックアッププランが、さっきなかったっておっしゃいましたけれども、バックアッププランも、やっぱり枝分かれできちんと準備をして、そういうマネジメント、それプラス、巽先生がおっしゃったように、あと予算も、尋常じゃなくかかるわけで。1日3,300万円とかかかるわけですから、そこに対するきちんとした計画、そこが、これまではよくなかったんじゃないかと私は思います。
 なので、やっぱりしっかりしたプロジェクト・マネジメントを、エンジニアリングの部分は特に重要なので、これはSIPに関しても同じことで、やっぱり非常にエンジニアリングの部分が、すごく重要なことなので、そこに対するマネジメント、ここを今後、もしこういう船を造ったり、プロジェクトをするときには、やっぱりJAXAとかがやっているような、しっかりとしたマネジメントをしていくことが今後重要であるということを、私は言いたいと思います。だから、全部、船のせいにするというのは、ちょっとおかしなことだなというふうに私は思います。
【川幡主査】  どうもありがとうございます。
 私から委員の石井先生に、ちょっと質問してもよろしいですか。
【石井委員】  お願いいたします。
【川幡主査】  お願いします。「ちきゅう」という船を造るのに、それなりにお金もかかりましたけど、当初、やはり日本で掘削船を持っていなかったから、そういう技術者を育てたり、技術を育てたり、あとドリリングと船の定点保持とか、そういうのを開発するのも大きなミッションですよと。そういうのをしばしば聞いたんですけど、それに関しては大きな進歩があったと、そのように考えてもよろしいんでしょうか。
【石井委員】  まず、日本には日本海洋掘削(JDC)1社のみが掘削船を保有している掘削請負会社です。ただし、大水深対応の掘削船は保有しておりせん。よって、大水深対応の「ちきゅう」の建造は産業界でも歓迎されていました。JDCも、日本近海ではなくアジア、それから世界中で活躍しているわけでが、特に大水深対応の掘削船は先に述べたように、メキシコ湾、西アフリカ、ブラジルに偏在しており、日本で掘削する場合、高額の動復員費用がかかります。先ほど、阪口さんがおっしゃったように、「ちきゅう」でも1日3,300万円もかかりますので、非常に金がかかるわけです。動復員の期間が長いほど費用がかかりますので、やはり大水深での掘削能力を有する「ちきゅう」が日本近海にいることは、開発会社が日本近海においても大水深掘削できるというモチベーションを与えたのは事実かと思います。
 当時の大水深掘削船のデイレート(1日当たりの傭船料)は、確か50万ドル、60万ドルぐらいしていましたから、「ちきゅう」を使えば、もう少し安くできるのではという期待もありました。
 あと、技術という意味では、一般的なライザー掘削技術は確立されており、日本の技術者も技術力を有しております。しかしながら、大水深となると、日本の技術者も経験はそれほどござません。掘削船という切り口では、大水深対応の掘削機器は例えば、BOPやそのハンドリング機器に関しては、「ちきゅう」の運用の中で習得できた、新しい技術となります。特筆すべきは定点保持の技術やライザーハンドリングの技術かと思います。掘削船のDPSの技術は「ちきゅう」が日本で初めての技術で、これは掘削技術者ではなくて、操船という切り口で日本郵船の方々や、「ちきゅう」のDPSの開発をした三井造船の方々の努力で、「ちきゅう」の定点保持技術が開発されたと考えます。今回、触れませんでしたけれども、同じようなタイプの掘削船が、ブラジルで現在も稼働しているという話もありますし、「ちきゅう」のアジマススラスタの開発技術は、様々な船舶で活用されていると聞いており、「ちきゅう」建造の技術は産業界でシナジー効果を発揮したものと思います。
 人材開発、掘削能力に関しましても、現在日本の開発会社では海洋掘削のアクティビティーが少ないですから、海洋掘削技術を「ちきゅう」で学べるということは、日本国においても、掘削の技術、海洋掘削の技術の継承という意味で人材教育という意味でも非常に有益な場であるとは思います。
【川幡主査】  どうもありがとうございます。ほかにコメントはありますでしょうか。
 鈴木先生、再登板で何かないですか。
【鈴木委員】  すごくシンプルな質問で。先ほど、私もあえて赤字で「ちきゅう」は基盤岩を掘った経験がないと書いたんですけれども、これまで何でそういうチャンスがなかったのか。もともとの建造目的は、マントルも掘ることを目指したというふうに、いろんなところに書かれて言われているこの状況の中で、今まで、まだ岩を掘ったことがないような状況というのが、何で起きてきたのかなというのが少し疑問だなというふうに、単純に今回、調べてみて思いました。
【川幡主査】  巽先生、何かコメントはありますか、先ほどの御説明に加えて。
【巽委員】  私の知っている限りで言うと、科学掘削、IODPのプロポーザルとして出ていて、「ちきゅう」を使って、基盤岩を掘るというプロポーザルが、IBMが一番最初ではないかということで、それ以外はなかったということですね。それは、「ちきゅう」を使ったプロポーザルをつくるということは、つくる本人たちも、どれぐらいお金がかかるか分かっているので、相当気合が入るわけですよね。だから、そういうものを準備するのには、我々も数年かかったわけで、それぐらいのことはかかるということです。
【川幡主査】  どうもありがとうございます。
【鈴木委員】  ありがとうございます。
【川幡主査】  窪川先生、最後に何かありますか。
【窪川委員】  私は、素人発言で恐縮なんですけれど、今日のお話をいろいろお伺いしまして、やっぱり「ちきゅう」は掘ると。当然ですけれども、ミッションがすごくたくさんあって、それだけ今まで、すごくたくさんのミッションをやってきたということは、すごいと思うんですね。それに対して、目立つミッションと、地道にやっているミッションといろいろあって、そういうときに、私は生命科学の専門ですけれど、古環境ですとか、気候変動とか、あるいは生命圏といったほうに親近感がありますが、そういった分野に「ちきゅう」を支持する層の薄さを感じるところがあって、何か「ちきゅう」の利用に関するバランスが、偏っているなと感じたんですけれども、今回、御発表された黒田先生や鈴木先生、何か御意見がございますでしょうか。
【鈴木委員】  そうですね。私の個人的な意見ですけれども、やはり先ほど、巽先生もおっしゃったように、1つのプロジェクトを動かすのに、非常にお金がかかるという中で、科学掘削を提案していくということに、ちょっとやっぱり尻込みしてしまうところはある。どうやって、そうやってお金を持ってくればいいのかというところについて、そう簡単にアイデアが出てくるわけではないので、やっぱりそういったお金のバランス、お金に対しての科学成果に対するバランスに対して、やはり、私も今、宇宙関係にいますので、1つの探査に非常に大きなお金がかかると。それで今、みんな死に物狂いの努力をされているわけなんですけど、そういう中で、やっぱり決意と覚悟とマネジメント、やり切るところと、それだけの科学成果が見いだせるのか、それにかかるコスト、いろいろなもののバランスを取るときに、そういったところが難しかった部分があるのかなというふうにちょっと思っています。
【川幡主査】  どうもありがとうございます。ほかにいいですかね。
【黒田准教授】  では私もコメントします。層の厚さというのはおっしゃったとおりだと、私もある程度は認識しますが、鈴木さんと同じで、やっぱり掘削って、本当に古気候研究の中でも最も時間がかかる、準備段階から、ピストンコアを打つのと、掘削するのって、もう本当に全く違っていて、やっぱり10年ぐらいかけてサイトサーベイをやって、プロポーザルを通してという作業が必要なので。やっぱり長い時間をかけてやる堅固なプロポーネント集団が必要になるところが、なかなか前に進めないポイントであるなというのはあります。
 古気候・古環境の場合は、ジョイデス・レゾリューション号がこれまで活躍してきまして、日本発のプロポーザルもありましたけれども、やはり圧倒的に欧米のプロポーザルとコンペチションが激しいので、そこを勝ち抜いていかないといけないというので、かなり敷居は高いとは思いますね。なので、どちらかというと、決まった航海に参加する人のほうが多いですし、明日、あさっての、来年、再来年の職がまだというような若手には、やっぱりそういうところに乗って研究をするということのほうが、圧倒的に現実的なので、やっぱりどうしても利用できる人は利用するが、主導するには、なかなかハードルが高いという背景もあったのかなと思います。
 ただ、古気候に関しては、ファンというのでしょうか、サポーターが少ないわけではないですし、掘削コアを使った研究をやっている人は、物すごくたくさんいますので。
 お答えになっていましたでしょうか。
【窪川委員】  はい。サポーターが、すごく重要だということですね。
【黒田准教授】  そうですね。
【窪川委員】  これは科学者、技術者、産業界のほうだと。ありがとうございます。
【川幡主査】  基本的には、お金が大きいというのもあるので、きちっとコンソーシアムをつくって、それで、組織で支えますよという体制が取られているというのが、御存じのようにIODPだと思います。
 では、いいですね。今、16時40分になりましたので、そろそろ。
 阪口先生、お願いします。どうぞ。
【阪口委員】  すみません。申し訳ないです。時間が過ぎているのに。せっかく小原先生がすばらしい説明をされたので、ちょっと質問なんですけれども、所定の位置まできちんと来られて、そこで、長期孔内観測ができると、将来の予測に対して非常に役に立つ。これは、御説明のとおりで、すばらしいことだと思うのですが、一番最後におっしゃった今後の有効利用ということで、多点の孔内観測ができるようになると、精度がさらに上がりますよね、データの数が増えるわけですから。あの場合、1本あたりの深さはどれぐらいまで掘れれば十分なのでしょうか。
【小原委員】  ありがとうございます。確かに、私の説明の中で、まさにプレート境界まで掘って、そこで長期孔内観測ができればいいというふうには申し上げましたけれども、ただ、なかなか本当にそこまで掘れるのかということも当然ありますけど。あと、我々が一番重要に考えているのは、やっぱり長期なんですよね。長期にわたって安定して観測ができるというのが非常に重要なので、プレート境界が深いところにあって、そこまで掘れたので設置しましたとなると、温度環境が今度は高くなって、機器の安定性が逆に悪くなってしまうというところもあるので、そこはやはりバランス、深さについてもバランスだと思いますね。
 あと、1点だけ観測を実施しても、そこではすごく高精度の観測ができるんですけれども、現象の把握精度、把握能力は、やはり1点だけでは非常に難しいので、そういった意味で、多点の展開が必要であるというふうに申し上げたんですけれども、それがどれくらいの密度でとか、それぞれがどれくらいの深さだというのは、やはりそれもバランスになってくると思います。基本的には、当然、予算もありますけれども、あとはSNの問題と、それとあと、やっぱり安定性ですね。そこを全部、トータルで考えて、最適な分布、観測点配置を検討するということが必要かなと思います。
【阪口委員】  ありがとうございました。すみませんでした、川幡先生。
【川幡主査】  いえいえ。どうもありがとうございました。よろしいですか。じゃあ、最後に移りたいと思います。
 以上をもちまして、今日の議事は終了したいと思います。さっき申し上げましたように、国際動向については、非公開ということで対処したいと思います。また、次回について、国際動向に関する議論をいたしますが、そこも非公開として扱いたいと思います。
 これをもちまして、今日の海洋科学掘削委員会を終了したいと思います。本日は、お忙しいところありがとうございます。また、たくさんのコメント・質問もありがとうございます。結構、皆さんの情報共有ができたかなと思っています。
 最後に事務局から連絡事項がありましたら、お願いできればと思います。どうもありがとうございました。
【事務局】  事務局でございます。本日はお忙しいところ長時間にわたり、ありがとうございました。
 本日の議事録につきましては、案を作成しましたら、第1回の議事録と同様、委員の皆様にメールで御確認をお願いしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 また、次回の日程につきましては、6月6日月曜日の14時15分から17時15分を予定しております。どうぞよろしくお願いいたします。
 以上でございます。

お問合せ先

研究開発局海洋地球課