3 科学研究費補助金による若手研究者育成の充実

1)これまでの取組

 優れた若手研究者を育成することは我が国の発展に不可欠であり、多くの可能性を秘めた若手研究者に幅広く研究費を配分できるようにする必要がある。
 このため、科学研究費補助金においては、従来、若手研究者を対象とした研究種目を設け、その充実に努めてきている。
 5年前の平成12年度について見てみると、予算額は、奨励研究(A)(現在の若手研究(A)及び若手研究(B)の前身)が89億5千万円、特別研究員奨励費が52億8千万円であり、合計で142億3千万円となっており、当時の科学研究費補助金の予算総額1,419億円に占める割合は10.0パーセントとなっている。
 これを現在の平成17年度について見てみると、若手研究者の育成のために設けられている研究種目としては、若手研究A、若手研究B、特別研究員奨励費がある。平成17年度における予算額は、若手研究(A)が59億円、若手研究(B)が146億円、特別研究員奨励費が61億7千万円であり、合計で266億7千万円となっており、科学研究費補助金の予算総額1,880億円に占める割合は14.2パーセントとなっており、若手研究者に対する支援の充実が図られてきていることがわかる。

2)政府における検討の経緯

 若手研究者の育成に関しては、第2期科学技術基本計画において、若手研究者の自立性の向上を図る観点から、若手研究者を対象とした研究費を重点的に拡充することとされていた。また、総合科学技術会議が平成15年4月に示した「競争的研究資金制度改革について(意見)」においても、「研究者を育てる制度への転換」という観点から「若手研究者の独立性を確立し、より流動的な環境の中で研究を進められるようにするため、若手研究者向けの競争的研究資金の拡充を図る」ことが述べられている。
 前期(第2期)の本部会も、平成15年5月の報告「科学研究費補助金制度の評価について」において、「科学研究費補助金制度には、その発足当初から、本来的に「研究者」を育てる制度としての仕組みが組み込まれているので、若手研究者向けの研究資金については、今後も引き続き予算の拡充に配慮する必要がある」とした。さらに平成16年12月の「科学研究費補助金の在り方について(報告)」においても、「若手研究者の支援については、近年予算の大幅な増額が行われてきているところであるが、今後とも予算の拡充によってその充実を図るべきである」としている。
 第3期科学技術基本計画の策定に向けて、本審議会の基本計画特別委員会が平成17年4月に「第3期科学技術基本計画の重要政策(中間とりまとめ)」をとりまとめているが、科学技術関係人材の養成・確保に関し、若手に自立した活躍の機会が与えられる仕組みの整備という観点から、テニュア・トラック制の導入の促進を掲げ、「テニュア・トラックにある若手研究者の活躍を確保しスタートアップも含めた環境整備(研究費、設備の確保等)を行うための所要の支援を行う」旨を提言している。同様に、知の時代を先導するイノベーションの創出に関し、競争的研究資金の拡充と制度改革の推進の観点から若手研究者等の活性化を掲げ、「テニュア・トラックにある若手研究者を対象とした競争的資金を重点的に拡充し、若手研究者の自立性や流動性を高める」旨を提言している。

3)若手研究者支援の基本的方向

(若手研究者支援に関する議論)

 若手研究者への支援を拡大していくことに関連して、様々な意見がある。
 一方においては、若手研究者重視政策のあおりを受けて、40歳代の、教授になるかならないか位の年代の研究者達が一番苦労している状況があるとの指摘があり、若手研究者の育成を考える上では、将来が期待できる最も頑張っている40歳代の研究者のことを含めて考えるべきとの意見がある。また、若手研究者をさらに優秀な研究者に育てていく観点から、次の段階で応募することになる基盤研究(C)、基盤研究(B)の充実が重要であるとの意見もある。さらに、中堅を大事にするということが、ボトムアップにより学術研究の振興を図る科学研究費補助金制度の基本であるとの意見もある。
 しかし、これからの我が国の創造的人材の育成を強化していく上で、若手研究者に対する支援の充実が特に必要であり、優れた人材の意欲と創造力を最大限に発揮できるよう、若手研究者が早期に独立して自分の研究に専念できるよう、自立性と流動性を考慮した環境の整備が必要であると考える。
 その場合、若手研究者としてテニュア・トラックの研究者の職に就いたばかりの者に対して、研究開始時の環境整備など、スタートアップにかかる研究の支援が必要であるという意見もある。
 この「スタートアップ支援」に関しては、「若手研究者」ばかりではなく、企業の研究所等の研究者など、大学以外の機関から大学等の学術研究機関に移ってきた研究者や、特に30代、40代の研究者で、実績はないが新興の分野を研究対象とする者を考慮すると、ぜひとも必要であるとの意見もある。
 このため、本部会では科学研究費補助金による若手研究者のスタートアップ支援に関し検討を行った。
 本部会としては、基本的にはこうした支援は研究機関において責任を持って行うべきものであり、各機関においては、新たに研究者を採用した際に適切な措置を取ることを期待するものである。しかし、特に優れた研究者に関しては、研究活動の当初から十分な研究が行われるようにすることは、若手研究者支援の面からも適切であり、科学研究費補助金によりその支援を行うことが適切ではないかと考える。

(スタートアップ支援の検討に際しての配慮事項)

 なお、若手研究者育成支援に関しては、現在の制度のもとで具体的に解決が求められる課題として、次の3点が指摘されている。

1 若手研究者の範囲が研究経歴を考慮せず、37歳以下という年齢のみによって定められている点

 このことについては、「特に、若手向けの競争的研究資金制度については、若手研究者育成の観点から、単純な年齢による判別だけではなく、研究経歴による応募資格(例えば常勤職(特に任期付)について5年以内)、他分野から移って来た多様な人材を排除しないこと等を含め、制度の見直し、充実を図る」との意見がある(総合科学技術会議「競争的研究資金制度改革について(意見)」平成15年4月21日)。
 これに対して、第2期の本部会においては、平成15年5月27日に行った報告「科学研究費補助金制度の評価について」において、「いわゆる若手研究者に限らず、他分野から移ってくる多様な人材に対する支援については、これらの人材が新たな分野での経験が長いとは限らないが、若手研究者支援とは同列に扱うことは必ずしも適当でないと考えられることから、研究者全体の人材の流動化の状況を見ながら、若手研究者支援とは別に支援の在り方を検討する必要がある」としている。

2 現在の制度では、特別研究員奨励費の交付を受けている特別研究員が大学等の研究機関の常勤の研究者の職に就くと、特別研究員の身分を失うことから、その時点で、その後も交付することが予定されていた特別研究員奨励費について、これを受けることができなくなる点

 特別研究員は最長3年間その身分を有しその間科学研究費補助金の一研究種目である特別研究員奨励費を受領することができるが、いったん常勤の職についた場合には特別研究員としての身分を失い同時に特別研究員奨励費の支給も停止される。
 このような研究者が大学等の研究者として改めて科学研究費補助金の交付を受けるためには、例年11月に締め切られる公募の時期まで待ち、これに応募し、審査において採択され、翌年4月の交付の内定を受けなければならない。したがって、それまでの間は、科学研究費補助金による研究費の支援を受けることができない。すなわち、特別研究員のままであれば研究費の支援を受けられるはずであった者について、能力を認められて研究者の職を得た場合には、最も研究に専念すべき重要な時期であるにもかかわらず、研究費の支援を受けることができない期間を生じさせてしまうのである。

3 民間企業に所属している者又は外国の研究機関に所属している者などは、我が国の大学等の研究機関に所属していないことから、我が国の研究機関において研究者として採用されることが予定されていても、その時点では採用を予定している研究機関の研究者として科学研究費補助金に応募することはできない点

 この場合、当該研究機関に採用されてから応募することになるが、公募の締め切りが例年11月末であり、審査で採択されたとしても、翌年4月の交付の内定を受けなければ研究費の使用ができないことから、結局採用されてから1年程度は科学研究費補助金による研究費の支援が受けられないことになっている。

4)スタートアップ支援の方策の在り方

 以上を念頭に、本部会では、若手研究者育成の充実の観点から、研究者の職についたばかりの研究者のスタートアップを支援する具体的方策について検討を行った。

(特に優れた研究者への支援)

 我が国では競争的研究資金と基盤的経費によるデュアルサポートシステムを採っていることから、研究機関に所属する研究者の基盤的経費は研究機関において措置される。このことは、採用されたばかりの研究者においても同様であり、本来、スタートアップに係る研究費は、当該若手研究者を採用した研究機関がきちんと措置すべきものである。
 これに対し科学研究費補助金による支援は、採用されたばかりの研究者が計画する研究計画のうち、特に優れたものを取り上げて支援するものとすべきである。
 また、将来有望と思われる研究者を競争的に選抜して、自立した研究者として育って行くことを支援するために、スタートアップを助ける形で研究者としての活動を奨励する、という意味合いが強いことから、特別研究員に採用された者のために設けられている特別研究員奨励費と連携を図ることができるものとして考えることが適当である。

(公募時期等)

 以上の実施に当たっては、現在、若手研究者の支援制度として既に設置されている研究種目である、若手研究(A)、若手研究(B)及び特別研究員奨励費との整合性を保つとともに、現在の応募・審査体制において無理を生じさせないような工夫が必要である。
 このようなことから、今後においては、若手研究(A)、若手研究(B)、に加えて、年齢による判別ではなく、研究経歴による応募資格(例えば、大学等の研究者以外から初めて研究者として大学等の研究機関に採用されてから2年を経過しない者とすることが考えられる。)を設け、例年11月に締め切られる公募とは別に、新規採用者の多い4月頃に公募を行う研究種目(例えば、「若手研究(スタートアップ)」という名称にすることが考えられる。)を新設することが望ましいと考える。
 このようにすることにより、能力を認められて研究者の職を得た若手研究者が、最も研究に専念すべき重要な時期に、研究費の支援を受けることができない期間を生じさせている現在の制度における問題を解決することができる。また、人材の流動に迅速に対応して、研究者としてのスタートを切ったばかりの若手研究者が速やかに科学研究費補助金への応募ができるようにすることにより、特に優秀な研究者が早い段階から自立して研究に専念できるようになることが期待できる。

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研究振興局学術研究助成課企画室

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