3.緊急に対応が必要な事項

3.(1)学内理解の必要性

(ア)大学図書館の位置付けの明確化

 先に1.(1)の大学図書館の基本的な役割で示したように、大学図書館については、大学の教育研究活動を支える重要な学術情報基盤であることを学内で明確に位置付け、大学として学術情報基盤に関わる情報戦略を持つことが必要であり、その場合、例えば大学図書館が大学の情報戦略についてイニシアティブを発揮することが考えられる。

(イ)財政基盤強化の必要性

 大学図書館機能を維持・向上させるためには、全学的な図書館活動が一体的に管理・運営され、必要な図書館予算が確保される安定的な財政基盤の確立が重要である。そのためには、大学図書館活動の総合的管理及び連絡調整に当たる本館(中央館)の機能を一層高めるとともに、図書館活動に対する役員会を始めとする全学的な理解を得ることが重要である。
 このためには、例えば、外国雑誌等を含む蔵書収集方針を経費支弁の方法も含めて提案するといった形で大学図書館がイニシアティブを発揮することや、学内経費に限らず、各種外部資金獲得に向けた積極的な取組みも必要である。

(ウ)共通経費化することの必要性

 図書館資料の購入費を確保するためには、例えば共通経費として大学予算全体の一定の割合を充当するといったシステムを構築することが一つの有効な手段である。とりわけ、価格上昇を続ける外国雑誌や電子ジャーナルの購入経費を確保するためには、今後の値上りを見越し、予算確保に向けた取組みが必要である。

3.(2)電子化への積極的な対応

(ア)利用者ニーズへの対応

 電子化の急速な進展に適切に対応するため、電子的資料についての学内の研究者・大学院生等の利用者のニーズを的確に把握し、その効果的・効率的な利用について戦略的に対応していく必要がある。

(イ)大学の特色等を活かした貴重書等資料の電子化支援

 地域で形成されている歴史文書等を大学図書館で電子化し、公開する等、地域連携、教育研究の高度化のための貴重資料の電子化とメタデータ付与も積極的に進める必要がある。

(ウ)戦略的な紙媒体の収集・保存の必要性

 従来型の紙媒体による資料の収集・保存・提供体制について、電子媒体とのバランスをはかりつつ、図書館としての機能強化に努めることが必要である。この場合、学術図書資料の安定的な供給を行うという視点から、例えば、特定の分野ごとに紙媒体資料の収集拠点を戦略的に設定し網羅的に収集することも考えられる。
 また、酸性紙対策や虫害対策の1つの方法として、電子化を図ることを考慮する必要がある。

(エ)狭隘化等への対策としての電子化

 自然科学系研究者が学術論文を入手する手段としては、電子ジャーナル等によるものが中心となりつつある。1.(3)で述べた書庫狭隘化への対応として、自然科学系の学術雑誌の電子ジャーナルアーカイブ導入によって、書庫の大きなスペースを占めるこれらのバックナンバーとの置き換えを行うことが考えられる。

(オ)電子情報の脆弱性への対応

 電子情報については、従来からその脆弱性や不安定性、移行(マイグレーション)に伴う経費の確保等の課題が指摘されているところであり、この点についても関連する研究の動向の把握とともに、適切な対応が必要である。

3.(3)大学図書館における基盤設備の整備の必要性

 1.(3)で述べた書庫狭隘化への対応としては、自動書庫及び集密書架などの整備充実を図ることが施設増築経費の節減といった点からも有効である。また、休日開館や24時間開館といった時間外開館の対応などにより、多様な利用者ニーズに応え、教育研究の活性化や地域貢献にも資することとなる自動入退館システム及び自動貸出返却装置の整備も必要である。これらの設備整備に当たっては、大学等において設備マスタープランのような戦略的なビジョンを立てる必要がある。

3.(4)大学図書館間連携の一層の推進

 大学図書館の本来の目的である、教育研究上必要な資料を系統的に備えるために、各図書館においては着実な学術図書資料の収集とともに、各大学の特色を活かした資料の体系的な収集・保存に努めることも重要である。この場合において、大学図書館間の連携の促進を図ることも重要である。
 さらに、資料の重複を避けるとともに、有効な資料の利用という観点から、特定の大学図書館が集中的に特定分野の資料を収集・保存し、他の図書館へ提供することが考えられ、既存の大学図書館等について全国共同利用の拠点としての機能を持たせることも考えられる。
 大学図書館間の連携の基盤となる制度の一つとして、国立情報学研究所が提供する目録所在情報サービスがあり、このシステムにより、全国の大学図書館等にどのような学術文献が所蔵されているかが即座にわかり、それをもとに図書館間で図書や雑誌論文を迅速に相互に利用しあうことができ、業務の効率化にも資することになっている。図書館経費の問題や狭隘化対応を考える場合、今後もILLを活用したより一層の図書館間連携が必要である。
 国立情報学研究所が推進する目録所在情報サービスについては、総合目録データベースの維持に関する関心度の低下など、いくつかの問題点も指摘されており、共同分担・相互利用などに関する価値観が変化していることを踏まえ、学術情報流通におけるNACSIS-CAT/ILLの役割を再評価し、新たなビジョン・理念を打ち出す必要がある。
 なお、2.(4)で述べた目録所在情報サービスの問題点を解決するため、「国公私立大学図書館協力委員会常任幹事会と国立情報学研究所との業務連絡会」の下に「書誌ユーティリティ課題検討プロジェクト」が設置され、調査・分析を行い、平成17年夏までに「課題解決に向けた提言」をとりまとめる予定としている。

3.(5)大学図書館と社会・地域との連携の推進

(ア)大学の学術情報発信拠点としての図書館

 今後、我が国が知的財産立国を目指すためには、知の創造と活用を図ることが重要であり、我が国の研究資源の多くを有する大学にあっては、研究成果等を積極的に発信し、社会に還元することが強く求められている。
 大学は我が国の多くの研究資源を有する機関であり、その研究成果等を積極的に発信することは学内の教育研究活動を活性化させるだけでなく、我が国の学術情報の円滑な流通や社会貢献の観点からも重要である。
 これまでも、大学図書館は学位論文や研究紀要等の学内で生産された学術情報を収集、組織化と提供を行ってきたところであるが、学術情報の収集力の強化はもちろんのこと、学内で生産された学術情報の組織化と発信力をより強化することが必要である。
 特に、現在、大学内の研究者・教員が生産する研究成果、教育用資料等が最初から電子的形態を持つことが一般化しつつある中で、学内で電子的に生産される研究成果、過去の資料を電子化した資料、電子的教材などを、図書館等が中心となり蓄積保存し、メタデータを付すことによってインターネットを通じて利用者の便に広く供する「機関リポジトリ」への取組みが、教育研究活動を一層推進し、大学からの情報発信を強化するための方法として、世界的規模で進みつつある。わが国においても、いくつかの大学で取組みが始まったところであり、大学からの情報発信力の強化や、大学の社会に対する説明責任の履行の観点からは、一つの有用な手法であると考えられる。

(イ)地域社会への貢献

 大学と地域社会や産業界との連携・交流の強化を図ることは、大学がその知的資源をもとに社会の発展に貢献し、大学の教育研究の活性化にもつながることから、積極的に推進すべきである。このような地域社会との連携・交流については、大学図書館においては、一般市民に対する図書館の開放や公共図書館との資料の相互利用といった取組みが進んでいるが、今後は資料の相互利用に留まらない、大学図書館職員が有する専門的知識を有効活用した取組みも必要である。
 こうした公共図書館等との協力関係が発展して、地域協働型の図書館ネットワークを構築することが望ましい。

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研究振興局情報課 学術基盤整備室

(研究振興局情報課 学術基盤整備室)