海洋生物研究に関する今後の在り方について(概要)

海洋生物研究の今後の在り方について(概要)

1.経緯

 海洋開発分科会海洋生物委員会において、平成23年に報告書「海洋生物資源に関する研究の在り方について」を取りまとめ、以降、文部科学省等において各種取組が推進されてきたところ。一定期間が経過した今般、海洋分野、とりわけ海洋生物研究に関する我が国を取り巻く環境・国際情勢の変化を踏まえながら、これら取組の現状と課題を抽出し、海洋生物研究に関する中長期的な方向性について検討を進めてきた。

2.海洋生物資源に関する研究等の取組に係る現状と課題

 平成23年度以降、文部科学省等において、主な取組として以下の事業等を実施してきており、それぞれ現状を把握するとともに課題を洗い出してきた。
 (1)東北マリンサイエンス拠点形成事業
 平成23年の東日本大震災により、大きな打撃が与えられた東北太平洋沿岸域及び沖合域等において、地域と協働しながら復興に直結する各種取組を実施し、  世界に類を見ない成果を生み出しつつあることは評価に値する。今後は、本事業で生まれた成果や、地域と連携した新しい研究手法について、系統だった発信と平成32年度までの復興・創生期間以降を考慮した知見等の地域に根差した継承・国内外への展開が必要。
 (2)海洋生物資源確保技術高度化
 平成23年度より、海洋生態系の総合的な理解に関する長期的かつ体系的な調査研究と、海洋生物の生理機能等に着目した革新的な生産技術の研究が行われ、研究計画に応じた着実な進捗がみられる。研究成果が社会に還元されるためには、クロマグロ稚魚の革新的な生産方法の確立や海洋生態系の総合的な解明などに向け、継続的な研究と社会実装に向けた成果の発信が必要。
 (3)観測、モニタリング技術の開発
 平成23年度より、科学技術振興機構において、海洋生物多様性および生態系の保全・再生に資する基盤技術の研究開発の中で、多くの先進的な技術が確立されてきており、評価に値する。今後、上記のような技術が広く利用・応用されることが重要。
 (4)人材育成、情報発信等  特に被災した地域において、研究プロジェクトへの参画を通じて若手人材の育成が図られていることは、復興・創生の視点から評価に値する。今後も海洋生物研究の着実な進展には、積極的な若手人材の登用・育成や、国際的なプロジェクトへの参加等、世界で活躍できる人材を育てる取組も不可欠である。さらに、研究成果を分かりやすく伝えるアウトリーチ活動は継続性が重要。

3.海洋生物研究に関する今後の在り方について

 今後、重点的かつ戦略的に推進すべき海洋生物研究のあり方について、以下のとおり提言する。
 (1)包括的・総合的海洋生物研究の緊急性及び重要性
 海洋のガバナンスの在り方について国際的な議論が本格化するなか、我が国は科学的知見に基づき国際的な議論を主導していくことが求められる。そのためには、海洋生態系の変化を科学的に理解するとともに、その変化の総合的な理解のために、気候変動、物質循環、人間活動の影響に関するデータとの相関について同時に把握しつつ、海洋生物の量的・動的変化を把握し、その変化の要因を理解し、予測につなげていく必要がある。その実現のためには、人文・社会科学を含め幅広く学問分野を超えた総合的・統合的なアプローチが求められ、様々なニーズを踏まえながら、科学的エビデンスを提供するためのコアとなる基盤的な科学的知見の獲得に関する研究に取り組むべきである。
 (2)国際協力・国際展開の強化
 海洋生物資源、海洋生態系の把握・分析・予測のための研究は海洋のガバナンスに関する国際的な議論に直結するものであり、必要な国際協力及び国際展開戦略を視野に取り組むべきである。また、アジア諸国や太平洋の島嶼国との連携を緊密にし、この地域におけるリーダーシップを積極的に発揮すべきである。
 (3)統合的な観測・モニタリング技術の開発及び研究基盤の強化
 多くの新たな観測技術の開発が、科学技術振興機構などで着実に成果を挙げつつあり、このような要素技術を組合せ、幅広く社会実装、民間移転されることが必要であるとともに、研究船や実験施設等の研究基盤の維持・確保・更新が必要である。
 (4)海洋生物情報の量的・動的な把握・解析・予測システムの構築
 様々な目的で行われ、必ずしも共有されていない海洋生物研究のデータを共有できる枠組みの構築や、必要なデータを吸い上げて活用することが可能となるアプリケーションの開発が必要である。近年の情報科学技術の成果を海洋生態系に関する多様なデータの重層化や統合・解析に役立てることが重要あり、地球観測データとの連携・協力も視野に入れた適切な海洋生物データベースの整備を行うことが必要である。
 (5)地域の活力を活かした取組の強化
 東北マリンサイエンス拠点形成事業において、研究者のみならず、地方自治体や漁業関係者等の関係者が企画段階から参画し、一体となって取り組む手法が有効に機能することが確認されており、今後のその他の取組においても、これらの成果を最大限活かしながら、関係者と協働し、地域の活力を活かした取組として実施されるべきである。地域に根差した取り組みとしてモデル地域となる範囲を絞り、有効性を確認しながら、その取り組みを国内に展開するとともに、広く世界に発信していくことが必要である。
 (6)国際舞台で活躍できる人材の育成及び国民の海洋に関する理解の増進
 海洋生物研究を着実に進展させていくためには、国際舞台で活躍できる人材の育成が重要である。また、研究者が高い意識を持って、成果を求め、これを広く社会に発信していくことが重要である。
 (7)海洋生物がもたらすイノベーションの創出に向けて
 海洋生物・遺伝資源の研究開発については、極限環境へのアクセス手段、サインプルの培養・保存技術、ゲノム解析技術、バイオインフォマティクス等様々な技術が組み合わさり、また、社会実装へ向け、産業への橋渡し、知財管理等が必要となる。これらの取組については、特定の機関に閉じるのではなく、広く関係機関と連携し、我が国の総合力を活かす仕組み作りを併せて検討する必要がある。


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