学術情報基盤(学術研究全般を支えるコンピュータ、ネットワーク、学術図書資料等)は、研究者間における研究資源及び研究成果の共有と次世代への継承、社会に対する研究成果の発信・啓発、研究活動の効率的な展開等に資するものであり、学術研究全体の発展を支える上で極めて重要な役割を負うものである。
 しかし近年、コンピュータの普及と電子化の進展等による情報基盤の高度化・多様化とそれがもたらす研究・教育活動の態様の著しい変容、学術図書・ジャーナルの価格の高騰等の状況変化が起きているが、国立大学の法人化に伴うさまざまな変化、特に財政緊縮化傾向の中で、こうした状況変化への対応が十分に行われず、学術情報基盤の脆弱化、学術情報の受・発信の国際的なアンバランスなどの諸問題が生じてきている。
 こうした変化に適切に対応し、学術情報基盤が学術研究活動を支え続け、その高度化を可能にするための基本的な考え方や国が考慮すべきこと等を検討するため、平成16年11月15日に設置された科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会は、三つのワーキンググループを設置し、これらにおける検討と本作業部会全体の討議の結果をフィードバックする過程を繰り返す形で審議を行ってきた。各ワーキンググループと検討事項は、以下のとおりである。

  1. コンピュータ・ネットワークワーキンググループ:国公私立大学及び大学共同利用機関(以下、大学等という。)の情報処理関係施設、学術情報ネットワーク等の役割、在り方等
  2. 大学図書館等ワーキンググループ:大学図書館の役割、在り方等
  3. 学術情報発信ワーキンググループ:学協会が中核を担っている学術情報発信の在り方等

 平成17年6月28日には、当面緊急に対応すべき事項等を中心に、「学術情報基盤としてのコンピュータ及びネットワークの今後の整備の在り方について(中間報告)」、「学術情報基盤としての大学図書館等の今後の整備の在り方について(中間報告)」、及び「我が国の学術情報発信に関するこれまでの審議状況のまとめ」を取りまとめた。その後、さらに検討が必要な事項を中心に審議を行い、各ワーキンググループは、「学術情報基盤としてのコンピュータ及びネットワークの今後の整備の在り方について(報告)(案)」、「学術情報基盤としての大学図書館等の今後の整備の在り方について(報告)(案)」、及び「我が国の学術情報発信の今後の在り方について(報告)(案)」を取りまとめたので、これらを本作業部会として了承し、合せて本報告の本文とするものである。それぞれの概要をここにあらかじめ示せば、次のとおりである。

1.学術情報基盤としてのコンピュータ及びネットワークの今後の整備の在り方について

 これまでの我が国の大学等におけるコンピュータ及びネットワークの整備の経緯、取り巻く環境の変化及び課題、海外における動向を踏まえ、今後の方向性として、我が国の大学等や研究機関が有しているコンピュータ等の設備、基盤的ソフトウェア、コンテンツ及びデータベース、人材、研究グループそのものを超高速ネットワークの上で共有する「最先端学術情報基盤」が不可欠という認識が重要であることを示した。その上で、この実現に向け、大学等における学術情報基盤の整備計画、及び効率的で安全・安心な学術情報ネットワークの整備計画が必要であることを指摘するとともに、国家的観点からのハイ・パフォーマンス・コンピューティングの在り方等を示した。

2.学術情報基盤としての大学図書館等の今後の整備の在り方について

 大学図書館の現状として、大学図書館の基本的な役割、電子化の急速な進展、大学図書館の負担の増大等について確認し、大学図書館の財政基盤が不安定なこと、電子化への対応が遅れていること、体系的な資料の収集・保存が困難であること、目録所在情報サービスの問題点、図書館サービスの問題点といった課題を示した。今後の対応策として、各大学の教育研究の特徴にあわせたハイブリッド・ライブラリー像の検討、大学図書館の戦略的な位置付け、電子化への積極的な対応、今後の電子化を踏まえた強化すべき機能、学術研究の全国的基盤としての目録所在情報サービスの枠組みの強化、大学図書館のサービス機能の強化とそれを担う人材育成・確保への取り組み等及び大学図書館と社会・地域との一層の連携の推進等を示した。

3.我が国の学術情報発信の今後の在り方について

 我が国の学術情報発信の現状として、学術雑誌出版の状況、海外出版との比較、電子化への対応、英文学術雑誌の出版に伴う問題点、関連施策の状況、オープンアクセス運動について確認し、研究成果情報の受・発信の国際的なアンバランス状態、学術雑誌の品質向上の必要性、学術雑誌の電子化の遅れ、雑誌評価(インパクトファクターを論文評価、研究評価に用いることの問題点)、オープンアクセス運動への対応、アーカイブ化の遅れといった課題を示した。今後の方向性として、研究成果情報の受・発信の国際的なアンバランス状態の解消、学術雑誌の一層の品質向上の必要性、論文評価の適正化、オープンアクセス運動への対応、アーカイブ化への対応を示した。

 最後に、以上を通じる共通の認識として、以下の四点を指摘しておきたい。これらは、学術情報基盤の今後の在り方を考える上で、極めて重要だと考えられるからである。

  1. 学術情報基盤は、学術研究活動に不可欠ないわばライフラインとしての性格を有する。学術情報基盤は、コンピュータやネットワークといったインフラストラクチャと、流通するコンテンツとが、密接不可分に関わりあって形成されるものであることから、コンピュータ等の設備、基盤的ソフトウェア、コンテンツ及びデータベース、人材、研究グループそのものを超高速ネットワークの上で共有する「最先端学術情報基盤」の早期実現が重要である(サイバー・サイエンス・インフラストラクチャ構想)。
  2. 大学等においては、学術情報基盤に関わる総合的な基本戦略を持つことが重要である。コンピュータやネットワークについては、人員の適切な配置も含めた持続可能な整備・運用計画に基づいた整備を行っていく必要がある。大学図書館については、大学の教育研究活動を支える重要な学術情報基盤であることを学内で明確に位置付け、共通経費化の推進等による安定的な財政基盤を確立することが必要である。
  3. 電子化の急速な進展、オープンアクセス運動などにより、学術情報基盤を取り巻く環境が急速に変化しつつあり、これらに積極的に対応する必要がある。具体的には、最先端学術情報基盤の実現、機関リポジトリへの積極的な取り組みなどがあげられる。
  4. 学術情報基盤が今後とも充実・発展していくためには、これを支える、情報基盤センター等の職員、大学図書館の職員、学協会で学術雑誌刊行に携わる職員等の、人材が重要な基盤であり、これら職員の育成・確保、専門性を考慮したキャリアパスの構築、モティベーションの維持・向上などが必要である。

 なお、情報科学技術の発展によって、学術情報基盤は大きくその姿を変える可能性を持つものであり、学術情報基盤の在り方については、今後とも不断の見直しを行うことが必要であることを強調しておきたい。