2.今後の方向性

2.1 学術情報基盤の在り方

(1)最先端学術情報基盤の必要性

 最先端の学術情報基盤が、今後の科学技術・学術分野や産業分野での国際協調・競争の死命を制するという認識から、これから世界に伍す研究を支えるものとして、我が国の大学等や研究機関が有しているコンピュータ等の設備、基盤的ソフトウェア、コンテンツ及びデータベース、人材、研究グループそのものを超高速ネットワークの上で共有する「最先端学術情報基盤」が不可欠という認識が重要である。また、利用者のニーズを的確に把握することによって、スタッフと利用者が連携して「最先端学術情報基盤」を推進・維持していく姿が望まれる。このためには、学術情報基盤におけるコンピュータ・ネットワークを取り巻く海外の動向、高エネルギー物理学や天文学等における先進的研究の戦略的な取り組みなども参考にしながら、「最先端学術情報基盤」の実現を目指すことが肝要である。

(2)大学等における学術情報基盤としてのコンピュータ・ネットワーク整備の在り方

 大学等における教育・研究活動や生活にとって、コンピュータ及びネットワークがもはや電気やガスといったライフラインのように不可欠のものとなっている。コンピュータに関しては、1.2(2)で述べたように、PCやワークステーション等の性能向上・低価格化によるシステム構成の変化が見られる一方、情報基盤センター等においては、スーパーコンピュータの大規模化・高速化への期待、グリッド・コンピューティングの可能性など取り巻く環境が変わりつつある。また、1.2(3)に述べたように、学内LANについては生活基盤として浸透する一方、更新時期の到来や業務の負荷等の問題が起きつつある。
 大学等においては、そのような変化を踏まえつつ、各大学等の特色や学内のニーズに即して、全学の情報システムの一元化・集中化、業務改善・業務高度化の推進、人材確保・専門家養成、全学的な情報セキュリティの確保等、学内の情報基盤整備に関わる情報戦略を持って学術情報基盤としてのコンピュータ・ネットワークの整備を行っていくことが必要である。

(3)情報基盤センターに求められる役割

 情報基盤センターは設置されている大学の学術情報基盤の中核であるとともに、全国共同利用施設としての役割を果たすことが求められる。特に、情報基盤センターが提供している大規模な計算機資源は、21世紀において我が国が科学技術創造立国としてますます発展していくための重要な生命線であると言っても過言でない。情報基盤センターは支援・基盤組織であるのみならず、情報技術に関する最先端の研究開発機関としても大きな役割を果たしており、今後の国内の情報基盤整備の方向付けを与えるものとして重要である。さらに、全国共同利用施設として、スーパーコンピュータを利用する研究者に対して、より短時間で高精度な計算結果が得られるようにするための高度なプログラミング指導などといった支援を積極的に行うことが必要である。このように、全国共同利用施設として培ってきた経験をもとに、情報分野における高度な研究・支援や当該分野を支える優秀な人材の育成などを強力に推進していくことが求められる。

(4)学術情報ネットワークの整備の在り方

 学術情報基盤を支える超高速ネットワークは、世界の動向を凌駕するような通信速度の達成を図ることはもとより、単なる物理的なネットワーク回線の整備だけでなく、全国で共通するサービスも提供していく必要がある。
 また、ネットワークを利用したさまざまな分野における先端的な研究活動の国際的なレベルを維持し、さらに高めていくため、世界に伍す学術情報基盤としてのネットワークの整備が重要である。さらに、これらの研究活動は日本国内にとどまらず、海外とも緊密な連携のもとで行われているため、ネットワーク回線の通信速度が遅いが故の研究データの送受信等に支障があってはならず、国際間の共同研究を円滑に推進するための基盤としても重要である。国立情報学研究所は、大学共同利用機関として、学術情報ネットワークを中心として学術情報基盤をレベルアップする推進原動力としての役割を果たしていく必要がある。

(5)社会との連携、社会への還元

 学術情報基盤を活用して得られた成果は、大学等だけにとどまらず、地方自治体や産業界などへ広く還元される必要がある。特に、産業界においては、国際競争力を維持・向上させるためには、抜本的にサイエンスに立ち戻る必要があるとの認識のもと、大学等における成果や資源の利用を求める声が高まってきている。そのため、これからの学術情報基盤は、スーパーコンピュータ等の計算機資源のほか、ライブラリ化されたソフトウェアや日々改良されていくソフトウェアといった生きた研究成果を公共財として広く利用を促進していく必要がある。

2.2 情報セキュリティの確保の重要性

(1)大学等に求められる情報セキュリティの確保

 情報システムが社会の必要不可欠な基盤となり、教育・研究、行政、および各種のビジネスが情報システムに依存するにつれて、情報資産および情報システムを各種の脅威からどのように守るのかが重要になる。特に、情報システムのオープン化につれて情報システムがインターネットとの接続性を高めつつあるなかで、インターネット経由のさまざまな攻撃に対して、確実に情報資産および情報システムを守らなければならない。また、平成17年4月の個人情報保護法の施行をはじめとして、情報セキュリティに対する社会の関心および期待も急速に高まっている。
 特に、昨今では、自分が意識しないうちに、不正アクセスやDoS(Denial of Service)攻撃(ネットワークを利用して標的の機器をサービス不能な状態とする攻撃)の踏み台にされるといった被害者にも加害者にもなり得る状況であるとともに、各大学等において無線LANの整備が徐々にはじめられている中で、学内で接続される個人所有のコンピュータに対するセキュリティ対策は以前にも増して重要になっている。
 このような状況のなかで、情報セキュリティの確保に万全な体制を整備しないままでいると、我が国の教育研究機関、行政および民間の情報システムにおいて重大なセキュリティ事故が発生し、個人情報や企業秘密・行政情報が漏洩することでプライバシーの保護や民間企業の存続性が危うくなるばかりではなく、我が国の対外的信用に対しても多大な悪影響を及ぼす可能性が高い。
 また、大学等と民間企業との共同研究といった連携が今後ますます増えてくる中、大学等においては情報セキュリティポリシーの確立をはじめ、組織として情報セキュリティに対する体制をきちんと整備し運用を行わないと、緊密な共同研究が困難になると考えられる。
 そこで、大学等においては、管理すべき情報と管理レベル及び管理体制に関して情報セキュリティポリシーを検討、作成する組織を早急に立ち上げ、全学的な情報セキュリティの組織的管理・運営体制を整備することが必要である。

(2)最先端学術情報基盤としての情報セキュリティの確保

 大学等における取り組みばかりでなく、我が国の大学等や研究機関、産業界などがオープンに活用できる「最先端学術情報基盤」を構築する上で、これを安心・安全に利用できる環境の構築を早急に進める必要がある。
 「最先端学術情報基盤」の実現を目指すに当たり、各大学等が有する教育・研究用計算機、e-Learning教材等の電子コンテンツ、ネットワークを学内で共有し、有効利用するのみならず、大学等の枠を超えて有効活用を図ることがますます重要になってくる。特に、これからの「最先端学術情報基盤」は、安心・安全に利用されることが求められるため、認証基盤の構築への取り組みが必要である。現在、各大学等において、稼動しているさまざまなシステムの統一的な認証を行うという動きが出てきているが、IDとパスワードによる管理に基づくものが多いため、より安心・安全な利用環境を構築するためには、電子認証に基づいた環境構築が求められる。さらに、大学等や研究機関間でもそれぞれが保有するコンピュータやコンテンツを簡便にかつ安心・安全に利用し合える環境を整備することによって、我が国全体の科学技術・学術の一層の推進を図ることができる。

(3)情報セキュリティ人材の育成

 情報セキュリティについて十分な知識・経験を有する人材は、我が国には非常に少ない。そこで、我が国における情報システムを円滑に維持・管理運営していくためには、大学における情報系の学部、研究科において情報セキュリティについて十分な知識・経験を持つ人材をできる限り早期に育成し、社会で活躍させることが必要不可欠である。

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研究振興局情報課 学術基盤整備室

(研究振興局情報課 学術基盤整備室)