資料2 海洋鉱物資源の探査に関する技術の実証の当面の進め方(案)

平成21年8月  日

科学技術・学術審議会海洋開発分科会

海洋資源の有効活用に向けた検討委員会 委員名簿

浦辺 徹郎

東京大学大学院理学系研究科教授(主査)

阿部 一郎

住友金属鉱山株式会社取締役専務執行役

磯崎 芳男

独立行政法人海洋研究開発機構海洋工学センター長

浦 環

東京大学生産技術研究所海中工学研究センター長

沖野 郷子

東京大学大気海洋研究所准教授

小池 勲夫

琉球大学監事

鈴木 賢一

日本水産株式会社元相談役

平 朝彦

独立行政法人海洋研究開発機構理事

瀧澤 美奈子

科学ジャーナリスト

寺島 紘士

海洋政策研究財団常務理事

増田 信行

独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構特別顧問

1.はじめに

 四方を海に囲まれた我が国が、新たな海洋立国の実現を目指し、総合的な海洋政策を推進するため、「海洋基本法」が制定(平成19年4月)され、これに基づき、「海洋基本計画」が策定(平成20年3月閣議決定)された。同計画では、資源小国の我が国が、自らの資源供給源を確保するため、海底熱水鉱床やコバルトリッチクラスト等の海洋資源の計画的な開発等を推進することとされた。

 本委員会においては、これらの海洋鉱物資源を広域で効率的に探査するために必要な技術開発の内容等について審議し、「海洋鉱物資源の探査に関する技術開発のあり方について(中間とりまとめ)」を取りまとめ(平成21年6月)、文部科学省において、これに沿った施策が進められているところである。

 また、「新成長戦略~「元気な日本」復活のシナリオ~」が策定(平成22年7月閣議決定)され、海洋資源の開発・普及の推進が「グリーン・イノベーションによる成長を支える資源確保の推進」を担う政府の重点事項と位置づけられた。

 このような状況を踏まえ、本委員会において、特に、自律型無人探査機(AUV)の開発・運用を中心に、文部科学省における当面の技術開発の進め方についての検討を実施した。

2.海洋鉱物資源の探査に関する取組の現状

 独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)においては、(1)保有する各種研究船、(2)世界一の連続航走距離記録を持つ自律型無人探査機(AUV)「うらしま」、(3)世界トップクラスの潜航能力を持つ「かいこう7000 II」をはじめとする遠隔操作型無人探査機(ROV)、(4)海底下のコア試料を採取できる科学掘削船「ちきゅう」等、各種プラットフォームと、深海調査のための高度な技術を活用し、詳細な海底地形や海底下構造の科学的調査等を実施している。加えて、今年度中に、海底微細地形データ等が取得可能な高精度センサーを積んだ新たなAUVの整備に着手する予定※である。

 大学等においても、文部科学省が実施している競争的資金制度「海洋資源の有効活用に向けた基盤ツール開発プログラム」により、海洋鉱物資源を効果的、効率的に探査するセンサー技術の開発を進める等の取組が進んでいる。特に、東京大学生産技術研究所では、センサーとAUVを組み合わせたシステムの開発が進められており、海底面から数十mの高度を保ちつつ長距離を比較的高速で航行する機能を有し、広域を効率的に調査することのできる「巡航型AUV」とサイドスキャンソナーを用いて詳細な海底地形の調査を行っている。また、海底面近くを低速で航行し、狭い範囲を詳細に調査することのできる「作業型AUV」を用いた海底の撮影及び画像処理による海底の状況の詳細な調査を実施している。

 資源量把握については、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)において、沖縄海域及び伊豆・小笠原海域の海底熱水鉱床を対象に、ボーリング調査等により、鉱床の深部方向の連続性の調査を実施している。

※本AUVは、日本学術振興会の「最先端研究開発戦略的強化費補助金」により整備。JAMSTECによる「海底下実環境ラボの整備による地球科学―生命科学融合拠点の強化」が補助対象事業として採択された。本事業は、青森県下北半島沖における掘削によるコア資料を、海底下の実環境に保持して研究を実施する海底下実環境ラボをJAMSTEC高知コア研究所に整備するもので、AUVにより海底微細地形データ等の取得を行い当該海域における海底下の状況分析や二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)に関する評価を実施する計画である。

3.海洋鉱物資源の探査に関する技術の実証

この節の論点
 論点1:総合的な探査技術の完成に必要な要素技術は、以下の記述のとおりでよいか。
 論点2:期待される科学的成果は、以下の記述のとおりでよいか。

   これまで海洋鉱物資源の探査に関する技術開発は順調に進捗してきており、今後は、その更なる高度化を図るとともに、我が国の有望海域における資源量等の調査を進めることをもって技術の実証を図り、我が国の近海における海洋鉱物資源の資源量把握に向けた取組を一層加速させることが重要である。

 具体的には、(1)複数の高性能なAUVによる調査技術、(2)海底下の三次元構造を把握できるセンサー技術、(3)ROVによる複雑な地形に対応したサンプリング技術、(4)「ちきゅう」深部探査船による海底下のサンプリング技術、(5)支援母船による音響調査技術の実証が必要である。その際、各機器の実利用に応じた技術課題の抽出、高度化の検討を通じて、海洋鉱物資源の探査に関する技術を総合的な技術に完成させるためには、海底熱水鉱床やコバルトリッチクラストの有望海域において実証することが必要である。なお、JOGMECと協力しつつ実証を進めることにより、資源量把握に直接貢献することも期待される。

 さらに、当該実証を通じて、探査技術の高度化のみならず、得られたデータから、次の科学的な成果が期待される。

  1. 海底熱水鉱床の成因及び成分変化の要因を解明する。
  2. 様々なタイプの海底熱水鉱床の存在を検証し、その生成過程を明らかにする。
  3. コバルトリッチクラストの成因及び層状構造における成分変化の要因を解明する。
  4. その他、新たな鉱物資源の存在を明らかにする。

4.AUVの整備に当たって留意すべき事項

この節の論点
 論点3:AUVの基本的考え方は、以下の記述のとおりでよいか。

  AUVは、海底鉱物調査を行う切り札的重要機器であり、資源探査に必要な機能・性能については、本委員会でも議論を行ったところであるが、今般、JAMSTECにおいて、AUVの整備に着手することとなったため、その具体的な仕様について検討を実施し、別添の仕様を作成した。

 本AUVについては、青森県下北半島沖の海底下生命圏の調査のために開発するものであるが、船舶のスケジュールから青森県下北半島沖の海底調査を実施していないときや同海域での海底調査の終了後において、海底鉱物資源の調査に必要な海底調査を実施するためにも活用されれば、効率的かつ効果的に成果を得ることは明らかである。このため、青森県下北半島沖における海底調査及び海洋鉱物資源の存在が有望な海域における海底調査の両者を行うことを可能とする設計にしておくことが非常に重要である。

 また、鉱物資源調査を実施する海域について、当面は、青森県下北半島沖に加えて、海底熱水鉱床が存在していることが有望視される沖縄海域とすることが適当である。

 さらに、深海探査に関する技術を十分に実証するためには、AUV開発にあたっての基本的考え方は以下の通りである。 

  1. 限られたシップタイムを最大限有効に活用していくため、AUVに必要な自律性を持たせる必要があり、将来的には支援母船1隻で複数のAUVによる調査を行うことを視野に入れたものとすることが重要である。
  2. センサーの開発を同時並行で行う必要があるため、各種センサーを試験的に搭載できるものとすることが必要であるが、三次元の調査等必要な調査を行うための機動力、操作性とのバランスを考慮することが重要である。
  3. 青森県下北半島沖海域の海底の詳細を効果的に把握することや、他の海域においても可能な限り広範囲かつ詳細に海底の状況を把握し、早期に成果を上げていくことが重要であるため、巡航型と作業型の両型を併せて整備すべきである。

5.今後検討すべき課題

 今後10年間の技術開発計画として、前期(平成23~27年度)は、センサーや探査機等に関する技術開発を進めつつ、海底熱水鉱床及びコバルトリッチクラストの存在が特に有望な海域において当該実証を実施し、後期(平成28~32年度)では、前期での当該実証を踏まえた技術的課題への対応を行いつつ、当該実証の対象海域を拡大することが適当と考えられるが、今後、詳細な計画を検討することが必要である。 

参考資料

巡航型システム仕様(案)

  • 最大潜航深度: 3000m
  • 最大速力: 3knot以上
  • 最小旋回半径: マルチビーム測深機のスワス幅以下
  • 最小高度: 平坦な場所において10mプラスマイナス2m程度
  • 機体サイズ: 4m以下(機体のみ、突起物含まず)
  • 連続航行時間: 12時間程度(*1)
  •  観測センサ(目的別積替え式)
    • 標準搭載: CTD(塩分濃度、温度、深度計)
    • オプション搭載:サイドスキャンソーナー、マルチビーム測深器、CO2+pHハイブリッドセンサ
  • ユーザ拡張領域:30kg、30リットル(磁力計等基盤ツール関連)

*1 使用する観測センサーによる。

作業型システム仕様(案)

  • 最大潜航深度: 3000m
  • 最大速力: 1.5knot以上
  • 最小旋回半径: その場回頭
  • 最小高度: 1m(着底可能)
  • 機体サイズ: 2.5m以下(機体のみ、突起物含まず)
  • 連続航行時間: 8時間程度(*1)
  • 観測センサ(目的別積替え式)
    • 標準搭載: CTD(塩分濃度、温度、深度計)、スティルカメラ
    • オプション搭載: CO2、pH

*1 使用する観測センサーならびに航行パターンによる。

お問合せ先

研究開発局海洋地球課

03-5253-4111(代表)、03-6734-4142(直通)