2.研究課題の評価

 研究課題の評価といった場合、その対象となるものには、個々の研究者一人で行う研究から、何人かの研究者が研究チームを組んで行う研究、さらにはプロジェクト研究として多数の研究者と研究資源を集中して行うものまで、極めて多岐にわたる形態のものが含まれる。したがって、その評価もそれぞれの研究の性格や規模等に応じて適切な方法で行われるべきである。
 評価対象については様々な分類が考えられるが、大綱的指針においては研究資金の性格に対応した分類がとられている。研究資金による分類は、評価結果を資源配分に活用することを考えた場合の便宜にもかなうものであるし、また研究の規模にもほぼ対応していると考えられる。そこで、以下においても研究資金の性格に対応して、1.基盤的資金による研究、2.競争的資金による研究、3.大型研究プロジェクト、の3つの類型に分けて、評価の在り方を整理することとする。

(1)基盤的資金による研究の評価

 研究者が日常的に使用することのできる基盤的資金は、萌芽的な研究や継続的な研究を含め、研究者の自由な発想による多様な研究活動を支えるものであり、学術研究の発展の基盤を培うものである。基盤的資金による多様な研究活動を基盤として、その中から優れた研究計画に対して優先的・重点的に競争的資金が配分されることにより、優れた研究を発展させることが可能となるのである。
 このような意義を有する基盤的資金による研究の評価は、研究者による日常的な論文発表や学会活動等を通じた評価を活用しつつ、各大学等において行うことが適当であり、研究者の業績評価の側面から実施することも考えられる。その際、基盤的資金の意義にかんがみ、自由闊達な雰囲気を損ねたり、将来に向けての研究の発展の芽を摘み取ることのないよう留意すべきである。なお、各大学等においては、評価結果も勘案しつつ基盤的資金の効果的な配分に努めることが望ましい。

(2)競争的資金による研究の評価

 学術振興を目的とする競争的資金である科学研究費補助金による研究の評価については、学術分科会科学研究費補助金審査部会及び日本学術振興会の科学研究費委員会において厳正な審査・評価が行われている。科学研究費補助金は長い歴史を持ち、大学等の多くの研究者にとって基幹的な研究費となっており、その審査・評価についても、研究者等の意向を踏まえつつこれまで絶えず改善・充実が図られてきたところである。特に、平成11年に基盤研究等の研究種目の審査・配分業務を国から日本学術振興会に移管したことにより、審査員を大幅に増やしてより公正できめ細かな審査を行うなど、審査体制や審査内容の格段の充実が図られている。
 科学研究費補助金による研究の評価の現状は次のとおりである。事前評価(審査)については、ピア・レビューによる書面審査(個別及び合議)を行い、さらに研究費規模の大きい種目については申請者からのヒアリングも実施している。審査に当たっては、研究費の過度の集中を防ぐため、他の研究費の取得状況を把握している。また、審査結果の開示については、研究費規模の大きい種目の場合は不採択理由を付して通知し、また審査件数の多い基盤研究等の種目の場合には希望者に対しておおよその順位を通知している。中間・事後評価については、研究費規模の大きい種目において、ヒアリング、現地調査等による評価を実施している。なお、科学研究費補助金による研究成果については、成果報告書等により一般に公開されている。
 このように、科学研究費補助金においては、我が国を代表する競争的資金にふさわしい公正な評価の仕組みが確立され、多くの研究者の協力を得て厳正な評価が行われているが、今後とも時代の要請に応じて必要な体制の整備を図りつつ、事前評価(審査)に重点を置いて一層の充実に努めることが重要である。その際、研究種目の性格や研究費規模に応じて効率的・合理的な評価方法を検討すべきである。評価の質的向上を図る観点からは、審査員の構成のバランスへの配慮、研究内容を理解できる人材の確保を含めた評価業務実施体制の強化、審査結果の申請者への開示の拡充に努めることが必要である。

 なお、近年、科学研究費補助金以外にも多様な競争的資金が大学等における研究に対して配分されているが、大学等における研究費の全体的拡充と多様化という観点からは意義のあることと考える。これらの競争的資金については、特定技術の開発などそれぞれの資金制度の趣旨、目的に応じた運用がなされるものであるが、大学等においては、これらの資金を受け入れて研究活動を行うに当たっては、その学問的意義を考慮するなど大学等が果たすべき役割を踏まえることが必要である。また、各資金制度の運用においては、大学等における研究の特性に配慮しつつ、社会的・経済的観点とともに研究内容の科学的な観点から課題の評価が適切に行われることを要望する。

(3)大型研究プロジェクトの評価

 天文学、加速器科学、核融合科学など、特定の大学共同利用機関等が中心となって、巨額の研究資金と多くの研究者集団により実施される大型研究プロジェクトについては、投入される資金が極めて多く、他分野の研究の推進や社会・経済に対する影響も大きいことから、当該分野の研究者の間だけにとどまらず他分野の研究者及び広く社会一般の支持を得て推進されなければならない。また、研究資源の効果的な使用という観点からも、事前・中間・事後にわたって厳格な評価を行うことが求められる。
 これらの研究プロジェクトは、通常、関係分野の研究者の間における厳しい学問的討議を経て具体的な計画が形成されていくものであるが、その評価体制として、従来は学術審議会の分科会等が評価のための組織としての役割を果たしてきた。このように、研究者のアイデアを汲み上げつつ、それとは距離を置いた第三者的立場の審議会等で評価を行う体制が有効かつ適切であると考えられることから、今後とも、科学技術・学術審議会の中に適切な組織を設けるなどして、事前・中間・事後の各段階における評価を実施し、それに基づいてプロジェクトの実施や中止・変更等の措置を講ずるとともに、評価結果を積極的に公表し、発信することが適当である。その際、評価の質を高めるため、学問的意義のみならず社会・経済に与える影響について十分な評価が行われるよう、当該分野以外の研究者や、一般有識者等の参画を得て評価を行うことを検討する。また、外国人研究者の意見を聴くなどして、国際的な視点に立った評価の実施に努めることも重要である。
 なお、大型研究プロジェクトには国の政策としての意義を有するものもあるという観点から、政策評価の対象とすることも考えられる。

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