2.改革のための具体的方策 1.競争的な研究開発環境を実現するための制度的枠組みの構築

≪現状≫

○ 各競争的研究資金制度において、研究者間・研究機関間の競争促進の観点から、研究費から研究従事者(ポストドクター、大学院生、技術者等)の人件費の支給、間接経費の支給・拡充といった取り組みに着手している。
しかし、

-研究従事者の任用について、雇用の対象、賃金等に制限があり、研究従事者の雇用に係る資金は競争的研究資金全体の約4%に過ぎない。

-間接経費比率も低い水準(主要大学で5~7%程度)である。

-国公立大学の研究者の現在の給与・人事システムは、競争的研究資金の獲得を業績として直接反映する仕組みとなっていない。

○ 米国では、競争的研究資金に研究者本人の人件費が計上され、研究機関の適切な管理の下、研究者の給与と表裏一体をなすものとして位置付けられている。間接経費も機関毎に異なるが、その比率は40~60%と研究機関にとってもインセンティブとなっている。

○ 我が国の私立大学は、科学技術振興の面で大きなポテンシャルを有するが、国立大学と比べ、施設設備が自助努力によるところが大きい(一方、配分実績は、国立大学が全体の60%に対し、私立大学は12%と5分の1)。

○ 個人補助制度を中心に競争的研究資金に係る不適切経理問題が発生し、制度に対する社会的信頼が損なわれかねない状況にある。現在、競争的研究資金全体の6割以上の資金が個人補助制度(注1)となっているが、個人補助制度の場合、当該補助金の管理責任は、当該補助金の交付対象者である研究者個人(科学研究費補助金の場合は研究者の所属する研究機関の長である個人)が負うこととなっている(注2)。

(注1) そもそも予算制度として、国立大学や国立試験研究機関といった国の機関に、国から補助金が出せない。このため、間接経費についても、現行個人補助制度の場合には、一旦個人に交付された後、個人から機関に移し替えている。大学が法人化された後は、直接経費、間接経費を問わず、国から補助金を受け取ることができるようになる。
(注2) 現在、研究者個人が経理を機関に委任している場合でも、制度との関係で最終責任を負うのはあくまで、当該補助金が交付された研究者個人である。

○ 大学等の研究機関は、所属研究者の研究業務に対するエフォート(研究、教育、管理運営等の業務に従事する時間配分)や研究費の経理状況について十分に管理できていない。

○ 競争的研究資金の配分先を見ると、我が国では、大学が78%(国立大学が60%)、民間企業は5%弱であるが、一方、米国では、大学が71%、民間企業が8%(2001年度実績)となっている。また、米国の国立衛生研究所(NIH)、国立科学財団(NSF)では、原則、大学、民間企業等の研究者の所属を問わずできるだけ多くの研究者に応募資格を与えているのに対し、日本の場合は、予算ベースで全体の5割を超える部分に民間の研究者が応募できない状況にある。

≪具体的方策≫

(1)競争的研究資金獲得に対するインセンティブの向上

(研究従事者の任用)

○ 研究代表者の裁量で研究チームを構成する研究従事者を選任し、研究費から研究従事者の給与を配分できるようにすることを基本とする。この観点から、研究従事者の人件費の直接経費への計上に係る制限を緩和し、拡充を図るとともに、研究代表者の責任と権限で、研究実施に必要かつ適切な研究従事者の範囲や雇用形態を決定できるようにすべきである。

○ この観点から、各制度においては、研究従事者の雇用に対する自由度を高める一方、研究機関は、研究従事者の任用は研究機関の責任において行い、国内外の優秀な人材を確保し得るようフレキシブルな労働条件、給与規定を整備する。

(研究者本人の給与)

○ 国立大学の法人への移行後においては、その自主的な判断により、競争的研究資金の獲得及びその研究開発成果等の業績が適切に給与や人事に反映するシステムを導入すべきである。その中で、競争的研究資金における研究者本人の人件費の計上及び給与への反映のあり方を検討する。(6.(1)参照)

(間接経費の拡充)

○ 間接経費の拡充は研究機関の研究環境やマネジメント体制の整備に不可欠であるとともに、資金を獲得できる研究者の価値を高め、競争促進を図る観点からも極めて重要である。

○ 当面、第一段階の目標として、第2期科学技術基本計画で定められている、間接経費比率30%を実現すべく、全ての競争的研究資金制度で引続き努力する。全ての制度が、いずれの研究機関に対しても間接経費を配分する。

○ なお、間接経費比率は、本来、研究機関の実態を反映し、機関毎に異なるものであることを踏まえ、例えば、国公私を通じた個々の大学における施設整備等の公的支援の程度をも反映した間接経費比率を検討する必要がある。

(2)研究機関による適切なマネジメント体制の構築

(資金の提供形態)

○ 本来、研究機関に所属する研究者がその業務の一環として行う研究業務においては、それに係る研究費は、研究機関が責任をもって管理すべきであり、研究者個人に管理責任を負わせるべきではない。このため、これまでの個人補助制度を改善し、これを研究者の所属する機関が、配分機関に対し、補助金の交付申請を行い、交付を受け、直接に責任を負って補助金を管理する制度とする。

○ この際、当然ながら、現在同様、個々の研究者の発案に基づき作成された研究計画に対して審査・採択を行うものであり、当該計画の申請に際しては、研究課題毎に研究代表者、研究分担者、研究実施体制、研究経費等が明確に特定される必要がある。また、交付に際しては、当該研究以外の用途への使用は行えない旨を条件として課す一方、研究課題毎の直接経費における費目間振替等の弾力的運用を確保する。

○ なお、国立試験研究機関の研究者等に対しては、引き続き制度の対象となるよう弾力的な制度運用を図る。

(研究機関による研究者のエフォート管理)

○ 競争的研究資金の増加、産学連携事業の拡充が進展することを踏まえ、大学等研究機関は研究者のエフォートを管理し、研究者が当該研究課題に割く時間と研究場所を確保できるよう措置する。
 また、各競争的研究資金制度においては、申請書への研究者のエフォート記載を早期に徹底する(なお、課題採択後、研究計画の見直し・査定に応じて、エフォートを変更し得る。)。

(間接経費の活用)

○ 研究機関は間接経費を活用して、研究資金の申請及び管理に係る事務体制の強化等の競争的研究資金の適切なマネジメント体制の整備を図る。

(3)研究者の一層の競争促進による研究の質の向上

○ 我が国の競争的研究資金制度は、大別すれば、研究者の自由な発想に基づく研究の推進を目的とするもの(例えば科学研究費補助金)と特定の政策目的達成のための公募型の研究開発に分類できる。これら多様な競争的研究資金の拡充を図り、制度間の競争をも通じた一層の競争の促進を図っていくことが必要である。

○ 研究者の自由な発想に基づく研究の推進を目的とする制度については、本来、研究者の所属(大学、公的研究機関、民間企業等)如何にかかわらず、研究内容自体が評価されるべきものであり、それぞれの制度の目的を踏まえ、できるだけ多くの研究者がその所属を問わず応募できることにより、我が国の研究者全体の競争の一層の促進、ひいては研究の質の向上に資するよう、制度の見直しを図る。

○ その際、我が国の場合、大学のみならず、民間企業の研究者がノーベル賞(あるいはノーベル賞級)受賞対象となるような研究を行い、学術研究の発展にも大いに貢献してきていること、産学官連携、大学発ベンチャー等、産学の協調と競争という新しい流れが出てきていることを考慮し、新しい環境変化に対応した制度設計を検討すべきである。

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研究振興局振興企画課学術企画室

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