1.学術情報基盤におけるコンピュータ・ネットワークの現状

1.1 これまでの整備状況

(1)コンピュータ関連

(ア)全国共同利用情報基盤センター

(1)大型計算機センターの整備

 全国共同利用情報基盤センター(以下、情報基盤センターという。)の前身である大型計算機センターは、昭和38年の日本学術会議の勧告「学術研究用大型高速計算機の設置と共同利用体制の確立について」に基づき、昭和40年東京大学に設置されたのをはじめ、その後昭和47年までに、東北大学、京都大学、大阪大学、北海道大学、九州大学及び名古屋大学に順次整備された。これらは、全国共同利用施設として、互いに連携協力し、全国の大学等に対する大型計算機資源の提供という機能を果たしてきた。

(2)スーパーコンピュータの整備・運用

 大型計算機センターの設立当初に設置された大型計算機は、機能はかなり限定的なものであったが、我が国でも数少ない高性能計算機であり、学術研究用として提供される計算機としては唯一のものであった。これは1980年代のプログラミングにより広範な機能に対応できる汎用大型システム(メインフレーム)を経て、1990年代の大幅な処理能力向上を達成したスーパーコンピュータの導入や2000年代の分散環境による超大規模計算システムの導入等、常に最先端科学の推進を支援する基盤としての役割を果たしてきている。
 大型計算機センター(現情報基盤センター)は、全国を七つの地域に分け、各地区の大学等及び研究機関からの汎用大型システムおよびスーパーコンピュータ等の利用に関してさまざま便宜を図ってきている。特に利用目的を限定せず、一定額の利用負担金を支払う条件のもとで多くの研究者に門戸を広げており、萌芽的な研究、2年~3年程度の中・短期の研究プロジェクトなど、特定分野目的のスーパーコンピュータを利用できない非常に多くの研究者の要望に応えるとともに、単なるスーパーコンピュータの運用にとどまらない利用者支援を行ってきている。例えば、東北大学においては、専門的知識を有する技術職員や教員が利用者のプログラムを改良することによって、より短時間で計算結果を得られるようにする「高速化推進研究活動」を行っている。

(3)情報基盤センターの整備

 学術審議会答申「科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について -「知的存在感のある国」を目指して-」(平成11年6月29日)において、「図書館、大型計算機センター、総合情報処理センター等は、それぞれの目的に応じて設置されたものであるが、学内において教育研究を支援するための情報関連組織という共通の側面もある。各大学や組織の状況に応じて学内における人材や機器等の有効な活用の観点から、有機的な連携を強化することや、組織を再編成して一体化することなどの工夫を進める必要がある」ことが指摘された。このような理念の下に、平成11年度に東京大学において大型計算機センターと教育用計算機センター及び附属図書館の一部が情報基盤センターに再編・拡充されたのをはじめとして、平成15年度までに上記7大学において情報基盤センターの整備が完了した。
 これによって、各大学における情報化を推進し、学術情報の円滑な発信等を行うための全学的な視野から情報基盤に関する統一的な企画・立案を行い、教育・研究上の多様な情報化のニーズに対応できる組織体制の充実が図られてきている。

(イ)情報処理センター等

 国立大学においては、情報基盤センターが置かれた上記7大学以外の大学においても、情報処理センター等を設置し、各大学の研究者のニーズに基づき、それぞれの規模に応じて、中型や小型の計算機を設置してきた。その後、情報処理教育・実習環境の改善や研究の多様化・情報化といった教育・研究上の要請、地域ネットワークの中枢機関としての役割強化といった地域からの要請等から、昭和51年に東京工業大学において総合情報処理センターが設置されたのをはじめ、総合情報処理センターの整備が順次行われた。
 平成13年度には、千葉大学及び東京工業大学の総合情報処理センターにおいて、急速に進歩する情報技術の多様な研究を継続して行い大学内の教育・研究のニーズに対応するため、研究部門が設置され、総合情報処理センターの拡充・高度化が図られた。その後、総合情報処理センターの高度化が順次進められてきた。
 その結果、平成15年度には、総合情報処理センターが高度化された大学は12、総合情報処理センターが設置された大学は31、情報処理センターが設置された大学は28となった。
 また、公私立大学においても、各大学の規模に応じて、情報処理センター等が設置されており、研究者や学生等のニーズに基づきコンピュータの整備が図られている。
 なお、こうした情報処理センター等に置かれる研究用コンピュータは、研究の基盤であるだけでなく、研究を通じて学生の教育も行っているという側面もあり、教育用コンピュータとともに教育・人材養成の観点からも重要な基盤となっている。例えば、東京工業大学においては、スーパーコンピュータ等を利用して、高校生を対象にしたプログラミングコンテストを行うなど、学内にとどまらない教育への活用を行い、次世代の情報分野の人材を育成する等の取組みを行っており、こうした取組みは、当該分野を強力に推進するにあたって大いに歓迎すべきことである。

(2)ネットワーク関連

(ア)キャンパス情報ネットワーク(学内LAN)

 国立大学及び大学共同利用機関(以下、国立大学等という。)のキャンパス情報ネットワーク、いわゆる学内LANについては、まず、昭和62年度から国立学校特別会計予算によって数大学において学内LANをパイロット的に運用し、その知見をもとに平成5及び6年度の補正予算においてその他の国立大学等の学内LANが整備された。その後、平成7、8及び10年度の補正予算、平成12及び13年度の補正予算で高度化が図られ、現在は、ギガビットイーサネットによる学内LANが整備されている。
 また、私立大学に対しては、私立大学・大学院等教育研究装置施設整備費補助金などにおいて、学内LAN及び情報処理関係機器等の整備等に対して補助を行っているほか、平成14年度からは、サイバーキャンパス整備事業として、インターネットをはじめとした情報通信ネットワークを活用した優れた教育研究を展開する上で、必要となる情報通信機器の整備に対して補助を行っている。
 公立大学に対しては、公立大学等施設整備費等補助金(教育設備)により、情報処理関係機器等の整備の補助が行われていたが、地方分権の推進の一環として、国と地方の役割分担、費用分担の在り方等が検討され、地方向け国庫補助金等の削減が求められた結果、本補助金は平成15年度をもって廃止されている。

(イ)学術情報ネットワーク

 国立情報学研究所は、学術審議会の建議「情報学研究の推進方策について」(平成10年1月)に基づき、情報学に関する総合研究に加え、学術情報の流通のための先端的な基盤の開発と整備を行う大学共同利用機関として、平成12年4月に設置された。国立情報学研究所では、長期的な展望の下に、ネットワーク、ソフトウェア、マルチメディアなどの情報関連分野の基礎から応用までの研究開発を幅広くカバーするとともに、全国の大学等や研究機関等との連携・協力を重視し、情報学研究を総合的に進めることを目指している。
 国立情報学研究所は、日本全国の大学等や研究機関等の学術情報基盤であるSINET(通信速度100メガビット・パー・セコンド~1ギガビット・パー・セコンド)の構築・運用を行っている(bpsはbits per secondの略で、通信回線のデータ転送速度を表す)。SINETには、平成17年1月末現在で、44の拠点機関を含め724の大学等や研究機関等が接続している。平成14年1月には、従来のネットワーク環境では不可能な膨大な量のデータを共有し、処理することが求められる先端的研究プロジェクトを支援するためにスーパーSINET(最高通信速度10ギガビット・パー・セコンド)を構築・運用している。スーパーSINETには、平成17年1月末現在で、高エネルギー・核融合科学、宇宙科学・天文学等における先端的研究を行っている30の大学等や研究機関が接続している。また、国際的な先端研究プロジェクトで必要とされる国際間の研究情報流通を円滑に進められるように、米国(西海岸に2.4ギガビット・パー・セコンド、東海岸に10ギガビット・パー・セコンド)及びタイ王国(44メガビット・パー・セコンド)と国際回線を接続し、両国ばかりでなく世界の研究ネットワークに相互接続し、かつアジア地域との連携を図っている。

1.2 コンピュータやネットワークを取り巻く環境の変化及び課題

(1)国立大学等の法人化

 平成16年4月の国立大学法人化後、それまでの国立学校特別会計の附属施設経費等によって配分されていたコンピュータやネットワークの維持・運営にかかる経費は運営費交付金の基礎額として配分されている。そのため、国立大学法人及び大学共同利用機関法人(以下、国立大学法人等という。)においては、各法人の裁量によって、コンピュータやネットワークにかかる維持・運営を考えなくてはならないものの、多くの国立大学法人等においてこれらを含めた情報戦略が未整備であることが指摘されている。それに加え、情報化を推進する人材の不足や、情報関係の経費を執行する段階で部局ごとに情報関係設備を整備することによる重複投資、全学としての情報セキュリティ確保の困難さ等の課題があり、全学の情報システムの一元化・集中化、業務改善・業務高度化の推進、人材確保・専門家養成、全学的な情報セキュリティの確保等、学内の情報基盤整備に関わる戦略強化が求められている。
 そのような戦略を総合的に企画立案する組織を既に設置したり、設置を計画している国立大学法人等も出てきており、今後、その設置が重要な課題となろう。
 このことは、公私立大学においても、検討に値する重要な課題と考えられる。

(2)コンピュータ関連

(ア)PC(パーソナルコンピュータ)やワークステーション等の性能向上、低価格化

 1990年代後半頃から、PCやワークステーションといった小型計算機の計算性能が向上し、また記憶容量も増加して、複雑なプログラムも実行できるようになった。その結果、それまで情報基盤センターや情報処理センター等に設置されていた大型・中型のコンピュータでしか動作しなかった科学技術計算用のアプリケーションが、PCやワークステーション上で動作するようになった。同時に、PCやワークステーションの価格も下がりつづけており、情報処理センター等においては、教育用システムを中心に、以前の汎用大型計算機を中心としたシステム構成から、高機能化し、さらにユーザーインタフェースにも優れたPCやワークステーションを中心とした分散型のシステムに移行しているところもある。

(イ)コンピュータの大規模化・高速化への期待

 一方で、数値流体力学分野や天体物理学分野などスーパーコンピュータによるシミュレーションを主な研究手法としている分野の研究者にとって、スーパーコンピュータの大規模化・高速化は、研究成果の高精度化や研究結果を得るまでの時間短縮、これらに伴う研究の新展開につながるため、その期待はますます大きくなっている。また、ライフサイエンス分野やナノサイエンス分野への利用が急速に行われているなど、今までスーパーコンピュータを利用することが主な研究手法ではなかった研究分野での応用も始まっている。その結果、計算科学という学問領域が飛躍的に発展しており、科学の進展を支えるスーパーコンピュータの役割がますます大きくなっている。

(ウ)グリッド・コンピューティングの可能性

 1990年代のインターネットの普及により、ネットワークに接続するコンピュータの台数及びネットワークの速度が爆発的に増大し、現在、技術的には、インターネットに接続された端末からなら場所に関係なくコンピュータを遠隔で操作することが可能となっている。そこで、ネットワークを介して複数のコンピュータを結ぶことで仮想的に高性能コンピュータをつくり、利用者はそこから必要なだけ処理能力や記憶容量を取り出して使うシステムであるグリッド・コンピューティングが新たな潮流となっている。
 グリッド・コンピューティングでは、複数のコンピュータに並列処理を行わせることで、一台一台が協調的に機能して高速に大量の処理を実行できるようになる。学術研究やビジネス利用など、多くの可能性が模索され、実現に向けてさまざまな試みが行なわれている。国内においても、全国に分散している大型のコンピュータを共有・連携して超大規模計算機として活用するグリッド・コンピューティングの実現に向けて、文部科学省の「超高速コンピュータ網形成プロジェクト」をはじめ、いくつかのプロジェクトが推進されている。

(3)ネットワーク関連

(ア)経年による学内LANの更新時期の到来

 前述のように、国立大学等の学内LANの整備は主に補正予算によって行われてきた。そのため、現在の国立大学法人等の運営費交付金の中にはその更新のための経費が組み込まれていないという問題がある。また、運営費交付金の増額のしくみである特別教育研究経費については、これまで、各国立大学法人等の中期目標・中期計画に沿った大学教育の改革や学術研究のプロジェクト中心の経費であり、学術情報基盤としてのコンピュータやネットワークの恒常的な整備を実現するための予算的枠組みとは言い難いとの批判もある。
 国立大学等の学内LANは、平成13年度から数えても既に5年が経とうとしており、中には平成7年度に整備したネットワーク機器を現在でも使用しているところもある。情報関係の機器設備は、導入後5年程度で故障率が急速に高まり、10年程度で各計算機メーカーにおいて保守用部品の在庫がなくなることを踏まえると、今後、多くの国立大学等でほぼ同時期に学内LANの不具合が頻発する恐れがあるということであり、その更新が緊急の課題となっている。

(イ)大学等におけるネットワークの生活基盤としての浸透

 大学等におけるネットワークは、教育・研究のためのみならず、大学等の多岐にわたる運営・管理そのものにおいても、電子メールやWWW(World Wide Web)、さらにWWW上の各種検索エンジンの利用といったことが当たり前となってきており、もはや教職員や学生が大学等で生活する上で欠かせない生活基盤として浸透してきている。また、会計システムや教務システム等から得られる情報は、大学等の経営自体の基盤ともなっている。

(ウ)情報処理関係施設における業務の比重の変遷

 情報基盤センターや情報処理センター等の情報処理関係施設は、従来、主に計算機資源を学内に提供する役割を担ってきたが、ネットワークが大学等における教育・研究活動及び生活になくてはならない基盤となってきた結果、その業務におけるネットワークの管理・運営業務の比重が相対的に高まってきている。しかし、学内LANについては、年間を通じて毎日24時間、何の故障もなく正常に動作して当たり前という意識があり、肥大化しているネットワークをこのような状態で運用するための管理者の重責と重労働に対する学内での共通理解が得られていない傾向がある。また、技術職員の適切な配置も行われていないという深刻な問題がある。さらに、ネットワークの運用は、学生をはじめとするボランティア的な活動に多分に依存している状況もある。このような状態が続くようであるならば、組織を支える基幹システムの持続的な管理・運用に破綻をきたすことは必至である。

(エ)ネットワークをベースにした先端研究の急速な展開

 スーパーSINETを利用することによって、先端的な研究が急速な展開を見せている。例えば、高エネルギー物理学分野においては、高エネルギー加速器研究機構で行われている、B中間子の崩壊過程を検出するBelle実験の大規模データを複数大学で解析し、「CP保存則の破れ」を検証するといった成果が現れている。また、天文学分野においては、世界の天体望遠鏡をスーパーSINETや国際ネットワークでつなぎ、日本にいながら南半球の空をリアルタイムに観察するという新しい研究スタイルが生まれつつある。

(オ)ウイルス等の蔓延による情報セキュリティへの脅威

 ネットワークが急速に浸透し利便性が高まったと同時に、情報セキュリティへの脅威が高まってきており、対応が大きな課題となっている。平成16年に独立行政法人情報処理推進機構に届出のあったコンピュータウイルスは52,151件と前年に比べて約3倍の増加、不正アクセスは594件と前年に比べて45.9パーセントの増加となっており、コンピュータウイルス等の蔓延が深刻化している。一方、大学等における情報セキュリティポリシーの整備状況は約36パーセントとなっており、早急に情報セキュリティポリシーを確立することが求められる。また、各大学等における情報セキュリティ関連装置の整備やコンピュータウイルスに関する情報提供、ネットワーク関連機器のコンピュータウイルス対策等情報セキュリティに係る業務は、学内LANの管理・運営を担っている情報処理関係施設が主に行っており、業務量の増加に見合う人員の適切な配置が課題としてあげられる。

1.3 学術情報基盤におけるコンピュータ・ネットワークを取り巻く海外の動向

(1)米国における動向

 米国では、米国科学財団(NSF)が、2001年から、4つのスーパーコンピューティングセンターを通信速度40ギガビット・パー・セコンドの光ネットワークで接続する「TeraGrid」と呼ばれる基盤を構築しており、現在は9つの研究機関が接続されている。また、全米の208大学が加盟するInternet2は、通信速度10ギガビット・パー・セコンドの米国内の基幹ネットワークであるAbileneを活用して、その上でアプリケーションやデータベース等の共有や連携を可能とするミドルウェアの開発プロジェクトを進めている。
 また、NSFは、2003年には、コンピューティング、情報通信技術を統合し、次世代の情報基盤となるサイバー・インフラストラクチャー構想の提言を行っている。
 なお、米国の研究中心の大学においては、情報担当理事の下に数百~千人規模で構成される、我が国の大学と比べるとはるかに巨大な情報センターを設置し、学術情報基盤を充実させることによって、大学のステータスを上げることを戦略としているところもある。

(2)欧州における動向

 欧州では、第6次フレームワークプログラム(FP6)のもとで、分散する研究情報資源(大規模計算、高速ネットワーク、ストレージ等)を、グリッド技術を用いて連携利用可能とし、eサイエンスの発展を図るための「EU e-Infrastructure Initiative」の構築が進められている。具体的には、欧州研究用ネットワークGEANTにより欧州各国にある研究機関を10ギガビット・パー・セコンドのネットワークでつなぎ、多様なアプリケーションを共有する研究グリッド基盤整備運用プロジェクト「EGEE(Enabling Grids for E-science in Europe)」等により、欧州全体の研究情報基盤の構築を目指すものである。さらに、40ギガビット・パー・セコンドの通信回線速度を達成する新たな研究用ネットワークGEANT2が2005年6月から運用開始される。
 このようなネットワーク環境がこれからの研究開発の死命を制すると認識され、投入経費の多くを特にネットワーク環境の運営のための人材の確保にあてるなど、体制整備やシステム利用の普及を図っている。

(3)アジア・太平洋地域における動向

 アジア・太平洋地域では、1997年に、アジア太平洋諸国間のネットワークを相互に接続し、有効に活用することにより域内の研究情報流通を促進するため、アジア太平洋高度研究情報ネットワーク(APAN)という組織が発足し、現在15の国または地域がメンバーとして参画している。また、アジア各国でも、中国(第10次5カ年計画)、韓国(第三次情報化促進基本計画)、シンガポール(コネクテッド・シンガポール)等において、情報技術の開発を含む国家的情報化プロジェクトが推進されている。

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研究振興局情報課 学術基盤整備室

(研究振興局情報課 学術基盤整備室)

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