3.最先端学術情報基盤の実現に向けて

 以下では、「最先端学術情報基盤」の実現に向けたコンピュータ・ネットワークにおける緊急に着手すべき事項、及び具体的な指針を提示すべく今後も引き続き検討が必要な中長期的課題に分けて記述する。

3.1 緊急に着手すべき事項

(1)大学等における学術情報基盤の整備計画の必要性

(ア)コンピュータ及びネットワークの持続可能な整備・運用計画の作成

 大学等においては、学内の情報基盤整備に関わる情報戦略を持つことが重要であり、その中で人員の適切な配置も含めたコンピュータやネットワークの持続可能な整備・運用計画を作成し、それに基づいた整備を行っていく必要がある。
 文部科学省においては、国立大学法人化の趣旨を損なうことのないよう、また国の厳しい財政状況の中で学術研究を推進する必要があることから、そのような計画を作成し、それに基づく要求を行う国立大学法人等に対して支援を行うことが考えられる。

(イ)大学等におけるニーズに基づいたサービスの提供及びそのための工夫

 今後、大学等で教育・研究用のコンピュータやネットワークを更新するにあたっては、画一的な性能向上のみを基準にするのではなく、実際の利用者規模や利用ニーズを的確に把握することが何よりも重要であり、そのことは、上記の持続可能な整備・運用計画を作成する上でも不可欠である。実際にサービスを提供する際にも、この利用者規模や利用ニーズに基づいたサービスを行うことが重要である。例えば、学内の大規模計算に対する数少ないニーズに応えるために中途半端な規模のコンピュータシステムを導入するよりも、経費の有効活用の観点から、学内におけるネットワーク環境整備へ重点化を行い、他大学の情報基盤センター等のスーパーコンピュータを活用するなどの工夫が必要である。

(ウ)学術情報基盤におけるコンピュータ・ネットワークの整備・運営にかかる組織体制の充実

 大学等においては、全学の情報システムの一元化・集中化、業務改善・業務高度化の推進、人材確保・専門家養成、全学的な情報セキュリティの確保等、総合的に企画立案する組織の設置を含め、学内の組織体制について検討する必要がある。コンピュータやネットワークにおける技術進歩は急速であり、学内における良好なサービスを提供していくためには、最先端の研究開発を進める教員と実際の運用を担当する技術職員等のバランスの取れた配置が求められる。また、このような組織にあっては、上記のマネジメントができる人材や必ずしもアウトソーシングができない業務などを切り分ける能力を持つ人材の確保が重要であり、そのような人材の育成にも取り組む必要がある。

(エ)整備の仕組みの必要性

 文部科学省においては、国立大学法人運営費交付金の特別教育研究経費の特別支援事業経費等の中でコンピュータやネットワークの整備が可能となるような仕組みを検討する必要がある。

(2)効率的で安心・安全な学術情報ネットワークの整備

(ア)次世代学術情報ネットワークの構築

(1)国際的な趨勢に見合った能力の確保

 次世代の学術情報ネットワークにおいては、研究活動における海外との競争・協調を促進するためにも、国際的な趨勢に見合った最大通信速度40ギガビット・パー・セコンド以上の基幹ネットワークの整備につき検討を開始する必要がある。

(2)最先端の研究を支える能力の確保

 現在、大部分のSINET接続機関の回線速度については、一機関あたり100メガビット・パー・セコンド以下であるのに対し、一般家庭にも100メガビット・パー・セコンド以上の光ネットワークによるブロードバンドサービスが提供されつつある。学術情報ネットワークとしては、ネットワークの高速化及び情報技術の進展に伴い、遠隔講義やe-Learningにおける画像データや研究における大量のデータの送受信等新たな教育・研究手法に必要な通信回線速度の確保が必要であり、一機関あたり最低でも1~数ギガビット・パー・セコンドの通信速度が必要である。
 また、例えば国立天文台と複数の大学等の間でデータを送受信することにより共同研究を進める天文学分野のような、高速回線が必要な教育研究活動については、学内LANや学内LANと学術情報ネットワーク等をつなぐ回線の通信速度が低いことによるボトルネックが生じないようにする必要がある。

(3)柔軟かつ効率的な回線設定や速度の変更の実現

 学術情報ネットワークはより効率的な運用を求められており、そのためには、回線設定や速度の変更の実現が必要である。現在の学術情報ネットワークは、回線速度が100メガビット・パー・セコンド~1ギガビット・パー・セコンドのSINETと回線速度10ギガビット・パー・セコンドのスーパーSINETの2層構造となっているが、柔軟かつ効率的な運用のためには、継ぎ目のないよう(シームレス)に回線速度の変更が可能な機能を実現することが重要である。

(イ)透明性のあるネットワーク運用体制の実現

 学術情報ネットワークを整備する際には、各大学等における回線使用状況に合わせて、必要な通信速度の回線を整備していくというボトムアップ的な考え方が必要であり、広く利用者のニーズや意見を把握し、それに基づいた透明性のあるネットワークシステムの運用を行っていく必要がある。

(ウ)認証基盤の構築

 これからの最先端学術情報基盤を安心・安全に利用するためには、情報セキュリティの確保が重要であり、そのためにも認証基盤の構築が必要である。各大学等で取り組まれつつある学内認証システムを連携させて共同の電子認証を行うため、国立情報学研究所や全国共同利用施設である情報基盤センターが中心となって、そのプロトタイプとなるべき基盤を構築し、開発された技術及び得られた知見を全国の大学等へ展開することを目指す全国共同電子認証基盤構築のための取り組みが必要である。

3.2 中長期的な検討が必要な事項

 以上、当面緊急に対応すべき事項等を中心に取りまとめたところであるが、引き続き検討が必要なものとして、以下の事項があげられている。今後、その具体的な方策を検討する必要がある。

(1)最先端学術情報基盤を推進・維持する人材の育成等

(ア)人材育成の重要性

 人材は、長期的には最も重要な基盤であり、大学等においては、次世代、長期的運用を見据えて、教育研究と実務の両方を推進できるような人材を育成する必要がある。学術情報基盤におけるコンピュータやネットワークの管理・運用を業務委託(アウトソーシング)する場合においても、大学等として必要な最新かつきめ細かいサービスの提供を行うための高いスキルを持った人材を育成することが重要である。
 また、これに携わる人材のキャリアパスの在り方についても検討する必要がある。

(イ)モティベーションの維持・向上

 学術情報基盤を支える人材は、我が国の教育・研究活動を下支えしている重要なミッションを担っている。その人たちのモティベーションの維持・向上を図る方策を検討する必要がある。

(ウ)人材の評価

 コンピュータやネットワークの技術進歩は非常に速いため、情報基盤センターや情報処理センター等では、研究を担当する教員と運用を担当する技術職員が役割分担のもと連携して学内のコンピュータやネットワークの整備・運用等を行っている。このような立場の教職員は研究活動に加えてシステム開発・整備を行っているため、そのような活動に対する評価基準を検討する必要がある。

(エ)人材の流動性確保

 例えば、米国ではInternet2というプロジェクトの推進に多大な貢献を行った者がNSFの職員やベンチャー企業の社長になるというような流動性があるが、我が国におけるそのような流動性については、事例はあるものの認知度はきわめて低い。また、技術職員の職務上のステップアップを図るうえで、大学等、研究機関及び企業等の間で技術職員の交流を促進する方策が必要である。

(オ)テストベッドの試行

 大学等において、最先端の情報科学技術の実社会への応用を検証するプロトタイプとしてのテストベッド試行が可能な組織と人材配置が求められる。

(2)国家的観点からのハイ・パフォーマンス・コンピューティングの在り方

(ア)世界最高水準のハイ・パフォーマンス・コンピューティングの必要性

 ハイ・パフォーマンス・コンピューティング(High Performance Computing:HPC)とは、単体のスーパーコンピュータや分散型システム、それらを動かすソフトウェア等を含めた、高度の大規模計算環境を指す幅広い概念である。次世代スーパーコンピュータやグリッド・コンピューティング技術によって実現されるハイ・パフォーマンス・コンピューティングの創出は、我が国としての科学技術・学術の振興発展の機動力となりうるものであること、これにより開発される技術は、将来の多くの先端分野での利用が期待され、その波及効果が絶大であることが予想されることから、我が国として推進していくことが重要である。

(イ)情報基盤センター等におけるハイ・パフォーマンス・コンピューティングの在り方

 情報基盤センター等が画一的なスーパーコンピュータを維持するのではなく、グリッド技術等を有効活用し、各々が特徴を出しながら、ハイ・パフォーマンス・コンピューティングのための国全体の基盤を構築するという視点が必要である。このためには、グリッド、認証基盤等の基盤的ソフトウェアの継続的な研究開発が望まれる。また、単なる演算速度の速さだけではなく、利用者にとっての使いやすさなどの多様な視点からの考慮が必要である。

(ウ)有機的連携の必要性

 我が国の学術情報基盤を一体的なものとして考えていくためには、情報基盤センター等の間のみならず、ハイ・パフォーマンス・コンピューティングのための計算機を保有する他の研究機関との有機的連携を図っていく必要がある。

(3)学術情報研究ネットワークの有機的連携

 我が国には、全国的なネットワークとして、国立情報学研究所が運用している学術情報ネットワークのほか、独立行政法人情報通信研究機構が運用している研究開発テストベッドネットワーク(JGN2)等が存在し、さまざまに行われている研究の用途に応じてネットワークの使い分けが行われている。今後さらに、これらのネットワークの研究開発動向等を見据えて、有機的な連携を図り、国際的に貢献していくことを検討する必要がある。

(4)国家的ライフラインとしてのネットワークの必要性

 学術情報ネットワークは、常時には、教育や研究のため活用されているが、地震・津波・台風などの非常時の際には、商用と切り離されたライフラインとして機能する場合もありうる。例えば、平成7年1月に発生した兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)では、学術情報ネットワークが被害状況や安否情報を提供するために利用された例がある。
 平成17年4月に、日本学術会議より「大都市における地震災害時の安全の確保について(勧告)」が出されており、その中で、「大都市の広域災害時における安全確保対策として、病院船の建造や感染症対策等の救急医療体制、また、情報・通信インフラ、大深度ライフラインによる重要業務集積地域への支援体制、及び広域災害時の防犯対策などを早急に整備する必要がある」との指摘があるなど、将来的には、非常時にも対応できる商用と独立の国家的ライフラインとしてのネットワークの整備に関する検討が必要である。

お問合せ先

研究振興局情報課 学術基盤整備室

(研究振興局情報課 学術基盤整備室)

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