海洋科学技術委員会(第1回) 議事録

1.日時

令和3年11月30日(火曜日)9時30分~12時30分

2.場所

オンライン

3.議題

  1. 海洋科学技術委員会の議事運営について
  2. 海洋科学技術委員会における検討の進め方について
  3. 海洋科学技術の現状と展望について(ヒアリング)
  4. 意見交換
  5. その他

4.出席者

委員

河村主査、河野健委員、河野真理子委員、川辺委員、阪口委員、須賀委員、谷委員、藤井徹生委員、前川委員、見延委員

文部科学省

大土井海洋地球課長、廣瀬海洋地球課長補佐、宮原専門官 ほか

オブザーバー

【説明者】牧野光琢 東京大学大気海洋研究所教授、高橋一生 東京大学大学院農学生命科学研究科教授、西岡純 北海道大学低温科学研究所准教授 

5.議事録

【河村主査】  皆さん、おはようございます。聞こえていますでしょうか。ただいまから第11期科学技術・学術審議会海洋開発分科会海洋科学技術委員会第1回会合を開催いたしたいと思います。
 私、東京大学大気海洋研究所の河村です。海洋開発分科会の藤井会長から主査を仰せつかりました。大変僣越ではございますが、務めさせていただきたいと思います。
 委員会の開催に当たりまして、一言だけ御挨拶申し上げます。本年から持続可能な開発のための国連海洋科学の10年が始まりました。海洋国家を標榜している日本としましては、この取組を積極的にリードしていく必要があると思います。海洋開発分科会におきましては、国連海洋科学の10年をリードするためにも、第6期科学技術・イノベーション基本計画を踏まえた上で、海洋分野の研究開発を推進していくとともに、第4期海洋基本計画の策定に向けまして、これから海洋科学分野で重要視すべきことは一体何か、何から優先的に取り組んでいけばいいかということについて議論をするために当委員会が発足したと理解しております。
 本日から数回にわたって委員会を開催して、特に重要な分野の有識者の皆さんにもお話を伺いながら議論を進めていきたいと思います。オンライン会議となって、対面会議よりもコミュニケーションが取りにくいと思いますけれども、有意義な会議となりますように、皆様の積極的な御発言、御議論をお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
 本日は、委員の皆様、御多用のところ本委員会に御出席いただきまして、誠にありがとうございます。まずは事務局から委員の皆様の御紹介をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
【事務局】  それでは、委員の皆様の紹介をさせていただきます。
 まず、資料1に委員の名簿がございますので、当方でお名前を読み上げさせていただきます。河野真理子委員。川辺みどり委員。先ほど御挨拶いただきました河村知彦委員、主査を務めていただきます。阪口秀委員。谷伸委員。本日御欠席ですが、廣川満哉委員。藤井徹生委員。前川美湖委員。見延庄士郎委員。河野健委員。須賀利雄委員。以上11名の委員の先生方に御参画をいただいております。
 なお、先ほど申し上げましたとおり、本日、廣川委員については御欠席との連絡をいただいております。10名の委員の先生方が本日は御参加いただいております。なお、谷委員は11時半頃までの御出席というふうにお伺いしております。
 続きまして、事務局を御紹介いたします。本日は、文部科学省研究開発局海洋地球課長の大土井、あと専門官の宮原、あと私、廣瀬のほか、文科省海地課の関係者が出席しております。どうぞよろしくお願いいたします。
 以上でございます。
【河村主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、本日、海洋科学技術委員会第1回の開催となりますので、開催に当たりまして、大土井海洋地球課長から一言御挨拶をお願いいたします。よろしくお願いします。
【大土井海洋地球課長】  おはようございます。海洋地球課長の大土井でございます。今日はよろしくお願いします。
 というより、先ほど河村先生からも話がございましたが、オーシャンディケードが始まりまして、なおかつ、第4期の海洋基本計画に向けた議論が総合海洋政策本部のほうでも議論が始まりつつあります。それに向けまして、じゃ日本として、日本の海洋科学の分野として何をこの10年、20年行っていくべきなのか。そのための先生方の御議論をいただきたいなと思ってございます。我ながらそうそうたる皆様にメンバーになっていただきましたので、物すごくいい議論ができることを期待しております。どうぞよろしくお願いします。
【河村主査】  大土井課長、どうもありがとうございました。
 それでは次に、事務局から配付資料の確認をお願いいたします。
【事務局】  事務局でございます。配付資料の確認をさせていただきます。
 本日は議事次第にありますとおり、資料1から参考資料3まで御用意させていただいております。なお、資料6につきましては事前に送付することができませんでした。資料6につきましては、本日の委員会では画面で共有させていただきますので、そちらを御覧いただければと思います。傍聴者の皆様につきましては、後日、ホームページにアップさせていただきますので、そちらを御覧いただければと思います。
 また、委員の先生に関しましては、また後ほど各先生方のメールに送付させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
 以上でございます。
【河村主査】  どうもありがとうございました。
 それでは早速、本日の議事に入りたいと思います。議題の1番ですけれども、海洋科学技術委員会の議事運営についてということで、事務局から御説明をお願いいたします。
【事務局】  事務局でございます。この委員会の位置づけと、運営規則について御説明させていただきたいと思います。
 まず、参考資料になるのですけれども、参考資料1-4に本委員会の設置に関する資料を入れてございます。5月19日の海洋開発分科会で海洋科学技術委員会が設置されたというものでございます。調査事項として、海洋科学技術の在り方や推進方策について調査を行うとしてございます。
 それから、参考資料の1-3でございますけれども、こちら分科会の運営規則でございますが、第3条3項に委員会の主査に関する規定がございまして、こちらに基づきまして、先ほども御紹介させていただきましたとおり、藤井分科会長から河村委員を主査に御指名いただいているというところでございます。
 続きまして、今日御決定いただきたい資料として、資料2、本委員会の運営規則の案について御説明させていただきたいと思います。基本的には分科会の運営規則、それから、これまでの委員会の規則にならって作成しているものです。
 まず、第2条では、本委員会、委員の過半数の出席が必要であるということで規定してございます。
 それから、第3条は公開に関する規定でございまして、基本的にこの会議や会議資料は公開とさせていただくということ。ただし、ここに掲げる事項に該当する場合には一部を非公開にするということができるとしてございます。
 第4条は議事録の作成と公表に関する規定でございます。
 第5条は、今回からヒアリングを行ってまいりますけれども、必要があると認められたときには学識経験者等臨時に出席することができるという規定でございます。
 第6条は、今回もでございますけども、またオンライン会議が多くなってくる状況かと思いますので、ウェブ会議に関する規定を入れさせていただいているというところでございます。規定ぶりは分科会と同様でございます。
 以上、簡単ではございますけれども、当委員会の位置づけ及び運営規則などについて御説明させていただきました。よろしくお願いいたします。
【河村主査】  ありがとうございました。ただいま御説明いただきました運営規則案ですけれども、御質問、御意見等ございますでしょうか。御質問、御意見ある方は挙手でお願いいたします。大丈夫でしょうか。特に御質問等ないですかね。
 ないようでしたら、本案をもちまして海洋開発技術委員会の運営規則を決定させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか。どうもありがとうございました。
【谷委員】  手を挙げ損ねた谷です。
【河村主査】  どうぞ。
【谷委員】  すいません、挙手ボタンの場所が分からなくて。
【河村主査】  そうですね。ありがとうございます。よろしくお願いします。
【谷委員】  本当につまらない質問なんですけども、今の規則案なんですけど、資料2の第4条ですかね、4条の第1項ですが、「議事録作成し」とあります。それから、第2項の下の行ですけど、「議事録非公表とすることができる」と書いてあります。これ、それぞれ日本語としては「を」が要るんじゃないかなと思うんです。本当につまらない。
【大土井海洋地球課長】  御指摘どおりです。修正します。ありがとうございます。
【谷委員】  以上です。
【河村主査】  よろしいでしょうか。「を」を入れていただくということにしたいと思います。ありがとうございます。
 ほかに御意見等ございますでしょうか。ちょっと私のほうで挙手を見落とすかもしれないんで、もし何も言われなかったら発言していただきたいと思いますが、よろしいでしょうか。
 特に挙手されている方いらっしゃらないと思いますので、特にこれ以上御意見なければ、今の「を」を入れるということを修正した後、運営規則としていただきたいと思います。ありがとうございました。
 それでは、次の議題に移りたいと思います。本日の委員会はこの後ヒアリングを予定しているんですけれども、その前に、本委員会における検討の方向性について御議論いただきたいと思います。議題の2、海洋科学技術委員会における検討の進め方について、事務局から資料の御説明をお願いいたします。
【事務局】  事務局でございます。資料3を御覧ください。海洋科学技術委員会における検討の進め方について(案)に関しまして、御説明させていただきます。
 これからこの資料を説明させていただきますが、この後の質疑応答、意見交換を踏まえまして、修正をしていきたいと考えておりまして、現時点でのイメージとなっております。
 まず、1、検討内容ですが、先ほど主査からもありましたとおり、持続可能な開発のための国連海洋科学の10年が始まっておりましたり、第6期科学技術・イノベーション基本計画も今年度から開始されております。そういったものも踏まえまして、海洋科学技術分野で何を推進すべきか、また、来るべき第4期海洋基本計画の策定に向けまして、本分野の在り方というのを検討いただきたいというふうに考えております。
 検討の進め方なんですけども、2.を御覧ください。現時点でのイメージとなっております。第1回の本日は、今、御説明させていただいております当委員会の検討の進め方について御議論いただいた上で、まず初めに、海洋科学技術の現状と展望についてヒアリング、議論を行いたいというふうに思っております。このため、まず初めに、今後の海洋科学の方向性と、その実現による取組についてであったり、海洋観測等の現状についてヒアリングを行って、御議論させていただきたいというふうに思っております。
 また、5月の海洋開発分科会に御参加された委員の先生方は御承知とは思うんですけれども、第6期科学技術・イノベーション計画におきまして、「総合知」が取り上げられております。そのため、海洋分野におきまして、総合知であったり、市民参加型の取組というのはどういったものがあるのかについても本日御議論いただければというふうに思っております。
 第2回目以降ですけれども、本日は海洋科学技術全体についての御議論いただいた後、個別の分野に関して御議論いただいていきたいと思っております。第2回につきましては、海洋科学技術における持続可能な社会の貢献というふうに題しまして、初めに気候変動問題に対しての必要な取組、また、海洋生態系への理解、持続可能な利用・保全のために必要な取組について御議論をいただきたいというふうに思っております。
 また、オーシャンディケードが始まっておりますので、そういったものも含めて、海洋に関する国際的な枠組みの動向につきましても、御議論いただければと考え考えております。
 第3回目につきましては、安全・安心な社会の構築に資する海洋科学技術の在り方についてをテーマにいたしまして、防災・減災への取組、貢献に向けた取組や、海底資源探査、海底地形調査に関して必要な取組について御議論いただきたいと考えております。
 第4回目につきましては、もう一度横串の議論に戻りまして、海洋に関するデータの共有・収集・整理と他のデータとの連携の在り方につきまして、これまでの個別分野における共有したり収集したほうがいいというデータの議論を踏まえまして、データ共有の連携の在り方や、海洋におけるデータ通信の現状に関しまして、御議論いただきたいなというふうに思っております。
 その後、第5回、第6回で報告書の取りまとめに向けた議論を行い、現時点での希望的なスケジュールではあるんですけれども、今年度末に海洋開発分科会に何かしら検討結果というものを報告をしていきたいというふうに考えております。
 では、具体的な検討の論点になります。3.を御覧ください。横断的事項としまして、五つの事項を掲げさせていただいております。全てを読み上げると長いので、少しかいつまんで御説明させていただきます。
 まず初めに、今回、この後御議論いただきますが、今後10年を見据えて優先的に取り組むべき海洋科学技術分野の研究の方向性というものをぜひ皆様に御議論いただきたいというふうに思っております。
 また、主査からも御指摘のありましたオーシャンディケードを念頭にして、日本としてどのような取組を行っていくべきかであったり、効果的・効率的な海洋観測に向けて、どのようなデータというのをどういった頻度、分解能で取得していくべきかみたいな点に関してもぜひ御議論いただきたいと思っております。
 また、最後に、総合知の創出、市民参加型の取組というのをどのように進めていくべきか、そういったところも御議論、横断的事項として挙げさせていただいております。
 (2)、おめくりいただきまして3ページ、重要事項につきましてなんですけれども、先ほど申し上げました横断的事項を念頭に置きつつ、各分野で重要と考えられております1から5の事項について、こういった論点で議論してはどうかというところを挙げさせていただいております。
 一つ目が、将来的な海洋調査観測システム及びデータの共有の在り方についてです。1-1では海洋観測であったり、データ取得の在り方に関して論点を挙げております。論点例のところにありますとおり、海洋観測、データの取得、研究基盤の現状、本日、河野委員から御説明いただこうと思っていますが、これらを踏まえまして、海洋分野におきまして、産学官連携含め国内機関の連携を促進し、強化すべき取組というのはどのようなものがあるのかというところを御議論いただきたいと思っております。
 また、国内のみならず、他国の機関との効果的な連携方策についても御議論いただければと思っています。
 また、効果的・効率的な観測体制としては、例えば研究船のような有人の観測はどのように推進していくべきか。また、無人省力化観測技術の活用というのはどのように促進すべきかといったところについても、ぜひ御議論いただきたいと思っております。
 1-2のところが、海洋に関するデータ共有・収集・整理と他のデータとの連携についてでございます。こちらもせっかくデータを取って結果を収集しましても、しっかりと共有して、整理をして、皆様に使っていただかなければならないと思っております。そのため、論点例としましては、こういったデータ連携に関しても現状を踏まえまして、今後のデータ駆動型の研究というのを推進するために、必要な研究基盤であったり、強化すべき取組というのはどのようなものがあるのか。
 また、海洋分野におけるデジタルプラットフォームというのをどのように構築し、どういうふうに活用していくことが必要か、そのために必要な研究基盤なり取組というのはどのようなものがあるのかというところを考えて、御議論いただければと思っております。
 最後に、データ通信技術、海の上のデータ通信技術はなかなか難しいところがあるといろんな先生方から伺っているんですけども、そういった現状を踏まえまして、今後必要な研究基盤、取組というのはどういうものがあるのかというところも御議論いただきたいと思っております。
 2点目になります。気候変動問題への対応についてです。こちらも海洋科学技術分野として、まず初めに、気候変動問題に対してどのような貢献が考えられるのかというところを、今、特に取り組んでいます気候変動予測の精緻化・高度化の観点、またはカーボンニュートラルへの貢献から御議論いただければと思っております。
 また、こういった貢献をするに当たって、現状不足している研究開発・基盤・データというのを特定いただきまして、では、そういったデータを取得するために必要な研究基盤と強化すべき取組にどのようなものがあるのかというところを御議論いただきたいというふうに思っております。
 次おめくりいただきまして、5ページ目です。安全・安心な社会の構築に資する海洋科学技術の在り方に関してになります。こちらも防災・減災への貢献と海底資源探査、海底地形調査の促進についてと二つに分けて記載させていただいておりますが、どちらともこういった分野に対してどのような貢献というのが海洋科学技術分野として考えられるのかといったところを御議論いただいた上で、それでは、それに貢献するために不足している研究開発・基盤・データというのはどういったものがあるのかということを御議論いただき、そして、それを達成するために必要な基盤であったり、取組というのはどういったものがあるのかというところを先生方のほうに御議論いただきたいと思ってございます。
 おめくりいただきまして、6ページ目です。海洋生命科学の在り方というふうに書かせていただいております。こちら、先ほどスケジュールのところで申し上げましたとおり、海洋生態系への理解であったり、持続可能な利用への貢献というのを主に考えていきたいというふうに思っております。そういったものに対して、この海洋科学技術分野としてのどのような貢献というのが考えられるのかというところを御議論いただければと思っております。
 また、それに関して、繰り返しにはなるんですけども、今、現状不足している研究開発基盤データというのは何かというのを御議論、特定いただきまして、今後の取組に関して御議論いただければというふうに思ってございます。
 最後ですが、海洋分野における総合知及び市民参加型の取組についてになります。こちらも先ほど申し上げましたとおり、第6期の科学技術・イノベーション基本計画において、総合知というものをしっかりと活用して研究開発をするべきだというふうに指摘されております。そのため海洋分野におきましても、この総合知であったり、それを発展した市民参加型の取組について、ぜひ先生方のほうに御議論いただきたいというふうに思っております。
 そのため、おめくりいただきまして7ページ目ですが、論点例としては、そもそも海洋分野において総合知を創出したり、活用する場合どういったものが考えられるのかというところを御議論いただいた上で、この海洋分野における総合知において、特に期待される領域というのはどういったものがあって、これによってどのような成果が期待できるのかというところを御議論いただければと思います。
 また、推進するに当たりまして、恐らく、例に書いてありますように、各種データ収集体制の構築の在り方であったり、市民参加型であれば、そのサービスへの還元の仕方など、留意すべき点というのがあるかと思いまして、そういったところも御議論いただいた上で、また、市民に関しては、市民参加型につきましては、主体的に市民にこういった取組に参画してもらうために考える具体的な方策等々につきましても御議論いただきたいというふうに思っております。
 長くなってしまいましたが、事務局からの説明は以上とさせていただきます。
【河村主査】  どうもありがとうございました。今、事務局から御説明いただきましたが、御質問、御意見等ございましたらお願いいたします。
【谷委員】  意見を一つ申し上げたいと思います。谷です。
【河村主査】  よろしくお願いします。
【谷委員】  論点として挙げられているのは、これ例ということで、後で議論によって追加されるという理解でよろしいですか。
【事務局】  さようでございます。
【谷委員】  具体的に一つ考えておいていただきたい。これ、主査に対するお願いなんですけれども、データのシェアリングって、これ非常に大事な部分だと思いますが、これに関係するところで、私、データの商売結構やっていまして、どこでデータの流れが止まるかというと、一つはプロプライアトリの問題と、もう一つはナショナルセキュリティーなんですね。別途、私、またコメント申し上げる機会があると思うんですけれども、seabed2030をはじめとした海底地形に関して、ナショナルセキュリティーがむちゃくちゃ問題になっています。それが原因でシェアがうまくできていないということが問題になる。
それに関して、さらに考えていただきたいのは、これどうしてもドメスティックになってしまうんですけれども、例えば海底地形もそうですし、あるいは地球環境関係、あるいはプラスチックもそうですけれども、調査をする、データをシェアするといったときに、それは日本で収まっていていい話ではなくて、世界中が役割分担をしていて、日本はEEZにとらわれることなく、広く世界に出ていかないといけないんだろうと思うんですよね。世界にある観測船のうち大型船の数の比率からいうと、日本は随分多いんですね。それの比率だけで考えれば、EEZくんだりでとどまっていてはいけないだけの世界的な役割を果たすべきではないかと思うんです。
 そうしますと、ますますデータシェアの時の日本の国際的な役割というようなことも考えないといけないと。ですから、今回ここでドメスティックなところで閉じちゃうのか、それとも世界を見据えて、UNディケードという中での位置づけを考えてやるのかというところでそもそも違ってくるんですけど、その上で、もしその世界をということを考えるなら、ますますナショナルセキュリティーとの関係という、これユネスコIOCでも議論されたことがありますけれども、ここのところを私どもの考え方を整理しておかなきゃいけないのかなと思っています。したがいまして、論点にあってもいいのかなと思っております。以上です。
【河村主査】  谷先生、どうもありがとうございました。そうですね。データの取扱いについてはナショナルセキュリティーという問題もありますし、国内的にもデータの種類によっても取扱いの仕方が違ってきますので、その辺のことは注意深く議論していかなきゃいけないんじゃないかなと思います。ありがとうございました。
 そのほか御意見ございますでしょうか。
【河野(真)委員】  河野でございます。今回初めての出席となりますので、この委員会の議論の対象と目的になるものを教えていただきたいと思います。今御説明いただいた資料を拝見しますと、主として、データあるいは情報というところに重点が置かれているという印象です。基本的にデータや情報を中心にした議論をしていくという理解でよろしゅうございますでしょうか。
 この点を伺わせていただく理由は、4ページ目と8ページ目の気候変動への対応のところだけは、データ以外の要素の比重が大きいように感じます。どのように理解して参加させていただければよいのかを教えていただければと思います。
【河村主査】  事務局からいかがでしょうか。
【事務局】  事務局でございます。河野先生からの御指摘もありますが、データをどのように収集するのかという観点におきまして、初めの論点の3.の(2)の①、海洋観測、データ収集、取得の在り方というふうに書いているんですけども、そういったデータを取るための海洋観測の手段であったり、効果的、効率的に観測体制をどのように敷くのかという議論も行っていきたいと思っておりまして、データだけではなく、観測体制はどうしたものがあるのかというところも、気候変動だけではなく、海洋生命や安全安心といった観点でも行っていきたいと考えております。こちらで答えになっておりますでしょうか。
【河野(真)委員】  はい。ありがとうございました。よく理解できました。
【河村主査】  御説明の中で、重要事項というところでデータが非常に比重が大きかったので、それが目立ってしまったんですが、横断的事項の中ではデータ以外のことについて述べられておりますので、データの取扱いというのは一つの論点というふうにお考えいただければいいかと思います。
 ほかにいかがでしょうか。特に御意見ないでしょうかね。よろしいでしょうか。
【大土井海洋地球課長】  大土井です。あくまでもこれは今のところのイメージですので、具体な話に進んでいって、どんどんどんどん改定していけばいいかなと思っていますので、よろしくお願いします。
【河村主査】  ありがとうございます。非常にいろんな観点からまとめていただいているんですけれども、これからいろんな議論を進めていく中で、どういうふうに重点化していくかというように話し合っていけばいいかなと思います。
【阪口委員】  すいません、阪口ですけども。
【河村主査】  どうぞ。阪口さん、よろしくお願いします。
【阪口委員】  ③の安全・安心な社会の構築に資する海洋科学技術の在り方についてなんですけども、この安全・安心というのが、一つが3-1が防災で、3-2が海底資源探査、海底地形調査、防災・減災は安全・安心かなということにつながるんですが、②がいま一つなのと、それから、もっと海洋上で怖いこととか安全・安心を守ってほしいことというのはたくさんあるんですけども、それは他省庁マターだからここから外れているのか、何か意図的なものがあるのか、入れられないのか、ちょっとその辺どなたかお答えいただけるとクリアになるかなと思うんですが、いかがでしょうか。
【大土井海洋地球課長】  海洋地球課長の大土井です。お答えします。よろしいですか。まず一つ目の海底資源、海洋地形調査については、政府内では、この文脈でいくと経済安全保障というふうな文脈の中で捉えられておりますので、すいません、政府的、役所的な文言で言うと、安全・安心な社会の一部分を構成しております。それが1点目。
 ですので、表現ぶりはいろいろありますけれども、海底資源によって経済安全保障に資するというのが一つ、海洋科学技術の役割の一つだろうと思っております。
 もう一つのほうは、例えばMDAでございますとか、そういった観点は当然ございます。すいません、それは全く省いておりません。この議論の中にフォーカス入っておりますので、今後議論の中身に応じまして追加をしていきます。すいません、これ落ちておりました。申し訳ございません。
【阪口委員】  はい。了解です。
【河村主査】  よろしいですか。ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
 先ほど課長からお話ありましたけれども、今挙がっている論点は、海洋地球課のほうで考えていただいた論点をまとめていただいているものですので、これからの議論の中で新しい論点が出てきましたら、どんどん追加して議論していきたいと、そのように考えてよろしいですかね。じゃ、そのように皆さん積極的に御意見いただければと思います。
 よろしいでしょうか。一応こういう方向で議論を進めていきたいということになっておりますので、適宜、新しいことが出てきましたら、御意見いただきながら議論していきたいと思います。
 よろしければ、次の議題3の海洋科学技術の現状と展望についてというところに入りたいと思います。本日、第1回目の会合ということですので、先ほど事務局から説明ありましたけれども、今後各論の検討を行うに当たって念頭に置くべき事項などを中心にして、海洋科学技術の現状と展望に関する三つの論点について、有識者の先生からお話を伺いたいと思います。
 三つの論点というのは、今後の海洋科学の方向性とその実現に向けた取組、それから海洋観測等の現状、もう一つは海洋分野における総合知及び市民参加型の取組ということになっています。
 まず1点目、海洋科学の方向性とその実現に向けた取組ということにつきまして、本日この委員会に御出席いただいております東京大学の高橋一生先生と北海道大学の西岡純先生にお話を伺いたいと思います。
 日本海洋学会で今年、海洋学の10年展望ということで、海洋分野の研究の将来構想というのを話し合われたということで、そのおまとめ役をされた高橋先生と西岡先生にお話を伺うということになっております。
 それじゃ、高橋先生、西岡先生、将来構想の概要について御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
【西岡准教授】  よろしくお願いいたします。まず、北海道大学の西岡のほうからお話しさせていただきます。資料4に沿って説明させていただきます。スクリーンのほうは私のほうでまずシェアさせてください。じゃ、資料4に沿って説明させていただきます。
 私、北海道大学、西岡と東京大学の高橋先生のほうから話題提供として、昨年から1年以上かけて、日本海洋学会の将来構想ワーキンググループでまとめられた「海洋学の10年展望2021」の内容を紹介させていただきます。
 前回の2013年の将来構想までは、物理・化学・生物の分野別に方向性の議論が進められていました。海洋学の進展には分野を超えて融合していく必要があり、今回はこのような分野横断をキーワードとして、次の10年の将来構想を実施しました。
 また、将来構想を実施する上で、ここに挙げた六つの海域グループをつくり、このグループに入り切らない共通テーマとして、新たな問題点、手法と問題というグループを加えて、合計七つのグループで議論を進めて将来構想を取りまとめています。どのグループの議論でも今後の発展に重点を置き、今活躍している若手から中堅どころの研究者が大事だと思うこと、とがった面白い研究だと思うことを中心に取りまとめが行われました。海洋学会からのパブコメを反映させて、完成版として先日、海の研究から出版されています。
 まず初めに、沿岸についてお話しさせていただきます。沿岸は、生物多様性、生産性の中心を担うエリアとして認識し、日本の沿岸に焦点を当てて議論が行われました。議論に出てきた取り組むべき課題は、ここに挙げた四つが挙げられました。
 まず最初に、陸と外洋の間のフィルターかつリアクターとしての沿岸の役割と題しましたが、沿岸域には観測結果の時空間的代表性が把握しづらいという難しい現状があります。このようなこれまでの沿岸研究から視点を変え、より大きなスケールで、陸と外洋の間に存在する沿岸域という場の理解を進めていく必要があると考えました。そのためには、陸海結合システムとして捉え、内在する物質除去、生物化学反応などを含めて研究していくことが重要であると結論づけました。
 また、社会に身近な海域としての沿岸の役割ですが、これについては、水温の上昇、海洋酸性化のような地球規模で進行中の現象の把握の中で、沿岸開発などによる干潟や藻場の消失、富栄養化、貧酸素水塊の発生といった局所的な現象を理解し、将来予測を実施し、今後、沿岸生態系をどのように維持管理していき、多くの生態系サービスを持続させるのかが最大の課題と捉えました。これらの実現のためには、大量データの取得と利用の挑戦、また、衛星観測と沿岸のモデルの発展が重要な鍵になります。
 大量データの取得に関して少し触れますと、漁業者や一般市民などへの協力を得て、安価なセンサーやドローン、スマホのアプリなどを導入し、大量データを取得すること。それを解析するためのAIの導入などが議論されました。また、得られたデータや解析結果をユーザーフレンドリーな形で発信していく仕組みも重要であると考えられました。
 次に、極域のグループでは、北極域と南大洋について議論がまとめられました。北極域の重要なトピックは海氷減少のメカニズムの把握です。海氷減少に伴う海洋の移流、混合過程の変化、それに伴う物質循環や生物生産の変化を捉えることが重要な課題として挙げられました。
 また、北極域では、長い極夜の終わりに新たにポーラーモーニングという時期を捉えて、今後導入される砕氷船を利用したポーラーモーニングの観測を実施し、北極における物質循環の理解に向けて、次のステップを踏むことが大事だと結論づけました。
 また、温暖化により海氷の減少が進み、河川水、海岸侵食、永久凍土の融解などの影響が大きくなると、陸域からの有機物や栄養塩などの供給プロセスを理解していく重要性が高まるだろうと考えています。さらに、氷縁域、海氷-波浪の相互採用の理解、積雪や海氷圧を含めた気候モデルの改良などは今後の環境変化を把握する上で重要な課題として取り上げられました。
 南大洋のほうですが、南大洋で取り組むべき課題としては、熱、水、二酸化炭素の貯蔵庫としての南極底層水の定量的な把握、全球の海水面上昇に関わる南極氷床融解のメカニズムの把握が挙げられました。これらの理解のためには、観測とモデリングによって南極氷床、海氷、海洋の結合システムの実態を明らかにする必要があります。
 今後は、これまでに進めてきた現場観測とモデル研究の融合をさらに進展させ、南極氷床と南大洋にまたがる海洋循環、物質循環、生態系を明らかにし、将来変化の予測につなげることが新たな課題として挙げられました。
 大気海洋境界というグループの中では、このポンチ絵に示した課題五つが挙げられています。まず、大気からの栄養塩沈着に関わることですが、外洋域の一時生産を規定する要因となる窒素、リン、鉄の大気からの沈着に関するより定量的な知見が必要であることが取り上げられています。また、物質が濃縮されやすい氷層数ミリ程度の表面マイクロレイヤーの役割の重要性が取り上げられました。表面マイクロレイヤー内の微生物代謝活性、大気海洋のガス交換、物質循環に果たす役割の解明が必要となります。
 気体交換では、温室効果気体や海洋生物起源気体の交換量をさらに精緻化して、理解していくことの重要性が挙げられています。
 また、エアロゾル生成については、どのような海産性のエアロゾルが雲形成に寄与し、放射収支を変化させるのかを理解する重要性が議論されました。
 波浪に関わるプロセスですが、これに関しては、物質やエネルギーの交換量を左右する波浪の時空間分布を把握するために、合成開口レーダーなどの衛星観測などを用いて、海上風のデータと、また、海面水温の詳細な分布を把握していく必要が取り上げられました。
 続きまして、中緯度のグループの紹介です。中緯度では、従来の亜熱帯・亜寒帯などで研究領域を分けず、縁辺海も含めた一つのシステムとして中緯度を捉えて、物質循環、物理、生物地球科学プロセスの統合理解を目指す必要性が議論されました。
 中規模渦や乱入混合など、細かな物理プロセスの役割を含めた再評価を行うことで、北太平洋中緯度の水塊形成や鉄や栄養塩などの物質循環像を更新することを目指すことが重要な課題として挙げられました。
 中緯度全体像の再評価のうち、黒潮は大きな要素であり、黒潮の流れと海底の相互作用で起こる乱流混合などは、表層に栄養塩を供給して、日本周辺の一次生産に寄与していることが近年の研究で明らかになっています。また、温暖化の影響で黒潮流速増加、また、黒潮・黒潮続流域の混合層が浅くなっていることなどが指摘されています。今後、このような黒潮の変化に伴って、栄養塩ストリームとしての周辺海域への影響や、生物生産、二酸化炭素吸収などにどのような影響を与えていくのかなどを理解することが重要な課題になっていきます。
 また、次世代海面高度計、高解像度モデル、船舶などの観測を継続し、黒潮の大蛇行や外用水の沿岸への影響なども重要な課題として挙げられています。自然災害の防災・減災に貢献するためにも、海面水温前線の大気場への影響の理解や、理解をしていくために、より現実的な高解像度の海面水温データの開発が必要となっております。
 ここで高橋先生のほうに交代いたします。高橋先生、よろしくお願いします。
【高橋教授】  引き続き、東京大学の高橋が説明させていただきます。
 中緯度海域では、特に生物の分野では、現場観測に基づく未知なる海洋生態系プロセスの解明が重要であるという議論に結論に達しました。先ほどの説明にありましたとおり、中緯度海域というのは、親潮、それから黒潮、縁辺海、そういった水塊が混合して渦活動、前線形成が活発であり、さらに四季があるため、大洋放射や物理場が季節的に変化する。さらに、西岸境界流がありますので、陸域を含めた周辺地形も大きく影響する。こういった中で様々な物理環境、これが光環境ですとか栄養塩、鉄の供給量に影響しまして、非常に多様性に富んだ生態系が形成される。
 ですので、そういった場所に形成される生物多様性、この維持機構というのをまず一つ把握する必要がある、これが重要であるというふうな結論に達しています。
 さらに、このような多様な生物群集の中で、例えば、世界3大漁場として知られています三陸沖のように、非常に漁業生産が高かったり、あるいは春の親潮のブルーム、世界的な規模の植物プランクトンのブルームが発生したりというような、生物生産のホットスポットと呼ばれるような場所が幾つも形成されるということで、こういった中から特定の重要な海域を選んで、そういったホットスポットが形成維持される機構というのを観測によって明らかにするべきだというふうなことが強調されています。
 続きまして、深層の海域になります。この海域のグループは、物質循環を軸に分野横断研究を推進するというふうな方向性を打ち出しました。このために、時空間スケールごとに研究の方向性を整理しまして、取り組むべき課題として、深層から中層への物質輸送、これはブロッカーのベルトコンベヤーの定量的理解と書きましたけれども、深層大循環の終着点であります北太平洋、ここの詳細な流れの機構というのをもっとしっかり明らかにするべきであるということで、海底付近の乱流混合の強度、上昇流、下降流の観測データ蓄積ですとか、それに伴って動きます栄養塩、微量金属輸送フラックスの3次元的定量を進めるべきであるというに結論いたしました。
 さらに、表層から中深層への有機物の輸送と動態、これは逆の動きになりますけれども、表層からの炭素供給量と、中層生物群の炭素要求量とのミスマッチを解消するという点も重要であるということで、生物ポンプとしてよく知られています有機物の表層から下層への動きにおいて、非常に沈みにくい、従来、定量されていなかったプロセスをもっとしっかり定量するべきであるということ。それから、中心層で近年明らかになってきています炭酸固定、これはどれぐらいあるのか。そういったものを組み込んで、物質循環モデルをさらに高精度化する必要があるだろうという結論を得ています。
 深層、さらにはこういったプロセスがどのように時間変化を得て変化していくのか。深層というのは観測頻度が少ないので、その変化を捉えにくいんですけれども、長期的に非常に緩やかに変化していくプロセス、それから短時間で変化するもの、これは人為的な影響も含めますけども、こういったものを観測システムを用いてしっかり見ていく必要がある。
 特に太平洋は、大西洋で検出されている温暖化ですとか、低塩化のシグナルがやがて検出されるだろうというふうなことが予想されているのですけれども、これに対する備えがないということで、こういったものをしっかり準備する必要がある。そういったものが人為的影響が生態系に与える影響の把握とか多様性保全につながるのではないかというふうなことを述べています。
 熱帯海域は、エルニーニョ現象、南方振動(ENSO)の予測に基づく海洋システム予測実証基盤の確立を目指すという方向で議論をまとめています。この海域で一番重要なプロセスとしてENSOがありますけれども、その予測精度というのは近年非常に向上しているという背景があります。
 しかしながら、そういったENSOに伴って生態系がどのように応答して、物質循環とか高次生産がどういうふうに変化するのか、こういったことはよく分かっていません。また、その予測可能性も不十分ということです。
 それから、さらに近年進行している温暖化とか酸性化、貧酸素化に対して、エルニーニョとそうでないときにはどのように影響が異なるのか。こういったことはほとんど分かっていませんので、それに対する予測精度を上げるというのがとても重要であるという結論に達しています。
 問題点としては、物理と比較して、化学・生物に関する変数の観測データが圧倒的に不足しているという点。さらには、物理・化学・生物変数が総合的に扱うための数理モデルに大きな不確実性が存在しているという問題点があります。これを解消するために、BGC Argo、この後述べますけれども、こういった測器による高頻度・高解像度の観測網を構築するということ。それから、後半の問題については、地球システムモデルのようなモデルを、いろいろなプロセスを組み込んだモデルを精緻化していくこと。それから、現場でないと測ることができないプロセスというのを測定する、そういった研究を充実化させていくということが重要であるとい結論しました。
 海洋学では、手法の進展というのが知識の集積に非常に大きな役割を果たしています。前回のまとめでは、将来構想では、ここに挙げた1例ですけれども、このような手法発展が重要であるということが述べられておりまして、実際、この10年でこういった手法はかなり進展しまして、実際に多くのものが実用化に供されています。
 今回は、これに続くものとして、新たな手法と問題ということで、手法としては環境DNA、BGC Argo、それからバイオロギングについてページを割いて議論を行いました。
 それから、取り組むべき問題として、海洋放射能と海洋プラスチックの問題を議論しています。海洋放射能については、放射能核種の海洋での存在形態や移行プロセスが少しずつ分かってきまして、さらに物質循環のトレーサーとして利用されるというふうな側面もあり、様々な研究が展開されてきています。今後は処理水放出に備えて、モニタリングをしっかり継続していくことの重要性が強調されています。
 一方、海洋プラスチックのほうについては、近年急速に問題クローズアップされておりますけれども、流入されていると予想されている量に対して、海洋での存在量が圧倒的に少ない、消えたプラスチックが大きな問題になっています。恐らく細分化しているのであろうと予想されているのですけれども、それが実際どこにどれぐらいあるのかというのが分からないということで、そういった過程をしっかり把握すること。それから、そういう物質がどのような毒性を持っているのかということを明らかにする必要があるだろうということで、まず重要な研究方向性としては、効率かつ信頼性の高いマイクロプラスチックの定量法の開発、それから、流入量を抑制するためには、市民レベルの活動として、そういった流入量を抑制するシステムの活用、例えばアプリを開発するとか、そういったことも活動としては重要になってくるだろうというふうに結論しました。
 新たな手法としましては、環境DNA、それからBGC Argo、バイオロギングがあります。BGC Argoについては、近年、非常に活用されていますアルゴフロートに、クロロフィルaですとか光センサー、それから化学センサー、懸濁態粒子量を測れるようなセンサーを取り付けまして、物理と同時に、生物科学データのパラメーターを4次元的に蓄積するという期待があります。
 それから、環境DNAにつきましては、生物の多様性の把握、特になかなか定量が難しい大型生物の分布を高解像度で把握できるという期待があります。
 バイオロギングにつきましては、大型生物の行動の把握に使われているんですけども、これを応用して、観測が困難な海域のデータを取得して、動物版アルゴフロートのような活用を期待しています。さらには、生物生産のホットスポットの特定にも有効ではないかという期待があります。
 以上、述べました各海域の重要な観測、それから基盤設備について、ここに列挙してあります。時間がありませんので、個々に説明することは割愛させていただきますが、資料を確認していただければと思います。
 以上、各海域の重要な研究項目について、方向性、将来構想を述べさせていただきましたが、共通する事項としましては、物理・化学・生物の分野横断研究を推進していくんだと。これによって、海洋生物、海洋システムの統合的な理解を目指すという点が挙げられます。ここでは大きな問題点がありまして、分野間あるいは海域間のデータ量の格差が非常に大きいという点です。例えば、物理に対して化学それから生物のデータは少ないですし、日本周辺海域に対して、その他の海域のデータは限られています。さらに、沿岸域でも地域間の格差が非常に大きい。
 こういったものを埋めていく必要があるわけですけれども、そこには、まず大きな期待として、高頻度・高解像度観測網の構築があります。ここに挙げてありますいろいろな測器、それから市民科学・民間との協同、実験・研究拠点などを形成することによって、海洋から物理・化学・生物のデータを密に高頻度で取ってくるというふうなことがまず重要であるというふうに考えています。
 それから、もう一つ重要な柱としては、研究船によるボトムアップ研究の推進です。こういった高頻度・高解像度の自律的観測では取ることのできない重要なパラメーターですとか、新たなプロセスの発見、それから、コミュニティーを支えている若手研究者の育成ですとか、その拡大、これをしっかり支えるために、この2番目の柱も重要である。
 こういったプロセスから取れてくる知見をしっかり統合して、例えば地球システムモデルですとかビッグデータ解析のような技術の発展を得て、将来を予測する。そうすることによって、例えば国連海洋科学の10年ですとか、SDGsのような社会の要請に応えられるような出口を達成するというのが海洋科学の方向性かというふうに考えています。
 というわけで、私たちが期待するのは、海洋システム分野統合型プロジェクトの支援強化ということになります。この三つのプロセスを研究基盤の方向から整理し直したものがこちら側の表になります。
 海洋科学はボトムアップと、それからトップダウンの二つに大きく分けることができます。ボトムアップは研究です。それからトップダウンは定常的な観測とか運用と理解していただければいいのですけれども、それぞれのプロセスは現場観測、自律観測、データ解析、モデルリングに分けることができます。
 まず、研究は必ずこのボトムアップ、現場観測から始まります。ここで重要になったパラメーターとか重点海域、こういったものが徐々にモニタリングのほうに移行していく。さらに、自律観測のような技術が発達してきますと、様々な手法が開発されまして、データを高頻度、高解像度に取れることになるんですけども、これが徐々に定常的な運用に移行していくということになります。
 それぞれの矢印は最終的な流れを表していますけども、必ずフィードバックもかかっていますので、逆方向の矢印もありますが、いずれ、こういったところで得られたデータが、こちら側のデータ解析、モデリングのほうに供されまして、様々な解析を得て、最終的にはこちらにありますトップダウンでの予測ですね。現在でも海峡とか漁場とか気象の予測には供されておりますけども、将来的には生態系、気象、それから水産資源、そういったものの予測を達成する。それによって社会の要請に応えるというようなフローがあると考えています。
 こういったフローが明らかになってきたのは、こういった自律観測とかデータ解析の技術が発展してきた、恐らくここ10年、20年の話になると考えています。ですから、今こういったフローが書けるようになった時点、これが海洋科学、分野融合を推進する非常に重要なタイミングであると考えています。
 そして重要なのは、最終的な目標達成のためには、このカテゴリー間の連携とフローを維持し続けているという点。それから、このフローの起点となるボトムアップの部分に、人的資源、予算ですとか人を投入し続けることが、海洋の広大さとか複雑性、技術の革新性などを考えると、非常に重要であるという点を強調して、発表を終わらせていただきます。ありがとうございました。
【河村主査】  どうもありがとうございました。非常に幅広い観点から海洋科学の方向性、それから課題についておまとめいただいたと思います。ありがとうございます。
 それでは今のお話に対して皆様、御質問等がございましたらお願いいたしたいと思います。
【見延委員】  見延ですけど、手を挙げるボタンを押したんですが。
【河村主査】  どうぞ、よろしくお願いします。
【見延委員】  大変、海洋学会の御努力に頭が下がります。ありがとうございました。
 高橋先生のお話で、市民との連携というところがあったんですけど、この委員会でも、総合知、市民と連携した総合知と政策性というところに重点が置かれていますので、ぜひその市民との連携という点について、もう少しお聞かせ願えないでしょうか。お願いいたします。
【高橋教授】  先ほど述べましたお話の中で、一番直近ですと、まず海洋プラスチックの流入量に関しては、開発将来構想の中でも述べられていますけれども、流入量を抑制すること唯一の汚染を止めるプロセスだと考えられておりまして、いろいろなアプリを開発して、流入量を測定したり、そういったごみをどれぐらい出しているかというふうなことを、市民と連携して、海洋の状態とリンクさせながら還元していくようなプログラム、あるいはそういったアプリの開発というのが述べられています。
 それから、もう一つは沿岸のところで、かなり強調して述べられていましたけども、近年ドローンの開発が急速に進んでいまして、恐らく民間でもかなり活用が進んでいると思われますけれども、そういったものに例えば搭載できるセンサー、そういったものを開発したり、それを集約できるようなデータベースみたいなものを構築することができれば、例えばいろいろな海域で、特に沿岸域を中心に海色ですとか、それから水温とか、そういった、つぶさな状況をかなりリアルタイム、または準リアルタイムに収集できて、それを集約できれば、かなり大きなデータベースが構築できるのではないかという議論はされています。
 それから、総合知のほうでは、それはきっと牧野先生のほうが。海況と合わせた解析とか、そういったところも重要で、恐らく共同できるところではないかとは考えております。
【見延委員】  ありがとうございました。
【高橋教授】  西岡先生、何か補足はありますでしょうか。
【西岡准教授】  1点補足とすれば、沿岸のほうでは例えばスマホなんかを利用して、一般の人たちが海の写真を撮って、その海蝕をAIとかに解析させるようなデータセットをつくれるんじゃないかというような議論がされました。1点補足です。
【河村主査】  ありがとうございました。見延先生、よろしいでしょうか。ありがとうございます。
 谷委員から手が挙がっていますね。谷先生、お願いします。
【谷委員】  ありがとうございます。谷です。
 質問です。高橋先生の最後のスライド、非常に興味深かったんですが、よく訳が分からないところがありまして。ボトムアップとトップダウンという整理ですけれども、スライドを出していただけませんでしょうか。
【高橋教授】  共有させていただきます。
【谷委員】  バイオロギングとかスマホとかというのがボトムアップになっています。これらはセンサーがどこに行くか制御できないやつですよね。BGC Argoとか、Deep Argoとかというのは、トップダウンになっているんですけど、これもセンサーがどこに行くか分からないですよね。現場観測のほうは、学術研究船というのは学術的にここと思うところに行くんだと思うんですよね。その点で、もう学術的な興味に関係なしに、決まり切ったところを走っている気象庁の船とか、水研の船とか、海上保安庁が抜けていますけど海上保安庁の船も、というのが、学術的興味に関係ないところ、テーマに関係ないところをやっているという整理かと思ったんですが、そうすると、自律観測の分け方というのは何でこうなるのかというのがよく分からないんです。何でボトムアップとトップダウンと分けられているんでしょうか。
【高橋教授】  これは非常に暫定的な表です。今回の発表に合わせて、私たち、私と西岡先生で相談しながら作らせていただいたんですけども。自律観測については近年急速に発達してきていますので、これを分けることはなかなか難しいのかとは考えています。ここの線引きは、実際に海洋に今、投入されて、データが取れているもの、あるいは確実に取れてくるだろうというものに関して、かなり大きな予算規模で動いているものについてはトップダウンのほうにほぼ入っていると。
 ボトムアップのほうは、そういったベースがなくて、基本的には個々人が、個々人というか、小さなコミュニティーの中で、いろいろな開発とか、こういうアイデアがあるんじゃないかということで、芽のようなものです。それが上側に入っています。
 ですから、そういったそんな深い意味はないと考えていただいていいんですけれども、それが将来的にはどんどんデータが集まってくるようなシステムになればトップダウンの方向に区分されるのかと考えています。
 ですから、このボトムアップとトップダウンという分け方が適当ではないのかもしれないんですけれども、いずれは、いろいろなところで明らかになってきた重要なプロセスが、どんどんデータが自動的に取れてくるようになるのが恐らく理想で、それが予測精度の向上につながっていくと考えています。
【谷委員】  ありがとうございます。あまり大して意味がないと理解したんで、いいんですけど。私は役所にいたということもあって、これは見方が違うんですけれども、トップダウンと称される定点観測みたいなものから、学問的なアイデアが生まれて、それで、ここを集中してこういうメカニズム解明をしようといって、ここで書かれているボトムアップというんですかね、学術研究船をそこに派遣して、メカニズムの解明のための特別な調査をするというようなことがされてきたので。
【高橋教授】  それはもちろんそのとおりです。
【谷委員】  そういうトップダウンの役割というところというのが、あまり軽視されると具合悪いかな。これは政治的な発言ですけど。トップダウンはボトムアップを受けてやればいいんだという整理になっちゃうと、気持ち悪いと思います。
【高橋教授】  いえ、そういう意味で決して作ったのではなくて。
【高橋教授】  いえ、そういう意味で決して作ったのではなくて。
【谷委員】  いや、役人の目から見るとそういうふうに読めちゃうなと思ったんで、申し上げました。
【高橋教授】  申し訳ありません。口頭では述べさせていただきましたけど、これは矢印が双方向に実はあって、実際にトップダウンというか、このモニタリング観測は非常に重要で、ここから出てきたいろいろなアイデアというのは、もちろんボトムアップに非常に大きな貢献をしています。ですから、それは定常的に回すべきもので常にあってほしいんですけども。なので、重要性は全然軽んじているわけではありません、ということが1点です。
 そういった中で、そういったプロセスも含めて、トップダウンのモニタリングというのは、ずっとこういう定常的な運用で続けていく必要があるんだというところを強調したいので、矢印は下向きの要素というのが強くなっています。ただ、これは一方向でないというのは強く、もう一回強調させていただきたいと思います。
【河村主査】  ありがとうございました。谷先生、よろしいでしょうか。
【谷委員】  はい、今の件は。別途コメントをしたいことがございますので、適当なときにお願いいたします。
【河村主査】  いいですよ、続けて。次の方に振ってから後にしましょうか。ありがとうございます。トップダウン、ボトムアップ、これはなかなか区別が難しいと思いますけれども、既にある問題を、大きく予算をつけてやっていくということと、新たなシーズを発掘するというところ、そういう2方向の進展が必要だということだと理解しました。
 須賀先生ですかね。手が挙がっていますね。お願いします。
【須賀委員】  ありがとうございます。須賀です。今お見せいただいていたダイヤグラムといいますか、に関するコメントと質問ですけども、高橋先生、よろしいでしょうか。もう一度シェアしていただけませんか。ありがとうございます。
 私も今の議論、大変興味深い、谷委員との御議論も興味深いところだったんですが、これはボトムアップとトップダウンという書き方ですけども、括弧で書いてある(研究)と(定常観測・運用)というふうに読むと、これはある程度理解できるかと思って聞いておりました。
 今の議論の中で、この矢印は実は双方向、研究と定常観測・運用というのは、実は一方通行ではなくて、互いにフィードバックを与えながら両方とも発展していくというものだろうと思っているんですが、そういう理解でよろしいでしょうかというのが質問でした。
 それとあと、難しいところは、私はGOOS、全球海洋観測システムというものに関わっていて、あとは観測面ではArgoに長く携わってきたんですけども、難しいのは、この研究モードでやっていた観測を、定常観測・運用モードに切り替えていくというか、切り替えるというのか、移行していくといいますか、そこのところが難しいところだろうと思うんですね。BGC AgroとかDeep Argoというのは、今この表では定常運用のほうに入っていますけど、実際今は研究と定常観測・運用の中間ぐらいのところにいて、これがうまく定常のほうに行くかどうかというのは、あとこれから5年10年が多分勝負だと思うんですね。
 そこのところが実は一番難しいところだと思うんですが、そこに関する議論、研究と定常観測・運用のインタラクションと、インタラクションしながら研究で出てきた観測を、いかにして定常運用のほうに持っていくかということに関して、何か御議論といいますか、そういう議論は今回のワーキンググループであったでしょうかという質問です。
【高橋教授】  最初の、双方向ですよねという確認はもちろんそのとおりです。なるべくこの左上から始まって右下に終わるというプロセスを強調したいがために、矢印が単調になってしまったんですけれども。もちろん反対側の矢印がそれぞれにあるということは把握しておりますし、それはうまく書き切れなかったのは当方の責任ですので、おわびを申し上げます。
 それから、そういったBGC ArgoとかDeep Argo、こういったものがこれからいかに実用化されていくか、そこの重要性については、実はそれほど私が関与したグループの議論の中ではなかったと記憶しています。とても期待が大きくて、とにかくそれを進展したいという期待とか、そういった意向は物すごく若い研究者の皆様にありまして。なので、それを何とか活用したい、あるいは展開できるプロジェクトを何とか立てようという議論のところまではあったんですけども、具体的にどういったアクションを起こすべきかというふうな、込み入った議論というのは実はなかったのが現状です。
 ですから、そういったところは今、御示唆をいただきましたので、これからワーキンググループのほうに持ち帰って、議論をさせていただければと考えています。
 西岡先生、何かございますでしょうか。
【西岡准教授】  同じく沿岸と中緯度当たりでBGC Argoとか、あるいはより簡易な沿岸型のフロートなんかを使って観測をすると、このようなサイエンスの展開が図れるねということに関する議論はとてもいろいろあったのですが、それらを定常観測とか運用にどう結びつけていくのかという点に関するビジョンまでは、詳しく議論がグループ内ではされていないというのが現状でした。今後はそういうことにも、ワーキンググループのほうで視点を持っていく必要があるのかと今聞いていて思いました。ありがとうございます。
【河村主査】  ありがとうございました。須賀先生、よろしいでしょうか。
【須賀委員】  ありがとうございます。一つ、恐らく今の点ですね。私が今BGC ArgoとかDeep Argoというキーワードを出したから、そのことを中心にお答えいただいたような気がしますが、これは一般的な話だと思うんですね。研究モードでやっている観測をいかに運用・定常観測モードにしていくかという、そこのところの議論というのは、恐らく研究者コミュニティーだけの議論では閉じないので、この委員会のような場も、もしかするとそれをこういうものに対して提案していくといいますか、この研究モードと定常観測・運用モードをどうつなげていくか。フィードバックさせながら、いかに両方をうまくつなげてつくっていくかという、そこのところを議論するのは、そういう場が必要かと思います。この委員会の議論でも、その点も含めて議論できればと期待しております。ありがとうございます。
【河村主査】  どうもありがとうございました。
 続いて、阪口委員から手が挙がっていますね。よろしくお願いします。
【阪口委員】  大変、俯瞰的で、将来を見据えたまとめをどうもありがとうございました。今、私が話すことは、これは永遠のテーマで、答えはすぐここにはないと思うんですけども、今例えばこのスライドの上の文字のところに、「フローの起点となるボトムアップの部分に研究資源(予算・人)を投入し続けることが大切、なぜならば海洋は広くて複雑で、技術革新等が必要だから」、これはもう全くそのとおりで、海洋というのは、ある意味サイエンスの宝庫でありまして、同時にまだまだ分かっていないことが山のようにあるので、これを突き進めていかない限り、何を理解したのかということも定かでないという状況がまだ続いています。
 なので、これが非常に重要ですが。ただ、残念ながら研究資源は減りつつあり、同時にパンデミックが世界中を襲い、石油等の価格が高騰し、温暖化によって資源、海洋資源そのものもだんだん今減っているという、世の中の状況は逆に向かっているわけで、その状況で税収が減ると、この研究資源というものも必然的にパイが小さくなっている中の取り合いになるので、さらに減っていくというのが現状だと思うんですね。
 そこで、まず今日は海洋地球課の大土井課長もおられますし、国からのサポートという意味で、どういう点をもっと魅力的に見せることによって、この研究資源を減らされるのは仕方がないとしても、減らされる割合を最小限にするとか、あとは国以外に民間からの研究資源というもの、これは単に外部資金という意味ではなくて、民間が海洋に対する投資が増えるようなものを、これがサイエンティストの仕事ではないということは明らかですが、そういうことがあれば、民間のお金も回るわけで、その結果、民間からの研究資源というものが増えるわけですよね。
 なので、まず国、行政、それから政治家を科学の面から、海洋科学の面からどう教育していくかということと、それから民間に対しては、どのようなアウトプットがあり、それに投資をしたくなるようになるかということを、これは科学者が考えることでは私はないとは思うんですけども、何かそういう方向性とか議論がされていいたら、教えてほしいというか、みんなで議論したいと思うんです。
 でないと、このフローの起点となるボトムアップの部分に、予算と人が投入されなくなると、どんどん先細りになり、理解しなければいけないことがどんどん遠のいてしまうと思って、私はここに集約させるためには、どのような戦略が必要なのかということを、日々考えているんですけども、何か御示唆いただけることがあったら。発表者の方以外でも、お答えいただければと思うのですが、よろしくお願いします。
【河村主査】  ありがとうございます。どうぞ、何かありましたらお願いします。
【高橋教授】  非常に難しい御質問だと思うんですけれども、私見を述べさせていただきますと、海洋科学が社会の中であまり目立っていないという現状があるんだと思います。ですから、いろいろな側面で一般の方にエクスポーズするというか、触れる機会を増やしていくというのが多分、いろいろなものを動かす一番大きな原動力になるのではないかと最近は考えています。
 ですから、例えば先ほど少し話に出ました、ドローンとスマホを連携させて、海の状況を観測するみたいなプロジェクトが広く広まれば、海洋に興味を持つ若手、若い人も増えるでしょうし、あるいはそういったものを市場として民間の企業も動いたり、そういったところを突破口にして、大きく海洋に関する関心が高まるというようなことは少し将来に向けて力を入れていってもいいのかと。海洋のプラスチックの問題も同様ですけれども、そのようなことを考えております。
 この成果を先日、海洋学会のシンポジウムで発表して、アンケートを取らせていただいたんですけれども、学会の中では、若手の研究者がどんどん減っていて、もう将来的に研究を支えられなくなるということが非常に将来構想の中で、期待というよりかは危惧として述べられておりまして、そういった面でも先生が述べられたそのボトムアップのところをどういうふうに維持していくかというのは重要な視点だと思っておりますので、それを学会の中ではなくて、社会全体で考えていくという御意見には強く賛同いたします。私からは以上になります。
【阪口委員】  ありがとうございます。
【河村主査】  ありがとうございます。これについては、海洋地球課のほうでもいろいろなことを考えておられまして、市民参加型、それから今日、総合知の話で話題提供いただきますが、国民の海洋学のファンを増やすというのは非常に大きな課題となっておりますので、その辺で、この市民にも参加してもらいながら、というのが重要になってくるんじゃないかと思います。ありがとうございました。
 まだまだ議論をすることがあるんですけれども、時間が押しておりますので、次に行きたいと思いますが、谷先生、何か先ほどコメントがあるということだったんですが、もし短く終わるものでしたらお願いしたいと思いますが。
【谷委員】  ありがとうございます。大変よく練られた御発表で、すばらしいと思いました。一方で、もちろん学者の団体がおつくりになったんで当然ですけども、こういう研究があって、こういうところが大事だというもののバインドされたものだと思うんですけども、世の中で、例えばUN Decadeとか、SDGsとかで、こんなイシューが世の中にあるよというのに対して、そこに何をすべきかという整理になっていないので。もちろん学会から承るのは、これはもう完璧ですけども、私どもの委員会、あるいは上の分科会で議論するときには、オブジェクトオリエントな目で再編して読まないといけないと感じました。
 それから、私はちゃんと読んでいないので全然知りませんけども、ロードマップが要るんだろうと思うんです。いろんな海洋学がいろんな問題について細かく詳細に書かれているんですけれども、「あれ、これもう済んでいるんじゃないの」と思えることがまだいっぱいテーマがあると書かれているんです。それは多分、政治家が絡むとか、抜けがあるとかということだと思うんですけども、何が大事で、どれから手をつけないといけないのか、その辺のシークエンスをきちっと整理されないといけないのかと伺っていて思いました。
 それから、一番気になっているのはテクノロジーですけれども、例えば新しいArgoを使うということが、BGC Argoでしたっけ、ありました。あるいはArgoそのものもそうですけれども、ああいう発想というのは、どこかの国にあって日本がそれを買ってきたということではなかったかと思うんです。今、海底地形を測る世界でも、セイルドローンを使うとか、あるいは、シェル・オーシャン・エクスプライズでいろんなAUVを使った海底地形調査というのが提案されましたけれども、そういった発想、根っこの発想というのは、日本発じゃないんですね。
 いろんな問題があるけど、これにもっと予算つけてくれたら何とかやりますというんじゃなくて、違ったテクノロジーというのが開発されるべきじゃないかと思うんです。そこは何か御議論がなかったように思っております。あと最後、阪口委員がおっしゃった、民間の金、それは学者には関係ないとおっしゃったけれども、実際には学者の役割が一番大事なんです。
 さっきテクノロジーの話を申し上げましたけれども、最後に、民間の金というのは、これは学者ですね、ドライブするのは。北米とか北欧とかで、民間の海洋研究所ができていて、自分の研究所やら船をつくって、ばんばん海に乗り出していますけれども、あれは何にトリガーされたかというと、学者のインフルエンスですよね。ですから、学者がお金持ちにうまく説明をするとお金が出てくるということはありますので、学者さんの努力というのはすごく大きいと思っています。以上です。
【河村主査】  ありがとうございました。いろんな論点がありましたけれども、ありがとうございます。
 まだ、最後になって皆さんから手が挙がってきたんですけど、時間がなくなっちゃったんで、また後ほどの議論にさせていただきまして、次に進めたいと思います。
 高橋先生、西岡先生、どうもありがとうございました。
【高橋教授】  ありがとうございました。
【西岡准教授】  ありがとうございました。
【河村主査】  ありがとうございます。
 続きまして、2番目の議題ですけれども、海洋観測等の現状についてということで、河野委員から御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
【河野(健)委員】  それでは、御説明をいたします。時間が押しているということなので、JAMSTECの宣伝めいたことは割愛させていただいて、御説明をしようと思います。
 まず観測、先ほどの御発表では定常観測に位置づけられるのかもしれませんが、世界の海で気候変動ということを中心に見据えるときに、観測がどれくらい行われているかというのは、定期的に、WMOとIOC、オリンピックじゃないほうのIOCがコミッションをつくって、このように整理しています。暗くて見にくいんですけど、ダウンロードできますので、皆さん見ていただけると分かると思います。
 一見してすぐに分かると思いますが、北太平洋や北大西洋にはかなりの観測があり、インド洋はこれまで少なかったんですが、IIOE-2というキャンペーンのおかげで大分増えてきた……。それでも南半球はそれに比べれば大分まばらで、北極域が、北のほうですが、ここではほとんど観測がないように見えるというのが全般的な状況です。
 その次に、日本の実力というものをお見せしたいと思うんですが、観測のうち船舶による詳細な観測網、それから係留計による観測網、それから船舶による観測網、この三つを調べたものです。上側が世界各国で、左が2000年から2010年の1011年間、右側が2011年から2021年までの11年間に行われたもので、下の二つの絵が、そのうち日本がやったものです。これはJAMSTECと気象庁、その他が入っています。
 大体これらの三つを等価だと考えると、船舶・Argo・係留を併せてやられるもののうちの大体10%強ぐらいが日本の貢献ということで、これが今、我々の日本の実力だということが分かるかと思います。2000年代には20%弱だったので、半減したという言い方もできるかもしれませんけれども、印象としてそんな感じはありません。
 これも日本の特徴を見ていただくと、左と右を見ていただくと明らかですが、船舶や係留は減っていて、Argoフロートは増えているというのが分かりだと……。ちなみに、観測をすると日本はこれで十分ですか、ということを、よく定量的に評価する人から聞かれるんですけど、不可能なので、御参考までに、日本のEEZの面積は世界の約3%、日本のGDPは世界の約6%ですので、10%の貢献というのは、これらに比べれば頑張っているほうかもしれません。
 個別に見てみますと、国際アルゴ計画、Core Argoというのに古くから参加しています。4,000台ぐらいのブイが世界で漂っているわけですけど、これは生きているフロートの数をプロットしたので、アメリカはずば抜けてありますけれども、日本は一度、世界に、アメリカに次ぐ貢献を示しました。矢印も見えていますか。それで、徐々に徐々に減ってきたわけです。この減ってきたのはなぜかというと、先ほど話題になりました研究ベースで進められていたからです。
 ある程度めどが立つと……ですけど、その間オーストラリア、EUなどはそれを現状観測のほうも少しずつ移すようなことをして、維持をしているということ。少し回復していっていると思いますが、これは前回のG7のときに、日本の……、Argoに力を入れるべきだということを言ったからということに……。
 それから、GO-SHIPというのが船のほうですが、これは大体1,800測点ぐらいをやっていて、8割をJAMSTECでやっておりましたけれども、最近ではそれが1,400点ぐらいで、6割が気象庁による貢献ということに……。
 それから係留計ですけれども、ピークに22基ぐらいを維持していましたが、6基に……。これは主に、この西太平洋赤道域における係留観測の中止というか、終了による……。
 これからの展望ですけれども、先ほど来も出ていましたし、須賀委員も言われていますけど、One Argoというのが大きな潮流になるかと思います。これは、既存のArgoフロートに少し沿岸も意識したもの、それからBGC Argoフロート、それからDeepフロート全てを入れて、世界中の一つのArgoとして扱いましょうという考え方で、これは例えば測器も、フロートの活動があまりないところというのも全てきちんと把握されていて、最適配置を通知するというようなシステムもありますし、この後説明しますが、DDCについては注目が大きくて、大きなプロジェクトが立ち上がりつつ……。そのほか、測器の小型化・省力化などが今後の大きな将来像になるかというふうに……。
 BGC Argoですけれども、例えばこれまではSOCCOMという、南半球、ここに観測点が少ないこともあって、ここに米国の中心になって204台のBGCフロート……。これが2024年まで延長するということで、かなりの有力なデータソースだったと……。
 また、GO-BGCというのも起こりつつありまして、これはArgoフロート、これを大量に入れていくということで、NSFもお金をつけたということなので、これらが今後、多くの期待を持てるところということに……。
 これは将来展望ですが、須賀委員の資料からいただきましたけれども、全球的なカバレッジの現状はArgoが今、良好なので、定常観測に位置づけられるのも無理はない……。2020年に一度、投入数は減少しましたけれども、大体大きな、致命的な影響はなく……。
 実は、BGC、Deep、それからCore、それから沿岸を意識したArgo、全部合わせて大体4,535個ぐらいが必要だと設計されておりまして、大体1回の観測、一つの測器が150回ぐらいの観測ができるとすると、あるいは250回ならと、こういう性能に応じて、大体1,000台ぐらいをこれから毎年入れていかなければいけないということで、BGCミッションはこのGO-BGCにより大幅に進捗しますけれども、それなりに投資は仕向けなければ、この基盤的と言われている観測は維持できないことになる……。
 そのほか、無人化への取組というのが必須になりますので、例えば、水面上の観測であれば、セイルドローン、ウェーブグライダーといったようなものを次々と投入できるように、雰囲気をつくっていくということが重要になろうかと思います。実際、ウェーブグライダーとかは、JAMSTECでは地震観測網などで使っておりまして、将来有望です。セイルドローンは、測器、機械そのもののメンテをしなくていいということが大きなメリット、デメリットだと思う方もいらっしゃると思いますけど、データを買うこと……。
 これらは、船舶観測の補完、係留観測の代替として期待できるゆえに、主に再生可能エネルギーの観測ですので、ゼロエミッション政策にも合致するということで、これから活用を広げていくことが重要かということを考えています。
 あと、これはJAMSTECの宣伝みたいなことなので、割愛しますが、無人観測、単に気象・気候だけなら、資源探査その他にも……技術開発ですね。
 続いて北極です。北極は比較的新しい、注目されてからあまり間がたっていないということで、先ほどの図の書換えが左下のところにありますが、北極海は本当にあまり観測がありません。これまで日本は、海洋観測、海洋地区コンテナ船2台、これは砕氷船じゃないので、夏場にちょっと入れるだけというところで、大きな成果を、それでも大きな成果を上げてきました。
 国内研究の推進のための研究費というのは、文科省が非常に頑張ってつけていただいて、3シーズン続いているところで、徐々に資金が伸びているということです。この観測の空白域を日本で船を持って埋めていくということが、日本の研究者にとっても、またグローバルな問題についても有効なことだと考えています。
 将来としては、今、建造に着手したところの北極域研究船が建造されることで、この右側の下の緑のハッチがかかっている面のところもありますけれども、これまで赤丸の中しか行けなかった我が国が、この緑のハッチ以外のところには、時期を、すごく慎重にじゃなくて、選ばなくても行けるということで、かなり観測の可能性は広がり……。
 重要なことは、北極で特に総合知というようなことは特に重要と言われていて、自然と社会科学が融合した総合的な科学を推進するための研究と、それに必要な人材育成をするということが遵守されている。また、観測面においては、先ほど気候変動のためということを言いましたけども、そういった表面から海底まで、岸から岸までのデータをスナップショット的に取るということを一度もなされておりませんので、そういったことを推進していくことが重要な……。
 そのほか、先ほども話題になりましたけれども、沿岸と海洋、全てを一つのプロセスとしてということと、これもあと、短く言いますけれども、MAX-DOASという微粒子を測る観測によって結構日本はリードしていて、そういったことも、多くの人が参加することによってさらに進んでいくのかなと考えています。
 海洋学会の御発表にはなかったんですけど、我が国特有の問題として、地震観測システムというのも海洋の観測の一部と位置づけるべきだろうと思っております。これまでS-net、あるいはDONET、それから音響測距結合方式による地殻変動観測などが行われてきていて、これが、この後来るべき東海・東南海・南海地震の予測、これに寄与するということで、我が国としては、安全・安心な社会のために重要だろうと考えて……。
 今までで、いろんなことができるようになっていますが、ここに穴を掘って、その中に、傾斜計や地震計を入れることで、スロースリップと呼ばれている現象が測れるようになる。こういったことが我が国の将来の方向性としては、一つの道だろうと思っています。
 これは飛ばしまして、そのほか、これも話題になっていますが、Emerging Issueだと考えているのが海洋プラスチック観測です。これは先ほどの気候変動のような大きな全球的な枠組み、あるいはデータを配るシステムができておりませんので、今、国際的にはそういうものをつくろうという動きが盛んになっているところです。私たちJAMSTECとしては、観測にも参加できますし、ここにいらっしゃる先生方の所属しておられる機関でも、そういうことをやっておられるので、まずは日本全体でまとまることを考えて、その後世界に打って出るということが必要かと考えているところ……。
 まだ、観測その他は、先ほどの表で言えばボトムアップというところの段階にあるんだと思いますが、システムをつくっていくことが今後課題になると……。
 あとは市民参加というのがありましたので、ちょっと2、3御紹介しますが、先ほどのプラスチックで言えば、カメラで撮影してプラスチックとそうでないもの、ごみとそうでないものをAIで分別するシステムの開発であるとか、あるいはこういった高校生相手に測器を作っていただいて、これを地元の漁民の方の船に積んでいただいて、そのデータをいただくという方法であるとか、あるいは、これはデータを提供していると、その提供先の漁業者の方が、自分たちが船で出たときの状況を教えてくれるということで、双方にデータの交換をすることで、向こうとしては、よりよいデータが得られるというメリットがある。こちらとしては、予測精度を上げるというメリットがあるという関係を構築したいということをしているところ……。
 データですけれども、ナショナルフラッグキャリアなので、必ずしもJAMSTECの宣伝とはならんと思いますが、我々はDIASというシステムの委託を受けることになりました。ということなので、大きなデータの集合体を運用することになりますので、そういったデータを、なるべく自治体を含め、社会に展開していくようなことに今後力を入れていこうと考えているところであります。
 最後まとめです。二、三、JAMSTECの方針もありますけれども、Argoについては、少なくともCore Argoについては維持できますし、維持していくつもりですし、そのほか、Bio-Argo、Deep Argoにも少しずつ参画していく。それから北極研究船は建造を国際プラットフォームとして活用していきたい。あとはここにあるとおりで、特にこの後、話題になるんでしょうが、データの利用推進、市民参加型活動の推進ということも重要だと考えるところです。以上です。
【河村主査】  河野先生、どうもありがとうございました。海洋観測の現状について御説明いただきました。皆さんから御質問等がありましたらお願いいたします。
 藤井先生、お願いします。
【藤井委員】  水産研究・教育機構の藤井です。非常に興味深い御講演をありがとうございました。世界の海洋観測の現状と我が国の貢献が分かって、改めて勉強になりました。
 海洋観測においては、今、船による観測、それからブイによる観測、それからArgo、それぞれ特性がありますので、この組合せでどれだけのことを継続的に把握していくかということだと思うんですけど、その中で一つ気になったのが、Argoがこれだけ今、世界中で活躍しているというのは私も恥ずかしながら存じ上げていなくて、年間1,000台くらい、これからも投入する必要があるということで、Argoの寿命がどれくらいであるのかというのと、それから、寿命が終わって役割を終えたArgoはどうなってしまうのかというところが、一つ素朴な疑問として気になったんですけど、御教示いただければと思います。
【河野(健)委員】  機種によって違いますけれども、2年から4年ぐらいです。どのぐらいの頻度で上下させるかにもよるので一概に寿命というのも言えないんですけど。大体今、150サイクルは必ず、上下150サイクル維持できるように、ちょっとそれより長い170サイクルとか、そういったところが平均的です。その180サイクルを何年間でやるかというんで、取りあえず2年から4年という……。
 寿命が終わったArgoフロートは、実態としてはそのまま廃棄ということに……。多くのものが一度中層に入って浮かんでくるときに、浮かばせるために、ブラダーという風船を膨らませるんですけど、その風船を膨らませるときに電気がなくなって、寿命を迎えるということが多いものですから、浮上して来ずにそのままということが多いかと……。
【藤井委員】  そうすると、言ってしまえば、どこにいるか分からない状態でどこかを漂っている。
【河野(健)委員】  実態としてそういうことということに。
【藤井委員】  これから数が増えてくると、その辺も海洋のごみというか、そういう形で問題になってくる可能性はあるんでしょうかね。
【河野(健)委員】  それは、Argoのグループは深刻に考えているはずで、現時点での説明はそういうデメリットよりも、得られるメリットのほうが大きいでしょうということに尽きるわけですけれども。数年前にArgo3,000台を維持していく場合、それが全部ごみとなると、物すごく小さな鉄鋼船、普通の船が一杯沈んだよりもごみの量が少ないというので、そういったような現実と踏まえて、メリットとデメリットを皆さん考えてくださいという……。ただ、これから先、片っぽうでプラ問題をやっていて、片っぽうでArgo……というのは、ちょっと問題になるかもしれません。
【藤井委員】  ありがとうございます。将来的には、回収して再利用できるようになれば、きっと持続的だろうと感じました。ありがとうございます。
【河村主査】  ありがとうございます。そのほかいかがでしょうか。手が挙げられなかったら、ミュートを外して御発言ください。
【須賀委員】  須賀です。
【河村主査】  どうぞ。
【須賀委員】  よろしいでしょうか。今のArgoフロートの件に関して、アップデートといいますか、情報を補足させていただきます。現在のArgoフロートは平均寿命だと大体4年ぐらいですけども、環境への負荷を考えると、できるだけ寿命を長くする。これは予算を節約するということにもつながりますけども。ということで、10年ぐらいの運用を目指しているところであります。アメリカの一番進んでいるスクリップス海洋研究所等では、そのくらいはいけそうだという、そういう予備的な結果が出ているところです。
 それから、今、河野委員から御説明があったように、Argoとしては、基本的に回収するというのは、逆にコストがかかり過ぎるというか、回収するために船を出すということになると、それで燃油を使うということで、二酸化炭素の排出ということを考えても、トータルに考えた場合、現状では回収するというのは逆に環境に負荷をかけるという見積りになっています。できるだけ環境に負荷をかけないようなものに、素材とか、そういうものを変えていくという、そういうところにも注力していく必要があるんじゃないかと考えています。
 それから実際に、今、河野委員からも御説明があったように、年間どのくらいのものをArgoフロートが環境に放出しているかと、物質という意味で。ということを計算した場合に、それは非常に小さいという、そういう見積りはしながら、環境への負荷を小さくするという努力をしているところです。
 ですから、日本の技術という面で考えると、技術的貢献ということで考えると、そういうところに実はまだArgoの技術というのは、これで完成版ではないと思うんです。より環境に負荷のかからないフロートであるとかセンサー、そういう素材を開発するとか、そういうことが一つの方向というか、貢献できる分野ではないかとも考えているところです。ありがとうございます。
【河村主査】  ありがとうございます。河野さん、何か追加のコメントはありますか。
【河野(健)委員】  前川さんの後でお願いします。
【河村主査】  そうですか。じゃ前川委員から、よろしくお願いします。
【前川委員】  大変包括的な御発表ありがとうございました。1点だけ質問ですけれども、御発表の中で、今後の例えばIPCCのAR7への貢献ということも言及がございましたけれども、その中でパリ協定の2度目標という数値がございましたけれども、先般のグラスゴーでのCOPで、2度目標ではなくて、1.5度目標を目指すということで世界的な合意がなされて、1.5度と2度ではかなり違う世界が広がっていて、これが明確に世界のリーダーが合意をしたということは非常に大きなことだと思うんですけれども。IPCCでも社会経済経路、かなり細かく、AR6、8月に出たものは提示をされていて、社会が目指すべきその方向性というものが変わると、研究の大前提もある程度変わってくるかと思うんですけれども、その辺りの議論は今後なされていきそうでしょうか。
【河野(健)委員】  今日発表した観測網については、本当に基盤的なものなので、世界が目標とするものが変わっても、そうそうは変わらないものだろうと思います。例えばエルニーニョの観測のために西太平洋で展開していた係留ブイなどは、そういう意味で、研究の一応の区切りで収束したという意味では、常にその新陳代謝はしているところですけれども、BGCであるとか、あるいはそのほか酸性海洋の係留であるとか、船舶の断続というような、比重は変われど、そんなに2度、1.5度の目標の変化によって、やらなくていいというものはデメリットに……。反対に、もっとやればいいというものが出るような気がするんですけど、現実的な解として、何かどこかに現実的な規模の集中投資をすれば、何かが解決するというようなことにならないと……。ただ、そういう意味では、先ほどの5BGCというのがそれに該当して、もう次の社会がどうなるかというのが見えるようになってきたので、単に物理計測だけではなくて、生態系から得るものを公表していこうと、対外的に広げていこうというふうに変わってきている。そういう御理解をいただけ……。
【河村主査】  よろしいでしょうか。ありがとうございます。河野さん、先ほどのコメント。
【河野(健)委員】  それで、今の御質問にも関係するんですけど、私、海洋学会の発表と自分の資料を見比べて、明らかに沿岸観測についての組織的な体系がないなということに気づいたんですけれども。何かそれについて、西岡先生なり高橋先生なり、御意見はございませんか。
【西岡准教授】  ありがとうございます。西岡です。沿岸の研究のグループのほうでいろいろ議論はあって、例えば今まで沿岸の観測で使われてきた水産臨海施設とか、あと水産研究所の施設とか、そういうものを統合して、何か一つのプラットフォームみたいなことをつくれないだろうかとか、そのような議論が一つ挙げられると思います。
 既存の施設をいかに活用して、データのシェアとか情報の共有とか、そういうものを整えていくというのが一つ沿岸の研究で大事な要素になるのではないかと。今、河野さんがおっしゃったようなことにつながるのではないかと議論がありました。
【河野(健)委員】  今日お配りした資料の後ろのほうに「参考」といって、日本の研究船で、大学の船や、それから水産庁、気象庁のような官庁船その他がありますけれども、これらがうまく回って、何か沿岸研究を推進していくということができると、きっといいんですけど。
【西岡准教授】  そういう点では、水産庁の定線観測や湾内で行われているようなモニタリング、そういうものの有効利用というのは一つ議論になりました。
【河野(健)委員】  ありがとうございました。
【河村主査】  どうもありがとうございます。
 私は大槌のセンターに長くいたので、その辺のことについては一番詳しいかもしれませんけれども、時々その沿岸のネットワークというのは問題になるんですけども、確かにいろんな大学の水産系、理学系の沿岸にある実験所等でそれぞれ独自の観測をやっているんですが、なかなかどこも経済的に非常に厳しいという状況の中で、ネットワークを組んで何か共通的な観測を行うというような状況になっていないというのが現状かと思います。
 水産機構においても、沿岸の研究所は今、廃止という方向で動いていますし、なかなか経費削減の中で、沿岸のステーションを持ち切れないというのが大きな問題になっているんじゃないかと思います。
 一方で、日本では特に沿岸の研究は非常に重要で、全球的な観測と同時に、沿岸の多様性というか、それぞれの地域でどういうことが起こっているかをきちんと押さえるというのは非常に重要な課題だと思いますので、そこら辺もこの委員会の中で話をできればいいかと思います。ありがとうございました。見延先生どうぞ。
【見延委員】  ありがとうございます。今の沿岸の話に関連して、県の水試とか、あと大学のデータというのはJODC(日本海洋データセンター)に入っているんでしょうか。
【河野(健)委員】  ボランタリーなので、全て網羅しているというふうにチェックはしていませんけれども、研究開発法人のデータは出していて、公開していると。気象庁も出している……。
【見延委員】  ええ、気象庁、保安庁、それから水研機構自体は出していると思うんですけど、県あるいは大学になるとデータを提供していないところもあるかといます。一緒に活動をするというのは難しいとしても、観測データだけでも、JODCに保存できるような方向に行けないかとちょっと感じました。
【西岡准教授】  今の点、1点よろしいですか。沿岸のワーキンググループのほうでもその点が確認すべきだという議論がありまして、例えば海洋酸性化に関する、炭酸系のパラメーターに関しては、かなりの集約されたデータベースみたいなのが出ているサイトがあります。そういうものは誰かの御尽力で集められているものだと思いますので、それを参考にできるのではないかという議論がありました。
【河村主査】  ありがとうございます。まだ御意見あるかと思いますが、かなり時間が押していますので、また後ほど議論したいと思います。
【藤井委員】  河村先生、一つだけよろしいですか。
【河村主査】  どうぞ。
【藤井委員】  河村先生、先ほど水産研究・教育機構は沿岸の研究所は廃止の方向で動いているとおっしゃいましたが、確かに経費削減で研究所の運営が厳しいところであり、昨年(令和2年)には組織再編をしたところではありますが、決して沿岸の研究に背を向けているとか撤退するとかというわけではないことをご理解いただきたいと思います。
【河村主査】  承知しました。誤解を招く発言となってしまい失礼いたしました。
それでは、時間が押していますので、まだ御意見ある方はまた後ほど議論いただくということで、続けてもよろしいでしょうかね。特に御異論がなければ続けさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。
 それでは次に3番目のテーマですけれども、海洋分野における総合知及び市民参加型の取組ということで、お二人の方からお話を伺いたいと思います。まず川辺委員のほうからお話を伺えればと思います。お願いします。
【川辺委員】  東京海洋大学の川辺でございます。海洋分野における総合知及び市民参加型の取組についてということでお話しさせていただきます。今までの御発表が、学会やJAMSTECの取組のご紹介であるのに対して、これはほとんど私見でございます。そこのところを御理解いただければと思います。
 まず、「市民参加型の取組」というテーマの「市民参加」とは何への参加かを話の前提としてお話しさせていただきます。結論を申しますと「管理」への参加と考えております。
 戦後の海に関わる市民活動を、時間の流れに沿って見てみますと、1960年代の公害問題が非常に悪化していた頃には公害反対運動があり、環境法が整備された70年代には自然保護活動が盛んになりました。90年代に入りますと、1992年の国連環境開発会議のリオ宣言やアジェンダ21を受けて「持続可能性」へとパラダイムシフトが起こります。これはたいへん大きな転換点で、この90年代には本当にいろんなことがありました。ICT技術の進歩も著しく、のちにWeb1.0と呼ばれるようにインターネットが一般に普及し、人びとがホームページから発信することができるようになりました。このことも相まって、市民団体などによる環境や生物のモニタリングと発信はこの頃、盛んに行われるようになりました。
 同時に、行政や漁業と連携した活動がおこなわれるようになりました。もちろんこの背景には「持続可能性」が一つの規範になっていったということがあります。こうして、それまでの市民活動が、沿岸管理の権利を持たない市民による、言うなればゲリラ的な活動であったのに対して、行政と漁業という管理者と連携することで市民もまたレジティマシーを得て管理に参加することができていったのではないかと思います。例えば、東京湾や大阪湾の「水質一斉調査」-今は「環境一斉調査」と呼ぶそうですが―や全国各地でおこなわれているアマモ場の再生などは国土交通省と協力したりする。また、自然再生推進法にもとづいて各地で行われている自然再生事業では、地域住民を含むステークホルダーが参加する地域協議会をつくって行うことになっています。
 そもそも沿岸の管理で何をするのかを考えてみますと、基本は、モニタリングをして、データベースを構築して、資源環境の評価を行って、それを改善あるいは維持するために管理目標を決定して、計画を策定して実施する、ということがおこなわれます。すると、ここまでの様々な市民活動は、モニタリング+データベースの構築に貢献するところまで参加できているように見えます。
 一方その後もICTは非常に発展しまして、2005年ぐらいからはWeb2.0と呼ばれる、双方向SNSが盛んに行われるようになりました。個人によるモニタリング、たとえば海に行って写真を撮って発信するというお話が先ほどありましたけども、そういったことが今は「市民科学」の方向に発展していっているように思います。例えば、東京湾で行われている、「マハゼの棲み処調査 江戸前ハゼ復活プロジェクト」は、釣り人の釣果をモニタリングして、集めたデータを分析してマハゼの生息域や生活史を明らかにする。同時に、環境教育も行っています。「WEB魚図鑑」では魚の写真を撮って同定して図鑑化していくというようなことがおこなわれています。
 海洋分野の市民活動はこういうふうに展開されてきたかと思います。ただし、管理への参加という観点で見ると、まだ十分に参加はできてないかなという気がしております。これを前提に、この先のお話をさせていただきます。
 まず、いただいたお題の「海洋分野における総合知の創出・活用は何か」という話です。現在の「科学の目的」が何かを考えてみますと、1999年7月の「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言(ブダペスト宣言)」に沿っているかと思います。この宣言では、従来の、進歩のために知識を発展させる「知識のための科学」に加えて、「平和のための科学」、「開発のための科学」、そして「社会における科学と社会のための科学」というものが、新しい座標軸として置かれました。
 従来の「知識のための科学」の目的は真理の追求です。これに対して「社会のための科学」は、社会問題の解決も目的とする。そのためには、「創造性」に加えて、社会環境を洞察して社会と対話するための力が求められる。行動もまた、「知識の生産」だけでなく、知識を移転するとか、流通させるとか、活用するとかいったところまで求められる。そして、これを行うのは誰かというと、科学者集団だけではなくて、様々なステークホルダーの方たち―それには市民も含まれますし、あるいは行政とか、海洋なら漁業者とか、いろんな方たちが想定される。このような「科学」を目指しましょう、ということかと思います。
 おそらくこれが前提としてあって、「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年(オーシャンディケイド)」では、「社会のための海洋科学」が強調されているのではないかと考えます。「国連海洋科学の10年」のミッションは、「人々と海をつなぎ、持続可能な開発のために、Transformative Ocean Science(変革的海洋科学)による解決を目指す」ことだそうです。そのプロセスを特徴づける二つのキーワードの一つが「変革型」、もう一つが「参加型」ということで、これは、従来の「欠如モデル」や「技術官僚モデル」というものからの脱却を図りましょう、多様な関係者の対話によって知識を創造していきましょう、といったことをうたっているのではないかと思います。
 こちらは文科省のホームページの資料からいただいたものですが、「国連海洋科学の10年」で重点的に行う取組の例として、観測データシステムの基盤強化とか、研究の推進、人材の育成、知識を広める、連携を強化する、そして海洋リスクの低減をするといったことが挙げられています。このプロセス自体、海洋・沿岸域の利用管理と考えられるのではないかと思っております。
 なぜ今、「国連海洋科学の10年」で変革的海洋科学をめざすという話になったのかを考えますと、昔は、専門家というのは「偉い人」で、その信頼度は非常に高かった。だから、新しい科学技術の導入に際しては専門家たちが決定する。これは「技術官僚モデル」、「テクノクラートモデル」と呼ばれるものです。そこには、科学者はいつでも確実な答えを出してくれる、科学者が出す答えというのはどんな場面でも成立するといった前提があるかと思います。一方、「一般市民には政策の意思決定に関与する知識や能力は欠如している」と考える「欠如モデル」も通念とされていたと言われています。
 ところが、単純だった環境リスクが、物事が非常に複雑になってきたり、あるいは確実性が問われたり、あるいは様々なステークホルダーがいて多義的になってきているこういう環境リスクというもの、「トランスサイエンス」と呼ばれる、科学によって問うことはできるが科学によって答えることができない問題群が多くなっている。これは科学技術社会論という学問領域で言われていることです。そこで、こうした問題への対処として、話し合いながら共に考えましょう、対話をとおしていっしょに考えていきましょう、ということが、言われています。
 これは「ソーシャル・ラーニング」、つまり、「社会的な学び合い」を進めるということだと思います。ソーシャル・ラーニングには、社会や生態系に利するための関係者間の参加型意思決定や、共同の場で生まれる人々の学び合いなど、いろいろな定義がありますけれども、心を開いたコミュニケーションをとおして、思考を進化させ他者との協働による問題解決です。
 「総合知」という話に戻りますと、科学技術基本計画には、自然科学と社会科学を加えたものプラス多様な知が総合知であるとありますが、必ずしもこれだけではないと思っています。客観主義・普遍主義・論理主義を旨とする「科学の知」に対して、「経験知」または「暗黙知」や「臨床の知」と言われるような知識がある。「総合知」は「科学知」と「経験知」とを統合したもので、話合いをとおして、つくられる新しい知識ですね。海は分からないことが多いので、「国連海洋科学の10年」は海洋科学の「社会化」を促しているのではないかと考えております。
 さて、ソーシャル・ラーニングというのは何のことかと思われておられるかと思います。これは、水俣病研究、特に胎児性水俣病の発見で有名な原田正純さんが著書のなかで、非常に印象に残っている逸話です。原田さんは水俣病研究会という、いろいろな方たちが参加する研究会に誘われて、専門家として何かためになることを言ってやろうくらいに思っていた。ところが、研究会の討論のなかで自分の文章がズタズタにされていき、そのなかで多くを学んだと述べられています。水俣病研究会が水俣病の解明に果たした役割を考えますと、討論から何か新しい知識が創造されていったことと思います。ソーシャル・ラーニングの好例と思っております。
 では「総合知の創出・活用や、市民参加の取組には、どんな意義があるのか」ということで、参加の意義は何かを整理させていただきます。
 環境「管理」を前提にお話ししておりますので、ここへの関係者の参加の経緯をお話しいたしますと、60年代から意識がだんだん向上してきて、70年代には地域の視点を科学的なデータ収集や計画に含めるようになっていきました。80年代になると、「地域の知」というものが強く認知されるようになり、その収集技術が発達する。そして90年代になりますと、「環境と開発に関するリオ宣言」やその行動計画アジェンダ21の中で、参加が国際的な規範になっていきました。
 参加の意義については、いろいろと書かれていますけども、基本的にはここに示した三つかと思います。 一つ目は「規範的な意義」。民主主義社会において多様な人の参加は当然の権利であり、規範である、ということです。二つ目は「道具的な意義」。参加を促すことによって、関係者間の不要な対立を減らし、合意や信頼の醸成を容易にすることができる。三つ目に「実質的な意義」として、社会の多様な価値やビジョンや利害を決定に反映させて、それらの相互調整、公益実現を図る、あるいは意思決定に必要な知見や知識の質を高める。こういったことがらが参加の意義として挙げられているわけです。
 これを海洋分野に引き寄せてみますと、規範的意義というのは変革的海洋科学の促進に合致するかと思います。道具的な意義というのは、専門家・非専門家間を含めた関係者間の信頼関係、これは特にフィールドでの研究を進める上で非常に重要かと思います。実質的な意義としては、様々な知識によって海洋沿岸生態系及び海洋環境情報の充実が期待されますし、今、発展しつつある「市民科学」もまた一つの意義ではないかと思います。
 さらに先ほどの環境管理の基本的な流れに即して見てみると、人々の海洋・沿岸リテラシーの強化は「変革的海洋科学」を促進する上で重要であると言われていますし、問題解決に向けての合意形成を促進できるとか、よりよい海洋政策を決定して実施することができるかと思います。まとめると、参加の促進は、海洋・沿岸域管理の基盤構築に通じることであるかと思います。
 さて、「市民参加によってどのような成果が期待できるか」ということですが、先ほど申し上げましたように、地域共同体による海洋管理とか沿岸管理の基盤構築と参加を促進することが期待されるかと思います。参加には段階があるとよく言われます。有名なのは、アメリカのアーンスタインさんという方が60年代に出された「市民参加の8階梯」ですね。その8段のはしごを原科幸彦先生という環境影響評価の大家が、日本の事情に則し情報のやり取りに着目して、5段階にまとめ直されたのがこちらです。
 レベル1は、行政が「情報提供」するというものです。その次が「意見聴取」、意見があったら言ってくださいということですが、ご意見は聞くだけかもしれない。その次の「形だけの応答」というのは、「御意見承りました」と応答しますが、決定に影響を及ぼさなくてもよいのです。ここまでは、行政だけが主体であって、市民は参加していません。その上にある、「意味のある応答」あるいは、「パートナーシップ」すなわち自立した主体が対等な関係で協力し合って問題解決や状況の改善に努めるとかに至ってようやく、参加ができるのかと思います。
 また海洋分野での参加を市民の側から考えると、これは共同体のエンパワメント(力をつける)の階梯に対応します。まず情報の不均等を緩和するために「情報の共有」をおこなう。先ほどサイエンスカフェ的な活動をされているというご紹介がありましたが、そういった趣旨の取組かと思います。さらに参加を進めると、共同体も「協議」して「意志決定に参加」して、「行動」するようになる。行政や専門家とのパートナーシップを持つとは、こういう階梯を上ることではないかと思います。
 最後に、「総合知の創出・活用や市民参加型取組の推進のために、どのような仕組みが必要か」についてです。いろいろ必要なものは考えられますけれども、とりわけ地域の拠点形成とその機能の充実が必要不可欠かと考えております。地域に拠点を置いて、そこにいろいろな知識を集積する。先ほどお話にあった沿岸のデータもそこに集めて分析し、その情報を提供する。それについて話し合って理解を深め、疑問を出し合い、問題や課題についてさらに調べていく。そういった機会を提供してくれる「場」です。話し合う場というのも実はなかなかないものですが、参加を進めるうえでは必要だろうと思います。また、「参加」とは「管理への参加」であると先ほど申し上げましたけれども、その管理に関わる「権利」と「義務」の調整も、機能として必要かと思います。拠点形成の究極の目的は、研究をふまえての地域活性化だと思いますので、そのための中間支援組織的機能も必要かと思います。
 こういったものが実際にあるのかと思われるかもしれませんが、例えば米国に「シーグラント・プログラム」というものがあります。もともと「ランド・グラント」という農業系のプログラムがあり、その海版として、「1960年代の急激な社会技術の変化、環境意識の目覚め、海洋や五大湖の資源からの新たな富を生かす能力の革新などから生まれた」ということです。66年に「国家シーグラント・カレッジ・プログラム」というものができ、沿岸のシーグラント大学の教育研究エクステンションでアウトリーチ活動などを開始しました。シーグラント・エクステンション・プログラムは、例えばハワイ大学とかワシントン大学とか、沿岸にほぼ必ずあります。ここに「300名の教授及び多数のボランティアが教育プログラムに従事している」と書いてありますが、ミッションは、プログラムを通して、地域の人びとの行動や経済に変化をもたらすような教育活動を行うということです。
 まとめますと、「海洋分野における総合知の創出・活用」とは、多様な人々との対話によるソーシャル・ラーニングであると。「人々」の中には、自然科学の研究者も、社会・人文科学の研究者も含まれるでしょうし、いろいろな方たち、漁業者であったり教師であったり、あるいは子供であったりします。そういった人たちによるソーシャル・ラーニングによって知識を創造し、あらたな管理を実践していくということかと思います。
 「総合知の創出・活用、市民参加型取組の意義」というのは、まさに参加の意義です。規範的、道具的、実質的意義というものが期待されると思っています。
 「今後の取組の進展によって期待される分野」ですが、こうした取組を海洋・沿岸域管理の基盤構築と考えますと、管理に必要な様々なことができるかと思います。海洋資源環境に関するデータベースの強化、関係者の管理能力の向上、関係者の合意形成の向上などです。
 それから「総合知の創出とか市民参加型の推進のためにどのような仕組みが必要か」というと、地域の拠点形成とその機能の充実ということをぜひ考えていただきたいと思っております。
 スライドをお見せできなかったのですが、「総合知の創出活用、市民参加型取組の推進に当たって留意すべき事項」としては、既往研究の成果として「参加がうまくいくために、こういったことが必要ですよ」という項目がいくつか挙げられています。具体的には活動の種類とステークホルダーによるかと思いますが、沿岸域管理で考えたときには、レジティマシーを持ったステークホルダーが参加することがきわめて重要であろうと思います。 また、今はいろいろな事業が地域で協議会をつくって行われているわけですけれども、その運営方法として、普通に議長が「会議を行います」というやり方では、総合知の創出というのは難しいかと思います。大きな原因は、専門家と非専門家の知識の非対称性があるかと思います。専門家はいろいろなことを御存じなので、積極的に発言される。そこに非専門家の一般の方たちが発言するのはなかなかむずかしい。そこで、いろいろな人たちから発言を引き出して、知識創造というものを促す「ファシリテーション」が必要じゃないかと考えています。 
 ということで、私の発表を終わらせていただきます。
【河村主査】  川辺先生、どうもありがとうございました。皆さん、質問あるかもしれませんが、かなり時間を押しているので、牧野先生の話が関連するので、牧野先生の話を聞いてから皆さんに御意見いただきたいと思います。よろしいでしょうか。ありがとうございました。
 引き続いて、東京大学大気海洋研究所の牧野さんから、今日御参加いただいたので、お話しいただきたいと思います。牧野さん、よろしくお願いします。
【牧野教授】  かしこまりました。牧野でございます。発表させていただきます。
 私の話ですが、少し具体的な事例も含めて議論させていただきたいと思います。では、こんな三つの話題を考えておりますけれども、まず一つ目です。総合知と市民参加型研究の例というのを三つほど御紹介したいと思います。
 一つ目が、まず大分県のタチウオという資源の管理です。これらは皆、これからお話しする三つの事例は、私が、今日、藤井委員もおられますけども、水産研究・教育機構というところにおりましたときの仕事でございます。よって水産的な側面が強いんですけれども。このタチウオの資源管理研究のときは、漁師とか加工業者とか住民、あるいは大分の市役所の職員の方から成る地元の協議会をつくりまして、そこでモデルの構造を共にデザインしました。
 理系の部分ですね。それから社会科学の部分と合わさった文理融合研究ですけれども、このデザインに基づいて、漁師と共にデータ収集をやって、あとは地域の合意形成を支援するために、市役所の職員さんたちが使いやすいような汎用のシミュレーションソフトなんかも開発しました。
 面白かったのはここの部分ですけれども、地元の協議会での議論に基づいて、タチウオの地元流通というのをしっかり重視しようということで、地元の高校と一緒にレシピ開発したりして、これは我々研究者が当初全く想定していなかった展開ですけれども、非常に有効だったと思います。
 二つ目の事例ですけれども、これは日本のODA事業ですけれども、インドネシアの海洋モニタリングです。インドネシアの零細漁業者がスマホを使って地先の海をモニタリングしようというプロジェクトですけれども、水質の写真を分析したり、いろんな、五つのこの観測項目を決めるところを地元のコミュニティーでミーティングをやって、地元の沿岸漁業者さんの意見も聞きながら決めたものです。
 特に面白いのはこの5番目のプラごみです。プラごみは今まで我々は全く想定していなかったんですけれども、地元の方のほうから、プラごみの情報を集めて、それを州の政府、それから中央の政府に訴えたいんだということで提案いただいたものです。あとはこれらのモニタリング結果をスマホ上でGISで共有するようなアプリも、これはバハサ語で、地元の人と一緒にデザインしたものでございます。
 これらのデータは今インドネシアのナショナルオーシャンデータセンターに格納される予定で、インドネシアの研究機関のリモートセンシングの人たちとの成果の統合というものも今、検討し始まったところでございます。
 三つ目、これはまた国内ですけれども、今、日本の沿岸漁業を環境変化、生態系変化もあり、様々な対応が求められる中で、漁業者が自分たちの現在の活動を自己評価して、さらに改善して、次の一歩を考えるための、言わば沿岸コミュニティーのレジリエンスを上げるための道具箱というのを開発しました。このときに、いろんなデータを集めるのが我々研究者の仕事ですけれども、これをどういうデータベースにするかという基本的な構造とか、あと議論のベースとなる、こういうポンチ絵をつくったんですけども、こういうものは、認知心理学者と、それから漁業者と一緒につくりました。非常に多くの学びをさせていただきました。これは今、全漁連、全国漁業協同組合連合会にも採用されて、活用していただいております。
 非常に限られた経験ではございますが、私のこれらから学んだところとして、どう有効なのかと、総合知や市民参加がなぜ役立つのかというところを少しまとめてみました。
 まず、第一に言えることが、問題の定義、あるいはゴールの設定に関することです。例えば、この左の図は、国や地域によって海から得られる幸せの重みづけや優先順位がどの程度違うかという国際比較分析をしたんですけれども、実際、国ごとに、よい海のイメージが全く違うわけです。
 あるいはこの右側の図は、同じ国内、日本という国の中でも、石西礁湖の分析事例ですけれども、海の使い方によって、関心のあるサンゴ礁とか魚が違うということです。これらの違いを科学的に分析した結果に基づいて、地域の合意形成に役立つ科学的な情報は何かという議論もできるんですけれども、このように様々な海に対する見方、価値観があるんだということを前提にして、問題を提起したり、ゴールを設定しないと、同じ言葉で語っていても全くあさっての方向、みんなばらばらの方向を見ていて、研究をやって、新たな知見が生み出されたのに、それが現場で全く役に立たないと、社会に適用されないというようなことが起こり得るわけです。
 次に言えるのは、設定したゴールに至る道筋に関することです。例えばこの左側の図は、アマモ場保全の取組の内容や体制を、北海道、横浜、瀬戸内海、それから石垣島で比較したものですけれども、それぞれの地域の生態系も違いますし、社会系も違うわけですね。よって、一口にアマモ場保全、海洋保護区といっても、やっている内容は全然違うわけです。地域に適したやり方は本当に津々浦々であって、我々は現場の方、現場のステークホルダーに教えていただかないと何も分からないわけです。
 その右側の写真は、先ほど紹介したインドネシアのコミュニティーミーティングの様子です。こんな会議を20回以上開催しましたけれども、現場の人たちと一緒にモニタリング項目とか、アプリをデザインすることで、彼らの間に、Sense of Ownershipが生まれるんです。このプロジェクトは、日本のODAのプロジェクトをやらされるのではなくて、彼ら自身のプロジェクトなのだという感覚が生まれてくると、プロジェクト自体の効率性も上がりますし、また、我々はODAなので、いずれ予算が終わるわけですけども、予算が終わった後の、この活動の持続性も恐らく向上していくものと考えられます。
 三つ目です。我々アカデミアが現場から学ぶこと、ソーシャル・ラーニングという話が先ほど川辺先生のほうから御紹介がありましたけれども、ものすごくたくさんあります。我々は専門家ですので、深く鋭く、何か専門性を持っているわけですけれども、見ていないところがいっぱいあるわけです。地域知の話もありましたが、私の経験では、「浜の道具箱」というものを地域でやっていたときに、まだ設計段階でしたけれども、こういう感じで漁協の2階で議論していたときに、参加者の中で一番若い方が、「あれ、ここに俺たちの安全に関することが一つも書いてないな」と言ったんです。
 当時私が考えていたのは、生物多様性保全とか資源の持続可能性とか収入とか、あるいは地域の経済波及効果とか、そんなことばかり考えていて、漁師にとって一番大事な命の安全ということを全く考えていなかったんですね。本当に恥ずかしい思いをしたんですけども、この学びは私の研究者人生の中で最も重要な学びの一つでした。こういうことがありますし、こういう中から恐らく新しい研究のイノベーションの種というものも出てくるはずだと確信しております。また、現場からのフィードバックでPDCAを回すというのは、もう問題解決型研究には不可欠だと思います。
 このように文理融合と市民やステークホルダーの参画というのは、先ほど川辺先生の御発表の中にもありましたけれども、近年の国際大型プロジェクト、特に環境系のプロジェクトとか、持続可能性科学のものでは基本的なアプローチです。UN Ocean Decadeでも、変革的海洋科学というのがコアコンセプトに置かれていますけれども、それはまさにこういうアプローチに基づいております。
 最後に今後でございます。Wicked Problemという言葉があります。知識が不確実で、科学的にも分かっていることが少ない。でも価値観が大きく関わる。そしてその結果、帰結に関連する利害関係が非常に大きいという特徴を持った問題のことです。例えば気候変動対策、生物多様性保全、あるいは近年で言うとコロナ禍もそうですけれども、グローバルな人類の持続可能性に関わるテーマは、もうほぼ全てこのWicked Problemだと言ってもいいのではないかと思います。こういう問題は、縦割りの科学では解決はできません。ここにこそ総合知と市民参加が必要だと考えます。
 例えばUN Ocean Decadeの例を引きますと、七つの社会的出口というのが設定されているのは御存じかと思いますが、この七つを設定するとき自体も、パーティシペイトリーなプロセスでやったわけですけれども、この七つのゴールに向かってどんな研究が必要なのかと。自然科学や工学では、例えば生態系の過程とかメカニズムの理解であったり、より精度の高い予測を行うとか、技術開発などがあると思います。でもこれだけでは実は不十分です。
 人文社会科学で、例えばきれいとは何なのか。健全とは何なのか。回復力、どんな回復力を強化すべきなのか、安全というのも今日、阪口さんから冒頭に問題提起がありましたけども、いろんな危険、いろんな安全というのが国によって地域によってあるわけですね。何に対しての安全性を、幾ら公費を投入して使っていいのか、そのリスクをどこまで許容できるのか、そこに市民や産業がどう関わるのかという、こういう問いと併せて、これら両方、自然科学と社会科学がそろって初めて、何を研究すればいいのかが明らかになるということです。
 そしてさらに重要なのが、社会実装のためには、市民や産業界の視点と協力が不可欠という事実です。これがないと、幾らいい論文を発表しても、絵に描いた餅にすぎないわけです。
 このスライドは、目下の海洋関連の課題について、どのようなリサーチクエスチョン、論点があり得るのかということを少し列挙してみましたけれども、例えば気候変動の場合、海や資源の変化をどうやってモニタリングするのか、それが過去とどう違うのか、適応策をどういうプロセスで立案するのかとか。あるいは生態系保全で言うならば、生態系の構成要素、言わば良い海というのは何だということですね。誰がそれを決めるのか、それをどうやって保存するのか、その費用をどれぐらいかけているか、その効果は誰がどうやって、どんな重みづけで評価するのか。
 洋上風力発電も今後急速に進みますけれども、環境影響評価で、どんな時空間スケールで何を評価するのか、地元の人が何について懸念を持っているのか、どうやって地域で合意形成して、生まれる富をどうやって分配するのか、などが総合知や市民参加に関する論点だと考えられます。
 あと、もう一つ重要なのが、SDGsに関連して、ネクサス・アプローチです。ネクサス・アプローチというのは、SDGsの17のゴールのうち、個別のゴールではなく、まとめて相乗効果を狙うというアプローチですけれども、海はその典型です。SDG14と、Hunger、Poverty、Economy、Community、Consumption、Climateなどは密接に関わっておりますので、この相互作用を前提にして、同一の海洋生態系を多様な利用形態、多様な産業セクターが一緒に使っているという自然科学的な事実と知見をベースにして、その上で、利害関係者全体のベネフィットを最大化するために、社会全体として産業セクターや省庁を超えて、どういう工夫をするのかという議論が今後必要になってくるだろうと考えています。
 最後のスライドです。その支援ですけれども、ミッション志向型の比較的大きなプロジェクトが必要です。文理融合で、利害関係者も入っていただいて、できれば行政官も参加していただきたいと。総合知の中には行政知も入ります。
 それから科学リテラシーの向上と、我々アカデミアの側のサイエンスコミュニケーション能力向上も不可欠です。これはこんなプロジェクトをやるときの必須条件にすべきだと思います。
 あとはこれは難しいですが、研究者の育成と評価です。特に若手をどう育成するのか、専門性と総合性をどうバランスを取るのかという話です。
 あとはプロジェクトをやるときには、コ・デザインの期間、これは結構、時間も苦労もかかります。エフォートがかかります。社会実装期間の扱いも難しいと思います。
 それから、地域と研究の間の対等な関係、これも川辺先生の発表の中にありましたけれども、対等な関係が必要です。途中で、例えば地域の首長が替わったからといって、途中でちゃぶ台をひっくり返されたらいけないわけです。でも逆に我々アカデミアが押しつけるようなものでもいけないわけです。対等でフェアな関係をつくることが必要です。
 あとは最後に、産業界が参加するための正当性です。鍵は、現場が自分たちの研究だと思ってくれるような仕組みをいかにつくるか、ということだと考えております。以上で私からの発表を終わります。
【河村主査】  牧野さん、どうもありがとうございました。
 川辺先生、それから牧野先生と引き続いて、総合知、それから市民参加型の取組というお話をしていただきました。非常に内容の濃いお話で、いろんなことが盛り込まれていると思いますが、この後の総合討論でも、最初の海洋学会からの御提案、それから河野さんからの海洋観測の現状のお話、これを含めて議論したいと思いますが、お二人の御講演に、個別に何か聞いておきたいことがありましたら、ぜひ質問していただければと思います。いかがでしょうか。
 特段、個別の御質問がないということであれば、総合討論の中で、この話は、これは全てに関わることで、これから海洋科学を考える上で、どうやって市民と一緒にやっていこうかというのは、先ほどの議論もありましたけれども、非常に重要な部分だと思いますので、一緒に議論できればと思いますので。このまま引き続いて総合討論と入っていきたいと思います。最初の、全部の課題を含めて御意見いただければと思います。いかがでしょうか。
 なかなか話題が多岐にわたっているので質問するのも大変かもしれませんが、どなたからでも、口火を切っていただければと思います。見延先生、お願いします。
【見延委員】  先ほどの牧野さんのお話とも関連するんですけれど、それから、前のほうであった、民間からの資金導入がなければいけないという話で、牧野さんからの話で、特に新しい民間として期待できるのが、洋上風力発電関係があるんじゃないかと思うんですが、その辺について、牧野さんのお考えというのをお聞かせ願えないでしょうか。
【牧野教授】  ありがとうございます。それは資金調達という意味でしょうか。
【見延委員】  両方ですね。資金がそこから入ってくるのかということもあれば、そのステークホルダーとして関わってくるということもあると思うので。
【牧野教授】  すごく重要な産業で、これから急速に伸びると言われています。4,000基から5,000基が、今後20年間で日本の沿岸にも立つと言われていますけれども。これは先ほど沿岸観測のデータが足りないという話がありましたが、沿岸観測のいろんな基地としても使えると思いますし、それと同時に、今世紀中旬以降は、もう日本にとって本当に主力電源の一つとして海の主要な使われ方の一つになってくるので、この産業を含めて海をどう使っていくのか、既存の今ある海洋産業と一緒に、どういうふうに、空間利用も含めて使っていくのかというビジョンづくりというのを一緒に進めていくことで、産官学が一緒に進めていくことで、どんな産業システムが必要なのか、どんなエンジニアが必要なのかということになってくると、いろんな資金提供とか共同研究というような議論もできてくるのではないかと思います。鍵は産業界と一緒に未来ビジョンをつくっていくことではないかと個人的には思っております。
【見延委員】  ありがとうございました。
【河村主査】  ありがとうございました。今の海上風力発電のことですけども、私、実は経産省の、この風力発電を含めた発電所の環境アセスの委員会の委員をやっておりまして、今、海上洋上風力の申請がものすごい数出てきていまして、大変なことになっています。
 先日も経産省から、これに関して、これからどのようなレギュレーションをかけていったらいいかということ、特に環境アセスについて、特に漁業との共生とか、その辺をどう考えていくかということについて意見を求められたんですけども、実は非常に難しいです。
 洋上風力発電が進んでいくと何が起こるのかというのが、あまりにもデータがなくて分からないんです。ですから、アセスメントも一体何やっていいか分からないというところです。本当に無力感があるんですけれども。
 それからもう一つは、ものすごい数の調査が行われているのに、個々の事業でそれぞれやっていますので、全くデータの共有ができないという問題があります。だからデータをどれだけ積み上げても、将来的な科学の進展につながらないというのがあって、これは仕組みを変えていく必要があるんじゃないかと思います。先ほどの市民参加型ということでも同じ問題があると思いますが、洋上風力の環境アセスについても、企業が単独でやっており、多くのデータが原則非公開なので、なかなかデータの共有が進まないというのは、非常に強いジレンマになっています。参考までにお伝えしました。
 いかがでしょうか。阪口委員、手が挙がっていますね。お願いします。
【阪口委員】  今、河村主査のお話にあったことを私もつい最近経験しまして、フランスの地中海側の沿岸の海洋空間計画に携わっている人に、フランスはもともと海洋国なので、そういうことはさくさくと進んでいるんでしょうと聞いたら、全く逆で、ローカリティーが物すごく先に立って、全然進まないと。
 それよりも、ある地域でうまくできても、よく似た、ちょっと100キロほど離れた地域では全く進まないと。それで、これをどうやって本当に水平展開していくかということは、すごくその方法論そのものも重要だし、それからあと地域地域に、似ているけど歴史が違うとか、入ってきた移民の出身国が違うとか、いろんなことが、どこはアフリカ系が多くて、どこがギリシャ系が多くてとかということによっても、考え方とか捉え方というのが全く違う。
 だからなかなか進まないけども、連合をつくって、例えば漁業者同士の話合い、つまり、学者のことを最初はなかなか信じない。だけど漁業者同士では信じるということで、そういう展開も今フランスで一生懸命やっている。「どこの国も一緒だね、ハッハッ」という話をしたんですが、まさに今、河村さんがおっしゃられたとおりだと思うんです。
 それで、川辺先生でも牧野先生でもいいんですけども、そういうことを具体的に広めていくためのメソドロジーそのものも研究対象になると思うんですよね。市民参加で話合いを持つ、お互いの信頼関係をつくる、相互理解を図るということも大事ですが、地域性とかいろんなことも込みで、メソドロジーそのものも研究対象としてやっていかないと、なかなか最初空振りが多いとか、いろんなことがあるんじゃないかと思うんですけども、その点につきましては、これを社会科学というのか人文科学というのか、どこの範疇になるのかよく分からないんですけども、心理学とかもそれに多分入ってくると思うんですよね。そういうことの体系化というのもあるんでしょうか。そこを知りたいんですけども。
 卑近な例でいくと、日本は太平洋側は漁業者とマリンレジャーの関係が悪くて、日本海側は漁業者とマリンレジャーの関係は割といいんです、大ざっぱに括ると。これもなぜかというのがよく分からないんですよ。現場に行くと。なので、どこをどうひも解いていけば、どこに問題があってということも、恐らく体系化するなり、答えに近づくルートは短くなるんじゃないかと思うんですが、そういう観点から質問させていただきました。どなたでも結構です。よろしくお願いします。
【河村主査】  ありがとうございます。いかがでしょうか。
【川辺委員】  川辺でございます。メソドロジーというのは非常に重要だと思っておりまして、海をどう利用していくかについての合意形成をどう図るか、というところかと思います。それに関わる学問分野というのは、おっしゃられたとおり、社会学、経済学、心理学など人文社会科学だけでも関連分野はたくさん考えられるわけで、これを一つの分野でおこなうのは難しい。海の合意形成をいかに進めるかは、海洋経済分野や、環境社会学分野でも行われていて、今後は一つの学問分野として十分成立する話であろうと思います。
 このときに、一番に考えなくてはいけないのは、地域の人たちのためになるのか、地域の方たちがこれを望んでいるのか、あるいはこの地域の将来をどう考えるのかとか、といった地域の視点ではないかと思っております。こういう言ってしまうと、洋上風力発電はなかなか難しい問題ですけれども、「市民」と「地域住民」を分けて考える必要があろうかと思います。今、地球環境が大変なことになっているので自然再生エネルギーはこれからどんどん活用していかなければいけない。そこは分かりますが、地域外の市民の方たちがそれを推進していくことが必ずしもよいわけではないと思います。海を利用する上で、その地域の方たちのベネフィットというものがどういうものであるのかとか、地域の人たちのビジョンというのはどういうものであるのかというところをちゃんと把握して、それに沿って展開していかないと、合意形成は図れないと思っております。雑駁ですけれども、以上です。
【阪口委員】  ありがとうございます。
【牧野教授】  牧野からも一言申し上げます。市民参加のメソドロジーや合意形成ということですけれども、それは本当に一つの学問分野として成立すると思います。例えば洋上風力発電の議論で、私ども研究者の仲間で議論しているのは、例えば類似の事例ですね。海の埋立てとか漁業補償とかの基金だとか、そういうお金がどう使われたのかとか、それが地域の持続可能性にどういう形で発展していったのかというような事例分析をしていくというのは、重要な情報になると思いますし、あるいは洋上風力の先進地、3か所ですよね、今、秋田と千葉と長崎などがありますけれども、ここで、どんな社会的背景とどんな生態的な条件によって合意形成がどう変わってくるのかというような比較分析も大事だと考えております。
 ただ難しいのは、いろんな法定協議会の議論とか、議事録に載っているのはもうほとんど本音じゃないわけですね。協議会が始まる前のところが一番重要なので、結局、我々のような訪問型の研究者がぱっと行って、ぱっと分析しても何も見えないわけで、大事なのは、地域に根を張って、地域に在住して、そこのことをしっかり知っている研究者とか、あるいは県庁だとか水産試験場の職員とか、そういう方々にいいファシリテーター、いい方がどれだけいるかというところが重要になるなという議論を今しておるところでございます。
【阪口委員】  そうすると人材育成というのも、杓子定規的に、何で何を評価してというよりも、もう明らかにその地域に入り込んで、10年ぐらいどっぷりそこの飯を食って、お互いの信頼関係ができるという人材をつくるというのも一つの重要な人材育成、これからは役人としても研究者側としてもそういうことが必要であり、リワードであるというものを今後考えていくことは、こと海洋の問題に対しては非常に重要であると、今一つの重要な示唆が出ましたので、今後私たちの一つの見解として書き残していくべきだと思いますし。
 そうしないと、すごくよく知っている人がいて、その人が何個かのケースはできるんです。その人がいなくなるとまた完全ゼロに戻るというのは、これは非常に非生産的なので。そういう考え方をまず体系化して、継承するということと、また人材育成の方法、それから人の働き方の在り方というのも、海洋の問題に対しては考え直すときが来ているということは、今の牧野先生、川辺先生のお話からよく分かりました。ありがとうございます。
【川辺委員】  ちょっとよろしいでしょうか。
【河村主査】  どうぞ。
【川辺委員】  補足ですけれども、今、阪口委員がおっしゃられたことは誠にもっともだと思っておりまして、「海洋科学の10年」の中で、人材育成していくとか、あるいは海洋リテラシーを広めていくという話がありますけれども、「海洋リテラシー」を進めるだけでなくて、地域でファシリテーションできる人材、話合いの場をもって知識創造を促していくことができるような人材を育成していくということがとても重要かなと思っております。以上です。
【河村主査】  どうもありがとうございました。まだこの議論は尽きないんですけれども、先へ行きたいと思います。
 河野先生、お願いします。違うかな、そうですよね。
【河野(真)委員】  お時間がない中、申し訳ございません。市民の参加という議論と情報の透明化との関係について伺いたいと思います。海洋に関する情報はしばしば、安全保障の問題と不可分に関わることがあると思います。先ほど冒頭、谷先生からの御指摘もございました。、海洋に関する情報がしばしば国家の安全保障等を理由として、公開されにくい場合があります。
様々な国際協力体制の中で、互換性のあるデータの蓄積が求められる中、そうした安全保障の観点からの秘密の保持とどのようなバランスが必要かを検討する必要があると思います。
 他方、海洋に関するデータの収集は民間企業がそれぞれ独立して実施しているため、各企業が集めた情報がなかなか開示されないという問題もあると思います。
こうした要素を勘案し、全体として見たときに、データの互換性やデータの開示又は透明性の確保と安全保障を理由とする開示の制限の間のバランスをとるには、どのような施策が必要だとお考えになるのでしょうか。この点について、ご意見を伺わせていただきたく思います。また、現状の制度に何か問題があるのであれば、どのような対策が必要でしょうか。
【河村主査】  どなたかお答えできる方いらっしゃったらお願いしたいと思いますが。
【見延委員】  見延です。よろしいでしょうか。
【河村主査】  どうぞ、お願いします。
【見延委員】  私はデータ解析を研究の手段にしておりますが、データといっても非常にレベルがいろいろあって、研究者が直接扱うようなデータというのは、量も多くて、研究施設がないと扱えないようなデータですから、それを直接市民の方が扱うというのはあり得ないと思います。
 国際的に共有できるようなデータというのは、どれが共有できるかというのは大体合意形成がありまして、例えば観測データでも、物理系は結構共有できるんだけど、生物系になると、これは漁業資源とかの話になってきて、難しいというようなことがあります。そういうふうに、いろんなレベル、量とか、あと国家の安全に関して、開示できる、できないというのは決まっております。また、市民の方に利用いただくには、かなり要約したデータになるだろうと思います。そういうものでないと、市民の方がそれを限られた時間で見て、理解して、自分たちの何かの判断に役立てていくということはできないので、研究者が使うデータとは別に、そういうデータも用意していくということが必要になるんだろうと思います。以上です。
【河村主査】  ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。今の件、大丈夫ですかね。河野先生、よろしいでしょうか。
【河野(真)委員】  はい、ありがとうございました。
【河村主査】  それでは、続いて前川先生お願いします。
【前川委員】  ありがとうございます。時間を超過しておりますが、何分ぐらいありますでしょうか。よろしいでしょうか。
【河村主査】  短くお願いします。
【前川委員】  ありがとうございます。質問というよりコメントですけれども、先ほどのEIAのお話で、国連でもBBNJの交渉が進んでおりまして、今度の政府間会議で一応最後になるということで、条約案が固まるかは分からないですけれども、公海域でEIAをどうするかという議論がなされております。手続論は多少議論されているんですけれども、その技術とかメソドロジーに至っては、全くまだ議論がされていないということで、こういったものが実際に制度として動き出した場合に、各国の知見がいろいろとインプットされると思いますので、日本においても、EEZで、深海、深い海でのEIAをどうするのか、どういう技術を使うのか、どれぐらいお金をかけるのかとか、そういったものを確立して、そういった国際交渉にもしっかりインプットしていくのが非常に重要ではないかと思います。
 国際的な動きという意味では、海洋プラスチックの国際条約ができそうだということで、EUとかIUCNがすごく強力に推して、今、国連環境総会(UNEA)で議論がされています。そこにもまさに海プラに関するモニタリングのデータの共有であるとか、キャパビルをどうするかとか、そこに日本がしっかり貢献する必要があるのではないかと思います。
 あと、資金のお話がございましたけれども、先般の気候変動のCOPに行かせていただいて、その場でNetflixの方などからお話を聞いて、今、NetflixとかAmazonとか、そういった世界の大手企業が、生態系の回復などに資金や支援を提供したいという意欲があふれているということで。企業との連携であるとか、例えば国連本部の海事・海洋法課に大富豪がやってきて、大規模な寄附をしたいと申し出をしたり、そんな話もあるそうで、SDGsとの関連で企業の意欲というのは高まっていますので、そういったところも重要かと思います。
 あと、Netflixの方がおっしゃっていたんですけど、ストーリーテリングがとても大事だということで、Netflixで、My Octopus Teacherという海のドキュメンタリーがあって、評判になっていて、海の問題が一般に浸透していないということと関連して、映像とかストーリーを通じて問題意識を持ってもらう、そういう手法についても何か大きな可能性を感じております。
 最後に市民参加ですけれども、気候変動のCOPなんかに行くと、ユースのムーブメントがすごくて、気候変動も生物多様性もそうだし、ユース・フォー・オーシャンという団体もあって、とてもアクティブに活動しているようです。そういったユースの人たちというのも市民として取り込んでいく。よく話を聞いてみると彼らは、研究者の卵だったり、産業界に羽ばたいていったり、すごくポテンシャルの高いグループだと思うので、そこは一つの大きな可能性かと感じました。以上です。
【河村主査】  どうもありがとうございました。今日、5人の方ですか、お話を提供していただいて、非常にその内容が濃くて、この短い時間で皆さんの意見をいただいて御議論するというのが非常に難しい内容になっています。まだまだ皆さん、御意見があるとは思いますけれども、時間が超過していますので、今日いただいた話題提供の話、皆さんからの御意見も含めて、今後この委員会の中でまた議論を深めていきたいと思います。
 ということで、本日はこれで議論を終了したいと思います。よろしいでしょうか。
 それでは、本日これで締めさせていただいて、これは今日で終わりじゃないので、今日始まった話ですので、また引き続いてどんどん議論をしていきたいと思います。
 それでは、事務局にお返ししたいと思いますが、連絡事項がありましたらお願いいたしたいと思います。
【事務局】  事務局でございます。本日は、お忙しいところ長時間にわたり、ありがとうございました。資料6、川辺先生の御発表資料につきましては、後ほど抜けていたところも加えた形で、委員の皆様にお送りするとともにホームページのほうに掲載させていただきたいと存じます。
 本日の議事録につきましては、案を作成いたしましたら委員の皆様にメールで御確認をお願いしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 また、次回日程、今日の資料でも出ておりましたけれども、まだ調整が済んでおりませんので、今後調整させていただいて、また委員の皆さんに御連絡させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。以上でございます。
【河村主査】  ありがとうございました。それでは、これをもちまして本日の海洋科学技術委員会を終了したいと思います。どうもありがとうございました。
 
―― 了 ――

お問合せ先

研究開発局海洋地球課