8 医・歯・薬学分野の研究動向(要旨)

◇当該分野の特徴・特性等

 この分野は人間の生命、健康、疾病を主な対象とし、薬学、基礎医学、臨床医学(内科学、外科学)、歯学、人間医工学、境界医学、社会医学、看護学などの多くの領域を含んでいる。生命科学の一分野であり、応用科学としての側面を持っているが、例えば疾病研究から、生命現象のもっとも根元的な研究も生まれており、幅広い研究分野といえる。生物系科学との融合は勿論のこと、工学との融合による新しい技術開発、人文科学、社会科学との融合による、人間のより内面にせまる研究や社会との接点の研究領域なども進展している。

◇過去10年間の研究動向、今後10年間で進展が見込まれる研究(主要な例)

1) 薬学では、生体分子・機能の解析や有機化学など基礎研究は進んでいるが、創薬に直結した応用研究は少ない現状がある。今後、薬のシーズ、ケミカルバイオロジー、微量生体分析、ヒトを指向した薬理・毒性・動態・薬物輸送インフォマティクス、分子イメージングなど医薬品開発につながる研究・技術開発や医療現場に直結する研究の進展が期待される。
2) 基礎医学では、神経、癌、免疫、再生、ゲノム、細胞内シグナル伝達、トランスポーター、新興・再興感染症などのキーワードを中心とした研究が盛んである。分子レベルの分析的な研究だけでなく生体全体の反応を把握することも重要である。生命科学の多くの領域との連携の構築、臨床応用への橋渡し的な研究も進展する。
3) 臨床医学の内科学では、それぞれの疾病の病態研究、新しい診断法、新しい治療法の研究が盛んに行われている。しかし、欧米に比べていわゆるトレンスレーショナル・リサーチがかなり遅れている。モデル動物での病態を実際のヒトの疾患に応用するための融合的研究の進展が必要であろう。従来、我が国では大規模臨床研究が立ち後れており、日本人の臨床エビデンスの創出の推進が望まれる。細胞移植療法なども重要である。
4) 臨床医学の外科学では、やはり癌が重要なテーマであるが、失われた臓器の回復を目指す移植、再生医療、人工臓器などの研究も重要である。マイクロサージェリー、腹腔鏡下手術などの低侵襲手術も進展が見込まれるテーマである。
5) 歯学では、骨代謝の研究が世界的にも評価が高い。メカニカルストレスの影響、生体との親和性の概念をもつバイオマテリアルの研究も重要である。
6) 人間医工学では、再生医工学、ナノテクノロジー、人工臓器、ドラック・デリバリー・システムなどが進展を見せている。
7) 社会医学では、メタボリックシンドロームとその危険因子の研究が大きく取り上げられつつある。また、リスク評価の為のメカニズム解明には、遺伝子改変動物など他領域との連携が不可欠である。災害看護、性差看護なども進展が見込まれる。

◇推進すべき課題・手法等(主要な例)

1) 本領域全体を通じて、基礎領域の臨床医学への応用、すなわちトランスレーショナル・リサーチや他分野との融合による新しい技術、研究を強力に推進する必要がある。また、ゲノム医学の進展、それに伴う疾病の理解と個別化医療への展開が重要である。
2) 国際的視野に立った研究促進、研究施設の整備、人材育成が必要であり、アジアとの関係の強化も推進すべき課題である。
3) 医学部卒業生の臨床研修必修化、薬学部の6年制などに伴い、医・歯・薬学部の卒業生が研究の現場を離れる傾向にある。これらの学部の卒業生が、本分野で研究者として活躍できる環境づくりが必要である。

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