令和4年1月11日(火曜日)9時30分~12時30分
オンライン
河村主査、河野健委員、河野真理子委員、阪口委員、須賀委員、谷委員、藤井委員、前川委員、見延委員
大土井海洋地球課長、廣瀬海洋地球課長補佐、宮原専門官 ほか
【説明者】久保田康裕 琉球大学理学部海洋自然科学科教授、木村伸吾 東京大学大学院新領域創成科学研究科/大気海洋研究所教授、辻野博之 気象庁気象研究所気候・環境研究部第四研究室室長
【河村主査】 それでは、ただいまから第11期科学技術・学術審議会海洋開発分科会海洋科学技術委員会第2回目の会合を開催したいと思います。
本日は、皆さん、お忙しいところ御参加いただきましてありがとうございます。
それでは、まずは事務局から定足数の確認と配付資料の確認、お願いいたします。
【事務局】 事務局でございます。本日は、川辺委員及び廣川委員より御欠席との御連絡をいただいております。また、河野真理子委員より、11時頃退席されるという御連絡をいただいております。
現在、11名中9名の委員に御参加いただいておりまして、本委員会運営規則第2条に定めます定足数の過半数を満たしておりますことを御報告いたします。
なお、事務局に異動がございました。本日は参加しておりませんが、研究開発局長に、この1月1日より真先が着任しておりますことを御報告させていただきます。なお、事務局といたしましては、本日は文部科学省研究開発局海洋地球課長の大土井、専門官の宮原、私、廣瀬のほか、海洋地球課の関係者が出席しております。どうぞよろしくお願いいたします。
続きまして、配付資料の確認をさせていただきます。本日ですが、ヒアリング資料として資料1から資料4、また、前回の資料の修正版ということで資料5を配付させていただいております。また、参考資料1としまして、前回の委員会でお諮りいただきました運営規則につきまして、脱字がありましたので、それを修正したものを参考につけさせていただいております。御不明な点、不備等ございましたら、事務局までお願いいたします。
以上でございます。
【河村主査】 どうもありがとうございました。
それでは早速、本日の議題に入りたいと思います。本日は、海洋科学技術による持続可能な社会への貢献ということをテーマにしまして、気候変動問題への対応のために必要な取組、それから海洋生態系の理解、持続可能な利用・保全のために必要な取組という、この2つのテーマについてヒアリングを行いたいと思います。
まずは気候変動問題への対応のために必要な取組というところで、このテーマにつきましてはお二人の先生方から話題提供いただくことにしております。
最初に須賀委員のほうからお話を伺いたいと思いますので、須賀先生、どうぞよろしくお願いいたします。
【須賀委員】 おはようございます。では早速、始めさせていただきます。東北大学の須賀です。よろしくお願いいたします。
この海洋科学技術分野から気候変動問題への貢献として、気候変動とその影響に関するモニタリングと予測の精緻化・高度化というものを念頭に置いて、観測とデータの側面から必要な研究基盤、それから強化すべき取組について考えてみたいと思います。このような取組というのは国際的な協力が欠かせませんので、まず国際的な枠組みについてお話しいたします。次に国際的な課題と対応、最後に日本の現状と課題について述べたいと思います。
まず国際的な枠組みですが、気候に関わる国連機関のプログラムとしまして、UNESCO/IOC、それからWMO、国連環境計画、UN Environmentですね。それから、これは国連機関ではありませんが国際学術会議、これらの機関がスポンサーとなって、全球気候観測システム(GCOS)、それから全球海洋観測システム(GOOS)、世界気候研究計画(WCRP)が実施されております。このうちGCOSとGOOSが観測とデータの取得とその配付というものを担っていますので、この2つについて紹介したいと思います。国連の枠組みの立てつけとしては、GCOSとGOOSが観測して、そのデータを使ってWCRPが研究して、その研究成果をIPCCが評価するという、そういう三位一体になっているということです。
まずGCOSですけれども、全球気候観測システム、これはSecond World Climate Conferenceの結果として、1992年に開始されたプログラムです。気候問題に対処するために必要な観測、情報を入手して、これを全ての潜在的なユーザーが利用できるようにするということを目的としています。ただ、あらゆるものを観測するということはできませんので、必須気候変数、Essential Climate Variablesというものを定義して、これに基づいて全球気候観測の状況を定期的に評価して、その改善のためのガイダンスを作成するなどしています。これを気候変動枠組み条約の締約国会議にも報告しています。
このECV、Essential Climate Variablesですが、どういう観点でこれを決めているかというと、気候系にとって重要であるという関連性、その観測自体が実現可能であるという実現可能性、それから、持続的に幅広く観測しなければいけないものですから、費用対効果という観点も入れて、このECVを定義しています。具体的にどういうものがあるかというと、GCOSのウェブサイトに行くと、こういうページがありまして、これをクリックするとそれぞれの詳しい説明が出てくるんですけれども、具体的な変数としては、現在54の変数が、大気、陸域、海洋について定義されております。海洋については物理、生物地球化学、それから生物・生態系という具合に分類されていますが、このように定義されています。これらについて、その目的別に必要とされる観測頻度、空間解像度、精度などが特定されていて、これらを現場観測と衛星観測でカバーしようと、そういうことになっています。大気の変数に関しては、WMO、世界気象機関の統率の下、各国気象機関によって組織的に観測されるという体制がそれなりにあるわけなんですが、海洋の変数に関しては各国のボランタリーな貢献に依存しているということになっています。
次に、全球海洋観測システム、GOOSですが、これもGCOSと同じくSecond World Climate Conferenceの要請に応えて開始されたプログラムです。持続可能な開発、安全、福祉、繁栄に必要不可欠な情報を提供する、真にグローバルな海洋観測システムを目指すというのが目的で、重点分野として、気候、それから予報・警報、海の健康というものを掲げていまして、このうち気候というのはGCOSの海洋観測のコンポーネントに当たっています。ですからGCOSの海洋パートというのはGOOSが担うという形になっています。GOOSは2012年に大幅に組織改編しまして、その際にFramework for Ocean Observing、FOOというふうに言っていますけれども、これは海洋観測枠組みと、日本語にすればそうなると思うんですが、これを採用しまして、大幅に組織改編しました。その際に、このFOOの下では、必須気候変数に倣って、必須海洋変数というものを定義して、これを使って活動している状況です。
このFOOなんですけれども、この枠組みなんですが、どういうものかというと、非常にシンプルな、こういうコンセプトでして、いろいろな課題、社会的・科学的課題がありまして、この課題解決のために何を観測しなければいけないかということをまず検討して、これを必須海洋変数に落とし込んでいき、これを観測する観測網をデザインし、実現していって、ここから出てくるデータをアセンブルして、プロダクトもつくって課題の解決につなげていくと。課題への効果を観測にまたフィードバックするという形で観測網を最適化していくという、そういうコンセプトになっています。
これをGOOSは取り入れたわけです。GOOSはこれをどのように実施しているかというと、GOOSのステアリングコミッティー、運営委員会がありまして、その下に設置されている3つのパネル、物理・気候パネル、生物地球化学パネル、生物・生態系パネルがそれぞれ、何をどう測らなければいけないかというEOVの定義をいたしまして、それを実際観測するところでは、ステアリングコミッティーの下に置かれているObservations Coordination Group、OCGというものが、いろいろなオブザービングネットワークを調整するということをしています。それから、地域ごとの連携とか課題がいろいろありますので、それに当たるGOOS Regional Alliances、GRAと呼んでいますけれども、これが世界に10以上設置されています。それから、ここにナショナルオブザービングシステムが浮いている形になっているんですが、先ほど申しましたように、実際の観測というのは各国が実施しますので、この各国のオブザービングシステムというものが重要になってくるんですが、これが実は課題になっています。
ここは、ちょっと説明を加えますと、オブザービングネットワークには、例えばArgoであるとかGO-SHIP、前回河野委員が説明していただいたもの、そういう観測ネットワークが全て含まれていまして、新しいところですとOcean Glidersであるとか、あるいはバイオロギングを国際的にコーディネートしていこうというAniBOSというものも、これに含まれます。
GOOS Regional Alliancesには、ヨーロッパがEuroGOOSというものをやっていまして、これは非常に、このGOOS全体の枠組みをそのまま取り込んだようなといいますか、これを実現するような、それを意識したような活動をやっていまして、非常に存在感を発揮しています。一方、日本と中国、韓国、ロシアによるNEAR-GOOSというものも、かなり早く、一番早い段階でできたGRAなんですが、これは主にデータシェアリングというところに割と限定された活動をしているということで、GRAはたくさんあるんですけれども、その活動の範囲であるとか程度というのは今のところばらばらです。それから、このナショナルオブザービングシステムですが、これは国として、言わばナショナルGOOSという形でシステマチックにやっているところというのはまだ多くなくて、アメリカのIOOS、それからオーストラリアのIMOS、すみません、資料ではAMOSと書いてしまったんですが、IMOSです。Integrated Marine Observing Systemなどがあります。こういうものを設置している国というのは非常に存在感を発揮しているということが言えます。
このFOOというのは、各国のボランタリーベースの活動をうまく回す仕組みという側面があります。それから、これは上意下達の、一方通行のシステムというよりは、各コンポーネント間が双方向でやり取りしながらこれをうまく回していくと、そういう仕組みになっています。EOVは、具体的にはこういうものがGOOSのウェブサイトに行くとありまして、これをクリックすると、それぞれ詳しい説明が出ています。物理、生物地球化学、生物・生態系ということですね。この一部はECVと重なっているわけです。
これはデータから見た国際プログラムということで書きましたが、必須気候変数がありまして、大気と陸域と海洋に関するECV、ここにEOV、必須海洋変数がありまして、これはECVと一部重なっているわけです。ここがEOVでもありECVでもあるという変数になります。同じように、ほかの、例えばバイオダイバーシティーのプログラムのGEO BONですとか、Essential variables for Weather、WMOのEVWというもの、こういうものともそれぞれ重なり合っているということで、データというのは、いろいろなプログラムが重なっているところで取っているといいますか、このプログラム間の連携というのがそもそも必要な、そういう状況になっているということになります。GOOSとGCOSはかなり密接に連携してこれを進めているということが言えます。
課題ですけれども、GCOSが定期的に出しているステータスレポート2021、昨年のもので挙げてあるものとして、パリ協定の目標を達成するためには、物理的、化学的、生物学的なサイクルを追跡するECVというものを通じて知識のギャップに対処する必要があるとか、様々な脆弱性ごとに、それをちゃんと分解できるだけの観測がきちんと実施されているかどうかということを注意しなければいけないというようなことが全体的な課題として挙げられていて、特に海洋に関しては、オーバーターニングサーキュレーション、これは表層の水が深層水に変換されて、それがまた表層に戻ってくるというようなもの、例えばそういうものになるんですが、これが非常に熱とか炭素の大気との交換、そして地球気候を制御する重要な要因なんですけれども、これを直接測定するものはなくて、この辺の観測というのを非常に強化しなければいけないんだということ。それから、エネルギーサイクルということを考えたときには、海洋の熱吸収というのが非常に重要だけれども、例えば深層などについてはまだまだ観測が不十分であるということ。それから、炭素です。これも、海洋による炭素の取り込みというものに関してはまだ観測が不十分であるというようなことが課題として挙げられています。
GOOSの課題ですけれども、GOOSは、これはボランタリーベースでやっていますので、なかなかうまく回りません。ということで、GOOS 2030戦略というものを2019年に打ち出しまして、幅広いパートナーシップで観測の実現を目指すということを始めました。国連海洋科学の10年に3つのプログラムを提案していまして、Ocean Observing System Co-Design、これは観測システムの設計・評価プロセスの変革、先ほど示したFOOの実質化というような意味であります。それからObserving Together、これは観測者と受益者コミュニティーを結びつけて、海洋データへのアクセス・利用を変革しようというもの。それからCoastPredict、これは全球の沿岸海洋の観測と予測を変革していこうと、そういうプログラムを打ち出しています。
国際的な動向を簡単にまとめますと、科学と社会のニーズに応えるべき全球海洋観測システムを展開していると、そういうものが進行中であるということ。それから、従来、物理変数が中心だった観測を、生物地球化学変数、生態系の変数、それから沿岸域に拡張しようという動きが進んでいるということ。それから、観測とモデリングコミュニティーの連携体制がこれまで以上に整備されつつあるということ。それから、科学研究と技術開発が密接に連携しているという、そういうことも進みつつあるということです。それから研究とオペレーションの連携・フィードバック、これは前回の議論と重なってきますけれども、こういうことがある。FOOというものがこういうことを進めようとしているんですけれども、これを意識した国内体制であるとか地域協力体制を整備している国々がこういう動きをリードして、その中で先端的な研究成果も生み出されているという状況があります。
日本の現状と課題なんですけれども、日本は、いいところはあるんですけれども、科学研究と技術開発の密接な協働とか、海洋観測システムに対する戦略的な体制にちょっと欠けているということがあります。幾つか例を挙げますと、Argoとその拡張については継続的に貢献していて、前回報告ありましたけれども、Deep Argoについてはアメリカに次いで貢献しているということなんですが、BGC Argoについては、国レベルだとか地域レベルで目標を掲げて、観測からデータプロダクト作成までを戦略的に進めているアメリカとかヨーロッパに比べて遅れているということが言えます。それから、2,000メートル級、これは通常のフロートですけれども、この国産のフロートを持たないために、研究者と技術者あるいは民間が連携して、例えば生物地球化学センサーの開発や利用というものが進みにくい状況にあるということが言えます。それから、いい面としては、GO-SHIPとか、高精度の船舶観測に非常に大きな貢献をしていて、これはArgoにとっても非常に重要です。足りない面として、例えば水中グライダーのようなもの、新しい装置、これの継続的な運用が、部分的には始まっていますけれども、国レベルでこれを運用したり、新たにこれを実施しようとする人を支援するような仕組み、こういうものがアメリカとかオーストラリア、ヨーロッパに比べると遅れていて、例えばOcean Glidersという国際ネットワークにも積極的には関与していないということが言えます
こういうことを考えますと、FOOを意識してグローバルなデータ取得・プロダクトの作成に貢献しつつ、地域的あるいは国内的なニーズに対応した観測を組織的に行う必要があると言えます。言わばナショナルGOOSを立ち上げてやっていく必要があるんじゃないかと、課題はこのようにいろいろありますけれども、グローバルな課題、それから地域的あるいは国内的な課題に対応するような、そういうことをトータルに組織的に、戦略的に考えていく、そういうことをやっていかなければいけないのではないか。それから、ただ観測するだけではなくて、そのデータの品質管理からデータプロダクトの作成までのフローというものを強化していく必要があって、これを欧米が非常にシステマチックにやっているんですね。日本はこの辺の体制が弱いということが言えます。
それから、科学研究と技術開発、これが継続的に連携する仕組みが、ないといいますか、ちょっと弱いということがあります。それから、国際協力が不可欠で、国際的な枠組みの中で活動する必要があるんですけれども、これがなかなか、アメリカはもう世界の半分やっていますから、アメリカがやると国際コミュニティーはこれに追随するしかないという面があります。一方、ヨーロッパは、まずヨーロッパの中で国際連携の仕組みをつくってしまうんですね。それを世界に売り込むので、うまく世界と結びついてやれるんですが、日本が一国で何かやっても、なかなかこれ、広がりません。ですから、例えばアジア太平洋地域の連携を促進して、地域のリーダーとしてグローバルに発信していく、そういう体制が必要ではないかというふうに考えます。
以上です。
【河村主査】 須賀先生、どうもありがとうございました。
それでは、今の須賀先生のお話に皆さんから御質問等ございましたら、お願いいたします。
見延先生、お願いします。
【見延委員】 須賀先生、どうもありがとうございます。最後におっしゃっていた国際連携というのが、この日本では、観測に限らず非常に大事だと思うんですけど、海洋観測の場合に、かなり難しい、ほかの分野に比べても難しい事情を抱えているんじゃないかなと思います。国際連携は、海洋観測の場合、近い国と連携するのが、おっしゃっていたヨーロッパの例のように一般的なわけですけれど、日本の場合は近い国と領土問題等を抱えていて、なかなか中国、韓国と連携し難いという事情があるんじゃないかと思います。
そういうところで観測の国際連携、地域のリーダーになるというのはどのような方向をお考えかということをお聞かせ願えればと思います。
【須賀委員】 そうですね、なかなか難しい、これはNEAR-GOOSが、日本と中国と韓国とロシアでやっているわけなんですが、データシェアリングと、あと一部共同観測などをやっていますけれども、例えばこの4か国で連携して、ヨーロッパのようにArgoをこの4か国で連携して進めようということをやることはなかなか難しいんじゃないかと思うんです。ですからむしろ、それ以外の国との連携、太平洋地域、西部太平洋でもいいと思うんですが、東南アジアから太平洋島嶼国等を含めたような、そういうところでリーダーシップを発揮していくと。これは途上国へのキャパシティーディベロップメントという観点もありますので、その辺に力を入れていくというのが1つ大きな方向としてあり得るんじゃないかというふうに考えています。
【見延委員】 ありがとうございます。大変もっともな方向だと思います。
【河村主査】 それでは続いて、手を挙げた順番に指名させていただきます。
谷先生、お願いします。
【谷委員】 ありがとうございます。谷です。
質問なんですけれども、スライドの10ページだったと思いますが、GCOSから、オーバーターニングだとかエネルギーサイクルだとか、カーボンの取り込みだとかといって海洋に注文がついているんですが、GOOSのレスポンスというのはそれに対して応えるものではないように見えます。このGCOSが言ってきた3つというのは、かなり難しい話だと思うんですけど、それに対して、じゃあこれでやりますよということではなくて、今までの枠組みをもっと強化しましょう、みたいにしか見えないんですけど、GCOSに対する返事としてはどういうことが考えられているんでしょうか。
【須賀委員】 すみません、時間の都合もあって、その辺詳しく説明しなかったんですが、実はGCOSのこのサイクルをやりましょうということをパネルで議論しているんです。GCOSのパネル、海洋のパネルと陸域のパネルと大気のパネルがあるんですが、そのGCOSの海洋のパネルというのが、実はGOOSの海洋のパネルと同一なんです。ですからGCOSが言ってきたそのエネルギーサイクルというもの、そのままそれをGOOSに、そのままそれがそっくり来ています。GOOSのOcean Observing System Co-Designという、UNディケードのプログラムがありましたけれども、その中で、実際にサイクルをきちんとモニタリングするためには何をどう組み合わせて測らなければいけないかということを、1つの大きな例としてやっていこうというふうにしています。ということで、GCOSの要請を受けた活動を、そのままGOOSはやろうとしております。すみません、説明が不十分でした。
【谷委員】 ありがとうございました。
【河村主査】 それでは、河野先生、お願いします。
【河野(健)委員】 ありがとうございます。まず1点は、例えばOceanOPSなんかの図を須賀先生は御覧になっていると思いますけれども、北極域の重要性がうたわれている割に、GOOSは北極に関するコミットメントが非常に薄いような気がしているんですけれども、この辺りは重要性に鑑みてどのように考えているというのが1点。
もう一つは、ナショナルGOOSの件なんですけど、「ナショナル」がついてグローバルというのはちょっと言葉が矛盾するような気はしますが、日本としてGOOSにどう接していくかということの国としての方針を示す場ということだと理解しましたけれども、ユネスコのIOC分科会の下に専門部会がありますよね。そこがGOOSナショナルコミッティーの役割を果たすことにしないかという議論をしていたような記憶があるんですけれども、その後の進捗はあるんでしょうか。これが2つ目です。
【須賀委員】 ありがとうございます。北極域、それから南極もそうなんですけれども、極域で動きがありましたよね。極域をやろうとしているいろいろな、GOOS以外のプログラムとかプロジェクトがありまして、GOOSとしては、GOOSだけで何もかも全てできるわけではなくて、パートナーシップで実現しようとしていますので、北極域の重要性は認識していて、そこは注視しているんですけれども、今、北極をやろうとしているコミュニティーがあるので、そこをサポートといいますか、そこと結びついてやっていこうという形で、GOOSとして特にここをリードしてやるのではなく、調整していく、つまり連携と調整でここを対応しようというふうに今考えているところです。
南極もそうです。南極もSOOS、Southern Ocean Observing Systemというものが動いていますので、ここに頑張ってもらおうということで、パートナーシップでというところにそれが含まれているというふうに御理解ください。
それから、ナショナルコミッティーなんですが、そうですね、IOC分科会の下にある専門委員会でしたか専門部会が一応、日本のGOOSの活動に関するいろんな情報を集約するようなことを今担っていますけれども、ここではもう一歩進んで、より積極的に何をしていくかというところを含めて考えるような、そういうものが必要ではないかということで、日本でいろんな活動をしていますけれども、それが国際的な枠組みに対して、それぞれいろんな人が貢献して、結局その国際的な枠組みを通じて国内の活動に結びつくような、そういう立てつけになってしまっているんですね。アメリカとかオーストラリアとかヨーロッパなんかは国内で、それぞれの国あるいは地域の中で、自分たちでいろんなものを結びつけて、国内的にもそういうことをやっていて、それをすぽっとそのまま国際の枠組みに持ってくるようなことをやっているんですが、日本の場合は国内での結びつきがなくて、直接国際に行って、国際のほうで動いているということになっていて、なかなか全体を見通したような活動を国内的に打ち出しにくいというか、調整しにくいような、そういうことになっているんじゃないかと思うんです。そこのところをもう少しうまくできるような仕組みがあれば、もっと貢献できるし、日本のポテンシャルを生かせるし、存在感も発揮できるんじゃないかと、そういうニュアンスです。
【河野(健)委員】 分かりました。前者についてはSOOSに該当するようなものが北極にあればよくて、実はあるんですけど、GOOS側から見るとそんなに見えていないということなんですね。そこを推進することが大事という。
後者については、専門部会での議論をそういう方向に誘導するということでちょっと対応してみるというのはいかがですか。
【須賀委員】 そうですね、議論、ちょっと始めたんですが、なかなか難しい。現在、気象庁がGOOSのフォーカルポイントになっているんですが、気象庁は、今のようにGOOSが発展してくると、もうフォーカルポイント、気象庁では受けられませんとまで言っていて、この後どういうふうにしていくかというのを議論しなければいけないというふうに考えています。
【河村主査】 よろしいでしょうか。
それでは、次、河野真理子先生、お願いします。
【河野(真)委員】 早稲田大学の河野でございます。御報告ありがとうございました。
2点伺いたいと思います。1点目は、先ほどの河野先生の御質問の2つ目とほぼ同じですが、ナショナルGOOSが日本でうまくいかない理由をお教えいただきたいと思います。特に、オーストラリアとかアメリカで、国内とグローバルとで、違う目的でデータが使われているのでしょうか。これを伺います理由は、国際貢献、グローバルな海洋観測への貢献という説明だけでは、なかなかナショナルGOOSというのはうまくいかないのではないかと感じるからです。実は国内においても十分に有用なものではないかと思います。そのように説明すれば、日本の国内の問題にもそのデータが活用できる可能性があるように思います。その辺りをうまく説明すると、日本の国内でも十分に意味のあるデータとなり得、かつ同時に、別の目的であるグローバルなものにも貢献するものとなる、そのような2通りの機能を分けて説明をすることが必要なのではないかと思いました。もしこのような区別が可能なのであれば、アメリカやオーストラリアでは何らかの説明がなされているのかを伺いたいと思いました。
第二に、先ほどおっしゃられたアジア太平洋の島嶼国、それから東南アジア諸国との連携ということについての質問です。ここで必要な、GOOSの下での観測をしていく知見というのは、どの程度人材とそれから機器が必要なのか。それから、特に東南アジアや島嶼国で、その能力がどれぐらい今現状あるのか。日本が東南アジア諸国や島嶼国との協力を考えるときに、キャパシティーがまだ十分ではないということであれば、キャパシティービルディングに関する援助を積極的に行うことが必要ではないかと思います。また、援助の際、ナショナルGOOSの意味をきちんと説明し、それぞれの国にもグローバルにも貢献するんだということを説明して、協力体制を構築していく、しかもその際に、日本の技術との関わりでの構築に努めるということが必要な気がいたします。この意味でも、1つ目のナショナルGOOSの意義について、国内でどう説明されるのかを知りたいと思います。グローバルに意味があることは当然だと思いますので、まず第一に、その点を教えていただきたいと思います。また第二の点の各東南アジア諸国、島嶼国の現状のキャパシティーの状況について教えていただければと思います。ありがとうございました。
【須賀委員】 御質問ありがとうございます。今御指摘いただいた点、まさにそのとおりといいますか、今、河野さんおっしゃったとおりのことをやらなければいけないと。ですから、国際的に貢献するというだけでは、これはもう回らないんですね、結局国がリソースを割いていくわけですから、その国のためにならないことはどこもやらないわけです。ですから、アメリカ、オーストラリア、それからヨーロッパというのは、自分たちのためになることをやりつつ、それが国際的にも貢献するという形にうまく持っていく、ですから逆に言うと、自分たちがやっていることがうまく乗っかるように国際的な仕組みをつくっていくということをやっているんです。そういうことをやらないと、なかなかうまく国際貢献していけないといいますか、仕組みづくりをほかの国がやってしまって、それに乗っかるだけになってしまっているというのが今の日本の状況ではないかと思います。
ですから、日本は日本として、日本のために必要な海洋観測であるとかその活用というものを国内的に考えて、それをベースにといいますか、そのグッドプラクティスといいますか、データをこういうふうに収集してプロダクトをつくって活用するというのをやりながら、それを国際的な仕組みに生かしていくというか、国際的な仕組みをむしろそれに寄せていくような、そういう発信をしていくということが多分ナショナルGOOSの役割になるのではないかと思います。これはみんなでやりましょうと決まってしまったことは、それは貢献するのは当然なんですが、それをつくっていく、どういう仕組み、枠組みにしていくかということをやっていくためにもナショナルGOOSをつくらないと、後追いだけになってしまうと、そういうことです。ですから、まさに御指摘いただいたとおりのことで、アメリカとかオーストラリアというのは、まさにそれをやっているんですね。オーストラリアなんていうのは農業国で、海洋観測というのが非常に重要で、自分たちの農業のためにこういう観測が必要だというところから始まって、それを国際的に発信していっていると、そういうことになっています。
太平洋地域での連携ということで言いますと、やはり海洋観測というのは、なかなか技術的にも、あとそのデータの活用という意味でも遅れている国が多いです。そこに対してはやはりキャパビルが非常に重要で、その際に、やはり日本の技術――技術というのはデータプロダクトの作成であるとか、その活用というものもありますし、あるいは、できればハード面でも日本が技術的に貢献していけるような、そういう形に持っていくと非常にいいかなと。太平洋地域でやはり日本がリードしてこういうことをやっているというふうになると、それが国際的にも発展していきやすくなるということで、まさにおっしゃっていただいたような点を私も念頭に置いて、今報告させていただいたところでした。ありがとうございます。
【河村主査】 ありがとうございました。
では、阪口先生、お願いします。
【阪口委員】 海洋政策研究所の阪口です。須賀先生、本当に報告ありがとうございました。
私からの質問は、シンプルに、ハードウエアに関してです。今、最後のほうの須賀先生のお答えの中にもございました。御説明の中でも、Argoに関しては、我が国は非常に大きな貢献をしています。他方、グライダー、それからセイルドローン等、無人観測に関しまして我が国は大幅に遅れているというお話で、また、そのコミュニティーにもあまり積極的に参加していないというお話でした。
まず私の質問は、これはなぜそのような状況に陥ったかということと、それから今後、もう手後れだから諸外国の製品を買ったり活用したりする方向がよいのか。それとも、やはり我が国は海洋国であるので、この無人観測のハードウエアに関して、もう少し予算も投入し、力も投入し、そして技術を合わせて進めていくべきなのか、この辺の御見解についてお聞かせいただけますと幸いです。よろしくお願いします。
【須賀委員】 ありがとうございます。これ、手後れということはないと思います。後発でいろいろやった、例えばフロートに関しても、日本は2,000メートル級のフロートは今ないんですね。これをやった国を見ると、後追いで、既にあるものを分解して調べて、それを改良してやるということをやってきた国、フランスなんかも半ばそういうところもあったと思うんですが、それでやってこれていますので、これから先、10年、20年ということを考えた場合には、やはり今からでもやったほうがいいんじゃないかと思います。グライダー等に関しても同様です。
というのは、やはり、ある研究コミュニティーがあって、その研究コミュニティーがこういう観測をしたいと思ったときに、その微妙な調整とか、今、日本でも大気海洋研究所の安田一郎さんが乱流観測をやろうというふうに考えていますけれども、例えばそういうことをやろうと思ったときに、日本の測器があって、日本のセンサーメーカーがいてという状況だと、それをやりやすいんですね。新しいものを開発するということをやりやすいんですが、これがないと、せっかくいいセンサーをもし開発したとしても、それをつけるプラットフォームが外国製だったりすると、なかなかそこでうまくいかない。ハードルが高くて進まないということがあり得ますので、これから先のことを考えると、やはり日本でプラットフォームをきちんと自前で持つ努力をして、センサーの開発とそこを結びつけていく。それが研究者コミュニティーと結びついて、いい研究をするためにこういうものが必要だというニーズに合わせて、沿った形でそれを回していくというような、そういう形にするということが、やはり長い目で見た場合には必要ではないかと。だからそこを目指すべきではないかというのが私の意見とさせていただきます。
【阪口委員】 須賀先生、大変貴重な御意見ありがとうございました。
【河村主査】 須賀先生、どうもありがとうございました。時間もありますので、次のテーマに移りたいと思います。どうもありがとうございました。
それでは続きまして、気象研究所の辻野博之室長からお話を伺いたいと思います。辻野先生、どうぞよろしくお願いします。
【辻野室長】 気象研究所の辻野と申します。本日は、気候変動問題への対応のために必要な取組についての話題提供ということで、予測、シミュレーションの観点から話題提供させていただきます。基本的には、私は実務者的な立場にいる人間ですので、実務者から見た学術界という感じ、イメージになるのかもしれませんが、現状を概観した後に、今後10年に期待される進展と達成に向けた課題ということで話題提供させていただきます。
気候変動に関連して注目されている海洋の変化ということになりますが、化石燃料の燃焼による二酸化炭素排出に起因して、以下のような海洋の変化が生じており、今後の推移の予測と緩和・適応策等の検討が求められています。物理的環境としては、海水自体の温暖化です。よく言われるのが、平均水温分布、平面的に見た水温分布が移動して、生物適応は追いつくのかどうかといったところです。あと例えば、最近言われるのは海洋熱波といって、これは水温異常が1週間以上、1か月程度続くような現象をいいます。平均海面水位上昇、特に平均的海面水位というよりは、高潮等の顕著現象が生じたときの最高水位がどのようになるかといったことが注目されています。あと、先ほど須賀先生からもお話のあった海洋循環です。鉛直循環、鉛直成層、また沿岸域の湧昇とか、そういったところです。あと海氷減少、特に北極海の海氷減少等が注目されています。
生物地球化学的環境としては、人為起源二酸化炭素吸収による海洋酸性化であるとか、そうした場合に、炭酸カルシウム等の殻を持つ海洋生物への影響が懸念されております。海洋貧酸素化といいますと、水温上昇で酸素が溶けにくくなったり鉛直混合が抑制されることで、海の中の酸素が欠乏することで生物生育環境への影響が懸念されていると。あと、表層海洋への栄養塩供給減少ということで、植物プランクトン基礎生産量への影響等が懸念されているところです。
こういった問題に対応するために、ほとんどの気候学者は、CMIPといいまして、IPCCの報告書に科学的根拠を提供する結合モデル相互比較プロジェクトというのが本当に大きく国際的に展開されておりまして、結合モデル、地球システムモデルを使って予測するわけですが、海洋モデルはその構成要素ということになっています。いずれにしてもこれがWCRPが推進する気候変動研究の中核となっておりまして、こことの関わり合いなしになかなか海洋の気候変動研究は進められないというか、逆に言うと、こういうのを利用して進めていく必要があるということになります。
具体的には、参加機関はプロトコルにのっとって――プロトコルというのは、実験をこのようにして、同じ条件で実施しなさいというプロトコルですが、そのルールに従って結合モデルシミュレーションを実施して、データを提供します。工業化前、産業革命前の状況、及び過去から現在までの再現計算というのが必須条件でして、それに加えて、ちょっと字が小さくて申し訳ないんですけれども、社会経済シナリオ経路、SSPと呼ばれますが、それを設定して、それに伴う温室効果ガスの排出量とその濃度を大体2100年くらいまで設定、例えばこれがCO2でしたら、上が排出で、その下に示した濃度、想定濃度を与えて、それで実験、将来予測まで行うといった、同じモデル設定で行う、継続的に行うという、そういったものが参加要件として指定されて、それに皆さん従って予測計算をするということになります。
それを基に、気候感度の評価であるとか、バイアスの特定とか、あと変動メカニズムの解明、科学的な側面を目的としたendorsed MIPs、承認されたモデルインターコンパリソン、モデル相互比較といったものがすごくたくさん設定されておりまして、その中でも海洋が特に強く関与するMIPsというのが、こういった領域高解像度、海洋・海氷、将来予測、近未来、炭素循環とかといったことがあります。
我が国からは、主に2つのグループが初期から貢献しております。東京大学の大気海洋研究所、海洋研究開発機構、環境研究所、これが1つのグループを形成しています。もう一つは気象庁気象研究所のほうのグループが貢献しております。
この地球システムモデル、結合モデルというものは、先ほど最初に挙げました海洋の気候変化指標の予測ができるように設定されております。ただ、生物地球化学のほうについては、ちょっとオプション的な扱いになっておりまして、全体では60モデルがCMIP6については参加したんですけれども、一番最近の相互比較には60くらい、国際的に参加したんですが、そのうちの半分くらいが海洋生物地球化学モデルを持っています。日本の2グループもしっかり持っています。
それによって、例えば海洋熱波の頻度であれば、今から比べると、想定した社会経済経路にもよりますが、5倍程度になったり、10倍程度になったりであるとか、あと大西洋の大規模南北鉛直循環がだんだん弱くなるであるとか、溶存酸素量が低くなる、pHが下がることで酸性化が進むといったことが予測できることになっています。
ただ、ここにもお示ししましたとおり、このシェードの範囲が、モデルの相違による予測値のばらつきということで、非常に大きいということで、信頼性の評価とか不確実性の低減といったものも、こういったデータを使ってどのように不確実性の範囲を評価し、また限定するのかといったことも課題になっておりますし、そういった意味では、例えば現在、過去の再現性がどれだけできたかといったことが非常に重要になりますので、それが評価の指標になりますから、過去を再現するようなデータとモデルを統合したような長期再解析データセットといったものも望まれる状況かなと考えております。
今度はもう少し海洋のほうの話に限定していきますと、地球システムモデルを用いて、この実験プロトコルに従ってモデル相互比較を行うんですが、それを行うのに対する実験量が非常に膨大でして、海洋モデルを高い分解能で設定することは困難です。ここに示したのが最新のIPCC AR6に載せられた図、テクニカルサマリーのほうにあったんですけれども……、すみません、第1章です。海洋のレゾリューションのほうがこれに書いてあって、CMIP5、前期のほうだと、75キロより、もう80キロぐらいですね、水平解像度が。それに対してCMIP6では75キロということで、あまり進展が見られませんでした。ただ、CMIP6からHighResMIP、高解像度モデル比較といったのものも企画されて、その中ではかなり高解像度が設定されたんですが、このような実験ですと、なかなか予測実験数や予測実験の種類、先ほどたくさんの実験が設定されていると言いましたけど、それがなかなかできませんので、ほとんどの実験はこちらの低解像度のほうで行われるんですけれども、水平格子が50キロ以上の海洋モデルというのは、どちらかというと海洋学的には低解像度に分類されて、これが100キロくらいの格子の解像度のモデルだと、こんな感じに海面高度が見えて、黒潮とかもあるんですがちょっと弱いとか、いろいろあるんですけれども、水平解像度が10キロになると、黒潮とか、あと親潮がしっかり、南下してくるとか、黒潮が日本の沖合で東に流れていく、ちょっとこれから流れを想像するのは難しい、これは流線関数というか、高いところの周りに時計回りに回るというようなものなんですけれども、そういったものがあって、非常に100キロと10キロではモデルに表れる海の様相が違ってきます。
そういったことで、中規模渦とか黒潮などの西岸境界流を十分表現するには水平解像度10キロ程度が必要とされていて、さすがに、低解像度とパラメタリゼーションでもかなりできることはできるんですけれども、なかなかこういうものを直接表現するという意味では限界があるといったことで、CMIP6のほとんどの計算が50キロ以上で行われているといったことは、黒潮がちゃんと表れていないということになってしまいます。
そこで使われるのが領域モデリングということになるんですが、どちらかというと今度は影響評価というような、気候変動予測というよりは、気候変動の影響評価という位置付けで研究がなされることが多いんですけれども、日本周辺の黒潮や親潮は100キロ幅の強い海流ですので、それを解像するには、例えば10キロくらいが必要ということ。あと日本海とか対馬海峡とかといった縁辺海と太平洋をつなぐ海峡が狭い、海岸地形も複雑ですので、その辺の流れをしっかり解像するには、やはり水平解像度10キロメートル程度、それより高い解像度の領域海洋モデルによるダウンスケーリングが必要ということになります。
こういった手法は気象のほうでも、日本付近の気候変動予測といったことで導入済みの技術ですが、具体的には全球モデルの中に、例えば領域モデルを設定して動かす、側面境界条件を全球モデル等から与えて動かすわけです。その際に、ただモデルのソフトウエアを持ってきて動かせばいいというわけではなくて、対象海域特有の現象の理解とか再現技術、例えば黒潮や親潮の流路であるとか、特に黒潮の大蛇行というのは非常に、高解像度モデルをもってしても再現が難しい問題になっています。あと、沿岸域や海峡等で生じる強い流れ、河川からの栄養供給等に生物地球化学プロセス、こういったものもできればちゃんと再現して、領域の影響評価に使いたいというところになると思います。
具体例としては、こうした実験も結局のところ、先ほどから紹介しているCMIP、相互比較プロジェクトの、大きな全球のほうの結果を活用する形で進められています。上のほうに示したのはCMIP5に参加した複数モデルによる、低排出シナリオが左で、高排出シナリオにおける海面水温の変化が21世紀末にどうなっているかといったものを示したもので、このような変化が生じるというのを領域モデルで表現したりとか、あと、こちらは生物地球化学パラメーターが、低排出の緑と高排出の赤のほうでどのようになるか、季節変動がどうなるかといったことで、水温は上がるし、pHも非常に下がって酸性化が進む。あと酸素も溶存量が減る、あとオメガアラゴナイトといって、炭酸カルシウム結晶が平衡状態になって溶け出すほうに近くなるという状態の、この黄色の危険域に入ってくるようなことがあるとか、そういったことが領域モデルで日本付近に限定して解くことができて、そういった形で研究が進められています。
あともう一つ、予測データの利活用についてですけれども、CMIP5の予測データは、先ほどお伝えしましたとおり、60くらいの国際的なモデルが参加しているんですけれども、これを集積して検索できるサイトというのがEarth System Grid Federationという形で運営されておりまして、データファイルやその構成からファイルの名前のつけ方に至るまで共通のルールに従って作成されていますので、こうやって一々、データ提供元のルール、名付けとか、要するに変数にどのような名前をつけるかとか、データファイルにどのような名前をつけるかといったことに共通のルールがあることで、非常に利用者としては利用しやすい状況になっている。こういうルールづくりは非常に大変だと思うんですが、リーダーシップとかを取られてこういったことができていて、それが基本的にCMIPのデータの広範な流通とか、あと気候予測、ビッグデータを用いた気候研究の進展に多大な貢献をしているし、今後もこうした貢献を続けるのは確実であるということです。我が国の海洋気候変動研究、例えば先ほど申し上げました領域モデル出力の提供というのは、このCMIPの傘に入っていないので、その辺も独自に、ちゃんと国内でもルールをつくって、こうした手法を参考にデータ提供基盤を整備すると科学が進むのではないのかなというふうに考えております。
あと、研究インフラについてちょっと御紹介しますと、海洋モデルのソースコードについては、結合モデルに使われる汎用海洋モデルとして2つ、先ほど紹介したグループがそれぞれ別の海洋モデルを維持管理しております。それぞれ物理モデルに加え、生物地球化学過程が入っており、実用的にはおおむね足りているものと認識しているんですが、継続的に性能向上へ向けた取組は必要という状況かと思います。
あと領域モデリングについては、米国で開発されているRegional Ocean Modeling Systemといったものが結構広く利用されていて、オープンソースであり利用者が多いとか、ユーザーがたくさんいることで、生物地球化学モデルとか様々な要素モデルが着脱可能、要するに使いやすいというか、あとオープンソースであるといったところの理由で広く使われているようです。
まずこうしたソースコードが予測用の基本インフラで、計算機資源については、各研究機関の大型計算機に加え、文科省さんのプロジェクトとかですと、地球シミュレータが使えます。そういった意味で、計算機資源の制約については、各研究計画の阻害になるようなという意味では顕在化していないんですけれども、ただ、世界の先例になるような、例えば海洋10キロ、大気を20キロで、台風がどんどんちゃんとできるような、そういった解像度は大気20キロが必要なんですが、それを結合で解くとか、そういった予測計算がコンプリヘンシブにコミュニティー全体で計画されているというわけでもないと、そんな状況です。CMIPの計算はできるんだけど、ワンタイムというか、もうとにかく全資源を集中してというようなことまでは計画されているわけではないという状況です。
あとデータサーバーについては、先ほど言ったESGF等、国際研究プログラムに乗っかるという形のものがほとんどなんですが、日本にはちゃんとDIASといった、この国際プログラムの中の一翼をなしているようなサーバーも運営されていて、この辺をうまく使っていくというのと、今後の活用に期待されるかなというところです。
最後に、今後10年間に期待される進展と達成に向けた課題ということで、気候変動問題の社会的な認知とか問題意識が進む中で、海洋気候科学も、今まで科学といった感じでしたけど、どちらかというと実用的な面での進展も必要になるのかなと思います。この先10年くらいだとこんな感じで、未確定、全くこの辺は確定していないんですけれども、IPCCのAR7に向けて準備を進めたりとか、日本の中でも文科省さんとか、あと環境省さんとかの主導するナショナルレポートだったりとか、あとGlobal Stocktakeといって、これはパリ協定に基づくものだと思うんですけれども、どれだけ二酸化炭素を出しましたかといったことの国際的な評価が5年おきに行われるといった状況です。
今後10年に関しては、まずはCMIP6です。AR6のためにたくさんの予測実験が行われたCMIP6を使った海洋気候変動研究の推進・影響評価手法の開発といったことで、モデルの誤差評価とかプロセス研究の成果に基づいて予測結果を評価、選別して、不確実性低減をしていくというような手法が今後確立されることが期待されます。あとダウンスケーリングです。あと、ビッグデータとか、いわゆるAI等を活用したパターン認識等、そういったことを使った影響評価研究。
CMIP7に備えた予測モデルの開発といったことですと、CMIP6の経験を踏まえた改良、特に大気海洋結合モデルのバイアスを低減するといったことが必要になるかなと思っております。日本付近の影響評価に関しては、先ほど言ったように黒潮とか親潮とか、そういったことをきちんと表現できるようなモデルの開発改良が行われる必要があるかなと。あと近未来予測です。10年、20年後というのは非常に、今後を考えても重要な予測テーマになってきますので、実はその場合、海洋モデルが無理に今の状態をつくると、予測の初期状態から、予測の初期にドリフトしてしまうので、その辺の低減が必要。あと海面水位上昇の予測に関しては、海洋だけでは閉じない部分がありますので、雪氷圏からの融け出しとかといったものの導入も重要なので、ほかのコミュニティーともコミュニケーションを取る必要がある。あと若手人材の育成も期待したいところです。
字ばかりで申し訳ないんですけれども、カーボンニュートラル等の社会実装に対する予測モデルの開発といったことで、炭素循環プロセスをしっかり理解するといったところと、気候制御の実効性を評価するための定量的な、実用的なモデルの開発とか、炭素量、生物・生態系改変等によるCO2固定の変化を定量化できるモデルの開発とか、そういったことが必要になるかなと。あと、特に生物地球化学のほうについては、データをモデルに統合化したナウキャストみたいな技術があると、非常にいろいろ役に立つのではないかなと思います。
データ研究基盤、研究インフラについてですけれども、先ほどちょっと申しましたとおり、国内で実施された予測データ等を広く流通させる仕組みです。研究者だけでなく、もう少し利活用、ほかのセクターの方に利用していただけるようなデータプロダクトを創出することが必要でしょうと。あと、研究プロジェクト等で取得されたプロセスレベルのキャンペーン観測みたいなものについてもすぐ流通していただけると、モデルのほうでちょっと使ってみようかな、検証に使おうかなといったことで使えることも多いのかなと。あと、先ほどから申しましたとおり、モデルの評価に当たっては長期再解析データが非常に重要ですので、それが再解析の品質を維持できるような観測体制の構築であるとか、そういったデータ作成の専門家の育成等が求められるかなと思います。
こちらに、そういったデータの取得体制に対するモデル、実務者からのお願いというか、これからやるといいのではないかといったところのことについてまとめております。時間もありますので、こちらについては割愛ということで、私の話題提供はここまでということにしたいと思います。
【河村主査】 辻野先生、どうもありがとうございました。
では、辻野の先生のお話に御質問ありましたらお願いします。
では、見延先生、お願いします。
【見延委員】 北海道大学の見延です。辻野先生、どうもありがとうございました。
こういう大量のデータが数値計算から生成される時代に、そのデータの利活用というのは非常に重要だと思うんですけど、そのときにESGFのような、ダウンロードして、ユーザー側のコンピューターにおいて解析するというのは、もうちょっと不可能になりつつあるんじゃないかと。今、例えばイギリスではJASMINというサーバーをつくって、アカウントをもらって、その上で解析すると。実は我々もJASMINにアカウントをもらって解析をしています。そうすると我々は、日本のではなくてヨーロッパの高解像度気候モデルデータを解析するということがもう既に起こってしまっていてます。日本もデータ提供サーバーじゃなくて、ユーザーが自前のスクリプトを走らせることができるデータ解析サーバーを置かないと、これからアメリカあるいは中国も、そういうようなデータ解析サーバーをつくって、海外の有力な研究者にそのアカウントを持たせるという戦略を取ってきた場合に、日本の研究が空洞化してしまうのではないかと思うんですね。そういうところについて辻野さんはどのようにお考えか、お聞かせいただければと思います。
【辻野室長】 見延先生のおっしゃるとおりかと思います。今だとクラウドとか、いわゆるデータがどこにあるかというのをあまり意識せずに、サーバーで解析できるという時代が今後どんどん進んでいくと思いますので、そういったソフトウエアも含め、そういう研究インフラというのはどんどん整備していく必要があると思います。あとは、先ほど言ったように、特に日本付近の領域予測については、特にそういったニーズがあると思いますので、国の事業としてそういった整備を考えていくと非常に科学の発展に寄与するのではないのかなと思います。
【見延委員】 そうですね、日本の超高解像度のダウンスケーリングデータは非常に価値が高いと思うんですけど、やっぱりそれをダウンロードして解析するというんだと非常に負荷が高いので、いろんなことにトライしづらいですね、かなり確実なことじゃないとできないと。ですからやっぱりダウンロードせずに解析できるような方向だと、その活用が一層進むだろうと思います。
どうも辻野さん、ありがとうございました。
【辻野室長】 ありがとうございます。
【河村主査】 続いて、では、谷先生、お願いします。
【谷委員】 ありがとうございます。谷です。辻野先生、大変ありがとうございました。
計算機がボトルネックには取りあえずなっていないという御説明だったんですが、ただ、海洋10キロ、大気20キロだと台風がぼこぼこ見えるというようなお話ございましたけれども、こういったのは、計算機のリミットはここだから75キロでやめましょうではなくて、この現象を見るためにこれだけのグリッドサイズにすべきであるから、したがって計算資源がこれだけ欲しいよという話じゃないかなと思うんです。そうすると計算機は十分ボトルネックがあって、今はやりたい放題にはできていないということじゃないかと思うんです。
日本は、地形もそうですけれども、海洋も、地球全体から見たよりも現象のスケールが細かいので、先ほど須賀先生おっしゃっていましたけれども、日本の都合に合わせたような提案を世界にしていかないといけなくて、黒潮とか親潮とか、黒潮のエクステンションとか、いろんな細かい現象が見えるような大きさのモデルで世界を動かしましょうぜ、という提案ができなければいけないのではないかと思うんです。
その点で、現在の計算機のリソースは、あとどのぐらい増えればいいんでしょうか。特にバイオとかケミカルで負荷が増えるかもしれないんですけど、それは何倍ぐらい計算量が増えるのかなというのが、よく分からないんですけど、その辺教えていただけますでしょうか。
【辻野室長】 ありがとうございます。まず最初の、ハイスペックの、台風とか黒潮とかが全て出るようなモデルということになりますと、CMIP6とかでも、HighResMIPといって、高解像度のモデルを特定の条件でだけ動かして比較するといったものがあって、それにも参加できる状態くらいのリソースはあるんですけれども、それを、例えば将来シナリオを、一番排出がひどかった場合とか、あと1.5度目標に抑えられた場合とか、いろんな実験、しかもアンサンブル数を1つの実験について100やらないといけないとかなっていると、とてもじゃないけどできないという、そういったのが実質的な状況で、そういった意味で、ただ研究者としては、そういったところ、計算機がないからなかなか発想が出てこないということだとしたら、それはあんまりよくないので、その辺は研究者の側からボトムアップでどんどん要求していくべきかなと思います。
ただ、そこにバイオジオケミカルが入ってくると、大体4倍から5倍くらいになりますね、なかった場合と比べますと。なかなかそういう状況では、選択と集中とかという言葉はあんまり研究者は好まないのか、どうかよく分かりませんけれども、みんなで倒れちゃうという、ちょっと怖い部分があるので、皆さん二の足を踏むのかもしれないけど、その辺のことで、1回大きなプロジェクトで、そういう全てを入れた、もう本当に高解像度で、全てを入れた実験を1回ちょっとやってみましょうというのはありなのかもしれません。その上で予算が下りるかどうかというのは、また別の問題で検討されるのかなと思っております。
【谷委員】 ありがとうございます。
【河村主査】 では、阪口先生、お願いします。
【阪口委員】 海洋政策研究所の阪口です。辻野さん、どうもありがとうございました。
私は、ちょっと今の議論、谷さんと辻野さんの議論について少しコメントしたいことがあるんですけれども、今日の一番最初の須賀先生のお話でも、国内での協働というのがいま一つ足りていないというのが今の日本の特徴ではないかという須賀先生のお話があったんですけれども、今の点も全く一緒で、例えば計算資源に関しては、「京」、それから「富岳」と、どんどんどんどん大きくなって、計算資源に関しては、実は我が国は、あると言えばあるんですよね。ところが、「富岳」のプロジェクトを見ていただいたら分かると思いますように、大気、海洋、それから気候変動のプロジェクトというのが、「富岳」のプロジェクトではもう全く入っていないんです。
というのは、我が国の計算資源はどんどん大きくなっていっているのに、研究者がばらばらにやるために、プロジェクトの大きさと重要性というのがアピールできていないと私は思うんですよ。ノーベル賞が出た分野であるにもかかわらずこのような状況というのは、ちょっとやっぱりコミュニティーの、全体としての取り組み方というか、戦略がいまいちうまくいっていない。これはだから観測だけの問題ではなく、予測の問題に対しても同じことが言えると私は思うんです。
なので、今日お話いただいた点は非常に重要なポイントで、須賀先生のポイントも加味して、これはもう、1回本当にちゃんと、10キロ、それから大気20キロで、そこにバイオも入れたものをばしっと出して、我が国のデータが、海外が使えると、使いたくなるというようなものを、そのアンサンブルも100回だったら100回やるということを、個人レベルではなく、国レベルでやっぱり進めていくべきだと思うんですよね。
そのための枠組みをどうしていくかということを、やはり、このような場、今日本当に大御所の先生たちがたくさん集まっておられますので、ぜひこれを進めて、海洋地球課も含めてやっていかないと、個人の努力に頼れば頼るほど、どんどん粒度が小さくなっていって、ますますできなくなる。他方、我が国のスパコン行政というのは、割としっかりしたもので、大きなものが結構あるわけですから、やっぱりそこをうまく使えるような方策を考えていくべきじゃないかと私は思います。
以上です。
【河村主査】 阪口さん、ありがとうございました。
河野さん、お願いします。
【河野(健)委員】 JAMSTECの河野です。御発表ありがとうございました。
その中で、今、データ流通基盤を整えることが望まれるという内容の御発表だったと思います。その一方で日本にはDIASがあって、これを活用することが大事だと。見延先生のようなことができるのが理想なのかもしれませんが、それはおくとしても、まだ国内にある使えるデータを十分DIASに、DIASから見てアクセスできるような状況にはなっていない、そこがまだ不足しているというような御指摘でしょうか。あるいは、端的に言ってDIASに何が足りないとかいう、何かアイデアがございましたらお願いします。
【辻野室長】 河野先生、ありがとうございます。私は基本的には、DIASといいますと、日本の気候予測データを置かせていただいて、それを世界に流通しているし、我々も使うという形で、そういった意味でとても重宝しているし、今後も期待しているところなんですけれども、海洋の観測データ等についてはどうなんでしょうか。ちょっとその辺は、何というか、データ置場としてはどうなのかなといったところはまだあって、どちらかというとDIASのほうからいろいろ発信していただいて、こういうデータがあるよとか、こういうデータからこういうプロダクトがつくられましたよとか、そういった宣伝とかをしていただけると、もっと認知度が上がって、もっと利用が進んでという、そういった感じになって、ユーザーフィードバックもあってとかというような感じになると、いわゆる利用の活性化みたいなものについては、まだもうちょっと、認知度が低いかもしれないというふうに思っておりまして、その辺期待するところは大きいかなと思っております。
【河野(健)委員】 ありがとうございました。確かにDIASは単なるデータ置場ではないという思想の下にこれまで設計されてきていると思いますので、そういう意味では観測データを即座に入手できるようなプラットフォームというわけでは確かにないです。
承知しました。ありがとうございました。理解しました。
【辻野室長】 よろしくお願いいたします。
【河村主査】 どうもありがとうございます。
大土井課長から。
【大土井海洋地球課長】 すみません、事務局でありながら発言、ありがとうございます。
先ほど阪口先生が話をしたことは、まさにおっしゃるとおりでございます。この場で、例えば気候変動予測で、国としてこれが必要だというのであるならば、地球シミュレータの計算資源、やっぱり集中して、一気にがっとやってしまうということは、方向性としてあり得ると思います。ぜひそういった議論をこの場で先生方にやっていただきたいなと思っております。
1点だけ、ちょっと細かいというか、素人質問で申し訳ないですが、さっき谷先生もおっしゃったとおり、海洋、大気、それぞれメッシュを小さくするという方向性があると思うんですけれども、ボトルネックは、データがないのか計算資源がないのか、あるいはマシンタイムがそもそも足りないのか、どれになるんでしょうか。一番のネックは何でしょうか。
【辻野室長】 御意見ありがとうございます。そういった意味では、「富岳」とかを使わせていただけるとかとなれば、計算自体はできるんだろうと思います。ただ、一番自分が心配なのは、何というか、そういう経験を今の我々の実務者が、そういった経験をあんまりたくさんしていませんので、大計算をした結果どうなるかといったところはまだちょっと、まだ自信がないところがあって、その辺の調査をしっかり進めて、例えば全球10キロにして100年、200年動かしてといったところまでは多分世界でもなかなかされていない状況で、どのようになっていくのか。どのような状況になっていくのかといったところは、まだちょっとモデラーのほう、モデルを動かすほうで経験を積んでいかなければいけない部分もありまして、その辺も難しい点かとは思っています。計算はできるんだけれども、もう少し試行錯誤の結果、国家プロジェクトとして何か中心データを出すような意味での精度を出すところまでは、またもう一段階、経験とノウハウが必要というふうな感じに考えています。
【大土井海洋地球課長】 取りあえず状況は分かりました。助かります。ありがとうございます。
【河村主査】 見延先生、お願いします。
【見延委員】 今のポイントは、必要な計算資源が10倍なのか100倍なのか1,000倍なのかということがあるかと思うんですけど、1,000倍になると、「富岳」を使っても多分全然足りないと、解像度が10キロと75キロだと実は1,000倍ぐらい違うんですよね。ですから大規模アンサンブルまでどんと行ってというんだと、なかなか難しいかとは思います。それにバイオジオも入れてということで、それで100年にしてというのはさらに大変です。それで、例えばHighResMIPだって、今、ワンアンサンブルしかやっていないので、少なくとも台風にしろ何にしろ、例えばこうなるぐらいのことしかできなくて、確率をきっちり出すことはできないという現状です.こういったところで、現在の知見に基づいても、国家プロジェクトとしてこういうことをやれば、例えば今の10倍、20倍ぐらいの計算資源でどんとできるというのをお考えいただけるとありがたいかなというように感じました。コメントでございます。
【辻野室長】 そうですね、解像度が東西南北で10倍になると、それだけで100倍になります。50キロが10キロになるということですと、5掛ける5で25とかになって、タイムステップも実はもう少し短くしなくてはいけなくて、そういう意味では大体100倍くらいになるのかなと思います、今のモデルを単純に10キロにすると。黒潮や親潮を表現するためには100倍といったことは、1つのスケーリング的な情報かなと思います。あとは、例のアンサンブルをたくさんするとなると、本当に1,000倍、見延先生おっしゃるように1,000倍くらいになってしまうかなというような感じかと思います。そういう意味では、そう簡単ではないですね、計算機自体も。ただ、例えば将来シナリオを限定するとかといったことで、10倍、20倍から100倍くらいで実施するといったことを想定する、計画することは可能なのかなと、そういうことかと思います
【河村主査】 よろしいでしょうか。
今、2人の先生方に気候変動問題の取組についてお話しいただきましたが、だんだん2人の先生のお話に関する意見に移りつつあるんですが、ちょっと時間も押しています。課題はかなりはっきりしているんじゃないかなと思いますが、どこをどういうふうにやっていったらいいかということを国策として進めるというのが多分重要なのではないかと思いますが、この辺について少し時間取りたいと思います。御意見いただけましたらお願いします。
では、須賀先生、お願いします。
【須賀委員】 モデル、モデリングと観測の連携というところ、これをやはり国内的にも、国際的にもこれは進みつつあるというふうに先ほど言ったんですが、実はなかなかそんなにうまく、ぱっと一足飛びにはいっていないんですね。これは国内でもやはりそこの体制というのを整備していく必要があるのではないかと思います。
先ほど辻野さんの御発表で、やはりモデルの検証のために長期海洋再解析データを整備する、改良していくことであるとか、生物地球化学パラメーターに関してはナウキャスト、データの統合化ということのお話がありましたが、これはまさにモデルと観測の連携で実現されていくということだと思いますので、その辺を強化していくという視点が必要かと。モデルと観測というのを別々に考えるのではなくて、そういう視点が必要かと思います。
【河村主査】 ありがとうございます。
課長、お願いします。
【大土井海洋地球課長】 度々すみません、事務局でございます。須賀先生の御説明の中で、ちょっとだけ御質問させてもらいたいのが、ナショナルGOOSの枠組みは、この科学技術委員会のほうで議論する方向性に非常に合っているかなと思っているんです。一方で、Argoがあり、GO-SHIPがあり、そっちの対応というか、そっちはJAMSTECと気象庁あたりで対応しているんですけれども、予算的な制約もあって、結構苦労しながらやっているんですね。日本が中心となっていろんなことをやって提案していくと、その枠組みは当然おっしゃるとおりでございますが、ナショナルGOOSで、では具体的にどんなデータが日本の強みとして出し得るのか、もう少しそこの具体的な話を、もしも可能だったらお聞かせいただきたいんですが。
【須賀委員】 これは、今国際的に貢献しているものというのはできるだけ続けて、日本がそれなりにプレゼンスを発揮している部分は継続していくということはやった上で、やはり国内のいろいろな課題に対応するような、そういうデータを出していくということが必要で、そのためには、多分ナウキャストであるとか予報ということが情報として、これからいろいろな、例えば各地方自治体が何かやっていくにしても、いろんなことをやっていくために必要だと思うんですが、そういう情報を出していくためにはどんなデータが必要なのかという、そういうところを考える。それだけをリージョナルに、ただ領域的に、ローカルに考えるんじゃなくて、国際的な枠組みを念頭に置いた上でそれを考えていくようなことをやっていくということかなと思うんですね。だから具体的に日本の国のためになることをやっていくというのがナショナルGOOSなのかなと思います。従来やってきた国際貢献とプラスしてそれをやっていく、それを一体として考えていく、国内的に非常にいい観測からデータプロダクト、予報までというのをきちんとやれているという状況にして、あるいはやりつつあるという状況にして、それを国際的に発信していく、売り込んでいって、それを国際的な枠組みにまですることができれば非常にいいかなと思うんです。そういうことをやる場としてナショナルGOOSというふうに、私はちょっとイメージしておりました。
【河村主査】 ありがとうございます。
阪口さん、お願いします。
【阪口委員】 海洋政策研究所の阪口です。ちょっと視点を変えて、先ほど辻野さんが、1,000倍になるというときに経験者がまだあまりいないということをおっしゃっておられたんですけれども、これはすごく重要で、経験者のみならず、それに従事すると論文がいつ出るか分からないとか、成果がいつ出るか、成果がそもそも出るのか分からないという問題を今の若者にやらせるということが、大学、それから研究機関においても、とても危険で、毎年の成果というものが要望されるわけなので、非常にそれはやりにくいんですよね、実は。
他方、私がちょっと前に、ケンブリッジの新しいスーパーコンピューター政策について、上のほうの方とお話をさせていただく機会があったんですけれども、あっちのほうでは、もう研究者に計算を直接させる、それからコーディング、それからデータの仕分等をやらせるのではなく、やはり非常に優秀な支援チームがついているわけなんです。そうしないと、もう研究者がコーディングから実際の計算から、データリトリーブから最後の解析、そして観測結果との照合などというものを全部やるというのは、やっぱり規模が大きくなればなるほど難しくなっているので、そこをサポートする体制というのを国がいかにつくるかということが重要だということを、センター長の方とかサポートチームの長の方とかがいろいろ説明してくださったんです。そこが今、日本には足りていない、圧倒的に足りていないことだと思うんです。
これは観測においても、私、同じことだと思うんです。研究者が実際に船に乗って観測をする、そこまではいいんですけれども、全部やるということになると、結局やれることは小さくなってしまう。なので辻野さんも、やれるかどうか分からない、やった経験のある人がいないという問題を提起された、これは非常に重要なので、今後、技術的なサポート、それから計算そのものをサポートする役割というのをしっかりつくって、その人たちに給料をあげてプロフェッショナルな仕事をやってもらうという体制をやはりつくって。
ただ、その場合に1つ大事なことは、JAMSTEC・AORI派と気象研派に分かれたりとか、JAMSTECの中でも、やれMIROCだ、やれNICAMだといって、流派をどんどん細分化していく傾向が日本の研究者にはあるんですけれども、そこはどこかきちんと目をつぶって、国家プロジェクトとして進めていくという、そういう体制づくり、そういう考え方というものを今後醸成していくべきではないかと私は思います。
以上です。
【河村主査】 ありがとうございます。日本のサイエンスの最大の課題の1つだと思いますが、なかなか解決難しいんですけれども、考えていくべきことと思います。
見延先生、お願いします。
【見延委員】 ありがとうございます。河村先生から国策としてということで、日本のこれまでの国策で一番足りないのは、どうやってデータを使っていくかというところだろうと思います。また、そこへのインフラの投資も足りないと思います。例えば地球シミュレータでしたら、計画的に更新されているんですけど、この間DIASのシンポジウムで基調講演をさせていただきましたけど、DIASの場合は補正予算で基本的に面倒を見てきたということで、非常に乏しい予算で何とか回している。それで今現状DIASは、データのダウンロードさえエラーがしばしば生じる、だから我々は、ミッションクリティカルなデータのダウンロードについては、日本のデータのダウンロードをアメリカから行っています。アメリカだと止まらないんですけど、DIASだとエラーが起こって止まっちゃうことがあって、止まるといつダウンロードできるか分からないので.このようにデータを使うという日本のインフラは非常にぜい弱で、ミッションクリティカルには使えないというレベルになってしまっている。したがって、今、データサイエンスやデータ利用ということが非常に重要だと考えられていますけど、そのときにはやはりデータの利用、解析の基盤というのをしっかり国として整備しなければいけないと思います。
以上です。
【河村主査】 ありがとうございました。
非常に重要な議論が出てきたと思いますが、時間がかなり超過していますので、今日のところはこのぐらいにして、引き続き、これはどうしていくべきかということについては、この委員会の中で議論していきたいと思います。ありがとうございました。
では続いて、次のヒアリングに移りたいと思います。海洋生態系の理解、持続可能な利用・保全のために必要な取組ということについて、こちらも2人の先生方から話題提供いただきます。
最初に、東大大気海洋研究所の木村伸吾先生からお願いします。
【木村教授】 分かりました。では、今から画面を共有させていただきます。よろしいでしょうか。
【河村主査】 はい、お願いします。
【木村教授】 海洋生態系の理解の深化に向けた方策と課題ということで説明させていただきます。
私が考える大きな基本的な支柱は2つあり、1つは、今まで海洋生態系を理解していくためには、1対1の種間関係だとか、個体群動態だとか食物連鎖の理解というのが基本的な考え方であったことと関連します。この海洋生態系の理解の深化をやっていくためには、最終的にはモデル化しか残っていなくて、海洋環境の異なる海域間をつなぐ単純な単一の生態系ではなくて、複合生態系というものに理解を発展させていく必要があるということで、まず1つ目の支柱としてこれを考えています。
2つ目は、全く別の視点で、今、計算資源のお話がたくさん出てきましたが、科学技術の急速な発展というものが、今、行われています。そのようなものをきちんと理解して使うということです。そのことで海洋生物の行動生態及び生理生態の理解につながる研究をしていくということです。ただ、今、オンゴーイングで走っている科学技術ですので、それを本当に使いこなせるのか、あるいは本当にそれが正しいのか、そのような検証が実は同時並行で進まなくてはいけないというのが、ちょっとじくじたるものですけれども、確立された議論で進めていくと時間が過ぎてしまって、また応用がどうできるのかということの理解がつながらないということがあるので、どうしてもやりながら検証するというプロセスは避けて通れないというのが問題となってきます。
それぞれについて少し説明させていただきます。
まず1つ目のことですが、まず、我々が理解している種間関係だとか個体群動態とかの研究は、海洋生物の成長や生残戦略の解明を目指しています。これは古典的な研究で、もう100年も前からこのようなことを考えながら、水産海洋学というものは進んできました。皆さん御存じのように、海洋学そのものは、基本的には、まず日本においては水産というものから始まっていっているわけで、その当初からこうのようなことが常に考えられてきました。このような研究はもちろん継続しなくてはいけないんですね。そういう意味では、大きなプロジェクトというよりかは、それぞれの研究者が継続してやっていかなくてはいけない海洋研究の1つだろうと思いますので、大きなプロジェクトの中の1つというよりは、継続的な研究であると思います。このような研究は、餌生物、動植物プランクトンを含めた食物連鎖の理解というものがとても重要です。
ところが、このような研究は、どうしても特定種や、あるいは水域に限定されがちで、非常に理解は進むんですが、単一種だったり、せいぜい複数種を考える程度に偏りがちです。このようなものを総合的にまとめて海洋生態系ということになると、モデル化以外あり得ません。地球環境変動に伴うような大規模な計算資源を用いる必要もなくて、海洋生態系の研究はできますが、与えるべき項目、要素があまりにも膨大です。そして、それは、生物の飼育とか観察とかに基づかなくてはいけないので、非常に人的にも大変ですし、時間がかかるものです。こういったようなものを入れながら複合的な理解をするためにはあらゆるものを定量化するというのが、このモデル化における大きな困難な点です。
しかし、生態系の理解には、このモデル化というのは絶対に必要です。そのためにやられているプラットフォームとしては、Ecopath with Ecosim、エコパスエコシムと言っていますが、これは大体20年ぐらいから積極的使われ始めて、今では頻繁に使われています。これは、同一海域での表現には非常に取り組みやすいプラットフォームになっていますが、海洋生態系の理解といったものに関しては、やはり海域間の移動や生態系が全く異なるものをつなげていくことが必要になってくるので、単純には移流や拡散や空間の環境がつながるという言葉に代表されてしまいますが、そのモデル化にはやはり新しいモデルがどうしても必要です。
日本においては、これは基本的には、独自には開発されていません。オーストラリアで開発されているAtlantisというモデルが最近結構はやりです。これは水域間を3次元でつなげる、エンド・ツー・エンドの生態系モデルとなっています。エコパスエコシムもエンド・ツー・エンドではあるんですが、空間をつなげるというもので使えるのは、今のところこのAtlantisというのが比較的有名なプラットフォームとなってきています。
私は、まず深化に向けた方策と課題という意味での課題1としては、海洋環境変動を組み入れた3次元の海洋複合生態系モデルの開発を行っていくということです。これは1つの例なんですが、いろんな項目があり、摂餌生態、バイオマス、日射・降水、死亡、皆さんが想像しているようないろんなパラメーターがあって、これをスズキ、ヒラメ、アミだとか、こういったような食物連鎖のプロセスの中で考えていきます。このようなことはエコパスエコシムでも、もちろんできるわけですが、最終的に空間として理解してやるためには、どうしても空間間をつなげた形でのそれぞれの現象を理解していくというものがとても重要になります。
これは試行的な、Atlantisで実行した一例なんですが、単純に、分かりやすい4つの項目について挙げています。クロロフィルの変動、それからそれを餌とするアミ類だとか、それからカタクチイワシの稚魚、それからより高次なスズキというものを海域間でつなげてやると、バイオマスの変動が時空間的によく分かってきます。多分このような研究を進めていくことが、高度化には必要な研究の1つだと私は理解しています。
2つ目のことですが、科学技術の急速な発展を利用した海洋生物の行動生態及び生理生態の理解につながる研究に関する3つお話をさせていただきます。
まず1つ目は、環境DNAです。多分皆さん、物理の方もいらっしゃいますが、よく知っている言葉だと思います。水を1リッター汲んでくれば、その中にいる生物が、どんな生物がいたのかが分かるという、ある意味では、最初に聞いたときには本当に魔法の技術というような気がしました。これは結構、国内外、非常によく調査があり論文が出てきています。これがいいところは、人的な労力やサンプル処理の大幅な削減が可能になってくるわけです。水1杯汲んでくればいいからです。我々生物調査をやるときには、曳網調査、ネットサンプリングは、もう避けられないプロセスです。ところがそのためには、船を出して、シップタイムを稼いで、そしてやらなくちゃいけない、船のオペレーションも重要であるということになってくると、実はとても簡単にはできないですが、水1杯くんでくればいいので、普通ではネットでは引っかからないような希少種の把握が可能だったりするようなことができます。
非常にブレークスルーとしての期待が集まっていますが、実は限界についても結構言われています。こんなところにそんな生物いるわけないじゃんというようなものがDNAでは出てきてしまったり、コンタミを避けるための作法が非常に複雑で、なおかつ厳密です。そして今、単純な問題として、フィルターの種類だとか、ろ過量による検出限界というのも問題になってきていますが、先ほど申し上げましたように、これの技術を確立した後、調査をしなくてはいけないとなると、とても注目も集まらないし、オンゴーイングな調査ができなくなってくるので、どうしても同時並行的にやります。したがって、調査の時空間スケールによる誤差範囲の大きな相違というものが多分大きな問題になろうと思っています。しかしながら、魔法の技術ですので、これはやはり進めていくべき課題です。なので、環境DNAを用いて研究を進めること自体が有効な課題設定と言えると思います。
したがって、これは、いろんなものを用いながら、既往データを用いて誤差範囲をきちんと推定して使おうというのが、2つ目の私が提案する課題になります。環境DNA研究の可能性と限界の検証、最適応用例の事例の提示ということです。最適応用例の事例の提示は結構重要で、このようなものを対象に研究をすると、こう使えるというのを明らかにしてやると分かりやすいのではないかと思います。
これはウナギに関する研究例ですが、河川から、あるいは汽水域、沿岸域から水をくんできて、ウナギがいるかいないかという在不在を確かめて、DNAのコピー数も出ています。そうすると、北海道とか日本海のほうでは非常に少ないということが分かり、ピンポイント的に、ぽっぽっぽっと出てくるわけです。ところが、これは2年間での調査だったと思うんですが、広範囲で、非常に短期間で調査は可能で空間的に平均してやると傾向は絶対出ます。つまり、数百キロスケールだと出てきますが、ピンポイントで見てみると、非常に濃度が高いところと低いところが混在してしまうわけです。なので、やはりここには大きな誤差が含んでいるということになります。したがって、このような誤差をきちんと検証してやる、つまり、技術的な課題と同時に、どの程度の空間、時間スケールだったらこれが使えるのかというのを明らかにしていったほうがいいと考えています。
2つ目ですが、同位体研究、花盛りです。耳石の炭酸カルシウムの結晶を使ってやると、どのような水温履歴でその生物が移動してきたのか、回遊してきたのか、そのようなことが分かります。海水の同位体比や、あるいは大型魚だと体温保持がありますので、そのような問題や食性の問題が同位体比に影響してますが、例えば遺跡から発掘された耳石などを使って、数百年前とか数千年前の環境を再現してやるとか、そのようなことが実はできるわけです。したがって、この同位体研究というのはぜひ進めていくべき研究と思っています。
詳細な行動解析には、実は数マイクロメートルぐらいの単位の分析能力が必要で、これはSIMSと言われている二次イオン質量分析計を使ってやると、結構な精度で分析が可能となります。2つ目の課題としては、このSIMSを用いた地球環境変動に伴う高度回遊性魚類に関する行動履歴を再現するということです。このような研究は遺跡から発掘された耳石でも可能ですので、いわゆる地球環境変動がどのように変わってきたということを生物から見る1つのアプローチの仕方なのかなと思っています。
JAMSTECの高知コアセンターにはSIMSがあり、これはかなり大きな機械で、高額な機械だといつも思っていますが、このようなものを使って、マグロの耳石を使ってピンポイントで産卵したときからずーっと追ってやると、水温の履歴を再現してやることができることになります。
これは縦軸がSIMSの酸素同位体比で、右側が水温ですが、生まれたばかりのとき、本当に5ミリとか6ミリぐらいの大きさのときには、水温大体26度ぐらいのところにいて、その後少し上昇していって、これは東シナ海で産むので、表面に浮いてきちゃうわけですね。浮いてきてしまうと結構な高温にさらされるので温暖化に伴ってマグロの産卵環境がどのように変わってくるのかなどということの研究にも使うことができます。
3つ目としては、バイオテレメトリーあるいはバイオロギングがあります。これを専門でやっておられる方は、テレメトリーとロギングを一緒にしてはいけないということがありますので、あえて2つに分けていますが、基本的には生物に装着する小型の機械、デバイスであるということです。人工衛星がよく使われていますが、様々な中継局の確立が今進められているので、結構これは使えるのではないかと思っています。
ところが、今かなり小さくはなっているといっても、さらなる小型化がやはり必要です。生物に負担を与えることなく調査を行うためには、できるだけ小さなものが必要であり、さらに新たなセンサーの開発がやっぱり重要です。今あるのは、温度や体温、水温、加速度、それから深度データぐらいで、照度計を使った位置データがありますが、これは精度が余り良くありません。このようなものは、水産業だとか海洋環境の観測なんかにももちろん使うことができますので、そのような分野との協働を行うことによって海洋生物の生態解析を進めていったらどうかと考えています。
水産業では放流事業や養殖事業が盛んに行われていますが、そのような分野の管理への応用等を通じて産業界からもお金を集めて機器開発を行うこともできますし、アルゴフロートにもこのようなもののセンサーの中継局としての役割を持たせることによってデータを収集するようなことを進めていくことができれば、いろいろな研究に使えるのではないかと考えています。
大きく取りまとめて、生物装着型の機器の高度開発に基づく海洋生物の生態解析と、このような科学技術に伴う研究を進めていくことです。今ここで合計4つの課題を挙げさせていただきましたが、まず1つ目はモデル化、これは絶対に進めるということと、それから、科学技術の急速な発展ということで、環境DNAと同位体分析と、バイオロギング・バイオテレメトリー、このような研究を進めたらいいと考えています。
ただ、よくあることで、先ほどの議論でもありましたが、個々の研究者が個別にやってしまうと、スケールとしては非常に小さなスケールでしか、研究は進みません。したがって、やはりこうした研究を統合していくためには、強いリーダーシップを持って、あまりばらまき型にならないような予算配分によって研究を進めていかなくてはいけないのかなと感じています。生態系モデルも、日本で3つも4つも同時に進めていくと、まず人的な無駄が大きくなるような気がしますので、ぜひそのようにしていただきたいのと、モデル化していくためのコーディングにはテクニシャンを入れて、欧米のようにテクニシャンを入れた研究開発をしていくということも望むところです。
以上です。
【河村主査】 木村さん、どうもありがとうございました。
今のお話に御質問いただくところですが、取組の方向性については、この後の久保田先生からも関連するお話があると思いますので、そこで一緒にお願いすることとしまして、今の木村先生の話に直接的に質問ありましたらお願いしたいと思います。
藤井さん、お願いします。
【藤井委員】 水産研究・教育機構の藤井です。木村先生、プレゼンテーションありがとうございました。
まず最初に先生おっしゃいました、これから海洋生物を理解していくためには、生態系全体の理解、特に海域も挟んだ、そういうところの理解まで必要とおっしゃった、これはもうそのとおりだと思います。我々、個々の生物に対する研究は深く掘り下げてきたつもりですけど、ともすれば木を見て森を見ずという状況になって、その森であっても、自分のところの森は分かっていても、隣の森とのつながりは分かっていないというのが、まだ生物的なところでは現状だと思いますので、その方向性は非常に重要だと改めて感じました。
それともう一つ、将来期待できる1つのツールとして環境DNAがあるというふうに御紹介いただきまして、その中で時空間的スケールにおける誤差範囲、ここの限界を調べるところが重要と。私もそう思うんですけど、これは突き詰めてしまえば、やはり定量性のところに非常に頼りないところがあるというふうに私は理解しているんですけど、その辺りどうお考えか、お聞かせいただきたいと思います。
【木村教授】 現在のところ、在不在が分かる程度で、DNAのコピー数で議論をようやく始めていますが、藤井さんも御存じのように、ものすごく幅が広くて、本当にこれは正しいのとかという疑問があり、同じサンプルでも、調べると、エラー幅が大きいんですよね。したがって、その点の解析が本当は必要なんですが、とにかく結果を出さないと予算も取れないので、皆さん取りあえず結果出すわけです。なので、文科省としてそれを率先して、テクニカルな部分をいま一度やってほしいと考えています。そのためには、ネット採取だとか地道な調査を徹底的にやって、全ての生態が分かっているところで環境DNAの調査をやってみたらどうかなと思っています。
【藤井委員】 おっしゃるとおりです。ネットサンプリングであったり、計量魚探、定量的な調査ができる魚群探知機、こういうものと組み合わせてキャリブレーションすることでやっと生きてきて、将来の方向も見えてくるかなと思っています。やっぱりこれは魔法の技術だと期待される方は多くて、コップ1杯汲んでくれば、海の中にマグロがどれくらいいるか分かるんだろうとか、3年後サケがどれぐらい帰ってくるか分かるんだろうと、軽くおっしゃる方がやっぱり世の中すごく多いんですけど、なかなかそうはいかないというところも、期待と限界併せて我々も説明していきたいと思います。ありがとうございます。
【木村教授】 そうですね。期待ばかり大きいんですよね、今。
【藤井委員】 おっしゃるとおりです。
【木村教授】 魔法の技術で全てが解決すると思っている人が多いので、その点を改めてやったほうがいいと思います。
【藤井委員】 ありがとうございました。
【河村主査】 阪口さん、お願いします。
【阪口委員】 海洋政策研究所の阪口です。木村先生、どうもありがとうございました。
私の質問は、今の藤先生の質問とちょっとだけ絡んでいるんですけれども、モデルと、それからeDNA、それから同位体、バイオロギング、これは一個一個の固体の追跡だとか、それから定点観測という点では大変すばらしい技術だと思うんですけれども、物すごい広い範囲で、何が何匹という、大局的に生態系を数えることはとても難しいことであることはもう百も承知ですが、今後そっちを、時間を止めて全体を数えるという、そういう考え方の観測というか、研究というのは、どのような方向に進むのでしょうか。ちょっと御見解を聞かせていただければと思います。
【木村教授】 そのような研究は、低次生産の植物プランクトンだとか動物プランクトンレベルは多分、えいやで実は可能なんじゃないのかなと私は思うんですが、より高次な生物になってくると、それが難しくなってくるんですよね。したがって、今のところ皆さんがやっているのは、キャリングキャパシティーの問題で、環境収容力の問題で生物の高次のものを考えていくというのが普通だろうと思うので、特定種に偏らざるを得ないのが現状だろうと思います。
多分それは水産生物としての重要性というものがとても重要なのかなと思うんですが、そのためにも、実は環境DNAという魔法の技術で、今、阪口さんがおっしゃっていたようなことが実はできるんですよね、単純に可能性としてですが、コンタミを除けば、水を汲んでくればいいので、物理観測をやっているときについでにお願いしますというのが、実は話としては可能なんですね、話としてだけですが。しかし、採水のお作法が非常に複雑なので、全然簡単ではありませんが、方法としては、今、阪口さんがおっしゃったようなことが実はできる技術です。であるがゆえに、誤差の範囲の議論も含めた技術的なものをもうそろそろ確立したらどうかというのが私の提案です。
【阪口委員】 ありがとうございます。
【河村主査】 前川さん、お願いします。
【前川委員】 貴重な御発表、大変ありがとうございました。私からも環境DNA、最新の技術を用いたモニタリングの方法について1点質問がございます。
現在、生物多様性条約の、今後の新しい枠組みをつくるということで、交渉が何年来続いてきておりますけれども、やはり途上国で簡便に、安価に、継続的にモニタリングをするというのが大きな課題で、特に海洋生物に関しては、とにかくデータがないというような国も多い中で、環境DNAのような新しい技術を用いて途上国で海洋生物のモニタリングをしていくというのは、1つ大きな可能性ではないかと思いますが、昨今では安価なキットなんかも出ていて、途上国で利用するということも現実味を帯びてきているのかなと思います。が、やはり課題も大きいというところで、例えば1か国でできない場合は、集めてきたデータをリージョナルな学術機関あるいはセンターで解析をするであるとか、途上国でこういった技術を用いるときの具体的な課題とかアドバイスとか、そういったものを日本がパッケージとして売り込んで技術移転するとか、その辺りの可能性などについて御意見あれば、教えていただけると幸いです。
【木村教授】 途上国において遺伝子資源の持ち出しというのが非常に難しくなってきていまして、サンプルを取って、そこで分析する能力があればいいんですが、ない場合には、どうしてもやはり日本に持ってくるとか、あるいはその技術がある国に持ち出さなくてはいけなくなってくるので、その遺伝資源の持ち出しは非常に困難です。したがって、その場で分析するというのが一番です。
そのためにも、MinIONという機器があり、筆箱のケースぐらいのものに、ちょっとサンプルを垂らしてやると、分析が可能であると、だからその場で分析ができるという触れ込みの装置があります。でも、そのための下処理を考えていくと、そんな簡単なものではないんですが、これもまた技術の発展で、その場で分析ができるという装置の発想はもうできているわけです。したがって、このようなものを開発することによって、発展途上国でそれが応用できるのかなと思っています。
【河村主査】 よろしいですかね。
【前川委員】 ありがとうございます。
【河村主査】 では、谷さん、お願いします。
【谷委員】 ありがとうございます。谷です。木村先生、大変ありがとうございました。
eDNAなんか当てにならんというような御説明をいただきましたけれども、それはなぜなんでしょう。というのは、こんなところに居るわけないじゃないかというのが居るとおっしゃいましたけど、例えばそれはタンカーがバラスト水を捨てたのをたまたま拾っていたから、居るわけないのが捕まったのか。つまり、コンタミなのか、それとも分析方法がまだ不安定なのか、あるいはその現象が思っているよりもはるかにスケールが小さくて、同じところの水でも実際にそれぐらいDNAの量が違っているのか、その3つは考えついたんですけど、どの辺が答えなんでしょうか。
【木村教授】 まず、私は期待をしているということなので、その点は御理解いただきたいですが、その3つがもう全部、どれが一番利いているのかが正直よく分かりません。最近ではフィルターが違うだけでも違うということなので、それはただ単にフィルターの径の大きさによって違ってくるのか、それともろ過水量によって違っているのかすらも、あまり明確ではないようです。谷さんの御指摘あった3つは全部関係していますが、ちょっとした例えば市場から出てくる排水、そのようなものが川を下って海に出てしまった場合には、それまでが検出されてしまいます。
なので、調査水域がどういうところにあるのかということまでも調べなくてはいけなくて、そういう意味では、魔法の技術ですが、制約が多く、その制約がどういうところにあるのかということを明確にしようというのが今回の提案になります。
【谷委員】 ありがとうございます。
【河村主査】 見延先生、お願いします。
【見延委員】 ありがとうございます。木村先生、ありがとうございました。木村先生がお話しになったモデルに関係して、モデルを使った将来予測というのをどういうふうに考えているのかということを伺いたいと思います。
欧米では、気候モデル、これで1年から数年先の物理を予測して、その上で生態系モデルを動かすなり、統計推定をするなりして、1年から数年先の魚種の状態なんかを把握しようという試みがなされております。日本でも水産庁が海洋オンリーモデルで2か月先の予測を行っておりますけど、海洋オンリーモデルだと、大気が変わってしまうので、2か月先ぐらいまでしか予測できません。そこで、気候モデル、つまり大気海洋結合モデルの予測に基づいて水産も予測するということが有力だと考えるんですけど、この辺については日本ではどんな感じでしょうか。
【木村教授】 私自身の研究ではMIROCの予測モデルを使って、産卵環境や回遊行動の研究をやっています。それは僕だけじゃなくて、いろいろな研究者が多分やっておられると思います。なので、温暖化に伴う長期的な予想は、ぜひ進めていくべき研究だと思っています。そのためにも、物理モデルをそのまま、私、使っていますので、MIROCモデルのアウトプットの利用、そのようなことは可能です。一方で、どのように生理生態的な応答をするのかというのは、またそれは別に研究を進めなくてはならず、そのパラメーターの整理というのがこれから求められてくるのかなと思っています。
【見延委員】 ありがとうございます。ちょっと確認ですけど、今おっしゃったMIROCのモデルの結果、あるいはモデルを使ってというのは、温暖化のシナリオランのようなもの、つまり来年どうなるかという話ではないですよね。
【木村教授】 そうではないですね。来年どうなるかって結構難しいから、温暖化のような長期的なところからまず取っかかりを持つというのはいいアプローチなのかなと私は思います。
【見延委員】 それも1つの考え方ですけど、一方では、例えば水産関係者などでは来年どうなるかということも非常に重要になっていくと思います。ありがとうございました。
【河村主査】 須賀先生、お願いします。
【須賀委員】 細かいことなんですが、資料41ページでバイオテレメトリー、バイオロギングの活用に関して、アルゴフロートでデータ収集というお話がありましたが、この具体的なアイデア、あるいは何か取組がもしあるんでしたら、御紹介いただけませんか。
【木村教授】 それは生物装着型で、例えばクジラだとか、大きな海産哺乳類だと人工衛星を使うことができますが、マグロだとか水中のみを遊泳する場合には電波が使えないので、そのような場合にはアルゴフロートで、どこかで引っかかるんじゃないのかなという淡い期待を持っています。装置の小型化をするというのは、取りも直さず電池の小型化ということになるわけですよね。小型化することによって長時間、電池をもたせるということになってくるので、そうなると、あれだけのアルゴフロートがあれば、私、どこかで引っかかるんじゃないのかなという期待を持っており、そのようなもので対応してみたらどうかと思っていますが。難しいですかね。
【須賀委員】 地図にアルゴのフロートを点で打つときに、非常に大きな点を打ちますよね。実際には300キロ四方に1台なので、偶然を頼りにしているとなかなか難しいかなと。
ただ、分かりました。アイデアとしては理解いたしました。ありがとうございます。
【河村主査】 どうもありがとうございました。木村さん、ありがとうございました。引き続き久保田先生の話を聞いてもらって、御意見を伺いたいと思います。
では、続いて琉球大学の久保田康裕先生にお話しいただきたいと思います。久保田先生、よろしくお願いします。
【久保田教授】 よろしくお願いします。琉球大学の久保田です。私は生態系とか生物多様性のデータを分析している研究者なので、そういう立場から、こういう話題を今日は提供したいと思います。
主に3つ内容がありまして、海を可視化する意義と社会的ニーズ、2点目が海洋生態系と生物多様性の可視化の現状、そして最後にどういう研究が今後必要かというお話になります。
まず、可視化する意義なんですけど、これは皆さん御存じのように、生物多様性の保全であるとかSDGsの問題で、海の保全というのが非常に重要な課題になっていると。ただ、やはり問題なのは、海の状況が一般の人に見えないということが問題で、海の保全を図り、適切な利用を図るときに、実態を可視化して見せるということがやはり重要だろうと。そういうことがSDGsの達成とか生物多様性の保全であるとか、気候変動枠組みなんかで設定されている国際的なターゲット達成の基本になるだろうと、こういうモチベーションで研究をやっているわけです。
一方で、もう一つ、最近大きい、海を可視化する社会的ニーズというのがありまして、これはビジネスセクターで生物多様性価値を可視化するという要望がすごく強まっているということです。例えば、気候変動リスクというのをビジネスでどう財務価値化するかというのは、既にルールができていて、金融なんかを中心にして、国際的な枠組みで、ビジネスセクターでその問題にどうコミットしていくかということが進んでいるわけですが、それと同じようなことが生物多様性についても今後行われていくと考えられます。生物多様性の財務価値化です。例えば、企業はいろいろなところで、自然資本、例えば海を利用することで、開発をしたりして海にインパクトを与えているわけですけれども、そのインパクトをきちんと可視化して、財務リスクとして考えて、そういう部分に対してもちゃんと投資、ケアをしていこうみたいなことで、今後そのルールづくりが進んでいくということに間違いなくなっていくと。
そういうわけで、例えば金融セクターでも、生物多様性をどういうふうに可視化するかみたいなことが実際行われていると。例えば、企業が事業をやっていく過程で生物多様性にどういうふうなインパクトを与えているのかを評価するツールが最近数多く公開されつつあります。実際その評価ツールで用いられているデータというのは、我々生態学者が論文などで公開したデータで、こういうデータポータル上で例えば300万とか、そういう値段で、売買されるようになっています。
海洋の生態系とか生物多様性の情報というのが、非常に社会的にもそのニーズが高まっているということです。こういう背景もあって、海洋の保全であるとか適切な利用を考えるときに可視化するというのは非常に重要だということで、私たち研究者は、海洋生物の情報を網羅的にアグリゲートして、多様性のパターン、生態系の分布というのを地図化する、見える化するということをやっているわけです。現状いろいろなデータソースがあるんですけれども、地球上の3分の1を網羅したようなデータというのが実際上存在していて、これらの生物種50万種については、地球上の生物多様性のパターンというのを十分に可視化できる状況にあるということです。
そういう中で、日本というのは、このように生物多様性のホットスポットの中に収まっている国で、なおかつ、その生物多様性の情報というのも非常にふんだんにある地域ということで、地理的にもこういう研究をする上では優位性があると考えています。
実際、日本沿岸海域の生物多様性の可視化をした結果なんですが、様々な分類群について種レベルの情報を集めていって、種ごとに機械学習で分布を予測して、それを重ね合わせると、例えば魚類のホットスポットがどこであるかとか、貝類、甲殻類、イシサンゴ、海草などの種類数が豊かなところというのが、こういうふうに可視化できるということです。さらに、こういうデータを分析することで、保全上重要な海域、プライオリティーエリアをスコアリングすることができて、赤っぽいところほど海洋の生物絶滅リスクを最小化するという観点で重要なエリアということで特定することができます。
生物多様性条約の枠組みで、今後10年間で30%まで海洋保護区を広げましょうという国際ゴールがあるわけですけれども、こういう科学的エビデンス(保全重要海域のスコアリング情報)を基に、日本のどこに海洋保護区を設定すればいいかみたいなこともやっていけるということになります。
同じように、例えばブルーカーボンというのが気候変動対策ですごく注目されているわけですけれども、日本でどこにどういう藻場があるのかみたいな情報を全て可視化する、地図化すると、ブルーカーボンのポテンシャルというのも国レベルできちんと定量評価ができます。
さらに、日本の場合、海にまつわるいろいろな産業情報があって、例えば漁業の収益なんかというのが漁協レベルでまとめられていて、海からどれだけ生態系サービスを得られているのかというのも、こういうふうに可視化ができます。これは金額ベースで、どこの海でどれぐらいの漁獲収益があるのか、つまり海の恩恵をこのように地図化できます。このような漁獲収益であるとか、保全上重要な海域という地図情報を重ね合わせることで、漁業と調和した形で、どこに海洋保護区を設定すればいいのか、海洋保護区と漁業管理のトレードオフを考慮した上で、ステークホルダー間の便益を最大化するような海洋の利用計画みたいな分析も、日本の場合、十分に可能だということです。
次に、では今後どういうふうな研究が必要なのかということなんですが、今紹介したような分析の基になるデータですけれども、いろいろな研究者、主体が、いろいろなプロジェクトで機会的に収集したデータになります。非常にオポチュニスティックなデータで、データ自体が標準化されて、規格化されて取られたものではないといった特徴があって、非常に使いにくいという性質があります。例えばGBIFとかOBISというプラットフォームにいろいろな生物の分布情報が集積されているんですが、多くのバグが含まれていて、データの利用障壁になっているというのがあります。これは何を示しているかというと、沖縄周辺の生物分布のデータのバグなんですが、この矢印の基部がデータベース上の座標位置で、正確な座標位置は矢印の先端になっています。矢印の長さが座標精度の間違いの度合いを表していると。なので、こういうふうなバグを修正するためには、やはり専門的な知識が必要で、なかなかデータ分析が進まないという問題があります。そこで、我々の研究チームでは、こういう不定形データの活用をしやすくするために、情報を規格化する、統合する技術というのが必要だろうということで、今その開発を進めているところです。
どういう研究が必要なのかという話を進めていきたいんですけれども、従来的な研究アプローチというのは、例えば、モニタリングをしてデータを収集しようみたいな、特定の場所とか生物の分類群に焦点を当てて研究が進められてきました。これは今後も重要で基本的なアプローチなんですが、やはり戦略性を重視すべきだろうというふうに考えています。どういうふうな戦略かといいますと、例えば用途や分析のスコープを明確化したようなデータ収集です。広くかつ頑健なニーズに対応したアウトプットをきちんと想定してデータを収集する必要があるだろうと。そして、分析のアウトプットをデータ収集にフィードバックすることも必要です。これはモニタリング自体の持続可能性を強化する視点ということになります。そして、重要なポイントは、海洋生態系の情報の不完全性を効率的に充足するための調査研究です。アプローチとしてはマクロ生態学の分析で、まずは、既に収集されたデータのパターンを俯瞰的に定量把握することです。方法論的には統計モデルで、直接観測できない生態系の属性値を定義するであるとか、最近特に発展が進んでいる機械学習とか深層学習で海洋生態系の可視化の分解能を高めていくことです。
実際、今我々は海の豊かさをどれだけデータ的に把握しているかということなんですが、これは全球スケール、日本スケールで、横軸は時間を取っていて、生物の分布データが時系列でどれだけ集積されてきたか、それを地図上にプロットしたもので、1980年代ぐらいからデータが急速に集積されていて、今実際これぐらいのデータ数が集積されていると。それを基に、どれぐらいの種数が可視化されているかというのも、こういうふうに地図上に表現することができて、結果としてどれだけデータが充足しているかというのも、こういうふうに地図上に落とし込むことができます。
これを見ると、まだまだ海の生物多様性の豊かさというのを我々は十分に把握していないということが見てとれる。一方で、日本レベルで見ると、かなりデータをちゃんとそろえることができていて、日本の海の生物多様性の実態の、我々はかなりいいところまで迫って、把握できつつあるという現状があります。ただ、いずれにしても、まだまだ知らない量が多いということなので、この知らない量を戦略的に埋めていくのが必要ということで、ここで述べたような戦略的なデータ収集を今後行っていくべきでしょう。
例えば、これは我々の研究チームがやったサンゴ礁の生態系の基盤をなすイシサンゴ類の種の多様性の評価の例です。697種のイシサンゴについて、世界スケールでこういうふうにデータをそろえて、どれくらい多様性を捕捉できているのかというのを分析してみました。このグラフは横軸に経度を取って、インド洋の西部から東部、東南アジアにかけて、どこでサンゴの種多様性が豊かかというのを推定したものです。従来、東南アジアのコーラルトライアングルと呼ばれるところがサンゴ礁のホットスポットというふうに言われていたんですが、実際こういうマクロスケールでデータを比較してみると、それとは違う結果が見えてきます。インド洋の西部で多様性が豊かになるといったパターンが出てきて、データの充足性とか不完全性を考慮した分析をやると、従来、経験的に言われていたのと異なる結果が見えてきます。そして、実際我々がサンゴの多様性をどれくらい捕捉できているのかというのを定量評価すると、40%から80%ぐらいのイシサンゴの多様性しか捕捉できていないということが見えてきます。さらに、そのサンゴの分布データの充足度を基に、優先的に調査すべきエリアはどこかと、戦略的にデータを充足していくためにはどこで調査をすべきか、といった分析をすると、この地図で示しているように、赤いところです。多様性の不足地域を効率的に充足していくために、優先的に調査努力量を配分すべき海域というのが特定できます。要するに、今あるデータをまずちゃんと集約して分析すると、サンプリングの完全性とか真の多様性のパターンが評価でき、今後、戦略的に不足したデータを埋めていくような調査計画が立案できるということです。
最後になんですが、我々が今、海の生態系、生物多様性をどれだけ捕捉しているかというのを可視化して、なおかつその精緻化を図っていく上で重要だと思うプロジェクトとして、海洋生態系をデジタルツイン化するというのが有望なアプローチではないかというふうに考えています。これは、今あるデータを全てアグリゲートして、海洋生態系の時空間パターンをコンピューター上に再現することです。その上で、海の保全とか利用のための情報インフラとして整備すると、データの利用の出口の部分を考えたプロジェクトということになります。
実際に今、先ほど紹介したような海洋生態系とか生物分布のグラウンドトゥルースデータを衛星のマルチスペクトルデータと統合することで、数十メータースケールまでダウンスケールするということが可能になってきつつあります。これは実際我々が、日本の沿岸海域を対象にダウンスケールして、海洋生物多様性のパターンを高解像度化した例です。20mスケールでどういう生態系が、あるいはどの種がどこにいるかみたいなことを、衛星データを使ってダウンスケールして、それを地図上に重ね合わせて、生物の種数の多様性として地図化、表示したものです。黄色っぽいところや赤っぽく表示された箇所が、種類数が多い場所です。こういう情報インフラを整備すると、例えば、ある海域を開発したり利用した場合にどれだけの生物多様性が失われるかみたいなことを、事前に予測する、評価することができるわけで、社会的にもニーズに応えることになるようなプラットフォームになるだろうというふうに考えています。
最後、まとめになります。結論としては、どういう研究が必要かということなんですが、時空間的にも非常に不定形な形でデータというのは取られるものなので、それを体系的に集約、分析するフレームワークというのが大事だろうと。その上で、より情報を充足していくという観点で、戦略的にデータを埋めていくような、収集していくような体制が必要だと思います。いずれにしても、こういう大規模なデータを分析する研究者というのが必要で、この部分が決定的に欠けています。現在、生物の分布データを扱っているのは、生き物に興味がある、研究者が多いですから、こういう大規模なデータを機械学習とか深層学習で分析するというふうな思考のある人というのは非常に少ないです。したがって、機械学習などの研究者を引き込んでいくような体制づくりというのも重要ではないかと思います。
それを支えるようなプラットフォームとして、こういうビッグデータを基にした、海洋生態系をデジタルツイン化するようなプロジェクトというのを進めると。例えば、モデル海域を設定して、先ほど紹介したような海の海洋生物多様性とか生態系を可視化するということによって見せる、そうすると、いろんな意味で評価されるということも出てきて、社会実装みたいなことも進みやすくなるんだろうと。実際に、最初に紹介したように、こういうふうな研究というのは社会的にも意義があって、ニーズに対応しています。例えば経済的に生物多様性の経済的価値とか財務価値化というのを可視化することに直接的に貢献しますし、海の豊かさをどういうふうに守っていくか、劣化した海をどういうふうに再生するかというのを海洋自然資本の損失という観点でちゃんと評価してあげて、そういうニーズに応えていくと。今までこういう海洋生態系の基礎研究というのは、社会的、経済的に一番縁遠いところにいたものだと思うんですが、最近の社会情勢から考えると、社会が一周回って海洋生物基礎研究の不可欠性が認識される状況にあるので、この黄色の矢印の部分をうまくつなげるようなプロジェクトというのをやると、海洋生態系、生物多様性への理解をより一層深めていくことができるだろうというふうに考えています。
以上です。
【河村主査】 久保田先生、どうもありがとうございました。
では、ただいまの久保先生のお話に御質問、お願いいたします。
では、谷さん、お願いします。
【谷委員】 久保田先生、大変ありがとうございました。感動的な20メートルのデジタルツイン、拝見しました。恐らく時間軸でこういったデータを蓄えていくことで、生態系の時間的な変化というのが、全日本とか、あるいは世界的に分かって、今後どうなるかというので、すごく大事な話だと思います。
その点で2つ質問がございます。1つ目ですが、ポジションエラーがすごく大きいというお話がございました。あれは何であんな大きなエラーが出るんでしょう。手入力をしているからなんでしょうか。
【久保田教授】 おっしゃるように手入力というか、いろんな要素があるんですが、基本的に生物の分布データというのは、気象観測あるいは物理的な観測情報と違って、人が取っているものですから、いろんなところにエラーが混入する可能性が高いんですね。例えば記録をする過程でのエラーも生じますし、データを入力する過程でもエラーが生じますし、いろんな部分で、人が絡むところ全てでバグが入りやすいということで、結果として、データ全体を見てどこが間違っているかみたいなことをちゃんと検証する必要が生じます。幸い、かなりのバグはパターン化されるので、どういうパターンでどういうバグが生じるかをタイプ毎に、かなり自動的に修正できるような状況にはなりつつあります。
【谷委員】 分かりました。ありがとうございます。
もう一つの質問ですが、機械学習とか深層学習で生態系のレゾリューションを高めるんだというお話がありました。これはどんな手法を使うんでしょうか。
【久保田教授】 まず生物の分布データというのは、空間解像度的には1キロスケールとか、かなり粗い解像度でしか得られないんですが、一方で人工衛星の波長情報は数メーターから20mスケールで取られますから、その粗い解像度で取られたデータを、人工衛星のデータを使って、波長情報を使ってダウンスケールするということが今十分可能になってきているということです。先ほど我々の研究チームでやった試行的な結果を紹介したんですが、かなり先進的な結果になります。これから方法論もいろいろ発展していくと思いますが、日本の場合、衛星情報からグラウンドトゥルース(海洋生物調査情報)のデータまで一通りそろっており、なおかつ、機械学習の研究者も多い国ですから、それらリソースをうまく統合するようなプロジェクトを起こせば、その分野ですごいプレゼンスを取れる可能性は高いと考えています。
【谷委員】 分かりました。ありがとうございました。レゾリューションを上げるというので、海底地形で似たような話があって、100キロに1個しか水深データがないけれども、サーフェスグラビティーのデータと足し合わせてインターポレーションする、これでもう世界地図ができたように見えたんです。わあ、すごいね、もう海底地形終わったねと言われていたんですけど、実は、蓋を開けてみたら、そういったインターポレーションはあんまり合っていなかったみたいなのがあって、あまり補間に依存するとできたように見えてしまうせいでかえって予算資源が減るかなというのがちょっと気になったんですが、ただ、成果を見せていただく限り、すごく美しいので、いいなと思いました。どうもありがとうございました。
【河村主査】 見延先生、お願いします。
【見延委員】 どうも非常に興味深いお話、ありがとうございました。北海道大学の見延です。
機械学習の研究者を巻き込んでというお話なんですけど、実際には機械学習の研究者は今、物すごい忙しくて、なかなか我々のようなところにお付き合いいただくのが難しい、実際に研究をやってもらうのは難しいので、我々のところでは、自分たちで機械学習をやって、ちょっとだけ機械学習の研究者に意見をもらって、論文になるときには共著にするというやり方で進めています。このように海洋側の人間が機械学習をやらないともう進まないだろうと思っているんですけど、久保田先生のところでは御自身で機械学習も手がけられているんでしょうか、それともそれはまだ構想の段階なんでしょうか。
【久保田教授】 今自力でやっている状況で、幸い、機械学習専門の研究者でなくても利用できるようなツールというのが出てきているので、かなりやりやすい状況にはなっています。ただ一方で、機械学習の研究者の方とお話をすると、生態系や生物多様性に関する面白いデータがあって、それを分析する社会的ニーズもあるような問題があるとは知らなかったというふうにおっしゃるんですね。機械学習の研究者の方がが扱っているデータというのは、かなり規格化されて、すぐにでも分析できるデータというのがそろっているから、そちらのほうに忙しくされていると思うんです。一方で、海洋生物データみたいなのももっと規格化して、使いやすいような形にready-to-use化すれば、海洋生物データを使って機械学習の研究者の方が忙しくやってもらえるような局面もあるんじゃないのかなというふうには期待をしているところです。
【見延委員】 ありがとうございます。
【河村主査】 前川さん、お願いします。
【前川委員】 海洋政策研究所の前川でございます。すばらしい御発表ありがとうございました。
私から2点質問なんですけれども、御発表の中にもありましたように、生態系の評価を行って、生態学的・生物学的に重要な海域をうまく特定して、そういったところをしっかり保護するなり管理するなり、保護区の設置も含めてというお話ございましたけれども、世界的に見ると、そういった調査がなされても、社会的な結論としては、実際には実害のないところに保護区がたくさん設置されたりとか、なかなか、おっしゃったトレードオフを避けるために、端的に言えば漁業上支障がないところに保護区が設置されたりということが散見されますが、その辺りのトレードオフを克服する何かヒントのようなものがもしあれば、お聞かせいただければというのと、あと、この問題ともまた関連するんですけれども、当研究所でもここ数年、日本の里海の取組の最新状況について調査を行ったんですけれども、いろんなサイトの状況を見ると、里海を含めて様々な取組がなされていて、漁協のいろんな自主規制等も含めてありますが、やはり気候変動のような大きな環境変化というもの、その影響というものが非常に大きくて、とれる魚の量とか種類が変わってきていて、生物の適応という大きな問題もありますけれども、社会がやっぱり適応していかなければいけない。
産業構造の変化も含めて、大きな変化適応が求められていくという感じがあるんですけれども、そういった中で、先ほど御指摘のあった、社会が1周回って多様性の価値を認識し始めたと、まさにそのとおりだと思うんですけれども、科学の側から社会のニーズの理解であるとか、社会へのフィードバックの仕組みとして、沖縄の現場で見ておられて、こういったものが機能するんじゃないか、何かそういったものがあれば教えていただけると幸いです。よろしくお願いいたします。
【久保田教授】 最初の1点目の御質問なんですが、海洋保護区を設置しようとしたときに、適切な場所に置かれなくて、あまり重要ではない海域で、利害関係が発生しにくいようなところに海洋保護区が置かれてしまいがち、というのはおっしゃるとおりです。実際、生物多様性を保全するために保護区を広げていきましょうというのは1990年代から進んでいるんですが、保護区は広がったけれども生物多様性の消失にブレーキがかけられていないということも指摘されています。
海洋保護区拡大しても保全効果が向上しない理由、なぜかというと、そもそも生物多様性の保全上重要なエリアがどこなのか、どの海域が重要なのかというのが十分に可視化できていなかった、という点があったと思います。科学的なエビデンスがないから、例えば利害関係の調整のところで負けてしまうというか、保全上重要なところが保護区にならずに、どうでもいいようなところが保護区になるみたいな、妥協みたいなことが行われてしまってきたと。
一方で、逆に、先ほど紹介したような生物分布情報に基づいて、ちゃんとエビデンスベースで、それも高解像度で精緻な情報というのがもしそろえられるのであれば、それを基に海域の利用とか利害関係者との調整というのも、もっとエビデンスベースでやれるようになると私は考えていて、先ほど紹介したように、保全上重要な海域というのをもっと高精度化して、例えば地元の漁業者とちゃんと議論できるような素地をつくっていくということで、もっといい方向に持っていけるのではないのかなというふうに考えています。
2点目のほうの質問は、すごく難しいところで、十分な回答をなかなか今申し上げることはできないんですが、それもやはり科学的なエビデンスの解像度と精緻化というのが鍵になるのではないのかなと考えています。やはりその辺の、いろんな利害関係者の方と議論できるための情報の精度というのが十分担保されていないと、いろんな合意形成というのが難しいというのがあるので、やはり基礎情報、データというのが非常に重要になってくるというふうには考えています。
【前川委員】 ありがとうございます。
【河村主査】 須賀先生、お願いします。
【須賀委員】 東北大学の須賀です。久保田先生、興味深い発表ありがとうございました。
日本の沿岸域に関しては、種の多様性であるとか生態系サービスの空間分布等、様々なものが既によくマッピングされているという例をお示しいただきましたが、これは時間方向にはどのくらいの分解能といいますか、毎年こういうものが出せるのかとか、その辺りはどうなっていますでしょうか。
【久保田教授】 海洋生物の分布データというのは1980年代から、これは国内に関係なく、国際的にも80年代ぐらいから急速にデータが集積されてきているので、時系列のデータといったら80年代以降になるんですね。なので、過去から今までどう変わってきたのかというデータに関しては、40年分ぐらいのデータしかないというのが実態です。なので、時間軸で生物の分布や多様性のパターンがどう変化してきたのかを再現できる期間というのは非常に限定的で、時間方向での生物分布、多様性分布の変化を予測するというのは、データ的には非常に難しいと思います。
一方で、先ほど紹介したような人工衛星のデータと現場レベルで取られたデータをうまく、教師学習データみたいな形で対応させることができれば、それは場所や、例えば浅海域、浅い海域とかに限定すれば十分できると思うんですが、それをやれば、毎年時系列で取得される人工衛星の情報で、時間軸に沿ってその変化を予測するというのは可能かなと考えております。
【須賀委員】 ありがとうございます。把握という意味ではどうなんでしょう。現在、日本の周りに関しては、毎年あのようなマップ、示していただいたようなマップを更新して、来年のもの、再来年のものというふうに出すことができるという理解でよろしいでしょうか。
【久保田教授】 予測ということで言えば、できます。問題はその精度をどう上げていくかというところで、それはデータがやはり重要、現場レベルのデータということになります。
【須賀委員】 分かりました。では衛星データ等を使ってそれを推定するものは出していけるという意味ですね。
【久保田教授】 そうです。機械学習の分析を基に、プロジェクション(投影)していくことは可能ですね。
【須賀委員】 はい。ありがとうございます。
【河村主査】 阪口さん、お願いします。
【阪口委員】 海洋政策研究所の阪口です。久保田先生、どうも大変重要な情報と御報告ありがとうございました。
私からの質問は、今の須賀先生との議論にもありましたように、衛星データ、使えるものは使うと、それからあと各観測データ、それから既存のデータ、それから久保田先生自らされているいろいろな観測のデータを使うというのはよく分かるんですけれども、これは、どんどん精緻化していくと、どんどん費用がかかりますよね。それと同時に、先ほどの見延先生との議論にもありましたように、機械学習、AIを使って、見えないところ、データのないところをきちんと、単なる補間ではなく、きちんとした予測をするということに関しましても、人件費とか、要は必要な情報が密に、高精度になればなるほど、どんどん予算がかかってくると思うんですけれども、今は研究費と使えるデータの範囲でされていると思うんですが、今後、例えば、こんなことを私が言ったってどうということはないかも分からないですけど、岸田政権になって、新しい資本主義、こんなのだといって、いろんなところに今言われていますけど、その中には、各企業は財務情報とか以外の、人的情報とか、それからESG投資に資するために努力して得られた情報とか、そういうものをもっと示せということを述べておられて、それに必要な予算を今後配分していくというようなこともいろんなところに書いてあるわけですよね。
そうすると、官の力もさることながら、民にもっとやらせると、それから、逆に民から久保田先生のところの研究にお金を入れて、より精緻な情報をつくらせるということも僕はありだと思うし、今の岸田政権が述べていることを理解すると、それができる状況になりつつあると思うんですが、今後、この研究、それから情報をまとめて、集約してきちんと出していくために必要な予算というのは、久保田先生の戦略ではどのようにお考えか、ちょっとお聞かせいただければと思います。
【久保田教授】 今まさにおっしゃったとおりのことは考えておりまして、やはり精緻化させていくとなると、やはり現場レベルのデータというのがますます決定的に重要になっていくわけです。しかし、現場レベルのデータを網羅的に収集してマクロスケールで沿岸域の海の状況を可視化するとなるには膨大な予算がかかると思います。これは研究、アカデミアの力だけでは全然できないと思います。ただ、おっしゃったように、今社会状況がすごく変わっていて、民間企業でも生物多様性をケアする状況にあり、実際そういう方向にこれから社会が動いていくのは間違いないと思います。なので、そこをうまくてこにして、そういうところから資金の流入を図れるように、研究者も意識して情報発信していくというのが重要ではないかなと思っています。
例えば生物多様性、海の生態系とか海の豊かさを可視化することが、様々な企業(ビジネスセクター)によって利益があるのか、というのをやって見せるというのが大事かなと思っています。例えば特定のエリアをモデル地区にして、先ほど紹介したような海のデジタルツイン化というのを進めていって、いろんなステークホルダーに情報提供していくことで、なるほど、こういうメリットがあるんだな、だったら自分たちもある程度投資をして、別の海域で同じようなことをやってみようかみたいなことになっていくのではないかというふうに期待をしています。まずはモデル海域で、海のデジタルツイン化というのをやって見せることで、あとはそれを呼び水にして、それをてこにしてマクロスケールで、民間の力も使って海洋生物データの充足を図っていくみたいなことができないかなというふうに考えているところです。
【阪口委員】 ありがとうございます。ぜひそこは、久保田先生が、何というか、苦しみまくらないで、海洋地球課などがその仕組みを、民間のニーズをぐっと入れながら物事が進むような仕組みを官のほうが――官が直接やるんじゃなくて、官がその仕組みをつくって、お金と情報が流れるような状況になるようにぜひ進めていければと思います。どうもありがとうございました。
【河村主査】 谷さん、お願いします。
【谷委員】 ありがとうございます。須賀先生、阪口先生の御質問、御意見に関係する話ですが、現場のデータが必要だというふうに久保田先生、御指摘いただきました。現場のデータでタイムシリーズ1年ごとに出していくというと、なかなか現場へ1年ごとに行けるかいという話があるかもしれないと思うんですが、一方で、人工衛星が毎日くるくる回っていて、人工衛星のデータを基に、ここは現場に行くべきだ、そのポイントに行くべきだというようなことを判断することは可能でしょうか。もしそれが可能というか、有効な方法であれば、AIに、ぼちぼちあそこに行ったほうがいいと言わせることもできるかと思うんですけど、その辺はどんなものでしょうか。
【久保田教授】 ある条件に限定すれば、そういうことは可能かと思います。例えば昨年、モーリシャスで貨物船が座礁して原油が流れ出す事故がありました。事故のようなイベント(人為的な海洋へのインパクト)というのは、それに対応した生態系の反応という意味でのデータが取れるところです。したがって、そういうイベントに対応した形で優先的にそのデータを取っていって、そのインパクトに対して生物の分布なり生態系がどう応答したかみたいなデータをそろえていけば、今後そういうイベントが起きたときに海洋生態系がどういう変化を示すかみたいなことを予測するためのデータになると思います。人工衛星のデータを見て、マルチスペクトルのデータを基にして、例えば原油が流出したエリアというのは精緻に情報が得ることができるわけですから、それに対応させて現場の調査デザインを考案して、データを取っていく(それを基に、人為的な海洋へのインパクトに対する生態系や生物多様性の応答を予測する)というふうなことは十分できるのかなと考えます。
【谷委員】 ありがとうございます。
【河村主査】 ありがとうございました。
ちょっと私の不手際で、30分以上、時間が押しているんです。ここで10分ぐらい、先ほどの木村先生の話と併せて御意見いただくところなんですけれども、どうでしょう、最後の総合討論に含めてしまってもいいかなと思うんですけど。木村さんの話も併せて、海洋生態系の理解、持続可能な利用保全のために必要なことということで、特段御意見あればお願いしたいと思いますが。
私自身、今聞いていて、少し足りないとすれば、科学データの取得とか、そういうことに市民を巻き込んでいくという話になってきたと思いますけれども、その際に、やっぱり漁業者とか、あるいは市民の団体がその科学データをどれだけ信頼しているかというところが非常に大きな問題。それからもう一つは、どういう情報を正しいものとして理解して取り入れるかというところがやはり非常に重要で、ともすれば、あまり正しくない科学、半分科学的な、半分科学的ではない情報を市民の方が信頼して、それに基づいた活動を起こしていることが多々見られるという部分で、漁業者あるいは市民への教育というのはまだまだ必要なんじゃないかなというふうに私は思います。
ですから、単純に市民の方を取り込んだ活動というよりは、少しそういう、きちんと科学を理解するという教育がやっぱりまだ必要なんじゃないかなと思っています。その辺も含めて御意見いただければと思います。
谷さん、よろしくお願いします。
【谷委員】 ありがとうございます。木村先生のお話、何かぶり返しになるかもしれませんけれども、エンバイロンメントDNAがかなり、魔法の手段であるというお話があった。で、今、久保田先生のお話で、信頼性が説得力を持つという話がありました。そうしますと、エンバイロンメントDNAは、実はそのDNAという単語が、コロナ禍のおかげで人口に膾炙して、あ、DNAなら正しいやと、皆さんに思ってもらえてしまう、変に思ってもらえてしまうところがあるんですけど、そいつが信頼性がもう一つということになると、せっかくのDNAに対する信頼性がなくなっちゃうので、これはここ一番、集中して、その網のサイズがなぜ個体に影響を与えるのかとか、どういうコンタミがあるのかとか、そういったことを徹底的に集中してやるということを並行してやらないと、そのeDNAの今後によくないのかなという気がするんですけれども、いかがなものでしょうか。
【木村教授】 確かにおっしゃるとおりなんです。そして今、市民参加型というお話もちょっとあったんですけれども、水をくんでくるという作業そのものから取ってみると、市民参加型で可能なんですね、実はそこのところは。なので、市民を広く巻き込んでやれる技術でもあるんですけれども、どう取ったらいいのか、コンタミがどういうふうにしてあるのかが分からないと、せっかく市民に取ってもらったデータそのものも怪しくなってしまうので、やはり、まずeDNAが確かに役に立ちそうだということが分かった段階で、今確かな研究だけを推進していく、あるいは、それ以外の資源は、まず環境DNAの有効性を検討するというところでやることは、とても意義があることだと思っています。
【谷委員】 ありがとうございました。
【河村主査】 藤井さん、お願いします。
【藤井委員】 水産研究・教育機構の藤井です。谷先生からの御質問について、私も多少なりともDNAに関わった者としまして、やっぱり今の環境DNAの技術でできることとできないことというのがあるんですね。そこをはっきりさせて説明していかないと、魔法の技術だと思って期待が膨らむだけ膨らんでしまうと、ちょっとここは駄目だったじゃんという話が出てきたときに、持ち上げるだけ持ち上げて、すとんと落とされるようなことになって、本当に有効なこと、それからこれから期待できるところまで潰されてしまう可能性もあると思いますので、そこのところ、木村先生もおっしゃっていましたけれど、アピールできるところはアピールして、限界のところも併せて説明していくような取組、特に市民の皆さんに対してもそれが大事だと思っております。
以上です。
【河村主査】 久保田先生、お願いします。
【久保田教授】 今の環境DNAのことに関してなんですが、私が先ほど紹介したような生物分布データというのは、今まで主に標本とか、生物そのものをサンプリングされて取られたデータだったわけですね。なので、そういう意味でいくと間違いはない(信頼度の高い情報)ですが、データの分布の、例えば精度、解像度という意味では問題があったわけです。一方で環境DNAのほうは、空間の分解能はすごく高くて、一方で、本当にその生物がそこにいるかというところでの信頼性が十分ではないという性質があると。なので、従来取られていたような生物分布のデータと環境DNAデータをつなぎ合わせて、統合して、それぞれの長所を補完的に生かす形で、そういうデータを統合することで新規的な方法の可能性というのをより高めていけるのではないかなというふうに考えています。
【河村主査】 ありがとうございます。
見延先生、お願いします。
【見延委員】 久保田先生に質問ですけれど、生態系の分布というのは非常に地域社会にとっても重要な問題だと思うんですけど、久保田先生がおつくりになられたようなデータと、気候変化のデータ、辻野さんのほうからお話があったようなCMIP、あるいはそれを高解像度化したようなデータ、つまり、この場合は水温、塩分というようなデータがあるわけですけれど、それを合わせて将来の生態系の分布の予測をするというようなことは可能なんでしょうか、それともそれには全然データが足りないんでしょうか。
【久保田教授】 結論から申しますと、理屈的には問題なくできます。基本的に、例えば生物の分布を予測するときに使っている環境データというのは、気候環境データですので、例えばいろんな気候シナリオで予想されているデータを入力してあげさえすれば、温暖化シナリオの下でこの生物はこういうふうにシフトしますという結果が出てきて、結果として生態系の分布とか生物多様性の分布がこうシフトしますというふうなプロジェクション(投影)は全く問題なくできます。ただ、それが本当にそうかという点(予測の信頼性)が問題です。それを検証する方法は全くなくて、生物が気温だけに応答して動くわけではないということもありますので、やはり現場レベルのデータに基づく検証なり、長期モニタリングが不可欠で、予測と実際のデータを突き合わせていくのが重要です。いずれにしても、理屈としてはできるけれども、その解釈には注意が必要ということです。
ただ、今後データも集積されていって、そういう研究というのはどんどん進んでいくでしょうから、気象モデルで出てきたデータと生物分布データを結びつけて将来予測をするというのは、積極的に研究をやっていくべきだというふうに考えています。
【見延委員】 ありがとうございます。大変重要な方向だと思います。
【河村主査】 ありがとうございました。
休憩取らなくてはいけないんですけど、12時半までに多分会議を終わらせなければいけないと思いますので、休憩なしに行わせていただきます。トイレとかに行きたい方は適当に抜けていただければと思います。すみません、進行が悪くて。
それでは、今日4人の先生にお話いただきましたが、今日のお話も踏まえて、全体通してもう1回、意見交換したいんですが、前回の委員会でいただいた御意見も踏まえたいと思いますので、事務局から前回の御説明をお願いしたいと思います。廣瀬さんですかね、お願いします。
【事務局】 事務局です。資料5を御覧ください。お時間もありませんんので、簡単に説明させていただきます。
修正しました点ですが、初めのところは事務的な修正になっております。資料5の68ページですが河村主査から指摘のありました、国内外でのデータ共有を進める際の課題は何かといった点を追記しました。あと70ページのところの海底資源探査や海底地形調査の促進等のところに関しまして、海底資源探査や海底地形調査以外にも経済安全保障の観点から、いろいろまだ貢献すべきことというのがあるのではないかという指摘がありましたので、それを踏まえた修正等を行っております。
簡単ですが、以上となります。
【河村主査】 ありがとうございます。前回の意見を踏まえたことということで御説明いただきました。
今日のお話を中心に、もうちょっと意見交換したいと思いますけれども、あと十分ぐらいしかなくなってしまいましたが、今日は非常に重要な議論があったと思います。最初の気候変動に関する取組、それから生態系とか、あるいはそれをどういうふうに使っていくかということに対する意見です。総合的な御意見、ちょっと言い足りなかったことも含めて、もし御意見あればお伺いしたいと思います。いかがでしょうか。
須賀先生、お願いします。
【須賀委員】 東北大の須賀です。もう繰り返し述べられてきたことかもしれないですが、例えば、今日のお話は全部つながっていると思うんですね。最後の生物多様性の問題、この現況把握、将来の予測ということを考えたときに、どんな海洋環境データがあればいいのか、それをどういう形で提供されれば使えるのかということです。そういうことを考えると、観測とモデリングで、そのアウトプットをどういうふうな形に加工して使いやすくして、それを利用してもらう、そこをつなげて考える。逆に、こういうことをやるために、こういう環境情報が必要ですというフィードバックもかかるわけですよね。だからここら辺の動きをやはり日本として一体としてやる仕組みをつくるというのが、やはり最も重要なのではないかなというふうに思います。私はナショナルGOOSというふうに、観測に特化したことを言いましたけれども、それだけじゃなくて、モデリングと生態等を含めたような、そういうもの全体を見渡して、日本としてこういうことをやるべきだという、そういうプライオリティーをつけてやっていくと、そういうことをやるような体制が必要かなというふうに思います。
【河村主査】 ありがとうございます。
それでは、次はJAMSTECの河野さん、お願いします。
【河野(健)委員】 海洋研究開発機構の河野です。今日の話からちょっと外れるというか、さらにその先の話なんですけど、全体の、先々までの議論の予定を見ますと、ゼロエミッション政策への貢献的なことは、大筋には書いてありますけど、ネガティブエミッション技術については一切触れられていなくて、きちんとした目標と、それから、ちゃんとした、妥当な技術、何ができて何ができないのかとか、どういうところを目標に設定したらいいのかとかいうことをきちんと把握した上で、本当にやるべきことに着手していくような、そういった議論が必要なのではないかなというのをちょっと感じました。辻野先生の御発表は海のモデルに特化していましたけれども、結局、1.5度にしろ2度にしろ、現状の排出量を規制するだけでは到達できないであろうことはもう明らかですので、そこら辺の何らかの海洋技術の発展が求められるところだと思います。
以上です。
【河村主査】 ありがとうございます。
藤井さん、お願いします。
【藤井委員】 今日の議論をずっと通して聞いていまして、もう共通して皆さんの認識となっているのは、やっぱりこの分野の研究というのは、個々の研究者、あるいは個々の研究者の努力による連携では、もうとてもやりきれない、国策として、日本として一体としてやっていく必要があるというところ、この認識は、もう皆さん一緒だと思うんです。ただ、やっぱりその場合、大事になってくるのは、どこがその司令塔機能を持って、どれだけの権限を持つかというところ、それを明確にしないと、皆さん思いはあっても、通じないというか、一つにならないというところが心配だと思います。日本は海洋大国なだけに、それぞれの省庁がそれぞれの観点から調査を行ってきていました。これからの調査をどうしていくか、調査船の更新一つとっても、各省庁、今とても苦労している状況なので、その予算要求も含めて、統一的な取組、それが大事になると思いましたので、どこがどれだけの権限を持って司令塔機能を果たすかということも併せて、これから議論できればと思います。ありがとうございます。
【河村主査】 ありがとうございます。
見延先生、お願いします。
【見延委員】 今日は、4人の先生、非常に重要なお話ありがとうございました。今の藤井先生のコメントともかぶるんですけれど、やっぱり国策としてどうやってやっていくか。そのときに何がボトルネックになっているのかというのをちゃんと考えていかなければならないんじゃないかと思います。
1つは、インフラとして何が足りないのかということです。私のほうからはデータ解析基盤というのが足りないということを申し上げましたけれど、生態系のほうでは、非常に多様で、ちょっとついていけない面もありましたけど、いろんな点が足りないような印象を受けました。ただ、足りないのはインフラなのか、あるいはプロジェクトで対応することなのかという区別が重要ではないかと思います。
もう一つは、今、藤井先生がおっしゃったように、日本は海洋立国なんですけれど、実は海洋関係のことを別々な省庁でやっているがために、連携が難しいということがあります。対極にあるのがアメリカで、皆さん御存じのとおり、NOAAというのが非常に大きな組織で、気候予測もやっておりますけれど、生態系、フィッシャリーもやっているわけです。そのNOAAのほうでは、NOAAの気候モデル、アウトプットを使って、1年先の生態系予測を、3次元のダウンスケーリングをやって生態系モデルを動かしてということをやっております。これを日本でやろうとすると、気象庁のモデルの結果を水産庁がもらうのかとか、そういうことになって、省庁間の壁というのがあって、なかなか難しくなりそうなんですけれど、やはり海洋立国を標榜する以上、この省庁の壁を打ち破って、行きたい未来にちゃんと向かっていくということが必要なんだろうということを、本日のお話で強く感じました。
以上です。
【河村主査】 ありがとうございます。省庁の壁と言われると文科省の方も困っちゃうかもしれませんけれども、非常に重要な点だと思います。
阪口さん、お願いします。
【阪口委員】 もう藤井さんと見延先生がほとんど、私が言おうとしたことを言ってしまったんですけれども、ただ、何でも日本が一番、日本製でなければいけないとか、オール・ジャパンでなければいけないとか、そういう必然性はないんですが、ベストプラクティスを出せているか、それからチャンピオンデータを出せているか、それからチャンピオンなテクノロジーを出されているかというと、今そうではなくなっているということは事実だということが、今日皆さんのお話をお伺いして、そのとおりだなと改めて実感して、うーんと思ってしまうんですけれども、他方、今日一番トップバッターで須賀先生が、オーストラリアやアメリカは、国内の問題をやると自動的にそれがチャンピオンデータになり、ベストプラクティスになるので、国際的にも引用され、それが国際的にも通用していると、そういう状況が現在あるわけですよね。
なので、私たちは何をしなければいけないのかということと、何かどんどんどんどん、何かが原因で小さくなっていってしまっている、そこもやっぱりきちんと、過去の駄目なことを幾ら探ったところで、どうということはなく、未来に向かわなければいけないんですけれども、何かが原因で小さくなっている。これは海洋の分野だけじゃないですよね、今、我が国。GDPがなぜ小さくなっていっているのかとか、いろいろなことをいろいろなところで議論されています。なのでそれが、まずアカデミアと、それから現業と、それから民間と、その間のパイプになる官がどういう役割をしなければいけないのか。今、見延先生が何度も言われましたように、あと河村先生とかも言われましたように、省庁間の壁と、あとそれから知りたい人と知っていることのずれとか、やっぱりそういう部分を1回きちんと見直して、我が国の海洋の問題はどう取り組むべきかということを、もうそろそろ方向性出さないと、何度も何度も皆さん同じことばかり言っているだけで、世の中が変わっていないというのは、さらに周回遅れになる可能性も秘めているので、ぜひそこのところ、強引な軌道修正をしつつ、ソフトな、かつフレキシブルな対応というものも同時にやっていかなければいけないというふうに思いました。ぜひやっていきましょう。
【河村主査】 ありがとうございます。
では、谷先生、お願いします。
【谷委員】 ありがとうございます。谷です。今日、GOOSの議論のときに、国内で納税者が納得しなければ、そもそも国内は動かないよというお話がありました。これはそのとおりだと思うんですね、国内で動くようなことを一生懸命やったときに、最終的にそれがリスペクトされて世界基準になればこっちのものだと、そういう議論があったかと思います。
今日のお話をずっと聞いていて、ちょっと心配になってきたんですけれども、そこだけを見ていていいのかなという気がするんです。といいますのは、今日の議論だけ見ていると、日本のために日本の観測をするということだと思うんですけれども、世界全体を見ておかないといかん部分があるんだろうと。例えば観測網を、EEZの中だけでいいのか、世界中に広げるのかというところは考えないといけないところがあると思っています。例えば津波ですけれども、地形が効きます。その地形の調査というのは、できる国は世界にそんなにないんですね。ところが日本に来る津波というのは、アラスカだとかチリだとか、いろんなところで起きた地震で日本に津波が来ますので、そうすると、アラスカとかチリとかという地形をきちんと測るということが必要です。
生態系もきっとそんなことがあると思うんです。日本の生態系に与える影響というのは黒潮の上流に原因があるかもしれない、そんなことを思うと、世界の中で日本はどういうことをせねばいかんのか。日本だけちゃんと測って、日本は100点のデータを取りましたというのは本当の正解かねというのが気になるので、今後議論を進めるときに、その辺ちょっと何か見ておかねばいかんのかなと思いました。ありがとうございます。
【河村主査】 ありがとうございます。
じゃあ、河野真理子先生、をお願いします。
【河野(真)委員】 すみません、途中で抜けさせていただきましたが、復帰させていただいております。第一に、科学データがどれだけ重要なのかを社会に知らしめる、それは初等教育も含めて、国民がきちんとしたデータがいかに大事かということをきちんと分かるような社会にしていく努力が、教育として必要だろうと思います。第二に、先ほど谷先生がデータが、国内で行うことだけでは不十分だというふうにおっしゃって、それは本当にそのとおりだと思いますが、データがそのように大事な意味を持つということを社会に知らしめるためには、第1の点で申し上げた教育に拠るところが大きいと思います。ナショナルGOOSをもっと強化して、それによって日本が世界に貢献できるようにしていくためには、日本の社会との関わりと世界との関わりの二つの面で、海洋に関してのデータを集めることがどれだけ大事なのかをきちんと伝える努力が必要だろうと思います。
どうしても日本の社会というのは、そういう基礎データがどれだけ大事かというところへの関心が低いように感じます。科学的データがそれが世界的に重要なだけではなく、日常生活や自分たちの国全体に必要なんだということをもっときちんと知らせることが必要です。データを集めている側から、その辺りを社会に知らしめる努力はしなければいけないのかなと感じます。科学者でない者がこういう発言をして申し訳ないのですが、やはりそうした伝えるメカニズムの工夫が、日本の社会にとってもっと必要なのかなというふうに思います。
ありがとうございました。
【河村主査】 ありがとうございます。そのとおりだと思います。その辺も含めてどうするべきかということをこれから考えていきたいと思います。
私の進行が悪くて大変申し訳ありません。最後の議論、非常に駆け足になってしまいました。12時半を回りましたので、ここら辺で今日は終わりたいと思いますが、前回、それから今回いただいた御意見も踏まえて、これからまた検討を進めていきたいと考えております。
それでは、最後に事務局から、連絡事項等ありましたらお願いいたします。
【事務局】 事務局でございます。本日は長時間にわたりましてありがとうございました。
本日の議事録案につきましては、後ほど先生方にメールでお送りさせていただきますので、御確認をお願いできればと思います。
また、次回の委員会でございますけれども、1月24日の午後を予定しております。追って詳細はお知らせいたしますので、よろしくお願いいたします。
以上でございます。
【河村主査】 ありがとうございました。
それでは、これをもちまして、本日の海洋科学技術委員会を終了したいと思います。4人の先生方、どうもありがとうございました。
―― 了 ――
研究開発局海洋地球課