(大学の機能)
・大学には学術を担い社会をリードしていく責務があり,国や社会との間に密接な信頼関係を維持しつつ,同時に適切な緊張関係を保つことが必要である。また,高い文化的雰囲気の中で若い学生たちに大いなる夢を与え,「単に理解する学生」ではなく,「自ら考え,新たな知を生み出す意欲に満ちた学生」を育成することが,大学の最も大切な機能である。
・大学等から社会に知が流れるのと同時に,社会から大学等にも知が貫流されなければならない。根源的な課題を追求すべきである大学に対して,社会から問いかけがなされなければ,大学が新しい科学的な知識の創造や発見へのインセンティブを創出する力を衰退させることにつながりかねない。
・大学の社会への貢献の観点からも,ニーズプル型の研究,社会の側(がわ)の受容の視座からの研究の更なる推進が必要である。
・大学の教育研究も,新たな科学的知識の創造のみならず,異分野の研究成果を組み合わせるなどのシステム的アプローチが必要である。学術的価値創造と社会的価値創造との橋渡しが必要である。
・文系の研究が,分野横断的な教養教育や日本国民の教養の積み上げにおいてこれまで果たしてきた機能をふまえれば,大学において,新たなグローバル時代に対応した教養形成を促進していくことが必要。
(研究現場の状況)
・大学においては,新しい研究プロジェクトへの応募のための準備や,評価や報告書の作成により,どんどん研究する時間がなくなっている。
・我が国の工学分野の研究の中には,多様化する傾向が見られず,世界の研究変化・トレンドと乖離(かいり)が進んでいると指摘されている分野もある。
・研究者は,世界的にみても,トレーニング期間を経てセレクトされ,鍛えられ,優れた者が次世代を担う独立研究者としてポストを得る仕組みになっている。しかし,非正規雇用者の正規雇用の義務化(改正労働契約法)によって,若手研究者の育成スキームの根幹を揺るがしかねない変化が起こりつつある。現在,博士課程に進学する大学院生の数が極めて少なくなっており,研究を支える人の数と質が明らかに低下している。
(諸外国の研究支援)
・海外の研究者は,サバティカルを大切にしている。我が国においても,国内の研究者がサバティカルを利用して研究の質を高めることへの支援や,サバティカル中の海外研究者が日本に来て,共同研究につなげていけるような環境を整備することが必要。
・世界の研究動向では,国際共著論文が非常に増加している。また,国際共著論文は引用度が高くなる傾向にある。ヨーロッパでは,FP7により国際共同研究を進めており,国際共著論文が多い。
・ドイツでは,エリート・ユニバーシティ支援として,特定の大学へ資源を集中している。
・中国は,国策で特定の機関に重点投資をしたり,論文を1本書けば給料を上げるなどの政策を講じている。
・米国における生物系の研究には,政府からだけでなく様々な投資があり,寄附制度と民間投資が充実している。
(研究力の評価の在り方)
・「社会を変革するエンジン」として大学に必要な改革について,一定の分析の上に立った検討が必要。その際,単に論文数の増加というだけではない評価を検討することも重要。
・論文数の増加よりも世界に与えるインパクトの向上を目指すべき。論文の数だけで評価を行った英国では,文系の弱体化が起こっている。
・日本の研究者数はドイツ・フランス・英国より多いのに,論文数はそれほど変わらない。研究者一人当たりの論文数などを検証して,対策を考えることが大事。
・研究・教育について行きすぎた目標管理や成果主義が導入されれば,自主性・独立性が失われ,結果的には「角を矯めて牛を殺す」状況となる危険性がある。
・査読制度に基づいた客観的な評価を基本としながら,それだけでは評価できない成果を拾っていく仕掛けを設計する必要がある。
(競争力のある研究の加速化促進のための研究環境整備)
・ビッグサイエンスではないネットワーク型の研究については,まだ大型研究計画としての資本集中の在り方が未成熟である。規模の大小ではなくて学術的な価値の議論に成熟していく必要がある。また,法人の長(ちょう)の裁量は限定的であり,高いレベルの研究を維持するためには,研究分野や領域の変化に柔軟に対応できる支援体制の整備が必要である。
・研究者の研究時間をいかに増加・確保するかが重要であり,書類作成等の事務負担や講義負担等の在り方についての検討も必要。
・特に大型プロジェクト研究の運営に当たっては,中心となる部局の教員や事務局に大きな負担がかかるため,プロジェクト支援のためのリサーチ・アドミニストレーターなど,学内支援体制の確立が必要。
・研究資源が限られる中,水準の高い研究を維持するためには,国際水準の研究体制・環境整備による人材確保の促進が必要。また,国際的に優れた人材を集めるには,教員の処遇の在り方をも含めて考える必要がある。
・国際的な研究力を上げるために,研究開発型の独立行政法人において行われている取組も参考にする必要がある。
(研究の潜在力を伸ばす研究環境整備)
・短期的に成果が求められる政策主導型の競争的研究のみならず,研究大学こそ知の拠点として,基礎・基盤研究に継続的・長期的に取り組み,その研究の厚みを備えるような研究環境を構築し,マネジメントしていくことが必要。
・若手研究者に適切なアドバイスと評価を与えて激励するシステムが必要である。定年間近の教員が,知識や経験を生かして,現役の教員を助け,研究教育の危機的な状況を支える仕組みが必要。
・女性研究者の積極的参画がなければ,日本は世界から大きく引き離されるばかりとなる可能性がある。女性研究者が専任スタッフとして採用され,またマネジメント参画がなされているのか,現状を共有することも重要である。アメリカのアイビーリーグでは8大学中5大学の学長が女性であるが,日本の大学は女性が意志決定に参画することが少ない。
・分野間連携による新しい学問領域の活性化が必要である。また,大学から大学共同利用機関への人材流動性を高め知の循環を活性化することも重要である。
・博士課程進学者の量と質をあげるためには,博士課程授業料の無償化,国や地方自治体,企業におけるPh.D取得人材の積極的雇用を行うことが必要。あわせて,子どもの頃から,文系理系の枠組みにとらわれずに,論理的かつ定量的に考え,実証に基づいて自分なりに結論を導くという科学的な考え方を身につけさせることが極めて重要になる。
・大学が研究力を上げるために必要な若い人材を自国で育てることも重要であり,そのためには,大学からもっと初等中等教育はこう変わってほしいということを発信していくことが必要。
(研究の国際化の推進)
・優れた研究を日本からもっと発信することが大事。日本の先生の下で,最先端の研究をしたいと思わせるような研究室,拠点を増やすことがグローバル化につながる。
・人文学・社会科学分野では,ローカルなテーマでも普遍的な問題を共通言語で発信すれば,世界的に重要な研究になりうる。日本で特に研究が進んでいる分野を戦略的に国際化していくことで,日本が世界でイニシアチブを取っていくことができるので,世界規模の査読制度に参加することが必要である。
・論文の被引用件数を増やして世界における存在感を高めるためには,研究者が世界の研究者ネットワークに入ることが必要である。また,留学の奨励など国際ネットワークに参加する道筋の活性化が必要である。
(研究マネジメントの在り方等)
・大学内の各部局の自主性を尊重することと,リーダーシップの強化は必ずしも相反する考えではない。大学組織は,各部局がそれぞれに独自性を保持しつつ緩やかに結合している組織連合体であり,緩やかな結合がうまく機能することは,大学の学術推進や教育の多様性を維持する上で重要である。しかし,このようなマネジメントの形態は,急激な環境変化に組織全体が迅速かつ柔軟に対応するためには必ずしも有効とはいえない。マネジメント体制の改革は組織全体の課題であって,それには組織構成員の参加を促すリーダーシップが重要な役割を果たす。
・日本の大学には,技術研究者が少ない。研究成果の創出のためには,技術研究者という人材の確保が重要。
・大学の研究力を強化するために,例えば,新しい分野を創設することや新しい人材を登用することなどが考えられるが,その際,従来から継続されてきたものも含めて,どのように取捨選択を行うべきかについての議論が必要。
・大学はベンチャー育成,特許数の増加など,産学官連携において基盤的な力を発揮していることを強調すべき。
・共同研究講座など,学外の知を学内に呼び込むオープンイノベーションのような積極的な仕掛けづくりが研究及び実践的な人材育成の観点からも必要。
・大学が応えるべきニーズの増加に対して,学術研究からはどれくらいの成果を出すのかというような,もう一歩,広い分析が必要ではないか。
(大学の研究力強化策に対する支援の在り方)
・教育・研究が活発な研究者ほどアドミニストレーションの負担も大きくなる傾向があるので,研究力を強化するための改善の方向性をしっかりと示す必要がある。
・数大学が世界級の研究をやっているというだけでは不十分であり,分厚い層を育てていく必要がある。
・大学のあるべき姿を考えたときに,基盤的な多様性はキープしなければいけないが,その中で日本の強みを発揮していくためには,「量より質」を追求すべき。膨大なコストがかかる量勝負の土俵は,日本が得意かといわれると甚だ疑問。
・特化した分野においては日本の大学は強い。それを把握した上で,全体を見て政策を考える必要がある。
・課題への対応と自由な発想の中間段階にある研究で,成果の使われ方に大きな可能性があるものを支援する競争的資金が必要である。
・大学間での研究費の過度な傾斜配分や特定化した拠点の形成について議論もあるので,根本的な改革を考えてみるいい時期ではないか。
・国際共同研究に戦略的に取り組む大学間連携を促進することも必要である。
・大学への様々な支援策があるが,全体の鳥瞰(ちょうかん)図を整理することが必要ではないか。
(研究支援の在り方)
・テクニシャンと呼ばれる研究支援者の雇用と流動性の確保を同時に可能にするような仕組みを早急に検討すべきである。
・優れた研究者は,集中する仕事に耐えなければなければならず,研究が激しくなるとつぶれてしまう。博士を取得した人たちが高度な専門研究支援人材になるような取組を積極的に進めていく必要がある。このような高度な専門研究支援人材は給与を含め処遇を研究者と同等にすることが必須である。
・運用に習熟した研究支援者を永続的に雇用し,大学や研究所の研究者の共同利用に供するシステムを作ることが重要である。
(ファンディングの在り方)
・科学は,新たなパラダイムの変遷を繰り返しながら非連続的に進化するものであり,一見役に立たない研究こそが新しいパラダイムを生み出してきた。そういう経験を無視して,特定の部分に政策的に選択・集中すれば良いと考えるのは,非常に危険な側面がある。
・文系においては,文化に根差したちゃんとした研究ができることが非常に重要。先端研究の重要性はわかるが,成長する可能性の芽を摘まないような施策も必要。
・小規模でもいいので,国際共著論文を増加させるためのインセンティブを与えるファンディングが必要。
・30~40歳代の若手・中堅層をサポートする自由度の高い研究費が重要。
・イノベーションは様々な分野が融合して起きる。科研費の分科・細目表が,従来の学問のくくりで改訂されれば,それに沿った審査がなされてしまうので,融合研究を促進するためには,分野横断的なファンディング・スキームが必要。
・研究の継続について,次のプロポーザルにつながるかどうかの評価を厳しくしたコンペティティブ・リニューアルという考え方がある。優れた研究が中期的なタームでの継続になるように,次に向けたインセンティブと厳しい評価による包括的なファンディング・スキームを検討することも重要。
・既存の研究枠組みの境界に位置する分野横断型研究を促進することが必要。
(その他研究関連施策の在り方)
・新たな施策のみならず,施策を育てる視点が重要。これまでの施策の中で優れたものは,更に補強してもっと良い施策にする。あるいは改善によって大きな発展が期待される施策は育てる。目新しい施策が次から次へと現れるだけでは,現場が混乱をきたすのみである。
・日本の次世代の核となる産業を生み出すためには,企業も大学も相応のリスクをとり,代わりに利益を十分に享受できるような仕組みが必要である。
・大学院への投資など大型研究資金を出すことも必要だが,足腰を鍛える教育をしっかりやっておく必要がある。運営費交付金の確保が重要。
・共同研究の促進や効果的・効率的な設備整備の観点から,大学内におけるコアファシリティーの共同整備・利用システムの構築を促していく必要がある。
・学術研究の国際化の中で,個人レベルでできることに限界がある施策もある。(ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムでは,国レベルでの方向性を議論しなければ進まない部分がある。)科学技術外交という概念を基本にして,理系の研究者個人だけではなく,社会科学,人文科学の研究者や,政府関係者が協働して取り組む国際事業を推進してほしい。
・社会的要請に合致した制度・政策設計の研究プロジェクトに対する戦略的な資金投下の仕組みが必要である。その際,産・学はもちろんだが,既存の政府データベースを利用した官・学の共同プロジェクトも考えられる。
・国際的な研究動向や大学の現状等を分析し,研究支援の政策決定や評価・分析ツールの開発などにかかるシンクタンク機能の強化が必要。
・我が国全体の科学技術力を強化するためには,教養教育の再構築をしてリーダーを育成していくことが重要。
研究振興局振興企画課学術企画室
-- 登録:平成25年01月 --