平成23年1月18日
科学技術・学術審議会 海洋開発分科会 海洋生物委員会
平成22年10月に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)において、生物多様性の保全を目指した「愛知目標」が採択されたほか、ここ数年の間に「海洋基本計画」、「生物多様性国家戦略2010」、「新成長戦略」、「第四期科学技術基本計画(案)」等政府の計画においても生物多様性保全の重要性が指摘されるなど、国内外を問わず、生物多様性の重要性が強く認識されるようになってきた。このような中、日本の多数の研究者も参画した国際共同研究プロジェクト「海洋生物のセンサス」によって我が国の四方を取り囲む排他的経済水域(EEZ)が、世界で最も豊かな生物多様性を有しており、地球全体の生物多様性の保護にとって、我が国周辺の生物多様性の保護が不可欠であることが明らかになった。
しかし、現状は、海洋にはどのような生物種がどこにどれだけ存在しているのか、なぜ、どのようにしてサンゴ礁や干潟などで多様な生物による複雑な生態系が生まれ維持されているのかなど、生物多様性の理解や保全に必要な基盤的データや知見は依然として大幅に不足している。加えて、海洋環境影響評価の方法や生物多様性を再生させるための技術の確立も遅れている。これらは、海洋の調査が研究船などの大型設備や潜水などの特殊な技術を必要とし、陸上生態系に比べアクセスがはるかに難しいことに加え、海洋生物圏が陸上の生物圏と異なり、沿岸から外洋への水平方向においても、海面から深海底まで深さ方向においても陸域よりはるかに大きな広がりを持っていることなどが原因である。さらに、海洋は常に陸域から自然的並びに人為的に様々な影響を受けており、陸域生態系と海域生態系の連鎖を十分に考慮した日本ならではの生物多様性研究を展開することが求められる。
それは今後日本が進むべき、豊かな生物多様性や生物資源に依拠した国家戦略を策定していく上で、極めて重要な基礎を築くことになる。
今後、生物多様性の保全に必要な対策を講じるためには、これらの問題を克服して生物多様性の生成や維持に関するメカニズムの理解と基盤的なデータの蓄積を長期的視点で推進するとともに、地球温暖化等による影響評価手法の開発や海洋生物多様性を保全・再生するための技術開発を進め、若手研究者の養成を含めた研究基盤の醸成を図ることが不可欠である。そのために、文部科学省が、別紙のような課題に対して、大学等の研究者による海洋生物多様性に関する研究開発を推進し、環境省、農林水産省などとの連携のもと、生物多様性の保全に貢献していくことが日本近海のみならず世界全体の生物多様性維持に必要不可欠である。世界の海洋大国として我が国がこの分野において世界をリードする国際的責務と意義は極めて大きい。
このような取組により、多様な生物が息づく豊かな海洋を次世代に引き継ぐための生物多様性を維持した漁業・養殖業、海運業、海洋エコツーリズム、海洋教育など海洋の適切な利用に着手でき、生物多様性を再生維持しながら、海洋を持続的かつ最大限有効に利活用することが可能となる。
例)世界の海洋・湖沼に生息する魚類全体を対象に、その類縁関係を最先端手法(とその開発)により網羅的に解析し、生物多様性が形成される機構のモデルを生みだす。
例)生物へのタギング(バイオロギング技術)と海底ステーション、AUVを用いた追跡技術の構築
例)森林生態系の生物多様性が河川生態系の生物多様性にどのように関わり、それらが最終的に海域の生物多様性につながる連鎖を実験生態学的に解明する技術開発。
例)環境に鋭敏な線虫、有孔虫に特化したDNAチップの開発
例)可動型深海ステーションによる深海生態系変動観測技術
研究開発局海洋地球課