今後の我が国の核融合研究の在り方について(基本問題特別委員会核融合研究ワーキンググループ報告) はじめに

 21世紀以降のエネルギー源は、我が国の安全及び経済に深く関わるとともに、地球規模の環境保全からの要請を満たすことが求められる。当面は化石燃料に依存することが可能であるが、長期的には核分裂、核融合、風力・太陽光発電等の再生可能エネルギー等の中から国策に基づき選択されるものと予想される。核融合エネルギーについては、安全性・環境適合性・資源量等の観点で優れた特性を潜在的に有しており、世界の主要国で活発な研究開発が行われてきた。我が国では、この核融合研究の重要な目標である科学的実証を目指して種々の方式による研究が大学、核融合科学研究所、日本原子力研究所等で進められ、既に多くの成果を挙げている。当該分野の研究が欧州、米国とともに世界のトップレベルにあることに加えて、プラズマ物理学、プラズマ応用学、計算機シミュレーション科学、宇宙・天体プラズマ学、超伝導工学、材料工学等の複数の領域で多彩な学術的成果を生みだす等、今後も我が国の科学技術と学術に大きく貢献することが可能な分野である。
 一方、国際プロジェクトとして進められている国際熱核融合実験炉(以下、「ITER」という。)計画については、建設に向けた政府間協議が始まり、核融合エネルギーの実現を目指す核融合炉開発としての大きな一歩を踏み出そうとしている。今後、長期に渡って物理と工学の統合を必要とする核融合研究を着実に進めるためには、その進行を制限する項目と課題(クリティカルパス)を定め、開発研究を進める必要がある。同時に、物理と工学の体系化とスモールサイエンス等へのスピンオフ(波及効果)が期待できる当該分野の学術研究としての重要性に鑑み、学際化の研究手法等を取り入れつつ、学術研究基盤の維持・整備と人材育成にあたらなければならない。我が国においては、前者は、日本原子力研究所が、後者は、大学、大学共同利用機関がその中核として研究の推進にあたってきた経緯にある。このように学術研究から開発型の研究にまたがる広い研究領域を包括する当該分野においては、研究の裾野の拡がりを考慮するとともに、学術発信を常に行い、先端科学技術としての当該分野を国策として牽引することが重要である。
 核融合研究ワーキング・グループ(以下、「WG」という。)では、我が国の核融合研究をさらに発展・強化させるべく、当該分野を構成するプラズマ物理学と炉工学研究分野を概括する審議を行い、これまで長年にわたり核融合研究を支えてきた複数の実験装置を整理・統合しつつ、炉工学分野と併せて重点化・効率化するための方策を検討した。重点化にあたっては、共同利用・共同研究をさらに強化することに加え、新たな可能性を目指した研究の創生、不断の人材育成等を活性化させること等が重要であり、その方策の検討が必要となる。このため、WGにおいては、次の4つを主要な点として、今後の我が国の核融合研究の在り方を審議した。

  1.  研究評価による研究者コミュニティの意見集約に基づき、重点化・効率化のための具体的な計画を提言する。
  2.  大学、核融合科学研究所、日本原子力研究所等の各研究機関の法人としての自律性と自主性を尊重し、計画の実行にあたっての諸条件の整備に努め、為しうることの検討結果を提言に活かすこと。
  3.  新しい国内の研究体制の推進と研究計画の策定にあたっては、研究者コミュニティの総意の下に、重点化すべき研究計画を定めるとともに、その中核となる国内装置については、共同研究重点化装置と位置づけ、国際協力による大型装置での研究と併せて、実施しようとする機関と研究者コミュニティによる共同(利用)研究を一層推進すること。
  4.  平成14年5月29日開催の総合科学技術会議で決定され、平成14年5月31日に閣議了解された「ITER計画について」の中で、「国内の核融合研究については、重点化、効率化を図りつつ、ITER計画と有機的に連携する体制を構築すること。この際、核融合研究開発を支える人材の育成、各種プラズマ閉じ込め方式の研究や中性子による放射化の少ない材料等の開発等に配慮すること。」が、留意事項として指摘されていること。

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