資料7 用語解説

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○国際熱核融合実験炉(ITER)計画

 核融合炉の科学的実証である本格的な核燃焼プラズマの達成及び長時間運転を目指したトカマク型の核融合実験炉計画。1992年から日本・米国・欧州・ロシアの国際協力として推進され、6年間の工学設計及び、主要機器の技術開発を行った。なお、現在は建設に向けた正式な政府間交渉が、日本・欧州・ロシア・カナダで行われている。

○プラズマ閉じ込め方式

 プラズマは、固体・液体・気体に続く物質の第4の状態である。一般的に数千度以上では、どんな物質も原子核に捕捉されていた電子が自由に運動できるようになりプラズマ状態となる。核融合炉では一億度以上の高温プラズマを生成し、それを固体等の容器に触れることなく閉じ込める(保持する)必要がある。プラズマ閉じ込め方式は、磁場を利用した方式と短時間に高温プラズマを生成してしまう慣性(レーザー)方式に大別される。

○放射化の少ない材料

 低放射化材料とも呼ばれる。核融合反応で発生した中性子は炉心プラズマを取り囲む構造材料の構成原子と各種の核反応を起こし、ある確率で新たな放射性同位元素(RI)を生成する。これを放射化といい、放射化しにくい、または生成されたRIの半減期が短いことを低放射化特性といって、特に断らない限り廃棄を想定しての特性を指すことが多い。低放射化材料とは、低放射化特性を備えた材料のことをいう。

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○トカマク

 環状電流を有する磁場閉じ込めの一方式。強い環状磁場を有し、かつ、環状方向に電流を流すことによりプラズマを安定に閉じ込める。プラズマ電流はオーム加熱の原理により、プラズマ加熱としての役割も果たしている。旧ソビエトのクルチャトフ研究所で考案され、その優れた閉じ込め性能のために世界各国の研究所で、この形式のプラズマ実験装置が建設され研究されてきた。

○炉工学

 核融合炉を概観した場合、核融合反応が起こる炉心プラズマと、プラズマを生成・保持させるための真空容器・ブランケット・超伝導コイル等から構成される。後者のような核融合炉を構成する機器類の研究・開発を炉工学と総称する。

○レーザー

 慣性方式では、大出力パルスパワーを用いて、直径数mmの燃料小球を、等方的に爆縮(断熱圧縮)させ、瞬時に超高密度・高温プラズマを生成し、核融合反応を起こさせる。このような慣性方式での大出力パルスパワーとして、高強度レーザーが主に使われる。

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○ヘリカル(LHD)

 ねじれた磁場コイルを用いた環状プラズマ閉じ込め方式をヘリカル系と称し、LHD(Large Helical Deviceの略)は、岐阜県土岐市の文部科学省核融合科学研究所で稼動中の世界最大規模のヘリカル実験装置。平成2年より建設が開始され、平成10年3月より実験が開始された。2本のヘリカルコイルと3対の円環コイルから構成されるヘリオトロン方式のヘリカル装置で、ヘリカルコイルの蓄積エネルギーも世界最大規模である。

○高ベータ定常運転

 磁場閉じ込め方式では、プラズマ圧力と磁気圧の比を「ベータ(β)値」という。ベータ値が高いほど、高温・高密度プラズマを閉じ込めることができる。一方、現在のプラズマ実験では、高々数時間の運転であるが、将来の核融合炉では1年間にわたり定常に運転されることが望まれる。このような高ベータプラズマを定常に保持した運転の実現が、トカマク型核融合炉においては大変重要である。

○臨界プラズマ

 プラズマに注入したパワーと核融合反応で発生したパワーの比をエネルギー利得Q値として定義する。臨界プラズマとはQ=1となるプラズマであり、臨界プラズマ条件はプラズマ温度、及びプラズマ密度とエネルギー閉じ込め時間の積、によって与えられる。JT-60(日本)とJET(欧州)では、臨界プラズマ条件を越えるプラズマパラメータが達成されている。

○プラズマアスペクト比

 環状磁場閉じ込め方式における特徴的なパラメータは、円環の半径(主半径R)と円環の太さ(小半径a)であり、この比をプラズマアスペクト比(A=R/a)という。一般的なトカマク装置ではアスペクト比がA~3程度であり、ヘリカル装置ではA=5~7程度である。また、最近では、アスペクト比が極端に小さい(A<2)トカマクが着目されており、これを球状トカマクと呼ぶ。

○断面形状制御

 トカマクプラズマの円環断面は縦長の非円形形状をしている。プラズマの閉じ込めや安定性において、断面形状が大きく影響する。非円形度を含めたプラズマ断面形状の最適化制御が重要となってきている。

○帰還制御

 トカマクプラズマでは、プラズマ電流分布がプラズマの閉じ込めや安定性に大きく影響する。誘導方式の電流駆動ではプラズマ電流分布制御が困難であるが、非誘導電流駆動方式では、最適な電流分布への帰還(フィードバック)制御の可能性が高く、今後の重要な研究課題である。

○βN

 トカマクプラズマのベータ値の上限値はプラズマ電流に比例し、環状磁場強度とプラズマ小半径に反比例することが、広範な理論計算により示されている。その比例係数を規格化ベータ値と称し、βN(normalized beta value)と記す。このβN値が高いほど、高性能・高効率な炉心プラズマが設計可能となる。

○非誘導電流駆動プラズマ

 トカマクでは、プラズマ中に電流を流す必要がある。現在の多くのトカマク実験装置では、プラズマ電流を変圧器の原理(誘導方式)で駆動しており、プラズマ電流駆動時間に限界がある。核融合炉を定常運転するためには、非誘導方式による電流駆動が必要であり、具体的には、プラズマ自身がプラズマ電流を駆動させる機構を積極的に利用するとともに、中性粒子ビーム入射や高周波による電流駆動を想定している。

○JT-60

 臨界プラズマ試験装置JAERI Tokamak-60の略称であり、日本原子力研究所那珂研究所で稼働している世界最大級のトカマク装置である。米国のTFTR(シャットダウン)、欧州のJET装置と併せて3大トカマクといわれた。JT-60で達成された5億度を越える世界最高温度は、ギネスブックにも登録されている。

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○ブランケット

 核融合炉の炉心プラズマは、ブランケットと呼ばれる構造体で取り囲まれている。ブランケットの役割は、核融合炉で発生する14MeV中性子の運動エネルギーを熱に変換して取り出すこと、中性子とリチウムによる核反応を利用して燃料となるトリチウムを生産すること、ブランケットの外側にある超伝導マグネット等を保護するために炉心からの中性子を遮敞すること、である。

○第一壁候補構造材料

 核融合炉心の高温高密度プラズマに直接面した容器の壁を第一壁という。第一壁は、核融合反応で発生した14MeV中性子に直接さらされる。従って、長年の中性子照射に耐えうる材料が必要であり、しかも中性子による放射化が低い材料であることが望まれる。

○中性子照射

 DT核融合炉で発生する14MeV中性子により、第一壁構造材料等が曝されることを中性子照射という。そこでは、14MeV中性子による材料中の原子弾き出し損傷に加えて、α粒子を生成する(n,a)反応によるヘリウムの蓄積が大きな問題となる。

○IFMIF計画

 International Fusion Material Irradiation Facility(国際核融合材料照射施設)の略。DT核融合炉の構造材料は、核融合反応で発生した14MeV中性子での照射に曝される。このような核融合炉条件に近い環境での材料特性試験が行えるIFMIFの建設計画が、IEA協力の下で進められている。IFMIFでは、リチウムターゲットに重陽子ビームを照射し14MeV近傍の中性子を発生させる。

○工学実証・工学設計活動(EVEDA)

 IFMIF計画における工学実証・工学設計段階を指す。現在の要素技術確証段階(KEP)活動に続く活動であり、IFMIFの重要なシステム要素についての工学的な実証、及びIFMIM建設に必要な工学設計を完成させることを目的として、IEAの下で国際協力により推進される。

○高速点火計画FIREX

 Fast Ignition Realization EXperimentの略。中心に点火源となるホットスパークを持たない低温の超高密度プラズマを爆縮で作り、このプラズマが膨張により飛散するよりも時間よりも短時間(高速)に、短パルス(ピコ秒(10-12秒)程度)の超高強度(ペタワット(1015ワット))レーザーを照射してホットスパークを作り点火を起こす新しい点火方式。中心で点火が起こる従来方式よりも必要なレーザーのエネルギーが小さくなるばかりでなく、より高い核融合利得が得られる先進的な方法である。

○超高強度レーザー

 近年のレーザー技術の進歩により可能となったテラワット(1012ワット)以上の出力を持つ、パルス幅(持続時間)がピコ秒(10-12秒)以下のレーザーのことをいう。

○ヘリオトロン磁場配位

 京都大学において、我が国独自の方式として開発されたヘリカル方式のプラズマ閉じ込め用環状磁場配位。京都大学ではヘリオトロンシリーズとして複数の装置を建設・運転し、磁場配位の最適化を行ってきており、現在のLHDの基盤となった。ヘリオトロン磁場配位は、同じ方向に電流を流したヘリカルコイルにより形成される。

○無電流環状プラズマ

 環状磁場閉じ込め方式では、環状磁場と、プラズマ小半径周りの磁場との重畳によるねじれた磁力線構造である必要がある。トカマクでは、プラズマ小半径周りの磁場を環状方向のプラズマ電流で発生させているが、ヘリカルでは、コイル自身をプラズマ小半径周りにねじることにより磁場を発生させている。これを無電流環状プラズマと称し、非誘導方式による電流駆動等が無い点で、定常運転の観点からは優れている。

○炉心プラズマ

 核融合炉としての自己点火及びそれに近いパラメータ領域のプラズマを炉心プラズマと称す。

○パラメータ

 物理量の総称をパラメータと称す。例えば、核融合炉心プラズマとして求められる物理量(パラメータ)として、温度、密度、閉じ込め時間等が挙げられる。

○無衝突プラズマ領域

 荷電粒子の集合体であるプラズマは、クーロン散乱により相互作用を行う。クーロン散乱はプラズマ温度が高くなるほど、その散乱断面積(散乱確率)は小さくなる。例えば、核融合炉心プラズマの平均自由行程は10kmであり、これは直径10m程度の環状磁場閉じ込め装置では、環状方向を数百回回転することに相当する。このような衝突が非常に小さい状態のプラズマを無衝突プラズマ領域と称す。

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○GEKKO-X2

 昭和58年に大阪大学でレーザー核融合研究用に開発建設された当時世界最高出力(レーザー波長1ミクロンで出力30kJ)の12ビームのガラスレーザー装置。世界で初めて固体の600倍の密度を持つプラズマの発生に成功し、レーザー核融合の基本原理(高密度圧縮)を実証した。

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○立体磁気軸

 環状磁場閉じ込め装置において、プラズマ中心を磁気軸と称するが、その磁気軸が同一平面上に無く、捩れた状態になっていることを立体磁気軸と称す。環状軸対称でないヘリカル方式では、プラズマ閉じ込め最適化の観点から、立体磁気軸配位の研究が盛んになされている。

○フェライト鋼

 核融合炉用の低放射化第一壁材料として有力な鉄系の候補材料。フェライト鋼は磁性を有しているのでプラズマ実験装置では閉じ込め磁場を乱す可能性があり、プラズマへの適応性試験が精力的に進められている。

○超高ベータプラズマ

 ベータ値が数10%から100%にもなるようなプラズマ。核融合炉の高性能化や先進核融合炉心プラズマでは、このような超高ベータプラズマが求められている。従来型のトカマクやヘリカルが10%程度のベータ値であるのに対して、トカマクと類型の環状電流磁場閉じ込め方式である逆磁場ピンチ、スフェロマック、逆転磁場配位や、最近では球状トカマクや内部導体配位等において、新たな超高ベータプラズマの可能性が探求されている。

○揺動研究

 新古典輸送、異常輸送の項を参照。

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○KrFレーザー

 レーザー核融合方式の爆縮レーザーの一種。ガラスレーザーに比べて、吸収効率が高い紫外光(0.25ミクロン)を発生する、高効率・高繰り返し動作が可能、超均一照射や超端パルス増幅が可能、等の利点を有している。

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○トリチウム

 原子記号3HまたはTで表示。水素の同位体で、三重水素ともいわれ、核融合炉の燃料として使用される。天然にはほとんど存在しないが、核融合炉では、核融合反応によって発生する中性子と、リチウムの反応を利用して作ることができる。

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○球状トカマク

 通常のトカマクでは、プラズマアスペクト比AがA=3程度であるのに対して、プラズマアスペクト比が極端に小さい(A<2以下)装置を球状トカマクと称す。ベータ値が数10%のプラズマも実験的に達成されており、トカマクの高性能化の一種として期待されている。

○14MeV中性子

 DT核融合反応では3.5MeVのα粒子と14MeVの高速中性子が発生する。α粒子はプラズマ加熱に供するのに対し、高速中性子はプラズマ閉じ込め容器である第一壁やブランケットに直接照射し、発電ブランケットのエネルギー源、及びリチウムと反応してトリチウム生成の役割を担う。なお14MeV中性子は、第一壁材料等の放射化も引き起こす。

○ペタワットレーザー

 ペタワット(1015ワット)のパワーを有する超高強度レーザー。パルス長は非常に短い(ピコ秒(10-12秒)程度)が、高速点火方式によるレーザー核融合において、ホットスパークを持たない低温の超高密度プラズマの中心部に照射し、点火源となる高温スパークを作るのに使われる。

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○古典輸送、異常輸送

 荷電粒子の集合体であるプラズマの輸送は、クーロン散乱によって支配される。このような輸送機構を古典輸送と称す。さらに、これに環状プラズマによる非均一磁場効果を取り入れた場合を新古典輸送と呼ぶ。一方、プラズマ自身の運動に起因した電磁場の揺動によってもプラズマ輸送が引き起こされ、これを揺動輸送という。揺動の種類や原因の同定が現在の研究では十分でないため、異常輸送とも称す。

○MHD平衡

 プラズマは、マクロには電磁流体(Magneto-Hydro-Dynamics:MHD)として振舞う。流体方程式とMaxwell方程式を連動させたMHD方程式系において、力のバランスが取れた状態をMHD平衡という。

○α粒子、高エネルギー粒子

 DT核融合反応では、3.5MeVのα粒子(ヘリウム原子核)が発生し、約10keVの炉心プラズマ加熱に供する。一方、プラズマを10keVレベルまで加熱する手段として、数百keV以上の高エネルギー粒子ビームが使われる。これらのα粒子や高エネルギー粒子は、プラズマを加熱するに十分な時間(約1秒程度)、プラズマ中に閉じ込められていなければならない。

○ダイバータ機能

 環状磁場閉じ込め方式において、炉心プラズマから拡散してきた高温プラズマを排気する必要がある。これをダイバータ機能という。環状磁場閉じ込め装置では、プラズマと第一壁との境界領域での磁場配位を細工することにより、ダイバータ部と呼ばれる領域を形成し、プラズマの廃熱・排気の工夫をしている。

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