7 農学分野の研究動向(要旨)

◇当該分野の特徴・特性等

 農学は、生物生産・生産環境等の関わりや人間社会との関わりを基盤とする総合科学であり、その学問的構成要素は生命科学、生物資源科学、環境科学、生活科学、社会科学等多様な分科・細目を抱えている。学問的には、人の生命・生活を支え作物・家畜・魚類等食料に供する食糧生物、森林生物、有用微生物およびそれらの環境要素である土壌、水文、大気など主にフィールドに依拠する応用生物学である。

◇過去10年間の研究動向と現在の研究状況等(主要な例)

 農学研究は、過剰米問題等の顕在化を契機にして、殆どの食料品目について収量性から品質重視への転換に対応する形で変容してきた。しかし、世界的には、近年増大し続ける地球人口に見合う安定的収量増が至上命題で、第2の「緑の革命」の必要性が叫ばれ、生物生産の質・量両面からの研究推進が重要である。一方では、農学研究は地球温暖化抑制、環境調和という一層困難な命題も抱えており、再生可能な生物生産と環境保全という対極的課題解決に向けた研究に取り組んでいる。

1) 農業生物諸分野で、遺伝子単離、遺伝子組み換え生物(GMO)や体細胞クローン動物作出に関する遺伝子工学的技術開発研究が精力的に展開され、作物・家畜・魚介類・有用微生物で大きな成果を上げている。
2) 1960年代にわが国の遺伝資源利用による「緑の革命」達成を主導した半矮性・耐肥性イネ遺伝子が近年特定され、第2の緑の革命へ示唆を与えている。
3) 強酸性、析出塩、水不足、低・高温など異常環境に対するストレス耐性植物が作出され、農業生物改変の新技術並びに環境修復技術開発への飛躍が期待される。
4) 魚介類生産における大海洋中の微量鉄の役割や日本ウナギの産卵場所の特定と回遊経路など解決までに長時間を要する課題が解明された。
5) 脂肪酸発酵による高度飽和脂肪酸の微生物工学生産技術が開発された。
6) 性フェロモンや抵抗性誘導農薬等生態系と調和した環境に優しい薬剤が開発された。
7) BSE、鳥インフルエンザの病原機構の解明とその診断法が確立された。
8) 後継農業者に夢を与える省力・軽労化農業技術が開発され、実用化に向けて展開中。

◇今後10年間で進展が見込まれる研究・推進すべき研究等(主要な例)

1) 生物生産と環境保全とを両立させてグローバル問題を解決する新たな農学的視点の確立と推進。
2) 地域と地球の環境保全に資する地域資源管理に関わる研究。
3) 食の安全や医療を含む健康・快適性に関する研究およびリスクマネージメント研究。
4) 微生物・動植物・環境の相互作用に関する圃場生態的、化学生態的研究の推進。
5) ゲノム情報、動物幹細胞技術、遺伝子組み換え技術の農業生物への有効利用研究。
6) 持続的低投入型生産法および地球温暖化ガスの生物生態学的抑制法に関する研究。
7) バイオマスエネルギー、バイオナノファイバーコンポジットの開発研究

◇諸課題と推進手法等

1) 農学研究成果には、ボトムアップ型の小規模な研究費によって達成されたものが多いことを踏まえ、多様な個人的発想に基づいた裾野の広い研究推進が必要である。
2) 農学研究に深く関わる大規模計算機システム、高感度極微量物質検出同定装置、遺伝子組み換え魚の閉鎖系・開放系実験設備などの特別施設・機器の整備。
3) 多細胞生物を扱うことが多い農学生命科学分野では、ポストゲノム研究とマイクロダイセクション法との融合が不可欠。
4) 分析機器維持等特殊技能者の育成、科学ジャーナリスト、科学弁理士などの人材育成。
5) 応用生物学研究における学際的協力と国際協力の推進、およびそのための体制整備。
6) 現在我が国のGMO研究が隔離温室レベルに留まっていることに鑑み、その打開に向けた国民の合意形成への強力な取り組みが求められている。

 

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