資料2 報告書(骨子案)

はじめに

○ これまでの取組

  • 四方を海に囲まれた我が国が、新たな海洋立国の実現を目指し、総合的な海洋政策を推進するため、「海洋基本法」(平成19年4月公布、同年7月施行)、同法に基づく「海洋基本計画」(平成20年3月閣議決定)が定められた
    • 我が国が自らの資源供給源を確保するため、世界第6位という広大な面積の領海・排他的経済水域(EEZ)に存在する海底熱水鉱床やコバルトリッチクラスト等の海洋資源の計画的な開発等の推進を求めている
  • 同基本計画に基づき、これら海洋鉱物資源等の平成30年度までの10年間の具体的な開発計画として「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」(平成21年3月総合海洋政策本部了承)を策定
    • たとえば、海底熱水鉱床について、「資源量評価」「環境影響評価」「資源開発技術」及び「製錬技術」の4つの課題の存在を指摘
    •  「資源量評価」については、高密度のボーリング調査、物理探査等による資源量の把握が急務と指摘
    •  関係省庁が保有する船舶、機器設備や海洋データの活用の必要性を指摘するともに、科学技術・学術審議会海洋開発分科会における探査技術開発等についての検討結果を活用すべく、関係省庁間で連携を図ることを明記
  • これらの背景を踏まえ、科学技術・学術審議会海洋開発分科会の下に置かれた「海洋資源の有効活用に向けた検討委員会」は、平成20年12月から、海洋鉱物資源を広域かつ効率的に探査するために必要な技術開発の具体的内容等について、関係機関及び有識者等からのヒアリングを実施しつつ審議
    •  同検討委員会は、同分科会に平成21年6月に「海洋鉱物資源の探査に関する技術開発のあり方について(中間取りまとめ)」を報告、了承
    • 資源量の把握に必要な基盤的技術は必ずしも確立されているとは言えず、より効率的に探査する技術・方法等について、喫緊に技術開発を実施する必要性を指摘

 ○ 本計画について

  • 「新成長戦略 ~『元気な日本』復活のシナリオ~」(平成22年6月閣議決定)の「成長戦略実行計画(工程表)」において、「海洋資源(中略)の開発・普及の推進」が、環境・エネルギー大国戦略の一環として記載された
  •  これを踏まえ、同検討委員会は、平成22年7月から海洋鉱物資源の探査に関する技術の実証に関する議論を行い、同年8月に「海洋鉱物資源の探査に関する技術の実証の当面の進め方」を取りまとめ
  • 文部科学省は、平成23年度から「海洋資源探査システムの実証」として、海洋鉱物資源の資源量把握に資する海洋調査に本格的に着手
    • 無人探査機や掘削技術を開発・整備するとともに、戦略的探査手法の研究開発を実施するとともに、開発した技術を用いて有望海域の調査を行い、技術課題の抽出、高度化の検討を通じて総合的な探査システムの技術として完成させることを目指す
  • これを受け、同検討委員会を引き継いで同分科会の下に置かれている「海洋鉱物委員会」において、必要な研究開発の具体的内容、スケジュールについて関係機関及び有識者等からのヒアリングを実施しつつ審議し、5箇年程度の中長期的な技術実証計画として策定したものが本計画
  • 本計画は、平成24年度以降の予算要求に反映させることを期待
  • 実際の探査の場で大いに利活用される成果を得られるよう期待

第1章 総論

  • 海洋鉱物資源探査に必要な技術の確立のための研究開発を進めつつ、その技術を実証するために海洋調査を行うことが目的であり、その過程で得られるデータについては、できる限り実際の開発に資するものとなるよう進めることが必要
  • また、同時に、技術実証のための海洋調査で得られたデータ等を活用し、海洋環境や海底下地下生命圏、資源の成因等に関する知見を得つつ戦略的探査手法の確立することを目的とした研究を行うことが基本
  • 効率的に海洋調査を実施するため、独立行政法人海洋研究開発機構(以下、「JAMSTEC」という)、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下、「JOGMEC」という)、海上保安庁及び大学等研究機関が、知見の共有や調査実施に関する調整等、緊密に連携することが重要で、特に、海洋調査を実施するJAMSTEC と資源量評価等を実施するJOGMECについては、データの収集、共有、公表等についての必要な調整の実施等、連携が重要

第2章 探査技術実証のための海洋調査

  • 海洋鉱物資源の分布や賦存量を把握するためには、精密な海底地形の調査や海水成分の化学探査、海底下の三次元構造を精度よく探査するための物理探査が必要不可欠
  • このため、上記を体系的に組み入れた探査技術を確立することが必要
  • 海洋調査を実施するにあたっては、調査船や無人探査機等のプラットフォームを保有し、深海底調査の経験と知見が豊富なJAMSTECが必要な体制を整備し、関係機関と連携しつつ実施すべき (連携の具体については第5章参照)
  • 具体的な海洋調査の手順としては、
    (1) 科学的に海洋鉱物資源の存在が期待される海域を絞り込み
    (2) 船舶を用いた海底地形の把握により、海洋鉱物資源の存在が期待される地形を検出
    (3) 自律型無人探査機を用いた事前地形調査や海底熱水活動等を起源とする海水成分異常の検出により、海洋鉱物資源である可能性の高い地点を絞り込み
    (4) 無人探査機を用いた深海調査により、海水成分の異常検出や海底下三次元構造の高精度物理探査(重力、電磁気及び地震波(音波)による探査)、写真撮影による調査、試料の採取や現場分析を行い、資源の分布や賦存量把握に必要なデータを取得
    (5) 深海掘削による海底下の試料採取と分析
    という流れが適当であり、然る後に深海調査の結果とボーリング調査等を踏まえた資源量評価が実施されることとなる

(1) 海底熱水鉱床

  • 平成24~25年度については、「沖縄トラフ」及び「伊豆・小笠原海域」において、既知の海底熱水活動及びその周辺を対象に調査を実施する
  • 平成26~27年度については、「中部沖縄トラフ」において、これまで十分に調査がなされていない海域を対象に実施する
  • さらに、「九州-パラオ海嶺」等、現在海底熱水活動の見られない海域においても、活動を停止した古い海底熱水活動を対象に調査を実施する

(2) コバルトリッチクラスト

  • 平成24~25 年度については、「南鳥島周辺海域」において、過去に科学的調査が実施されたことがあり、探査技術確立のためのモデルケースとなる海山を設定し、その海山を対象に調査を実施する
  • 平成26~27 年度については、「南鳥島周辺海域」において、これまで十分に調査がなされていない新たな海山を対象に調査を実施する

第3章 探査技術開発の進捗状況と課題

  • 「はじめに」に示したとおり、資源量評価に必要な基盤的技術の開発が必要であることを踏まえ、文部科学省としても、大学等が有する基礎的な研究や要素技術を核としたセンサー等技術開発や、JAMSTEC における探査機等技術開発を実施
  • (1)(2)に述べる各技術を組み合せ、一連の「探査システム」としての技術を確立することが必要であり、開発者それぞれが独立して開発あるいは整備を行うのではなく、緊密に連携し、成果を還元し合いながら推進すべき
  • 実際の海域における調査を通じて、具体的な鉱物資源の兆候の発見等を進めつつ、「探査システム」全体の効率的、効果的運用方法を確立する必要がある
  • 今後は、センサー等開発者と理学系研究者との連携等を通し、センサー等で得れる測定結果を適切に評価するための方法を確立すべき

(1) センサー等の探査技術開発

○ 進捗状況の現状

  • 「海洋鉱物資源の探査に関する技術開発のあり方について(中間とりまとめ)」(以下、「中間取りまとめ」という)において、広範囲(10キロメートル四方)から有望鉱床域(1キロメートル四方)までのそれぞれの段階に応じ、海底地形や海水成分の計測、音波、重力、磁力、電気、電磁による海底下構造把握技術の高精度化の必要性が指摘されている
  • 「海洋鉱物資源の探査に関する技術の実証の当面の進め方」(以下、「当面の進め方」という)において、海底下の三次元構造を把握できるセンサー技術実証の必要性が指摘されているとともに、前章においても、その重要性を指摘したところ
  • 文部科学省においては、平成20年度から「海洋資源の利用促進に向けた基盤ツール開発プログラム」(現「海洋資源利用促進技術開発プログラム 海洋鉱物資源探査技術高度化」で、以下、「基盤ツール」という)を実施し、前述の各手法による探査技術の開発を実施
    • 音響による海底地形の計測については、浅海域における実験で目標とする精度を達成
    • 海水成分の計測については、実際の海域における試験で、未知の海底熱水活動を新たに発見するという成果をあげた
    • 音響による海底下構造把握技術については、これまで困難とされていたコバルトリッチクラストの非接触での厚み計測に成功するという成果をあげた
    • 地震波による海底下構造把握技術については、機器の試作等を実施
    • 重力による海底下構造把握技術については、機器の試作等を実施
    • 電気、電磁、磁気による海底下構造把握技術については、機器の試作や実際の海域における実験等を実施
    • 手法の中には、実際の海域での試験を十分に行えていない、得られた生値を適切に評価する方法が未確立、大きさや重さの観点から探査機への搭載がむづかしい、開発者自身でなくても取り扱えるような汎用化が進んでいない等、課題が残っているものもある

○ 今後取り組むべき課題

  • 基盤ツールにより開発中のセンサー等を、実際の海域において十分に実証試験を行い、資源探査技術として確立することが必要
    • 探査機への搭載や実際の深海での使用を通して課題を抽出し、さらに高度化することが必要
    • 既存の調査結果の活用、センサー等開発者と地球化学、地球物理学等理学系研究者との連携等を通し、センサー等で得られる測定結果を適切に評価するための方法を確立する必要がある
  • 具体的には、探査技術の利用者として深海底の調査研究を担当するとともに、利用者の立場でのセンサー等探査技術への要求や、調査結果の生値を地球科学的知見に基づく解釈を行う理学系研究者と、探査技術の提供者としてセンサー等探査技術の改良を担当するとともに、工学的知見に基づく技術の新たな活用法の提示を行う工学系研究者が共同して調査を行うプロジェクト型研究開発を行うべき

(2) 探査プラットフォームの開発・整備

○ 進捗状況の現状

  • 国家基幹技術「次世代型海洋探査技術」の一環として、JAMSTECが無人探査機技術開発を実施
    • 自律型無人探査機(以下、「AUV」という)用の先端技術、深海用リチウムイオン電池、小型慣性航法装置、分散制御CPUシステム、高機能画像システム等の実際の海中における試験に成功
    • 遠隔操作型無人探査機(以下、「ROV」という)用の高強度浮力システム、高強度ケーブル、推進システム等の実際の海中における試験に成功
    • 水深約4,000メートルの深海域において、水平距離300キロメートルの音響通信実験に成功
  • 「中間取りまとめ」において、機動的に移動し、鉱床に接近することができるAUVやROVの有効性と、高出力電源や安定した水平航走システム、小型軽量化の必要性が指摘されている
  • 「当面の進め方」において、
    • AUVに必要な自律性を持たせ、将来的には支援母船1隻で機能の異なる複数のAUVを複合的に活用することを視野に入れる
    • 各種センサーを搭載できることと、必要な調査を行うための機動力、操作性とのバランスを考慮することの

    重要性を指摘するとともに、

    • 複数の機能の異なるAUV の効果的な組合せと高性能化による探査
    • ROVによる複雑な地形に対応したサンプリング
    • 地球深部探査船による海底下のサンプリング

    の各種技術実証の必要性が指摘されている

○ 今後取り組むべき課題

  • これまでの知見を生かし、我が国の領海、排他的経済水域において行う海洋鉱物資源探査に必要な機能を有するものを開発、整備することが必要
  • システム全体としての技術を確立するため、実海域での実証を積極的に実施すべき
  • 上記「進捗状況の現状」において述べた「中間取りまとめ」「当面の進め方における指摘事項について、着実に実施すべき
  • 具体的に、AUVについては、
    • 安定した水平航走が可能
    • 小型、軽量
    • 必要な自律性を持ち、将来的には支援母船1隻で機能の異なる複数のAUVを複合的に活用可能
    • 各種センサーを搭載できることと、必要な調査を行うための機動力、操作性とのバランスがよい
      という特徴を持つなものを開発すべき
  • ROVについては、
    • 支援母船を選ばない等、無人探査機運用効率の向上
    • 多彩な探査・研究用途により各機器が脱着可能な構造
    • 海底鉱物資源の調査に特化(海底地形探査、連続柱状サンプリング)
    • 海洋鉱物資源研究に活用(海洋鉱物資源の成因解明)
      という特徴を持つものを開発すべき
  • 海洋資源探査技術実証のための海洋調査を加速化させるためには、調査を面的に行う必要があり、1隻で各種調査・探査を総合的に行うため、
    • 海底の概査、海底下構造の調査を行う
    • 各種無人探査機を複数同時運用する等して、海底を精密に調査する
    • 取得したデータや試料を船上で迅速に分析する
      能力を有する支援母船の整備が望まれる

第4章 海洋鉱物資源に関する研究課題

  • 学術の発展に貢献し、人類共通の資産となるのみならず、開発対象たる海洋鉱物資源に対する理解を深め、効率的な探査や環境負荷を抑えた開発への貢献等、海洋鉱物資源の開発・普及の促進に向けた取組を推進する上で、大きな意義
  • 海洋鉱物資源を対象とした研究を進めることで、海洋環境や海底下地下生命圏、資源の成因に関する新たな発見、新たな知見の獲得が期待
  • 研究者や技術者にとっては、海洋鉱物資源に関する調査、研究にかかわることによって、これについての経験を積み、知見を蓄えることができることから、学術研究の実施は、将来の我が国の海洋鉱物資源に対する取組を担うべき若手人材を育成することにもつながる

(1) 海底熱水活動域

○ 海底熱水活動とは

  • 海底下深部に浸透した海水が、マグマ等の熱により熱せられ、地殻に含まれる各種元素を抽出しながら海底に噴出するもの
  • 熱水が冷却される過程で、熱水中の銅、鉛、亜鉛、金、銀等の重金属が沈殿することにより、多金属硫化物鉱床(海底熱水鉱床)を形成することがある
  • 海底熱水鉱床に含まれるレアメタルは、コバルトリッチクラストと補い合うような関係
  • 海洋プレートの発散境界(海嶺)や、プレートの収束境界付近の島弧や背弧海盆に形成
  • リフト帯の海底火山やカルデラ火山に伴って形成される場合が多く、数メートルのチムニーが林立する等、海底地形の起伏が激しいことが特徴

○ これまでにわかっていること

  • 場所によって、熱水や熱水からの沈殿物の元素毎の含有量が大きく異なる
  • 熱水噴出口付近には、熱水由来の成分を利用した化学合成に依存する特異な生物群集が存在し、遺伝子資源としても重要
  • 熱水の噴出には寿命があり、形成された海底熱水鉱床が堆積物で埋没している場合がある
  • 平成22年9月の地球深部探査船「ちきゅう」による沖縄トラフ熱水域科学掘削において、黒鉱様の多様な金属硫化物や海底下における熱水の流れと大規模な滞留が発見される等、沖縄トラフに特異的に起きる海底下に広く分布 する熱水循環系の規模や存在様式が「黒鉱」鉱床の成因に深く関わっているという画期的な成果が出始めている
  • 海底熱水活動に伴うと見られる熱水起源の硫化物が、現在は熱水活動が存在しないとみられ、海底熱水鉱床の存在も未確認であるフィリピン海で確認

○ 未解明な点が残されている研究すべき課題

  • 以下の各事項について調査・研究を通して明らかにすることで、より効率的な探査や商業開発に適した鉱床の判定に貢献できる可能性がある
    • 海底下熱水循環系の規模及び普遍的な特徴
    • 海底熱水鉱床の成因
    • 熱水及び海底熱水鉱床における各種元素の起源
  • 熱水依存底棲生物及びその周辺に生息する熱水非依存底棲生物を含む生態系について明らかにすることで鉱床の開発による環境影響評価や、遺伝子を含む生物資源の保全に貢献できる可能性がある
  • 活動を停止した古い海底熱水活動の痕跡と古い海洋底の地史について明らかにすることで、開発しても生態系等環境への負荷が小さいと考えられる、熱水活動のない鉱床の探査、開発に貢献できる可能性がある

(2) コバルトリッチクラスト

○ コバルトリッチクラストとは

  • 海水中に溶存している金属成分が沈殿、固着したもので、海底の岩盤を厚さ5~15センチメートル程度の不均質で皮殻状に覆う鉄マンガン酸化物のうち、コバルトの品位が高いもの
  • コバルト、ニッケル、白金族、希土類元素を濃集しており、レアメタルは海底熱水鉱床と補い合うような関係
  • 主に大洋の水深800~5,000メートルの海山の斜面や頂部に存在

○ これまでにわかっていること

  • 熱源を要さず、海水のみから生成される若い時代の酸化物
  • 100万年あたり数ミリメートル程度という、非常にゆっくりとした速度で堆積
  • 堆積物に埋没することは稀で、海底面に露出している
  • 微細な内部構造をもち、組成にも変化がある
  • コバルトリッチクラストの分析から、古地磁気の情報を復元することに成功する等、過去数千万年程度の環境を記録している可能性がある

○ 未解明な点が残されている研究すべき課題

  • 以下の各事項について調査・研究を通して明らかにすることで、より効率的な探査や商業開発に適した領域の判定に貢献できる可能性がある
    • 金属元素の濃縮、沈殿の条件とプロセス
    • 詳細な成長速度、組成、ナノメートルスケールでの内部構造とその決定条件
    • 微生物活動との関連
  • 記録されている可能性のある、調査対象の海洋底(海山)における、海洋底移動や時代等による海洋環境の変動について明らかにすることは、海洋底の地誌や気候変動等の解明において重要な価値を持つ

(3) その他

○ 海底下における炭化水素生成メカニズムと炭素循環システム

  • これまでにわかっていること
    • 日本沿岸の海底下には、上部白亜系~古第三系にかけて有機物層が分布しており、その一部は石炭や天然ガスなどの炭化水素資源の根源として重要な役割を果たしている
    • 堆積物中のメタン生成には、有機物の微生物分解と熱分解の2通りが存在
    • 微生物活動による海底下のメタン生成は、主に二酸化炭素や酢酸の還元反応によって生ずる
    • 地球深部起源の大規模火成活動と関連する海洋無酸素事変など、地球規模での気候や地質といった様々な環境変動が、埋没有機物の形成や熟成過程、炭化水素資源生成に大きく寄与している可能性がある
  • 未解明な点が残されている研究すべき課題
    • 海底堆積物内における有機物分解プロセスと地下微生物活動との関わりを明らかにすることにより、沿岸堆積物内における炭化水素資源生成メカニズムの全体像を把握することができる
    • メタン生成場の解明に資する新規分析手法を開発することで、海底下におけるメタン生成の深度分布が明らかになり、天然におけるメタン生成の解明に貢献できる
    • 海底下深部における炭化水素生成場とその条件、および熟成プロセスを明らかにすることは、炭化水素資源の分布の理解や地球史における炭素などの物質循環と気候・地質変動との関わり、さらには地球深部をも含む物質循環の解明において重要な価値を持つ

○ 泥火山

  • 泥火山とは
    • 地下深部に由来する粘性、密度の低い泥質流体がガスとともに噴出し、高さ数十メートルから数百メートルのマウンド状を成したもの
    • プレート沈み込み帯周辺や油ガス田地帯などに存在
    • 温度・圧力条件等により、泥火山内部に大量のメタンハイドレートが存在
    • 地下深部の熱分解起源の天然ガス(メタン)などを直接海底表層に運ぶ「ナチュラルパイプライン」として機能し、地下深部における流体形成や天然ガス濃縮プロセスの解明、地下深部に由来する生命の存在の検証など、調査対象とするべき幅広い価値を持つ
  • これまでにわかっていること
    • 日本近海では、南海トラフ(熊野海盆)や種子島沖に多数分布する
    • 泥火山の形成には、断層活動や地質構造の変動が大きく寄与している可能性がある
    • 平成21年3月の地球深部探査船「ちきゅう」による試験掘削において、熊野泥火山頂部の海底下に柱状のメタンハイドレートの存在を確認
    • 泥火山中において、高濃度かつ高純度のリチウムが濃集しており、最大で1,000倍程度の濃集も認められる
  • 未解明な点が残されている研究すべき課題
    • 以下の各事項について調査・研究を通して明らかにすることで、泥火山の実態調査や資源開発に貢献できる可能性がある
      • 泥火山内部におけるメタンハイドレートの産状と形成プロセス
      • 高濃度リチウムおよび微量金属元素の濃集・移動プロセス
      • 泥質流体および天然ガスの起源と圧搾流体形成メカニズム
    • 流体移動と断層活動等を含む地質変動との関連を明らかにすることにより、日本近海の複雑な地質環境場における流体移動や天然ガス濃縮プロセス等の解明において重要な価値を持つ
    • 泥火山メタンハイドレート内の炭素循環プロセスや大深度に由来する生命の存在および代謝特性等を明らかにすることで、海底下生命圏の実態解明や生態系機能の工学的利用を視野に入れた基盤研究が期待できる

 第5章 関係機関との連携

  • 「基盤ツール」により、大学等の研究機関において開発が進められている各種センサー等の実証研究を進めていくべき
  • 加えて、JAMSTECにおいては、これらセンサー等を搭載し、実際に深海底の調査を実施するAUVやROV等の無人探査機の技術実証をすることが必要
  • これらの取組を進めるためには、関係機関が密接に連携することが重要

(1) 各機関の取組状況

○ JAMSTEC

  • 調査船、研究船や地球深部探査船「ちきゅう」、探査機等のプラットフォームを保有し、我が国近海での海底熱水活動発見、沖縄トラフ熱水域における黒鉱様資料採取等、深海底の科学的調査について、豊富な経験と実績を有する
  • 「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」(以下、「開発計画」という)のうち、「環境影響評価」の部分について、JOGMECと連携
  • 平成22年度には、
    • 日本学術振興会「最先端研究開発戦略的強化費補助金」による「海底下実環境ラボの整備による地球科学-生命科学融合拠点の強化」事業において、巡航型、作業型各1機のAUV
    • 「海洋資源探査システムの実証」の一部を前倒しした平成22 年度補正予算により、資源探査用AUV1機
      の開発にそれぞれ着手し、いずれも平成23年度中の竣工を目指す

○ JOGMEC

  • 深海底鉱物資源探査専用船「第二白嶺丸」を保有し、「開発計画」に基づき、「沖縄トラフ」及び「伊豆・小笠原海域」において、海底熱水鉱床の「モデル鉱床」の調査を進めており、平成23年3月に、第一期中間評価を公表
    • 両海域をあわせた概略資源量を、秋田県北部の黒鉱鉱床群の総鉱石重量と同等の、5,000万トン程度と推定
    • ただし、海底下20メートル以深については、ボーリングの掘進能力の問題から、情報が得られておらず、国際基準に達した計算ではない
    • 他に、実際に鉱床を開発するための技術である「環境影響評価」「資源開発技術」「製錬技術」についても中間評価を実施、特に「環境影響評価」については、JAMSTECと連携
  • 平成23年度からは、引き続き前記両海域において海底熱水鉱床の調査を進めるとともに、南鳥島近辺の公海において、コバルトリッチクラストの調査に着手する計画
    • 海底熱水鉱床については、これまでに得られた情報から、「沖縄トラフ」を優先順位1位、「伊豆・小笠原海域」を優先順位2位とする
  • 現在、「第二白嶺丸」の代船として海洋資源調査船「白嶺」を建造中であり、平成23年3月に進水し、平成24年2月就役予定

○ 海上保安庁

  • 本庁及び各管区に測量船を保有し、水路業務遂行等のため、海底地形調査等を実施
  • 近年は海洋権益を保全するための海洋調査等を重点的に推進している
  • 上記取組のため、平成23年度にAUVの整備に着手しており、平成25年度からの運用を目指す

○ 大学等研究機関

  • 自ら保有するあるいはJAMSTEC等が保有するプラットフォームを用いた深海底の科学的調査を実施
  • 特に、東京大学生産技術研究所は、高い無人探査機技術をもち、保有する無人探査機による調査で大きな成果を挙げている
  • 基盤ツールのセンサー等研究開発についても、大学等の研究機関において実施

(2) 各機関間の連携

○ 「海洋鉱物資源探査技術高度化」で開発中のセンサーの実証

  • JAMSTECは、必要なシップタイムを確保する等、資源探査に有効なセンサー等を上記の海域において確実に実証させることが必要
    • センサー等のプラットフォームへの搭載や海中での使用について、センサー等の研究開発機関とJAMSTEC が協力して行うことが重要
  • JAMSTECとJOGMECは密接に連携することが必要
    • 技術実証のための海洋調査で得られた結果の妥当性や有効性を検証するためには、海底下構造や組成、物性等について既存の調査結果と比較することが重要
    • 平成24~25年度に実施する技術実証ついては、JOGMECが既に資源量評価の取組を進め、ボーリングデータ等の実測値と比較ができる海域において、JOGMECの調査結果を活用しながら実施するとともに、得られた結果についてはJOGMECと共有することが有効
    • 技術実証のための海洋調査で得られた結果は、JOGMECにおいて進められている資源量評価において活用されるものであることが重要
    • このため、両機関間における十分な調整が必要
  • 海域や内容の重複を防ぎ、効率的に海洋調査を行うため、プラットフォームを保有するJAMSTEC、JOGMEC及び海上保安庁の間で、十分に調整することが必要

○ JAMSTEC が開発中のAUV やROV 等の無人探査機の実証

  • JOGMECの「第二白嶺丸」や「白嶺」において、開発した無人探査機を運用することも選択肢に入れるべき
  • 効率的な調査のため、海上保安庁の測量船やAUVで取得した地形データを活用するとともに、水路業務等に活用されるよう、技術実証のための海洋調査で得られた地形データを海上保安庁に提供すべき

(3) 調査結果や知見の共有

  • 実証において得られた知見が、資源エネルギー庁が実施する資源量把握に活用されるためには、JAMSTECとJOGMECによる事前の調整や情報共有が重要
  • 学術的成果については、広く発信し、国際的な学術コミュニティで共有することが重要であるが、その取扱に注意することが必要と考えられるデータについては、発表の内容等について検討が必要

お問合せ先

研究開発局海洋地球課