「中長期的な大学教育の在り方について」-中央教育審議会 諮問- 平成20年9月11日

平成20年9月11日
中央教育審議会
文部科学大臣 鈴木恒夫

-中央教育審議会 諮問- 平成20年9月11日

国内外の状況が急速に変化し、社会構造全体が大きな変革期を迎えている中、大学に対する期待と要請は極めて大きくかつ多様となっている。また、進学率の向上と学生のニーズの多様化、18歳人口の減少、国境を越えた大学の教育活動の進展等により、大学教育全体の在り方について見直すべき状況にある。
 このため、我が国の大学教育の質を保証し、社会から信頼の向上を図るため、大学教育の将来を見据えた中長期的な在り方について、中央教育審議会に諮問した。

諮問事項

1. 社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方について

(1) 社会や学生からの多様なニーズに対応する大学教育の在り方について
(2) 多様なニーズに対応する大学教育を実現するための「学位プログラム」を中心とする大学制度及びその教育の再構成について
(3) 社会的要請の特に高い分野における人材養成について
(4) 多様なニーズに対応する大学教育を実現するための質保証システムの在り方について
(5) 多様なニーズに対応する大学教育を実現するための学生の履修を支援する方策について

2. グローバル化の進展の中での大学教育の在り方について

(1) 大学の国際競争力の向上のための方策について
(2) 大学の評価における国際的な視点の導入と、世界的規模での大学に関する評価活動への対応について
(3) アジア域内等の国際的な学生・教員の流動性向上の促進等について

3. 人口減少期における我が国の大学の全体像について

(1)人口減少期における大学全体の健全な発展の在り方について
(2)大学の機能別分化の促進と大学間のネットワークの構築について
(3)全国レベルと地域レベルのそれぞれの人材養成需要に対応した大学政策の在り方について

(理由)

 我が国を取り巻く国内外の状況が急速に変化し,社会構造全体が大きな変革期を迎えている中,豊かな教養と深い専門性を身につけた人材の育成と,様々な社会的課題の解決への貢献等,大学に対する期待と要請は極めて大きくかつ多様となっている。各大学では,それぞれの教育理念に基づいて,自らの個性・特色を明確化しつつ,教育活動の質の維持・向上に取り組んでいるものの,進学率の向上と学生のニーズの多様化,18歳人口の減少,国境を越えた大学の教育活動の進展といった状況に伴い,個々の大学による対応にとどまらず,大学教育全体の在り方について見直さなければならない状況にある。
 去る7月1日に閣議決定された「教育振興基本計画」は,現下の教育をめぐる課題と社会の変化の動向を踏まえ,「教育立国」の実現に向け,総合的かつ計画的に取り組むべき施策が示されている。その中では,計画期間中である平成20年度から24年度までの「5年間を高等教育の転換と革新に向けた始動期間と位置づけ,中長期的な高等教育の在り方について検討し,結論を得ることが求められる」とされている。
 以上のことから,我が国の大学教育の質を保証し,社会からの信頼の向上を図るため,大学教育の将来を見据えた中長期的な在り方について,国際的・歴史的に確立されてきた大学制度の本質を踏まえつつ,特に,次のような事項を中心に逐次検討していく必要がある。

(1)社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方について
(2)グローバル化の進展の中での大学教育の在り方について
(3)人口減少期における我が国の大学の全体像について

文部科学大臣諮問理由説明

平成20年9月11日

 本格的な知識基盤社会に向かい,国際的な競争が一層激しくなる現在,大学に対する社会からの期待は極めて大きく,社会の様々な分野において活躍できる優秀な人材の育成とともに,大学教育の質の確保と保証が不可欠となっています。
 平成18年に改正された教育基本法において,大学は「学術の中心として,高い教養と専門的能力を培う」とされたことにかんがみ,各大学においては教育機関としての役割を十分に認識し,学生の視点に立った教育を行うことが求められます。
 去る7月1日に閣議決定された「教育振興基本計画」は,教育基本法の理念を実現し,教育再生に道筋をつけるために極めて重要なものです。この計画においては,平成20年度から24年度までの「5年間を高等教育の転換と革新に向けた始動期間と位置づけ,中長期的な高等教育の在り方について検討し,結論を得ることが求められる」とされております。
 中央教育審議会では,平成13年の「今後の高等教育改革の推進方策について」の諮問に基づき,総会,大学分科会等において,多岐の論点を精力的に御審議いただいてまいりましたが,大学教育をめぐっては,その質の保証と社会からの信頼をより一層高めるため,転換と革新のための議論が必要になっていると考えております。
 そこで,先行する議論との関連性を念頭に置きつつ,中長期的な大学教育の在り方について,御検討いただきたく,以下,御審議をお願いしたい事項について若干敷衍(ふえん)して説明させていただきます。

(1)社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方について

 我が国の大学進学率は,近年も上昇を続け,本年度は短大を含めると55.3%に達しており,同年齢の若年人口の過半数が高等教育を受けるという状況となっています。社会人や留学生も含め,様々な背景を備えた学生が入学しており,大学に要求される教育の内容も多様化,細分化しています。
 そのような状況の中で,教育の質を維持しつつ,社会や学生からの多様なニーズに応える大学教育を実現するには,大学教育の在り方自体を見直すことが不可避となっています。
 そこで,具体的には,次の5点について御審議いただきたいと考えております。

 第一に,社会や学生からの多様なニーズに対応する大学教育の在り方についてです。
 大学教育の水準の維持・向上を図りつつ,様々なニーズに適応する大学教育の実現の方策について,学生本位の視点に立った御検討をお願いいたします。

                                      

 第二に,多様なニーズに対応する大学教育を実現するための「学位プログラム」を中心とする大学制度及びその教育の再構成についてです。
 学生本位の視点を重視する観点からは,学生が,卒業後に社会人として必要な教養や専門知識を身につけられるよう,各学位課程における教育が体系的に行われなければなりません。
 平成17年の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」において,「現在,大学は学部・学科や研究科といった組織に着目した整理がなされている。今後は,教育の充実の観点から,学部・大学院を通じて,学士・修士・博士・専門職学位といった学位を与える課程(プログラム)中心の考え方に再整理していく必要がある」との提言をいただいております。
 そこで,国際的・歴史的に確立されてきた大学制度の本質,とりわけその団体性や自律性を踏まえつつ,一人ひとりの学生のニーズに応じた大学教育が提供され,その質保証がよりきめ細かく行われるよう,「学位プログラム」を中心とする仕組みの導入の是非について,人的・物的環境の在り方を含め,御検討をお願いいたします。
 あわせて,近年の情報通信技術の進展を踏まえた通信制と通学制の取扱いなど,大学における多様な現状に合致した制度及び教育の在り方について御検討をお願いいたします。

 第三に,社会的要請の特に高い分野における人材養成についてです。
 医療系人材等の社会的な要請の特に高い分野における教育課程の充実,教育活動の評価,社会との連携等,人材養成の在り方について御検討をお願いいたします。

 第四に,多様なニーズに対応する大学教育を実現するための質保証システムの在り方についてです。
 大学が,社会や学生からの様々なニーズに適切に対応した教育活動を展開するためには,その質を保証する仕組みが不可欠です。学生の達成すべき学習成果の明確化について検討を深めていただくとともに,今後の設置認可,自己点検・評価,認証評価,分野別評価等を通じて,大学教育の質保証システムをどう構築すべきか御検討をお願いいたします。

 第五として,多様なニーズに対応する大学教育を実現するための学生の履修を支援する方策についてです。
 学生のニーズが多様化した状況を踏まえると,大学においては教育の提供のみならず,きめ細かな履修指導や進路相談等の学生支援の取組が一層重要となっており,その具体的方策の御検討をお願いいたします。また,社会人や留学生等の多様な背景を備えた学生への支援や,大学院博士課程学生への教育の在り方や修了者への支援に関し,どのような方策が必要か御検討をお願いいたします。

(2)グローバル化の進展の中での大学教育の在り方について

 グローバル化は,社会経済のあらゆる分野において進展しており,大学教育においても,国際的な競争と協働に関する活発な取組が見られます。国境を越えた大学教育の提供も急速に普及しており,例えば,ヨーロッパでは,「欧州高等教育圏」の構築を通じて,教育の質保証のための共通の枠組みづくりも進みつつあります。
 このような状況の中,我が国の大学の国際化や国際競争力の向上は,極めて重要な課題となっております。
 そこで,具体的には,次の3点について御審議いただきたいと考えております。

 第一に,大学の国際競争力の向上のための方策についてです。
 現在,文部科学省では,2020年(平成32年)の実現を目途とした「留学生30万人計画」を関係省庁と連携して推進しているところです。そうした状況も踏まえ,大学の国際競争力の向上のために,大学における教育・研究,学生支援や環境整備等の機能はどうあるべきか御検討をお願いいたします。また,大学の国際化に係る認証等の支援の在り方等について御検討をお願いいたします。

 第二に,大学の評価における国際的な視点の導入と,世界的規模での大学に関する評価活動への対応についてです。
 大学教育のグローバル化に対応して,大学の評価に関わる様々な仕組みの中に,国際的な視点をどのように取り入れるべきか御検討をお願いいたします。また,OECD(経済協力開発機構)等において,大学に対する様々な評価活動が世界的規模で行われようとしており,そうした取組を受けた,我が国の大学における対応の在り方について御検討をお願いいたします。

 第三に,アジア域内等の国際的な学生・教員の流動性向上の促進等についてです。
 アジア域内等の国際的な学生・教員の流動性をより一層高めるための方策について,また,域内全体の大学教育の質保証に向けた活動の進め方について御検討をお願いいたします。

(3)人口減少期における我が国の大学の全体像について

 先ほども述べたとおり,大学進学率はこれまで上昇傾向にあり,高等学校新規卒業者のうち,大学での学習を希望する層が拡大していると考えられます。しかしながら,少子高齢化の進展により,我が国の人口は減少局面に入りつつあり,このことの大学教育への影響は不可避となっています。
 一方,大学教育に対し,社会人や留学生等からの学習需要や,産業構造の変化に対応し得る様々な人材養成需要・研究開発需要も高まっており,これらへの対応も求められます。
 こうした人口減少などの社会構造の変化や新たな需要を踏まえ,大学教育システムの在り方の見直しが必要であると考えております。
 そこで,具体的には,次の3点について御審議いただきたいと考えております。

 第一に,人口減少期における大学全体の健全な発展の在り方についてです。
 各大学における教育の質の確保等の観点から,今後における大学の果たすべき役割,人口減少期における状況,充足率の状況等を踏まえた我が国の大学の全体像について,その健全な発展に向けた御検討をお願いいたします。

 第二に,大学の機能別分化の促進と大学間のネットワークの構築についてです。
 各大学が,それぞれの地域の事情を踏まえつつ,自らの強みを持つ分野へ取組を集中・強化する機能別分化が徐々に見られます。各大学の自主性を尊重しながら,いかに機能別分化を促進していくかは重要な課題であり,そのための検討が求められます。
 また,機能別分化に当たっては,各大学が連携協力し,それぞれの持っている人的・物的資源を共同利用し,その有効活用を図ることも考えられます。こうした大学間ネットワークの構築は,我が国が全体として高度な教育・研究を進め,全体としての水準を高めていくためにも必要と考えられます。
 そこで,大学の機能別分化と連携協力を促進するための方策について,御検討をお願いいたします。

 第三に,全国レベルと地域レベルのそれぞれの人材養成需要に対応した大学政策の在り方についてです。
 学生の多様な教育サービスへの需要のみならず,国と地域それぞれの人材養成需要に応えることは大学の不可欠の役割です。高度専門職業人等の多岐にわたる分野の職業人,研究者,地域社会に不可欠な分野の人材等,多様な人材が求められる状況において,全国レベルと地域レベルのそれぞれの人材養成需要に対応した大学政策の在り方について御検討をお願いいたします。

 なお,上記の(1)から(3)の方策の検討に関連して,大学教育に係る各種の行財政システムについても御検討をお願いいたします。

 以上,今後の審議に当たり,特に御検討をお願いしたい点について申し上げました。委員の皆様におかれましては,幅広い観点から忌憚のない御意見をいただきますようお願いいたします。
 なお,これらの論点は多岐にわたることから,課題ごとに審議の区切りがついた段階で,逐次,答申・御報告いただくようお願い申し上げます。

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研究振興局振興企画課