3.本格運用に向けた課題

 前述のとおり、アルマ計画における国立天文台担当分の進捗が順調であることを確認できた。この際、我々アルマ計画評価作業部会として、この計画に投下される大きな資源が最大限の効用を発揮できるよう、本格運用に向けた課題を以下に記す。

(1)適切な規模の運用経費の確保

 アルマ計画においては、装置等の開発・製造に加え、チリ現地のアルマ観測所の運用、製造を担当した装置の保守及び各アルマ地域センターの運用が、それぞれ適切に行われる必要があることから、アルマで科学的成果を生み出すためには、適切な規模の運用経費の確保が必須である。
 また、干渉計という装置の特徴として、全ての装置が揃わずとも、完成した一部のアンテナ群を用いた部分運用(初期科学運用)が可能であり、この段階で、既にアルマは世界最大のサブミリ波望遠鏡となる。この初期科学運用の段階においても、世界最高水準の研究成果を生み出すことは十分に可能であり、それを実現するためには、年度計画の進捗に伴って必要となる適切な規模の運用経費を確保することも必要である。

(2)幅広い学問分野への波及

 アルマを用いた研究は、天文学分野にとどまらず、惑星科学、分子科学や宇宙生物学など幅広い学問領域への展開が期待されている。我が国においてアルマを使う研究者は、およそ1,000名程度、そしてその半数以上は電波天文学以外の研究者であると見込まれている。このため、電波天文学以外の分野の研究者に対する研究支援サービス(アルマを用いた観測の実施及び得られた観測データの解析支援)など、幅広い学問分野の人々が十分に使いこなせる環境の構築に努めることが必要である。

(3)日本及びアジア地域全体の研究体制の確立

 研究者が現地に赴かない「サービス観測」を特徴とするアルマ計画にあって、日米欧に置かれる地域センターは、各地域の観測支援のとりまとめだけでなく、実質的な研究成果の発信拠点であり、アルマ計画の成否の鍵を握っているといっても過言ではない。このため、「アルマ東アジア地域センター」が所期の役割を果たすことができるよう、建物の整備計画の進捗に最大限の意を配るとともに、将来に渡って適切な運営が行われるよう努力する必要がある。

(4)研究成果の国民への還元

 アルマ計画における我が国の分担はおよそ総額256億円(運営費除く)であり、その原資は国民の税金(日本の総人口で割ると国民一人当たり概ね200円の負担)である。したがって、望遠鏡や観測装置は国民共有の財産であり、そこで得られる研究成果は、国民に還元されるべきものである。アルマの運営に当たっては、このことを常に念頭に置き、世界最高水準の研究成果を生み出し、その成果を国民一人一人にわかりやすく伝えていかなければならない。国立天文台を始めとする関係者のさらなる努力を強く期待したい。

(5)技術・ノウハウの社会への還元

 アンテナや受信機などの機器等の開発・製造の過程においては様々な知見が得られるが、世界最高性能であるがゆえに直ちに社会で使えるものは多くはないかも知れない。しかしながら、例えば野辺山でその性能が実証された「電波信号増幅素子」が、後に衛星放送受信用のパラボラアンテナに利用され多くの家庭に普及した実績を鑑みると、技術やノウハウについても必要に応じて権利化するなど適切な取扱いに配慮する必要がある。社会での活用が進むことを期待したい。

(6)国民理解のさらなる醸成

 我が国から遠く離れた場所で建設が進むアルマ計画は、日本国内からはその意義や活動が見えにくくなる可能性がある。国立天文台では、これまでもホームページや講演会などを通じて情報提供に努めてきているところであるが、必ずしも「すばる望遠鏡」のように多くの国民に知られているわけではない。今後は、マスコミへの取材支援の充実・周知や、多くの国民が参加できるイベントの実施等多様なチャンネルにおける活動を展開するなど、なお一層の国民の理解を得ていくための努力が必要である。

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研究開発局参事官(宇宙航空政策担当)付

(研究開発局参事官(宇宙航空政策担当)付)