2.大学図書館職員の育成・確保

(1)大学図書館の業務内容の変化を踏まえた大学図書館職員の育成・確保の必要性

 大学図書館における急速な電子化の進展に伴う変化と技術の進歩を背景として、図書館職員は、これまで持っていた知識と見識のみでは対応できない状況が生じている。したがって、こうした状況変化に適切に対応するために、大学図書館機能を効果的に発揮できる環境整備を図るとともに、図書館職員に求められる新たな知識と見識について検討する必要がある。

 これまで大学図書館の伝統的業務とされていたものは、1.資料収集・提供関連業務(資料の収集・組織化(目録作成等)・蓄積・提供)、2.利用者サービス業務(貸出、レファレンス、相互貸借(ILL)、情報リテラシー教育(利用案内、文献検索指導))、3.その他業務(ホームページの管理業務、館内の整備、図書館システムの管理)などが挙げられる。

 一方、新しい業務としては、学習、教育、研究支援を担う専門家として、1.カリキュラムと直結した資料整備、2.情報リテラシー教育への直接的関与、3.研究に直結するレファレンス、4.大学の研究成果の集積と発信、5.学生・教員の間(研究者間)の学問的交流の場を大学図書館として提供するラーニング・コモンズの運用などが挙げられる。

 大学図書館における状況の変化に対応し、大学図書館が重要な学術情報基盤としての機能を効果的に発揮していくためには、図書館職員のうち、中核となる者については、今後、伝統的な業務の充実を図るだけでなく、学術情報を駆使して学習、教育、研究により積極的に関与する専門家としてその必要性を学内にアピールし、従来の事務職員とは異なる職種と位置付け、大学内の様々な情報管理業務に関与していくべきである。

 こうした観点からも、大学全体としては人員削減の傾向にあるが、大学内の他部署との連携や人員増なども含めて大学図書館の体制を強化していく必要がある。なお、その際、各大学においては、大学全体としての職員の能力の向上に向けた様々な検討が進められている中で、大学図書館業務の特殊性を考慮した図書館職員の在り方にも配慮した検討が必要である。

(2)大学図書館職員に求められる資質・能力等

1.大学図書館職員としての専門性

 電子化の進展や教育研究支援への積極的な関与など、現在の大学図書館を巡る状況を踏まえると、かつてのいわゆる図書館学的な専門性だけでは大学図書館職員としての対応が困難な状況がある。即ち、図書館に関する専門性に加えて教育研究支援を円滑に行い得る学生や教員との接点としての機能を含めて大学図書館全体のマネジメントができる能力など、状況変化に対応した専門性が求められている。

 しかしながら、大学図書館を巡る状況変化があるからといって、大学図書館が伝統的に有してきた学術資料の収集、蓄積、提供といった機能が変わるものではない。その上で最近の状況変化に適切に対応するために、学術情報流通の仕組みについて詳しく、学術情報基盤の構築ができ、しかもそれらの進展に対応できる人材の確保が重要である。

 即ち、今後、大学図書館職員には、伝統的な知識と見識を基礎として、環境の変化に柔軟に適応し、大学における学生の学習や大学が行う教育研究に積極的に関与する専門性が求められるということである。

2.学習支援における専門性

 学問の多様性が高くなる中で、大学図書館が教育研究支援に積極的に関わっていくためには、大学図書館職員には各大学等において行われる教育研究の専門分野、即ちサブジェクトに関する知識も求められているところであり、各分野に必要な情報アクセスの在り方についても考えていく必要がある。

 大学図書館職員が、教員とは異なるものの、教育研究に積極的に関わっている実態を踏まえると、実際には従来の教員と事務職員といった一律的な区分の中で、事務職員としては位置付けられなくなってきている。大学図書館職員の中で、教育や研究と密接に関わる業務を行う者は、従来の事務職員とは区別して位置付けを検討していく必要がある。

3.教育への関与における専門性

 現在、大学においては、初年次教育の重要性が言われているところである。中でも学部教育のカリキュラムに情報リテラシー教育が盛り込まれていくことは自然の流れとなっている。そのため、今後、大学図書館の大学教育への関与の重要性が強調されていくことになろう。こうした状況に対応して、大学図書館職員が、情報リテラシー教育に直接関わることは新しい方向性であり、教員との協力の下に適切なプログラムの開発を行うことが課題である。

 また、情報リテラシー教育だけでなく、大学図書館職員が、教員や学生とコミュニケーションを図りながら教育課程の企画・実施に関わることも必要である。中でも特定の主題に関する資料を探すための道標となるパスファインダー作成等は、資料をよく知る大学図書館職員の専門性が発揮される部分であり、全ての授業科目に適用可能である。

4.研究支援における専門性

 研究に必要な文献を整備することが研究支援の代表的なサービスであるが、電子ジャーナルが普及したことによって、それが見えにくくなっている。今後は単に電子ジャーナルを提供するだけでなく、研究者が文献に容易にアクセスできるように必要な情報資源を関連付けてナビゲーション機能及びディスカバリー機能を強化する必要がある。

 一方、機関リポジトリは一からコンテンツを収集し、組織化、提供するという点において、大学図書館本来の力が試されているといえる。即ち、出版流通の整備された仕組みに沿って資料を購入する現在の受動的な資料収集に対して、教員と交渉したり、大学への働きかけを行ったりするなど、様々な工夫を凝らして能動的に資料を入手しなければならないこの新しい業務は、本来的な意味での収集能力を発揮する必要がある。このような意味において、大学図書館職員は、他大学との連携や専門的知識、経験を活かして、機関リポジトリの構築にもその能力を発揮してきた。

 また、診療ガイドラインの作成支援に携わる医学図書館職員や、法科大学院に係る法情報調査に関するカリキュラムの作成を支援するロー・ライブラリアンなど、専門分野の図書館職員の重要性が指摘されている。このように専門分野によっては、研究に関する情報を十分に活用してもらうために、より専門的に高度な業務に大学図書館職員が携わる必要がある。このため、大学図書館職員が、新たな役割を発揮するためのサービスを開発するなど一層の努力が必要であるが、これまで培ってきた専門性をさらに発展させる契機となることが期待される。

(3)大学図書館職員の育成・確保の在り方

1.大学における養成

 大学における図書館職員養成には主に、大学院レベル教育、学部レベル教育、司書資格取得レベル教育の3種類がある。さらに、大学院レベルには、学部レベルで図書館情報学を学んだ学生以外に、司書資格取得者を含む他分野の学部レベル教育を受けた学生や現職の大学図書館職員が含まれる。なお、司書資格は公共図書館職員を対象とした資格であるが、大学図書館職員の中にも司書資格を有する者が多数いる。

 一方、大学図書館を巡る状況の変化に応じて、養成すべき大学図書館職員に求められる技能も変化している。即ち、1.学術情報流通に詳しく学術情報基盤を構築できるライブラリアン、2.特定の主題分野のコレクション構築を行うとともに、その主題に関わる学習・研究を行う利用者に対してサービスを行うライブラリアン、3.教員や学生とコミュニケーションをとりながら教育課程の企画・実施に関わるライブラリアン、4.研究者として図書館情報学の発展を担うライブラリアン5.インターネット等の技術を駆使して新しい利用者サービスを構築するライブラリアンである。これら異なる専門性を持つ人材をいかに養成していくかが課題である。

 大学図書館職員を養成するためには、図書館情報学を専門課程にもつ四年制の大学で、情報技術から図書館経営まで、幅広く、一定以上時間をかけて学ばせる必要がある。筑波大学情報学群知識情報・図書館学類、慶應義塾大学文学部図書館・情報学専攻が代表的な例である。

 特定の主題分野に沿ってレファレンスサービス等を行うライブラリアンは、図書館情報学以外の学問を修めたうえで大学院に進学し、主題の知識を活かして図書館情報学を学ぶことが望ましい。しかしながら、大学図書館は米国と異なり、従来、教員がこの役割を担うなどにより対応していた実態もあり、こうした人材を養成してこなかったという歴史的経緯がある。したがって、直ちにこうした人材を輩出することは難しく、養成課程の在り方から検討する必要がある。

 このような養成課程の在り方の一つに九州大学が設置を計画しているライブラリーサイエンス専攻がある。この専攻にはサブジェクト・ライブラリアン養成も組み込まれている。その際、研究科長や学部長などが、自身の専門分野に詳しい人材を育成することによって、大学図書館の位置付けを確固たるものにしていくといった姿勢を持つことも重要である。

 研究者として大学図書館の新たなプロジェクトを開発するために調査研究等を行うライブラリアンは、大学図書館に所属しながらも研究を行う職員であり、大学院において研究者としての知識とスキルを学び、修士もしくは博士の学位を取得する必要がある。学部から大学院に進学する場合と現職者が学位を取得する場合の2パターンが考えられる。長期的には図書館情報学の学位を有するライブラリアンと他分野の学位を有するライブラリアンがバランスよく配置されることが望ましい。

 また、大学図書館に求められる機能・役割を勘案すると、公共図書館に求められるものと異なってきているのは明らかであり、もはや大学図書館職員のスキルを司書資格によって説明することは困難である。したがって、新しい資格の確立を含めた広い意味での大学図書館職員養成の仕組みを模索する必要がある。

2.大学図書館の現場における育成

 大学図書館の現職職員の育成は、例えば、学内や複数の大学による研修の実施、在職しながらの大学院等での勉学や各種研修会への参加の奨励、海外研修の実施などが考えられる。しかしながら、大学の規模等の事情もあるため個々の大学で育成することは困難な面もある。また、各大学において、特定分野の専門性のみを有する職員を配置していくことも難しい実態にあることから、大学間における人材の交流など、連携が重要である。

 大学図書館職員が教育課程の企画・実施を行う際には、教員はもとより大学図書館以外の部署との連絡と調整を密に行う必要がある。したがって、その育成のためには、大学図書館から外に出て、教員や他の部署と円滑にコミュニケーションをとることができるような環境作りが不可欠である。例えば、教育課程担当の教員と意見交換を行ったり、研究科長や学部長と定期的に会合を持ったり、学生との懇談会を学生がよく集まる場所で実施したり、機関リポジトリの学内への周知のために教員研究室を訪問するなどが挙げられる。

 また、それぞれの大学図書館職員が大学教育や研修で修得した専門的な知識を現場で実践するとともに、常に大学図書館の業務全体を見渡し、個別の業務の位置付けを意識しながら業務を遂行する必要がある。さらに、このような大学図書館職員個人の向上努力の成果が反映され易いよう、それぞれの専門性が発揮できる職員配置に努める必要がある。

3.大学図書館職員のキャリアパス

 大学図書館においては、専任職員の他、臨時職員及び外部委託など多様な雇用形態の中で、多様化し高度化する業務を遂行していくことが求められているところであり、人材の研修や育成とともに、優秀な専任職員を確保する観点からも、そのキャリアパスの形成について検討していく必要がある。

 しかしながら、従来どおり事務系職員としてのカテゴリーで待遇を考え、人事を行っていく限りは、大学図書館に要求される機能を担う人材を育て、かつ、活用していくことは難しい。したがって、大学図書館職員については、事務系職員とは異なった枠組みを考える必要がある。

 例えば、医学分野や法学分野などの専門性を有する者は、複数大学間で異動していくなど、主題というパスでキャリアを重ねられるような仕組み作りが必要である。また、育成の問題とも関連するが、特定の主題を修めた者をそれに関連する学部等を有する大学の図書館で採用するといったことも必要である。

 我が国においては、かつては教員がサブジェクト・ライブラリアンとしての役割を果たしていたこともあったが、現状ではそうした状況は少なくなってきている。こうしたことからも大学図書館職員に対する期待が高まってきているため、図書館職員が特定分野の学位を取得して教員になったり、教員が図書館職員になったりするなどのパスも検討する必要がある。

 また、専門的な知識を習得していれば、サイエンスコミュニケーターや科学ジャーナリストなどの人材も大学図書館職員として採用する仕組みも検討する必要がある。さらに、様々な職種の人材を大学図書館職員に採用するのとは逆に、情報を扱う専門知識を活かして大学図書館職員が企業の情報専門家として転職するなど、多様なキャリアパスの展開についても今後検討する必要がある。

お問合せ先

研究振興局情報課学術基盤整備室

(研究振興局情報課学術基盤整備室)