3 審議の状況

(1)一定の結論・方向性が得られた事項

1 応募資格の見直し

 科研費(一部の研究種目を除く)の応募資格は、従来、指定された研究機関に「常勤の研究者(当該研究機関に常時勤務し研究を主たる職務とする者)として所属する者」としてきたが、研究者の勤務形態や職名の多様化に伴い、これを見直す必要が生じている。
 本部会においては、「研究者の自由な発想に基づく優れた独創的・先駆的研究を格段に発展させることを目指した研究資金であり、我が国の学術研究の振興そのものを目的としている」(平成15年5月27日 研究費部会報告)という科研費の目的・理念を前提としつつ、「職務の内容と研究との関係」、「研究機関への帰属度」等の側面から、今後の応募資格の在り方について検討を行った。
 その結果、より多様な勤務形態・職名等に対応し、優れた独創的・先駆的研究を広く対象とできるようにするため、今後の応募資格については、従来の機関指定を維持しつつ、次の4つの要件を全て満たすこととすることが妥当であるとの結論を得た。

<研究者に係る要件>
a 指定された研究機関に、当該研究機関の研究活動を行うことを職務に含む者として、所属する者であること(有給・無給、常勤・非常勤、フルタイム・パートタイムの別を問わない。また、研究活動以外のものを主たる職務とする者も含む。)
b 当該研究機関の研究活動に実際に従事していること(研究の補助は除く。)

<研究機関に係る要件>
c 科研費が交付された場合に、その研究活動を、当該研究機関の活動として行わせること
d 科研費が交付された場合に、機関として補助金の管理を行うこと

 どの職員を前記の要件を満たす者として位置づけるかは、個々の職員の資質・研究能力を踏まえつつ、各研究機関の判断と責任において決定されるものである。基本的考え方として、この点は、従来の応募資格であった「常勤の研究者」の採用が各研究機関の裁量に委ねられていたことと何ら変わるものではない。

2 独立した配分機関体制の構築

 科研費に係る審査・配分事務については、平成11年2月の学術審議会科学研究費分科会報告において、「科学研究費補助金のうち、制度としてある程度整えられた、運用上の混乱を生じさせない研究種目については、日本学術振興会に移管し、よりきめ細かな審査・評価や研究者へのサービスの向上を目指すことが期待される・・・・同振興会を学術振興のための中核的機関、いわば日本版NSFあるいは日本版リサーチ・カウンシルに育成し・・・・ていくことが期待される」との提言が行われたことを受けて、平成11年度から徐々に移管を進めてきた。
 日本学術振興会においては、学術システム研究センターを設置し、プログラムディレクターの役割を担う所長及び副所長、プログラムオフィサーの役割を担う主任研究員及び専門研究員を配置するなど、審査・評価体制の充実を着実に進めており、現在までに、研究種目・予算の約半分について、移管が終了している。
 残された9つの研究種目については、移管のための諸条件(日本学術振興会における、ピア・レビューのための基盤の整備、審査・評価組織の整備、事務処理体制の整備等)がどの程度整っているかを見極めつつ、計画的に移管を進めていくことが必要である。
 この点について、本部会において検討を行った結果、次のような結論を得た。

  • 9つの研究種目は、移管のための諸条件が既に整っていると思われるもの(既に日本学術振興会において審査等の事務を行っている、萌芽研究、若手研究、特別研究員奨励費、学術創成研究費)と、今後更なる体制整備が必要であると思われるもの(特別推進研究、特定領域研究、研究成果公開促進費、特定奨励費、特別研究促進費)とに分類できる。
  • これらのうち前者の4つの研究種目については、前期計画として、平成17年度から概ね4年間で、順次日本学術振興会への移管を進めていくことが望ましい。
  • 後者の5つの研究種目については、前期計画の終了までに、必要な体制整備を検討しつつ、日本学術振興会への移管に関する後期計画を策定することが望ましい。

3 研究種目の構成の見直し(重複応募制限の見直し)

 科研費の研究種目の見直しについては、平成13年7月10日の本部会の報告において、重複応募制限の在り方について今後検討すべきとされていたこと、また、重複応募制限のルールが複雑に過ぎるという意見が一部にあり、実際に、誤って重複応募制限に抵触したと思われる事例が毎年200件程度見られることから、ルールを単純化・明確化することの可能性・適切性について検討を行った。
 しかしながら、現在の重複応募制限ルールは各研究種目の設定趣旨・特性等の違いによる合理的理由に基づいて定められたものであり、一人当たりの応募可能件数を一律に定めるような単純化は好ましくない。また、前記のような問題については、問合せ窓口を設けること等により丁寧な対応をとれば解決できると考えられることから、現時点でこれを改正する必要はないと考える。
 このため、重複応募制限ルールの改正は現時点では行わず、現行のルールの内容を分かりやすく示す方法を工夫するとともに、各研究機関に対して現行のルールの周知徹底を図り、誤って重複応募制限ルールに抵触するケースをできる限り少なくするよう努めることが適切である。

4 不正な行為の防止

 科研費に係る不正な使用は、近年増加傾向にある。科研費によって支援されている研究者・研究活動の全体から見ればごく一部のケースに過ぎないとは言え、国民の税金によってまかなわれている科研費の不正な使用の増加は、納税者の信頼を損ない、制度全体の存立基盤を危うくするものである。
 科研費の不正な使用の中には、ごく少数ながら極めて悪質な事例がある一方で、制度・ルールの改善(費目間流用、年度間繰越、研究開始時期、間接経費、外国出張、研究支援者雇用、終了前年度応募、育児休業中断等に係る改善)に関する理解不足によって結果的にルール違反となったケースも少なからず見受けられる。このため、「不正な使用」を未然に防止するためには多様な対応が必要である。
 具体的には、これまで、研究機関による補助金管理・監査の徹底、研究機関の責任の明確化、説明会・研修会等の充実、不正な使用を行った研究者等に係る応募資格の一定期間停止などを行ってきたが、今後とも関係施策の充実に努め、不正使用の防止を徹底していく必要がある。
 研究費の適正な使用は、基本的には研究者のモラルによって維持されるべき問題であって、徒に硬直したルールにしたり、いわゆるペナルティーを過度に強化したりすることにより対応すべきものではない。本部会としては、科研費の交付を受ける全ての研究者に対して改めて自覚を促したい。

(2)引き続き審議を行う事項

1 研究費全体の中における科学研究費補助金の在り方

 研究活動に対する政府の財政的支援(研究費の支給)には、既に述べたように(1)研究の目標・内容等を政府があらかじめ定めるタイプのものと、(2)研究者の自由な発想に基づく研究(学術研究)を支援するタイプのものとがある。
 そうした研究費の全体を視野におき、前記の(2)に属する競争的研究資金である科研費の在り方を検討するには、例えば、前記の(2)の中での研究費配分の在り方、前記の(1)に属する競争的研究資金と(2)に属する競争的研究資金(科研費)の関係など、多様な側面を考えることが必要である。
 第一に、前記の(2)の中での研究費の配分の在り方については、学術研究に対する政府の財政的支援の具体的な方法として、1競争的研究資金(科研費)による優れた研究の支援、2基盤的研究資金による全ての研究の支援、3大学共同利用機関の設置等による特定分野の研究の支援などがある中で、1の科研費のみが「倍増」という政府の目標のもとに予算措置において優遇されていることから、少なからぬ研究者の間に、このことが2の基盤的研究資金の充実に障害となっていたり、あるいは今後の削減を招くのではないかとの危惧も生じている。
 このことについては、科学技術関係経費についてのデータで見れば、前記の2・3に係る研究費の総額は、わずかながら増加しているところである。
 しかしながら、基盤的研究資金が十分に確保されているとは言えないこと、また、国立大学の法人化等により、各研究機関内での基盤的研究資金の配分については、各機関の広範な裁量に委ねられることとなることから、個々の研究者に基盤的研究資金がどの程度配分されるかについては、各研究機関によって大きな差が生じたり、基盤的研究資金の削減により大きな影響を受ける研究者が生じることも予想され、今後科研費への依存度が一層高まっていくとの指摘もなされている。しかし、審査によって採択された「優れた独創的・先駆的研究」のみを対象とする科研費がその本来の意義・特性に従って有効に活用され、デュアルサポートシステムが十分に機能するためには、一般の研究者を広く対象とする基盤的研究資金が確保される必要があり、この点について各研究機関の自覚を促したい。
 このように、科研費については、「2基盤的研究資金による全ての研究の支援」や「3大学共同利用機関の設置等による特定分野の研究の支援」の充実を図りつつ、今後ともその拡充に努めていく必要がある。
 第二に、前記の(1)に属する競争的研究資金と(2)に属する競争的研究資金(科研費)の関係については、現在、合計28の競争的研究資金制度があることは、研究者のニーズに応じて多様な支援を行う体制があるという点で、基本的には好ましいことである。
 ただし、これらの諸制度は、全体として予算総額の「倍増」を目指すという政府の方針もあり、「競争的研究資金」という一つのものとして論じられる傾向があるが、28の制度のうち科研費のみが「研究者の自由な発想に基づく研究(学術研究)」を対象とするという特性を有している、ということを常に明確にしておく必要がある。
 特に、政府が定めた重点分野に対して科研費を重点的に投入すべきであるという主張が一部にみられるので、科研費の意義・目的について、理解を求めていく努力を今後一層行う必要がある。
 なお、この審議事項については、今後ともより多様な側面について、審議・検討を進めていくこととした。

2 研究種目の構成の見直し(研究種目そのものの見直し)

 科研費の研究種目は、現在14に分かれており、また「基盤研究」等一部の研究種目は、申請額や研究の性格に応じてさらに複数のサブカテゴリーに分かれている。このような細かい研究種目の分離が重複応募制限のルールを複雑にしているといった意見や、応募件数を増大させる原因となっているとの意見が一部にある。
 しかし、科研費の研究種目は、これまで学術研究を巡る諸状況に即して、その目的、対象、申請額、研究期間等について見直しを重ね、改善を図ってきた結果、現在の構成・内容になっているものであり、合理的理由に基づいて定められている。研究種目そのものの在り方は科研費全体の在り方にも関わるものでもあり、その見直しについては、現在の学術研究を巡る諸状況に沿った構成・内容になっているかを検証しつつ引き続き本部会において検討を行うこととした。

3 研究成果の発信の在り方

 学術研究は人類共通の知的資産を形成するものであり、その成果はより多くの人々に共有されることが大切である。また、学術研究の推進を図るためには、学術研究への国からの投資の必要性等について広く国民の理解と支持を得ることが重要である。このため、個々の研究者を含めた各大学等が、その行っている研究の内容、意義、必要性、成果について、できるだけ多くの機会をとらえて社会に対し積極的に情報を発信していく必要がある。
 科研費を用いて実施した研究の成果の発信は、学術研究全般の重要性を社会にアピールし、国民の理解と支持を得る上でも、国民の貴重な税金を原資とする科研費を用いて行われる研究について、国民への説明責任を果たす意味でも、また、科研費の役割について国民の理解を増進し、科研費の将来の拡充を図る上でも、極めて重要である。
 本部会では、学術研究全般についての成果発信の現状について整理・確認した後、特に科研費に係る研究成果の発信の在り方について、具体策の審議・検討を開始した。
 科研費を用いて実施した研究の成果の発信については、科研費自身の中でもこれを支援する仕組みがあり、研究成果公開促進費の中で、1学術研究の発展に資する観点から、学会等の専門家集団に向けて研究成果の発信の促進を図る事業と、2一般国民に向けて学術研究の動向・内容の普及啓発の促進を図る事業、の2つについて助成が行われている。
 また、平成16年度からは、科研費を用いて実施した研究の成果を広く発信するためのホームページの作成について、その費用を科研費の直接経費から支出できることを補助条件に明示し、個々の研究者自身による成果発信の取組の促進を図った。
 今後は、第一に、個々の研究者自身による成果発信への支援を拡大すること、第二に、文部科学省や日本学術振興会が研究者と連携・協力しつつより総合的で広範な成果発信を展開していくことが必要である。後者の例としては、各研究者が成果発信を行うホームページのポータルサイトの構築、テレビ等のメディアの活用、各種イベントの開催、科学ジャーナルとの連携などが考えられる。これらを含め、国民の理解と支援を得るための効果的で分かりやすい研究成果の発信方法についてさらに検討する必要がある。

4 その他

 審議事項のうち、これまで審議を行っていない、「申請・審査の在り方の見直し」、「研究費の配分の在り方」及び「経費執行の弾力化」については今後、審議を開始することとした。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課企画室

(研究振興局学術研究助成課企画室)