資料3 学術研究に関する整理

 学術研究の基本的方向性に係る検討の前提・参考として、過去の分科会等の議論・報告等や各種統計調査等(「参考資料」参照)をもとに整理。

○ 学術研究の意義、必要性

 学術とは、自主的・自律的な研究者の発想と研究意欲を源泉とした知的創造活動とその所産としての知識・方法の体系であり、学問全体を包括的に捉えた概念。

(参考)

  • 「学術」という用語は、明治19年の帝国大学令の制定により大学制度が創設されて以来、学問全体を包括的に捉えた概念として定着しており、教育基本法や学校教育法等の現行法制においても、大学の目的規定等において用いられている。

    ※「参考資料1」1頁参照

  • 学術は、英語にすれば“arts and science”とでも訳すべき言葉であり、西欧古代以来の自由学芸と近代以降に大きな発展を遂げた諸科学を包摂する概念。
  • 学術は、真理の探究という人間の基本的な知的欲求に根ざし、これを自由に追求する自主的・自律的な研究者の発想と研究意欲を源泉とした知的創造活動とその所産としての知識・方法の体系であり、その対象は人間の知的好奇心の及ぶものすべてにわたるもの。

    ※「第4期科学技術基本計画の策定に向けた意見のまとめ」(平成21年11月学術分科会)

 

  1.  学術研究は基礎研究から実用志向の研究まで幅広く含有しており、新たな知の創造と幅広い知の体系化により、科学技術の推進や社会・国家の発展の源泉となるもの
  2.  人々の知的好奇心・探求心を満たし、それ自体、知的・文化的価値や精神生活の構成要素を有するものであり、文化の発展や文明の構築の基盤となるもの
  3.  学術研究に国境はなく、その研究成果は人類共通の知的資産として蓄積され、人類全体への貢献が期待されるもの
  4.  国家存立の基盤として、また国際社会での役割として、国が中心になってその振興に努めるべきもの

(参考)

  • 学術研究の社会的役割は、新たな知の創造と幅広い知の体系化。人類共通の知的資産の創出や重厚な知的蓄積の形成により、1.人間の持つ可能性の拡大、2.新たな価値の創造、3.我が国の国際競争力や文化力の向上を実現。
  • 人類は、学術の探求を通して新しい知を生みだし、それに基づく応用・技術を通じて、今日の社会と文明を構築。今後の科学技術や社会の発展のために求められるイノベーションの創出のためにも、学術研究はその基盤として不可欠。

     ※「第4期科学技術基本計画の策定に向けた意見のまとめ」(平成21年11月学術分科会)

  • 学術研究は、あらゆる学問分野を対象とする個々の研究者の自由な発想と知的好奇心・探求心に根ざした知的創造活動であり、それ自体人々の知的好奇心・探求心を満たし、優れた知的・文化的価値を有する。また、文化芸術の発展・振興にも寄与する、人類の幸福に資する知の体系であり、国の知的・文化的基盤であるとともに、人類共通の知的資産を築くもの。
  • 物質資源に乏しい我が国においては、中長期的な視点に立って、独創的・先端的な学術研究活動により多様な知を創造し、重厚な知的ストックを構築していくことは国家存立の基本であり、経済・社会の力強い発展の源泉となる。

     ※「研究の多様性を支える学術政策」(平成17年10月学術分科会報告)

  • 学術研究は、人文・社会科学から自然科学にまで及ぶ知的創造活動であり、研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として真理の探究を目指すものである。その成果は、人類共通の知的資産を形成するとともに、産業、経済、教育、社会などの諸活動及び制度の基盤となるものであり、また、人間の精神生活の重要な構成要素を形成し、広い意味での文化の発展や文明の構築に大きく貢献するものである。
  • 精神的充足感により重点を置いた新たな価値体系(新しい豊かさ)の構築には、人文・社会科学から自然科学に至る英知を結集することが必要であり、学術研究の貢献が期待される。
  • 学術研究は、基礎研究から産業・経済の発展につながる実用志向の研究まで幅広く包含しており、科学技術の中核をも成している。また、学術研究は、新しい法則や原理の発見、分析や総合の方法論の確立、新しい技術や知識の体系化、先端的な学問領域の開拓などを目指して行われ、その成果は、科学技術の発展の基盤となっている。
  • 学術研究は、社会・国家の存続・発展の基盤となるものであり、未知なるものの探究(知のフロンティアの開拓)は、一国の枠を越えて人類全体への貢献が期待されるものでもあり、国際社会でしかるべき役割を果たす観点からも、国が中心になってその振興に努めるべきものである。

     ※「科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について」(平成11年6月学術審議会答申)

  • 高等教育や学術研究が国の原動力となることを分科会や研究者コミュニティが提言していくことが重要。今後の方向性を議論するに当たっては、学問の自由や大学の自治といった理念をしっかりおさえた上で、なぜ大学が重要なのかをしっかり議論すべき。新しい価値観や概念を生み出すという大学のミッションこそが国の発展につながるという骨太の議論が必要。

     ※学術分科会(9月16日)における委員意見

 

○ 学術研究の特性

(学術研究の特性)

  1.  学術研究は研究者一人一人の知的好奇心を源泉に真理の探究を目的として行われるものであること
  2.  研究者の長期の試行錯誤や多様な探究活動の中から、独創的成果として新しい知が生み出されること
  3.  学術研究は大学等を中心として行われるものであること
  4.  学術研究は切磋琢磨と連携が一体となって成果が得られるものであること

(特性を踏まえた振興の留意事項)

  1.  研究者の自主性と研究の多様性を尊重すべきこと
  2.  人文学・社会科学から自然科学までの学問の全分野にわたる均衡のとれた知的資産の形成・承継が必要であること
  3.  学術研究と教育機能との有機的な連携と総合的な発展が必要であること
  4.  大学間及び大学・大学共同利用機関間の連携による活性化が必要であること(さらに、学術研究体制と課題設定型の研究体制とのそれぞれの役割や特性を踏まえた上での、研究開発法人との相互連携も必要であること)

(参考)

  • 独創的・先端的な研究成果は、研究者が日常的に研究活動を行う中から意図せずして生まれることも多い。

       ※「第4期科学技術基本計画の策定に向けた意見のまとめ」(平成21年11月学術分科会)

  • 学術研究は、1.分野、2.目標、3.段階、4.規模、5.手法等において多様性を有する。

      ※1.人文・社会科学分野、自然科学分野、複合・融合分野                 

       2.未知の知を目指すものから直接社会に貢献するものまで様々              

       3.無限の可能性を持つ芽が育つ萌芽期の段階に始まり、成長期、発展期へと成長      

       4.個人研究の取組と研究者グループ・組織の取組                    

       5.従来の学問分野(discipline)を一つ一つ突き詰めていくものから伝統的な手法を離れたひらめき型のものまで幅広く存在

  • 学術研究においては、どの研究がいつ知の限界を突破するのか、あるいは社会的有用性を持つのか、にわかに判断できないことがむしろ一般的。その当時評価されていなかった研究が、後世非常に高く評価される例は歴史上多数存在。
  • 多様な学術研究は、研究者それぞれの自由な着想と課題設定を基礎として、独創的な計画・方法による研究活動が競い合うところから生まれてくる。
  • 学術政策の基本的な方向性は、1.研究の多様性の促進を図ること、2.個々の研究者の持つ意欲・能力を最大限発揮できるようにすること。
  • 教育と研究を一体として推進している大学等においては、学術研究の発展が現代社会で求められる多様で高度な教育を実現するために不可欠。
  • 学術研究においては、切磋琢磨と連携が一体となってブレークスルーが得られるものであり、大学間及び大学・大学共同利用機関間の連携による活性化が不可欠。

     ※「研究の多様性を支える学術政策」(平成17年10月学術分科会報告)

  • 学術研究は、研究者の試行錯誤の過程を経て知的体系を発展させ、更には新しい学問を創成していく可能性を持っている。また、学術研究の成果は、時を経て格段の進展を見せる場合もあり、研究者の自主性に基づく研究が経済社会の発展につながるような大きな発見・発明を生むこともある。このため、研究者の自主性を尊重することが学術研究推進上の極めて重要な原則として重視される必要がある。
  • 知的資産の形成・承継という重要な役割を果たしている学術研究については、人文・社会科学から自然科学まで含めた各学問分野の総合的でバランスのとれた推進を図る必要がある。
  • 大学等は、そのシステム全体の機能として、学術研究の成果を上げるだけでなく研究と教育を総合的に推進することにより、優れた人材を養成することを使命としている。したがって、研究活動の遂行という側面、それを通じた研究者養成という側面、研究成果を踏まえて行われる大学教育という側面の各機能が、相互に密接な関連の下に十分な発展を見るように配慮されなければならない。

       ※「科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について」(平成11年6月学術審議会答申) 

  • 大学は、研究のタイムスパンが長いことが特徴。真理・原理・原則の探究といった看板を掲げることを第一とした上で、その次に、社会貢献を考えるべき。
  • 学術研究はスパンが長いので、きちんと完走させる覚悟で施策を考えなくては推進できない。
  • 必ずしも、最先端研究を支援することばかりが重要ではなく、幅広く水を撒くことが結果として実を結ぶことも多いのではないか。
  • 大学や大学共同利用機関に加え、研究開発独法や省庁間連携も審議の対象にすべきではないか。

     ※学術分科会(9月16日)における委員意見

 

○ 学術研究を巡る現状と課題

<国際的な研究活動の活性化の中での、我が国の存在感の低下>

 (課題)

  •  中国が頭角を現すなど知の国際競争が激化する中、我が国の学術研究は、国際的な存在感という点で、他の主要国に比べて全体として低落傾向。
  •  海外との共同研究が他の主要国と比べて低調であるなど、学術研究の国際的な協調の取組に課題。

 (現状) 

  • 論文シェアに係る調査分析によれば、「世界の論文の生産への関与度」では、米国を、英日独仏が追いかける状態が1990年代中盤まで続いたが、中国が1990年代後半より急速に論文生産量を増加させ世界第2位(2007~2009年の平均)へ上昇する一方、日本は世界第2位(1997~1999年の平均)から第5位(2007~2009年の平均)へ下降。「世界の論文の生産への貢献度」でも、1990年以降、日本は世界第2位となり約15年間維持していたが、中国に追い越され、世界第3位(2007~2009年の平均)へ下降し、イギリスやドイツとの差も縮まりつつある。

     ※「参考資料1」2頁参照

  • トップ10%論文数(被引用回数が各分野で上位10%に入る論文数)のシェアに係る調査分析においては、「関与度」では、イギリスやドイツは1990年以降急激にシェアを上昇させており、日本に大差をつけている。「貢献度」でも、日本は2000年代に入ると急激にシェアが低下しており、米英独中に次ぐ、世界第5位(2007~2009年の平均)となっている。また、中国は1990年代からトップ10%論文数を大幅に伸ばしてきており、現在、「関与度」「貢献度」ともに日本を上回る世界第4位となっている。

    ※「参考資料1」3頁参照

  • 国内論文と海外共著論文の比較(2009年)においては、いずれの国においても、国内のみの論文に比べて海外との共著論文の方が、トップ10%論文の割合が高く、一論文当たりの被引用回数も多い。しかしながら、日本は海外との共著論文の比率が低く(約26%)、これがイギリス・フランス(約51%)やドイツ(約50%)と比べて論文全体としての被引用回数が低い一つの理由であると捉えられる。

      ※「参考資料1」4、5頁参照

<国際的存在感を発揮するための総体的な学術研究の層の厚み(拠点形成等の必要性)>

(課題)

  •  中国のように我が国よりも圧倒的に人口の多い国が研究活動を活発化していく中で論文生産量のように量的な面でこれに対抗することは困難である一方、我が国では一定程度の論文数を生産する大学が少数に限られるとともに論文数シェアの高い大学の割合も低いなど、総体的な学術研究の層の厚みに脆弱な面がある。
  •  このため、我が国の学術研究が国際的な存在感を保ちながら発展していくためには、多様な研究分野を幅広く支援し重厚な知の蓄積を進めるとともに、世界レベルの研究成果を持続的に発信できる学術研究拠点を形成する取組が必要。

(現状)

  • 我が国では自然科学系の国際的な査読付きジャーナルに掲載される論文を生産する大学は全体の約4割(イギリスは約8割)であり、一定程度の論文数を生産する大学が少数に限られている状況。
  • 我が国では、論文数シェアが5%以上である第1グループが4大学、シェアが1~5%である第2グループが13大学である一方、イギリスでは第1グループが同じ4大学であるのに対し、第2グループは我が国の倍の27大学となっており、大学システム全体の機関数(日本が1100程度、イギリスが170程度)も踏まえると、我が国は論文数シェアの高い大学の割合が低い状況。

    ※「参考資料1」6頁参照

<学術研究の基盤的なシステムの脆弱化>

(課題)

  •  我が国の大学等の研究開発費は他の主要国と比べて伸び悩むとともに、基盤的経費は減少傾向にある。また、基盤的経費の減少により、科研費等の競争的資金が大きな役割を担うようになっている。大学等において多様な学術研究を推進するためには、基盤的経費により研究教育環境が確実に整備するとともに、科研費をはじめとする競争的資金による研究活動への支援への充実を図ることが必要。
  •  大学等における施設・設備や情報基盤等の学術研究基盤が脆弱化しており、学術研究インフラの維持・向上が課題。

(現状)

  • 各国の研究開発投資が増加傾向にある中、我が国の研究開発投資も増加傾向にあるものの、その伸びは急激に増加しているアメリカや中国に及ばない状況にあり、また、我が国の政府の研究開発費の負担割合は諸外国よりも低くなっている。

    ※「参考資料1」7、8頁参照

  • 大学等の研究開発費について、物価を考慮した実質額(2000年基準各国通貨)の年平均成長率を見ると、1990年代より2000年代の方が低くなっている国は、日本、フランス、アメリカであり(ただし、日本の1.28%に対し、アメリカは3.93%と高い数値)、2000年代の成長率の方が高い国は、ドイツ、イギリス、中国、韓国である。特に、中国の成長率(18.1%)の高さが群を抜いている。

    ※「参考資料1」9頁参照

  • 我が国では大学が基礎研究の主な担い手になっているが(我が国の基礎研究費のうち大学部門が占める割合は48.9%)、我が国の研究費における基礎研究費の割合は主要国と比較して低い傾向にある(13.7%で、中国以外の主要国(仏独露米韓)より低い割合)。

    ※「参考資料1」10頁参照

  • 大学の内部使用研究開発費の部門別負担割合を見ると、政府負担分が80%以上を占める国はドイツ、フランスであり、70%程度の国はアメリカ、イギリス、韓国である。一方、日本は約50%となっている。

    ※「参考資料1」11頁参照

  • 我が国の高等教育機関に対する公財政支出の対GDP比はOECD加盟国28ヵ国中27位に止まるとともに、国立大学法人運営費交付金、私立大学等経常費補助金、施設整備費補助金等の学術研究を支える基盤的経費は減少傾向にある。

    ※「参考資料1」12~17頁参照

  • 大学部門における内部使用研究費のうち6割以上は人件費であり、このような固定経費を年度毎に大幅に減少させることは困難である一方で、近年、原材料費は減少傾向で推移していることから、研究に必要な原材料を減らしていかざるを得ない研究者の厳しい状況が推察される。

    ※「参考資料1」18参照

  • 科研費については、近年の新規採択率の状況を見ると、平成8年度までは20%台後半であったが、平成9年度以降は20%台前半でほぼ横ばいとなっており、総合科学技術会議が30%を目安として示す中で、新規採択率の低迷が問題となっている。また、第3期科学技術基本計画等において掲げられている間接経費30%も、すべての種目で実現できていない。

    ※「参考資料1」19、20頁参照

  • 大学における教育研究全般を支える学術情報基盤たる大学図書館においては、電子ジャーナルに係る経費が膨らむ一方で、紙媒体である図書・雑誌等に係る経費を含めた図書館資料費はほぼ横ばいに止まるとともに、図書館運営費は減少傾向にある。

    ※「参考資料1」21、22頁参照

  • 研究施設については、国立大学等の研究施設の中には経年25年以上の老朽施設が約1,532万㎡(保有面積の約58%)存在し、未改修又は一部改修済みの老巧施設は約990万㎡(保有施設の約37%)。また、私立大学の研究施設においても、経年25年以上の老朽施設が約1,756万㎡(保有面積の約42%)存在している。

    ※「参考資料1」23、24頁参照

  • 研究設備については、10年以上経過し、更新時期を迎えている共同利用の設備が約6割(500件以上)ある一方で、計画的な整備・更新や設備の維持・管理が困難になりつつある。

    ※「参考資料1」25頁参照

<研究支援体制の脆弱化>

(課題)

  •  大学等にはその運営や教育研究活動についての厳格な評価が求められているものの、大学等として評価に対応するための体制を構築するのに研究者が携わらざるを得ないのが現状であり、研究に専念できる時間を十分に確保できないなどの課題が指摘されている。
  •  研究者が研究に集中して取り組める時間・環境を確保するためには、研究支援人材の確保や資質向上が必要。さらに、事務支援に加えて、技術的支援や、研究自体に従事して研究者を補佐する研究支援(研究補助者)等、研究支援人材の業務や研究支援体制の多様化・高度化が課題。

(現状)

  • 研究分野を問わず、大学の教授等の職務時間は増加しているが、研究活動の時間の比率が減少している。特に、研究活動の時間に比して、組織運営に関する活動時間が増大している。

    ※「参考資料1」26頁参照

  • 我が国の研究者一人当たりの研究支援者数は、主要国に比べ、低水準となっている。特に、日本の大学部門の研究支援者はドイツ、フランスの約半分程度であり、我が国の他の組織に比べても低水準である。また、日本の大学部門の研究支援者数で増加しているのは「研究事務・その他関係者」であり、「技能者」や「研究補助者」は横ばいに推移している。

    ※「参考資料1」27~29頁参照

<学術研究職の魅力の減少>

(課題)

  •  優秀な学生であっても、キャリアパスが不透明であることに対する不安や、安定的な研究職を得るまでの期間の長さ、大学院へ進学する上での経済的問題等により、大学等での研究に進むことを躊躇する傾向が生じており、キャリアパスの明確化(テニュア・トラック制度の活用・普及等)や経済的支援の充実(フェローシップ等)が課題。                     │
  •  博士号取得者等の高度人材の活用やキャリアパスの形成の観点からも、研究支援人材の業務や研究支援体制の多様化・高度化が課題。
  •  若手研究者の資質向上やキャリア形成のみならず、我が国の学術研究を国際的に通用する水準に保つためにも、大学院生も含め若手研究者の国際的な活躍を促進する環境の整備を行うことが必要。

(現状)

  • 修士課程に入学する者の数は全体的に増加傾向にあるものの、博士課程に入学する者の数は多くの分野において減少傾向にある。 

    ※「参考資料1」30頁参照

  • 博士課程在籍中の経済的支援(給付型のものを指し、返済義務のある奨学金等を含まない)についてみると、博士課程修了者のうち34%が全く支援を受けていない状況。

    ※「参考資料1」31頁参照

  • 年間約16,000人に上る博士課程修了者の状況についてみると、自立と活躍の機会を獲得している者もいる一方で(約1万人が就職する中、約2,300人が大学教員、約2,600人が企業等の研究者)、進学も就職もしない者(死亡・不詳の者を含む)が約5,000人となっている。

    ※「参考資料1」32頁参照

  • ポストドクターは約18,000人に達し、その半数以上が競争的資金等の外部資金により雇用されている状況にある。時間の経過とともに、大学教員をはじめ研究開発関連職にキャリアアップしている一方、修了後5年経過した時点においても依然として一定の者がポストドクターに留まっていたり、非常勤や任期付きといった不安定な状況に置かれたりしている。

    ※「参考資料1」33、34頁参照

  • 各大学等では博士号修了者の増加に比してアカデミックポストにおける新規採用数が伸び悩み、大学教員になる道が狭くなっている。

    ※「参考資料1」35頁参照

  • 我が国においては、博士課程修了直後に海外へ移動する者は少なく、若手研究者の活動が国内に限られがちである一方、博士課程在籍中に国外機関での研究経験を有する者は、修了直後に国外に移動する比率が高い。

    ※「参考資料1」36頁参照

<学術研究における国際化の推進>

(課題)

  •  海外との共同研究が他の主要国と比べて低調であるなど、学術研究の国際的な協調の取組に課題。(再掲)
  •  若手研究者の資質向上やキャリア形成のみならず、我が国の学術研究を国際的に通用する水準に保つためにも、大学院生も含め若手研究者の国際的な活躍を促進する環境の整備を行うことが必要。(再掲)
  •  人材交流(頭脳循環)も含めた、海外との研究協力の推進が課題。特に、各大学等の特色や強みを研究協力の分野や手法に活かすなどの戦略的な取組の推進と、研究ネットワークの強化等の恒常的発展につながる取組の推進が必要。    

(現状・参考)

  • 国内論文と海外共著論文の比較(2009年)においては、いずれの国においても、国内のみの論文に比べて海外との共著論文の方が、トップ10%論文の割合が高く、一論文当たりの被引用回数も多い。しかしながら、日本は海外との共著論文の比率が低く(約26%)、これがイギリス・フランス(約51%)やドイツ(約50%)と比べて論文全体としての被引用回数が低い一つの理由であると捉えられる。(再掲)
  • 我が国においては、博士課程修了直後に海外へ移動する者は少なく、若手研究者の活動が国内に限られがちである一方、博士課程在籍中に国外機関での研究経験を有する者は、修了直後に国外に移動する比率が高い。(再掲)
  • 外国人学生の受入れ数は増加傾向にある一方、海外の大学等に在籍する日本人学生数は減少傾向。特に、米国の大学等に在籍する日本人学生数は急激に落ち込んでいる。

    ※「参考資料1」37、38頁参照

  • 大学間交流協定数は着実に増加しているが、包括的な協定に留まるなどの理由により形骸化している例も見られる。

    ※「参考資料1」39頁参照

  • グローバル化については、「戦略的」に進めることが重要。グローバル化によって我が国や我が国の大学が享受するメリットを議論した上で、グローバル化の戦略を示すことが必要。

     ※学術分科会(9月16日)における委員意見

<学術研究による社会貢献の推進>

(課題)

  •  学術研究による社会貢献として、社会が抱える問題の解決に向けて指針を示すことが重要となっているが、このような課題解決にあたっては、自然科学のみならず人文学や社会科学に至るまで、従来の学問分野の枠を超えた様々な分野の研究者の共同作業が必要。
  •  このため、学問の発展のみならず社会貢献の観点からも、異分野融合型研究や政策課題対応型研究の振興、産学連携の推進が必要。

(参考)

  • 学術研究はその進展につれて専門化・細分化する傾向にあり、社会が抱える複雑な諸問題を一つの分野では扱いきれないことなどから、社会の諸問題の解決に向けた方向性の提示等、学術研究の成果の社会への還元が課題。その時々の社会が抱える問題の解決に向けて指針を示すためには、従来の学問分野の枠を超えた新たな学問分野の構築が欠かせない。こうした挑戦こそが、社会が要請する学術の社会参加の一つのスタイルであり、社会のニーズにこたえる研究となる。

     ※「第4期科学技術基本計画の策定に向けた意見のまとめ」(平成21年11月学術分科会)

  • 人文・社会科学については、社会や他分野(特に自然科学)の研究者からどういった要請があるのかをきちんと把握することが必要。
  • 人文・社会科学については、自然科学との融合という観点も重要。
  • 転換期にある現在、最先端研究ばかりでなく、学術研究と社会の関わりをきちんと考えるべき。その際、根底にある人文・社会科学について議論することが重要。
  • 社会貢献又は国としての政策的な課題や施策に学術としての考え方を示すなどして、研究者として責任を果たさなくてはならない。
  • 産業界との連携も重要。学術、科学技術の世界に産業界も入って来れるような仕組みを検討してもいいのではないか。

     ※学術分科会(9月16日)における委員意見

<学術研究に対する国民の信頼・支持の必要性>

(課題)

  •  学術政策の推進にあたっては、学術研究に対する国民各層の信頼と支持が得られることが基本であり、学術研究に対する国民の理解を高め、社会全体で学術の振興を図ることが必要。
  •  このため、大学・研究者・学協会等の学術コミュニティの自発的・組織的な取組(社会への発信や社会との対話)と、国による関係者の連携促進も含めた支援の充実が課題。

(現状)

  • 「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」(1999年7月1日世界科学会議採択)では、科学者の共同体と政策決定者による一般社会の科学に対する信用と支援の強化等を目指さなければならないとした上で、政府に関係者間のコミュニケーションや相互作用を助長すべき仲介者としての役割を求めるとともに、財政支援における官民両部門の密接な協力(相互補完)、科学の進歩のための政府レベル・非政府レベルでの種々の協力、官民諸部門における科学・技術的能力の強化(官民の相互作用の助長)、科学者共同体と社会の対話の促進等の必要性が宣言されている。

    ※「参考資料2」参照

  • OECDが高校1年段階の生徒を対象に行った調査によれば、我が国は「科学を学ぶことの楽しさ」、「科学的な課題に対応できる自信」、「科学に関わる活動の程度」等に加えて、「科学の身近さ・有用さ」についての意識もOECD平均を大きく下回っている。

    ※「参考資料1」40頁参照

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-- 登録:平成22年11月 --