文部科学省で実施している学術情報基盤実態調査によると、大学図書館における資料費(図書、雑誌、電子ジャーナル等)の総計は、平成18年度において約747億円と前年度と比較して約10億円(1.4%)の増となっており、大学総経費の約1.2%を占めている状況にある。また、平成18年度における人件費を含む大学図書館運営費の総計は約885億円と大学総経費の約1.4%を占めているが、前年度と比較して約96億円(9.8%)の減となっている。
さらに、大学図書館における電子ジャーナルの利用可能な種類数は、平成17年度において約154万種類であったものが平成18年度においては約194万種類と約40万種類(26.0%)の増となっている。1大学平均種類数は、2,593種類となっており、5年前の平成13年度における466種類から比べると飛躍的に増加している。また、電子ジャーナルに係る経費は、平成17年度において約91億円であったものが平成18年度においては約122億円と約31億円(34.1%)の大幅な増となっている。また、大学図書館における資料費全体に占める割合も12.3%から16.3%と増加している。
一方、冊子体の洋雑誌の購入種類数は、平成17年度において約31万種類であったものが平成18年度においては約28万種類と前年度と比較して約3万種類(9.7%)の減となっている。また、その経費は、平成17年度において約230億円であったものが平成18年度においては約221億円と約9億円(3.9%)の減となっている。
このように、大学図書館における電子ジャーナルの利用可能な種類数、経費は、近年、大きく増加しており、図書館資料費に占める割合も年々増加している状況にある。これは外国雑誌が冊子主体の契約から電子ジャーナル主体の契約へと大きくシフトしていることを示している。
学術情報流通の中心的媒体となった電子ジャーナルは、近年、アジアをはじめ世界の研究者により発表された学術研究論文の増加に伴い、その審査や電子化などに係る経費も増加する傾向にあり、このため、価格も上昇する状況にある。また、契約形態は各出版社の刊行する電子ジャーナルをパッケージ化した包括契約が一般的になっている。このため、学術情報環境の維持のためには従来のように冊子体の購入種類数を減らすこともできない上に、価格の上昇分が常に上乗せされ、自動的に経費が膨らむ仕組みとなっている。
他方、このパッケージの中には利用の少ない電子ジャーナルも含まれるため、包括契約をせず、必要な学術雑誌についてのみ個別契約を行うことも考えられる。しかしながら、その場合、雑誌ごとの個別単価の積み上げとなり、それに毎年の値上げも加わることから、前年度と同額の経費では、利用可能な種類数は大幅に減少することなる。したがって、多くの大学はパッケージによる包括契約を維持せざるを得ない実態にある。大学図書館においては、こうした契約形態による電子ジャーナルに係る経費の大幅な増加に対応するため、国立大学は平成14年度から、また、公私立大学は平成15年度から、それぞれコンソーシアムを形成し、主要な海外出版社との間で契約交渉を行い、価格上昇の抑制に努めているところである。また、各大学においても、同じ冊子の学内での重複購入を中止したり、冊子の購入を止め電子ジャーナル限定契約に移行するなどの対応を行うほか、電子ジャーナルに係る経費について全学共通経費化や競争的資金の間接経費を充当するなど、様々な取組によってその経費の捻出に努力しているところである。
しかしながら、このような努力を背景としつつも、国立大学においては、毎年、運営費交付金の減に対応する必要があるなど、公私立大学も含めて、図書館運営費や図書館資料費も抑制されるなどの厳しい状況の下にあって、電子ジャーナルを含む図書資料費のさらなる増加への対応は限界に来ている実態にある。特に、財政的に中小規模の大学にあっては、電子ジャーナルに係る経費の増加が極めて大きな問題となっており、実際に外国出版社との契約を打ち切ることも含めて検討せざるを得ない大学も出ている状況にある。また、大学図書館によっては、他の資料の購入費を削り、図書館資料費の相当部分について電子ジャーナルに係る経費に充当せざるを得ない状況になっている。このように、電子ジャーナルに係る経費の確保は、各大学において教育研究を支える学術情報基盤を維持するために重要な位置を占める状況になっている。
電子ジャーナルに係るパッケージ契約の方式が維持できなくなった場合、現在の契約形態では個々の電子ジャーナルごとに契約することとならざるを得ない。その場合、同じ予算の中で契約できる電子ジャーナルの種類数は大幅に減少することとなり、大学図書館として急激なサービスの低下に繋がるおそれがある。
このため、大学ごとの需要や財政状況等に対応できる柔軟で持続性のある新たな契約形態について早急に検討し、その実現に向けて出版社との契約交渉を行う必要がある。
現在、国立大学及び公私立大学でコンソーシアムにより外国出版社との契約交渉を行っているが、このコンソーシアムによる方式は、電子ジャーナルの価格上昇を抑制する上で、有効な取り組みである。
各大学における学術情報基盤は、各々の大学の教育研究の特性などを踏まえて個別に整備していくことが基本であると考えられる。また、仮にコンソーシアムによる一括契約を行おうとした場合、各大学毎に規模や必要なタイトルなどが異なることから、大学間の経費負担の割合などを決める際には調整が困難となる事態も予想される。こうしたことから、今後とも、大学図書館における電子ジャーナルの契約に当たっては、大学間のコンソーシアムが主体となって外国出版社との契約交渉を行い全体の条件を整えた上で、経費の支払いを伴う最終的な契約は各大学が個別に行っていくことが適当であると考えられる。
なお、コンソーシアムによる契約交渉において、現状では外国出版社との交渉の主体は大学図書館職員の付加的な業務に依存している実態にある。しかしながら、そうした交渉主体が契約内容を詰めることについては、既に限界となっている状況であり、今後、契約交渉を行う上での機能強化が急務である。このため、契約交渉を大学側にとってより有利に進めることを考える観点から、学術情報流通に精通し、契約交渉に係る専門性を有する者の育成・活用を検討することが必要である。
また、現在は国立大学と公私立大学とが基本的には別々のコンソーシアムを形成し、それぞれが外国出版社との契約交渉を行っているが、一部の出版社やパッケージについては、合同で契約交渉を行っている事例もある。今後は交渉力を強化するなどの観点から、両方のコンソーシアムがより一層の連携を図るなど国公私立大学全体を包括する交渉のための組織の在り方などについても検討する必要がある。
現在のコンソーシアムは大学図書館協会等を構成する大学図書館の意向を受けて交渉にあたる、いわばボトムアップ方式の組織であるが、電子ジャーナルに係る経費の増加の重大性、緊急性等に鑑みれば、今後は、これに加えて何らかの仲介機能を果たす組織を設け、当該組織とコンソーシアムとの連携により国全体として最適化を図っていく方向性について検討することも考えられる。
しかしながら、国が、直接、外国出版社との契約を行うナショナル・サイト・ライセンスの導入については、全体としての経費が膨大なものになるとともに、各大学に係る経費の負担の方法など調整に困難を来すことも懸念される。また、一旦そうした枠組みを形成してしまうと、外国出版社に対して個々の大学の事情を考慮した多様な契約内容を求めることや、そうした枠組みに問題が生じた時に改めることが不可能になってしまい、経費の一層の増加を招くおそれがある。こうしたことを勘案すると、我が国においてナショナル・サイト・ライセンスを導入することは現実的ではなく、ナショナル・サイト・ライセンスと個別契約の中間的な方法を考えていくことが適当であると考えられる。
現在、国立大学協会においては、経営支援委員会の下に「電子ジャーナルワーキンググループ」を設置して、この問題への対応方策について検討が行われている。その中で、「電子ジャーナル高騰対策アクションプラン案」がとりまとめられ、当面、国立大学協会、国立大学図書館協会及び文部科学省等の関係者からなる委員会を設けて外国出版社との契約交渉を行うことなどが示されている。こうした状況も踏まえて、関係者による検討のための場を設け、外国出版社との間で行う契約交渉の方策等について検討するなど、対応を行う必要がある。
また、日本学術会議においても科学者委員会の下に学術誌問題検討分科会を設け、学術誌問題に関し、外国学術誌の高騰に対する対応方策、我が国の国際学術誌の強化の必要性、オープンアクセスへの対応方策等について検討が行われているところである。この検討状況にも留意しつつ、大学等における具体的な対応方策について、検討を行っていく必要がある。
1.(1)で述べたように、電子ジャーナルは、既に我が国でも広く普及しており、少なくとも国立大学に関しては、ほとんどの大学が電子ジャーナルを情報源として利用することが可能な状態となっている。しかしながら、それと既存の冊子とを統合的に利用するための方策やリモートアクセスを行える方策など電子ジャーナルを利用する環境については、世界的レベルから見て決して良好とは言えない。こうした観点から、電子ジャーナルの利用環境の改善についても検討する必要がある。
また、電子ジャーナルを含む図書館資料購入費は、大学における教育研究活動を支える基盤的経費であり、一定額を安定的に確保することが要請される。現在、国立大学の運営費交付金は毎年効率化減が課せられ、私立大学においても国による私学助成は、毎年減となっているが、これらの資料購入費等の基盤的経費については、安定的な確保を可能とする仕組みについても今後検討されることが望まれる。
研究振興局情報課学術基盤整備室