1.基本的考え方

(1)学術研究の意義と評価の基本理念

 大学等における学術研究は、研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として行われる知的創造活動であり、人間の精神生活を構成する要素としてそれ自体優れた文化的価値を有するものである。その成果は人類共通の知的資産となり、文化の形成に寄与する。また、多様性を持った学術研究が幅広く推進される中から、未来社会の在り方を変えるブレークスルーを生み出すなど、国家・社会発展の基盤ともなるものである。
 このような意義を有する学術研究においては、自律的な環境の中で研究活動が行われることが何よりも重要であり、その評価に当たっては、専門家集団における学問的意義についての評価を基本に据える態度が重要である。
 また、優れた研究を積極的に評価するなど、評価を通じて研究活動を鼓舞・奨励し、その活性化を図るという積極的・発展的な観点を重視すべきである。画一的・形式的な評価が研究者を萎縮させ、独創的・萌芽的な研究や達成困難な課題に挑戦しようとする意欲を削ぎ、研究活動が均質化する結果となることのないようにしなければならない。

(2)学術研究における評価の意義

 学術研究においては従来から、学会活動等を通じた研究者間における相互評価や研究費配分に当たってのピア・レビューなどが有効に機能しており、決して評価が疎かとなっているわけではない。
 一方、近年、学術研究に対する投資の拡大ともあいまって、学術研究の成果に対する各方面からの期待が高まっており、研究者の研究意欲を高め、研究活動の一層の活性化を図るとともに、それによって優れた成果が創出される上で、適切な評価を行うことが一層重要となっている。また、分野や課題によっては、研究装置の高度化等に伴い、個々の研究に要する経費が著しく高額化している状況の中、効果的な資源配分を行うという観点からも評価は重要である。さらに、公財政による資金を用いて行われる場合はもちろんのこと、公的機関たる大学等における学術研究に対しては、国民に対する説明責任を果たす観点からも適切な評価を行い、その結果が明らかにされなければならない。
 このように、様々な観点から学術研究においても評価を行うことには意義があり、評価のための適切な仕組みを整えることが求められている。ただし、評価の目的、すなわち何のために評価を行い、その結果を何に活用するのかによって、評価の観点や方法も異なるであろう。
 したがって、個別具体に評価の仕組みを整えるに当たっては、まず評価の目的を明確にし、それにふさわしい評価方法によることが重要である。自己目的的ないわば「評価のための評価」となったり、研究者の評価疲れを招き本来の研究活動に支障を来すようなことは避けなければならない。

(3)学術研究の特性と評価の際の留意点

 学術研究には、研究開発一般と比較して、次のような特性がある。
 学術研究は人文・社会科学、自然科学のあらゆる学問分野にわたるものであり、その目的、性格、規模、方法等が極めて多様である。また、学術研究においては独創性が重視されるとともに、萌芽的な研究や長期間を経て波及効果が現れる研究など評価が困難なものも多い。さらに、新しい原理や法則の発見に至る過程においては、研究の経過そのものや時には失敗さえもが、その後の展開にとって価値を持つ場合がある。また、大学等においては、研究成果を踏まえた教育活動によって研究者をはじめ社会の様々な分野で活躍する人材が養成されるなど、研究活動と教育活動が一体的に推進されている点にも大きな特徴がある。
 以上の点を踏まえれば、学術研究における評価に際しては、次の点に留意が必要である。
 評価の視点としては、学問的意義についての評価が中心である。それに加えて研究の分野や目的に応じて、社会・経済への貢献という観点から新技術の創出や特許等の取得状況などについても評価の視点の一つとする。また、画一的・短期的な視点から目に見える成果のみを性急に期待するのではなく、成果の波及効果を十分に見極めるなど、長期的・文化的な観点に立った評価が必要である。さらに、最先端の研究だけでなく、萌芽的な研究を推進するとともに、若手研究者による柔軟で多様な発想を活かし、育てるという視点が重要であり、単に成果を事後的に評価するだけでなく、現に研究活動に取り組んでいる研究者の意欲や活力、発展可能性を適切に評価するという視点を持つべきである。
 評価の方法としては、定量的指標による評価方法には限界があり、あくまでピア・レビューによる研究内容の質の面での評価を基本とすべきであるが、評価の客観性を高める観点からは、論文数や論文被引用回数などの客観的データを整備・蓄積し、これを適宜活用することも有効である。
 なお、人文・社会科学の研究は、人類の精神文化や、人類社会に生起する諸々の現象や問題を対象とし、これを解釈し、意味づけていくという特性を持った学問であり、したがって、個人の価値観が評価に反映される部分が大きいという点にとりわけ十分な配慮が必要である。
 また、大学等の機関評価や大学等の研究者の業績評価については、研究と教育の有機的関係への配慮が必要であり、教育、研究、社会貢献といった大学等の諸機能全体の適切な発展を目指すことが重要である。

(4)評価者の役割

 公正な評価が行われるか否かは評価者の資質にかかっているといえよう。特に、学術研究における評価は、予め達成目標を明確に定めて行われる研究とは異なり、多様な学問的意義についての評価が中心となることから、最終的には評価者の主観的な判断によるところも大きい。したがって、学問的識見や予測能力と国際的・学際的な視野を持って公正に判断を下すことができ、被評価者からも信頼が得られるような優れた評価者を確保することが不可欠であるとともに、評価者の資質を高めるための取組みも重要である。
 また、評価者は、極めて多様な内容を持った学術研究においては評価の普遍性に限界があることや、その上で自らが行う評価の重みを十分認識し、評価者としての責任と自覚を持ち、評価の視点を明確に持って評価に当たらなければならない。一方、被評価者たる研究者の側でも自らの研究活動の意義や内容について積極的に主張、説明するなど、評価者と被評価者の間の相互作用を通じて、両者の信頼関係を構築することが望まれる。
 具体的にどのような者を評価者とすべきであるかは、評価対象によっても異なるものである。
 競争的資金の審査・評価については、研究課題の内容に精通していることが不可欠であり、それぞれの分野の第一線の研究者によるピア・レビューが原則となるが、評価の公正さを高めるため、評価者の所属機関、年齢構成等のバランスに配慮するとともに、個々の課題の審査に当たっては、利害関係者が審査に関わらないようにする。また、評価基準の公表や、評価者名、評価結果の事後公表などの取組みもあわせて行う。
 大型研究プロジェクトや社会的影響が大きい研究などの評価については、各研究分野間の資源配分のバランスとも関連することや、その社会的意義についても評価するとの観点から、当該分野の専門家だけでなく、他分野の研究者や一般有識者等を評価者に加えることが重要である。また、国際的な観点に立った評価を行うため、外国人研究者の参画についても積極的に考慮すべきである。
 大学等の機関評価については、外部の研究者や有識者の参画も得た自己点検・評価を推進しつつ、第三者評価機関である大学評価・学位授与機構による評価の充実に努めることとする。

(5)評価業務実施体制の整備

 評価の充実を図るためには、優れた評価者を確保するだけではなく、それを支える評価業務の実施体制全体の整備が必要であり、必要な予算、人材等の確保に努めるべきである。
 特に、競争的資金については、課題の審査に当たる評価者とは別に、研究経歴を有するなど研究内容を十分に理解できる人材を配置し、課題の採択プロセスや成果の把握など業務運営全般に専門的立場から適切に参画する仕組みを整えることが必要である。
 例えば、科学研究費補助金業務については、大学等の研究者が非常勤で助言等の協力を行っているところであるが、今後、各専門分野の研究者がより明確な責任を持ち、継続的に業務運営に携わる方策を検討することが望まれる。
 なお、研究評価に伴う作業負担が過重で、研究者の研究活動に大きな支障が生ずることのないよう、評価目的に応じた極力簡便で効率的な評価の実施に努めるべきである。また、評価業務の効果的・効率的な実施のため、データベースの整備や業務の電子化等を進める。

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