1.大学図書館の現状

1.(1)大学図書館の基本的な役割

 大学図書館は、大学本来の目的である高等教育と学術研究活動を支える重要な学術情報基盤であり、大学にとっては必要不可欠な機能を持つ大学の中核を成す施設である。そこでは、大学において行われる教育、研究に関わる学術情報の収集、蓄積、組織化が行われ、蓄積された学術情報は、検索可能な形で公開されることにより、社会の共有財産となる。これらの学術情報の活用により、大学は、教育や社会貢献活動を通じて人材養成に貢献するとともに、一層の研究活動を促進する。この知のサイクルにより、学術情報は大学の教育研究活動を一層活性化するという特徴を持つ。
 教育の側面からみると、大学の教育はそもそも教室における講義と、その前後における学生自らの学習をあわせて成り立つものであり、学生が図書資料を活用しながら自ら学習する場として、大学図書館の役割は極めて重要である。これらの教育研究支援が大学図書館の学術情報基盤としての基本的な役割である。
 大学図書館は、今日、電子ジャーナルに代表される電子情報とインターネットの普及により、多様化し、増大する各種情報を利用者である学生、教職員に効果的、効率的に提供し、また必要とされる情報関連のサービスを組織として行うことが重要となっている。
 学術情報の電子化が進み、情報流通形態が歴史的変革を遂げ、また利用者の情報利用行動が大きく変わりつつある中で、大学図書館の活動には新たな役割が求められており、その成否がまさに各々の大学ひいては我が国全体の教育研究における国際競争力を左右する重要な要素となっている。

1.(2)電子化の急速な進展

(ア)電子ジャーナル、資料の電子化等の状況

 電子ジャーナルの普及、所蔵資料のデジタル化等、学術情報流通における電子化については、この10年程度の間に急速に進展しつつあり、この傾向は今後一層顕著になると思われる。
 例えば、図書館におけるホームページの開設・サービスの提供は、国立大学で100パーセント、公私立あわせても9割近くに達しており、電子ジャーナルの総購読タイトル数は、平成15年度においては全大学で延べ85万タイトル、国立大学では1大学当たり約4,900タイトル、最多で14,000タイトルに達している大学もある。このような電子化の進展に大学図書館としても適切に対応していくことが必要である。
 また、所蔵資料のデジタル化についても、貴重資料を中心に、保存と有効活用の観点から、取組みがなされているところである。

(イ)電子化の新たな波

 最近、海外の一部の検索サービス会社が、海外の複数の大学図書館等の蔵書を電子化し、検索エンジンを用いてインターネットから全文検索できるようにしようとするプロジェクトを開始したと報じられている。こうしたプロジェクトにより、学術情報へのアクセスが格段に向上することも予測され、こうした動向について今後十分に注視していくことが必要である。

1.(3)増大する大学図書館の負担

(ア)収蔵スペースの狭隘化

 大学図書館においては、図書資料の保存スペースの狭隘化が深刻な状況にある。これは、新たな書庫等の増築や各種保存設備の導入が予算上の理由から困難なことに加え、情報量の爆発的な増大による出版物の増加、退職した教員の研究室に保管されていた図書資料等が図書館に返却されることなど様々な理由が考えられるが、今後ますます深刻な問題になることは確実な状況にある。
 収蔵スペースの狭隘化については、一般に書架収容率の70パーセントを超えた場合には、新刊書の排架に困難を来たすといわれているが、国公私を通じた大学全体の平均収容率は約90パーセント、特に国立大学においては既に110パーセント近くに達し、中には収容率150パーセントを超える大学などもあり、憂慮すべき事態になっている。
 このような狭隘化により、分類に沿った排架ができなくなり、利用者の資料へのアクセス環境が悪化するのみならず、資料自体の適切な保管もできなくなるなど狭隘化のもたらすデメリットは計り知れないものがある。

(イ)国立大学法人化等による変化

 大学においては、人件費その他の経費の節減が進む傾向にある一方、大学図書館では開館時間の延長、その他さまざまな業務の多様化及び高度化に伴う実質的な業務の増大が続いている。
 特に国立大学においては、平成16年4月の法人化に伴い、それまで国立学校特別会計の中で配分されていた大学図書館関係の経費は運営費交付金の基礎額として配分されているが、全体として毎年1パーセントずつの効率化係数がかかることとなる。

(ウ)学術論文誌の価格の上昇

 外国の出版社等が発行する学術雑誌の価格は、1980年代以降、一貫して上昇を続けており、並行して発行される電子ジャーナルの価格についても同じ傾向にある。これにより図書館資料費が圧迫される状況にある。
 自然科学系の分野を中心に急速に普及している電子ジャーナルの価格水準は、紙媒体の雑誌価格をもとに設定されたものが多いが、それぞれの出版社との個別の契約により価格が設定されるため、標準がないに等しい状況となっている。このため、国立大学図書館協会や私立大学図書館コンソーシアムの例にみられるように、大学図書館間でコンソーシアムを形成し、出版社と価格と契約内容等について、より有利な条件を獲得するための交渉を行い、成果を挙げてきている。しかし、このような大学側の努力により価格の上昇はやや落ち着いてきたものの、外国雑誌のカタログ価格はなお毎年10パーセント近くの上昇が継続しており、上記のような大学側の努力にもかかわらず現在のタイトル数の維持が困難になることも予想される。

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研究振興局情報課 学術基盤整備室

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