別添資料1 検討に当たっての基本的な考え方について(案)

1.計画策定に当たっての基本的考え方

(1)我が国教育の成果と現状の課題

○ 我が国の教育は、明治期以来、国民の知的水準を高め、我が国社会の発展の基盤として大きな役割を果たしてきた。特に、初等中等教育については、教育の機会均等を実現しながら高い教育水準を確保する稀有な成功例として、国際的にも高い評価を得てきた。

○ 一方、都市化、少子化の進展や経済的な豊かさの実現など社会が成熟化する中で、家庭や地域の教育力が低下するとともに、個人が明確な目的意識を持ったり、何かに意欲的に取り組んだりすることが以前よりも難しくなりつつある。こうした状況の中で、近年、子どもの学ぶ意欲や学力・体力の低下、問題行動など多くの面で、従来とは質の異なる困難な課題が生じるようになっている。
 また、官民の分野を問わず発生し社会問題化した多くの事件の背景には、社会において責任ある立場の者の規範意識や倫理観の低下があるとの指摘がある。さらには、社会を構成する個人一人一人に、自ら果たすべき責任の自覚や正義感、志などが欠けるようになってきているのではないかと懸念する意見もある。
 このような状況は、社会の成熟化に伴って生じてきた課題と見ることもできる。我が国の持続的な発展のためには、我々の意識や社会の様々なシステムを、従来の経済発展だけではない、新たな価値を重視する方向へと転換していくことが求められている。

○ 同時に、近年、少子高齢化、高度情報化、国際化などが急速に進む中で、我が国では、社会保障、環境問題、経済の活力の維持、地域間の格差の広がり、世代をまたがる社会的・経済的格差の固定化への懸念、社会における安全・安心の確保などの様々な課題が生じている。また、国際社会においても、グローバル化に伴う国際競争が激化する一方で、地球環境問題や食糧問題など人類全体で取り組まなければならない問題が深刻化している。国際テロや民族・宗教紛争なども人類の安全を脅かしている。
 我々を取り巻くこうした国内外の様々な課題に立ち向かい、乗り越えるための知恵と実行力をいかに生み出していくかが、今まさに問われている。

(2)教育の使命

○ 教育は、人格の完成を目指し、個性を尊重しつつ個人の能力を伸長し、自立した人間を育て、幸福な生涯を実現する上で不可欠のものである。同時に、教育は、国家や社会の形成者たる国民を育成するという使命を担うものであり、民主主義社会の存立基盤でもある。さらに、人類の歴史の中で継承されてきた文化・文明は、教育の営みを通じて次代に伝えられ、より豊かなものへと発展していく。こうした教育の使命は、いかに時代が変わろうとも不変のものである。

○ 今後、社会が急速な変化を遂げる中にあって、個人には、自立して、また、自らを律しつつ、その生涯を切り拓いていく力が一層求められるようになる。一人一人が幸福で充実した人生を送ることができるように、また、我が国社会、ひいては国際社会全体の発展を導くために、すべての人に一定以上の水準を保障し、その資質・能力を伸長・形成する教育を、これまで以上に重視する必要がある。さらに、生涯を通じていつでも学び直せる体制を充実していく必要がある。

○ 教育は、国、地方公共団体、学校、保護者、地域住民、企業など様々な関係者の相互の取組により成り立つものである。
 すなわち、国は、教育制度の枠組みや学習指導要領等の基準を設定し、教育水準の維持・向上に努めるとともに、全国的な教育の機会均等を実現するための資源の確保などを行う役割を担う。地方公共団体は、それぞれの地域の実情に応じた教育を実施するとともに、主体的にその教育の質を高めていく責務を負う。学校は、児童生徒学生に直接教育を提供する立場として大きな責任を負うとともに、関係者に対する説明責任を果たすことが求められる。さらに、子どもの教育に第一義的な責任を有する保護者はもちろん、地域住民や企業等も、教育の受益者という受身的な立場に止まることなく、自らも教育に責任を共有するとの認識の下、学校運営や教育活動に積極的に協力し、また参画することなどが期待される。
 それぞれの主体が、それぞれの立場で自らの責任を全うするとともに、互いに連携・協力しながら、教育の一層の向上に向けた不断の努力を重ねていかなければならない。

(3)「教育立国」の必要性

○ 教育の普遍的な使命と現下の教育上の課題や社会の大きな変化を踏まえ、未来を切り拓く教育を実現するため、平成18年12月、教育基本法が改正され、新しい時代の教育の理念が明示された。
 その理念を人間像の観点から言い換えれば、概ね以下の3つに集約することもできる。

  1. 知・徳・体の調和がとれ、生涯にわたって自己実現を目指す自立した人間の育成
  2. 公共の精神を尊び、国家・社会の形成に主体的に参画する国民の育成
  3. 我が国の伝統と文化を基盤として国際社会を生きる日本人の育成

○ 改正教育基本法の理念の実現に向け、今こそ我が国は「教育立国」を宣言し、国を挙げて教育に取り組むべきである。すべての人に等しく学習の機会が開かれ、生涯を通じ、一人一人が自己を磨き、高めることのできる社会を築くこと、このことを通じ、知的・道徳的水準の高い、持続可能で豊かな社会を創造し、国際社会に貢献し、その信頼と尊敬を得ることこそが、今後の我が国が目指すべき道と考える。

○ 我が国は、これまでも時代の変革期にあって、国家・社会の存立基盤である教育に大きな投資を行ってきた。今後、本格的な知識基盤社会に向かい、国際的な競争も一層激しくなる中で、未来への先行投資である教育の重要性はますます高まっており、多くの先進諸国が教育への投資を増大させるようになっている。およそ60年ぶりに教育基本法が改正され、教育の新たな世紀を切り拓くべき今、我が国としても、国においても、また、地方においても、行財政上、教育に格段の力を注ぐとともに、教育立国の実現に向け社会全体で改革に取り組む必要がある。

(4)教育振興基本計画のねらい

○ このような認識の下、今回の教育振興基本計画においては、今後の社会の変化の方向も踏まえつつ、それぞれの立場で自己実現を目指しながら、社会の一員としての自覚と責任を持って生きる国民の育成と、より公正で活力ある社会の実現に向けて、教育が担うべき課題を明らかにしたい。
 このために、改正教育基本法で明示された新しい教育理念に基づき、我が国の教育をめぐる現状と課題を踏まえ、今後10年先を見通した施策の基本的方向と、政府が5年間に取り組むべき具体的方策について示すこととする。

○ 教育は、多くの関係者の取組により社会全体で担われるものである。今回、教育に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、教育振興基本計画を策定するに当たっては、各分野において多様な主体によって行われている様々な活動にも十分に目を配り、それらが一層促進されるよう配慮することが求められる。

2.今後求められる教育施策の基本的方向

(1)今後10年間に予想される社会の変化

○ 今後10年間は、これまで以上に変化の激しい時代となることが予想される。その全体像を捉えることは難しいものの、例えば以下のような面での変化を予想することができる。

  •  少子化の進行により、人口が減少し、若年者の割合が低下する一方で、人口の4人に1人が65歳以上という超高齢社会に突入する。こうした状況に対応するため、教育を含む社会システムの再構築が重要な課題となる。
  •  グローバル化が一層進むとともに、中国などの諸国が経済発展を遂げ、国際競争が更に激しさを増す。同時に、異文化との共生がより強く求められるようになる。知識が社会・経済の発展を駆動する「知識基盤社会」が本格的に到来し、知的・文化的価値に基づく「ソフトパワー」が国際的に一層重要な役割を果たす。
  •  地球温暖化問題をはじめ、様々な環境問題が複雑化、深刻化し、環境面からの持続可能性への配慮が大きな課題となる。教育分野においても、持続可能な社会の構築に向けた教育の理念がますます重要となる。
  •  サービス産業化が更に進展する。非正規雇用の増大や成果主義・能力給賃金の導入など雇用の在り方の変化が更に進む中で、個人の職業能力の開発や、再挑戦の可能な社会システムの整備、更には一人一人のワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の確保が一層重要な課題となる。
  •  個々の価値観やライフスタイルの多様化が一層進む。インターネットや携帯電話等を通じたコミュニケーションが更に進む一方で、その影の部分への対応も課題となる。また、ボランティア活動などを通じた社会貢献やコミュニティづくりへの意識が高まり、新たな社会参画が進展する。

(2)今後の教育施策の目指すべき基本的方向

○ 以上のような社会の変化の方向も踏まえ、改正教育基本法の理念の実現に向け、今後概ね10年間を見通して政府が目指すべき教育施策の基本的方向として、以下の4つの柱を提示する。
 なお、教育振興基本計画では、この4つの基本的方向に基づき、今後5年間に政府が目指すべき目標と具体的な取組を示す必要がある。

1.社会全体で教育の向上に取り組む

 教育は、個人により良く生きる力を与えるとともに、社会存立の基盤を形づくるものであり、社会全体の関心事でなければならない。学校・家庭・地域の三者が、それぞれに求められる役割を十分に果たすとともに、社会の変化等も踏まえ、新たな連携協力の仕組みを構築し、一体となって教育に取り組むことにより、より豊かな成果につなげていく必要がある。その際、国、地方公共団体の長、教育委員会による支援が重要である。同時に、教育が、社会との積極的な関わりの中でその要請に応えていくことも求められる。
 あわせて、今後の激しい変化が予想される時代において、一人一人が豊かで充実した人生を実現できるよう、誰もが生涯にわたって学び、愉しみ、その成果を生かして社会貢献や新たな挑戦のできる仕組みづくりを社会全体で進める必要がある。

2.個性を尊重しつつ能力を伸ばし、個人として、社会の一員として生きる基盤を育てる

 幼児教育は、義務教育及びその後の教育の基礎を培うものであり、人格形成上も極めて大きな役割を果たす。
 小学校・中学校段階は、すべての国民に不可欠な義務教育である。一人一人が、それぞれの個性を伸ばし、社会において自立して人生を送るための基礎を培うとともに、国家・社会の形成者としての基本的な資質を養う教育が確実に実施されなければならない。
 また、高等学校段階は、義務教育の成果を更に発展させて、多様な個性を伸長させながら、社会の一員としての自覚と責任感を身に付け、自己を確立していく重要な時期であり、高等教育や職業生活との接続の上でも重要な意義を持っている。
 さらに、特別支援教育においては、障害のある子どもが、その可能性を最大限に伸ばし、自立し、社会参加するために必要な力を培うため、一人一人の教育的ニーズを把握し、適切な教育的支援を行わなければならない。
 これら発達段階等に応じた各学校における教育の一層の充実を通じて、一人一人の学ぶ意欲や学力を向上させるとともに、豊かな心と健やかな体を育成し、今後の変化の激しい時代を主体的に、かつ、幸福に生きるための強固な基盤を養う必要がある。

3.教養の厚みを備えた知性あふれる人間を養成し、社会の発展を支える

 今後の「知識基盤社会」において、高等教育は、個人の人格形成の上でも、社会・経済・文化の発展・振興や国際競争力の確保等の国家戦略の上でも、極めて重要な役割を果たすこととなる。
 こうした社会において、高等教育に対する学習者の様々な需要に的確に対応するためには、大学・短期大学、高等専門学校、専門学校が各学校種ごとにそれぞれの位置付けや期待される役割・機能を十分に踏まえた教育や研究を展開するとともに、競争的環境の中で、個々の学校がその個性・特色を発揮していくことが必要である。
 特に、大学に関しては、教育・研究・社会貢献という使命・役割を踏まえて、個性・特色の明確化を図っていくことが一層重要になる。各大学には、それぞれが自律的に選択した教育理念に基づく教育研究を推進し、豊かな教養と人間性を備え、地域から国際舞台まで幅広い分野においてそれぞれの立場で活躍できる人間を育成することにより、社会の期待に応えることが求められる。

4.安全・安心で質の高い教育環境を整備する

 未来に向かって成長する子どもたちが、安全で質の高い空間で学び、様々な体験をし、生活できるようにすることは、教育の不可欠な前提条件である。学校施設の耐震化をはじめ、安全・安心な教育施設の整備を進める必要がある。同時に、情報化の推進、優れた教材や図書の確保などにより、質の高い充実した教育環境の実現に努める必要がある。
 また、公教育の重要な一翼を担う私立学校の一層の振興を図る必要がある。
 さらに、教育は、個人にとって重要であるのみならず、その成果は社会全体の共通の資産ともなるものである。教育を受けることを望む人が経済的理由によりその希望を断念することなくその能力を伸ばすことができるよう、同時に、社会的な格差を固定させることのないよう、家計の教育費負担の軽減に向けた取組を進める必要がある。

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研究振興局振興企画課学術企画室

(研究振興局振興企画課学術企画室)

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