海洋生物委員会(第4回) 議事録

1.日時

平成23年5月23日(月曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省17階 17F1会議室

3.議題

  1. 東日本大震災を踏まえた東北海洋生態系研究について(ヒアリング)
  2. 海洋生物に関する研究の重点課題について
  3. その他

4.出席者

委員

田中、北里、笹生、瀧澤、竹内、竹山、中田、西田、婁、和田 各委員

文部科学省

堀内 海洋地球課長、鈴木 海洋地球課長補佐

オブザーバー

東京大学大気海洋研究所 大竹教授、同 河村准教授

5.議事録

(田中主査による開会の挨拶と鈴木海洋地球課長補佐による配付資料説明。途中まで音声不良のため省略)

 

【田中主査】

はい、ありがとうございます。皆さんお手元にあるでしょうか。

それでは、3月11日に起こった東日本大震災は千年に一度といわれる位の巨大な、予想をはるかに超える大津波によって、瓦礫の流出、あるいは現在は瓦礫に埋まっていますが、おそらく色々な人口合成物質等が陸部から流入していることも含めて、海洋生物に多大な影響があると非常に懸念されるところです。

前回の審議会でも震災を踏まえて何をなすべきかについて若干の検討や意見をいただきましたが、今回は議題1として、「東日本大震災を踏まえた東北海洋生態系研究について」これを加えさせていただきました。できればこれを文科省としても課題化して取り組んでいきたいという方向に進んでいると伺っております。

それでは資料1と資料2につきまして、東大海洋研の大竹教授と河村准教授よりご説明をよろしくお願いします。

 

【大竹教授】

東大の大気海洋研究所の大竹でございます。よろしくお願いします。

それでは東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センター、以後沿岸センターと呼ばせて頂きます。

取組みと被災状況。取組みにつきましては、実際にどのような研究活動が行われているのかということについてご報告させていただきます。

まず研究活動でございます。沿岸センターでは沿岸域に生息する海洋生物の生活史や行動生態、沿岸域における海象・気象の変動特性や物質循環などに関する基礎研究を実施する。研究所のミッションの下にこれらの4点を主に研究してまいりました。

最初の魚類の生態に関する研究は、アユ・サケ・ウナギ、といった沿岸域・三陸沿岸域の魚類の、主に回遊魚に関しての研究でございます。

データロガーあるいは画像ロガーを用いた研究。こちらはウミガメやオオミズナギドリなどの海鳥、あるいはマンボウ・サケなどの魚類を主な研究対象として展開されています。

その他、物質循環あるいは物理過程に関する研究につきましても、三陸沿岸域の環境あるいは生物生産を理解するという視点の上での研究が行われています。

この沿岸センターは共同利用共同研究施設でもあります。年間課題数で60から70、人数で延べ4000人日程の全国の研究者の方々が、沿岸センターで研究活動を行っています。

非常に多様な研究が行われておりますが、主なものを拾い上げますと、大体この7つの研究課題が主になります。何れもこれからの三陸の沿岸水産業の立ち上げ復興に関して、非常に重要な研究課題だと思われます。

時間がかなり限られていますので次に、地震の被災状況についてのご報告に行きたいと思います。

今回、東北沿岸域震度6弱から強という非常に強い地震に見舞われたわけですが、被害は殆んど津波によるものです。沿岸センターを襲った津波は高さが最大12.2mありました。この茶色の建物が沿岸センターの研究棟です。3階建ですが、最大時この3階の窓の直下まで完全に水没しました。これは研究棟の屋上から海側を写した写真です。ここに津波の防波堤がありましたが全て崩壊しています。海側の敷地はかなり水没しており、屋外コンクリート水槽の半分は水没しました。また地盤もかなり沈下したようで水面が高くなりまして、海際がかなり敷地の中に入りこんでいます。

一応被災状況をまとめるとこのようになります。建物として、研究棟・共同利用研究者宿舎・ポンプ棟、いずれも鉄筋コンクリート製の建物ですが、それらは辛うじて残りました。それ以外の建物は全て全壊しました。敷地につきましては今話しましたように、防波堤が崩壊し、かなりの部分が水没しました。

それから調査船ですが、3隻ありました。全て流出しています。研究設備につきましては、海象部位はじめ全ての観測機器類は流出。研究棟内に設置されていた分析器類も全て水没し使用不可能な状態。まさに壊滅状態といってよいと思います。

これは研究棟から山側を見た写真です。これが共同利用研究員宿舎です。これも完全に水没して、屋上に近くの民家の屋根が乗っています。これが観測機器倉庫で、完全に全壊し瓦礫の山となっています。

これは研究棟の中の実験室の器具です。完全に水が入りまして、中の機材はこのように、まるで洗濯機の中に全部ものを放り込んで、グルグル掻き回したような状態になっています。最後に震災からこれまでの復旧・復興に向けた取り組み。本学と大気海洋研究所による取り組みについて時系列でまとめたものがこのスライドです。現在比較的被害の少なかった研究棟の3階を復旧させようと、まさに今日も作業―――瓦礫の撤去、清掃、電源・水道・仮設トイレなどの設置等の作業が行われているところです。

5月25日から3日間の予定で大気海洋研究所のグループによる、最初の大槌湾の水質およびプランクトンの調査が実施される予定になっています。

私からの報告は以上です。

 

【田中主査】

ありがとうございます。それでは引き続き河村先生お願いいたします。

 

【河村准教授】

ご紹介いただきました、東大大気海洋研究所の河村です。2月まではそちらの事務局側に座っていましたので、こちらでお話させていただくのは若干居心地が悪いのですが。

今回の震災で最も大きな影響があったと思われる底生の生物、とくにアワビやウニの生態を専門にやっていますので、その立場からお話をしたいと思います。沿岸漁業とそれを支える沿岸環境の長期的回復のためにいったい我々は何をなすべきか、ということを、これから25分位時間をいただいていますのでお話いたします。

やることは沢山あると思いますが、我々の立場から言えば、まず大事なのは沿岸の海洋構造のかく乱と修復に関して、これがどのようにこれから変化していくか。特に海底地形と海洋構造。これがどのようにこれから移り変わっていくかが非常に大事です。それから放射性物質のみならず、様々な人為起源物質が海に大量に流出したと考えられますので、それが生態系内でどのような挙動をし、どんな影響を与えるのかをきちんと調べる必要があろうかと思います。

ここから私の専門に近いところになりますが、壊滅的に破壊されてしまった沿岸の生態系、これがどのように移り変わっていくか。それに伴い失われてしまった生物多様性がどのように回復してくるのかをきちんと見なければいけない。それに関連して沿岸漁業は生態系の中で存在している資源生物によって支えられているわけですが、それが今壊滅的な被害を受けたと考えられます。これから答えるのは回復過程に入っていくわけですが、それを妨げない、あるいは助長するような長期的な視野に立った資源管理、あるいは増殖の在り方が必要ではないか。おそらくこれまで100年単位あるいは1000年の間にはこんな大きな津波があったと思うのですが、その度に生物は回復して今に至っていると思います。1000年前にはおそらく人間の漁業活動がなかったわけですから、それは生物のプログラムに入っていない。そこで我々人間がこれにどんな手を加えるのかが非常に重要な問題だと考えられます。

資料の3.と4.について少し詳しく話します。

生物群集の二次遷移課程。二次遷移というのは新しい基質が出来てそこに始まる遷移が一次遷移と呼ばれますが、それに対して台風や家事・洪水などにとって、今までいた生物群集の大部分が―――全てではなく大部分が失われた後に起こる遷移の事を言います。この遷移課程がおそらく世界中の沿岸海洋の生物研究者が注目している研究課題であると思います。かつてスマトラで大きな津波があり同じような現象が起こったのですが、その際にはそこで前提となる過去の情報の蓄積が不十分だったと思います。今回の場合、東北太平洋沿岸における研究蓄積は世界でもトップクラスだろうと思いますので、このような二次遷移課程の研究をするには―――言い方は悪いですが、格好の材料だろうと思います。この二次遷移課程は既に始まっており、少なくとも数年、おそらく10年20年にわたり進行していくものと思われますので、出来るだけ速やかな観測・追跡の開始と長期的な継続が必要だと思われます。

大気海洋研究所では今週からプランクトンや水質の研究を始めますが、実際の生物が見えるように潜水調査が必要な状況はまだ始められる状況ではありません。現在地元の水産試験場や、一緒に仕事をしている漁業組合の人達とともに、いつから観測が出来るのかということを調整中です。

もう少し実際に海洋生態系がどのようになっているのかをご紹介したいと思います。

これは先程大竹先生からお話のあった大槌です。ここに大槌の国際沿岸海洋研究センターがありますが、大槌湾全体の航空写真を示しています。丸で囲んだところが海藻群落ですが、輪の中でも場所により異なる海藻群落が形成されています。これは海の流れの違い、底質―――砂であるか岩であるか、底質の違いにより異なる海藻群落が形成されています。

我々はこの湾口部にあるエゾノネジモク・ホソメコンブという褐藻が群落を形成している場所で、今まで継続的に調査を行ってまいりました。これは水研センターの東北水研と一緒にやっている研究です。

ここは一度海が沈み込んで深くなり、もう一度リーフのように上がっている場所があり、水深1.5mから6mの間にエゾノネジモクというホンダワラ科の海藻が濃密な群落を作っています。推進6m以深にはスジメ・ホソメコンブというコンブ科の海藻がこのように茂っているのです。

エゾノネジモクは夏場にかけて成長して濃密な群落を作り、秋から初冬にかけ枯れて流出します。コンブ類は冬場異常に茂っていて夏場に枯れるというサイクルで動いています。

これはエゾノネジモクの分布の例を示したものですが、2006年2007年2008年、夏場に濃密な群落を作って、秋に細い葉になり枯れ始める。11月位にはほとんど流出するのですが、全て無くなるのではなく根の部分が残っている。このサイクルを毎年繰り返しています。今年は11月ではなく3月の時点で津波により多分ほとんどの海藻が流出したと考えられます。もしかすると根の部分も残っていないかもしれない。どうなっているのかは分かりませんが、いつもとはかなり違う状態が生じていると思われます。

このような海藻群落の上には色々な生き物が棲んでいます。エゾノネジモクにはワレカラやヨコエビなどの1mにも満たないような小さな甲殻類。このスケールは4mmですが、数mm単位の巻貝の仲間が海藻の表面に沢山棲んでいます。

コンブの群落の方には―――コンブの上にはあまり生き物は棲んでいないのですが、群落の下の基質面にアワビ・ウニをはじめとして、カニや他の生き物も沢山棲息しています。

このような動物の分布は海藻にかなり既定されていて、海藻群落が変われば棲んでいる生き物も変わるという状況があります。

そこには魚も沢山棲んでいます。エゾノネジモクの方にはウミタナゴが沢山います。コンブの群落の方にはアイナメ・クジメやソイの仲間などが棲んでいます。

魚の分布もやはり海藻にかなり依存して決まっている。ここでただ一緒に棲んでいるのではなく、エゾノネジモクという海藻の上にワレカラという小さな甲殻類が棲んでいるのですが、沢山います。これはエゾノネジモクそのものを食べているのではなく、エゾノネジモクの表面に生えている微細藻類―――珪藻のような微細藻類を餌としている。このワレカラは色々な魚に食べられるわけです。例えばウミタナゴであれば胃の内容物の94%をこのワレカラが占めている。種類によって食べるものも若干違いますが、この海藻群落の中で色々な生き物が生息場として使うとともに、搾餌場として餌を採る場所として使っている。

このような多くの生物が津波により、生息している基盤を、一瞬にして失った。しかも例年のサイクルとは違う時に生息場を失うという事態が起こったと考えられます。

大津波の後にこれらのものがどのように変化していくのか。

今ご紹介しましたように生態系の生物群集は非常に複雑ですが、秩序のある構造をしていて、そのもとに成立している。ただ、この構造や機能に関してはまだ未解明な部分がかなりありまして、よくわかっていないのです。しかも今回のような突然の大規模攪乱に対して、生物たちがどのように応答するのかについては全く分かりません。

これからどんなことが起こるのかを追跡していくとともに、構造や機能がどのように成り立っていくのかということ―――メカニズムの解明を進めていく必要があると思います。

それと関連しますが、水産業復興の鍵となる生物資源の再生は、この二次遷移と並行して進み、その影響をかなり強く受けると考えられます。従って魚や貝など生物の資源の変動は生息場や餌生物に依存しますから、生物資源の長期的回復や変動予測のためには、生態系と生物多様性の変動機構や予測がどうしても必要になります。これは今まで完全に分かっていたことであれば簡単なことだと思いますが、あまり分かっていなかったことはまた難しい問題をはらんでいると思います。

4.の課題です。沿岸漁業の長期的回復のために何をすべきか、ということです。

まず青森県から福島県の漁業生産の受領ベースで全国にどの位の割合を占めていたのか、ざっと調べてみました。2008年のデータをあたると、海面の漁業総生産量が14.4%、養殖量で25.4%、私の専門であるアワビの漁獲量では42%です。ヒラメ・カレイで20%、ワカメ76%、カキ31%。それから全国に養殖用のカキの種苗を出荷しているのですが、宮城県が全国の80%以上を生産している。ホタテでは50%。思いつくものだけを並べてみたのですが、これだけ見ても被災地の沿岸漁業のほとんどが壊滅しているわけですが、これを早く復興させることが日本の食糧生産の維持に不可欠だというのは明らかだと思います。

そんな水産生物がどんなところで生産されているか。外海に面した砂浜です、外海砂浜ではヒラメやカレイ類、ハマグリ・ウバガイ(ホッキガイ)。河口干潟ではアサリ・シジミ。ヒラメ・カレイはここを初期生育場としていることが分かっています。

海草のアマモという顕花植物の藻場では、メバルが沢山います。ニシンの初期生息場となっていることも知られています。エビやカニ類はここで主に生息しています。

それから私がフィールドとしている岩礁の藻場ではアワビ・ウニをはじめとして様々な生き物が生息しています。これも昨日、一昨日思いついたまま並べたものですが、まだまだ色々な生き物が、色々な生態系で生産されていると思います。

私が研究しているアワビを例に、いったい何が必要なのかということをご紹介したいと思います。

宮城県の牡鹿半島の太平洋側に面した泊浜という場所です。長さが200m位の小さな湾です。ここで私たちは2週間位継続して調査を行ってまいりました。この浜を含む泊漁協という小さな漁協ですが、船外機付きの潜水用の小舟が50隻あったそうです。今度の津波で46隻が流されて4隻しか残っていない状況で、とても我々の調査ができる状況にはないのです。しかし漁師さんと相談しながら、いつから調査を再開するか―――漁師さんたちもここでアワビやウニがどうなってしまったのか非常に気にしておりまして、一刻も早く調査を開始したいと思っています。

ここには水深6mより深いところに無節サンゴ藻という海藻―――これは一見何も無いように見えますが、岩の表面にピンクの海藻が繁茂しています。これは磯焼けの時に顕著に見られる現象で、海の砂漠などと言われていますが、実はそうでもないということをお話ししたいと思います。その内側にはアラメという大型の褐藻が群落を形成していまして、一番浅いところにはエゾノネジモクが群落を形成しています。この海藻群落が季節や年により拡大・縮小を繰り返している。

アワビはどこにいるのかというと、ここにアラメの根っこが見えます。アワビの大人、漁獲サイズの大きなものは大型海藻、アラメやコンブの群落に中に生息しています。泊浜ではアラメの群落があり、ここに沢山アワビの群れがいるのです。

では子供はどこにいるのか。アワビの生活史を簡単に示したものです。アワビは雌雄異体ですが、卵と精子を其々体外に出して水中で受精する。発生した幼生は最初の数日から数週間の間浮遊生活を送っています。そしてどこか適当な場所に着底し貝になっていくわけです。成貝―――卵を産めるようなサイズ(およそ5m位)になるのに3から4年。合格されるサイズになるまでに5から6年かかります。

この幼生は3日で変態可能になり、気に入った場所が見つかれば着底して変態するのです。気に入った場所が見つからなければ2週間位浮いている。どこが気に入った場所なのかというと、それが先程の無節サンゴ藻というピンクの海藻です。この海藻に選択的に着底することが分かっています。このピンクの海藻の中に変態したアワビの稚貝が見えますが、これが1m位に成長するまでに数カ月から1年位かかります。その間ずっとこのピンクの海藻の上に生息しているわけです。それが先程の「海の砂漠」のように何も無いように見えるピンクの海藻の上に、アワビの稚貝が沢山棲息しているわけです。泊浜では6mより深いところに稚貝が多く生息しています。

このアワビの子供はいったいどうやって成長していくのか。着底してから1週間程度で0.5mm位のアワビですが、数十μという小さな 顕微鏡サイズの微細藻類を餌としています。それが大体2mm位まで成長すると―――2mmだからまだ人間の目には見えない。私たちは潜水してこれを見つけます。この2mmの稚貝が、やはり数mmの海藻の幼葉を食べて成長します。そして最低でも1m位になると海藻の成体を食べることが出来るようになる。この餌の変化とともに棲み場もどんどん変化していきます。着底するのは無節サンゴ藻の上ですが、―――大体殻長が2mになるまでは無節サンゴ藻の上にいて、徐々に小型の紅藻や褐藻の幼体が生えてくるような、アラメの群落の脇に移ってくる。そして3m以降になるとその中に入ってくるということが分かっています。つまりこの6mより深いところから稚貝は徐々にアラメの中に入ってくる。これが大体2から3年から4から5年の間に移動してくるということになります。

従ってエゾアワビの好適生息場はアラメの群落と無節サンゴ藻の群落が隣接した海域であり、特に稚貝の捕食者と競合者がこの無節サンゴ藻に非常に少ないということが条件になります。この捕食者と競合者を含む動物群集の組成は、環境により大きく変化しますので、それがエゾアワビの稚貝の発生量―――資源量の長期的・短期的変動に結びついているのだということが最近ようやく分かってきました。

もうひとつ気をつけなくてはいけないことがあります。先程言いましたように最初にアワビは浮遊期を持っています。この浮遊期は最低3日ですが、2003年から2004年に気仙沼で調べた結果では多くが1週間程度浮遊しているということが分かっています。1週間経つと幼生はどこへ行ってしまうかということです。

これは少し違う例ですが、三浦半島の相模湾のある場所で南方系のクロアワビやメガイアワビの稚貝、幼生がどこまで流れて行ってしまうのかを流動の環境を再現してコンピューター上でシミュレーションした結果、このある場所で発生した幼生は2日後4日後7日後とどんどん広がっていくわけです。ですから幼生は発生した場所にずっと居続けるわけではなく、かなり分散してしまう。これは宮城県の沿岸でも再現してみました。先程は泊浜の場所がここになるのですが、泊浜で発生した幼生が1週間経つとそこまで流れてしまう。ここに留まっているものはごく限られるのではないか。ここに着底する稚貝は、何処から流れてくるのかと言えば、もっと北のより外側の雄勝や北上から来ている。幼生がどの位分散するかはかなり場所により違いますが、場所による流動関係の違いで幼生がどこに行ってしまうのかが変わるのだということが分かってきました。

つまりこの無節サンゴ藻の上にいた稚貝はここにいる親から発生したものではなく、どこか他所からくる。この稚貝が大きくなってこちらに移ってくるのですが、ここで産卵し発生した幼生は別の場所に行ってしまう。つまり同じ場所にいるアワビの親と子供は親子ではないという可能性が高いと考えられます。従ってその広域にまたがり存在する幼生の発生場と着底場が、アワビの存続には必要であるということになります。

この発生場と着底場の位置関係は流動関係でかなり決まってきますので、今回の津波で今までと違うことが起こっていたとすれば、この環境はどうなってしまったのかということをきちんと調べる必要があると思います。

もうひとつ、考えておかなければいけないことが親の密度です。

エゾアワビは雌雄異体で雄雌配偶行動を行いません。エゾアワビの場合ですが。魚のようにメイティングという回遊のために必要な行動をして同時に産卵放精するというのではなく、エゾアワビやトコブシの場合には、台風や低気圧の通過による時化が、産卵放精を誘発するということが分かっています。この際に雄雌がかなり密集して分布することが重要になります。

これは岩手県の水産技術センターが長年集められたデータです。

横軸がエゾアワビの親貝密度、縦軸が翌年に発生する稚貝の密度を示している。冬の水温により少し違いますが、冬の水温が高い場合には親が多いほど翌年の稚貝が増えるという傾向が見られます。これは田老という場所での結果です。

要するに親が多ければ良いということですが、ただ多ければ良いというわけではなく、雄雌の距離が非常に重要だということが分かっています。

これはオーストラリアのアワビで実験された結果ですが、横軸は雄雌を同時に―――放卵と放精を同時に行った時の海の中での雄雌の距離です。距離が0mから16mまで離れていくと受精率がどんどん落ちていく。くっついていれば90%受精するが1m離れると60%、2mで50%にまで減少する。

従ってアワビが海底にこれよりもこのようにいる方が受精には非常に有効であるということになります。

アワビがこのように産卵期に集まれば良いですが、集まらない可能性があります。成熟した成貝の密集がどうしても重要だということになるわけです。

三陸沿岸ではこのような高密度な親貝の集団がよく維持されていました。これはとても上手に資源管理されていた結果ですが、三陸沿岸以外ではこのような場所が少なくなっていまして、アワビの発生が非常に少なくなっている状況があります。今回の津波でどうなってしまったのかを慎重に調べる必要があると思います。

アワビがいればいいというのではなく、産卵するためには成熟が必要ですが、成熟を促す餌料海藻がどうしても必要になります。今回の津波で海藻群落がどのくらい無くなってしまったのか、今後どのような過程で回復していくのかはとても重要なことだと考えています。

エゾアワビ資源を長期的に回復するためには何が必要か。

まずその個体群と生息場・生息環境への津波の影響をかなり詳細に調査する必要があると思います。その際にいまお話してきたような再生産、特に繁殖と稚貝の初期生残への影響を重視する必要があります。それから広域にまたがって存在しているメタ個体群、つまり幼生のソースとなる場所と着底場となる場所。この関係性に非常に考慮する必要があります。

また、生息場の生物群集の構造、植物網の構造がどう移り変わっていくかをきちんと追跡する必要があります。これは稚貝発生量に他の動植物が非常に大きな影響を及ぼしますが、その相互関係がどうなっていくのかをきちんと調べていく必要があると思います。

もうひとつ、個体群を妨げない漁業管理と促進する手法の導入。特に漁業を今までと同じスケールで、同じ規模で再開した場合、かなり弱っている生物群集にはマイナスのダメージを与えるのではないか。従って漁業の再開時期と規模には十分な注意が必要で、これに対して科学的な助言が必要だろうと思います。

これから港湾施設の再建なども進んでいくと思いますが、これも流れ等をかなり変える可能性がありますので、それらにも十分配慮して行っていく必要がある。

出来ることは限られるとは思いますが、このようなことが必要だと思います。

生態系の遷移の予測に基づいて、漁業管理や保護区の設定をしていくことが非常に重要になると思いますので、漁業の再開と同時に、あるいは先行して調査・研究が必要になってくるのではないかと思います。

私の話は以上ですが、今日お話ししたのは、岩礁の生態系の中でのアワビを中心にした話でしたが、実際にその生態系の中では色々な生態系が複雑に絡み合って存在している。この岩場はここだけですが、干潟があり、河口域があり、アマモも海草もあり、色々なものが混在していて、それらは互いに物質のやり取りがあり、全部で行き来がある。それはまた川を通して陸と繋がっている。これらがどんなリンケージを持っているのかというのは今まであまり研究対象にされてこなかったのです。

しかしこれが津波で一斉にばらばらに壊れた。このネットワーク全てが無くなったという状況の中で、どのように回復していくかということは、このネットワークがどんな仕組みで成り立っているのかを同時に研究していく必要がある。それが我々が享受している色々な食糧資源やその他の生態系サービスといわれるものの回復につながっていくのだと考えます。

以上です。

 

【田中主査】

ありがとうございました。

大竹先生にはおそらく三陸沿岸に色々な大学・都道府県の水産並びに海洋生物関係の研究施設が沢山あるのですが、いずれも大きな被害を受けている。そのなかの具体的な例として大槌の沿岸センターのデータ、現状のご報告をいただきました。

それから河村先生にはアワビを通じて、沿岸生態系の色々な漁業等との繋がりも含めた、非常に包括的な事例をご紹介いただきました。

今日は、残念ながら東北大学の木島先生にはご都合で来ていただけなかったのですが、資料3が資料として配布されていますので、木島先生の資料も含めてご意見を伺えればと思います。

今回の震災の影響や復興に関する部分につきましては、今後何らかの形でまとめて報告書に反映していきたいと考えていますので、先生方の忌憚のないご意見等をいただければありがたいと思います。

それではどなたからでも結構ですのでよろしくお願いいたします。尚、発言いただきますときは、いつもと同じように議事録をまとめる必要がありますので、お名前を紹介いただいてから伺えればと思います。よろしくお願いいたします。

 

【和田委員】

よろしいですか。

 

【田中主査】

どうぞ。

 

【和田委員】

水産総合研究センターの和田でございます。

河村先生にお伺いします。早速、地域の漁業関係者の方と連携されて可能なところから調査を始めておられるということですが、やはり現場の漁業者の皆さん、出来るだけ早く漁業なり養殖業なりを再開したいというお気持ちが強いのではないかと思うのですが、それと実際の調査―――答えが出るまでに一定のタイムラグがあると思いますが、その辺りは現場でどのような話合い・調整をされているのか聞かせていただければと思います。

 

【河村准教授】

私たちの調査は実際には潜ってやるものですから、実際にはまだ私は一度も現場に足を運んでおりません。ですから研究を始めているわけではないのですが、どうしたらいいかという話は始めています。今のお話は結構難しい問題です。漁師さんは一刻も早く漁を始めたいとお考えです。生活を立て直すにはどうしても必要なことですが、一斉にそれをやってしまうと、かなりのダメージを受けている―――アワビであればアワビの資源がかなりの、またダメージを受けることになる。そうするとこれから10年かけて回復するものが、回復しないという事態も予想されるわけですから、それをどのように調整すればいいのかは非常に難しい問題です。多分水研センターの方にも、ご協力ご理解いただくことかなと思っています。水産試験場もおそらくそのように指導していくかと思いますが、今何を優先すべきか、ということになると、実際の調整は中々難しいのではないかと、個人的には考えています。

 

【北里委員】

海洋研究開発機構の北里です。

大竹先生の大槌の臨海センターは私も若い頃、30年くらい前にセンターが出来たころ準備をさせていただいて、あそこの湾内の全体的なある生物のグループですが、それの全体の調査をしていました。その頃には海域だけではなく、大槌の河川を通じて、陸の隆起全体の物質変化の研究がされていて、ある意味では海陸が連関したような生態系システムとして大槌湾を理解するという動きが非常にあったのですね。今回の地震・津波の被害は、もちろん沿岸の生態系に非常に大きなダメージを与えていますが、陸域の河川や皆の住んでいるところも非常な影響を受けていると思うのです。すると両方のシステムを考えて両方の復活というものを考えなければいかないという気がするのです。そこで海域の調査を始めたと伺いましたが、陸域の方についての検討はどのようにお考えでしょうか?

 

【大竹教授】

特に陸域自体の調査というより、例えば鵜住居(うのすまい)川や大槌川の河口域は完全に形状が変わっています。それに合わせて河口域の流れで物理構造がかなり変わっています。まずはその辺から調査していこうと皆さん考えておられます。

川自体というのは、今のところ大気海洋研としての具体的な調査は考えていません。しかし色々な方が今大槌に来られていますので、その方々の中には、森林の方、河川の方とおられますので、その方々と連携するといった準備を考えています。

 

【北里委員】

もうひとつ。つまり私自身が言いたいことは何かというと、大槌は非常に良いモデルケースです。海と陸がセットになっている。

木島先生の資料ですが、リアス式海岸のデータで、割と広い浜をもっているところ。三陸で言えば南側です。石巻の南は非常に広い砂浜を持っている。そこの生態系はまたもう一つセットでやっていかなければ、リアス式とは違うシステムとしての理解があるという。複合的な視点を持っていなければいけないのではと思います。

 

【田中主査】

あまり私が発言をするのは良くないのですが、関連として南側はおそらく、名取にしても低地が壊滅的な被害を受けて、そこには中々今までのように都市を復興することさえ難しい。少しさかのぼって考えれば、そういったところはかつて海であり、干潟であったという場所が結構あるのです。そうするとむしろこの際そういうところを干潟に戻す、それをきっちり生態学的に調べていく。これは陸域と海域の研究者は共同でやることも含めて全体像を描いていかなければという気がします。

これはこういうところから意見を出す必要があると思いますし、もう少し色々なレベルでその辺りを全体的にどう変えるか、これはおそらく・・・。環境省の自然環境局向きのシンポジウムがあったですが、既に国立公園化すると。災害と関わった際は復興の国立公園をそういうかたちでというなかで、そういうこと構想されていました。

今北里先生がおっしゃったのは、そういうこと向きで、ここでの色々な意見を出しながら、しかるべき議論をしていくことが大事ではないかと思います。

 

【中田委員】

今までのご意見と似たような話ですが、多分 底質などがかなり変わってきている。河村先生の話はある程度今までの、例えば岩礁域であれば岩礁域がそのまま復活していくというイメージで話されていました。しかし上に色々なものが乗っかり、全然違う生態系が始まった。そこで漁業を始めていくとすれば、新たに、これまでの地形を元にどんな形の基質の配置・藻場の再生なども含めた研究が必要かなと思います。それは如何でしょうか。

 

【河村准教授】

基質が何であるかとなると非常に大きな問題で、例えば岩礁の上に砂が詰まってしまうとアワビにしても海藻にしても着底場を失い、大きく生活そのものが変わってしまうのです。それがどのくらいこの先続くのかはかなり大きな問題です。一部の報道などを見ると、あまり変わっていないといった映像が流れたりもしています。しかし実際には非常に浅いところの岩場にはかなり沢山の砂が積もっていて、かなりの改変があるだろうと思っております。それが放っておけば、多分100年位経てば元に戻るのだと思いますが、我々はそれまで待てないですね。その間にいったいどうやって利用していくのかを、漁師さん任せではなく科学者が先導する形で考えていかなければならないと思います。

 

【婁委員】

河村先生にお聞きしたいのですが、実際に三陸の漁村に行きますと、アワビを特別採鮑したいという意見が結構あるのです。というのは、従来11月15日解禁するアワビですが、いま漁村にとっては換金できる財産はアワビしか残っていないという状況がある。そういった声をたまに聞くのです。その場合は例えばボンベを背負い、大きなアワビを獲るということになろうかと思います。しかしいま先生のお話を聞きますと、かなり弱っていますのでそれで作業すると大変な状況になるのではないかといった危惧が出されています。

お聞きしたいのは、従来のあそこのアワビの取り方は上から鉤で獲るわけですよね。実際岩礁の下に大量にへばり付いているアワビを殆んど獲れていなくて、上から見える部分を獲る。それが資源の持続利用となり非常にシステムとしては良かったと思うのです。しかし実際にいまこれから例えばこうして獲っていけば、仮に採鮑が認められると、先生がお話された通りかなりダメージがあると考えるのでしょうか。

 

【河村准教授】

はい、その通りだと思います。三陸の漁民はおっしゃったように鉤取りという職具で、船の上から箱眼鏡で覗き、鉤で獲っているそうなので、獲るのは非常に難しい。

今、裏の方に入るという話ですが、実はエゾアワビの場合はあまり裏にはいなくて、ほとんど表面に出ているので、それほど裏には入っていないのです。それでも10個居れば3個くらいしか獲れないという漁法なのですね。それが非常にうまく機能してきて、しかもある程度沢山アワビがいるということを、漁師さんたちが守ってきたのですね。いままで。それが守ってこられないような漁協はかなり今でも壊滅的な状況になってきています。

例えば非常に優良な漁場だったところでも最終的に異を押してボンベを背負い、漁をやるとなれば、かなり集中的に分布しているところから獲ることになりますので、今後の再生産には非常に大きな影響があると思います。

ですから科学的には大反対なのです。しかし確かにアワビは1個1000円ですね。漁師さんが獲る値段が1000円なので、千円札が海の中に落ちているという状況の中で、どうしてもお金が欲しいところをどうやって抑制していくのかは、いくらアワビの研究を長年やってきている私が言っても、皆さんは言うことを聞いてくれない。どうしたらいいのか非常に難しい問題だと思っています。

 

【西田委員】

東大大気海洋研究所の西田です。

。一昨日ある会合で情報交換したばかりですが、奄美大島の河川にいるリュウキュウアユの生態と保全の議論をしました。非常に面白いことがありまして、ご記憶でしょうか、昨年の秋に記録に無いほどの大雨が降ったことがありました。確か二時間に1000mm。ものすごい洪水になり、リュウキュウアユが生息している河川も酷いことになっていたので、研究者も皆心配したのです。個体数が減っているリュウキュウアユは、これで壊滅状態になるのではないかと。

ところが今年の稚アユの溯上は、我々がこの20年位観察していた中でいちばん多かったのです。何が起こったのだろう。

まず一つはフラッシュ効果。今まで川底に溜まっていたシルト(泥)を洪水が洗い流したために河川の環境が良くなったのだろうかなどと言って、最初はそんな議論をしていたのです。しかし事はそう単純ではなさそうだということになりました。南の方では冬の海水温が低い方がアユにとっては良いのです。昨年から今年にかけての冬は相当気温が低く、水温も下がった可能性があるのです。どちらが効いたのかちゃんと調べなければ分からないという話を、ちょうど一昨日話していました。

おそらく三陸沿岸の色々な生物に、あちらこちらで壊滅的な打撃が加わっているとは思いますが、一方で何が起こっているか分からないというところもあります。まずはしっかりと調べる必要があると思います。

河村先生の言い方では遷移をしっかり押さえるという、まさにその通りですが、その最初の段階を出来るだけ早く押さえるところからやり始めないといけないかな。単純な河川でも先程言ったような状態ですから、複雑な海の沿岸海域では、力を入れて研究をしなければいけないと思います。

 

【和田委員】

この連休中に北太平洋を取り囲む、日本・アメリカ・カナダ・ロシア・中国・韓国、の6か国の政府間で構成する北太平洋の海洋科学機関、略称をPICESと言いますが、その中間会合がハワイのホノルルでありました。そこで今回の東日本大震災の影響をどう評価していくか。日本だけではなく関係の国が調査・研究にどのように協力していけるのか、あるいは自分たち自身の問題としてもどのように関心を持ってみていくのかという議論をしました。

いちばんの関心事項はどうしても放射能の問題でしたが、その一方で今回のような自然的、あるいは人為的に大規模な災害に対して、海洋研究・生態系研究がどのように取り組むのか。単に回復の過程をモニタリングするだけではなく、人間が色々な技術を動員して、どうやって回復を早めるか、あるいは悪影響をどのように緩和できるかなどについて、新しい海洋に関する研究分野として、取り上げて組織的に進めるべきではないかという意見が出ています。

先程の大竹先生、河村先生のご指摘にもあったように、単に調査をしていくだけではなく、復興・再生に繋げるという形での組織的な研究をやる必要があるのではないかと感じたところです。そこのところに日本が国際的な海洋研究の中で、例の多様性の話も含めて、リードできるところがあるのではないか。

最終的には人間の社会経済的な活動を、しかるべき形で復旧させる、あるいは新しく再生させるということが必要です。海洋について言えば、海洋の空間をどのような形で利用していくのかを、社会経済学的に、制度面も含めて、この際しっかりと考えていく必要があるのではないか。河村先生ご指摘の海洋保護区をどのように効果的に使っていくのかといった議論も、自然科学とは少し違いますが、このような問題を考えるときには非常に重要なテーマになるのかなと思いました。

 

【竹内委員】

海洋大学の竹内です。いまも和田先生が最初にお話になったことと、その前に河村さんがお話になったところにちょっと焦点を当ててお話がしたいのですが。

河村先生からありましたように、海藻群落が基本的に、非常に重要だということで、先程中田委員より基質という話も出ていましたが、まずは海藻群落等の調査と、それをどのように回復させるかということが大変重要ではないかと思います。その中で一つ、場所によっては養殖場でヘドロがあり、それも流れて行ったという話もあります。逆に陸のほうにかなり行ってしまい、それが雨等により流されているとも考えられるのですが、そういうものの調査も必要なのではないかと思いました。

早期に群落等を活性化するには、一部では鉄鋼スラグを撒こうという話も出ています。そんな方向性も含めて有効なのか、さらに海藻群落を再生するためには最低どのくらいの月日が重要なのか、その辺りを教えていただきたいと思います。

 

【河村准教授】

人工的に何か手を加えるというのは必要なことだと思います。しかし自然はかなり複雑で、我々人間が作るものはやはり単純化したものなのですね。鉄鋼スラグで出来るものはかなり限られる。特定の海藻の濃密な群集を作ることになるので、それが果して良く作用するのかどうかをきちんと調べなければいけない。私はいま「それはいいね」と言える状況にはないのです。

かつてミチゲーションで色々な砂浜を作るなど、色々なことをされてきましたが、まともに機能しているところは殆んど無いと思います。それは自然の砂浜ではなく、やはり人間が作った砂浜であって自然の機能を持っていない。

藻場でも自然の藻場はどんな機能を持っていて、どんな藻場であったのかをきちんと考えたうえで、それを人間が作ることが出来るのかどうかを見極めてやらなければいけない。そうしなければプラスどころか余計マイナスになってしまう。そこは慎重に考えていく必要があるのではと思います。ただ時間との問題もありますのでそこをどのように考えるかという問題は難しいのです。

時間的には海藻群落―――見た目に海藻が生えてくるのはおそらく1年が経てば戻ると思いますが、元の姿ではないですね。それが違う形の海藻群落となった時に、それまでそこにいた生物がどうなっていくのか、まだ誰も分からないので、そこからちゃんと見ていかなければならない。それを見るのに多分5年や10年はかかるだろうと思っています。それを人間漁業者は待っていられませんから、それをどのようにコントロールするのかが非常に難しい問題だと思います。

 

【竹内委員】

いわゆる放流事業がございますね。アワビも当然やっていますが。それを続ける、今後も行うということがすごく難しいのではと、私はこれをみてそんな気がしたのですが、そこになにかご意見はありますか。

 

【河村准教授】

はい、その通りだと思います。海を養殖場にしてしまうのであれば種苗生産生息を復活させて撒けば、とりあえず漁業収入は得られると思います。しかしそれは生態系を復活させることには決して繋がらない。むしろマイナスだと思います。いままで沢山いる中に、例えば10割いる中に1割の種苗を放流してきたので、種苗がそれほど大きな影響を及ぼさなかったと思うのですけども。しかし1割に減ってしまったところに同じ数の種苗を投入すれば、必ずマイナスの影響が出ます。それは出来る限り避けたいと思います。

 

【田中主査】

大竹先生、河村先生お二人にお聞きしたいのですが、三陸沿岸全体的なプレートの移動により、高いところでは―――まだきちんと評価されているかどうか分からないですが1m、感覚的には奥のところで60m位は地盤が低下している。そのために低地にはどんどん海水が入り塩性湿地化しているところがある。そんな地盤沈下が水際の沿岸生態系に及ぼす影響などを、今までの知見からどのように現時点で予測できるとお考えになりますか。あるいはそのものが研究対象になり得ると思うのですが。

 

【河村准教授】

具体的に何が起こるのかは分かりませんが、かつても色々な例があり、実際には埋立てをしたところに新たな生態が出来るというのは沢山例があります。

例えば谷津干潟は東京湾にありますが、そこまでは人工的に作った池というか、海水を引き入れるような遊水地に新たな生態系が出来て、そこに鳥が沢山集まってきたという例があります。

今回地盤沈下が起こって塩水が入ってきたところは、全てとは言いませんが埋め立てられたところがかなりあるわけで、そこが元の形に戻っていく。その中でその生態系がどんなふうに変化していくのかというのは、科学としては非常に興味のあるところです。人間としてはそれを上手に利用して、それをまた元に戻すという発想だけではなく、かわってしまったものをどのように利用していくのかを考えるべきなのではないかと思います。

 

【田中主査】

先程和田委員からご指摘のありました、我々が持っているこんな時に役立つ技術をどう活かすかは、例えば鉄鋼スラグをという発想よりはむしろ、元に戻すような再生に我々が持っている技術・知識をどう役立てるかが問われているような気がします。基本的な方向にしても。これはコメントです。

議論時間が残り15分位なのですが、この委員会として、あるいは文科省としてこのような問題を出来るだけ早い時期に、予算も確保して研究をスタートさせるうえで、どんな視点であるいはどんなことを焦点にしてやっていけばいいかということについて、少しご意見を伺えればと思います。

 

【堀内海洋地球課長】

色々な方面から文科省としての視点とのことですが、少しだけ参考のお話をしようと思います。

今回の被災はかなり深刻ですので、その場所でどんな状況かを、基礎的な研究をするだけで文科省の役割が果たせるのかいうと、若干疑問ではないかと思っています。和田委員からのご指摘や皆さんから色々なご意見が出ていることに現れていたかと思います。何か今までの試験、これからやる研究などを使い、出来るだけ早い段階で漁業―――具体的にはあの地域の漁民の方々の支援を行えるようなことをやるのが我々の目指すところではないのかと思っています。

技術的な話をします。文部科学省は研究開発を使命とする役所です。ひとつ注意しなければいけないことは、研究開発をしながら、その行為自体が地元の復興・復旧などと直接、同義であるという形。例えば河村先生が潜水して色々なものを見る。「ここは獲っていいが、ここは獲らない方が良い」ということを科学的に指導する。またその結果を論文にまとめるということが、ひとつの行為で二つできるという考え方ができれば良いのではないか。今回この分野ではそういったことが出来るのではないか。和田委員のこんな新しい分野ができなかという話がありましたが、出来るのではないかと少し期待しています。そんな観点からの議論をしていただけると良いかなと思っています。以上です。

 

【田中主査】

ありがとうございます。ただいまのご意見も含めて忌憚のないご意見を伺いたいと思います。

 

【婁委員】

先程の種苗放流の話ですが、三陸海岸のアワビは基本的に種苗放流により成り立っている漁業だと、私は理解しています。いつも不思議に思ってるのは、北海道のオホーツク沿岸でホタテガイの地撒き式養殖漁業が非常に成功しています。私が不思議に思ったのは、同じ貝なのに、ホタテが出来て何故アワビに出来ないのかなと思っていたのです。先程河村先生の話を聞いて、理解できたような気がしますが、それでもあの中で地撒き式的な支援・鉤型漁業といったものが出来ないのかなと思い、是非どなたか研究して頂きたいと思っています。

今の河村先生の話では、地元の貝が必ずしも親子関係ではなく、他所からやってくるということになると、やはり地域に限定した獲り方などの管理をしっかりしても、効果は限定されるので、かなり広域的な取組も必要なのかなと思っています。

もし河村先生に検案があるのならばお聞かせいただきたいと思います。

 

【河村准教授】

今ご指摘のことはまさに私が20年かけて研究してきた問題です。

最初のお話は多分誤解があるかと思いますが、アワビの漁業は種苗放流によっては成り立っていません。種苗放流で維持されているのはごく底上げ部分だけ。基本的な漁獲量は天然資源で保たれており、ホタテのように、種苗放流がダイレクトに資源量の上乗せになっていないというのが長年の我々の疑問であったわけです。

それが最近ようやく何故かが分かってきたのが、例えば先程の親子関係が成り立っていないとか、密集した親子貝分布が必要であるなどでした。例えば撒いた分は、生き残った1割2割は獲れる。それが再生産に結びついて新たな個体を産むということにはなっていなかった。

ですから撒き方を変え、資源管理の仕方を変えなければいけないという認識が最近ようやくできてきた。まさに今その普及活動を漁業者にやっていたところだったのです。東北ではそれが比較的うまくいきかけていたと理解しています。しかしこんな事態になってしまったという状況です。これを種苗放流でまた復活させようと考えるのは間違いで、出来ないということは30年間の歴史が証明しているのです。

 

【竹山委員】

全体的にお伺いしたいことがあります。復興などの話になった時に、この地域は現在、災害の前には漁業が栄えており漁民の方々はそこから生活の基盤を作ってきたということがある。これから復興というときに、ただアカデミアの人達が復興に現状をどう捉えて、将来にどうするかという話になった時、目的が変わってくると思います。

先程の話にもあったように、もう漁業は出来ないような状況であればこうやるという話もちょっとあった。目的をどこに置くかによって、現状がどうなっているかというサーベイはいいですが、手法論にすげかわるような気がして、漁業を復興するためにどうするかという話の上でも研究開発と、最後の落とし口のところは結果により不明瞭なところはあると思いますが、決める。そうするとどういったファクターを見て行かなくてはいけないか、少し違うような気がします。私はそういったことにプロフェッショナルではないので、かえって第三者から見るとそんなイメージがあります。

政府的にはいつも漁業の場を早く復興しようとなると、当然先程おっしゃったようにアワビの稚貝を撒けばいいという話になる。しかし実際アカデミアで長い研究の中から、それでは復興しないという話になる。復興のレベルも色々な段階があるでしょう、ターンテーブルも変わってくるでしょう。もしかしたら最後にそこの局所的な絵を描いたときに、ちょっと違ってくるのかなという気がしています。正直に言って。

アカデミアともちろん経済活動というものと色々な地域というものが、一方的に考えなければいけないのでしょう。しかし、例えば委員会として具申するときにプログラムのようなものを作って明確な目的をある程度決めなければいけないときに、漁業を復興させるための何々というのと少しずつズレが出てくるのですね。その辺り皆さんはどうお考えになっているのかという気持ちなのです。

 

【和田委員】

今の竹山先生のご指摘は言葉を変えると価値判断の問題だと思うのです。このようなことをやるときに、いわゆる研究開発の面からだけの価値判断でいいのかという話は当然あるわけです。そこは非常に難しいのですが、やはり前提となるところはある程度整理しておかなければ、色々な局面で議論がかみ合わない。同時にこのような話の時に、価値判断をどうするのかということそれ自体が、これからの検討の対象であり、研究開発の対象に十分になると私は思う。

このことは、今回のような非常に大きな破壊的な現象に対して必要になってくると思っています。そこも含めて我々はどんな物の考え方をすればいいのか、価値判断に向けてどんなアプローチをすればいいのか。当然、価値判断を誰がするのか、どんな枠組みで行うのかも含めて、それら自身がこれからの研究開発にとって非常に重要な目的であり役割になるのではないかと思います。

昨年メキシコ湾で大規模な原油流出事故がありましたが、以前にアラスカで起こったエクソン・バルディーズ号の原油流出事故などと比べると、世の中の取扱いが変わってきている。メキシコ湾と比べてアラスカの方が、社会構造や経済構造が単純ですから、先ずは漁業者に対する補償が必要だ。それから出来るだけ流れた原油を回収して、自然環境を元に戻す。それをアラスカ大学などを中心に研究機関がしっかりモニタリングしていく。そこにエクソンからお金が出る、という図式が出来ていました。

しかし、今度のメキシコ湾の場合はそれに比べて影響のスケールが大きい。漁業だけでなく、色々な形で海を使っている人たちがいる。したがって、元に戻すというよりは、原油流出事故が起こったことを前提にして、これから新しい―――漁業も含めた産業活動に、生態系や、場合によっては人間の健康問題への対応も含めて、どのように取り組んでいくのかということが問題になる。この様に、以前と比べると、随分、物事に対する考え方や、それに対する科学的な取組方が変わってきているように思います。

今回の大震災の発生により、まさに我々はそこに直面しているので、それらの議論が必要なのではないかと思います。

 

【田中主査】

ある面では「研究開発とは何ぞや」もう少し範囲を広げて学問とは、科学とは、技術とは何かという非常に根源的なことに関わる問題ですね。それをこれだけの大きな出来事に対して、はたして今までのやり方で本当にいいのかどうかが問われているという、非常に理念的な―――どう我々が色々なことを新しく変えていくかを問われている。しかしそれ自体は非常に重要なことだが、そこの中の議論でいってしまうと、早く現実を捉えないと歴史の証言を残せないという緊急の課題もある。理念的な議論もきちんと進めながら、並行して具体的にいま問われている、ある面では実学としての海洋生物学が問われているような気がするのです。基礎的でありながらそれが現実の問題にも貢献し得る。その面では両方議論しながら、やはり早く立ち上げて動かしながら、理念的な問題も深めていくことにならなければ、総論だけで何も前に進まないことになります。

その辺りも皆さんのアイデアを頂きながらまとめていきたいと思います。

 

【瀧澤委員】

科学ジャーナリストの瀧澤と申します。

皆さんのお話を伺っていても殆んど議論が尽くされている感じがして、和田先生のご指摘もごもっともと感じております。

現実に漁業の方々と科学的な提言というものが、相反するということが表面上、短期的にはそういうことが充分あり得るということだと思います。非常にこれは国として、他省庁とも十分に連携して被災地の復興をどうするのか、漁業者の方々もどうするのかということの中で、科学セクションとして何か出来ることという視点で、実際にどのように展開していくのか、将来的なプランも含め考えなければいけないと思います。短期的には例えば大槌町などピンポイントで漁業者との連携も考えられると思うのですが。もっと長期的な大規模展開をどんなふうに図っていけばいいのか、実際にどんなふうにされているのか、少しいくつかのフェーズで考える必要があるのかなと理解しています。

もうひとつ、科学者の先生方のお考えが中々社会に正確に反映できないので、今回の原発などは情報公開の問題もありましたが、社会と科学との関係が悪い循環に行ってしまう。そんなことがないように是非、開かれた議論が必要と感じます。―――漁業者の方と私たちは共にあるという姿勢は、先生方のお話を伺っていて十分感じておりますので、そういった考えが理解される機会や方法があればいいと思います。

 

【笹生委員】

日本水産の笹生です。

今の三陸は比較的漁業組合が組織化されて、活動的にはきちんと組織だった活動をされていると思うのです。日本の沿岸の漁業は、私の理解では非常に混沌とした状況にある。資源保護を含めて。そんな中で、世界の先進国は基本的には科学者のデータをベースとした政策が、其々のエリアで実行されている。それに漁業者は基本的に信頼を置いて経済活動を進めていくという流れになっていると思うのです。

この機会に日本も是非、科学者のデータなり考え方なりがベースとなって、其々の保護区が作られる、禁漁期間が設けられるなどの制度を、是非そういう方向に行く機会にしていけば、漁業者の方にも将来的には必ずメリットとして返ってくる。是非この機会にそういう方向へ持って行くタイミング―――不幸を幸いにする方向へ持って行っていただきたいと思います。

 

【和田委員】

私がもっとストレートにご説明すればよかったと思います。こういうことの出口は、人間や人間社会をどうするか、人間社会にとってどうなのかということだと思うのです。だからこそ実際的な価値判断が必要になってくるし、実学としての海洋生物学が今求められている。そういう意味ではアレコレ議論をしていれば良いというはなしでは当然ありませんで。やはりやれることからきちんとやる。その結果に基づいて判断・議論しながら次のステップに進んでいく。それが必要だと思っています。

ただ、もう一度強調しておきたいのは、やはり最終的な出口は、この様な災害が人間や人間社会にとってどういう意味を持つのか。それを今度はどうやって新しいものに作り直していくのかということです。そしてその際には、漁業も含めて、今の日本の現状を踏まえた形での新しい枠組み作りの話が当然必要になってくるでしょう。こうした議論を含めて迅速な対応が求められているのではと思います。

 

【田中主査】

予定より若干過ぎていますが私が主査を務めるのでなければ、本当はこういうプレゼンテーションをしたという気持ちはあります。

それは実は4月上旬に最初の特定のピンポイントから止まっていることを動かさないと。トップダウン的な全体が止まっていては絶対にタイミングを逃すと言った。もう退職をしてフリーの身ですから動きやすいというのもあり、もう既に4回調査に入っています。

これは気仙沼の唐桑という小さな湾ですが、そこは52軒のうち46軒は流されました。しかしそこではもう一度海で生きていこう、海に恨みはない、こんなところです。ところが他の漁村で身内を亡くし全ての漁船を失くしたところでは、もう漁村そのものが壊滅状態になっている。そんな深刻な事態から出発しなければ。同時に研究者としての、これまでの研究の蓄積の上で何が出来るかという出発点は。それと研究と実際の沿岸漁業復活ということであれば、やはり現実から出発するというのは考えなければいけないですね。

それで4回魚探調査、瓦礫がどこにあるか、海底の様子はどうかなどを調べていきますと必ず「相当これはダメージを受けたな」というところと、生き物は我々が考えているより強かです。しなやかに大きな影響をクリアしている。海藻群落は生えており、ホヤもちゃんと群落を形成して居座っている。そういう知見もあるわけです。

それらを含めて本当にどれだけ海藻群落が影響を受けたのか分からないわけですから、やはり早く手を付けなければ。それは文科省として決定が下されるのを待っていてはタイミングが遅いと思う。具体的にできるところから動かしながら、それを予算として確保できるところに集約していくという方向で持って行かなければいけない。それはもう漁村の、漁業者の価値―――それは正しいこともあれば、間違ったこともあるけれど、そういう人たちと一緒に進めていかなければそれはできないという気がします。

これは私の個人的な意見ですので、皆さん其々にこういうことをやりたい思いが沢山おありだとは思います。限られた時間の中では言い尽くせないと思いますので、是非ご意見を寄せていただいて、それを集約しながら整理をしていきたいと思います。

やはりこれは特に沿岸海洋生態系の場合は、一体の中で考えなければいけないということです。生物多様性の捉え方も然りだと思います。三陸では色んなモデル的なフィールドがあって、ここは極めて事が起こる前の生態的な知見が相当しっかり蓄積されているところが沢山あるわけです。そういう意味では、ここをひとつの色々なモデル的な性質の異なったモデルを立ち上げて、それを比較しながら進めることができます。それも含めて早く動かしていくということをもう一つの視点にしながら、これから少し具体的な課題から進めていければと思います。

 

【田中主査】

それでは議題2に移りたいと思います。

議題は海洋生物に関する研究の重点課題。これはもちろん今の議題とも関わりがあるのですが、従来から検討していました。この件について事務局から最初に説明をお願いします。

 

【鈴木海洋地球課長補佐】

資料4と資料5を用いて説明させていただきます。資料4については前回の委員会でも配布したものになります。このような1・2・3・4・5という形で最終的な報告書をまとめてはどうかと思っているものです。その中の3.重点化すべき研究開発課題について本日は、これまでの議論を踏まえて案を作りました。それが資料5になります。

資料5が重点化すべき研究開発課題について(案)となっていますが、(1)として海洋生態系に関する知見の充実、(2)が生理機能の解明と革新的な養殖技術、(3)が新たな有用資源としての活用、(4)が観測、モニタリング技術の開発、(5)が東日本大震災を受けた対応、と5つに分けて記載しています。

まず(1)の海洋生態系に関する知見の充実ですが、最初の6つのポツと後の3つのポツ、大きく2つに分けて記載しています。最初の6つのポツが主に食料資源について記載しているものです。食料資源として重要な生物については、水産庁を中心にこれまでも数多くの研究が進められてきましたが、3ポツ目にありますように文部科学省に於いても生産の場としての海洋環境変動との関わりの下に、海洋生態系の構造と機能及びその変動の様子を総合的に理解するための研究を進めることが重要であるといったご意見があったかと思います。

その下はニシンの例を記載していますが、6ポツ目にありますように、水産資源として主要な海洋生物についてもその生態が分かっていないところはあり、まずは海洋生態系解明の基盤を築く好適なモデルケースを選定して、複数の種が関わり合う海域生態系の理解につながる研究がなされることが期待されると記載しているように、そういった形で、ひとつの種を限定して研究するのではなく、生態系というものを総合的に理解するような研究を、文部科学省では進めていくべきではないかというご意見を頂いていたと思います。

食料資源以外については下の方ですが、海洋生物から人類が受ける恩恵は、水産資源に限らず、海洋レジャーや水質浄化、光合成や栄養塩の循環などの生態系サービスも多岐にわたるものであると思っています。海洋生物多様性を維持しつつ、海洋の総合的な利用を進めることが重要になります。そのために海洋生物多様性保全戦略というものが環境省では作られていますが、科学的な知見がまだ足りないというご意見がありました。そのため文部科学省に於いては、例えば、これまで情報が少なかった深い海や海底の生物のデータを蓄積する、生態系モデルを構築する、海洋酸性化や海水温上昇による影響を評価する、陸域と海域の相互作用を解明するなどの基礎的な科学的知見を充実させることが重要ではないかというご意見を頂いたと思います。

捲りまして(2)です。(2)は、生理機能の解明と革新的な養殖技術になっています。養殖技術の解明としてはこれまでも水産庁の試験研究機関や近畿大学等が色々、クロマグロ養殖の技術開発やニホンウナギの生理機能の解明等を進めてきていますが革新的な手法の導入も必要なのではないかと思っています。例えば東京海洋大学ではヤマメからニジマスを産ませることができる技術開発に成功していまして、そのような派生生物学的な視点を元に新たな技術を開発し、それを養殖生産に直接役立つ技術へと応用していくということも重要ではないかと思います。文部科学省においては、海洋生物の生理機能の解明や生命工学分野等との融合による革新的な生産技術の研究を実施することが必要ではないかという提言を頂いたかと思います。

(3)が、新たな有用資源としての活用になります。海洋生物資源につきましては主に食料資源として利用されてきていますが近年では、医薬品やバイオテクノロジーなどの材料としても注目されているかと思っています。その下についてはいくつかの例示が記載されていますが、4ポツ目の藻類等が高い脂質蓄積機能や多様な炭化水素系燃料の生産能力を有することが明らかにされてきており、次世代のバイオ燃料生産系として、海洋藻類の研究開発が進められているというものについては、JSTの戦略事業で昨年度より進めている事業になります。

文部科学省においては、海洋生物の機能の利用に関する多様な技術の創出を最終的な目的として、基礎的な研究開発を着実に進めることが重要ではないかというご意見を頂いたかと思います。

(4)観測、モニタリング技術の開発ですが、海洋生物の分布や密度についてはその変動を長期的かつ体系的に観測することが必要であるかと思います。ただ船舶を使ってこれまでも研究が進んできたかと思いますが、海洋生物の移動範囲が広いことや、深い海を観測する場合には高度な技術が必要になると思います。そのため工学やライフサイエンスを専門とする研究者と海洋生物学の研究者が、協同で研究を実施して、より先進的な技術を開発していくことも需要ではないかというご意見を頂いていたかと思います。

これについては先日プレス発表がありました。23年度の戦略目標について海洋生物の多様性と観測モニタリング技術の開発ということで、戦略目標として今年度から実施する方向になっています。

最後が本日議論していただきました、東日本大震災を受けた対応です。本日の議論を受けてまた書き直したいと思いますが、これまでの議論を踏まえて記載したものがこれになります。大学等に蓄積された知見を有効に活用し、関連研究者が研究を進めることが重要であることと、最後のポツにありますように、海洋生態系及び海洋環境のかく乱の実態把握と経時的に修復していく機構の解明は、学術的にも非常に重要な課題であると考えていまして、この研究結果を世界に発信していくということも需要なことではないかと記載しています。

資料の説明については以上ですが、この重点化すべき課題についても、案として出しているものです。ご意見を踏まえ書き換えたいと思いますので、ここは重点化すべきだと思うことも含め、沢山ご意見を頂ければと思います。

以上です。

 

【田中主査】

はい、ありがとうございます。それではただいまのご説明の資料がありますので、それを踏まえてご意見を頂きたいと思います。

これは6月位をめどに海洋生物関係の研究がどれだけ重要か、極めて今日的重要性を報告書としてまとめる中に含める、かなり重要な部分になります。この段階ではまだたたき台ということで、いろいろご意見を頂ければと思います。

 

【和田委員】

これまでの議論を踏まえての提言だと思いますが、いま拝見して気が付いたところをいくつかコメントさせていただきます。

まず(1)の海洋生態系に関する知見の充実についてです。今のご説明でここはある程度水産業などの産業的な意味合いも考えて、実際の漁業資源を対象にというお話でした。そうであれば、ここにニシンが出ていますが、確かにニシンは非常に面白い対象ですが、日本の国全体の環境的な位置づけは、基本的には温帯であり、九州の南から沖縄にかけては亜熱帯の水域になります。したがって、ここはニシンに限定するよりはイワシ類や、北の方で言えばスケトウダラなども含めた浮魚類ですね。小型浮魚類に包括した方が、産業的な意味でも、それが環境との関係でどのように個体群変動を繰り返していくのかの解明という意味でもより広範な、基本的な研究開発が出来ると思います。また世界と比較研究をしていく、あるいは世界でのこういった研究開発に貢献していくという意味では、むしろ日本として強みがより発揮できるような場所、対象を選んだ方が良いのではと思っています。そういう意味でもニシンに限定するのではなく、小型浮魚類とした方が研究の蓄積もありますし、より発展が期待できるのかなと思います。

もうひとつ、ここで藻場、沿岸、陸域との関係が議論されています。これはこれで大事なのですが、最近は地球温暖化と言っていいのかどうか分かりませんが、例えば50年・60年前と比べたときに、日本周辺での小型浮魚類等の分布・回遊が随分変わってきています。

ここには直接書いてはありませんが、やはり地球規模での環境変動との関わり、これも当然きちんと見ていくべきではないかなと思っています。

4番の観測、モニタリング技術の開発のところで、これは(3)と一部絡む部分があるかなと思います。新しい技術としてはDNAバーコーディングがでているのですが、メタゲノミクス的なアプローチなど、環境モニタリング手法の高度化などの意味合いも入れていただいてもいいのかなと思います。私はそちらの専門ではないので、是非竹山先生からコメントを頂戴して、そこらあたりをもう少し書き込んでも良いのではないかと思っています。

(3)の中で3番目の点で、重金属耐性、高温耐性、化学物質の解毒などの機能ということで、ここではむしろ酵素の開発等があるのですが、そういった物質を集中的に溜め込むのであれば、環境中からの有害な物質の除去などにも、こういった生物が有効に活用できる。その辺の書き込みもあると、東日本大震災との絡みでも少しつながりが出てくるのかなと思います。

 

【田中主査】

ありがとうございました。その他いかがでしょうか。

 

【西田委員】

この(5)は新しく委員会で議論してきた中で伺ったことだと思います。我々も色々考えていると―――何年に1回などといった説もありますが、こんなことが起こるということ。いずれにしても人類が殆んど経験していないようなことが起こったのだと思われます。おそらく欧米の研究者は、何とか自分たちも研究に貢献したいと思っている。どんどんコンタクトがきます。何が起こったかの解明と記録は我々が思っている以上に大きな課題ではないのかなと思います。

最後に“歴史の証言”という言葉でそれを窺うことはできます。しかし大きなことが起こって、日本の科学技術のソサエティとしては、研究も含めて対応していかなければいけないという含みをもっと前面に出した方かいいのではと思います。

おそらく国際的にも、この5年10年の日本の初期の取り組みが試されると思います。そういう意味で文部科学省としての姿勢を示すとすれば、そこは明確に打ち出した方が良いのではと思います。

 

【竹山委員】

これは海洋の有効利用が中心になると思いますが、その中に海洋保全という部分が大きいと思います。特に震災を受けた後どのように復興していくかと言ったこともあるのですが、大きなミクスチャーが起こった時に色々な病原性ウイルスが出てきたりとか、色々なことが実は起こっている。そこで私たちが直に接している関係から、どういう病気がそこから発生するか―――今、温暖化の話も出てきている。多少そのような利用するだけではなく、確かその海というものに対しては、海を知る・見る・利用する、色々なキーワードがあった中に「保全する」そのための中身を見ていくということがあったと思う。人間との健康環境の中でそういうキーワードも見て頂きたいので、何処に入れたらいいのかなということがあります。しかしそんなエッセンスを入れていただければと思います。

確かに資源というところでは大方の食糧というものが中心になるのですが、その食料を健全に採るためには養殖も含めて、色々な病原性のものは増えないというコンテクトする。現状はどうなっているか、どう制しているかはとても重要なので、そういった微生物的なことモニタリング的なこと、それらも含めていただけたらと思います。

 

【田中主査】

現状はそういうことだけを研究されている研究者がいらっしゃいますか。

 

【竹山委員】

この人というか割と複合的に、ひとつは感染研の先生方が病院に●●●●(不明)。それは生態の方に●●●●(不明)結構知っていらっしゃる。ただ彼らはモニタリングするための技術を持っているかと言えば、必ずしもそうではない。環境省の方にそういうことを言っても●●●●(不明)。バラバラなので、うまくネットワークを繋げると―――皆、個々に色々な興味をもっているのですね。ネットワークを繋げるようなブリッジの問題が少ない。皆その分野によって固まってしまっている。それをうまく相互リンクすれば、とても良いことになるのではないかと思います。

 

【田中主査】

具体例としては病原性微生物に関わるのですが、これはコウガイヨウ、その他の分野も含めて分散的なことを集約的に、統合的に研究できる、その核になるような組織づくり。

 

【和田委員】

今の点で、少し補足させていただきます。例えば有害赤潮などが発生したときには、それに先立ち、海域の微生物層が変化します。しかし、ウィルスやファージなども含めて、普通には培養が出来ないものが多いのでチェックできない。

それをここでDNAバーコーディングと言われているように、環境中のDNAのシーケンスを網羅的に見てどのように変化しているかを監視していくことで予測が出来き、変なものが他所から入ってきたときのチェックもできる。例えば、貝毒のモニタリングのような、人間の健康に関わる変化もチェックできるわけです。

そういったものにどんどん使っていこうではないか。もちろんそのためには非常に莫大な情報が出て来るので、その処理の仕方についての開発をセットにしなければならない。これは学問としても面白い。それがうまくいけば―――例えば今、ゲノムの利用は、創薬の面で非常に大きなマーケットが出来ていますが、環境情報や環境管理の分野でも産業的な展開がこれから期待できるのではないかと言われています。

こうしたことについて、経産省などが関心をお持ちで、産総研などでも取り組もうとされていると聞いています。文科省の関係では国立遺伝研でもそういった取り組みを始めておられると聞いています。実は我々も農水省の予算で海洋のメタゲノムに関するプロジェクトを今年度から始めたところです。これをもっと戦略的にやれば、今ならまだ世界に伍して、それこそトップが取れると思います。

 

【竹山委員】

この議論は随分昔にやったような感じがします。

ゲノムの情報だけではなく全てにおいてここで出てくるような全ての情報が一つの有機的な情報バンク、データバンクがあり、そこにアクセスすればゲノムの情報だけでなく、気候変動、科学的データ、視的データなど色々なものが、地球のマップがあり、そこにクリックして見るような、ひとつの日本全国の中のグーグルマップのようなものができるということが非常に重要かな。すると日本の力を見せられるし、インターナショナルな情報交換がしやすいという気がしています。

セグ情報をやっているバイオインフォの人達、データベースを作る人達、そういう人達とうまくコラボレーションする。彼ら自身は、技術は持っているのです。コンテンツがないというだけで。コンテンツを「これをこうしたい」と言えば、やる気満々で取り組む。是非何か、DNAだけではなく全てをやる。それが個々のグループでやると全然違うものばかりできてしまって、結局最後は使えない。大きなところで省庁間をまたぎながらやるというのが良いかなと思う。多分そういうことをどこかで言っていると思うのですが、もう少し考えていただきたいと思います。

 

【田中主査】

さらに言うと、そういう情報を置けるプラットホームをどうやって開発するか、それも非常に大きく面白い重要な話ですね。それをここに書くのかどうかは別にして。

 

【北里委員】

GIS、Geographic Information System という基盤的なプラットホームは陸域では非常に発達しているのです。海域を作りかけてはいるけれどもちゃんと出来ていない。海も陸も関係なくGISのようなものを作り、そこに色々な情報を全部重ね合わせていくというのも一つのやり方かなという気がしますね。それを作らなければ―――日本では非常に遅れていると思うのですが、欧米では海からの色々な資源なども含めて評価するときに極めて有用であると、10年以上前からやっているものです。それを是非書いてきただきたいという気がしますね。

もうひとつ、メタゲノミクスですが、側面としてメタボロミクスがある。それがセットになる。メタゲノミクスというのは色々なものがあるという方向の話で、それを繋ぎ合わせていくのは同位体を含めたメタボロミクスをやると相関関係というものが出てくる。それを両方書いておいた方が良いかなという気がします。

もう一点は(5)の東日本大震災というのは先ほどの話と繋がっている。

実は陸と海洋、陸域というのは、我々は単純に二つに分けしまいますが、両方が非常に関連しています。そして境目は、本当はよく分からないことがある。どういう定義で我々は語っているのかはっきりしなければ、非常に曖昧になる気がします。

特に海の色々なものを海から欲している。海を保全するために陸はどんな役割をしているのか、というのを見ておかなければ。例えば今復興会議などで主に陸域の色々なものを直す仕事をやっていくと、結局元に戻る。要するにコンクリートで固めてしまい物質の浄化に悪いシステムを基本的には作ってしまう。それは、人間は陸に住んでいて海からの色々な災害をどうすれば防ぐことが出来るかと考えると、陸と海の間に色々なものをコンクリートで構築することにより防ぐ方向に働いてしまう。そういう視点で動いているところで、海から見ている人たちは「そうではないよ」と本当は言いたいはずなのです。それを早いタイミングで言っておかなければ陸側オンリーで全部が規定されてしまう気がする。対応としてはそういった一種の自然観も含めたところを、きちんと書き込んで発言をするべきだと思います。

 

【西田委員】

西田です。

ひとつは北里委員が言われたメタボロミクスをサポートしたいと思います。私も同じように思っています。この辺りの研究技術・手法がまだまだ飛躍的に変化・発展しているので、それを海洋の分野に導入するということが大事な課題になってくると思います。(4)の3つ目の、「より先進的な技術を開発していく必要がある」と書いてあるのでこれの中に入るのだろうと思いますが、どこかに例えばこういうものというふうに書くと分かり易いと思います。

元々はヒトなどのデータが充実しているところで考えられたものですが、最近では海洋生物も水産庁の方ではクロマグロのゲノムを決めていると聞いています。沖縄のOISTでも海洋生物のゲノムを順次決めています。まさにそんな時代になっていますので、基本となる情報が充実してきている。したがってメタボロミクスなどが非常にやりやすくなってきている。それを活用しない手はない。そうしなければ国際的にも恥ずかしいことになりますので、それを是非視野に入れていく必要があります。海洋生物の環境への対応などに関わる情報がすぐに得られると思うのです。それは是非今後の重要な課題としてやっていければいいと思います。

もう一点は、先程(5)のことを申し上げましたが、ここをきめ細かく記述する上での論点です。先程の議論で竹山委員が、漁業の復興も単純にはいかないのではないかと指摘されたと思います。場所によっても違います。実際にこの震災が無くても、漁民の年齢構成などを考えると、どんどん変わってきつつある時期でした。その中で新たな漁村がどうあるべきか等々をきめ細かく研究をし、そこから政策的な提案もする。そんな中で実現されていかなければ、単に復旧・復興と言うだけでは済まないのではないかと思います。この委員会に関わるところで、何処までその社会・文化に関われるかという問題はありますが、ある程度は踏み込んで、少なくともその情報を頭に置きながら調査研究をする、開発をするということが大事かなと思います。(5)のところに、「漁場を回復させる」とサラリと書いてありますが、もう少しその辺りの事に視野を広げてあることが見えるようになればいいのかなと思います。

以上です。

 

【婁委員】

(5)に関連することです。今回海洋生物研究の守備範囲に関わる問題かもしれません。実際に現場に行って調べますと、今回早い復興や漁業の再生、あるいは漁場の回復といった問題に関して非常に左右するのが、やはり人間側の問題が大きいかなという。このファクターは非常に大きいと思いました。普通フォーマルな制度や政策などがありますが、非常に私が強く感じたのは、いわゆるインフォーマルセクターとしての地域の組織。漁業の場合は特に漁協の組織のありかたなどの社会関係資本と言われる部分の役割は、非常に大きい。多分私はその点がこれから歴史の証言や世界に対して、日本という社会あるいはそのいろいろな分野の復興という点に対して果たしてきた役割、特殊性、特徴などがあると感じております。その意味でもしこの守備範囲に入るのであれば、そういった部分も是非書き込んでいただきたい。

 

【田中主査】

今の婁先生のご指摘は先ほどの西田先生のコメントともおそらく関わりがあるのだろうと思います。海洋生物学が今問われている問題に答えていこうとすれば、漁村の復興や、そこを核にした地域の復興ということの関わりでいけば、まさに、今までの範疇でいけば社会的な、そういう範疇になるのですが、もうそういう壁はなしにして、何らかのそれも含めたトータルな取組をしなければならないと思います。海洋生物学のこれからの方向の中にも、それは当然含めるべきだろうと思います。

いかがでしょうか。

 

【堀内海洋地球課長】

事務局として一個、委員会に諮問したいと思ったのでお聞きしたいと思います。

この報告書の構成として今(1)から(5)まで並んでいますが、本来は(1)から(4)までが本委員会でご見識を頂くという方針で考えていました。しかし時期が時期ということで、(5)を追加しています。今の構成を簡単に言いますと「重要なものを4つありますね。(5)でも考えなければいけませんね。」という構成にしてあります。本委員会の考え方として(5)を強調する―――要するに今やるべきことは(5)なのだ。と併せて(1)から(4)までの重要事項があります。という構成するという考え方もあるかとは思うのです。

その点につきまして(5)を強調するような形で報告書、最終的な、今の時点でということになりますが結論をまとめるか、それとも従来のやり方で考えていくべきなのか、ご意見を頂きたいと思います。

 

【田中主査】

いかがでしょうか。

極めて現実的には非常に大事な問題になりますので、ご意見を賜りたいと思いますが。

 

【竹山委員】

質問です。基本的なことを理解していないのかもしれない。重点化すべき研究課題のことですね。タイムスパンはどういう位置づけでしょう。非常に目の前ですぐというのと、5年10年で成果を求めるのと、色々あると思うのですね。これは多分50年ベースの話は、今日は出ていないと思うのですが、そこの話によって5番の扱い方が違うと思う。

多分(1)から読むというのは(5)とは緊急性が違う話ですね。この数年以内に解決しなければならないことと、数年以内にそのための基礎的な情報を取るということと、中長期的に日本の海というものの開発や保全を考えるための一つの道をつけるためのプログラム的なこととはまた違うと思います。そうすると、「これがいちばん今」という言い方ではないのだと思うのです。この重点化というところに関しての考え方を教えていただけますか。

 

【堀内海洋地球課長】

それを聞きたかったというところでありますが、今先生のおっしゃることがいちばん素直といいますか、自分もこの委員会の構成を考えるときの構成の理由というのは、いま先生のおっしゃられた通りの考え方で作って議論いただいていたのです。そこを曲げてというのはおかしいですが、本来きっちり構成すべきところから違う要素が入った時に、整理型は悪いかもしれませんが、そこを強調するという場合があるのかなということであります。

例えば今回の対応にしても色々なことをやるということで、すぐにやらなければいけないこと、少し先を見なければいけないこと、非常に長期的に考えなければいけないこと、というふうに同じ構成で出てくるのかなと思うのです。そういった意味で(1)から(4)までの基本的な考え方の部分をこの報告書からなくすということはありません。これがエースではありますが、(5)のものについて(1)から(4)までの中に含めてしまうとか、併せてという感じの整理にするか、もしくはもう少し今般の議論の中で―――色々重要なことはあるのだけれど、特にそこに関係するものについては、今のこの時期配慮すべきではないかというメッセージをこの委員会として出したということをお聞きしたいと思った次第です。

先程申し上げればよかったのですが、もう一回だけちょっと悩んでいることがございまして、放射線の問題であります。今まで放射線の問題はこの委員会では取り上げられていない。またどちらかと言えば政府の中も放射線と、放射線を使わない部分とを分けて色々な物事が動いてきています。この委員会として放射線の関係の調査・対応なども考えるべきかどうかということについて、ほんの少しご意見をいただければいいかなと思っております。

 

【田中主査】

まず報告書の問題、素材について、もし、この際コメントしておきたいということがあればお聞きしたいと思います。

 

【西田委員】

この報告書をどんなふうに使うのか、どんなことを目指すのかということもあるのでしょうが、出せば2011年にこの委員会がどういうことが大事かと議論したかということがオープンになるわけですね。そう考えると、これまで議論してきたことは大事にした方が良いのではないかと思います。これはまた何年か後に次の議論のベースにきっとなると思いますので、そういう意味では(1)から(4)はしっかりとこのように議論を定着させた。ただ(5)は別のものではなく、やはり(1)から(4)の、強い弱いはあるにしても、具体化、これを使って(5)に取り組むということにした、という流れになりそうな気がするのですね。

先程の河村先生のお話にもありましたが、沿岸のあるところに絞っても生態系という視点を入れないと手も足も出ない、そうしなければいけないという話だったと思います。(1)から(4)をベースにして、それを問題として急遽出てきた(5)に投入するのだという形の書き振りが良いような気が、私はいたします。すなわち(5)の重さは大だけれど、(1)から(4)を決して後ろに後退させるのではないという書き方が良いのではないかと思います。特に(4)などは先程議論していたようなこと、ROVなどは非常にすぐ役に立つと思うのです。こういうものをすぐに使いながら、新たな技術を開発していくという形が良いのではと思います。

 

【竹山委員】

突然、研究課題としていきなり(1)から始まりますよね。当然最後に書く時には頭出しの文章から入っていくと思うのです。頭出しのところに災害の事をしっかり書いておいて、災害のための復興も含め現状を維持し、将来展望を考えるときには色々な技術がコンポーネントとして絶対にそのために必要で、それが全部この(1)から(4)の中にある意味入ってくると思うのです。

今放射線の事をおっしゃったのですが、放射線を測ること、放射性物質を測るということになる。農水の方では多分セシウムやなどの測定をはじめてらっしゃると思うのです。化学物質として捉えるならば、環境も様々な保全の問題の時に化学物質は結構大きな枠で出てくるのです。その中の一つとして入れていき、放射性物質なども含む様々な環境を●●●●(不明)する物質としての化学物質の測定ということになれば、それはそこに包含するわけですよね。逆にそういうことがこの中のモニタリングのところに入っていないから、そういうものを入れていく。ある程度●●●●(不明)を睨みながら其々のセクションの中に入れていけば、全てが入った形になるような気がします。(5)は非常に難しいと思うのですね。(5)だけで独立させるのは。それがイントロのところに入っていれば、明確になる、ある程度分かるのではないかという気がします。

 

【田中主査】

報告書全体の構成をどうするかということで、基本的なそういう問題は、竹山先生はイントロダクションの中に挿入してしっかり記述をする。そして場合によっては緊急の課題としてこういうものがあるという例示をする形で(5)は取り扱うというようなこと。西田先生がおっしゃったように議論を大事にしながら、やはり緊急に対応しなければタイミングを失くしてしまったらあとで後悔するものもあるわけですから、そういうことについては(5)として、こういう課題は緊急に対応すべきだというのは急に浮上したという位置づけでまとめられては如何でしょうか。

 

【田中主査】

放射線、放射性物質の問題は非常に微妙な問題ですし、現状でこうすればいいというものは中々。これからどう事態が進んでいくかと言えばモニタリング中ですので、その中でやはり生き物から生き物、環境から生き物という繋がりのことをきちんと対応できるようなしっかりした生態系の基礎的な情報を、ここでは重視しながら、現実的にそういう問題に直面したときにきちんと対応できる基礎を作るというのが基本。そんな位置づけで今の段階ではやむを得ないのではないかという気がするのです。いかがでしょうか。

 

【西田委員】

西田です。その扱いは竹山先生が言われたものと同じ意見です。これも元素ですから。

おそらく津波で陸域から相当色々なものが海に流れ込みましたね。陸の工場に保管されていた有害物質もかなり入っていると思うのです。それが海に入ったら海の生態系の中で色々と動いていきますので、同じ視点でとらえられると思うのです。(5)の中にそういう視点を入れれば、陸域から海に新たに加わった有害物質を含め、海の生態系の中で元素がどのように移動・循環するのかということを、同じ視点で取り上げるというのは不自然ではないし、むしろやらなければいけないこと。そういうレベルでどうでしょうか。

 

【田中主査】

どうもありがとうございました。本来ではもう一度、あと1時間2時間くらい議論をする方が良いのでしょうが、一応今日は12時までになっていますので、鈴木さんから皆さんにお伝えすることがあればお願いします。

 

【鈴木海洋地球課長補佐】

資料6が当面の予定になっていますが、6月中にもう一度海洋生物委員会を開催いたしまして、今回のご意見も踏まえて海洋生物資源に関する研究の在り方についての報告書の骨子案の検討をさせていただければと思っています。

そして次に7月のはじめ、6月の終わり位に第6回の海洋生物委員会を開催して、海洋生物資源に関する研究の在り方について取りまとめたいと思っています。

資料配布の時にご説明いたしましたが、参考資料1・2といたしまして「競争的資金の公募について」というものと、「戦略目標の決定について」を配布しています。この委員会で議論していただいたものがこういう形になったものでございます。是非沢山の応募があると良いとおもっていますので宣伝して頂ければと思います。

 

【堀内海洋地球課長】

私からもよろしくお願いします。初年度、新規で設けた政策でございますので、未だ周知が進んでいないところがあると思いますが、是非折角作った制度でございますので沢山の研究者の方に使っていただけたらと思っております。

 

【鈴木海洋地球課長補佐】

事務的なことですが、次回の委員会の日程は後日電子メールで照会させていただきますし、再度重点研究開発課題なり今回の東北大震災を踏まえた対応なり、一緒に皆さんに紹介して、次回の委員会の配布資料を作りたいと思います。

特段、何か言い忘れたことがあれば随時事務局にいただければと思います。旅費の確認の用紙を皆さんに配っていますので、それに記入の上、机の上に残しておいてください。資料も送った方が良ければ、それも机上に残しておいていただけばと思います。以上です。

 

【田中主査】

最後に堀内課長、もし何か、ごあいさつがありましたら。

 

【堀内海洋地球課長】

本日は色々ためになる、仔細とご議論いただきましてありがとうございました。今、文部科学省の中でも復興を考えた政策をいろいろ検討しています。先程少しだけ申し上げましたが、研究と復興を一緒にできないか。または全域をいきなりカバーするのは難しいし、そういったものをいきなり出すというのも趣旨が読みにくいと思っておりました。モデル的なもの、例えば大槌町や東北大学の女川、そういった基盤のあるところ―――今はあるかどうかというのはありますが、そういった少なくとも考え方の基礎のあるようなところを拠点として、モデル事業のようなものを打っていけないかということなどを検討しています。この委員会での色々な報告書の意見だけでなく、具体的に現地でこういった取り組みができるのではないかというご提案を頂くことがあれば、それを政府の政策として、今の時点でこれからしばらくであればできるのかなと思っていますので、ご連絡いただければと思います。

本日は時間が過ぎましたが、長い時間どうもありがとうございました。

 

【田中主査】

以上をもちまして本日の会合を終了させていただきたいと思います。こういったことが起こってしまってと言えば語弊があるのですが、この委員会の役割も一層大きくなった、重みをもったということでありますので、是非これからも色々なご意見を寄せていただきたいと思います。

本日はどうもありがとうござました。

 

(終了)

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研究開発局海洋地球課

-- 登録:平成23年08月 --