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第4期科学技術基本計画の策定に向けた意見のまとめ

平成21年11月12日
科学技術・学術審議会学術分科会


はじめに

1 第4期科学技術基本計画策定に向けての基本的な考え方
 ・学術の意義
 ・従来の科学技術基本計画における学術の位置づけ
 ・社会問題の解決や新分野の創出に向けた新たな学問の発展につながる研究の必要性
 ・第4期科学技術基本計画の策定に向けて

2 学術研究の振興方策

 【1】学術研究への財政支援の拡充
  ・学術研究への財政支援の在り方
  ・基盤的経費の確実な措置
  ・科学研究費補助金の役割や将来の規模等
  ・研究の性格・特性を踏まえたファンディング・システムの構築
  ・学術に対する国民の信頼と支持の獲得

 【2】大学等における独創的・先端的研究の推進
  ・大学等における独創的・先端的研究の推進
  ・学術研究の大型プロジェクトの推進
  ・共同利用・共同研究の一層の推進

 【3】大学等における研究環境の改善と研究支援体制の強化
  ・研究環境の重要性
  ・研究に集中して取り組める時間・環境の確保
  ・高度な研究支援体制の構築
  ・国際化時代に対応した研究支援体制の確立

 【4】大学等における研究基盤の充実
  ・研究施設・設備の整備
  ・研究情報基盤の整備
  ・文献・資料、研究用材料等の体系的な整備

 【5】若手研究者の育成に向けた取組の充実
  ・若手研究者の育成に向けた取組の必要性
  ・知識基盤社会を牽引する人材を育成する大学院の充実
  ・キャリアパスの多様化に向けた取組
  ・優れた若手研究者への支援

おわりに

 

 

はじめに 

○ 「科学技術創造立国」を国是とする我が国は、グローバリゼーションという巨大な潮流の中で明治以来ともいえる変化・変革の時期を迎えており、もはや既成の価値観からでは科学技術の発展も国の将来も展望できない転換期に立っていると言っても過言ではない。したがって、第4期科学技術基本計画の策定に際し、今こそ科学技術の在り方を学術や教育も含めた根幹的なところから問い直し、科学技術の発展は学術の振興の中に位置づけられるものであるとの原点に立ち戻りながら、学術並びに科学技術の施策について検討するべきである。

 ○ 学術とは、英語にすれば“arts and science”とでも訳すべき言葉であり、西欧古代以来の自由学芸と近代以降に大きな発展を遂げた諸科学とを包摂する概念である。それは、人文学、社会科学から自然科学の領域に及ぶ知的・文化的営みを含むものと捉えられ、日本の大学制度の創設以来、我が国の学問全体を包括的に捉えたキーワードとして定着している。すなわち、あらゆる学問の分野における知識体系とそれを実際に応用するための研究活動の総体であり、幅広い知的創造活動を意味する。したがって、学術は、人文学、社会科学とともに、基礎・応用を含む自然科学を包含しているのであり、人類は、学術の探求を通して新しい知を生みだし、それにもとづく応用・技術を通じて、今日の位置を築いた。

 ○ 学術は多元化した学問を統合させた総称として捉えられるべきであり、人間の知的、創造的営みを包括的にとらえ、諸科学の在り方を総合的に追究するものである。それゆえ、学術の中に、科学技術をしっかりと位置づけ、新しい国際性豊かで独創性に満ちた科学技術の発展を目指すことが重要である。

 ○ 我が国のみならず国際的な将来を見据えたとき、何よりも、科学技術の発展は学術の振興の中にこそあるということを踏まえるべきである。そのような認識に立ってこそ、大きな転換期を迎えている我が国の科学技術の長期的展望が開かれるのである。すなわち、科学技術の在り方と振興策の位置づけは、我が国の学術の振興の中になされることが重要である。その中では、学術の根幹を担う我が国の大学・大学共同利用機関の改革とそのための十分な支援、次世代の科学技術を担う人材の育成、国際的な協調・連携などが最重要課題であり、これらはいずれも我が国の科学技術の発展のために重要な投資であるとの認識が重要である。

 ○ 我が国では平成7年に科学技術基本法が制定されたが、この法律では、「科学技術」は「科学及び技術」の総体を意味する言葉として用いられている。しかしながら、この法律の対象とする「科学技術」は、「人文科学のみに係るものを除く」としており、ここでいう「人文科学」は学問分野としては人文学と社会科学を含むものであるため、人文学、社会科学のみに係る知的営みを含んでいない。さらにこの法律は、「科学技術の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進する」ことを目的としているので、この法律に基づいて推進される施策は、「総合的かつ計画的に推進する」ことができるような性質を持つものとして、自然科学の中でも比較的短期に成果の現れる応用・開発的な研究とそのための技術開発に焦点が当てられることになる。このような定義とニュアンスを持って使われる「科学技術」という言葉は“Science and Technology”という言葉の国際的な一般的用法と異なるとの指摘もある。
 一方、現実に目を向ければ、人文学、社会科学はこれからの科学技術の健全な発展にとっても今までにも増して重要となっており、また、基礎科学の成果こそが社会に大きな変革をもたらすイノベーションの基盤となっている。このため、第4期科学技術基本計画の策定においては、これらの点について留意し、かつ、世界の動向も十分に踏まえて取り組んでいくことが極めて重要である。
 また、OECDが研究・開発に関する統計の国際標準を定めたフラスカチ・マニュアル2002 (Frascati Manual 2002(OECD))の “4.2 Type of R&D”においては、「Basic research(基礎研究)」、「Applied research(応用研究)」、「Experimental development(試験開発)」の定義がそれぞれ定められており*1、総務省の「科学技術研究調査」における用語もこれらに沿って定義されている*2。今後の科学技術基本計画に用いる用語については、改めてしっかりとこのような国際標準との関係を明確にすることが重要である。

 ○ 学術分科会は、第4期科学技術基本計画の策定に当たり、学術と科学技術のこのような関係を明確にし、学術の全体的発展を追求する中で、科学技術の振興を推進することの重要性を改めて認識し、的確な施策に活かすことが極めて重要との認識に立って、以下の提案・提言を行うものである。

1 第4期科学技術基本計画策定に向けての基本的な考え方

(学術の意義)

○ 学術は、真理の探究という人間の基本的な知的欲求に根ざし、これを自由に追求する自主的・自律的な研究者の発想と研究意欲を源泉とした知的創造活動とその所産としての知識・方法の体系であり、その対象は人間の知的好奇心の及ぶものすべてにわたるものである。それは具体的には、未知の現象の解明や新しい法則・原理の発見、そのための分析や方法論の確立、個別的知識や技術の体系化とその応用、先端的な領域の開拓、精神文化の継承などの活動として現われる。このような学術の研究活動は、大学、研究所、博物館、美術館、学協会をはじめ様々な場における人間の知的営みであるが、その中心となるのは、基礎研究から応用研究にいたるまで、一定の水準を有する研究者の集積や、学問の自由に基づいた研究者の自主性の尊重等の条件を備えた大学及び大学共同利用機関である。

○ 大学・大学共同利用機関(以下「大学等」という。)で行われる学術研究は、新たな知の創造や幅広い知の体系化を通じて、人類共通の知的資産を創出するとともに、重厚な知的蓄積の形成に資する。その成果は、人間の持つ可能性を拡大させるとともに、産業活動における活用・展開、生活習慣や社会規範への反映等を通じて、新たな価値を創造し、我が国の国際競争力や文化力を高めるものである。また、大学等のみならず、企業の研究所も含め、すべての研究者は、大学において研究の基礎として学術研究を学ぶという意味で、学術研究は社会に対する大きな貢献を果たしている。

○ さらに、我が国の学術研究環境を、国内外に開かれた世界的に魅力のあるものにし、人文学、社会科学から自然科学まで、幅広い分野にわたる学問を継続して維持・発展させ、人類全体の英知を生み出す基礎研究に貢献し、人類の福祉に資することや、そのために必要な人材を輩出することは、先進国たる我が国が果たすべき国際的な責務でもある。

○ また、革新的技術などのブレークスルーをもたらし、経済・社会の変革につながっていく独創的・先端的な研究成果は、研究者が日常的に研究活動を行う中から意図せずして生まれることも多い。昨今、「イノベーション」の概念が我が国の政策にも取り入れられ、その重要性が認識されるようになっている。例えば、長期戦略指針「イノベーション25」(平成19年6月閣議決定)では、「イノベーションとは、技術の革新にとどまらず、これまでとは全く違った新たな考え方、仕組みを取り入れて、新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすことである。」と定義されているが、人類は、学術の探求を通して新しい知を生みだし、それにもとづく応用・技術を通じて、今日の社会と文明を築いた。その意味で、学術研究は、従来より、まさにイノベーション創出の基盤なのである。

(従来の科学技術基本計画における学術の位置づけ)

○ 科学技術基本計画は、科学技術基本法に基づいて、「科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、その振興に関する基本的な計画」を策定するものである。その内容は、「研究開発(基礎研究、応用研究及び開発研究をいい、技術の開発を含む。以下同じ。)の推進に関する総合的な方針」、「研究開発の推進のための環境の整備に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策」等を定めることとされている。科学技術基本法は、「我が国の科学技術の水準の向上を図り、もって、我が国の経済社会の発展と福祉の向上に寄与するとともに世界の科学技術の進歩と人類社会の持続的な発展に貢献すること」を目的としている。

○ この法律では、「科学技術」は「科学及び技術」の総体を意味する言葉として用いられている。しかしながら、この法律の対象とする「科学技術」は、先述したとおり、「人文科学のみに係るものを除く」としており、ここでいう「人文科学」は学問分野としては人文学と社会科学を含むものであるため、人文学、社会科学のみに係る知的営みを含んでいない。さらにこの法律は「科学技術の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進する」ことを目的としているので、この法律に基づいて推進される施策は、「総合的かつ計画的に推進する」ことができるような性質を持つものとして、自然科学の中でも比較的短期に成果の現れる応用・開発的な研究とそのための技術開発に焦点が当てられることになる。したがって、    研究者の自主性・自律性に基づいて研究される学術一般は、政府が総合的かつ計画的に振興施策を講ずべき科学技術と性格を異にする。実際、これまでの科学技術基本計画の中には学術を明示的に位置づけたものはない。ただし、例えば、第3期科学技術基本計画において「基礎研究には、人文・社会科学を含め、研究者の自由な発想に基づく研究と、政策に基づき将来の応用を目指す基礎研究があり、それぞれ、意義を踏まえて推進する。すなわち、前者については、新しい知を生み続ける重厚な知的蓄積(多様性の苗床)を形成することを目指し、萌芽段階からの多様な研究や時流に流されない普遍的な知の探求を長期的視点の下で推進する。」と記述されているように、「研究者の自由な発想に基づく研究」に配慮し、大学等における教育研究の振興に関する各種の施策も盛り込まれてきたところである。

○ しかしながら、これまでの科学技術基本計画に基づく施策の実施により競争的資金や政策課題に対応したプロジェクト型の研究資金が増加する一方で、政府の行財政改革の方針に基づいて、学術研究を支える上で最も重要な基盤的経費は減少傾向にある。さらに、近年、研究設備の整備費が減少傾向にあり設備の整備・更新を行うことが困難であること、長年にわたり指摘されているように研究支援体制が不十分なこと、さらに、研究者が研究に専念できる時間を十分に確保できないことなど、大学等の教育研究基盤を支える上で多くの課題が指摘されている。加えて、研究者としてのキャリアパスが不透明であることに対する不安や、安定的な研究職を得るまでの期間の長さ、経済的問題により優秀な学生が大学等での研究に進むことを躊躇する傾向が生じていると言われている。こうした状況が改善されなければ、知の創造と継承の拠点である大学等の教育研究の基盤的なシステムが脆弱・劣化し、やがてその役割が十分に果たせなくなることが懸念されているところである。

(社会問題の解決や新分野の創出に向けた新たな学問の発展につながる研究の必要性)

○ その一方で、かつてのように学問が貴族や一部の特権的な人々によって支援された時代とは異なり、現代では、大学等における学術研究は公財政支出によって支えられており、また研究成果と社会生活との関係も極めて密接となっている。したがって、学術研究の成果を社会に還元することが求められている。現在、社会は、人類社会の持続可能性を脅かす地球環境問題、人口問題、食糧問題、南北格差や、生命倫理(高度医療、遺伝子組換え食品など)のような様々な問題を抱えているのにもかかわらず、現在の我が国の学術は、それらの解決に向けた方向性をなお十分に示しているとはいい難い面がある。学術研究はその進展につれて専門化・細分化する傾向にあり、社会が抱える複雑な諸問題を一つの分野では扱いきれないのが大きな原因であると考えられる。

○ 学術には、一面はその時々の社会や政治の動向とは独立してその活動を展開する使命がある。しかしながら、もう一面はその時々の社会が抱える問題の解決に向けて指針を示すことも重要な使命である。そのためには、従来の学問分野の枠を超えた新たな学問分野の構築が欠かせない。そのような試みは困難ではあるが、こうした挑戦こそが、社会が要請する学術の社会参加の一つのスタイルであり、社会のニーズにこたえる研究となる。例えば「持続可能な発展」に向けて地球温暖化問題について取り組むのであれば*3、温暖化について、過去からの累積的な影響について解明するとともに、将来に与える影響を考えなければならず、地球規模での地域間の衡平性の確保のみならず、世代間の衡平性を追求することが課題となる。その解決のためには、自然科学のみならず、社会科学や人文学に至るまで様々な学問の知見を総動員することが必要である。多様に展開した研究分野を集約・統合して、様々な課題を解き明かすため、異分野の専門家が集まって討議を繰り返すことにより、新たな学問が構築され、学問が発展する契機となる。それが基盤となって、課題解決の手がかりが見いだされていくのである。

(第4期科学技術基本計画の策定に向けて)

○ このような状況の中で、現在、科学技術・学術審議会基本計画特別委員会においては、「今後、科学技術を国の成長の柱として一層強力に推進することはもとより、単に科学技術の進展のみを目指す政策にとどまらず、科学技術を取り巻く経済社会システム等までも幅広く対象に含め、社会ニーズ等を踏まえた重要な政策課題を設定した上で、それらの解決に向けて、科学技術を基盤としたイノベーションの創出を目指すという、科学技術とイノベーションを一体化した総合政策への転換を図ることが不可欠」との観点から、第4期科学技術基本計画においては、「科学的な発見や発明等の新たな知識を基にした知的・文化的価値の創造と、それらの知識を発展させて新たな経済的価値や社会的・公共的価値の創造に結びつける活動全体を包括する総合的・体系的な政策」として「科学技術・イノベーション政策」を推進する方向で検討している。

○ このことは、今後の我が国の科学技術や社会の発展を考えた場合、極めて重要なことである。しかしながら、学術が脆弱化すれば、学術を基盤とする科学技術もイノベーションも脆弱化するし、必要な人材の養成もなされない。
 21世紀は、社会と世界に知の創造の成果が深く浸透し、今後一層の進展が予測される。「科学技術創造立国」を国是とする我が国は、グローバリゼーションという巨大な潮流の中で明治以来ともいえる変化・変革の時期を迎えている。自然科学と人文学、社会科学が相互にかかわり合い、調和のとれた形で学術研究全体が進展していくことによって、地球規模での地域間の衡平性と世代間の衡平性に配慮した、人類社会の福祉の向上と「持続可能な発展」に資する科学技術の基盤を形成し、かつ、イノベーション創出の糸口が見い出されることとなる。第4期科学技術基本計画の策定に際し、今こそ科学技術の在り方を学術や教育も含めた根幹的なところから問い直し、科学技術の発展は学術の振興の中に位置づけられるものであるとの原点に立ち戻りながら、学術並びに科学技術の振興について検討することが必要である。
 第4期科学技術基本計画においては、このことを明確にし、基本理念として科学技術振興の基盤となる学術の振興について明記する必要がある。そして、大学等における教育研究の特性に配慮しつつ、学術の振興を図るための方策として、以下の事項を盛り込むべきである。

【1】 学術研究への財政支援の拡充
【2】 大学等における独創的・先端的研究の推進
【3】 大学等における研究環境の改善と研究支援体制の強化
【4】 大学等における研究基盤の充実
【5】 若手研究者の育成に向けた取組の充実

2 学術研究の振興方策

 第4期科学技術基本計画においては、学術研究環境を取り巻く様々な課題にかんがみ、以下の事項について盛り込むべきである。

【1】学術研究への財政支援の拡充                  

(学術研究への財政支援の在り方)

○ 学術研究は、成果が現れるまでに時間を要することが多く、また、将来どのような成果につながるのかを予め見通すことが困難な場合も少なくない。その推進に当たっては、多様な発想に基づく研究を幅広く継続的に支援するとともに、卓越した研究に対しては特別な支援を行うことが重要である。このため、国公私立を通じて、大学等における学術研究については、日常的な教育研究活動を支えるのに十分な基盤的経費と、優れた研究を優先的・重点的に助成する豊富な競争的資金によるデュアルサポートシステムによって支えていくことが求められる。

(基盤的経費の確実な措置)

○ 周知のように、我が国の高等教育への投資は対GDP比でOECD諸国中最低の地位に止まってきた。その上さらに、現在、国立大学法人運営費交付金は毎年度1%ずつ削減するとの方針が採られるとともに、国立大学法人等の施設整備費補助金についても毎年度当初予算が減少し、補正予算を活用してもなお十分な整備を行うことが困難な状況である。また、私立大学は、それぞれ独自の建学の精神により多様で特色ある研究活動を行っており、私立大学のポテンシャルをさらに活かすことは学術の振興に大きな意義を持つものと考えられるが、私学助成についても毎年度1%ずつ削減するとの方針が採られている。その結果、各大学における研究室への配分経費の減少、任期の定めのない常勤研究者の採用の抑制並びに研究支援者の非常勤・任期付き職員への転換等により、研究者の日常的な研究活動に支障が生じたり、学生への教育が十分に行えなかったりするなどの問題が指摘されている。また、大学等への研究投資において競争的資金の占める比重が高まった結果、公正を旨とする審査の結果とはいえ、研究資金の配分が少数のトップクラスの大学等の研究者に集中し、大学等における研究費や研究条件の格差が広がっているとの指摘もある。
 研究のテーマや方法が同一であっても、大学等が設置されている地域等の特性によって、研究の対象は異なるものである。このため、研究投資の集中によりトップクラスに次ぐ多数の大学等における研究活動の機会が少なくなると、研究の多様性が損なわれ、そのことが我が国全体の学術研究の水準の低下につながることが懸念される。実際に、論文数等のデータから見て、近年、我が国の学術研究は、国際的な存在感という点で、他の主要国に比べて全体として低落傾向にあるのではないかと危惧する声もある。

○ また、近年、研究の進展や高度化に伴い、研究施設・設備の大型化やその運用に係る経費が膨大になる一方で、これらの日常的な経費を支える基盤的経費が削減されており、大学等の研究施設・設備の維持に必要な費用の負担が大学等の財政状況を圧迫し、大きな問題となっている。

○ 今後とも我が国の学術研究を持続的に発展させ、世界の学術水準に伍していくためには、我が国全体の研究のアクティビティを活性化させることが必要である。そのためには、研究投資や研究自体の効率性ばかりを追求するのではなく、資源配分の衡平性や、研究者の価値観の多様性という考え方を復権し、意欲のある研究者に多様な研究の機会が与えられることの意義にも配慮して、より多くの大学等における様々な研究活動が高度化・活性化され、研究の層に厚みを持たせることが可能となるよう基盤強化に向けた支援の充実が必要となる。
 したがって、国公私立を通じて大学等における安定的・継続的な研究活動を支える基盤的経費は、確実に措置するべきである。

(科学研究費補助金の役割や将来の規模等)

○ 本来、基盤的経費と競争的資金は性質の異なる資金であり、基盤的経費の削減した部分を競争的資金で充当するというような関係ではない。大学等において多様な学術研究を推進するためには、基盤的経費により教育研究環境が確実に整備されることが必要であり、その上でこそ、科学研究費補助金等の競争的資金が活かされ、研究活動が担保される。しかしながら、現実には、基盤的経費が削減され、大学等における研究の推進に当たって、科学研究費補助金等の競争的資金がより大きな役割を担うようになっている。
 とりわけ、科学研究費補助金(以下「科研費」という。)は、我が国の学術研究を支えてきた最も重要な研究費であるが、近年、応募が増え続ける一方で、その増額は十分なものではない。我が国の文化や科学技術を担うため、科研費を、学術の多様性を確保し、大学等における研究を支える不可欠のものとして改めて位置づけ、その抜本的な拡充を図ることが必要である。

○ 科研費は、人文学、社会科学から自然科学までのあらゆる分野にわたって研究者の自由な発想である学術研究を支援する重要な資金である。特に、大学等における学術研究の振興にとって科研費が果たすべき役割は極めて大きい。これらの研究の成果を基に、特定の政策目的に基づく研究や研究成果を生かして具体的な製品開発に結びつける研究が、様々な競争的資金による支援を受けながら展開されており、科研費は、基礎から応用、開発に至る様々な研究の基盤となっている。
 さらに、科研費の重要な役割として、若手研究者の育成や、他の競争的資金のモデルとして我が国の競争的資金全体の質の向上に寄与していることがあげられる。

○ 科研費による成果として、発表論文数、図書数、産業財産件数等が公表されているが、いずれも近年増加してきており、科研費は多くの研究成果の創出に寄与している。これらの目に見える成果以外にも、科研費による支援を受けた研究が発展し、様々な面でのイノベーションをもたらし我が国の社会の発展に繋がった事例も数多くある。
 なお、人文学、社会科学は、価値規範や制度、政策の在り方などを原理的に探求することによって、社会に対して無形の知的資産を提供し、大きな影響を与えている。このような人文学、社会科学においても、科研費は重要な研究資金として、支援を行っている。
 科研費の今後の更なる拡充によって、我が国の学術研究がさらに進展し、我が国の社会、経済、文化の大きな発展がもたらされることが期待される。    

○ 科研費の将来の規模やその在り方を考えるに当たっては、科研費の新規採択率の在り方と間接経費の措置が極めて重要な条件となる。
 科研費の新規採択率については、平成20年度は20.3%となっており、平成19年度と比較して1.8%低下している。特に、大学において研究室を主催し自ら研究を主導していくべき40代後半から50代の年齢層において20%に満たない新規採択率となっており、大きな問題である。総合科学技術会議も、新規採択率についての目安として30%を示しているところであり、どの年齢層に属する研究者であっても、科研費に新規に応募した場合、30%は必ず採択されるという状況は最低限満たされるべき条件である。
 また、間接経費30%の措置の早期の実現については、第3期科学技術基本計画や教育振興基本計画などの閣議決定において求められており、政府の方針となっている。

○ どの年齢層の研究者からの応募に対しても新規採択率30%を確保すること及び間接経費30%の確実に措置することという二つの条件は必ず満たされるべき条件である。これらの条件の達成によって、研究者の優れた研究に対して切れ目のない支援を行うことが可能となり、大学等における研究のより一層の裾野拡大と発展が促進される。
 科研費はイノベーションの創出の基盤となる施策であり、科研費の拡充は極めて重要である。これにより、我が国における新しい知の創出と重厚な知的蓄積が形成されるとともに、こうした知的基盤から社会に大きな変化をもたらすイノベーションが生み出されるのである。

○ 科研費への応募資格を有する研究者数の増加等を考慮しつつ、これらの条件が達成された場合の科研費の規模を計算すると、第4期科学技術基本計画の最終年度に当たると想定される平成27年度時点の所要額は約3,500億円から約4,100億円、今から10年後の平成31年度時点の所要額は約3,900億円から約4,600億円と推計される。

(研究の性格・特性を踏まえたファンディング・システムの構築)

○ このように、基盤的経費の確実な措置、科学研究費補助金の大幅な拡充など、国公私立を通じて、大学等における学術研究への財政支援を抜本的に拡充する必要がある。また、支援規模の拡大のみならず、特に研究費に関しては、意欲ある研究者に多様な学術研究に取り組める機会が与えられるよう、人文学、社会科学から自然科学に至るまで分野の特性に応じたファンディング・システムの在り方についても検討することが必要である。さらに、異分野の専門家が集まって討議を繰り返し、現代社会が抱える諸問題の解決を目指す新たな学問分野を構築していけるよう、そのための仕組みづくりを進めていくことも必要である。

○ また、第3期科学技術基本計画では、「基礎研究には、人文・社会科学を含め、研究者の自由な発想に基づく研究と、政策に基づき将来の応用を目指す基礎研究があり、それぞれ、意義を踏まえて推進する」こととされたが、実際のファンディング・システムの設計や具体の研究企画に対する審査・評価において、「研究者の自由な発想に基づく研究」と「政策に基づき将来の応用を目指す基礎研究」とが、はっきり仕分けされていないとの指摘がある。例えば、技術開発に係る国の政策に基づく研究資金であるにもかかわらず、将来の応用を目指した技術目標の設定が不明確であったり、逆に、特定の応用や使用を視野に入れず、新たな知識を獲得することを第一義的な目的として行われる基礎研究に対しても、一定の研究期間での短期的な成果やその社会への還元を強く求めようとする傾向があるのではないかとの意見がある。
 このため、国全体の研究費のファンディングを考えるに当たって、それぞれの研究資金の性格とその審査基準の明確化・多様化が必要である。

○ その一方で、我が国の学術の世界では、複数の科学的知見を統合して、新たに社会的な価値を創造することに力点を置く研究は、評価が得られにくいとの指摘もある。日本学術会議では、学術を二分して、人間の目的やその求める価値とは独立に存在する対象を純粋に客観的な立場から認識する「あるものの探求」と、人間の目的や価値を実現するためにあるべきものを設計する知の営み(「あるべきものの探求」)を識別する考え方がほぼ定着してきている。前者には「認識科学」、後者には「設計科学」との呼び名がつけられているが、「設計科学」的な研究の提案が、「認識科学」的な研究の提案と同じ競争原理の場においては評価されない状況がある*4。
 このため、学術研究を対象とする競争的研究資金においては、現在審査でとられている「認識科学」的な研究企画の評価基準とともに、「設計科学」的な研究企画の評価基準を設け、審査において実践するべきである。

(学術に対する国民の信頼と支持の獲得)

○ 学術研究への財政支援を拡充するためには、学術研究に対する国民の信頼と支持が得られることが基本である。そのためには、大学等は、学術全体の中で自らの立ち位置をどのように定めるのか、そしてどのように社会とのかかわりを求めていくのかを提案していくために、根本から議論することが求められている。学術研究の意義やそれぞれの研究内容について分かりやすい言葉で説明しつつ、積極的に社会へ発信していくことが求められる。大学等が組織的に、あるいはそれぞれの研究者が自発的に、できる限り多くの機会をとらえて国民・社会とのコミュニケーションを推進し、研究活動やその成果に対する理解を得るよう努めることが必要である。また、博物館や科学館、あるいは科学ジャーナリスト等による学術研究成果の国民への発信も併せて必要である。

【2】大学等における独創的・先端的研究の推進

(大学等における独創的・先端的研究の推進)

○ 大学の附置研究所・研究センター等の研究組織は、特定分野の研究を組織的・集中的に進め、先端的な研究課題に取り組んだり、個々の学部・研究科等では実施が困難な総合的な研究体制を構築して、細分化された研究の組織化や新領域の開拓、課題解決に向けた総合的アプローチを行うなど、各大学はもとより、我が国全体の学術研究の発展や多様性の拡大に大きく寄与している。

○ また、大学共同利用機関は、我が国の学術研究の中核拠点として、個々の大学では整備が困難な大規模な研究施設・設備や大量の学術情報・データ等を全国の研究者の利用に供し、大学の枠を越えて効果的な共同研究を実施する我が国独自の研究機関である。

○ 大学共同利用機関については、平成16年の法人化の際に4つの大学共同利用機関法人の下に再編されたことを契機として、新たな学問領域の創成に向けた取組の充実が求められている。また、大学全体の教育研究を支援する機能の強化や、後述する共同利用・共同研究拠点をリードする役割、優れた研究環境を活用した大学院教育への貢献など、様々な役割が期待されている。大学共同利用機関は国際的にも我が国を代表する研究機関として発展してきており、今後とも共同利用・共同研究に供する研究資源の着実な整備を進めるとともに、研究者が大学共同利用機関の研究環境を存分に活用して研究に没頭できるような環境を整備することにより、学術研究全体に貢献する中核的な機関としてのCOE性を一層高めていくことが必要である。

○ 以上のように、大学の附置研究所・研究センターや大学共同利用機関は、独創的・先端的研究を推進する上で極めて重要な役割を果たしており、国として、大学の学部や研究科等と同様に確実な財政措置を行っていくことが必要である。

(学術研究の大型プロジェクトの推進)

○ 独創的・先端的研究の中でも、とりわけ学術研究の大型プロジェクトは、最先端の技術や知識を集約して人類未到の研究課題に挑み、世界の学術を先導する画期的な成果を期するものである。こうしたプロジェクトは、大学等における研究・教育を支え、多様な研究分野や産業への波及効果を生み出すのみならず、国際的な競争と協調の中で我が国がリーダーシップを発揮して世界に貢献するものであり、国民に夢・希望・自信を与え、科学への関心を高める意味で、極めて重要な意義を有する。

○ 大型プロジェクトの推進には、多くの物的・人的資源の投入を要するが、その重要性にかんがみ、今後、社会や国民の幅広い理解を得ながら、一定の資源を継続的・安定的に投入していくことが必要である。

○ 国においては、今後、各研究分野毎に大型プロジェクトの将来構想をまとめた「ロードマップ」を策定し、これを基本としつつ、学術研究上の意義や他の研究分野への波及効果、事業規模の妥当性や公財政支出への影響、国際的な競争・協調への対応等総合的な観点から、客観的かつ透明性の高い評価を行った上で、大型プロジェクトを着実に推進していく必要がある。
 また、大型プロジェクトの推進に当たっては、学術研究の動向や当該プロジェクトを取り巻く諸状況の変化等に対応して、迅速かつ適切に見直しを行うことも必要である。このため、国においては、現在進行中の大型プロジェクトや今後推進する大型プロジェクトについて定期的に厳格な評価を行い、その結果をもとに継続・中止・改善等の明確な対応方針を打ち出すことが必要である。

(共同利用・共同研究の一層の推進)

○ 共同利用・共同研究のシステムは、個々の大学の枠を超え、全国から研究者が集まって共同利用・共同研究を行うものであり、我が国が独自に発展させてきた仕組みである。多様な学問的背景を有する全国の関連研究者が共同して研究を進める意義は大きく、国際レベルの研究成果を上げるなど、我が国の学術研究の発展に大きく貢献している。

○ 共同利用・共同研究は、これまで、大学共同利用機関や国立大学の全国共同利用型の附置研究所・研究センターを中心に推進されてきたが、平成20年度に、国公私立大学を問わず全国共同利用を行う大学の研究所を文部科学大臣が認定する「共同利用・共同研究拠点」制度が創設された。現在、私立大学も含めて79の拠点が認定されており、これまでカバーされていなかった分野においても共同利用・共同研究の拠点が形成されたことから、我が国の学術研究体制の基盤強化と新たな学術研究の展開が強く期待されている。

○ このような状況を踏まえ、共同利用・共同研究を通じた独創的・先端的研究を一層推進する観点から、大学共同利用機関はもとより    共同利用・共同研究拠点についても、研究活動を支える安定的・継続的な財政措置を講じることが必要である。

【3】大学等における研究環境の改善と研究支援体制の強化

(研究環境の重要性)

○ 現在、多くの研究者は、大学等の組織運営や様々な評価業務に多くの時間をとられ、十分な研究時間を確保できない状態にあるとの指摘がある。このような研究者を取り巻く環境の改善を早急に図らなければ、研究活動の停滞や、学生に対する教育の質の低下につながりかねない。このため、大学等の組織運営等の研究者の負担を軽減し、研究に専念できるよう手厚い研究支援体制を構築して、研究活動の活発化に取り組む必要がある。

○ また、多様な視点や発想を取り入れた研究活動を活性化するためには、各年齢層並びに女性や外国人の研究者などの多様性が不可欠であり、大学等においてそのような人材が能力を最大限に発揮できるような環境づくりを推進することが必要である。

(研究に集中して取り組める時間・環境の確保)

○ 研究者が研究に集中して取り組める時間・環境の確保のためには、まずは、それぞれの大学等における組織運営面での改革の取組が求められる。例えば、各機関の実情に応じた判断に基づき、特定の大型研究プロジェクトや共同研究に参画する教員には一定期間、大学運営等に係る負担を軽減することや、研究に専念させる研究専従教員とすることが望まれる。また、サバティカル・リーブの新規導入や、あるいはすでに導入している大学等においてはより短期間でサバティカル・リーブを取得できるなどの配慮を行うことが期待される。さらに、大学等においては、他機関においてサバティカル・リーブを取得した研究者を受け入れて、議論を深め、思索や研究の試行等に専念させるシステムを導入することが期待される。

○ また、昨今、大学等の教育研究及び運営に対する評価に係る作業が膨大になって個々の研究者への負担も大きくなっていることが、研究時間を確保する上で障害になっているとの意見もあり、より効果的かつ効率的な評価の実施が関係者に求められる。
 さらに、各種の競争的研究資金においては、研究者がより研究に専念できるような方向で、適時適切に審査及び評価の在り方を改善するとともに、研究費の取扱い制限の簡素化が求められる。
 なお、ピア・レビューで行う大学等の教育研究及び運営に対する評価や競争的研究資金の審査・評価は、学術の発展において重要な役割を果たしていることから、こうした役割を大学等の研究者が担う場合には、それぞれの研究者が所属する大学等において、それに対する適切な評価がなされることが期待される。

(高度な研究支援体制の構築)

○ 研究装置の保守・運用・整備を担当するテクニシャンや、高度な研究事務の処理ができるリサーチアドミニストレーターの配置など、博士号取得者をはじめとする必要な経験と能力を有した人材による高度な研究支援体制の確立が喫緊の課題である。国は、こうした研究支援人材の確保と資質の向上のための取組を推進するとともに、各大学等においては、これらの人材が適切に評価され、処遇されるよう努めることが必要である。

(国際化時代に対応した研究支援体制の確立)

○ 近年、国際共著論文の増加や、大規模な研究プロジェクトにおける国際協力の取組や開発途上国における人材育成を視野に入れた共同研究の増加に見られるように、国際共同研究が盛んになっており、研究の国際化が進んでいる。我が国の大学等においては、国内外の優秀な学生・研究者に開かれた世界に誇れる教育研究拠点の裾野の拡大を図るべきであり、各大学等の国際化に対応した取組や、それに対する国の支援が求められる。なお、留学生の受け入れに関しては、平成20年7月に、関係省庁により「留学生30万人計画」を策定しており、優秀な留学生の受入れを促進するなど大学の国際化等に向けた取組を進めている。

○ 各大学等が国際共同研究を積極的に推進するに当たっては、海外の研究者を受け入れるための環境の整備が必要である。特に、大学等における受入れ施設の整備や、周辺環境の整備、また専門性の高い国際業務担当スタッフの配置などの取組が必要である。また、留学生への対応に当たっては、研究者個人に依拠した留学生受入れとならないよう、事務組織も含めた大学全体での専門的な組織体制の強化やサポートの充実が求められる。

【4】大学等における研究基盤の充実

(研究施設・設備の整備)

○ 大学等の研究施設については、「第二次国立大学等施設緊急整備5か年計画」に基づいた取組や私学助成などを通じて、耐震化等の老朽再生や狭隘化への対応等を重点的に進めている。今後も、独創的・先端的な学術研究を推進するため、その基盤となる施設について、若手研究者や外国人研究者、留学生にとっても魅力ある教育研究拠点の形成を目指すという視点も取り入れつつ、教育研究のニーズ等を踏まえた施設の高度化・多様化といった質的向上を進めていくとともに、併せて、安全・安心な環境の確保や地球環境への配慮といった基本的条件の整備を図る必要がある。

○ このため、国立大学や大学共同利用機関について、将来展望を明確にして計画的に施設の整備を行うために新たな施設整備計画を策定するとともに、私学助成の充実を図り、大学における研究施設の計画的な整備に必要な財政措置を行うべきである。また、公立大学においては、設置者である地方公共団体の判断に基づき、財政措置の充実が図られることが望まれる。

○ 大学等においては、世界最先端の研究を推進するための研究設備の整備を図ってきたが、近年、研究開発の大規模化・複雑化に伴う設備の大型化・高度化や、運営費交付金や施設整備費補助金、私学助成の減少傾向の中にあって、こうした研究設備の計画的な整備・更新や維持・管理に必要な経費の確保が困難になりつつある。
 第4期科学技術基本計画においては、こうした状況を反転させ、世界最高水準の研究成果を持続的に生み出す重厚な研究基盤を長期的な視点に立って計画的に整備する必要があり、国は、研究設備の整備・更新や維持・管理に必要な経費を安定的・継続的に措置することが重要である。

○ また、限られた資源の有効活用を図る観点から、研究設備の全国あるいは地域単位での共同利用や既存設備の再利用、競争的資金により整備した研究設備の有効活用・再利用等を進めていくことが必要である。
 このため、大学間連携等による研究設備の相互利用や再利用を効果的に行うための体制整備を進めるとともに、設備の保守・運用・整備等を行う技術職員を確保する等の方策を講じる必要がある。

(研究情報基盤の整備)

○ 研究情報基盤は、我が国の大学等における学術研究と教育活動の全般を支える情報ライフラインである。このため、研究情報基盤としての最先端学術情報ネットワークや大学等における学内LAN等の整備充実・機能強化、研究に不可欠なサイエンスデータベースや学術コンテンツ等の電子化を含めた整備及び大学図書館の電子化等を踏まえた機能強化、サービスの強化等を図る必要がある。

○ 今日、ネットワーク、コンピュータを駆使して様々な研究成果、データベース等を統合し新たな「知」を発見・形成・活用する「E-サイエンス」は、従来の理論、実験、計算(シミュレーション)と並ぶ新しい科学の方法論として、世界で急速に進展している。
 今後、我が国の学術研究をより強化し、研究分野や国・地域を超えた連携を推進していくためには、このような新たな科学の方法論としての「E-サイエンス」の推進に向けた取組の強化を図っていくことが必要であり、「E-サイエンス」を支える最先端の研究情報基盤の整備充実が不可欠である。  

○ 特に、高度化・多様化しながら増大していく学術情報に対するニーズに対応するため、ネットワークの高速化・高度化を図るとともに、大学等の学術研究や教育活動に必要な学術リソースを共有するための基盤としての学術情報ネットワークの整備を進めるなど、安定的かつ信頼性の高いネットワーク環境の更なる向上に向けた取組を着実に推進することが求められる。また、これらの取組と併せて、情報ネットワークの維持・運用などに必要な人材育成や人材の確保に向けた取組を推進することが必要である。

○ また近年、大学図書館における電子ジャーナルの利用可能な数、種類、経費が大きく増加しており、図書館資料費に占める割合も年々増加している状況である。このため、契約形態や交渉の在り方の検討も含め、電子ジャーナルの効率的な整備に向けた対応を進めるべきである。

○ さらに、学術研究の成果は人類にとって共通の知的資産であることから、その内容については、必要とするすべての人がアクセスできるようにすることが必要である。したがって、オンラインにより無料で制約なく論文等にアクセスできる「オープンアクセス」を推進することが求められる。このため、知的生産物としての教育研究成果を電子化して保存・発信するための「学術機関リポジトリ」の構築をさらに充実し推進するなど大学等における情報発信を積極的に進めるための取組を一層進めることが必要である。

○ 併せて、我が国の学協会の国際的な情報発信力を強化するため、学術雑誌の電子化を一層推進するほか、学協会が刊行する学術雑誌の国際競争力の強化に向けた取組を推進することが必要である。

(文献・資料、研究用材料等の体系的な整備)

○ 学術研究の過程で収集された、図書等の文献・資料、生物遺伝資源等の研究用材料等は、知的資産として物あるいは情報の形で蓄積されることになるが、それだけでは多くの研究者に活用される研究基盤とはなりえない。多くの研究者に活用される基盤とするためには、整備に携わる研究支援者等を確保した上で、蓄積された知的資産が体系化され、それが広く供用可能とされている必要がある。

○ このような観点から、大学図書館等の文献・資料の整備・充実を図ることが必要である。また、大学等のみならず、博物館(資料館を含む。)、美術館等も、学術的に貴重な文献・資料を所蔵し、その調査・研究を行っている。様々な文献・資料を有効に共同利用して研究に取り組むことができるようにするため、これらの機関が連携・協力することや、そのために必要な国の支援について検討すべきである。

○ また、研究用材料やデータベースの体系的な整備を促進するべきである。その際には、ヒト由来の試料や情報の収集に関する倫理上の問題を解決する必要があり、社会を構成する多くの人々がそれぞれ持っている判断、評価、行為などの基準について社会的に整合を図るため、人文学や社会科学の視点を取り入れて対応することも必要である。このような意味においても、自然科学と人文学、社会科学は相互にかかわり合いながら発展していることに留意することが重要である。

【5】若手研究者の育成に向けた取組の充実

(若手研究者の育成に向けた取組の必要性)

○ 大学等から企業の研究所に至るまで、研究者には様々な活躍の場がある。我が国が、今後とも、持続的に発展し、人類社会に積極的に貢献していくためには、未来を支える研究者の養成や資質の向上が不可欠である。      
 また、代表的な若手研究者である博士号取得者には、知識基盤社会を牽引するリーダーとして、学術研究の世界のみならず、様々な世界で活躍することが期待されている。現在、年間約1万6,000人に上る博士課程修了者(所定の単位を取得し、学位を取得せずに満期退学した者を含む。)の状況についてみると、約1万人が就職する中、約2,000人が大学教員、約2,500人が企業等の研究者となるなど自立と活躍の機会を獲得している者もいる。その一方で、進学も就職もしない者(死亡・不詳の者を含む)が約5,000人となっており*5、大学等が輩出する人材と産業界が必要とする人材等の間に生じている質的・量的なミスマッチ等により、安定した職に就く機会に恵まれず、自らの専門性を発揮できないまま、社会的に不安定な立場に置かれている者も少なくない。
 特に、学術の振興の観点から、学術研究の担い手の養成についてみれば、政府の行財政改革の方針に基づいて国立大学等の総人件費の削減が進む中で、大学における若手教員の新規採用が伸び悩み、その割合が減少したことから、博士号取得者のキャリアパスが不透明であることに対する不安や、安定的な研究職を得るまでの期間の長さ、経済的な問題により、優秀な学生が大学等での研究に進むことを躊躇する事態を迎えている。これは、今後の学術研究の在り方のみならず、我が国の未来に影響を及ぼす、極めて重要な問題であることから、早急な解決を図ることが求められる。

○ このような状況の中で、本年8月に、基礎科学力強化委員会は、我が国の大学院について、質的にも量的にも国際的に遜色ない水準を目指して国際競争力を高めるとともに、「学生の立場に立った」抜本的な改革を実行することなどについて提言している。また、知識基盤社会を牽引する人材の育成と活躍の促進については、本年8月に科学技術・学術審議会人材委員会より、社会の多様な場におけるリーダーとしての博士号取得者の育成・活躍促進や基礎科学力強化のための若手研究者の養成、人材育成に対する産学の意識改革、次代を担う多様な人材の育成等について多岐にわたる提言がなされている。
 国は、これらの提言を踏まえて、若手研究者の育成と活躍の促進に向けた課題解決のため積極的に取り組むことが必要である。

(知識基盤社会を牽引する人材を育成する大学院の充実)

○ 大学院は、知識基盤社会において、研究者の養成はもとより、個人の人格形成の上だけでなく、社会・経済・文化の発展・振興や国際競争力の確保等の国家戦略の上においても、極めて重要な役割を果たしている。各国が優秀な人材の獲得をめぐって国際的な競争を繰り広げる中、大学院が研究意欲のある学生や研究者にとって最も魅力ある存在でなければならず、国際的に卓越した拠点としての大学院の整備が必要である。ことに、従来の取組を、大学単位の閉じられた状況から解き放ち、広範な大学間連携や、大学共同利用機関、研究開発型独立行政法人、企業等との連携を積極的に推進して、一層の充実を図るべきである。

○ このため、国は、教員の研究費の充実のみならず、大学院生のための経済的支援を充実することが必要である。フェローシップのような給付型の支援の充実に加えて、実質的給与型の経済的支援として、大学院生をTA(ティーチングアシスタント)、RA(リサーチアシスタント)として雇用し、給付者と受給者の間に契約関係を生じさせ、職業的義務の遂行を求める形で早い時期から教育研究活動に参画させることにより、大学教員、研究者としての能力の醸成を図るなど、より多くの優れた人材が大学院に進学し、研鑽する機会を確保するための施策を推進することが必要である。また、我が国の大学院の質を向上させるためには、国内の大学等の学生、研究者の流動性を高めるとともに、外国から優秀な留学生や研究者を獲得することが必要である。

○ また、大学院教育に関し、我が国ではそれぞれの大学院の教育目的や学生に修得させるべき能力等の目標が必ずしも明確ではないとの指摘がある。修士課程であっても博士課程であっても、目標をどこに置くかで、教育内容も整備すべき環境も異なってくる。このため、各課程の教育目的に応じて、目標を定め、教育研究分野の特性を踏まえた教育内容・方法の充実を図っていくことが重要である。その際には、基礎研究を行う研究者養成を目的とした一貫教育を行う課程や、産業界の協力も得た企業への就職を意識した課程など、目的や目標に応じた柔軟かつ多様な教育システムを検討することも必要である。さらに、大学教員の評価について、各大学が教育面での貢献を正当に評価する仕組みを設け、大学院教育を充実させるような取組を推進することが求められる。

○ 学生が自らの専門性を高めつつ、俯瞰的な視野を得られるようにするためには、一人の学生に対する教育が必ずしも一専攻での取組にとどまることなく、必要に応じて、他の専攻はもとより、他の研究科、大学等との連携が図られることも重要であり、学生が複数の研鑽の場を得られるような取組を推進することが望まれる。

(キャリアパスの多様化に向けた取組)

○ 大学等は、若手研究者に対し、博士号取得者の社会的役割を明示し、ポストドクターのキャリアパスやロールモデルを社会の中に示していくとともに、優秀な学生が研究者の道を選択できるよう、経路とゴールが見えるキャリアパスを明示することが期待されており、国はそのような取組を積極的に支援することが求められる。その際、若手研究者のアカデミックポストを確保するため、研究組織におけるポストの整備・拡充がまず必要である。また、若手研究者が、大学等の研究者だけではなく、企業をはじめとする社会の多様な場で高度な専門職業人として活躍できるよう企業等との積極的な協力も必要である。同時に、若手研究者がこうした新しい社会の多様な場での発展の在り方を認識できるような取組を進める必要がある。

(優れた若手研究者への支援)

○ 我が国の学問をリードし、国際的な活躍が期待できる優秀な若手研究者に対しては、より研究活動に専念できるよう、フェローシップのような給付型の経済支援の充実を図るべきである。その際、支援対象者の選別・評価の在り方が重要となる。  

○ さらに、国は、学生や若手研究者の「内向き志向」を解消し、国際的な視野を持った研究者を育成するため、優秀な若手研究者に対し、海外での研鑽機会を確保し、海外における研究活動を積極的に展開するよう支援の充実に取り組むことが必要である。

おわりに

○ 本分科会では、第4期科学技術基本計画の策定に向けて、科学技術の在り方を学術や教育も含めた根源的なところから問い直し、科学技術の発展は学術の振興の中にあるとの原点に立ち戻った、学術並びに科学技術の思い切った振興策が必要であるとの共通理解を得た。ここに、従来の科学技術基本計画における学術の位置づけをめぐる議論にかんがみ、改めて学術と科学技術の関係を明らかにするとともに、第4期科学技術基本計画に盛り込むべき学術の振興方策について取りまとめを行った。

○ 科学技術・学術審議会基本計画特別委員会では、「科学技術・イノベーション政策」を推進する方向で第4期科学技術基本計画に向けた検討がされている。
 しかし、社会の諸活動の基礎となる学術が脆弱化すれば、学術を基盤とする科学技術・イノベーションも脆弱化し、必要な人材の養成もなされない。こうした危機的な事態を避けるため、今こそ国民の理解を得ながら、幅広い分野にわたる学問の継続的な維持・発展や、先駆的・独創的な研究の推進のために、必要な環境整備や人材養成に積極的に取り組んでいくことが是非とも必要である。
 また、地球規模の課題の克服のためには、人文学、社会科学から自然科学に至るまで、あらゆる学問の知見を総動員して、地球規模での地域間の衡平性のみならず、世代間の衡平性についても配慮しながら、課題の解決につながる新しい学問の発展を追求していかなければならない。

○ 我が国は、世界に誇る多くの優れた研究業績をあげるとともに、世界レベルの研究教育拠点を形成しつつあるが、人類の知的資産の創出において先導的な役割を果たしていかなければ、国際社会から信頼と尊敬を得られる国にはなれないし、イノベーティブな世界貢献を継続できない。したがって、今後とも、さらに我が国の学術研究環境を世界的に魅力あるものとするため、大学等の積極的な取組とそのために必要な政府の支援が求められる。

○ 政府においては、このような認識に立って、第4期科学技術基本計画に、科学技術の発展は学術の振興の中にあることを明記し、学術の振興に必要な方策を盛り込むことを求めたい。

 


*1 『Frascati Manual 2002』(OECD)「4.2.type of R&D」より抜粋

○ Basic resarch
240.
 Basic resarch is experimental or theoretical work undertaken primarily to acquire new knowledge of the underlying foundations of phenomena and observable facts, without any particular application or use in view.

○ Applied research
245.
 Applied research is also original investigation undertaken in order to acquire new knowledge. It is, however, directed primarily towards a specific practical aim or objective.

○ Experimental development
249.
  Experimental development is systematic work, drawing on knowledge gained from research and practical experience, that is directed to producing new materials, products and devices; to installing new processes, systems and services; or to improving substantially those already produced or installed.

*2   『科学技術研究調査』(平成20年12月18日総務省)「(3)性格別研究」より抜粋

1.基礎研究
 特別な応用、用途を直接に考慮することなく、仮説や理論を形成するため、又は現象や観察可能な事実に関して新しい知識を得るために行われる理論的又は実験的研究をいう。

2.応用研究
 基礎研究によって発見された知識を利用して、特定の目標を定めて実用化の可能性を確かめる研究や、既に実用化されている方法に関して、新たな応用方法を探索する研究をいう。

3.開発研究
 基礎研究、応用研究及び実際の経験から得た知識の利用であり、新しい材料、装置、製品、システム、工程等の導入又は既存のこれらのものの改良をねらいとする研究という。

*3「持続可能な発展」は、環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)報告書(1987)が提唱した概念で、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発(development that "meets the needs of the present without compromising the ability of future generations to meet their own needs")」と定義されている。「持続可能な開発」とも訳される。(国立環境研究所ホームページを参照。)

*4「認識科学」と「設計科学」の用語については、日本学術会議「提言:知の統合-社会のための科学に向けて-」対外報告(平成19年3月22日)、同「新しい学術の在り方-真のscience for society を求めて-」報告(平成17年8月29日)を参照。

*5「平成20年度学校基本調査報告書」(文部科学省)を参照。 

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