資料7 科学官へのアンケート結果
科学技術・学術審議会
学術分科会(第18回)
平成18年1月20日
平成17年10月から11月にかけて科学官に対して「今後の我が国における学術研究の推進のため、国として検討すべき課題について」アンケート調査を行い、意見を聴取した。
主な意見は次のとおり。
1.基盤的研究費の確保
○ 基盤的研究費の確保
- 競争的資金の間接経費を利用すれば、大学における運営費交付金のうちの共通経費部分を削減できるのではないか。この削減分を基盤的研究費の充実にあててはどうか。そのためには、すべての競争的資金に間接経費30パーセントをつけるべきである。
- 近年、競争的資金のみに頼らざるを得ない状況になり、研究者全体として流行の研究テーマあるいは短期間で成果の出易いテーマに流れる傾向にある。研究者の自由な発想に基づく学術研究の展開が阻害されるおそれがあり、このような意味で基盤的経費を確実に措置していかなければならない。
- 科学研究費に代表されるボトムアップ型予算を増加させる方策
- 概算要求や大型研究費の学内順位付けの長所と問題点の議論
- 学問研究の中には、競争的資金の確保にとらわれることなく、中長期的に落ち着いた研究を行い、かつその成果は短期的には表面に現れないか直接に社会に還元されないが、一国の文化基盤の形成や発展にきわめて重要な役割を果たす分野がある。人文社会科学の多くはそうした性格を本質的に担っている。そのような分野においては、安定した基盤研究費の確保が競争的資金の確保にもまして重要である。
- 現在の科研費補助金等の資金は単年度予算を原則とし、また費目の使用もきわめて厳格である。近年になってこうした点は徐々に改善されつつあるが、それでもなお現実の利用については困難を感じる点が少なくない。
2.大規模プロジェクトの推進
○ ポストCOE
- 国際競争力のある研究教育拠点、異なる研究分野の交流、融合分野・新領域の推進など、今後の重点施策としてポストCOEを採り上げてはどうか。
○ 法人化後の国立大学等における大型プロジェクトの推進方策
- 数年で100億円規模の学術プロジェクトに関して大学は法人化後、推進する方策を失っており、良いプロジェクトがあるにもかかわらず実績あるグループが世界から取り残される可能性、優秀な頭脳の流出などの危険性がある。特別ファンド、超大型科研費創設の検討などを行うことによる、大型プロジェクト(大型科研費では経費的に達成不可能な規模のプロジェクト)推進方策を検討することが必要。
○ 国際的な大型研究プロジェクトの推進
- 学術的国際プロジェクトについては、欧米諸国と比して計画立案場面での、文部科学省の存在がまだ充分ではないため、積極的な関与と意見表明が必要。
- 国際分業が必要となるような大型研究プロジェクトを我が国に誘致する仕組みについて、わが国としての方針を企画・立案する仕組みについて検討。
3.研究環境・基盤の整備
○ 施設設備の整備
- 大学等の老朽化施設の緊急な改修、建築、寮建設、外国人宿舎などの整備
- 昨今、施設整備の補正予算も組まれなくなり、さらに当初予算でも減額される中、新規の施設整備が非常に困難になっており、迅速な改修事業も難しいという状況となっている。アジアの近隣諸国と比較しても施設が劣悪化しており、抜本的な対策が必要。
- 施設整備に関するグランドデザインの立案と推進
○ 大学等の事務体制の強化
- 事務系スタッフの質が研究の推進(特に新しい研究企画の立案、その実行体制の組織化等)に極めて大きく影響する。事務手続や施設関連業務など、研究者は不得手である。大学の事務スタッフの充実と事務体制の強化が課題である。
- 国立大学は法人化してから事務上の責任が直接に大学に降りてくるため、事務手続きが従来よりも複雑で重いものとなっている傾向が見られる。これは、法人化しても国の縛りがなお厳しく残っていることに問題があり、民間の経営手法の取入れをより容易にするように、法人化後の事務手続きの改善を可能にするような支援策を考える必要がある。
〔その他〕
○ 国際ジャーナルの発行
○ 学会サポート体制
○ 文部科学省の縦割り的行政の改革
○ アーカイブの充実と公開
- 大学などがもつ「知的ストック」について、編集、翻訳、解説など適宜施して、広く(学融合の推進のため、社会との結合のため)利用に供する。(項目4、5にも関連)
4.個別の学問分野に適した振興方策
○ 人文社会科学の振興方策
- 人文社会科学と自然科学はその研究の手法や形態、成果、影響等様々な側面で相違がある。これまで科学研究費補助金等の競争的資金は双方を共通の基準や手法で評価、配分してきたが、これを学問の性質に合せて行うことを検討するべき時期に来ている。拙速な改革は慎むべきであるが、人社・自然両分野を含めて十分に検討することが必要。
- 現在人文社会科学の振興については2つのラインが走っている(JSPSおよび地域研究)が、こうした振興事業は長期的に実施されなければ、効果が持続しない。人文社会科学の振興の中には、知の組み換えや若手養成、国際化なども含まれており、こうした問題は3~5年という中期の単発的な施策では十分ではない。10~20年を見通して、世代レベルで知の再構築を試みなければ、これまでの人文社会科学研究の短所は改まらないであろう。もちろん、従来からの研究すべてが問題であるわけではない。これまでの研究の重要性を再評価し、新たな人文社会科学の展開を計画していくことは、常に必要な事項。
5.学際的・学融合的研究分野等の推進
○ 学際的・学融合的研究の推進
- 自然科学と人文・社会科学の融合分野において、真に実りある研究が達成できていない。とくに、環境問題、都市―地域間の問題についての振興が期待され、その際、必要とされる現場への理解や野外研究に十分な配慮をした研究の推進を若い世代に定着させるべき。
- 自然科学と人文・社会科学の境界領域には、膨大な研究分野があるが、環境保護と開発、資源の分配、利害調整、地域とグローバルの関係性など、大づかみで物事を捉える分野の研究とその振興。
- 文理融合の研究プロジェクトの推進
○ 基礎学の振興
- 研究および教育の現場は基礎学力の著しい低下に直面している。新規性や即効性が強調される一方で、論考の深さ、周到さ、明解さへの関心が減退し、学の軽薄化が起こりつつある。厚みのある学をめざすには、多様化の一方で「共通項」となる基礎学(数学や哲学など)の衰退を防ぐことが不可欠。基礎学と研究前線を結ぶネットワークの構想(項目1と関連)
- いわゆる「教養学」の復権:基礎的、融合的学問の発展にはその教育から必須。全国で消滅していった「教養学部」の在り方も含めて。
○ 多様性をもつ学問の進化を促すために
- 既成の枠組みに捉われない新しい学問が生みだされ発展するためには、いわゆる「戦略的」な考え方だけではなく、「コミュニケーション的」な活動を支援する必要がある。例えば「評価」ということをとってみても、効果や効率という数値で計られるファクターとは異なる視点が必要であり、新しい学問の価値はコミュニケーションの場において現前するものである。(項目5、7に関連)
6.研究成果の社会還元
○ 研究成果の社会還元
- 国民のための科学研究という視点も重要。災害、鉄道事故など、とくにここ1~2年顕著な社会問題に通底するのは、日常的な場で科学や学術研究が人間の身体、安全性などと直結する形で現れることであり、科学が真にインターフェイス的な役割を果たすための方策の推進が極めて重要。ただし、役にたつことだけを優先するような短絡を避けることに留意。
7.人材養成・人事
〔若手研究者の養成・確保〕
○ 若手研究者の海外での研究機会の確保
- 若手研究者が海外の機関でまとまった期間、研究に専念する機会を持ち得るための海外派遣へのサポート体制
○ 助教に対する総合的な支援
- 若手研究者が多数着任する助教を支援するため、研究施設、スペース、研究費などの面で彼らをサポートする体制の整備
○ 研究者のロードマップの提示と若手研究者の育成
○ 外国人留学生、外国人PDへの支援の充実
- 海外からの優秀な留学生の受入れを促進するとともに、外国人PDに対する支援を拡充することにより、日本での学位取得後も研究に従事できる可能性を高め、その結果、我が国の大学における教育研究体制を世界に開かれたものとする。
〔大学院教育の充実〕
○ 産業界にとって魅力ある大学院教育
- 世界大学ランキングから見ても、我が国の大学に対する(海外を含めた)産業界からの評価が低い。産業界から見た魅力ある大学(院)という視点からの人材養成プログラムを充実させるための方策を検討することが必要。
○ 大学院学生の研究活動に対する支援
- 運営費交付金、研究補助金、その他さまざまな競争的資金を用いて、(指導教官の研究活動補助という形態でなく)独立したミッションを大学院学生に自主的に遂行させることを可能にする制度設計
〔研究者の人事〕
○ 研究者人事一般
- 人事をいかに活性化するか、定年制度をどうするか、研究職の給与体系の見直しなどの人事制度改革
○ 任期制
- 若手研究者の観点から、任期付きの任用について、5年以上の雇用、または、5年を超えての再任が問題ないのかどうかについて、厚労省と協議の上での適切なガイドラインの作成
8.科学技術リテラシーの向上
○ 初等中等教育での科学教育
- 科学する態度や探究心はたいへん重要な課題。その際、特に、国が優先的に進める分野、国際競争力でキャッチアップする分野だけに限定されてはならない。初等・中等教育における、根本の教育分野のてこ入れがないと、学術研究の推進を実りあるものとしがたいのではないか。
○ 科学コミュニケーションの推進体制の構築
9.その他
○「評価」のあり方について
- いわゆる点数主義を超えた真の評価とは何かを丁寧かつ真摯に議論する必要がある。国際的なモデルとなるような評価文化を醸成できるか否かが、我が国の学術研究が存在感をもつための必要条件である。
- 評価が重要であることは当然だが、最近の状況は評価のための評価的な側面が見える。評価システムを適切な形で運営しなければ、研究の遂行よりも評価に時間と労力を取られてしまい、十分に余裕のある研究ができない状況が増している。
○ 大学等研究機関間の連携
- 理化学研究所あるいは色々な研究所と大学の協力関係の緊密化