3.核融合研究計画の重点化の方策

(1)既存の核融合研究計画の評価

 研究の現状を評価し、今後の計画を審議するためには、設置形態に応じた評価基準による科学技術・学術的な評価が必要であり、この評価は、外部に対する発信の機能も併せ持っている。WGでは、新しい核融合研究路線の展開を図るため、既存の研究計画について研究者コミュニティによる核融合研究の意義・位置づけの審議を実施し、固有の装置にとらわれることなく、分野横断的な学問的評価を行った。
 図2に現在の我が国の主たる研究の拠点を示す。資料3に示したとおり、複数の既存の実験装置(コンピュータを含む)についての評価結果を“成果と評価”として資料4に示す。ここでは個々の実験装置を縦糸と位置づけ、研究分野を横糸とする2元的な評価を行っている。いずれの計画についても、これまでの研究に対して高い評価が与えられているが、その完成度とこれからの研究計画についてはさまざまな角度からの意見が出された。WGではこれらを総合して、各研究計画・対象装置ごとに研究実績と今後の計画について、グランドデザインの中での位置づけを行い、その結果を“今後の展開”として資料4にまとめた。

図2 我が国の核融合研究拠点
図2 我が国の核融合研究拠点

(2)重点化計画の策定

 既存の研究計画の評価結果を受けて、WGでは、今後10年から20年にわたる我が国の核融合研究を推進するための重点化すべき計画の策定に向けて、複数の提案について審議を行った。その結果を資料5に示す。重点化計画の審議にあたっては、ITERが建設されることを前提として国内研究基盤の整備・推進を図ること、及び、今後30年程度で核融合原型炉を実現するための課題の解決に必要な研究計画を策定することの2点を条件とした。その結果、重点化すべき課題は、トカマク、炉工学、レーザー分野に絞り込まれ、これに既存の研究計画の研究評価の結果からヘリカル(LHD)を加えて、4つの重点化の柱が策定された。

(3)重点化のための具体的計画

1.トカマク国内重点化装置計画

 核融合エネルギーの早期実現に向けて、トカマク方式の改良(高ベータ定常運転の実現による経済性向上等)を我が国独自に進めるとともに、ITER計画での主導権の確保と、数百名規模での人材養成によるITER計画との有機的連携を図るために、国内のトカマク装置を重点化することが必要である。本装置は、臨界プラズマクラスのプラズマ性能をもった超伝導装置とし、プラズマアスペクト比、断面形状制御性、帰還制御性において、機動性と自由度を最大限確保できるものとし、原型炉で必要な高ベータ(βN=3.5-5.5)非誘導電流駆動プラズマを、100秒程度以上保持することを目指すものである。計画の実施にあたっては、設置主体である日本原子力研究所/新法人と研究者コミュニティが研究計画を共同企画・立案しつつ実施することが重要であり、JT-60をトカマク国内共同研究の中核的役割を担う装置として位置づけて、トカマク国内重点化装置の建設開始まで運転を継続し共同研究を推進するとともに、ITERの動向を踏まえつつトカマク国内重点化装置への転換を図る必要がある。

2.核融合材料試験装置計画

 同じく核融合エネルギーの早期実現に必要な材料・ブランケット開発は、プラズマ閉じ込め方式の如何にかかわらず必須の課題である。特に、今後、実用化までの核融合炉用の第一壁候補構造材料の開発及びその材料が核融合炉環境下で中性子照射に耐えることを確認し、その特性データを取得するためには、IEA(国際エネルギー機関)の国際協力による核融合材料照射試験装置(IFMIF)計画が不可欠である。この計画は、効率的な材料開発に必要とされる学術研究にも大きな貢献が期待される。従って、IFMIFの重要システム要素について工学的な実証を行い、建設に必要な工学設計を完成することを目的とする工学実証・工学設計活動(EVEDA)に速やかに着手する必要がある。計画の実施にあたっては、日本原子力研究所/新法人と核融合科学研究所・大学が連携協力しつつ実施することが重要である。

3.レーザー高速点火計画

 レーザー高速点火計画FIREXは、最先端のレーザー技術と極限状態の科学を応用して、磁場核融合方式と質的に異なる方式により、核融合エネルギー実現の可能性を切り拓くものである。我が国独自の高速点火方式レーザー核融合の原理実証を目的とするFIREX第1期計画は、世界最高出力の超高強度レーザーにより核融合点火温度(0.5-1億度)への加熱を行うものである。この計画は、核融合炉の可能性を拡げるばかりでなく、我が国の学術基盤の強化とレーザー技術に関する知的財産権の確保に貢献するものである。さらには、その成果により、点火・燃焼の実現を目指す第2期計画に発展させるか否かの判断を行うことも可能となる。FIREX計画を研究者コミュニティ全体の計画とするために、大学共同利用機関との連携等の方策を検討することが望ましい。

4.大型ヘリカル装置(LHD)計画

 上記の3つの重点化計画を推進する場合、大学共同利用機関である核融合科学研究所において推進されているLHD計画が、当該分野の学術研究の発展に果たす重要な役割にも注目しなければならない。LHDは、我が国で発案されたヘリオトロン磁場配位を採用することにより、無電流環状プラズマによる核融合炉を目指して造られた磁場閉じ込め装置である。LHDを共同研究重点化装置として活用することによって、今後も、炉心プラズマに外挿できるパラメータ下における環状プラズマの総合的理解、ITERへの寄与、新しい閉じ込め配位研究のための装置との連携等を目標に、LHDを用いた学術研究を継続して進めることが必要である。LHDの研究目的を資料6に示す。

 今後も長期にわたる核融合研究を推進するためには、学術研究から開発型の研究にまたがる広い研究領域を包括する必要がある。そのためには、我が国の核融合研究の裾野の広がりを考慮しつつ、学術発信を続け先端技術を牽引することが重要である。その実現のためには、上記の3つの重点化計画と、現有の研究資源であるLHDでの研究を共同利用・共同研究のための重点化計画として位置づけ、活用することが重要である。

(4)重点化計画の優先度について

 以上の審議結果を踏まえ、WGは、既存のLHDを除く重点化すべき上記3つの研究の柱に対して、次のとおりの方策を提言する。

  1. 核融合エネルギーの早期実現を目指し原型炉に向けた重要な課題の解決を図る上で、ITER計画との連携を図りつつ、無衝突プラズマ領域における高ベータ定常運転の研究を推進するため、国内のトカマク重点化装置を優先する必要がある。
  2. 材料・ブランケット開発は、プラズマ閉じ込め方式によらず必須の課題であり、その中核であるIFMIF計画は核融合開発研究に不可欠である。従って、その工学実証・工学設計活動(EVEDA)に速やかに着手する必要がある。そのために、国内実施体制を急いで確立する必要がある。
  3. 我が国独自の計画として高速点火方式レーザー核融合の原理実証計画第1期を開始することは、磁場核融合と異なる原理に基づく核融合炉の可能性を拡げるばかりでなく、我が国の学術基盤の強化と知的財産権の確保のために必要である。

(5)既存装置の整理・統合について

 以上のとおり、重点化のための審議結果と既存装置についての評価結果を踏まえ、これらについての今後の在り方をまとめると、以下のとおりである。

  1. 重点化計画の基盤となるJT-60とGEKKO-X2に関しては、次期計画の開始時まで運転を続け、装置建設に合わせて計画を完了させる必要のあること。
  2. LHDについては、現有資源として高性能プラズマの生成による環状プラズマの普遍的性質の探求を進めITERを含む環状プラズマへの学問的寄与を明確にするという所期の目的達成のために研究を継続する必要のあること。
  3. 重点化の柱となるJT-60、GEKKO-X2、LHD以外の装置に関しては、然るべき時期に計画を完了すること。ただし、斬新な研究の展開による装置の運転延長の提案は、新たな可能性を目指した研究の候補になり得る。
  4. 4つの重点化計画での共同利用・共同研究を活性化するとともに、独創的なアイデアによる新たな可能性への挑戦への機会を生み出せるような仕組み・研究体制の構築、そしてこれらを可能とする新たな措置が必要であること。

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