これまでの学術分科会における主な意見

1.学術政策の基本的方向性

【意義、必要性について】

  • 科学研究費補助金は、自由な発想に基づく研究を支援し、そこで生まれた発想が研究の多様性を生み、重層的な知的ストックを形成して、イノベーションにつながっている。同様に、学術は自主的・自律的を謳っているが、なぜ自主的・自律的であることが政策的に重要なのかを伝える必要がある。
  • 日本には資源がなく、科学技術立国であることの必要性を国民も分かっているはず。研究は長い目で見なければならないことを、国民に改めてアピールすべき。省全体、政府全体で考えることが必要。

【現状と課題】

  • 研究者が疲弊していて、若い人が研究者になろうと思わなくなってきている。研究支援体制の充実のみならず、無駄を省き、研究者が限られた研究費と時間を少しでも効率的に使える環境を整備することが必要。
  • 日本の研究は成熟し、世界から評価されていることを認識し、どう国際貢献していくかを研究者が率先して考えていくことが重要。

【検討に当たっての留意点】

  • 高等教育や学術研究が国の原動力となることを分科会や研究者コミュニティが提言していくことが重要。今後の方向性を議論するに当たっては、学問の自由や大学の自治といった理念をしっかりおさえた上で、なぜ大学が重要なのかをしっかり議論すべき。新しい価値観や概念を生み出すという大学のミッションこそが国の発展につながるという骨太の議論が必要。
  • 各大学は個別の取組はよくやっているが、それををマクロ的に見たとき、10年後に自信を持てる状況にはない。「1.学術政策の基本的方向性」の「今後の社会を見通した学術研究 の在り方」を「今後の社会を見通した学術研究・教育・社会貢献の在り方」に修正し、10年後に世界に伍していくために、マクロの視点で検討すべき。
  • 大学は、研究のタイムスパンが長いことが特徴。真理・原理原則の探究といった看板を掲げることを第一とした上で、その次に、社会貢献を考えるべき。この点について、国民の理解を得ることは重要。今の成長戦略は10年後の目標を掲げているが、それは今までの大学の蓄積によるもの。大学の役割は、今後の成長戦略のための材料を提供することではないか。これだけでも十分な社会貢献である。
  • 学術振興を本気で考えるのであれば、守りの視点だけでなく、世界トップレベルを目指すなど、夢のある攻めの議論をすべき。
  • 個々の課題は互いに結びついているので、キーとなる課題を拾い上げ、階層化を図るべき。なぜできないのか、その原因もあわせて考えるべき。

【人材育成の推進の在り方について】

  • 日本の若者全体の意欲が減退しているのであれば、日本全体の意識改革をしなければならない。若者を支援するだけではなく、熱意と使命感、切迫感を持ってもらえるよう、若者を鼓舞する施策が必要。
  • 人材育成、頭脳循環、社会貢献という観点で学術のあり方を考えるのは、非常によい。ただ、人材育成のお金が、生きたお金となっていないのではないか。米国やフランスでは、企業関係活動・就職や企業で研究する機会の増大などに使われ、社会で生きたお金になっている。そのメカニズムを日本にも取り入れるべき。

【頭脳循環の推進の在り方について】

  • 頭脳循環は非常に重要な問題。送り出しと受け入れをセットにして考えることが必要。数値目標の設定や大学の機能別分化と関連づけるなど、積極的な推進が必要。
  • ヨーロッパやアジアは、大学というよりは研究者や学生の交流などを通じて、国と国がつながっている。大学を固定的なものとしてその間の競争を考えるよりは、国と国、大学間のネットワークをつなげ、連携を強化することを考えるべき。

【社会貢献の在り方について】

  • 社会貢献又は国としての政策的な課題や施策に学術としての考え方を示すなどして、研究者として責任を果たさなくてはならない。
  • 一部の優秀な人のみを選抜して大学教育を行うより、多くの人に大学教育を与える方が、長期的に見ると効率的なのではないか。研究資金の問題においても同様で、必ずしも、最先端研究を支援することばかりが重要ではなく、幅広く水を撒くことが結果として実を結ぶことも多いのではないか。
  • 社会貢献については、成果発信と、現実の社会が抱える個別の学問分野では解決できない問題に学融合で取り組むという2つの観点から議論すべき。

【グローバル化の在り方について】

  • グローバル化については、「戦略的」に進めることが重要。グローバル化によって我が国や我が国の大学が享受するメリットを議論した上で、グローバル化の戦略を示すことが必要。
  • 教育のグローバル化といった場合、国際化と標準化の2つがあり、標準化については、高いレベルの国には不満が生じるケースが多いので、しっかりとした全体の質保証が必要。欧州の「エラスムス・ムンドゥス」等の取組を精査し、日本としてどのように取り組むべきか検討することが必要。また、教育と研究は一体であるという基本的な方針に立ち返って検討すべき。
  • 制度を変えていく際には、国際的に、どのようなモデルの選択肢があり、どのような成果をあげているのかを検証することが必要。
  • 日本の少子化を考えれば、人材の育成と獲得が必要。学術研究を担う優秀な人材の育成のみならず、海外から獲得することや、育成した人材を海外に流出させず日本に定着させることも重要。

2.学術研究を推進するための大学等の在り方

【大学教育の在り方について】

  • 保護者の経済力にかかわらず、優秀な人材が高度な教育を受けられるようなシステムを検討すべき。
  • 大学院教育については、良い教授についた学生だけが伸びるというのではなく、学科単位での質保証ができる仕組みにシフトする必要がある。
  • 専門性を高めるためにも、大学院教育に哲学的要素を組み込むべき。
  • 専門・実務教育が優先されがちで、基本的な教養教育が不十分な状況にある。教養教育の在り方を検討すべき。
  • 教育・研究体制の充実の観点から、高等教育機関の分類が必要かどうか、議論が必要ではないか。
  • 日本がこれまでうまくやってきたのは、皆が中流で、再挑戦できる社会だったからである。大学を研究とそれ以外で分けてしまうのは良くない。研究が盛んなところをいくつか選び集中して支援するのはいいが、それ以外は教育研究全体を支えるべき。

【研究システム全体の活性化について】

  • 大学や大学共同利用機関に加え、研究開発独法や省庁間連携も審議の対象にすべきではないか。
  • 産業界との連携も重要。学術、科学技術の世界に産業界も入って来れるような仕組みを検討してもいいのではないか。

3.学術研究の振興方策

【総論】

  • 振興方策を議論することは重要。その際、過去の施策の評価をきちんと行った上で検討すべき。
  • 理想は重要であるが、財政状況が厳しいという現実が変わらない中では、国民の信頼・支持が前提であり重要。振興方策についても、積極的に推進すべきこととそうでないことのメリハリをつける必要がある。
  • 学術研究はスパンが長いので、きちんと完走させる覚悟で施策を考えなくては推進できない。5年間ということで研究プロジェクトをスタートしたのに、いきなり予算を10%削減ということがあっては話にならない。
  • 学術政策を推進する際に、全体のレベルアップを目指すのか、ピークを形成しているところを引っ張り上げるのか、どういった人を対象に支援するのかをきちんと分けた上で考える必要がある。

【学術研究への財政支援の在り方について】

  • 学術に関する予算が減っていることが問題。国際的な指標にも予算の減少が影響しているのではないか。基盤的経費を増やすべき。
  • 大学の基盤的経費について、各大学の機能に合わせた予算配分も考えていかなければならない。

【大学等における研究基盤の充実】

  • 施設・設備の老朽化は本当に厳しく、現状のままではもう一段階厳しいフェーズになるということをアピールすべき。

【人文・社会科学の振興について】

  • 人文・社会科学については、社会や他分野(特に自然科学)の研究者からどういった要請があるのかをきちんと把握することが必要。
  • 人文・社会科学については、自然科学との融合という観点も重要。
  • 転換期にある現在、最先端研究ばかりでなく、学術研究と社会の関わりをきちんと考えるべき。その際、根底にある人文・社会科学について議論することが重要。
  • 分野ごとの異種性が本質に関わっているところもあり、学術の推進というポリシーにおいて、大きな齟齬を生むこともある。人文・社会科学と理工・生物の各分野を、1つのフレームワークでどこまであてはめられるかを考えておく必要がある。特に、哲学・史学・文学は、多くの場合、社会の支配的な価値観に対して、改善に向けたある種の批判や洞察を提供することで評価される。
  • 人文・社会科学は、数値評価やピアレビューの仕組みの中でどう評価するか、容易ではない面がある。
  • 新しい価値観を作り上げることに学問の本質があるということを発信すべき。自然科学分野においても、人文・社会科学で生まれてくる思想や手法が大事。
  • 人文学では、標準はすでにでき上がっている。共通基盤の向上も大事だが、そこに新たなものを加えることに意味があり、研究でそれが認められる仕組みや突出した部分を押し上げる仕組みも大事。
  • 研究の多様性を見る上では、論文数だけでなく、図版や書籍などの出版物も含め、研究成果を重層的に見ることも必要。

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研究振興局振興企画課

-- 登録:平成22年11月 --