第1章 目的等について

1.背景

 21世紀を迎え、経済のグローバル化の一層の進展、地球環境問題や世界規模での人口問題など、人類の経済社会活動の地球規模での展開に伴い、アジアの先進国としての日本に対する世界的な課題解決への貢献が期待されている。
 とりわけ、近年、津波・地震等の自然災害や新興・再興感染症に対応した国際緊急援助、国際紛争地帯の戦後復興等において、我が国が国際的に果たすべき役割が増大している。また、経済活動のグローバル化やNGO、草の根レベルでの海外支援活動の広がりに伴い、一般の日本人が当該地域社会に一定期間滞在しながら当該地域の人々と共に活動する機会が増えている。
 さらに、日本国内においても、世界各国から来日した外国人とその家族が、大都市圏に加え、地方においても地域社会の中で生活する機会が増加してきており、言語、文化、生活習慣等の異なる人々とのコミュニケーションの必要性が身近に感じられるようになっている。
 このような中で、相手国や当該地域の人々の状況・考え方をあらかじめ十分理解してから行動することの重要性が広く認識されるようになっており、世界各地に関する総合的な情報の分析と蓄積を行う「『地域』を対象とした研究」に対する国民の期待が高まっている。

 「世界を対象としたニーズ対応型地域研究推進事業」は、日本人の経済社会活動の広域化や、国際貢献活動への参加の機会の拡大といった形で、国際社会に深い関わりを有しながら活躍する日本人(国際援助活動に携わる政府・NGO関係者、海外赴任者とその家族、留学生等)が増えていることを踏まえ、そのニーズを積極的に受け止め、人文・社会科学を中心とした諸学の知を統合した総合的な研究としての「『地域』を対象とした研究」を推進するための事業として新たに予算案に計上されているものである。
 具体的には、日本との関係で重要な世界の諸地域において、現在の政治、経済、社会制度等とそのバックボーンとなる思想、文化、歴史等との関係など、今後我が国が人的交流や国際貢献を進めるために必要な社会的・政策的ニーズに対応したプロジェクト研究を、大学等への公募・委託によって実施することが予定されている。

2.目的

 「はじめに」及び1.の背景を踏まえると、本事業の目的は、次の2点とすることが適切である。

(1)日本と研究対象地域との「共生」に資すること

 21世紀の世界にあっては、多様な民族、宗教、文化、歴史等を背景とした国々が政治・経済体制の違いを認め合いつつ、共に生き、共に繁栄していくことを目指すこと、すなわち「共生」の関係へと進んでいくことが期待されている。そのためには、国際緊急援助や災害復興支援、経済活動等の現実の場面を通じて、国際社会における共生関係の構築に向けて、日本・日本人はどのような役割を果たすべきなのか、どのように行動すべきかということに応えられねばならない。
 このことから、本事業では、国際社会に生きる日本人が当該地域に対する総合的な理解を得られるような研究活動を推進することにより、日本と研究対象地域との間で官民様々なレベルでの交流や協力が今後一層促進され、日本とこれらの地域との「協働」、「相互理解」さらには「共生」に資することを第一の目的とする。

(2)人文・社会科学研究の新たな展開と発展に資すること

 大学等における人文・社会科学分野の研究においては、社会的・政策的ニーズに直接応えるような研究は従来あまり活発に行われてはこなかった。しかしながら、複雑な要因が絡み合う現実的な課題の解決のためには、学問の責任と応答が避けて通れない状況となっている。
 本事業は、人文・社会科学を中心とした諸学の知を統合し、その活用を促進することによって、国民が直面している現実的課題に積極的に関わろうとするタイプの研究、言い換えれば「人文・社会科学の応用研究」を大学等において推進しようとするものであり、その意味で新しい試みといってよい。本事業の研究成果としては、研究成果を踏まえた上での社会提言やデータベースの構築などが想定される。
 このことから、本事業を一つの契機として、大学等において社会的・政策的ニーズに知的触発を受けた研究がより積極的に行われ、その研究成果が広く社会に還元されるようになることを期待し、人文・社会科学研究そのものの新たな展開と発展に資することを第二の目的とする。

3.推進体制

 2.の目的を達成するためには、研究課題の採択に当たって、社会的・政策的ニーズを的確に反映できるような仕組みと、実際に研究を進める際に、様々な研究分野を統合していく仕組みとが必要となる。
 このため、次のような推進体制の下で実施することが適切である。

(1)研究成果の活用主体である政府・NGO等関係者、企業関係者等の社会的・政策的ニーズの関係者及び学識経験者から構成する「『世界を対象とした地域研究推進事業』推進委員会」(以下、「推進委員会」という)を設置する。
(2)推進委員会において、社会的・政策的ニーズを踏まえた「研究領域」を決定する。また、推進委員会において「研究コーディネーター」を選任する。
(3)各研究領域について、研究課題を公募する。
(4)第1次審査及び第2次審査は、推進委員のうち数名、研究コーディネーター及び専門の学識経験者とで組織する審査ワーキンググループ(以下「審査WG」という。)が行う。その後、推進委員会において採択課題を決定する。
(5)研究コーディネーターは、研究課題の審査に当たるとともに、研究領域の下に置かれる各研究課題を総合的にコーディネートする役割を担う。
(6)平成20年度(研究開始後3年目)に中間評価、平成22年度(研究期間の最終年度)に事後評価を行う。

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研究振興局振興企画課学術企画室

(研究振興局振興企画課学術企画室)