第3章 国による多様な学術研究の支援

 国においては、個々の研究者と各大学等の研究活動が円滑に行われるような支援を行うことが基本であり、我が国の政府負担研究費と高等教育機関に対する公財政支出の対GDP比を欧米先進諸国並みに近づけていくよう最大限の努力を払う必要がある。
 その際、(1)デュアルサポートシステムによる研究の多様性の促進、(2)研究者と大学等の研究活動を支援する多様な方策(ファンディングシステム)の構築、(3)独創的・先端的な研究の推進と研究拠点(ネットワーク・ハブ)の形成、を基本的な考え方とし、特に次の項目に重点を置いて国の支援を拡充することが必要である。

  1. 基盤的経費の確実な措置と多様なファンディングの拡充
  2. 学術研究基盤の着実な整備の支援
  3. 世界的研究教育拠点の一層の整備支援と世界で活躍できる若手研究者の育成
  4. 国際的に開かれた大学等づくりの推進と学際的・学融合的研究分野の推進

1 基本的な考え方

 第1章において述べたように、今後の学術政策の基本的な方向性は、個々の研究者の持つ意欲・能力が最大限発揮され、研究の多様性が促進されることにあるべきである。
 個々の研究者が自由な知的好奇心・探究心に基づき多様な研究を遂行するとともに、各大学等が学術研究推進戦略の下で、研究者の意欲・能力が最大限発揮されるような研究環境の整備に取り組むとき、国においては、個々の研究者と各大学等の研究活動が円滑に行われるよう、基盤的経費の確実な措置と大学等の個性・特色づくりに対応する多様なファンディングによる効果的な支援を行うことが基本となる。

 近年の科学技術創造立国の実現を目指した国家的な取組みにもかかわらず、先進主要諸国においても科学技術関係予算を拡大していることもあり、我が国の政府負担研究費の対GDP比は米国やドイツの約8割、高等教育機関に対する公財政支出の対GDP比は欧米先進諸国の約半分と依然として大きな差がある。その上、長年のフロー面での差が人的・物的・システム的なストック面での目に見える格差となって顕在化してきている。
 この差を縮めていくことは、今後の厳しい国際競争に勝ち抜くための最低条件であり、国においては、後述する重点項目を中心に支援を拡充し、まず政府負担研究費と高等教育機関に対する公財政支出の対GDP比を欧米先進諸国並みに近づけていくよう最大限の努力を払う必要がある。

(1)デュアルサポートシステムによる研究の多様性の促進

 学術研究においては、当初の見込みどおりの研究結果が得られないこともしばしばであり、大学等において、長期的な思考・模索や試行錯誤が許される環境にあることが思いがけない大発見につながってきた。また、指導教員が競争的に獲得する研究費の多寡が大学院学生等の教育、ひいては次世代の若手研究者の育成や多様な学問分野の継承・発展にまで影響を及ぼすことのないよう、恒常的に支援されなければならない。
 このため、我が国においては、大学等の組織としての存立を担保するため、人材の確保や研究環境の整備に係る経費は基盤的経費として国が確実に措置し、研究の多様な「芽」を育んできた。いかに優れた研究者であっても、研究遂行に不可欠な研究基盤が脆弱な状況では、その本来の能力の発揮を期待することは難しい。
 また、競争的資金による一定期間に限定された研究支援だけでは、研究の萌芽を育成することは困難と言える。基盤的経費によって自由闊達な研究が保障されることで初めて、学術研究の多様性が促進されるのである。

 その上で、創造的で質の高い研究成果を創出するためには、研究組織の内外で競争原理が働き、研究者の能力が最大限に発揮されるシステムの構築が必要である。研究計画と研究目標が見通せる段階に至っている場合には、競争的資金の適切な配分により、個々の研究者あるいは研究組織の優れた研究計画を優先的・重点的に支援することが極めて有効となる。特に科学研究費補助金は多様な研究種目を設定し、これを不断に見直しながら、萌芽的な研究から大規模な研究チームによるプロジェクト研究まで様々な目標・段階・規模の研究を支えてきた。
 研究の多様性を促進し、新たな発展の源泉となる豊かな知的ストックを形成するためには、今後とも、科学研究費補助金を始めとする競争的資金の大胆な拡充が必要である。

 このように、我が国の大学等においては、基盤的経費の確実な措置と、競争的資金との有効な組み合わせ(デュアルサポートシステム)によって研究体制を構築してきた。優れた研究、若しくは特徴的な研究を行う大学等が全国各地で研究をリードし、多様な研究が行われる状況を創出するためには、このデュアルサポートシステムによる財政支援が今後ますます重要となる。基盤的経費の確保を前提とした、高いレベルでの競争的環境の醸成がなされなければならない。

 競争的資金の性格からして、財政基盤、研究者の厚みといった基礎的な条件がより強い大学に競争的資金が過度に集中し、その他の大学等において研究の多様な「芽」を育みにくくなることによって、我が国全体としては大学等間での競争関係そのものが成り立たなくなることへの懸念が指摘されている。国際的な知の大競争が求められている中、国内の大学等に国際競争力を向上させていくためには、基盤的経費が確実に措置され、その下で個性ある大学等同士の健全な競争を拡大させることを通じて、多様な研究が推進される必要がある。

 なお最近、基盤的経費と競争的資金との間に一定の比率を定め、基盤的経費の削減分を競争的資金に上乗せしようとする議論が一部にあるが、欧米先進諸国に比べてもともと少ない大学等への政府予算額の割合を単にシフトさせるだけの議論は避けられねばならない。基盤的経費の削減は大学等の教育研究活動の基盤を損ない、大学等の基礎体力を喪失させるものであり、基盤が不十分なところにいくら競争的資金を投入しても大学等のポテンシャルは十分発揮されない。また、競争的資金のみで研究を行わなければならなくするような極端なシステムを現在の我が国の大学等に導入することは、研究者の地位を不安定にし、優秀な人材の確保を困難にするとともに、すぐには具体的研究成果への展望が開けないような息の長い重要な研究や、その時点であまり注目されていない研究が敬遠されることにより、長期的には研究の質が下がる危険性もあることに十分留意されるべきである。

(2)研究者と大学等の研究活動を支援する多様な方策の構築

 国においては、個々の研究者と各大学等の戦略に基づく主体的な取組みを尊重するとともに、このような取組みを可能とするような多様な支援方策(ファンディングシステム)を構築することが必要である。

 一方、個々の研究者と各大学等の研究活動をそのまま支援するだけでは我が国における学術研究の「層の厚さ」や「裾野の広がり」を充実・拡大することは難しい。国においては、学術研究の動向の把握と分析を踏まえた上で、学術研究推進のための基本的な方針を立案するとともに、これを絶えず見直す姿勢も必要である。我が国独自の研究や世界(特にアジア地域)でリーダーシップを発揮できる研究など、強い分野にはしっかりとした支援を行うとともに、20年後、30年後には何がブレークスルーをもたらすかわからないという前提に立ち、困難な課題に挑戦する基礎的な研究や成果の見えにくい研究等にも一定の配慮を行うなど、学術研究全体が多様性を持ってバランスのとれた発展を遂げられるよう様々な支援方策を拡充することが必要である。

 そのため、国は、「知の大競争時代」における世界的な学問の潮流を見据えつつ、適切な支援方策を検討できるよう、独立行政法人日本学術振興会学術システム研究センター、学協会等と協力しながら、中長期的な学術研究動向の把握に常に努めていく必要がある。また、各大学等における主体的な取組みのうち、他の参考となるような事例を積極的に収集・推奨することが必要である。

 学術研究に対する支援の仕組みとしては、例えば次のような観点によるものが挙げられる。

【支援の目的】

  • 優れた研究者の育成を主眼とするもの
  • 卓越した研究拠点の形成や特定の研究を集中して行う組織の整備等を主眼とするもの
  • 新たな研究分野の開拓、学際的・学融合的研究分野の推進等を主眼とするもの
  • 研究に不可欠な基盤の整備を主眼とするもの

など

【支援の対象】

  • 優れた研究プロジェクト(を企画した研究者個人又は研究者集団)に対するもの
  • 研究組織に対するもの

など

【支援の方法】

  • 研究者・研究組織のニーズに合わせて支援するもの〔ボトムアップ型〕
  • 一定の研究領域・課題をあらかじめ設定し、その領域・課題の研究推進を支援するもの〔領域・課題設定型〕

など

【支援の期間】

  • 競争的・時限的に補助するもの
  • 一定の算定方法に基づき、経常的に補助するもの

など

 多様なファンディングシステムの構築は、これらの複数の観点を有効に組み合わせることによって可能となるものである。例えば、科学研究費補助金という一つのファンディングを考えてみても、「基盤研究」のように研究者の応募に基づき、審査を経て優れた研究計画を支援する研究種目もあれば、「特定領域研究」のように我が国の学術研究分野の水準向上・強化につながる研究領域などを特定して研究の推進を図る研究種目もある。また、研究の大型化に対応し、これまで国は、競争的資金に金額の上限の高いものや目的の明確なものを設けて研究プロジェクト単位で支援できるようにするとともに、主として基盤的経費の措置により、特定の分野には国立大学に全国共同利用型の附置研究所・研究施設や大学共同利用機関を設置してきた。
 このように、国は支援方策を機動的に組み合わせることで、高度な研究を推進してきたところであるが、今後とも、学術研究の動向や大学等における必要性等を踏まえつつ、支援の目的、対象、方法、期間等の観点を時宜に応じて適切に組み合わせながら、学術研究への支援を拡充していかなければならない。特に期間が限定されたファンディングについては、その期間中に達成した成果をさらに高められるように、ファンディングの接続・継続の観点に十分な配慮が必要である。
 なお、既存のファンディングシステムについても、研究上のニーズに応じた、より効率的な運用ができるよう必要な改善を図っていくことが必要である。

 また、競争的資金制度における間接経費は、個人補助と機関補助を一つの制度内に組み込んだものであり、極めて有効に機能していることから、すべての競争的資金に間接経費を着実に措置することが必要である。また、各省庁・独立行政法人や地方公共団体が大学等に研究を委託する際にも、大学等に過度な財政的負担を強いることのないよう委託経費に間接経費をあらかじめ組み込むことが必要である。産学連携においては、企業等との間における受託研究や共同研究に伴い必要となる間接経費の確保を促進することが求められる。

(3)独創的・先端的な研究の推進と研究拠点(ネットワーク・ハブ)の形成

 我が国において発展してきた独創的・先端的な学術研究は、今後とも世界又はアジアでリーダーシップを発揮していく上で、極めて大きな役割を果たすことが期待されている。また、独創的・先端的な学術研究をさらに発展させるためには、同一分野間はもとより、異分野間の研究連携・協力が有益である。
 その意味において、研究者間のネットワークや大学等間の協定によるネットワークと、その中心となる研究拠点(ネットワーク・ハブ)の形成は重要であり、厳しい財政状況の下にあっても、独創的・先端的な研究の維持向上に国として継続的な支援を行っていく必要がある。特に、多くの研究分野において大学共同利用機関、全国共同利用型の附置研究所、研究施設が「ハブ」としての役割を果たしており、その支援が引き続き必要である。その結果、このような我が国の研究拠点施設での研究経験が外国人を含めた世界中の優秀な若手研究者のキャリアパスとなっていくことが求められる。

 とりわけ、我が国の学術研究においては、個々の研究者の自由な発想の下に、旧学術審議会や科学技術・学術審議会等の審議を踏まえながら、大学共同利用機関や国立大学の附置研究所を中心に数々の大規模プロジェクトが実施されてきており、その中から従来の科学的知見を根本から覆すような第一級の研究成果が創出されてきている。また、他の研究分野への波及効果や国際的リーダーシップの発揮の観点からもその意義は大きい。
 このような大型施設・設備を要する大規模研究の推進においては、個々の研究者の自由な発想を踏まえ、当該研究分野の動向等を勘案しながら国としても判断を行い、推進することが重要である。その際、世界又はアジアでのリーダーシップを発揮していくことなどの観点も含め、今後の大規模研究の具体的な在り方等について、科学技術・学術審議会等の場を通じて、研究者コミュニティの意見を行政に反映しながら検討できるような仕組みを整備するとともに、国際的な観点を踏まえた透明性・公正性のある評価を実施することが必要である。

2 具体的な方策

 今後、政府負担研究費や高等教育機関に対する公財政支出の対GDP比を欧米先進諸国並みに近づけていくよう最大限の努力を払いつつ、学術研究への国の支援を拡充する際には、特に次の項目に重点を置くことが必要である。

  1. 基盤的経費の確実な措置と多様なファンディングの拡充
  2. 学術研究基盤の着実な整備の支援
  3. 世界的研究教育拠点の一層の整備支援と世界で活躍できる若手研究者の育成
  4. 国際的に開かれた大学等づくりの推進と学際的・学融合的研究分野の推進

(1)基盤的経費の確実な措置と多様なファンディングの拡充

 今後、各大学等がその優れた研究若しくは特徴的な研究を推進し、学術研究推進戦略に基づき、個々の研究者を活かす取組みを展開していくためには、安定的に一定の財源が確保されることが必須の前提条件となる。大学等において財源を多様化する努力は当然必要であるが、財政の先行きが不確実なままでは、長期間を要する学術研究活動に対して計画性を持って人材・組織の確保や研究基盤整備等の基礎投資を行うことができない。
 このため、国においては、今後とも、国立大学等には運営費交付金及び施設整備費補助金、また、私立大学には私学助成といった基盤的経費を確実に措置することが必要であり、その一環として、運営費交付金において特別教育研究経費の果たす役割の重要性を十分に踏まえた措置が求められる。公立大学については、設置者である地方公共団体等の判断に基づく財政措置の充実を図ることが必要であり、国としても地方公共団体等に積極的に働きかけていくことが望まれる。私立大学は、独自の建学の精神により多様で特色のある研究活動を行っており、私立大学のポテンシャルをさらに活かすことが我が国の学術研究の推進に大きな意義を持つことから、私立大学における人件費や研究環境の整備を支援し、学術研究の高度化に適切に対応するため、私学助成を引き続き充実していくことが必要である。

 競争的資金のうち、科学研究費補助金は学術研究を支える基幹的な研究費であり、科学研究費補助金がより多くの優れた研究に配分されることは、研究の多様性を確保する上で不可欠であることから、科学研究費補助金の一層の充実を図る。その際、すべての研究種目において間接経費を早期に措置することが必要である。

 また、独立行政法人日本学術振興会は、特に科学研究費補助金の配分審査において重要な役割を果たしており、日本を代表するファンディングエージェンシーに相応しい取組みが鋭意進められてきているところである。今後とも、このような位置付けが一層明確なものとなるよう、現在、国で交付を行っている研究種目の移管について、同振興会における体制整備の状況を検討しつつ、諸条件の整ったものから順次移管を進めることが必要である。また、同振興会においては、研究分野の多様性を発展させる方向での審査員の選任方法の改善等について検討がなされているが、国は、科学研究費補助金における審査・評価体制の強化等について、引き続き支援することが必要である。

 なお、独立行政法人科学技術振興機構による戦略的創造研究推進事業や国の科学技術振興調整費等のトップダウン型の競争的資金による研究も、研究者や大学等の自主的な判断で実施されることにより、当該大学等における特定の研究分野を大きく発展させ、大学院学生を含めた新しい研究人材の育成につながるものであることから、今後ともその拡充が必要である。また、省庁横断的に多数の機関が参画して行われる国家プロジェクトは、研究機関のポテンシャルを高める上でも重要であり、委託先の公募と厳格な審査を通じて、独立行政法人のみならず大学等の研究者・研究組織の参加を促進することが望まれる。
 さらに、大学等が自ら財政基盤の強化を図り、研究教育活動を確実に実施できるよう、米国の大学等に比べ寄附金が少ない現状等を踏まえ、寄附金控除に係る制度の見直しなど大学等に対する寄附促進のための必要な措置を講ずる必要がある。

(2)学術研究基盤の着実な整備の支援

 学術研究基盤は、科学技術創造立国を標榜する我が国に不可欠な国家的インフラストラクチュアであり、その着実な整備がなされるよう大学等に対する適切な支援をしていくことは国の重要な責務である。特に、知の拠点として、国際的に見ても世界一流の人材が魅力を感じるような品格のあるキャンパスの整備は重要である。
 また、個々の研究者の研究効率を高めるためには、必要な施設・設備、情報インフラ等の整備と、研究者がそれらを必要に応じていつでも自由に使えるような仕組みの構築が必要である。さらに、研究者・学生同士が常に刺激を与え合うような環境を構築する上で、宿舎等交流施設の確保も重要である。
 このため、各大学等が順次計画的に研究基盤を整備できるような支援が必要である。

(研究施設の整備の支援)

 国は、耐震性等に問題のある施設整備について緊急に対応し、安全・安心な研究教育環境への再生を図るため適切に支援するとともに、研究教育環境の高度化を目指し、卓越した研究拠点の整備、人材育成機能を重視した基盤的施設の整備等に重点化した整備の支援を図ることが必要である。
 国立大学等に対しては、上記の課題に対して効率的・効果的に対応するため、施設整備5か年計画を引き続き策定し、重点的・計画的に整備が図られるよう支援をする必要がある。また、計画を着実に実施するため、施設整備費補助金の拡充など財源の確保に努める必要がある。併せて、各大学等における施設マネジメントの努力を積極的に評価することが重要である。
 また、公立大学においては、設置者である地方公共団体等の判断に基づく財政措置の充実を図ることが望まれ、その際、研究施設や研究設備等の基盤の整備に関する基盤的経費と政策課題等に対応し重点的に整備すべき研究基盤に関する経費の適切な組み合わせについて検討することが求められる。
 さらに、私立大学に対しては、学術研究面での貢献にも期待が寄せられているものの、研究施設面の改善が十分進んでいないことにかんがみ、優れたポテンシャルを有するものには私学助成による施設整備への支援の充実を図るとともに、補助率引き上げの措置を講ずることが求められる。

(研究設備の整備の支援)

 国は、研究設備が全体的に老朽化・旧式化し、研究に必須の設備も不足する現状にかんがみ、運営費交付金や私学助成等による研究設備の整備への予算措置等において、各経費の特性を踏まえながらも、共通の観点に基づく研究設備の整備を実施すべく、可能な限りそれぞれの制度の改善に努力することが必要である。また、競争的資金等の国公私立大学を通じた競争的・重点的な支援など、多様なファンディングシステムの活用を促進することが必要である。
 国立大学等に対しては、中長期的な視点の下で、法人の研究の個性・特色や研究の方向性を活かした計画的な設備整備に対する「設備マスタープラン」に基づいた設備整備を支援することが前提となるが、国は、学術政策上の必要性を勘案して、より効果的な設備整備への支援を行うことが必要である。
 また、私立大学に対しては、私学助成による設備整備への支援の充実を図るとともに、補助率の引き上げの措置を講ずることが必要である。

(学術情報基盤の整備の支援)

 国は、コンピュータやネットワーク、学術図書資料等の学術情報基盤に関わる情報戦略を作成し、それに基づいた整備を行う国立大学等に対し、学術政策上の必要性を勘案して、より効果的な支援を行うことが必要であり、私立大学に対しても、私学助成による支援の充実により、学術情報基盤整備の推進を図ることが必要である。
 また、研究の動向を正確に把握するとともに、他で行われていない真に独創性のある着想かどうかを研究者自らが確認しながら研究に取り組めるよう、科学研究費補助金における研究成果等のデータベースを充実する等の環境整備が必要である。
 さらに、国は、我が国の学術論文・雑誌の国際的な流通を推進するなど、研究活動・成果に関する国際的な情報発信を支援することが必要である。

(知的基盤の整備の支援)

 国は、国立大学等に保存されている生物遺伝資源等の研究用材料や計測データ等の知的基盤の喪失・散逸を防止し、今後必要となる知的基盤を新たに整備するとともに、知的基盤の利便性や利用価値を維持・向上させるために必要な体制を構築するため、国立大学等における知的基盤整備の支援を図ることが必要である。

(3)世界的研究教育拠点の一層の整備支援と世界で活躍できる若手研究者の育成

(世界的研究教育拠点の一層の整備支援)

 国公私立大学を通じて、世界的な研究教育拠点の形成を重点的に支援し、国際競争力のある世界最高水準の大学づくりを推進する「21世紀COEプログラム」は、各大学の個性や特色に応じた拠点づくり、大学全体の教育研究活動の活性化、学長を中心とした全学的観点からの大学づくり、大学院博士課程在籍者等を対象とした高度な人材育成の推進等の観点から効果の大きいプログラムとして、各方面から高い評価がなされている。
 このような拠点をさらに発展させるためには支援の継続性が重要であり、国は、ポスト「21世紀COEプログラム」について、国際的にも真に評価される拠点の確立、大学院教育の実質化の推進等の観点も踏まえ、より充実・発展した支援方策の検討が必要である。
 また、トップダウン型の研究プロジェクトにおいては、「21世紀COEプログラム」等で形成された大学等の研究拠点への委託についても考慮することが重要である。
 大学共同利用機関や国立大学の全国共同利用型の附置研究所・研究施設は、そもそも関連学会や研究者組織等からの要請を受け、全国の研究者が集まって集中的な研究を行える場として設置されているものであり、研究設備の共同利用、共同研究、研究者交流等の進展により、研究活動全体の活性化や新たな学問分野の創出も期待できることから、これら共同利用機関等については引き続き適切な支援が必要である。

(世界で活躍できる若手研究者の育成)

 我が国の国際競争力を維持するためには、特にアジアにおける立場を考えた場合、優秀な人材の確保は国家的な課題である。とりわけ世界で活躍できる人材として、優れた若手研究者を育成していくことは、我が国の学術研究の将来にとって最重要課題である。そのためにはまず、大学院博士課程在籍者について、その経済的負担を欧米先進諸国並みに軽減していくことが、優秀な人材の確保にとって重要である。これまで国は、大学院博士課程在籍者等については、独立行政法人日本学術振興会の特別研究員制度や基盤的経費である運営費交付金や私立大学等経常費補助金に加え、「21世紀COEプログラム」等の競争的資金によってもTA(ティーチング・アシスタント)やRA(リサーチ・アシスタント)等として支援を行ってきたところであり、引き続きこれらの支援の充実を図ることが必要である。
 さらに、大学等が自らの判断により、将来研究者としての活躍が嘱望される大学院学生に対して奨学金を始めとした経済的支援を図れるよう、国として大学等に対する支援の充実が必要である。

 併せて、大学院博士課程が研究者として自立して研究活動を行うに足る高度の研究能力と、その基礎となる豊かな学識を養う課程として教育の実質化を推進するよう、国は「魅力ある大学院教育」イニシアティブにおいて意欲的かつ独創的・先端的な大学院教育の取組みを重点的に支援していくことが必要である。

 また、国としては、柔軟な発想が期待できる若手研究者が旺盛な知的好奇心・探究心を存分に発揮し、自立して研究を行える環境を確立できるよう、個々の研究者と大学等を支援し、研究の多様性を促進することが必要である。特に若手研究者が大学等で職を得たばかりのスタートアップの時期を適切に支援することが重要である。
 このため、国は、大学等に採用されたばかりの研究者で、特に優れた研究計画を有する者のスタートアップを研究費の面から支援するため、科学研究費補助金に新規採用の時期に合わせて公募する仕組みを新たに設けることが必要である。また、若手研究者の活躍の機会の拡大を図るため、若手研究者が自立して裁量ある研究を行える仕組みが導入されている大学等においては、他の参考となるように先導的取組みについての支援が必要である。

 若手研究者がキャリアアップしていく際に、研究と出産・育児との両立が障害となり、将来的に有望な研究者が研究を断念することは国家的な損失でもある。科学研究費補助金においては、既に研究者の育児休業等による研究の中断・再開を認める措置をとっているところであるが、さらに育児休業等により研究活動を中断していた者が研究現場に復帰する時期に合わせて、通常の公募時期とは異なる時期に応募できる仕組みを新たに設けることが必要である。また、国においては、優れた若手研究者が出産・育児による研究中断後に円滑に研究現場に復帰できるよう橋渡し的な研究支援の仕組みを検討することも必要である。

 また、優秀な人材の育成や新たな研究分野の開拓を推進するためには、研究者の流動性を促進することが必要である。大学等間の協定に基づく研究者の短期的な相互交流や、大学等と独立行政法人との間での研究者交流も効果が大きいが、さらに流動性を高めるためには、国立大学等間、国立大学等と独立行政法人との間等における退職金等の処遇面において大きな不利益が生じないような仕組みの整備を図るための検討が今後必要である。

 これらの取組みも含め、国としては、特に大学院レベルでの国際的に有為な人材の育成に留意しつつ、若手研究者に対する支援の体系化、充実を図っていくべきである。

(4)国際的に開かれた大学等づくりの推進と学際的・学融合的研究分野の推進

(国際的に開かれた大学等づくりの推進)

 各大学等が学術研究推進戦略を構築し、自らの持つ優れた研究、若しくは特徴的な研究分野を推進しようとする際には、大学内部にのみ視点を集中する傾向がある。しかしながら、学問の発展のためには異分野や異文化との相互作用が不可欠であり、国は、国際的に開かれた大学等づくりに向けた国内外の大学等間連携を促進するような支援が重要である。
 また、国際的な研究水準を追求し、我が国に海外の優秀な研究者の力を集めて研究を行うには、特にアジア地域の研究者との共同研究を促進する国際的な大学等間連携を国としても支援することが重要である。このため、独立行政法人日本学術振興会の先端研究拠点事業等により、国内の大学等における研究拠点と海外拠点との間の国際的な連携を支援することが必要である。その際、知的財産保護や知の流出への留意が重要である。

 さらに、国は、我が国の大学等が海外との大学・研究機関との間において若手研究者の交流やフォーラムの開催等を円滑に行うことができるよう、独立行政法人日本学術振興会の海外拠点等を通じて、大学等間の連携を図るための機能を整備し、情報面や人材ネットワーク形成の面などでの協力を促進することが有効である。また、大学等としての国際戦略の下に、学内の各種研究組織を有機的に連携した全学的、組織的な国際活動の取組みを適切に支援することが必要である。

 なお、海外の優秀な留学生が日本の大学等を舞台として研究教育に活躍することは、日本の若手研究者の育成の観点からも重要である。今後、国としても、海外の優秀な留学生の受け入れについて適切に支援するとともに、大学院の課程修了後も能力の高い外国人が研究者として我が国の学術研究の発展に引き続き貢献できるような環境整備を図っていくことが必要である。

(学際的・学融合的研究分野の推進)

 学際的・学融合的研究分野の推進は、新しい研究分野の発展や社会への要請の解決等に資するものであり、国としても適切な支援が必要である。

(人文・社会科学の振興と統合的研究の推進)

 人文・社会科学は、着想を温め成熟させる過程や長年の学問的な蓄積が重要な意味を持つ場合も多いなど、その学問的な特質から、自然科学とは異なる推進方策を検討することが必要な分野である。若手研究者が鋭いひらめきに基づく分析的な研究で新境地を切り開く場合もあるが、中堅以上の研究者が全体を洞察した大胆な研究によってパラダイムの転換をもたらすことも少なくない。

 我が国の人文・社会科学分野の研究全般については、研究領域の専門化・細分化が進み、ある社会現象を正確に分析する力には優れているが、大局的な見地に立った現代社会への提言や大胆な仮説が少なくなったと言われている。人文・社会科学分野の活性化と理論的な発展、新分野の開拓のためには、強みである分析力を活かしながら現実的諸課題に解決への示唆を与えていくような統合的研究が重要である。
 例えば、独立行政法人日本学術振興会では、現代的課題の解明と対応に向け、人文・社会科学分野を中心とした各分野の研究者が協働して、学際的・学融合的研究分野に取り組む課題設定型プロジェクト「人文・社会科学振興プロジェクト研究事業」を推進しており、このような取組みが引き続き必要である。
 また、統合的研究をさらに推進するためには、世界諸地域に関する歴史・文化・政治・経済等の総合的な研究と情報の蓄積を行う複合領域としての「地域研究」が重要である。国は、大学等におけるこのような「地域研究」に関するネットワークの形成や研究情報を集約・共用する取組みを支援するとともに、特にアジア、イスラム圏等について政策的・社会的ニーズに対応した研究プロジェクトを新たに振興することが必要である。

 また、地球環境問題や生命・倫理問題、科学技術の負の側面等の現代的課題への対応には、人文・社会科学と自然科学との学際的・学融合的協働がとりわけ必要となっており、人類の根源的な課題について批判的に問い続けてきた人文・社会科学の側から積極的に取り組むことが必要である。

 なお、人文・社会科学分野のうち、特に人文学分野には例えば美術・芸術や言語学・文献学等必ずしも統合的研究やプロジェクト型の研究推進になじむとは限らない分野もあることから、国は、このような分野の推進についてもきめ細かい配慮が必要である。

お問合せ先

研究振興局振興企画課学術企画室

(研究振興局振興企画課学術企画室)