3.領域を推進するにあたっての考え方

(1)基本的考え方

(ア)ミレニアムプロジェクトの成果を基に、基礎科学のピーク研究を組織する。
(イ)システム的理解をめざすゲノム研究ではデータの量と質が共に決定的に重要であり、このためにはシーケンシングや多型タイピングなどの中核センター機能をもち、これと個別研究の有機的な研究体制を作ることが必須である。そのようにしてはじめて大学研究室連合としての特定領域研究が機能することが可能となる。
(ウ)学際的なアプローチが必須であることから、班員の交流が促進できるよう有機的な全体運営をおこなうとともに、異分野の研究者の参加を積極的に促す。
(エ)ゲノム研究の健全な発展のために社会との接点に関する活動を重視する。

(2)研究領域・研究体制概要

 「2.今後の体制に向けての考え方」の「(1)研究目標・研究内容と今後の方向性」で指摘した3本の柱と基盤情報の体系的な取得とデータベース化に対応した計4領域で構成することが適切である。

領域1:生命システム情報
 「ゲノム機能解析とインフォマティックスを駆使した生命システムの解明」
領域2:比較ゲノム
 「比較ゲノム解析による進化・多様性のゲノム基盤の解明」
領域3:応用ゲノム
 「ゲノム情報にもとづく医学、微生物学の新展開」
領域4:基盤ゲノム
 「生命のシステム的理解に向けたゲノム研究推進のための総合的基盤構築」

(3)研究期間

 準備研究後、5年間とする

(4)各領域の内容

1.領域1:生命システム情報
 「ゲノム機能解析とインフォマティックスを駆使した生命システムの解明」

 本領域の目的は、体系的なゲノム機能解析と先端的インフォマティクス技術とを駆使して、細胞システム・多細胞生物システムの解明を行うことにある。この目的を遂行するために必要な情報解析技術を開発するとともに、データ取得技術の開発も併せて行う。細胞システム・多細胞生物システムの計算機モデル化と理論化とを積極的に進めて、また、実験科学と情報科学とのより緊密な融合研究を推進し、システムバイオロジーの深化を図る。
 本領域の推進に当たっては、高木利久(東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)を領域代表者として、次の項目を設定する。

総括班

  • 全4領域の有機的運営のための活動
  • 若手研究者支援、異分野との交流
  • 大規模ソフトウェア開発支援、大規模計測機器開発支援
  • 全体広報活動

研究項目1:ゲノム機能解析に基づく細胞システムの解明

(研究課題)
  • 徹底的な遺伝子機能の解析(トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析、表現型解析、相互作用解析など)
  • オーミックデータの統合化と相互作用・パスウェイ・ネットワークの同定
  • 細胞システムのモデル化、理論構築
  • 細胞のコンピュータシミュレーション

研究項目2:ゲノム機能解析に基づく多細胞生物システムの解明

(研究課題)
  • 体系的ゲノム機能解析による線虫、ショウジョウバエ、小型魚類、シロイヌナズナ等の基軸モデル生物の発生プログラムの解析
  • コンソミック系統を用いたマウス高次生体機能のゲノム基盤解明
  • 発生システムのモデル化、理論構築
  • 発生のコンピュータシミュレーション

研究項目3:ゲノム機能に関する知識の利用技術

(研究課題)
  • 生命現象・生命機能を記述したテキストの解析とゲノム機能予測への応用
  • 論文からの機能および概念の抽出・要約・表現・比較とオントロジー自動構築
  • オントロジーの統合技術

研究項目4:パスウェイ・ネットワークの解析技術

(研究課題)
  • パスウェイ・ネットワ-クの表現、検索、比較、統合
  • 特徴抽出、自己組織化、進化
  • パスウェイ・ネットワークからの機能予測
  • 大規模シミュレーション技術

研究項目5:生命システム解明のためのデータ取得及び技術開発

(研究課題)
  • 定量的なデータ計測技術(インタラクトーム、プロテオーム、メタボローム)
  • 細胞および分子動態の観測技術
  • 上記データの取得および解析のための情報技術

2.領域2:比較ゲノム
 「比較ゲノム解析による進化・多様性のゲノム基盤の解明」

 本領域は、進化や多様化の点で重要な位置にある動物・植物・微生物についてゲノム配列解析や発現解析などを体系的に行い、進化・多様化のゲノム構造上の原因を明らかにすることを目的とする。このために、それぞれの生物種の研究段階に応じて、研究コミュニティと連携してゲノム配列解析を計画的に進めると共に、大規模ゲノム配列比較のための技術開発や、理論研究を推進する。また、霊長類ゲノムの特定領域の配列解析やゲノム発現解析を推進し、ヒトゲノムとの比較解析からヒトへの進化のゲノム基盤の解明をめざす。さらに、比較ゲノム解析によるゲノム機能・発生システムの多様化のメカニズム解明について先端的研究をおこなう。また、長期的な展望のもとに環境適応や寄生・共生などゲノムの相互作用の観点からの研究開拓をおこなう。
 本領域の推進に当たっては、藤山秋佐夫(国立情報学研究所学術研究情報研究系教授)を領域代表者として、次の項目を設定する。

総括班

  • 比較ゲノム解析委員会
  • 進化・多様性ゲノム研究委員会
  • 微生物ゲノム多様性解析委員会

研究項目1:比較ゲノム解析による進化プロセスの解明

(研究課題)
  • 比較ゲノム解析による脊椎動物起源の研究
  • 比較ゲノム解析による多細胞生物起源の研究

研究項目2:ヒトへの進化のゲノム基盤解明

(研究課題)
  • 霊長類の特定領域の比較ゲノム解析
  • 霊長類の比較トランスクリプトーム解析

研究項目3:基軸モデル動物・植物の近縁種ゲノムの解析によるシステム比較

(研究課題)
  • モデル生物近縁種の比較ゲノム解析による発生システム多様化メカニズムの解明
  • モデル生物近縁種の比較ゲノム解析による生体機能システム多様化メカニズムの解明
  • モデル生物近縁種の比較ゲノム解析による進化メカニズムの解明

研究項目4:生物相互作用のゲノム基盤の解明

(研究課題)
  • 微生物、植物におけるゲノム比較による多様化メカニズムの研究
  • 寄生・共生・相互作用システムのゲノム基盤の解明

研究項目5:比較ゲノム解析推進のための情報技術開発及び理論研究

(研究課題)
  • 大規模ゲノム比較解析技術
  • ゲノム進化理論、進化・多様性解析技術

3.領域3:応用ゲノム
 「ゲノム情報にもとづく医学、微生物学の新展開」

 本領域は、社会的要求の高い医学的課題とゲノム解析の進展が特に著しい微生物における応用的課題について、ゲノム情報とゲノム研究の手法を駆使して得られた成果を、機動的に社会に還元することを目的とする。具体的には、単因子・多因子疾患の中から焦点を絞って原因遺伝子の探査を進め、疾患の遺伝的要因をあきらかにし、疾患の機序の理解を推進するとともに、臨床データとゲノム情報を統合し、疾患のシステム的理解と医療への応用を目指す。有用物質生産・環境問題等の解決を目指した微生物ゲノム情報の有効活用、微生物の病原性解明等について、ゲノム情報を基盤とした研究を展開する。なお、本領域の対象は、今後ゲノム解析の進展に応じて植物など他の分野へも拡がる可能性を持っている。また、現代の社会に大きなインパクトを与えつつあり、将来さらに影響が大きくなるであろうゲノム科学と社会との関わり方について研究を展開する。
 本領域の推進に当たっては、辻省次(東京大学大学院医学系研究科教授)を領域代表者として、次の項目を設定する。

柱1:ゲノム医学

研究項目1:ゲノム情報を基盤とした疾患遺伝子の探索・検証と医療への応用
(研究課題)
  • 疾患遺伝子の探査
  • 疾患の病態機序の解明
  • ゲノム医療に向けた技術開発
研究項目2:臨床データとゲノム情報の統合を基礎とした疾患のシステム的理解と医療への応用
(研究課題)
  • 医療情報の収集と臨床統合データベースの構築
  • 医療への応用を目指した知識発見
  • 病態のシステム的理解と疾患シミュレータの構築

柱2:ゲノム微生物学

研究項目3:ゲノム情報に基づく微生物の有効活用
(研究課題)
  • 有用物質生産のための遺伝子システムの解明
  • 環境浄化のための遺伝子システムの解明
  • 微生物ゲノム育種、パスウェイ工学
研究項目4:ゲノム解析による微生物病原性の解明
(研究課題)
  • 微生物病原性のゲノム基盤
  • 病原性の多様化・進化機構の解明
  • 新たな診断・予防法の開発

柱3:社会との接点に関係する研究と活動

研究項目5:ゲノム研究と社会との接点に関係する研究と活動
(研究課題)
  • ゲノム科学の普及と理解についての研究
  • ゲノム解析に関わる医学研究と生命倫理の問題についての研究

4.領域4:基盤ゲノム
 「生命のシステム的理解に向けたゲノム研究推進のための総合的基盤構築」

 本領域は、これまでの特定領域研究等によって整備された施設・設備を有効活用し、シーケンシングやヒト多型タイピングなどゲノム研究に必須のデータ取得について量的な面と質的な面から貢献し、基盤を構築する。このために国内の関連機関との十分な連携をとる。また、生命のシステム的理解に向けたデータ収集とデータベース構築をおこなう。
 本領域の推進に当たっては、小原雄治(国立遺伝学研究所生物遺伝資源情報総合センター教授)を領域代表者として、次の項目を設定する。

総括班及び計画研究で組織する。

研究項目:体系的網羅的データの取得・解析とデータベース構築及び技術開発

(ア)大量DNAシーケンシングによるゲノム解析
 比較ゲノム解析などのためのゲノムシーケンシングを集中的におこない、配列解析とそのための技術開発をおこなう

(イ)トランスクリプトーム解析
 ヒトをふくめ脊椎動物を中心に、わが国が最も得意とする完全長cDNA・トランスクリプトーム解析をおこない、生命システム情報及び比較ゲノム領域と連携する。このための技術開発も並行する。

(ウ)ヒト多型タイピング
 応用ゲノム領域を中心に本特定領域の研究課題についてマイクロサテライト、SNPを用いた多型解析を集中的におこない、疾患遺伝子探査を行う。このための技術開発も併せておこなう。

(エ)高度データベース構築:
 本特定領域で取得されるデータのデータベース化をおこなう。
 生命・生物システム理解、疾患理解に向けてのデータ収集とデータベース化をおこなう。

(5)関連領域との関係

  • ミレニアムプロジェクトとしての成果をもとに、それぞれの研究コミュニティによる独自の特定領域や他プロジェクトの設立が予想される。これらとは引き続き連携を進める。
  • ライフサイエンス全体の発展に資するために、がん、脳、免疫などの領域との連携を進める。
  • 大規模データ収集・処理については国内機関との連携を進める。そのための連絡会議の場を作り、本特定領域研究が国内ゲノム研究の中核となる。
  • 科研費基盤研究「ゲノム科学」分野で進められる研究との連携の方策を検討する。

お問合せ先

研究振興局振興企画課学術企画室

(研究振興局振興企画課学術企画室)