(平成24年7月 科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会)
○ 学術振興の基礎となる学術情報基盤の整備は、研究者間における研究成果の共有、研究活動の効率的展開、社会に対する研究成果の発信・普及、研究成果を活用する教育活動の実施、研究成果の次世代への継承等の観点から不可欠である。
○ コンピュータ、ネットワーク技術の著しい発展を受け、学術情報の流通・発信は、国際的に電子化が基本である。自然科学系は既に電子ジャーナルが中心であるが、人文学・社会科学系の電子ジャーナルへの移行は遅れている。
○ 学術情報の国際発信・流通を一層促進する観点から、利用者側が費用負担なしに、必要な資料を入手することを可能にするオープンアクセスが国際的に大きな関心を集めている。
○ 日本では、研究は多くの分野において世界でもトップクラスの業績を上げている一方で、国際的に認知された有力ジャーナルは少ない。その結果、我が国で生産される論文の約8割が海外のジャーナルに掲載されており、日本としてのジャーナルの整備は、十分な成果を挙げていない。
○ 我が国が知的存在感を増すためにも、我が国発の有力ジャーナルの育成は不可欠であり、その結果、優れた研究成果が海外から集まることにつながり、我が国が当該分野において世界をリードする発展拠点となることが期待される。
○ 将来を見据えた学術情報基盤の整備に当たっては、学術情報の電子化、ネットワーク化、さらにはオープンアクセスの理念を踏まえ、第4期科学技術基本計画の「知識インフラ」構築に向け、多様な取組を加速化することが望まれる。
○ 日本発の国際的に有力なジャーナルの育成に関しては、ジャーナル刊行を支援している科学研究費補助金において、これまで紙媒体の発行経費に限定している助成対象について、国際情報発信力の強化を支援する方向で改善すべき。
○ 研究成果のオープンアクセス化に関しては、積極的に取り組むべきであり、オープンアクセスジャーナルの育成とともに、各大学等が整備を進めている機関リポジトリの活用も有益である。
○ 各大学等における教育研究成果を収集・流通させる機関リポジトリについて、整備を加速させるためには、大学等が教育研究活動をアピールするに当たり、機関リポジトリの整備・充実は重要であるとの認識を一層普及させることが必要である。
○ 学術情報基盤の強化に当たっては、助成事業を行う日本学術振興会(JSPS)のほか 、科学技術振興機構(JST)、国立情報学研究所(NII)、国立国会図書館(NDL)による支援のための環境整備が重要であり、その際、各機関における連携及び役割分担が必要。
○ 科学研究費助成事業(科研費)において、研究成果の普及を助成するための種目「研究成果公開促進費」の中に「学術定期刊行物」の区分を設け、学会又は複数の学会の協力体制による団体等が、学術の国際交流に資するために定期的に刊行する学術誌を助成している。
○ 学術定期刊行物の審査では、質の良いジャーナルであれば、継続的に助成を受けられる結果となっており、競争性が十分でないという批判がある。また、科研費全体の予算は伸びているものの、学術定期刊行物は予算規模の大幅な縮小(ピーク時の約1/3)により、応募意欲の減退を招き、応募件数が減少している。
○ 助成経費としては、紙媒体を前提とした直接的な出版費を対象としており、電子化の進展に十分対応できておらず、査読審査や編集等ジャーナルの発行に不可欠な経費も対象となっていない。
また、審査に関しては、研究者による学術的価値等が中心の評価となっており、ジャーナルの発行に係る実務者等が参画していないため、発行改善への取組内容に対する評価が不十分である。
○ 我が国の学術情報発信力を強化する観点から、研究の多様性を確保し、世界の学術に貢献するような有力なジャーナルを多く育てる必要がある。そのため、事業を拡充するとともに、国際競争力を高める観点から助成方法を検討することが重要である。
○ 本部会の示す改善の方向性について、審査・交付業務を行う日本学術振興会において制度改善による影響を検証しつつ、具体的な内容について検討することが望まれる。
(ジャーナルの発行に必要な経費の助成)
(国際情報発信力強化を評価するための公募内容の見直し)
(オープンアクセスの取組への助成)
(その他科研費の改善に関する留意事項)
○ 学術研究の成果は、人類共通の知的資産として共有されることが望ましく、特に公的助成を受けた研究成果については広く利活用されるべきである。そのため、ジャーナルの高額な購読料や著作権ポリシーにより、閲覧が難しくなる状況は好ましくないとして、研究成果のオープンアクセス化を進めるべきという考えが世界的な流れとなっており、第4期科学技術基本計画でも推進すべきとされている。
○ 研究成果のオープンアクセス化には、「オープンアクセスを前提としたジャーナルに論文を発表する方法」及び「研究者が発表したジャーナルの許諾を得て自らインターネット上で論文を公表する方法」という大きく分けて二つの方法がある。
(オープンアクセスジャーナルにおける公表)
(インターネットによる公表)
(1) 公表する場所
・研究資金を支援した資源配分機関におけるウェブサイトにおける公表
・研究者の所属機関におけるウェブサイトにおける公表
・研究者個人の設置するウェブサイトにおける公表
(2) 公表する時期
・最初に成果を発表した時点
・最初に成果を発表した時点から出版者側の認める一定期間を経過した時点
(3) 公表する文書の内容
・ジャーナルが登載を承認し公式に発表したもの(出版版)
・出版版に至る前の著者最終原稿等
○ 競争的資金を受けた研究の成果については、資源配分機関が支援と成果との関係を把握するため、オープンアクセスへの対応を含め、支援した研究の成果へアクセスできるかを研究者側に報告させるべき。科研費については、研究成果報告書における研究成果論文のWebアドレスの記載を強く奨励し、KAKENとリンクした形での流通を進めるべき。
○ 大学等の生み出す多様な知的生産物は、第4期科学技術基本計画に示す「知識インフラ」構築のための中核的要素である。こうした知的情報の蓄積・発信は、社会への貢献が求められる大学等の責務であり、その重要な手段として機関リポジトリを位置づけ、整備・充実を図ることが望まれる。「大学改革実行プラン(平成24年6月)」における「大学ポートレート(仮称)」と同様、大学情報の積極的な発信を目的とするものでもある。
○ また、機関リポジトリ自身は、情報発信だけでなく、大学等において研究、学習・教育活動を実施する上で幅広い環境整備の役割を有している。
○ 機関リポジトリの構築は、各大学等の図書館を中心とした自発的な努力により、現在、国公私立大学等の約250機関に設置されている。大学等による個別の機関リポジトリ構築に加え、地域等において機関間連携による共同リポジトリの整備も積極的に進められており、NIIによるJAIRO Cloud(共用リポジトリシステム)の提供も開始され、さらに加速が見込まれる。
○ 機関リポジトリの活用には、それぞれの連携や横断的なデータ分析が欠かせないが、そのためのツールは既に国内外で整備・運用されている。NIIの横断検索ツールであるJAIROによると、機関リポジトリのコンテンツの登録件数約100万件のうち、紀要論文約51万件、学術雑誌論文約16万件、学位論文が4万件となっており、アクセスは、紀要論文に対するものが多い。
(コンテンツの登載強化への対応)
○ 機関リポジトリの整備は、コンテンツの充実が最も重要である。図書館職員を中心に、部局や研究者の協力を得て進められているが、コンテンツの登載は基本的に研究者の「セルフアーカイブ」としている。個々の大学等では、図書館職員が代行する方式、大学等が公開する研究者データベースとのリンクなど、研究者の負担軽減につながる様々な工夫を図っており、その共有化が重要である。
(大学等及び研究者の意識改革)
○ 大学等は、研究者に対して、自らの研究成果を機関リポジトリに登載し、オープンアクセスにすることは、国内外からの検索、流通が一層進み、研究者にとっても有益に機能するとともに、学術情報を社会に還元すべきとされている大学等の責務を果たすことにつながることについて、理解を促す必要がある。
また、大学等全体として取り組むべき情報発信機能であることを明確化すべきである。
(評価への組み入れ)
○ 大学等の機関別認証評価等において、機関リポジトリによる情報発信への取組を評価の対象とし、その取組状況を把握・周知することが重要である。また、大学等による研究者の個人評価において業績として情報発信の取組を評価の観点に加えることが重要である。
(登載すべき情報の在り方)
○ 機関リポジトリに登載されるコンテンツは、各大学等が保有するユニークな資料や他では流通しづらい資料の登載にも力を注ぐなど、独自性を意識した展開も重要である。情報戦略・整備方針等に基づき、どのようなコンテンツを重点的かつ網羅的に整備するか、また、オープンアクセスにするかを判断しつつ、コンテンツの充実・発信に努めるべきである。
(支援の方向性)
○ 学協会等に著作権ポリシーの早急な検討・公表を促すとともに、ユーザーの利活用を促進させるため、NIIが提供する共用リポジトリの積極的な展開、機関リポジトリのソフトウェアの高度化・機能標準化など、情報発信機能や運用体制の強化に寄与するサービスの充実に努めることが必要である。
○ 学術情報の流通・発信力の強化に関し、NII、JST、NDL、JSPSの各機関がそれぞれの目的に基づき支援事業等を実施している。限られた資源の中で、効率的・効果的に施策を展開するため、関係機関が連携・協力、役割分担等を進め、事業の拡充・強化を図る必要がある。
○ NII、JST、NDLの各機関では、目的及び事業内容に沿った情報を収集し、それぞれが検索サイトを用意しているが、整備にあたっては、各機関の情報を相互に共通利用できるよう連携を進めている。
また、ジャーナルの電子化に関しても、助成事業を行うJSPS、プラットフォームを提供するJST、ジャーナルの電子化を含む国際化促進のためのセミナー等を展開するNII、と役割分担が進んでいるほか、関係機関における連携・協力、役割分担に対する意識や取組は進んでいる。
(ジャパンリンクセンターによるDOIの付与)
○ 学術情報の国際流通を促進するためには、機関間の連携のもと、学術情報の標準化とその国際連携を促進する必要がある。平成24年4月から共同運営を開始したジャパンリンクセンターにより、我が国の学術情報に対する国際識別子であるDOI付与を早急に軌道に乗せることが重要である。
(J-STAGE3による電子ジャーナル流通機能の高度化)
○ 平成24年5月から、J-STAGE3の運用を開始し、データベース形式の国際標準(XML)への移行、投稿査読システムの改善が行われた。我が国のジャーナルのさらなる電子化促進や諸外国へのプラットフォームの普及なども重要な課題であり、今後も、関係機関や日本学術会議などと連携を密にし、我が国発の電子ジャーナルプラットフォームとして、取組の充実が望まれる。
(SPARC Japanを活用した情報共有による国際化の促進)
○ NIIがSPARC Japanとして、国内外の動向を踏まえて、セミナー開催等の形で進めているプロモーション活動は、学協会、大学図書館等の意識向上、情報共有の場として、充実・強化を図るとともに、積極的に周知すべきである。
(関係機関間の更なるデータ連携、サービス連携の推進)
○ 関係機関がその目的に従って、コンテンツの収集・発信を推進することはもちろん、各機関の連携により、メタデータ、論文識別方法、著者情報などの「標準化」、論文の全文情報など、より詳細な学術情報へのアクセスを容易にする「統合検索機能」の強化、また、利用データの把握などの「分析ツール・統計機能」の充実を図ることが重要である。
○ 今後は、マルチメディアなど多様化する文字テキスト以外の学術情報への対応強化も必要になる。
また、電子ジャーナルに対する利活用の情報が共有されていないため、継続的な統計の収集・分析も必要である。
○ 今後の審議課題としては、アカデミッククラウド等の技術革新に伴って進められるビッグデータの流通や我が国を網羅する知識インフラの整備・活用を意識した学術情報基盤整備の在り方についての検討などが考えられる。
井上、堀下
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-- 登録:平成24年07月 --