1 人文学分野の研究動向(要旨)

◇当該分野の特徴・特性等

 人文学は、人間の思考と行動並びに人間の集団が構成する社会の価値観と行動のスタンスを通時的・共時的視点から分析し、人間、社会、世界についての認識を深め、人間の精神生活の基盤を築くことを目標とする。人文学の研究対象である言語、文化、社会、歴史は、多かれ少なかれ意味や価値を判断・認識する主体(人間)の要素を含んでいる。そのため、人文学は非科学的と見られることがあるが、社会の通念や時代の常識をも批判的に考察するという点で優れて科学的な側面も持っている。
 人文学に効用や数値目標を求めることは適切ではない。人文学は、経済活動など、効用や数値目標が求められる人間の諸活動をも考察する立場にあるからである。
 ボーダーレスの時代に国際的に活躍するには、自らの文化的アイデンティティーを確認し異なる文化を正確に理解することが極めて重要である。その意味で、自国と世界各地の言語、文化、社会、歴史を研究対象とする人文学の使命はかつてなく大きい。

◇過去10年間の研究動向と現在の研究状況(主要な例)

1) 分野の如何を問わず、研究の多様化と細分化、閉鎖化傾向が進行している。
2) 時代に関しては、地道な古代研究よりとっつきやすい近現代の研究が増えている。
3) 「応用」や「臨床」を冠する研究や、情報メディア関係の研究、ケアの倫理学などが新たに登場し、基礎学から応用学への移行が人文学にも見られる。
4) 言語学等では理系を含む他の諸科学との学際的研究が見られる。
5) デジタル技術の普及により文献資料の電子化が進んでおり、コンピュータを駆使した研究業績が増えている。

◇今後10年間で特に進展が見込まれる研究、推進すべき研究(主要な例)

・今後推進すべき研究テーマとしては以下のものがある。これらのテーマは、人文学の細分化、閉鎖性を打破する点でも大きな意義がある。
1) 心に関する総合研究
2) 言語学と脳科学との連携
3) 人類共生、地球の持続可能性
4) グローバル化に関する研究
5) 一国史的な歴史研究の見直し。比較文明研究と文化交流史的研究
6) 文化財科学、博物館学の促進

・研究手法等については以下の点が期待されている。
1) 文献資料の電子化ならびに出土遺物のデータベース化の進捗
2) 海外研究者との連携強化(人文学の国際化)
3) 分野横断的・学際的研究の促進
4) 地理学等でのGISの活用
5) 考古学での文化財情報の集積と管理、年代測定法の改善
6) 民俗学での民俗資料の文化資源化

◇諸課題と推進手法等(主要な例)

1) 研究分野が西洋に偏しているため、世界を巨視的に考察する環境が整っていない。組織内部の自発的な研究体制(講座等)の再編成が期待しにくいだけに、改善への道は極めて険しいと見られる。
2) 古典研究は、長期の訓練を要し直ちに目に見えた成果が挙がりにくいため敬遠される傾向がある。古典研究と現代研究の均衡ある発展が望ましい。
3) 研究者の国際的発信力を高める必要がある。
4) 大学院の数が増え進学が以前より容易になったため、就職先のない大学院修了者が急増し、問題が深刻化している。
5) 人文学の特性を考慮した研究と人材育成の支援体制の整備が求められる。

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