「人文学及び社会科学の振興について(報告)」-「対話」と「実証」を通じた文明基盤形成への道-【概要】

平成21年1月20日
科学技術・学術審議会 学術分科会

第一章日本の人文学及び社会科学の課題

 日本の人文学及び社会科学が抱えている諸課題として、「研究水準」に関する課題、「研究の細 分化」に関する課題、「社会との関係」に関する課題がある。 近代化の過程で、欧米において既に専門分化を遂げた後の個別科学としての「学問」を受容・継 受したという歴史的経緯が、その後の日本の「学問」の在り様を規定していると考えられる。

第一節「研究水準」に関する課題

(1) 独創的な研究成果の創出

 欧米の学者の研究成果を学習したり、紹介したりするタイプの研究が日本において有力な研究 スタイルとなっており、日本の人文学及び社会科学が克服すべき課題となっている。

(2) 歴史や社会に根ざした研究活動の展開−日本で創造された知への関心−

 欧米の学者の研究成果の学習や紹介が研究活動の中心となったという歴史的経緯のためか、日 本の人文学及び社会科学においては、日本の歴史や社会に根ざした研究活動が必ずしも十分とは 言えない場合がある。21世紀を迎えた現在、欧米の学問の成果の受容にとどまることなく、日 本の人文学者及び社会科学者が自ら置かれた歴史や社会と直接向き合った上で学問を展開してく ことが求められる。

第二節「研究の細分化」に関する課題

 日本の人文学及び社会科学に対する人々や社会の期待は、個別的な実証研究の積み上げだけでは なく、「『人間』とは何か」、「『歴史』とは何か」といった文明史的な課題に対する「(認識)枠組 み」の創造にある。人文学や社会科学に対する社会の期待に応えるという観点から、「研究の細分 化」が克服され、「歴史」や「文明」を俯瞰することのできる研究への取組が期待されている。

第三節学問と社会との関係に関する課題

(1) 学問と社会との「対話」

 日本の社会的な現実を欧米の学説の適用によって説明するにとどまらず、独自の学説により理 解していくことへの社会からの期待は大きい。特に社会科学においては、最先端の課題は、アカ デミズムの側というよりも社会の側にしばしばあり、学問と社会との対話の必要性が大きい。

(2) 社会からの支持

 学問の発展のためには、学問が社会的存在として認知され社会からの支持を獲得することが必 要である。人文学や社会科学においては、成果が「ソフト」として発信されていることから、人 々が成果が還元されているという実感を得ることが難しく、成果発信についての工夫が必要であ る。

第二章人文学及び社会科学の学問的特性

 人文学及び社会科学の振興施策を、より実効性のあるものとするためには、人文学及び社会科学 の諸特性を踏まえて施策を展開することが重要である。

第一節対象

 人文学は人間の精神や文化を主な研究対象とする学問であり、社会科学は人間集団や社会の在り 方を主な研究対象とする学問である。人文学及び社会科学の研究対象は、基本的に人間によって作 られたものであるため、人文学は哲学や思想といった「価値」それ自体が研究対象となるとともに、 社会科学においても、社会を構成する人々や集団の意図や思想といった「価値」に関わる問題を扱 う。このため、「価値」との関わりあいが少ない自然科学とは異なる意味で、より複雑な研究対象 を取り扱う。

(1) 「メタ知識」

 人文学は、自然科学や社会科学が研究対象とする諸「知識」に関する「知識」、論理や方法と いったいわゆる「メタ知識」を研究対象としており、個別の研究領域や研究主題を超えて、社会 科学、自然科学に至るまで個別諸学を基礎付け、又は連携させるための重要な位置を占めている。

(2) 「精神価値」、「歴史時間」及び「言語表現」

 人文学は、「精神価値」、「歴史時間」及び「言語表現」を研究対象としている。これらの研究 対象は、人文学以外の諸学においても、「学」の基礎付け等を検討するような深い思索の場にお いて出会うものでもある。

(3) 「社会構造」、「社会変動」及び「社会規範」

 社会科学は、「社会構造」、「社会変動」及び「社会規範」を研究対象としている。「社会構造」 とは、社会を構成している諸要素のパターン化された、相対的に変化しにくい結びつき(役割、 社会制度、社会集団、地域社会、国家等)を意味しており、「社会変動」とは、結びつきのパタ ーンの変動を意味する。「社会規範」とは、社会構造や社会変動の前提にある意図や思想など、 社会集団の鋳型に人々の行動をはめてしまうような「価値」に関わるものを意味する。

1. 「社会」
2. 「社会構造」、「社会変動」及び「社会規範」

第二節方法

 人文学及び社会科学は、自然科学のように証拠に基づき「事実」を明らかにすることに加え、論 拠を示すことにより「意味付け」を行うことを目指すものである。このような意味で、人文学及び 社会科学においては、「実証性」とともに「説得性」を重視しなければならない。
 人間や社会の在り方を把握するためには、人間の意図や思想といった「価値」に関わる問題を避 けて通ることはできないことから、人文学及び社会科学の研究を進めるに当たっては、実証的な方 法による「事実」への接近の努力とともに、研究者の見識や価値判断を通じた「意味付け」を行う ことが不可欠である。このため、人文学及び社会科学の研究方法には、言葉による意味付けや解釈 という研究者の見識や価値判断を前提とした研究方法(対話的な方法)と、人間の行動や社会現象 などの外形的、客観的な測定を行う研究方法(実証的な方法)とが併存することとなる。
 このように、人文学及び社会科学は「価値的な前提」と向きわなければならないことから、「実 証的な方法」の前提として、「対話的な方法」が位置付けられる。

(1) 対話的な方法

1. 歴史や文化による拘束

 人文学者や社会科学者は、自らも歴史に参画する人間として歴史を解釈し、文化の内に存在 する教養人として思想や哲学を構築し、社会に参加する行為者として社会を分析せざるをえな い。世界の内にあって世界を語ることの困難性を抱えている。

2. 経験や感性の役割

 人文学者や社会科学者は、歴史や文化に拘束された存在であることから、歴史や文化の中で 培われた「経験」や「感性」、あるいは思考の構えとでもいったものが、研究プロセスにおい て大きな役割を果たすことになる。

3. 相対化の視点(「多様性」の自覚)

 人文学者や社会科学者は、自分自身が歴史や文化に拘束された存在であることを自覚した上 で、自らが依って立つ「価値」の相対性に気付かされる。この結果、人文学や社会科学におけ る研究過程は、研究対象となる歴史や文化を「他者」としてとらえること、即ち相対化の視点 を前提とせざるをえない。

4. 「他者」との「対話」(「普遍性」の獲得)

 相対化の視点は「他者」との「対話」の契機となる。このような「他者」との「対話」とい う研究方法は、ある「価値」を前提として、その「価値」に基づいて物事の真偽、優劣を判断 していくのではなく、その「価値」が本当に正しいのかを他の「価値」との「比較考量」の過 程で吟味し、判断していくという、知的判断、道徳的判断、美的判断を総合した判断である。 このような対話的な方法は、「他者」との「対話」を通じた自他の「(認識)枠組み」の共有の 契機を含むものであるとともに、そのような「対話」を通じた「(認識)枠組み」の共有によ り、「共通性」としての「普遍性」を獲得できる可能性をも含むものであることを意味してい る。そして、この結果、より普遍的な「(認識)枠組み」が形成され、諸集団において共有さ れうるような基本的「価値」を含んだ諸概念の体系として、異なる歴史や文明の通文化的基盤 (「教養」など)となることも想定される。

(2) 実証的な方法

 研究対象となる経験的現実の性質に応じて、意味解釈法、数理演繹法、統計帰納法という研究 方法の三つの類型が存在している。意味解釈法は、「現実(リアリティ)」を把握するに際し、 個別の事例を採り上げ、その意味解釈により、個別の事例にひそむ物事の本質を取り出す研究方 法である。数理演繹法は、数学的論理を用いることにより、特定の時間・空間を超えて成り立つ 普遍的な「現実(リアリティ」を認識しようとする方法である。統計帰納法は、データを収集し、 分析することにより、社会の具体的な状態や経験則を取り出す「現実(リアリティ)」認識の方 法である。それぞれの方法が相互に補い合って初めて、全体としての「現実(リアリティ)」を 明らかにすることができる。

1. 意味解釈法
2. 数理演繹法
3. 統計帰納法

第三節成果

(1) 「総合」による「理解」と「分析」による「説明」

 人文学及び社会科学の研究成果には、研究対象である歴史事象や社会現象等の「説明」と、そ の意味付けによる「理解」という二つの類型がある。前者は、実証的な方法を通じた研究対象の 分析により獲得される個別的で客観的な知識であるのに対して、後者は、対話を通じた総合によ り得られる「(認識)枠組み」を意味している。

(2) 「実践的な契機」

自然科学が研究対象に関する客観的な知識の獲得を通じた「真理の説明」を志向しているのに 対して、人文学や社会科学は、「対話」を通じた「真理の(共通)理解」を志向している。
 このような特性から、人文学や社会科学の成果は、人間観や歴史観といった文明史的なレベル での影響や、政策や社会のオピニオンの形成などへの影響を及ぼすことがある。即ち、歴史や社 会の変革という「実践的な契機」が含まれている場合がある。このような人文学及び社会科学の 研究成果は、社会還元に直結するというよりも、受容と拒絶を繰り返しながら、歴史や社会の側 で選択されていくものと言ってよい。

第四節評価

 人文学及び社会科学における「評価」を考えるに当たっては、学問の特性に起因する多元的な 評価軸の確保の必要性、学術誌の査読の限界の認識の必要性、定性的な評価の重要性について留 意する必要がある。

(1) 多元的な評価軸の確保

1. 多元的な評価軸の確保の必要性

 人文学及び社会科学においては、「事実」の発見や説明にとどまらず、理解や対話といった 方法を通じた「(認識)枠組み」の構築が重要である。このため、「評価」に当たっても、事実 のレベルだけでなく、意味や価値のレベルで評価することが求められる。したがって、人文学 及び社会科学の評価に当たっては、多元的な評価軸の確保が必要である。

2. 評価の三類型(歴史における評価、社会における評価、アカデミズムによる評価)

 「歴史における評価」とは、いわゆる「古典」として位置付けられるか否かという意味での 評価である。「社会における評価」とは、同時代の読者層(ジャーナリズムを含む)から示さ れる評価と、実務家から示される評価から成る。「アカデミズムによる評価」とは、学術水準 の向上等を通じて学問の発展を促すことを目的として、研究プロセスの適切性、研究成果の独 創性等の観点から、主として専門家相互間で行われる研究の検証システムである。
 おそらく、人文学や社会科学に対する評価をめぐる問題は、これらの三つの類型による評価 を混同していたところにあると考えられる。

(2) 学術誌の「査読」の限界

 学術誌の「査読」とは「アカデミズムによる評価」の典型である。しかし、これに過度に依存 することには、学問の発展の観点から問題がある。学術誌の「査読」は、現在の学界の主流派の 考え方に基づき、それをさらに一歩進めるような論文についての判断力は正しく、一般的に信頼 がおけるが、現在の学界の常識を覆すような論文についての評価は慎重でありすぎることがある。

(3) 定性的な評価の重要性

 人文学及び社会科学における評価においては、「歴史における評価」や「社会における評価」 の意義などを踏まえると、定性的な評価が重要となる。具体的には、研究成果としての「書籍」 の刊行を積極的に位置付けていくことが必要と考えられる。

第三章人文学及び社会科学の役割・機能

第一節学術的な役割・機能

(1) 理論的統合

人文学は、「精神価値」、「歴史時間」、「言語表現」及び「メタ知識」を研究対象とする立場か ら、諸学の基礎として、個別諸学の基礎付けを行うという役割・機能を有している。
 また、「『対話』を通じた『(認識)枠組み』の共有」という「共通性」としての「普遍性」の 獲得への道程という研究方法上の特性は、個別諸学間の「対話」を通じた「普遍性」の獲得の可 能性を導くという意味で、方法上、個別諸学の基礎付けとなりうると考えられる。このような、 専門分化した個別諸学を俯瞰するという観点から、これらの役割・機能を「理論的統合」と位置 付ける。

1. 「メタ知識」の学
2. 諸「価値」の評価
3. 「人間」の研究

(2) 「実践」の学

 社会科学は、社会構造やその変動のメカニズム等について説明と理解(評価を含む)とを行 うものである。このような説明と理解は、政治や経済に対する人々の見解の形成に一定の影響 を与えるとともに、とりわけ、ジャーナリズムなどを通して歴史や社会の中で取捨選択が行わ れるものであり、実践的なものを意図せずとも、実践的帰結を伴うことがある。このような意 味から、社会科学に「実践」という役割・機能があると考える。

1. オピニオンの形成に対する影響
2. 社会における「最先端」の課題への対応

第二節社会的な役割・機能

(1) 社会的貢献

 人文学及び社会科学の社会的な役割・機能として、「社会的貢献」を挙げることができる。具 体的には、「他者」との「対話」という学問的特性から、1.グローバリゼーションの時代におけ る「多様性」と「普遍性」との架橋といった観点からの人間や文化の文明史的な位置付け、2.個 別諸学の成果を一般市民に対して伝達するという個別諸学の専門性と市民的教養との架橋という 観点からの社会的貢献が期待される。また、これら以外にも3.政策や社会における課題の解決と いう観点を挙げることができる。

1. 「人間」や「文化」等の文明史的な位置付け
2. 専門家と市民とのコミュニケーション支援
3. 政策や社会における課題の解決

(2) 「教養」の形成

 主に人文学の役割・機能として、「教養」の形成がある。もちろん、教養の形成は、学問全体 として担う役割・機能でもあるが、ここでは、学問の基礎的知識の問題ではなく、人間や価値と いった個別諸学では必ずしも扱うことの困難な問題を取り扱うという観点から、人文学を教養の 形成に当たっての不可欠の部分としてとらえている。

1. 「共通規範」としての「教養」
2. 「教養」の文化的多様性
3. 「価値」についての判断力としての「教養」

(3) 「市民」の育成

 主に、社会科学には、「市民」の育成という役割・機能がある。これは、「市民」における「ポ リシー・リテラシー」(政策に関する基礎的な判断能力)の涵養に向けての取組を意味する。た だし、ここで留意が必要なことは、社会は、問題設定や目的が一義的に与えられているものでは なく、問題設定や目的自体をめぐって試行錯誤が繰り返されているような世界であるということ から、「ポリシー・リテラシー」の涵養とは、客観的な知識を獲得し、それをテクニカルに適用 すればよいというものではないということである。「事実」のレベルのみならず「価値」のレベ ルにおける意思決定の判断力の養成なのである。

(4) 高度な「専門人」の育成

 人文学及び社会科学には、法曹、ジャーナリスト、政策担当者、経営の専門家、カウンセラー 等々、社会において高度な専門性を前提に活躍する人材の育成が、社会的に重要な役割・機能と して期待されている。

1. 「実学」−基礎研究の成果の統合−
2. 人文学的な素養
3. 研究における総合性と高度な「専門人」の育成

第四章人文学及び社会科学の振興の方向性

 人文学及び社会科学の課題、学問的特性やその役割・機能を踏まえ、今後の人文学及び社会科学の の振興の方向性として、以下の六つの方向性を指摘する。行政や大学等にあっては、これらの方向性 の上に立って、施策を実施していくことが求められる。

第一節「対話型」共同研究の推進

(1) 国際共同研究の推進

「研究の細分化」に関する課題を克服し、人文学及び社会科学の飛躍的な展開を促進するため には、異なる歴史、文化的背景を持った諸外国との国際共同研究を積極的に推進することが必要 である。また、国際共同研究は、「学問の対話」という性格に加え、日本の文化と諸外国との文 化との「文化の対話」という意義を有している。これは、知的に高い水準での「文化の対話」を 保証する装置として機能することになる。

1. 「文化の対話」の必要性
2. 「対話」としての「日本研究」の推進

(2) 異質な分野との「対話」としての共同研究の推進

 「研究の細分化」に関する課題を克服し、人文学及び社会科学の飛躍的な展開を促進するため には、異質な分野との「対話」という、異質な分野の学者との共同研究を積極的に推進すること が必要である。なお、共同研究は、原理・原則や方法論といった学問の存立基盤に関わるレベル での相互作用を通じて、学問の根源的な変革や飛躍的な進化を促す契機となる可能性があり、こ のような視野に立った共同研究を推進することが必要である。

第二節「政策や社会の要請に応える研究」の推進

(1) 人文学及び社会科学における「政策や社会の要請に応える研究」の推進

 現在、自然科学分野においては、「学術研究」を支援する施策とともに、「政策や社会の要請 に応える研究」の推進施策の二つの施策体系の下で振興が図られている。今後、日本や世界が直 面する経済、社会的な課題を考えれば、人文学及び社会科学分野における政策や社会の要請に応 える研究は重要であり、これらを積極的に推進していくことが国の重要な課題である。

(2) 「国等が定める研究目標等の下で、優れた研究を競争的に審査、採択、実施するタイプの研究プログラム」の推進

1. 取組むべき政策的、社会的課題について
2. 審査体制等
3. 研究方法
4. 研究成果の社会への発信や実装を行うための工夫

第三節卓越した「学者」の養成

 総合的な知を扱いうる卓越した「学者」を養成していくためには、幅広い視野を醸成するため の基礎訓練期間の確保や、独創的な研究成果を創出した「学者」を評価するための「評価」の観 点の確立が必要である。

(1) 「学者」としての「専門家」の養成

 人類の知的資産を豊かにすることを目指し、社会や歴史との「対話」を行いうる幅広い視野を 前提とした上で、独創的な研究成果を創出できる「人文学者」及び「社会科学者」を養成するた めの取組を進めていくことが必要である。

(2) 幅広い視野を醸成するための基礎訓練期間の確保

 幅広い視野を醸成するための基礎訓練期間をカリキュラム等を通じて定着させる必要がある。 このためには、短期的な研究成果が性急に要請される研究環境においては、長期的に取り組むべ きテーマの研究が行われにくくなることが危惧されるため、このような研究環境の緩和が必要で ある。そして、多様な学問を幅広く学ぶ機会を有することで、幅広い知的基盤に立って研究テー マを設定することができる。

(3) 真の学者を養成する評価の確立

 独創的な研究成果を創出した学者を評価できる観点の確立が必要である。その際、評価の観点 が、「学者」の養成にとって意味のある実質を備えているかということ、評価を実施するための システムが適切に構築されているか、ということが重要となる。

第四節研究体制、研究基盤の整備・充実

(1) 国公私立大学等を通じた共同研究体制の推進

 国公私立大学等を通じた共同研究の推進や研究者ネットワークの構築、学術資料等の共同利用 促進等により、研究体制や研究基盤を強化することが必要である。

(2) 実証的な研究方法を用いる研究に対する支援

 人文学及び社会科学においても、新しい研究方法の導入や、共同研究等の活性化を通じた研究 規模の拡大など、多額の研究費や一定規模の施設、設備を必要とする研究が展開している。この ため、現地調査を中心とした研究、シミュレーション手法を用いた研究、実験的な手法を導入し た研究などの実証的な研究方法を用いた人文学及び社会科学研究への支援が必要となっている。

第五節成果の発信

 社会との「対話」という観点、異なる歴史や文化の文脈との「対話」という観点から、「読者」 の獲得や海外に向けた研究成果の発信が求められる。このような取組がなされることで、成果の 発信の量が増えるということのみならず、人文学及び社会科学の質を高めるという意味での振興 につながると考えられる。

(1) 「読者」の獲得

 研究成果を受容する「読者」の獲得を通じて、「教養」の社会的拡がりを確保することが重要 である。このためには、学術論文とは別に著作物や翻訳作品等の刊行を通じた学者自身の社会と の「対話」の努力が求められる。また、大学等における国際的な通用性を持ちうるような「教養 教育」を確立するとともに、「教養教育」を担う教員の講義や演習における学識と熱意が学生の 人格や知の履歴の形成に与える影響が、将来における「教養」の社会的拡がりを確保することに つながることが期待される。

(2) 海外に向けた成果の発信

 異なる歴史や文化の文脈や、異なる学問分野の文脈において、研究成果が(反論も含め)受容 されることには、大きな意味がある。海外発信の取組は、翻訳、出版といった取組や、体制整備、 人材育成等について今後の課題がある。なお、研究成果の海外発信については、国際文化交流と いう観点から、即ち文化レベルでの「対話」という観点からも重要である。

1. 海外への成果の発信
2. 使用言語の多様性

第六節研究評価の確立

(1) 人文学及び社会科学における研究評価

 人文学の学術水準の向上を目指す観点から、人文学についても、その特性を踏まえた上で「研 究評価」をシステムとして確立させることが必要である。ただし、研究評価のシステムの在り方 や、評価指標の設定については、大学やアカデミズムを中心に検討していくことが必要である。

(2) 総合的な評価

 定性的な評価を担保するためのシステムを機能させる観点を明確にしていくことが必要であ る。定性的な評価とは、「アカデミズムによる評価」、「社会による評価」、「歴史による評価」と いった多元的な評価軸の下での評価に基づいた総合的な評価になると考えられる。評価者には、 多元的な評価軸の下での評価を行いうるような、「知の巨人」あるいは「名伯楽」と言いうるよ うな「学者」の見識への信頼を前提とした評価システムを構築するという観点が重要となる。
 ただし、ここで言う「知の巨人」とは、実在の人物というよりも、総合的な知と分析による知 を兼ね備えた偉大な学者という意味での仮想の存在である。

(3) 定性的評価の評価指標

 評価指標の設定については、定量的な評価指標を設定できるものは可能な限り設定しつつも、 定性的な評価指標が評価の実質を担うべきであることを確認することが必要である。

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研究振興局振興企画課

-- 登録:平成21年以前 --