学術分科会(第69回) 議事録

1.日時

平成30年8月22日(水曜日)13時00分~15時30分

2.場所

文部科学省東館3階第一講堂

3.出席者

委員

(委員、臨時委員)
西尾分科会長、庄田委員、安西委員、甲斐委員、勝委員、鎌田委員、栗原委員、小長谷委員、五神委員、松本委員、荒川委員、井関委員、井野瀬委員、大島委員、大竹委員、岡部委員、喜連川委員、小林委員、小安委員、里見委員、城山委員、瀧澤委員、永原委員、山本委員
(科学官)
廣野科学官、頼住科学官、苅部科学官、三原科学官、吉江科学官、相澤科学官、長谷部科学官、林科学官

文部科学省

山脇文部科学審議官、磯谷研究振興局長、生川総括審議官、勝野科学技術・学術総括官、千原研究振興局審議官、渡辺振興企画課長、梶山学術研究助成課長、春山学術企画室長、石丸人材政策推進室長、藤川学術企画室長補佐、坪井科学技術・学術政策研究所長、伊神科学技術・学術基盤調査研究室長

4.議事録

【西尾分科会長】  皆さん、こんにちは。定刻となりましたので、ただいまより、第69回科学技術・学術審議会学術分科会を開催いたします。
 皆さん方には御多忙の中、また暑い中御参加いただきましたことに対しまして、心より御礼申し上げます。
 配付資料の確認でございますが、事務局の方、よろしいでしょうか。

【春山学術企画室長】  失礼いたします。配付資料の確認の前に、事務局の方に前回から異動がございましたので、御紹介をさせていただければと思っております。
 まず、文部科学審議官の山脇でございます。

【山脇文部科学審議官】  文部科学審議官に就任しました山脇です。よろしくお願いします。

【西尾分科会長】  どうかよろしくお願いいたします。

【春山学術企画室長】  総括審議官の生川でございます。

【生川総括審議官】  生川でございます。よろしくお願いいたします。

【西尾分科会長】  どうかよろしくお願いいたします。

【春山学術企画室長】  学術研究助成課長、梶山でございます。

【梶山研究振興局学術研究助成課長】  梶山でございます。よろしくお願い申し上げます。

【春山学術企画室長】  それから、最後、私、振興企画課の学術企画室長を拝命している春山と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 配付資料でございますけれども、本日は、例会のとおりタブレットPCの方で御用意させていただいて、ペーパーレス会議という形で実施をさせていただきます。本日の配付資料につきましては、議事次第にあります配付資料一覧のとおりでございまして、全ての資料はタブレットPCの方で御覧いただくようになっています。操作等に御不明な点ありましたら、お近くの職員にお声がけいただければと思います。

【西尾分科会長】  ありがとうございました。
 それでは、議事に入ります。本日の議題につきましては、議事次第に記しております。1番目ですが、学術研究等の最近の動向についてということで、報告を頂きます。
 まず、科学技術・学術審議会人材委員会・中央教育審議会大学分科会大学院部会合同部会で審議されている、我が国の研究力強化に向けた、研究人材の育成・確保に関する論点整理について、事務局より説明をお願いいたします。

【石丸人材政策推進室長】  御説明申し上げます。人材政策課、石丸でございます。
 お手元のタブレットの資料1-2を御覧いただければ幸いでございます。
 ただいま分科会長より御紹介いただきましたが、このたび7月31日に科学技術・学術審議会人材委員会と中央教育審議会大学分科会大学院部会の合同部会におきまして、我が国の研究力強化に向けた研究人材の育成・確保に関する論点整理をお取りまとめいただいたものでございます。この論点整理は、タイトルにございますとおり、昨今の我が国の研究力の低下の指摘を受けまして、研究人材面におきまして、今後取り組むべき研究人材の育成・確保に関する取組の方向性について、若手研究者の育成・確保に焦点を当てまして御提言を頂いたところでございます。
 資料1-2の14ページをおめくりいただければ幸いでございます。本合同部会につきましては、7名の委員の先生方に御審議を賜りました。14ページでございます。人材委員会の主査をお務めいただいてございます宮浦先生に主査をお願いいたしまして、また、中央教育審議会大学分科会の副部会長でございます室伏先生に主査代理をお務めいただきまして、7名の委員の先生方に御審議を頂いたところでございます。
 15ページでございますけれども、本年3月より7月31日まで、6回にわたりまして御審議を頂きました。この間には、理化学研究所、そして国立大学協会からもお話を伺わせていただきました。御協力に感謝申し上げます。
 内容につきましては、初めに研究人材の育成・確保を巡る状況を整理いたしまして、その上で研究人材の育成・確保に向けた今後の取組の方向性について、三つの方向性をお示しいただき、その具体的な取組についてそれぞれ御提言を頂いたところでございます。時間の都合もございますので、ここからは資料1-1をもとに御説明させていただきたく存じます。
 資料1-1でございますけれども、研究人材の育成・確保を巡る状況につきましては、様々な光の当て方によって様々なデータがあるわけでございますが、ここでは大きく四つのグラフを御紹介申し上げてございます。
 1点目は、研究人材の育成・確保を巡る状況といたしまして、博士課程への入学者数・在籍者数というものを挙げてございます。この中では、平成16年をピークといたしまして、博士課程への入学者数というものが約1万8,000人から、平成28年には約1万5,000人まで16.6%減少してきていること。とりわけその中でも、修士課程から進学を頂いてございます一般の学生の方々の人数というものが、平成16年の1万1,000人より、平成28年には6,400人余りということで、40%以上減ってきているという状況を、まず状況として捉えているところでございます。
 また、大学の若手教員の在籍割合でございますけれども、本務教員の数自体は平成元年より平成28年まで、12万人から18万人に増えているわけでございますが、若手教員の数というものは4万2,000人から4万3,000人と横ばいでございまして、その在籍割合というものは35%から23%まで減ってきているという状況がございます。
 その上で、研究人材の育成・確保との関係で注視されるデータといたしまして、Top10%の補正論文数の状況がございます。中国に論文数で抜かれたのはもう御承知のとおりでございますけれども、我が国のTop10%論文数が平成25年時点で4,357であり、これに対しまして、韓国も2,884まで追い上げてきている状況であり、人材育成の面からも対応が求められるのではないかというように考えているところでございます。
 4点目といたしましては、研究エフォートのグラフでございます。総職務時間数に占めます研究時間の割合でございますけれども、2002年の46.5%より、10年間で35%までこの部分が低下してきており、これにつきましても、研究者の育成・確保の観点から、取組が求められるのではないかというような状況をまず把握したところでございます。
 これらに基づきまして、今後の研究人材の育成・確保について三つの方向性をお示しいただきましたので、御紹介申し上げます。
 1点目といたしましては、研究者コミュニティの持続可能性の確保の視点でございます。この点につきましては、博士課程進学者の減少、そして大学における若手教員の採用割合が低下してきているといった状況を踏まえまして、優秀な人材の博士課程への進学を促進していくこと。そして、教員の年齢構成にも留意した上で、若手教員の確保を図っていくこと、このような研究者コミュニティの持続可能性の確保に向けた取組を進めることという方向性を頂いたところでございます。
 また、2点目といたしまして、研究生産性の向上ということで、研究者の研究生産性の向上について御提言を頂きました。論文数に関する我が国の国際的地位が質・量ともに低下してきているという中にありまして、人口減少局面にあって、研究者の数を今後大幅に増やすことが困難であるという状況の中におきましては、世界で活躍できる研究者を戦略的に育成していくことや、若手研究者への研究費の重点配分など、研究者の研究生産性の向上に向けた取組を進めていくことが必要ではないかというような御提言を頂いたところでございます。
 3点目の方向性といたしましては、先ほどの研究者コミュニティの持続可能性の確保と、研究者の研究生産性の向上とも関係しますけれども、若手研究者が優れた研究者として成長できる環境の整備について、そういった視点を御提言いただいたところでございます。この点につきましては、大学における任期ポストの増加、そしてその中にも特に任期が短期間であるものがおられるというような状況。そして、先ほど申し上げました研究エフォートについて減少傾向が見られるといった状況を踏まえまして、一つには、多様な外部資金を活用いたしまして、任期付きポストの任期を一定程度確保していく取組でございますとか、若手研究者の研究時間の確保など、研究者が自立的な環境の中で、安定して研究に取り組めるというような環境を整備していくことが必要であると、こういった御提言を頂いたところでございます。
 具体的な取組について申し上げますと、研究者コミュニティの持続可能性の確保につきましては、一つ目といたしまして、若手研究者の確保と活躍の促進のためにも、人事給与マネジメントシステムの改革を進めていく必要があるということでございます。二つ目といたしましては、女性研究者の活躍促進を図っていくこと。三つ目といたしましては、大学における積極的な組織的なリクルートメント、博士課程学生のリクルート、そしてその進学を促進するためのインセンティブ付与の観点からも、特別研究員でございますとか奨学金といった事業につきまして運用の改善を図っていく、こういったことが求められているところでございます。
 また、研究者の研究生産性の向上につきましては、京都大学における白眉プロジェクトでございますとか、あるいはK-CONNEX事業、そして理研白眉などの取組などを参考にいたしまして、また海外における英国の事例等を参考にいたしまして、世界で活躍できる研究者を戦略的に育成していく取組というのが必要ではないという御提言を頂いたところでございます。
 また、科研費等の研究費の若手研究者への重点配分、さらには研究インフラの整備と若手研究者のアクセスの確保、こういった視点について御提言を頂いたところでございます。
 また、若手研究者が優れた研究者として成長できる環境の整備につきましては、先ほど申しましたけれども、多様な財源の活用によりまして、任期付きポストにあられます若手研究者の任期を一定期間、5年から10年程度確保していく取組を進めていくこと。また、研究者の研究時間を確保するためにも、URAでございますとか、研究支援人材の配置など、研究者の負担軽減に努めていくこと。そして、人口減少局面にある我が国におきまして、博士人材という高度人材を社会で無駄なく活躍していただけるように活用を図っていくという観点からも、民間の知見も活用し、若手研究者が活躍できる環境とのマッチングの促進を図っていくこと、こういった御提言を頂いたところでございます。
 今後、文部科学省におきましては、この御提言を踏まえまして、平成31年度の概算要求でも対応できるものについては対応し、今後取組を進めていきたいと考えているところでございます。
 以上、報告でございます。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。
 次に、科学技術・学術政策研究所より、定点調査2017の概要について報告を頂きます。それでは、科学技術・学術政策研究所から説明をお願いいたします。

【坪井科学技術・学術政策研究所長】  科学技術・学術政策研究所の坪井です。お手元の資料1-3に基づきまして御報告します。
 まず、2ページですけれども、当研究所では、論文数のような定量的なデータに基づく科学技術指標関係の調査・分析に加えまして、産学官の第一線級の研究者や有識者への継続的な意識調査を通じて、科学技術やイノベーションの状況変化を定性的に把握する調査を毎年行っておりまして、これを定点調査と呼んでおります。第5期科学技術基本計画の5年間について、今年は2回目に当たるものということになります。有識者等2,800名ということで、大きく二つのグループに分かれておりますが、これらの方々に六つの質問パートの63問ということで、毎年同じ質問をさせていただいて、その取組の状況を5段階で評価いただき、その変化を見ていくというような調査でございます。
 3ページには、質問させていただいた方々を少し具体的に書いております。分析の際には、これらグループ別の認識の差の分析も可能になっております。
 4ページですけれども、実際に調査を行いましたのは昨年の9月から12月で、回答率は92.3%と非常に高くなっております。また、これらの質問に関連した自由記述や回答理由ということで、これは文章で書いていただいた部分になるわけですけれども、約9,000件、56万字という大変多くの量のコメントを頂いておりまして、これはいろいろなキーワード検索をしたり、回答者の属性別にそれを整理したりということをウェブ上でも自由にできるようになっているものです。そういった形で、いろいろ活用できる情報の基盤を整えているところです。
 5ページのところには、今回の調査の結果を大きくまとめております。一つは大学・公的研究機関の研究活動の基盤に関する危機感が継続しているという点。また、昨年、1年前の調査に比べると、基礎研究の状況に対して不十分という認識が、去年よりも増えてきているという点がございます。また、産学官連携については、大学・公的研究機関の方は比較的取り組んでいるとしている一方、産業界の方はまだ不十分というようなことで、これはほかの質問に比べると、比較的認識のギャップが大きいという特徴が得られているという点などがあります。
 多くの質問に関して、実は評価を上げたという回答者もいますし、下げたという回答者も一定割合存在しますので、平均化してしまうと変化がないというような結論になりがちなところもあるわけですけれども、大学・公的研究機関におけるよい事例なども幾つか出てきているあたりをしっかりピックアップして、評価していくことが重要であろうという点があろうかと思います。
 6ページ以降が、具体的な結果を項目別にまとめているものになります。特に研究環境のところでは、大学・公的研究機関の研究活動の基盤というところで見ると、青印のところが今年、三角の空欄になっているのが去年ということで、去年に比べて下がっているという状況が見てとれます。ただし、回答者を見ていただくと、属性にかなり幅があることが見ていただけると思いますけれども、国立大学の方は厳しいけれども、私立大学の方はそうでもないというような認識の差も見てとれます。こういった形で、それぞれの質問に関して分析できる状態を示しております。
 7ページのところは、基盤的経費の状況に関する設問の結果ですけれども、更に回答者別の属性も含め、評価を上げた方の理由とか、評価を下げた方の理由をそれぞれ文章、この下にあるような例文を示しております。
 8ページのところは、特に研究時間の確保ということに対する結果になりますが、ここは大変厳しい意見が比較的増えてきているという点があろうかと思います。
 9ページのところは、若手研究者に対する取組ということです。ここでは新しい取組に対して、評価を上げた方が一定の割合でいるというところも見てとれるかと思います。
 あと10ページのところは、今回比較的評価が下がった基礎研究関連のところになります。それぞれ御覧いただければと思います。
 その他産学官連携とか幾つか項目がありますけれども、時間の関係で飛ばさせていただいて、19ページのところが全体の取りまとめの中で整理をしているものです。よい変化の兆しもあるけれども、そういったものを導入したくても、人的・資金的リソース不足のため困難というような意見もあるところす。
 また、20ページのところになりますが、やはり大学や公的研究機関に対しては、安定的な支援が求められているという意見が多く出ていると思っております。現場の声がこの調査の結果にいろいろ反映されていて、いろいろ現場のニーズが分かる点も多いわけでございますけれども、一方では、現場の研究者が政策当局者の改革の意図を理解、成果を実感できるようにしていくことも重要ではないかという点があろうかと思っております。
 簡単でございますが、NISTEPの定点調査の御報告でございます。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。
 それでは、これまでの2件の説明に対しまして、御意見や感想などはありませんか。どうぞ。

【小林委員】  よろしいでしょうか。御説明ありがとうございます。若手研究者といいましても、問題は二つありまして、一つは、博士後期課程に来る者が少ないということ、特に修士からです。それから、既に博士課程に入った大学院生をどうするのか。これは二つに分けて考えるべきだと思います。どちらかといいますと、今頂いたいろいろな御提言というのは後者、既に入った人に対してはいいのですが、問題はもっと深刻ではないでしょうか。現実に修士から博士に来ないというところが問題で、この人たちに対してどうするのかということであります。
 そうすると、やはり一番問題なのは奨学金の問題です。修士から博士に来る学生が急に減った時期は、ちょうど奨学金が給付型から貸与型に変わり始めたときと合致するということは、やはり貸与型奨学金から給付型奨学金の割合を増やすことが重要と思います。また、RAやTAでの雇用を増やすことも大切です。アメリカの大学院では、優秀であればRAやTAで雇用されて、それなりの授業料免除プラス生活費ぐらいは支給されますので。それから、DCを増やすことも必要です。そういうところが提言として余り出てこないように思います。
 それから、既に入ってきた学生で、若手の任期付きであれ助教であれば、特に理系では技術系職員が減っており、従来、技術系職員がやっていた仕事を任期付きの助教がやらされているのは適切ではなく、助教の研究時間に少なからぬ影響していることになります。
 更にもう一つ言えることは、例えばこういうことをやることにお金が必要です。文科省の予算がもし限定的であれば、例えば各大学への寄附金をどうするかということになります。アメリカは寄附金が多いのは御存じのとおりですが、大半が個人の寄附金です。法人のアメリカの大学への寄附は、たしか2兆円程度です。これに対して、個人の寄附金が25兆円程度です。やはりこれが所得控除か税額控除かの問題になります。日本も税額控除をやっているということですが、日本の税額控除は事実上、所得控除に近いものです。日本の税額控除は言うまでもなく、個人の所得税から2,000円引いて40%です。ここで40%掛けるということは、寄附をするのはかなり高額所得者ですから、例えば所得税率40%の人にとっては、所得控除と税額控除と同じことになります。もっと問題があるのは、所得税額の25%を限度にしているということです。つまり、形式的には税額控除の制度をとっているけれども、高額所得者にとっては所得控除の方が有利になることも想定されることになっています。
 アメリカの場合、控除限度額は所得の50%(パブリック・チャリティ等への現金の寄附の場合)で、限度額を超えた分についても5年間、繰り越すことができます。だから、最大6年間にわたって控除を受けることができます。こうした諸外国との制度の違いが原因となっていることを考えずに、寄附金を集めようとか寄附しろという方が無理ではないでしょうか。そういう根本的な問題があるのではないでしょうか。

【西尾分科会長】  ありがとうございました。一つ目は、とにかく博士の後期課程に行く学生が少な過ぎます。これは相当危機的な状況でして、学術における先進国では、博士の後期課程の入学者の数が増えています。日本だけが右肩下がりになっています。そういう観点から、もう日本は高学歴社会という国からは外れつつあります。その問題をどうするのかということで、今おっしゃいましたように、給付型の奨学金のことがもう少し検討されてもいいのではないか、と思います。学部学生のことはもちろん重要なのですけれども、大学院レベルのサポートの問題をどうするのかが課題です。
 それから、キャリアパスに対しての夢が、なかなか描けない状況です。大学等においての財政的な逼迫感から、技術職員の数が減り、従来、技術職員がやっておられたようなことを若手の助教レベルの方が行わざるを得ず、研究に集中できないというような状況で夢が描けるのか。じゃあその予算をどうするのかというときに、税制の改革等に関して、もう少し強いメッセージを出してもいいのではないかと考えます。私は、米国のイエール大学の元学長といろいろお話したことがあるのですけれども、驚かれていたのが、大学が持っているエンドーメント、いわゆる基金の額の少なさです。あちらは何兆円オーダー持っているわけです。日本では、大学等に対して寄附をしたとしても、そのメリットが何なのかというところがなかなか見えないわけです。そういうようなことをいろいろ御指摘いただきましたけれども、何かそれに対して、事務局の方から御意見はありませんか。どうぞ。

【石丸人材政策推進室長】  御提言ありがとうございます。まず1点目の博士課程の進学については、危機的状況だということは間違いないかと思ってございます。資料の1-2の本文の方でございますけれども、6ページから7ページにかけまして、今、時間の関係で非常にあっさりと御説明申し上げましたけれども、それなりの分量を割いて取り上げているところでございます。一つには、インセンティブの部分、若しくは先ほどおっしゃっておられたような奨学金の部分というところも貴重な御提言だと思っております。
 まず、今回の合同部会で御提案を頂きました6ページの上から四つ目でございますけれども、まず大学の方でも、これまで博士課程の進学というものを受け身で待っていたというようなところもあるのかもしれませんけれども、そこに対して積極的に、これからは修士課程の学生が博士課程に上がってくるようにリクルートをしていくようなことが必要ではないかと御提言を頂いたところでございます。
 また、奨学金の部分につきましては、多様な財源という形で、その一つ上でございますけれども、外部資金等を活用した経済的支援というようなことについて、今回は触れさせていただいてございます。
 その上で、7ページ目でございますけれども、特別研究員DCの話がございました。また、奨学金、授業料減免という既存の制度があるわけでございますけれども、その決定時期が、もう博士課程学生の就職が民間への就職が決まってしまった時期の10月に内定をするということで、それでは進学に対して学生の意思決定に働きかけができないということで、ここを改善していった方がよいのではないかとの提言を頂きました。私どもでも具体的な改善に向けて打合せ等を始めさせていただいているところでございます。
 2点目のところ、技術職員の部分、あるいはそれを代替するような特任職への御負担というところにつきましては、10ページ目でございますけれども、やはり先生がおっしゃいますように、若手研究者の研究時間を確保していく観点から、極めて重要なところだと思ってございます。これにつきましては、上から4点目でございますけれども、多様な外部資金の活用や学内資源の配分の最適化によるURAや研究支援人材の活用促進などの取組を、この観点から進めていくことが必要だというような御提言を頂いたところでございます。
 先生からございました、寄附金の点については、人材政策を超えた大きな話でございますので、今回の論点整理では取り扱っていないところでございます。以上でございます。

【西尾分科会長】  ありがとうございました。

【小林委員】  よろしいですか。私、全部の資料を昨日、目を通して全てのページを読みました。やはり抽象的で、具体的なところが少し欠けているのではないのかと感じました。奨学金は確かに7ページに書かれているのですが、意思決定のタイミングの問題でしょうか。つまり、例えば貸与型から給付型ということは書かれていないです。だから、やはりそういうところは、経済的支援を充実させるという抽象的な表現ではいろいろ書かれていますけれども、例えば技術系職員が削減されている問題とか、何か具体的なもっと記載が書かれた方が、より現実の現場の人にはフィットするのではないかという印象を受けております。

【西尾分科会長】  もういろいろな意味で危機的な状況になっておりますので、それへの対応を、是非、強く出していっていただければと思います。よろしくお願いいたします。
 ほかにございますか。よろしいですか。
 多分、小林委員から言っていただいたところに集約されているのではないかと思っております。
 それでは、次の議題に移らせていただきます。人文学・社会科学の振興についてということで、事務局から今後議論するに当たっての前提について説明いただき、その後、大竹委員、そして城山委員からそれぞれ議事に関し御発表を頂こうと考えております。御説明ごとに、出席の委員から御意見、あるいは御質問を頂ければと思っております。
 それでは、事務局より説明をお願いいたします。

【春山学術企画室長】  資料の方は2-1から2-4までの4点です。本分科会におきまして、人文学・社会科学関係の振興についての御議論をこれからしていただくということについては、前回7月の際に資料を用いて説明をしたところでございますが、まずはその議論の前提ということで、これまでの学術分科会でまとめられている報告の概要が2-1、それから人文学・社会科学関係で文部科学省が実施している施策が資料2-2。それから、資料2-3として、現状に関するデータ。それから、最後資料2-4ということで、幾つかの今後の論点の案ということをお示ししています。
 まず資料2-1に沿って、これまでの関連の学術分科会の報告について、簡単に御説明いたします。
 この資料では3点、平成21年の報告以降の3点を紹介していますが、それ以前にも人文・社会科学にフォーカスを当てた報告はあり、また学術全体を対象とした報告の中でも人文・社会科学についての言及がされていますが、直近のこの三つに限って御説明をさせていただきたいと思います。
 まず、平成21年の人文学及び社会科学の振興についての方向の概要です。これは大きく4章に分かれており、第一章が日本の人文学及び社会科学の課題、第二章で学問的特性。第三章で役割・機能、そして第四章で振興の方向性という形でまとめられています。
 日本の人文学及び社会科学の課題ということですが、まず一つは、研究水準に関する課題ということで、欧米の学者の研究成果を学習したり紹介するタイプの研究が有力な研究スタイルになってしまっているということや、また一方、日本についての歴史や社会に根差した研究という活動が必ずしも十分ではないというようなことが指摘されています。それから、第二節では、研究課題の細分化と固定化が進み過ぎているということや、人文学・社会科学では、個別的な実証研究の積み上げということではなく、人間とは何か、歴史とは何か、それから正義は何かなどという文明史的な課題に対する認識枠組みを創造するということが一つの役割だということを前提に、歴史や文明を俯瞰(ふかん)することの期待についての言及が行われています。
 それから、第三節では、学問と社会との関係に関する課題ということで、最先端の研究課題というものは現実社会にあることから学問と社会との対応は必要であるということ、それから、学術の社会的な意義に関し、学問がきちんと社会に認知されていくよう様々な発信について積極的に考慮すべきということが、課題としてまとめられております。
 第二章の「学問的特性」ということでは、まず人文学及び社会科学の対象は、人間によって作られたものや「価値」それ自体が研究対象だということであり、人文学及び社会科学の研究に関わる知識は、研究が行われる場所の歴史や文化に制約を受けながら、特定の固有の歴史的・文化的枠組みの中で生み出されるということが特徴であるというようなことが併せて書かれています。
 そして、第三節の「成果」というところでは、人文学及び社会科学が「分析」の学問であると同時に、「総合」の学問であり、「総合」による「理解」が社会の側(がわ)から成果をとらえた場合に意味を持つということで、細分化にとらわれない俯瞰(ふかん)した形での総合ということが、社会の側(がわ)から成果をとらえる場合に留意が必要であるということが言われています。
 また、第四節の「評価」ですが、ここで言われているのは、多元的な評価軸の確保の必要性ということです。先ほどの対象の特性というところにも関係していますが、「意味」が「価値」を対象とする研究分野ということで、それに見合ったレベルでの評価が必要であり、評価軸も多元的になっていく必要があるということが言われております。
 それから、第三章の「役割・機能」です。第一節の「学術的な役割・機能」ということで、一つは個別諸学の基礎付けということで、人文学は知識に関する知識というものを研究対象にする学問ということで、メタ知識であるとか哲学というような観点から、個別諸学の基礎付けという役割や機能があるということ。それから、実践や社会の中で生起する最先端の課題への対応ということ役割・機能として求められるということです。
 それから、社会的な役割・機能ということが第二節としてございます。異文化コミュニケーションの可能性の探索や多文化が共存可能な社会システムの構築に向けた考究ですとか、先ほどの学術的な役割・機能ともつながるとこですが、個別諸学の専門性と市民的教養を架橋する役割が、社会的な観点からはあるのではないかと。また、政策や社会における課題の解決という役割もあるのではということでまとめられております。
 こうしたことを踏まえて、この報告におきましては、第四章の「振興の方向性」ということで、「対話型」共同研究の推進ということが示されています。細分化に対する対応ということになるかと思いますが、学際的な共同研究、更に国際共同研究の推進ということが言われておりますが、報告の中では、日本研究の重要性ということについても触れられています。
 それから、第二節のところでは、「政策や社会の要請に応える研究」の推進ということで、この資料には掲載していませんが、報告の中では、具体的な課題というか要請として、地球環境の問題や貧困問題といった全地球的な課題とか、また少子高齢化問題などの近未来において我が国が直面するような課題に関する要請に応える研究というものを積極的に推進するという方向が報告されているところです。
 それから、第三節としては、卓越した「学者」の養成ということです。次世代のこうした研究の振興を図るという観点からは、独創的な研究成果を創出できる研究者の養成が必要ということに加え、総合性という観点から、幅広い視野を醸成するための取組が必要ということが言われています。
 そして第四節として、これらを支えるような研究体制や研究基盤整理ということや、第五節として成果の発信ということ。それから、第六節においては、研究評価の確立ということで、先ほども申し上げた多元的な評価や、外部の視点も踏まえた評価を確立するということが、学問分野自体の発展にも必要ということが、平成21年の報告でまとめられています。
 その次、平成24年に「リスク社会の克服と知的社会の成熟に向けた人文学及び社会科学の振興について」という報告がまとめられております。大きくは三つのパートでまとめられておりますが、まず第一としては、人文学・社会科学の振興を図る上での三つの視点ということで、(1)諸学の密接な連携と総合性、(2)学術への要請と社会的貢献、(3)グローバル化と国際学術空間ということで、この資料の方を御覧いただきますと、左の方にまず課題が書いてあり、それに対する三つの視点ということでまとめられておりますが、先ほど平成21年の報告で指摘をされていたようなことが、このような観点で捉え直してまとめられています。
 それから、第二に「具体的な制度・組織上の四つの課題」ということで、(1)として「共同研究のシステム化」、(2)として「研究拠点の形成・機能強化」、それから、(3)としては「次世代育成と新しい知性への展望」ということで、ここでは適切な評価に基づいて人材育成を行うことの重要性について言われているところです。それから、(4)として「成果発信の拡大と研究評価の成熟」ということで、実社会からの視点を意識する必要性ということも併せて指摘をされているところです。
 それから、第三として、「当面講ずるべき五つの推進方策」ということで、5点挙げられております。
 (1)として「先導的な共同研究の推進」ということで、これは今、JSPSの方で進めていただいており、また後で御紹介申し上げますけれども、課題設定による先導的人文学・社会科学研究の推進ということで、ここに掲げております領域開拓、実社会対応、グローバル展開という、先ほど御覧いただいた三つの視点に沿った形での振興を図るという御提言をこのときに頂いたということです。
 それから、(2)「大規模な研究基盤の構築」ということで、共同利用・共同研究の取組状況等も踏まえた拠点化への支援ということで、これも後で御説明させていただきますけれども、大型プロジェクトの推進について、例といたしましては、日本語の歴史的典籍のデータベース構築というようなことが、ここでも言われておりました。
 それから、(3)では「若手人材の育成」、(4)では「デジタル手法を活用した成果発信の強化」、(5)で「研究評価の充実」ということで、このような形で五つの推進方策がまとめられています。
 資料をまた1枚お進みいただきまして、平成27年の「学術研究の総合的な推進方策について」の最終報告の中で、人文学・社会科学の振興というパートを設けて記述されているところがございます。重要性につきましては、こういった社会が変化する中で、以前より重要になっているということと、イノベーションに果たす人文・社会科学の固有的な役割ということに加えて、これを自然科学の研究成果を生み出すイノベーションを社会の変革につなげるという役割も期待されているということですが、現状と課題のところでは、今まで二つの報告の中での言及と近い部分がございますが、細分化された専門分野の精緻化ということで、知の統合から生まれる巨視的な視点が欠落しがちであるということや、文献学的な視点のみならず、社会がはらむ諸問題に視点を移すというようなこと、あるいは国際発信や国際的な学術コミュニティへの参画ということが課題として指摘をされています。
 今、三つを簡単に紹介いたしましたが、この三つの報告を通じて大きく言えるのは、学際的な共同研究の推進というような観点がまず一つあります。研究の細分化で、総合的に俯瞰(ふかん)するような総合的な視点の不足という認識から、学際的な共同研究の推進が必要であるということ。それからもう一つは、現実的な課題への対応ということや、社会への発信ということがありましたが、社会との関係をどう作っていくかということで、これは、現実の社会といったものの要請をそのまま踏まえるということではありませんが、研究内容や研究の方向性といったものを考えるとき、一つの判断材料としてどう踏まえていくかというような観点や、また、もう一つは公的資金や社会の付託というような観点から、社会との応答というものをどういうふうに進めていくかというような観点が一つあるかと思います。
 それから、研究水準というでは、国際性、国際発信や国際コミュニティへの参画というようなことが一つ。また、これはなかなか非常に難しい問題ではございますけれども、人文学・社会科学の特性に応じた評価システム、評価に関する考え方のまとめということ、この三つの報告の中では、こうした視点が通底する要素としてまとめられるだろうと思っております。
 それから、資料2-2ですが、文部科学省における振興に関する主な取組ということで、幾つかまとめさせていただいております。
 1ページの方ですが、1ポツで、人文学・社会科学を含む支援に関する取組として課題設定による先導的人文学・社会科学研究の推進事業がありますが、先ほどの平成24年の報告を踏まえまして、領域の開拓、実社会への対応、それからグローバルな展開という三つの視点を踏まえて、こうした課題設定のもとで進めているところです。また、今年度は、新たに人文学・社会科学のデータの分野・国境を越えた共有・利活用を促進するということで、人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築プログラムを、この事業の中の一つの柱として実施が進められているということでございます。
 それから、二つ目の黒丸でございますけれども、科研費の人文学・社会科学に対する助成ということで、科研費の配分件数の21%、配分額の13%が人文学・社会科学の分野に関する支援という状況になっています。
 それから、国立大学・大学共同利用機関における体制の強化・充実ということで、1としましては、国際共同利用・共同研究拠点制度の創設ということですが、これは平成30年度からということで、今審査をしているところです。
 それから、2の方といたしましては、国立大学の共同利用・共同研究拠点は28大学・77拠点ございますが、その中でも人文学・社会科学分野というのは6大学・10拠点という状況になっております。
 それから、大規模学術フロンティア促進事業ということで、先ほどもちょっと例として報告の方にありましたが、人間文化研究機構の国文学研究資料館の方では、日本語の歴史的典籍、国際共同研究ネットワークの構築計画という事業が進められているところです。
 また、公私立の共同利用・共同研究体制ということで、予算で特別に措置をしていますが、公私立大学における人文学・社会科学分野の共同利用・共同研究拠点は11大学、12拠点という状況になっております。
 あと、黒丸でございますけれども、博士課程教育リーディングプログラムの中で、人文学・社会科学を含めた支援ということですが、オールラウンド型では文理統合型の学位プログラムを構築するということや、また複数領域を横断した学位プログラムを構築する複合領域型、それからオンリーワン型という三つの類型で支援をしておりますが、こうしたプログラムの一部の中におきまして、人文・社会科学系を含む支援というものが行われているところでございます。
 それから、2ポツの方にまいります。

【西尾分科会長】  すみませんが、時間がどんどんたっていますので、急ぐ必要があります。御説明いただいている内容は、先ほど研究人材に関して御説明いただいた内容とほぼ一緒と思われます。そこで、資料2-4の今後、どういうことを議論していくのかという論点のところの説明をいただけますか。

【春山学術企画室長】  大変失礼いたしました。それでは、資料2-4の方を御覧いただきまして、飽くまでこれは論点例ということで、これを今、事務局としてこういう方向で御議論いただきたいというものではございませんが、飽くまで論点例ということで、この論点についても御議論いただければというふうに思っておりますが、1ポツにつきましては、学術研究の動向を踏まえた人文学・社会科学の役割ということで、そもそもの人文学・社会科学の特性や意義につきましては、先ほどの報告の中でもいろいろまとめていただいているところと思いますが、二つ目のところで、やはり超スマート社会(Society5.0)の実現ということですとか、SDGsの対応等における人文学・社会科学の意義・役割ということで、例えば人工知能(AI)の研究ですとか、生命倫理に関するようなこと。そうした中で人文学・社会科学がどういうふうに関連し、どのような形で絡んでいくのかということで、学術研究の現在の動向を踏まえた人文学・社会科学の社会的な役割というもの。それからさらに、それを踏まえた上での振興というものがどうあるべきかということが1ポツでございます。
 それから、2ポツとしては、国内外の動向ということで、国際発信、国際コミュニティへの参加というようなことで、海外における動向や、これはややピンポイントな話になりますが、今までの報告の中でも、グローバルな地域研究や日本研究の重要性が触れられていますので、論点の一つとして書いております。
 それから、評価の在り方ということで、これまでの報告の中でも、特性を踏まえた評価を確立する必要があるということが言われておりますが、具体的な観点としては論文を人文学・社会科学の中でどう扱っていくのかということ。それ以外での指標の在り方というようなことも踏まえて、既存の取組の事例なども御議論いただきまして、また諸外国における状況の把握とそこからの示唆というようなことを、とりあえずの論点例ということでさせていただいているところでありますが、先ほど申し上げましたとおり、これにつきましてもここの分科会の方で御議論いただければと思っております。
 長くなりまして大変失礼しました。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。今、御説明いただきましたように、既に文部科学省では、大きく言いますと三つの報告書が出ております。先ほど御説明いただいた内容です。そのような報告書が出ている上で、なぜ今回、人文学・社会科学系に関する議論をしていくのかというところを、明確にしておくことが肝要です。
 私としましては、今、大きな社会変革が起こっている。特に産業構造が、情報ネットワーク技術の急激な発展などにより、垂直統合から水平統合へとどんどん移行している。それとデータ駆動型のサイエンスが盛んになり、サイエンスの有様も非常に大きなパラダイムシフトが起こっている。こういう状況の中で、再度、人文学・社会科学系の振興というものを、自然科学との関係も含めて再定義していく。そのことをこのタイミングで行うことに大きな意義はあるのではないかと捉えております
 ほかの観点からでも、今回、議論していくことの重要性に関しまして、今御説明いただいたことを踏まえて御意見がありましたらお願いいたします。どうでしょうか。どうぞ。

【小林委員】  私ばかりで申し訳ないのですが、今、いろいろな報告を伺っていて、まず一つ申し上げたいことは、人文学と社会科学は分けて考えていただけないかということです。理系といっても生命科学と理学、工学は全く違うでしょうし、理学と工学でも違うと思います。例えば、資料2-1の冒頭のところで、欧米の学者の研究成果を学習したり紹介したりするタイプの研究が有力って、何の話なんだろうと思います。私は社会科学ですけれども、日本経済学会の年報とか、日本政治学会の年報とか、もう何十年も前からデータ分析の論文が7割です。確かに欧米の研究を紹介する研究もあり、そういう研究を全然否定するわけではないですが、現実には今、そういう状態が主流ではないと思います。
 どこに問題があるのかというと、社会科学の場合、データアーカイブがないということです。データには2種類あります。意識調査をするサーベイデータと、地域単位、例えば、最小メッシュだと250メートル四方ですけれども、そういうアグリゲートデータ、地域データの2種類があります。重要なのは、アグリゲートデータがないということです。これは日本政府の公開が、他のアジア諸国に比べても少ないということがあります。日本学術振興会の人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築プログラムというのが、今度、新しくできました。私は、非常に期待をしましたが、非常にがっかりしました。
 なぜかというと、これから5年かけてサーベイデータを集めるというプログラムです。なぜ、今頃そんなことやるのだろうと思いました。そうしたことは米国が70年前にやったことであり、韓国や中国や台湾が30年前からやっていることです。重要なのは、アグリゲートデータについては一切集めないわけです。そこが問題です。
 それから、資料2-2を拝見しました。人文・社会科学に対して非常に支援をしているという言い方ではなくて、人文・社会科学も含むというのが問題です。例えば、科研費について、もう特別推進は、代表は1回しかできないようになりました。継続してできなくなりました。それでは、基盤研究はどうかと言うと、助成額の大きい枠組みで採択された研究の代表者に理系の方が少なからずおります。そうした方が、複合領域ではなく人文・社会科学の枠で応募されて採択されています。公開されている基盤研究Sの平成29年度新規採択課題一覧をみると、社会科学はゼロです。どうやって世界で競争する研究ができるのでしょうか。
 それから、博士課程リーディングプログラムについても、人文・社会科学も含めという記述です。確かにそうですが、ではオールラウンド型のほとんどやはり理系が中心になっています。文系が中心なのは、多分東大だけではないでしょうか。東大は、公共政策大学院があるので、文系の方が中心になる。オールラウンド型以外だと、名古屋大の法制度支援などぐらいです。だから、人文・社会科学は21世紀COE、グローバルCOEときて、急に梯子(はしご)を外されたような形になっています。
 それから、学術振興会の中で、課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業があります。課題が設定されています。この課題が、全部ほとんど文学部向けです。これは3年おきですけれども、なぜか毎回、認知科学系は入っています。これは文学部の心理学の方になります。あと、日本の美、それから規範理論。だから、採択された人たちの多くは、文学部、芸術学部、美術学部の方が多いです。これでは、社会科学は応募のしようがないわけです。課題が設定されていないですから。そして、最後に資料4で、超スマート社会の実現とか、グローバルな日本の研究の重要性が指摘されていますが、どうしてデータアーカイヴの構築について触れられていないのでしょうか。これがない限り、今に日本研究を行う世界の人たちはいなくなります。だから台湾は、アカデミア・シニカ(中央研究院)がデータアーカイヴを持っています。それから、中国は中国統計局が持っています。韓国は、韓国統計院が持っています。だから、彼らは欧米の研究者と国際共同研究をやるし、国際共著論文を書くわけです。日本はデータが公開されなかったり、自由に利用できないから欧米の研究者が研究できないわけです。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。今、小林先生の方から言っていただきましたことは、人文学・社会科学という、中ポツでつながれていることですね。これを今後、分科会で議論する場合に、人文学と社会科学を分けて考えるのか。だけれども、両方に共通する部分もあるわけなので、今後の議論をしていく場合に、そのことをきっちりと認識しながら進めることが重要なことではないかと思っていますので、対応のほどをよろしくお願いします。このこと以外にも、小林先生の方から幾つか重要な御意見を頂いておりますので、そのことも今後の審議の中で反映していければと思います。
 ほかにございますか。

【五神委員】  人文・社会科学について、東京大学でつい最近、ヒューマニティーズセンターという、部局横断の連携研究機構を立ち上げました。この機構は、文理融合が若干あるものの、ほとんどが理系主導だったのですが、このセンターは純粋に文系の中で立ち上がりました。その開設シンポジウムのときに、今の論点に近いのですが、人文社会というひとくくりの言い方は非常に違和感があるということを、人文系の先生方から強く主張されました。これは多分、理系の中でいう物理と化学との距離よりもずっと離れているのだと思います。それをひとくくりにすることによって、今指摘された、どこに支援するかということについて、大事な論点が奪われてしまうのではないでしょうか。
 データ活用型、あるいはデジタル革命が進んでいる中で、私が参加している未来投資会議などでインクルーシブな良い社会のシナリオとしてSociety5.0を掲げました。一方で、データ独占、データ覇権主義に進む可能性があり、今がその分水嶺です。そのような時に、文系、理系の枠を越えて、価値をどう創り出していくかは極めて重要です。例えば、理系のイノベーションと経済メカニズムと社会システムを三位一体で連携するということが大事だということは、いろいろなところで言っていますが、ここで人文系の要素を垂直軸に立てないと、参照軸がなくて悪い方向に行くのを止められません。そういう意味でも、人文と社会というものの役割は、かなり相補的な部分もあるということを意識せざるを得ません。
 最近言語学の人たちと議論する機会があり、一つ気になったことは、デジタル化が急速に進む中で、日本語という言語が崩れていくのではないかということです。英語と日本語を比べると、言文の不一致度という点では、日本語は特異的です。話す言葉というのは、どんどん変化していきます。ただ、AI技術が発達していますので、話し言葉は変化しても追従できます。しかしながら、最近は、若い層を中心に読み書きをしなくなっています。何年か前の入学式で、「新聞を読みますか」という問いかけをしましたら各紙が取り上げてくれましたが、新聞どころか本も全然読まないという状況のようなのです。東大でもそうなのですから深刻な話です。そうすると、ロジカルに議論をしていくためには、言文が不一致だとしても、言の方の日本語がきちんと保たれていることが重要です。ドイツなどでは言文の一致をとるために、国策として言文を一致させようと、国として積極的に取り組んでいるそうですが、そうした施策のないスイスで話されているドイツ語は言文が少しずれているそうです。
 そういう意味で、人文知、これは人文・社会共通だと思いますが、今の例では言語というものの扱われ方を学問として捉え、急速にデジタル化が進む中で、今何をしなければいけないかというのは、学術政策を超えて、社会の問題としても考えなければいけないところにきています。その観点からしますと、今まさにやるべきテーマがより際立ってきていますし、これは国民にとっても重要だということは共感を得られるので、そこを前面に出すということがタイムリーではないかと思います。Society5.0とかSDGsということを書くのであれば、このテーマではどの内容にフォーカスして議論するのかということを書くべきだと思いました。

【西尾分科会長】  本当に貴重な御意見ありがとうございました。言語、すなわち文化ですので、今おっしゃったように日本の文化としても非常に大事なことであって、その問題を文部科学省の中できっちりと議論することは本当に大切なことだと思います。今、五神先生から言っていただきました点をきっちりと踏まえて、今後の議論の中でどう展開するかというシナリオを考えていければと思います。
 今日はお二人の委員からのプレゼンテーションがありますので、とりあえずあとお一人だけ御意見を頂きたいと思います。甲斐先生、どうぞ。

【甲斐委員】  済みません、じゃあ短く。これからの重要性とか課題の中に、SDGsとかAIに対する対応のことが書かれていて、御説明の中で生命倫理に少しだけ触れていただきましたが、文章としては明確に書かれていないと思うんですね。今、自然科学の進歩がとても早く進んでいます。その中で、私はこれから社会を変える大きな問題となっていくことに、AIと、遺伝子改変技術の急速な進歩があると思うんですね。それに対して理系の研究者は、やはり自分たちの開発した技術のすばらしさを用いて様々な研究を進めたいと、便利になる方ばかりを考えてしまうのですね。そうやって進んでいくんですけれども、サイエンスの進歩の社会的影響というのは、正の方向だけじゃなくて負の方向も必ず含んでいます。今回の変革は、非常に大きな社会的影響を及ぼすと思っています。
 昔、原子力を生み出してしまった理系の研究者たちが、それまでにない威力を持つ兵器を作れる可能性に気付いたときにはもうどうしようもなかった。そういうサイエンスの歴史があるわけですけれども、今、そのような危険性も含む変革期が来ているんじゃないかという危惧しています。そういう中で、文系の先生方の力というのは非常に重要だと思っているんです。
 AIに関して書いてありましたけれども、遺伝子改変技術の方も、できれば明確にどこかに文章にして、文系、理系融合で本気で対応していかないと間に合わないんじゃないかと思うんですね。現実に、何の痕跡も残さずに遺伝子を変えることができるようになりました。まだ科学的には解決すべき問題があるのですが、技術自体は多くの人が使えるようになりました。それを個体に戻して生体を得ることもできます。人間に応用することは指針などで規制していますが法律ではない。このような現状の中で、それを防いだり、どれだけの影響があるかを予測したり、今までの歴史でどうなったかを調べたり、それで倫理問題とか宗教観念とか、そういったことをみんなで話し合って、ちゃんとした方向に持っていくというのは、科学全体の義務だと思うんですね。行き過ぎた研究が計画された場合、最後の最後で審査する生命倫理委員会などに文系の先生が参加されても、全体の問題点を把握して対策を審議してきた背景があれば対処できますが、突然個別の計画を見ても分からないか、余り強い判断はできかねてしまうと思うのです。一つの大きな問題として、みんなで真剣に取り組まなければいけないと思いますので、できましたらどこかに明文化して、文系の方と一緒に戦っていただきたいと思っております。

【西尾分科会長】  甲斐先生から言っていただいたことは本当に重要なことだと思っています。イノベーションを起こす過程の中での透明性、制御可能性、それから倫理の問題、こういうことに関しても、日本が強く発信していくべきだと私は思っております。ですから、文部科学省においてきっちり議論して、そのようなことに関する強い意見を発信していくべきだと思います。今後の審議のシナリオの検討の中で、そのような配慮をよろしくお願いいたします。
 それでは、先ほど説明させていただきましたように、お二人の委員から人文学、社会科学の意義等について発表していただいた上で、審議を続けたいと思っております。
 まずは大竹委員より、人文学・社会科学の社会的貢献について発表をお願いします。

【大竹委員】  大阪大学の大竹です。資料3に私が提出したものがありますが、最初の方に文章が、その後にスライドがあります。スライドを見ていただきながらお聞きいただければと思います。
 私の報告は、人文学・社会科学の特性・意義ということですが、最初に要点をお話ししますと、一般にここ最近、人文・社会科学は余り役に立たないという批判があって、国立大学でもそれを縮小すべきではないかという議論があったわけです。それに対する反論は主に二つあります。一つは、実際に人文学・社会科学は仕事や人生において役に立つのだという反論です。もう一つは、人文学・社会科学というのは、役に立つかどうかを考えるのではなくて、知的好奇心に応じた研究をするべきものだという反論です。これは人文学・社会科学だけではなく、理系分野でも基礎科学一般にそういう反論をする方が多いです。この二つの反論が多いのですが、私はその反論をしても、税金を投入するための説得的な反論にはならないと考えています。
 一つ目の、仕事や人生に役に立つのだという反論であれば、そんなに役に立つのであれば、学ぶ人が自分で授業料を全額払うはずですし、企業が研究資金を出すはずです。つまり、個人や企業の役に立つ研究・教育であれば、国が税金を出す必要はないということになってしまいます。それから、役に立つことを目標にしているのではないということであれば、誰がその研究のためのお金を出すのかという議論について、全く答えになっていないです。それに対して経済学者(私は経済学者なので)は、やはり公的資金、税金を使って人文学・社会科学を振興させるということについては、経済学的な理屈が必要だと思います。それは、1番は、人文学・社会科学を学ぶ、あるいは研究するということに、正の外部性があるということです。外部性というのは、学んだ人、研究している人本人にだけではなくて、ほかの人にもプラスの影響があるということです。分かりやすく言えば、社会に役に立つのだという議論をしないと、税金を使って教育・研究をするということに対する批判に答えられないというのが、今日私がお話しするメッセージです。
 先ほど五神先生、甲斐先生から、人文学・社会科学の研究は、科学技術の進展との補完性があるという議論がされました。人文学・社会科学の知見というのが科学技術を発展させる、科学技術を社会に根付かせて発展させるために、補完的な効果があるということをおっしゃったのですけれども、これは私が申し上げた外部性の一つということになります。人文学・社会科学がその研究、あるいは学習した人だけではなくて、他分野の人にプラスの影響を与えるという意味で、正の外部性があるという一つの例なのです。
 この後、城山先生が報告されますが、社会への貢献という観点を挙げていらっしゃるのはその一つの例になります。私は、もう少し一般的な話をしたいと思います。
 それでは、スライドの最初を御覧ください。私は、ネットで話題になった金水大阪大文学部長の式辞というところから始めていますが、これは2017年に大阪大の同僚の金水先生が、文学部の卒業セレモニーでお話になったことです。彼は人文学と社会科学を分けて考えていて、社会科学とは違うとされています。金水先生は、文学部の教育内容を他学部の教育内容と比較されています。医学部は健康で生活できる時間を増やす、工学部は便利な機械や道具を開発するということで利便性を高める、法学や経済学などの社会科学は社会に役に立つとされています。それに対して次のスライドは、文学部についての意義ですが、文学部は職業訓練ではないし、生命や生活の利便性、社会の維持管理にも結び付かないということです。
 では、何が一番大きな影響があるのかというと(次のスライド)、意思決定をよりよくするということです。あるいは、日本とは、日本人とは何か、そういった問いを見出(いだ)して考える手掛かりを与えるというのが文学部だということです。
 その次のスライドですが、結局、文学部で学ぶことは、人生の岐路に立ったときに役に立つというのが、彼の答えになっているわけです。私は、私だけではなくて、恐らく多くの人文学・社会科学の研究者は彼の考え方に同意すると思います。しかし、これに対しての反論は、先ほど申し上げたように、そんなに役に立つのであれば、これは個人負担でこれらの学問を学べばいいではないかということになります。もちろん彼の式辞というのは、卒業生に向けて何の役に立つかということを話したということなので、その目的を達しています。ただ、この式辞の最初に、彼は国立大学のミッションの再定義の議論に対応する、あるいは、産業界から批判されていることに対して答えたいという意図があったわけです。
 そのような批判に対して答えるのであれば、それだけでは駄目だということが、その次のスライドに書いてあります。つまり、税金を使って研究や教育をするという理由には、外部性がないと駄目だということです。外部性があるということはどういうことかというと、自分がお金を払ったものが、自分には全て返ってこない、ほかの人に返ってしまう。そうすると、ほかの人がお金を払ってくれたら自分に効果があるということですから、自分がわざわざお金をかけなくてもいいという形に誰もが考えてしまう。そうすると、誰もが他人をあてにして、文学の研究に自分からはお金を払わなくなってします。その結果、誰もが価値があると思っているものでも、それが世の中で供給されなくなってしまうのです。つまり、正の外部性を持ったものの社会的な供給が少なくなってしまうので、正の外部性が強いものには、公的なお金を使わないといけないということです。人文学・社会科学の批判に応えるためには、そういうストーリーをきちんと入れていく必要があります。
 その次のスライドですが、ここで彼の議論を解釈すると、二つ可能性があります。一つは、人生の岐路に立ったときに、人々がよりよい選択ができるようになるということであれば、これは人生に失敗するというか、余りよくない選択をして、例えば貧困に陥る、あるいは病気になるというふうなことが減るということであれば、経済学者らしく身も蓋もないことを言いますが、財政負担が減るということです。財政負担が減るということは、社会的にプラスの影響を与えるということですから、財政負担が減るようなことについては、公的なお金を出しても、将来の財政負担を減らすというプラスの影響があるというロジックとして、十分に成り立ちます。
 それからもう一つ、社会全体でよりよい選択ができるということは、よりよい公共的な意思決定ができるということですから、これも社会全体の幸福度を上げる、あるいは社会をよくするという外部性があるわけです。こういった効果があるという部分は、理系の応用的な研究の場合と違い、研究成果が無料で手に入れられるということに人文・社会科学系の大きな特徴がありますから、外部性が非常に大きく、公的資金を使うしかないと考えています。
 次に理系は十分に意識してきたというスライドを御覧ください。先ほどサイエンスはこれに近いという議論がありましたけれども、実は理系の基礎研究にもほとんど同じことが当てはまります。しかし、理系の場合には、人文・社会科学系よりもかなり積極的にそういうことをやってきたと思います。なぜかというと、人文・社会科学系でもお金がかかるところはありますが、人文・社会科学系に比べると理系の研究の方が多額の資金獲得を必要とします。そうすると、社会にどれだけ役立つかということについて、理系の先生の方が積極的に主張してきたということがあります。
 文系の場合は、理系に比べてお金がかからないということで、それを積極的に行ってこなかった面があります。ところが、それはしばらくの間、運営費交付金が削減されても、物件費削減でおさまっていた部分がかなりあります。それが最近になって、人件費、コスト削減という形に変わってきた。文系の場合は、ここで初めて大きなショックを得たということで、社会に対して、正の外部性があるということの積極的な広報活動が少なかったのではないかと考えています。
 その次のスライドですが、これは繰り返しになりますが、理工系や生物系の場合、成果が物として見えやすいということで、製品としても商業化しやすいわけです。けれども、人文・社会科学系の成果というものは、人々の考え方や社会の制度に影響を与えます。特定の論文が影響を与えることもありますが、多くの場合は、それが蓄積されて影響を与えていくという形で、非常に因果関係が小さいことが多いです。社会全体に影響を与えますので、その成果というのは誰でも無料で手に入るという外部性が非常に強いというのが、人文・社会科学系の成果の特徴になっています。
 もう1点、人文・社会科学系の人たちの対応の誤解というのがありまして、役に立つということについて、非常に狭く考えるケースがあります。例えば、話題になった山口先生の『「大学改革」という病』という本の中では、企業や社会が求める人材の育成は大学の社会的責務でなく、むしろ市民を育てるということであると書いています。ここで彼が紹介しているのは、様々な問題についてその背景を知り、前提を疑い、合理的な解決を考察し、反対する立場の他人と意見のすり合わせや共有を行う能力を育てるということですが、これはまさに現代の企業や社会が求めている人材そのもので、外部性が非常に高いものだと考えます。ですから、広い意味で役に立つということを考えないといけません。
 それから、もう一つは、その次のページに、これは塚本先生の言葉を使っていますが、役に立つというときに、私は、経済学者なのですぐにお金儲けと思われるかもしれないですが、経済学はもう少し広くて、人々が幸せになるということにも役に立つと考えています。ですから、例えば知的好奇心を満足させるということは、それが幸福度を高めるということであれば、それは十分に人の役に立っているわけです。もちろん、彼の答えの中で優等生的答えというふうに書かれ、いかにも経済学的な答えということでもありますが、社会貢献というのは広く考えるべきだと考えています。
 それから、もう一つ紹介したいのは、大栗先生が『数学通信』という雑誌に書かれたエッセイですが、役に立たないということを、知的好奇心に応じて好きな研究をしていると基礎研究の人は答えたがるのですが、やはりそれだけでは駄目だということを彼が書いています。彼自身がアメリカの大学の寄附者を相手に説明をするときに、やはりどんな役に立つのかということを説明しないと、寄附者に対する答えにはならないということです。それに対して、特に日本の場合は、数学や科学の基礎研究のほとんどは国民の税金で行われていて、納税者がクライアントになります。そのときに、10年後にどのようなリターンがあるのかということを答えられるようにすることが大事であると、答えていらっしゃるのは、人文・社会科学にも同じだと私は思います。
 それでは、人文学・社会科学の社会的な貢献というものをもう少し見えるようにするにはどうしたらいいのかということですが、まず、できるだけ学術の最先端で行われていることを一般に紹介していく。これは科学者本人でなくても、そういった役割を持った人に依頼してもかまわないと思います。それから、先ほど大栗先生がクライアントから説明を請われたときにどういう貢献が社会にできるのかということについて答えられるようにしようと書かれていることを紹介しましたが、研究者自身も学術の最先端と一般社会との関わりを常に意識しておいて、その関係について説明できるにようにしておくことが必要だと思います。 それから、先ほどから理系と文系の融合研究が重要だという議論が出てきていますが、研究者は、違う分野の人たちと話ができるようなトレーニングをしていく必要があると思います。
 また、社会問題そのものを解決するような問題設定を、研究課題全てではないですが、取り入れていく、あるいはそれを意識した研究の進め方が必要だと思います。
 以上のようなことについて、大阪大学の宣伝を最後に入れさせていただきますと、この4月から、大阪大学では、人文学・社会科学系の研究が社会課題を解決するための研究者と外部の連携を促進するための社会ソリューションイニシアティブという研究組織を立ち上げました。
 最後に、人材育成のことをスライドには書いています。私は人文・社会科学系の方が理科系よりも、人材育成については、潜在的に深刻だと思っています。理科系の場合は、若手研究者がいないと研究が成り立たないという形になっていますが、人文・社会科学系は、むしろ個人プレーで、本人のポストさえあれば研究ができるという特性が強いので、個人の研究の遂行に必ずしも若手研究者が必要ではないからです。もう少し人文・社会科学系の方こそ、若手研究者の支援を組織的にしていく必要があるのではないかと思っております。以上です。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。
 ここで御質問などがございましたら、是非よろしくお願いします。大竹先生は都合がございまして、最後までここにいらっしゃることができませんので、現時点で御質問やコメントなどありましたらよろしくお願いします。どうぞ。

【井野瀬委員】  言語化された文章は事前に読ませていただきましたし、今のスライドからも刺激を受けました。ありがとうございます。
 その中で、人文学の成果が見づらいという話がありました。人文・社会科学、私は人文学なのですが、人文学の成果というのは、通常書籍の形で出されることが圧倒的に多い。論文よりも、むしろ一冊の本にまとめる方が評価される方向性にあるように思います。ところが、先ほど五神先生も言われましたが、今は新聞を読まないどころか、人文・社会科学系の新刊書を誰が読みますか、という状況です。つまり、書かれていないとか、成果が出ていないのではなく、「読まれない」ことが問題として大きいのではないかと思います。
 今のお話の中に、説明をちゃんとすべき、とありました。それから、現代の課題であるAIやゲノムについては先ほど甲斐先生からありましたが、こういうものも意識した、例えばゲーテが役人時代に行った大学改革とか、現代の問題に引き付けた本はたくさん出ています。というか、現代の問題から話を起こしている書籍が多くなってきています。かつてのように同時代とつながらない、純粋人文学のようなものは、むしろ少なくなってきているように私には思えます。
 人文学でも問題意識はちゃんと持ち、現代の課題とつながっている。その一方で、一般市場で売られても読まれないという現実を考えると、そのような社会に対する説明をどのようにすべきだと思われますか。

【西尾分科会長】  なるほど。

【井野瀬委員】  悩み相談のようですね、ごめんなさい。

【大竹委員】  そうですね、結局それでも読まれてないということは、アプローチの仕方が悪いのではないでしょうか。こうしろという具体的なことはないので申し訳ないのですが、やはり、それでも届くような方法を考えていくということしかないのではないでしょうか。

【井野瀬委員】  恐らくそれが、冒頭、座長の西尾先生が言われた、デジタル革命の中でデータ主導の科学自身にパラダイム変化が起きているという問題とつながり、そこに届くようなアプローチとは何かを考えねばならないと思います。中身がないわけではないのに、ちゃんと読まれないこと、そこに大きな問題があると思うのですが、その問題意識がなかったように思えたので、付け加えさせていただきます。

【西尾分科会長】  貴重なコメントどうもありがとうございました。
 今のことも含めて、何か御意見ございませんか。よろしいですか。では、大竹先生のプレゼンテーションに対しまして、ほかに何か御意見やコメントはございませんか。
 それでは、城山先生、次の御説明をお願いできますか。

【城山委員】  それでは、東京大学の城山と申します。資料の4というのを一応御用意させていただきました。私自身は、分野としては政治学なり行政学を専門にしていますけれども、同時に科学技術と公共政策の交錯領域に関する研究だとか、若干実践的なこともやってきたということもあり、そのような観点からSociety5.0と人文学・社会科学の役割ということで問題提起をさせていただきます。若干内発的ではない設定というか、若干こういうことでということがあったので、無理やりというところもあるかもしれませんが、少しそういう観点でお話をさせていただきたいと思います。
 1ページ目は、これは単なる張り付けたものですけれども、このSociety5.0という政策概念が提示されたのは、2016年の第5期の科学技術基本計画であると思います。基本計画では、ICTを最大限に活用し、サイバー空間とフィジカル空間等を融合させた取組により、人々に豊かさをもたらす社会として、超スマート社会、ニアリーイコールでSociety5.0というのが位置付けられています。
 また、最近の例でいいますと、2018年の未来投資戦略の中では、第4次産業革命の社会実装によって、現場のデジタル化と生産性向上を徹底的に進め、日本の強みとリソースを最大活用して、誰もが活躍でき、人口減少、高齢化、エネルギー、環境制約など様々な社会課題を解決できる、日本ならではの持続可能でインクルーシブな経済社会として、Society5.0というのが位置付けられているわけです。端的に言えば、サイバーとフィジカルにまたがる融合技術、いわゆるIoT等を活用して社会課題を解決する、そういう社会として定義をされているわけです。ただ、当然社会の話をするわけですから、技術の活用自身が自己目的ではない以上、こういうSociety5.0という課題設定をするのであれば、当然人文・社会科学が役割を果たすような社会の在り方そのものの議論というのは、既に議論されているように不可避、不可欠の構造になっているんだろうと思います。
 恐らくこういう議論が立てられている、つまり科学技術基本計画もそうなのですけれども、社会の在り方というのが目的として設定されているという構造になっている背景には、これは古典的な話ですけれども、1999年のブダペスト宣言に見られるような、社会における科学だとか、社会のための科学という考え方があるんだろうと思います。恐らくここで社会における科学といった場合には、科学は当然自然科学がしばしば念頭に置かれますけれども、当然それだけではなくて、人文学・社会科学というのも入ってくるわけです。ただ、当然これも既に議論になっているように、適度な距離感というのは何なのかというのは当然あるわけで、理系の中でも理学系と工学系が違うように、人文・社会科学の中でも様々な距離感というのが、こういう社会的要請との関係においては、恐らくあるんだろうと思います。
 先ほど社会科学と人文学という話もありましたが、社会科学の中も恐らく多様で、例えば私は法学部というところに属していますが、専門は法学ではないという立ち位置ですけれども、法学なんていうのは極めて実践的な学問なので、むしろ工学とか医学に近い世界で、余り科学という側面を持たないという面もあります。そういう意味では極めて多様なものがあるので、そこの中の差別化は必要なんだろうと思います。
 これが具体的にどういうふうに位置付けられてきたのかというのが、次のスライドであります。第5期の科学技術基本計画の中の文章を抜き出しているわけですけれども、一つの局面は、いわゆるELSI。これは既に甲斐先生からお話がありましたが、倫理的、法的、社会的課題というのをきちっと考えろということは、明示的に指摘をされていて、この5期の基本計画で言えば、遺伝子診断、再生医療、AI等に見られるように、倫理的・法制度的な課題について、社会としての意思決定が必要となる事例も増加していると。新たに社会実装に際しては、多様なステークホルダーの間の公式、あるいは非公式の場を設けつつ、ELSIの課題について、人文・社会科学、自然科学の様々な分野が参画する形で研究を進めるという、こういう形で書かれているわけです。
 あるいは、もう少し別の表現をとれば、より多面的な影響。ELSIだけではなくて、より多面的な影響を把握するために、テクノロジーアセスメントというものが位置付けられ、あるいは根拠に基づき的確な予測、評価、判断を行う科学に関する研究。これは最近、EBPM(Evidence-based policy making)と言われているものだとか、社会制度等の移行管理に関する研究というのが位置付けられているわけです。ある意味では、こういう議論というのは既に何回かされ、文章としてもこういう形で落とし込まれているということであります。
 次に、4ページ以降ですけれども、以下では少しこの種の議論を一般論でやることの意味もあるかと思いますが、同時にこれは具体的にどういう議論なのかということの具体的なフレームも分かった上で議論した方がいいかなということで、少し具体的に紹介をさせていただきたいと思います。
 ここではテクノロジーアセスメントということについて、少し具体的にお話をさせていただきたいと思います。ELSIもある意味ではテクノロジーアセスメントの一つなんだろうと思いますが、これは直訳すれば技術評価となりますけれども、あえて訳すときには、私はなるべく技術の社会影響評価という形で訳すようにしています。ポイントはどういうことかというと、別に技術それ自体の評価をしろということではなくて、技術が各社会においてどういう影響を持つかということのアセスメントであるわけでありまして、当然アセスメントは、むしろ技術それ自身もありますけれども、社会のコンテキストの在り方に依存をするわけです。したがって、当然同じ技術が違う意義付けをされるということは、それぞれの社会においてあるわけで、例えば原子力についても、フランスとドイツでもかなり違った評価をするわけですが、これはそれぞれの社会が置かれている状況だとか問題意識が異なれば、当然評価が変わってくるということであるわけです。
 では、どういうことが具体的にテクノロジーアセスメントということであるのかということで、ここで1、2、3、4、5、6というふうに端的に整理をさせていただきました。
 一つは、技術が持つ社会的影響。これは当然リスク、マイナス面もありますが、当然プラス面というのもあるわけでありまして、これを明らかに整理するということが一つの役割になります。それをベースにどういう政策課題があるのかということを明らかにする。あるいは、そういう課題がどういう価値観で関わるかということを可視化する。更にそういうことを前提に、関係者間のコラボレーション、協働だとか、知識交換だとか、あるいは制度設計を行うようなことを支援するというのが、このテクノロジーアセスメントというものに期待される機能であるわけです。
 例えば、一つの例で申しますと、その次にちょっとラフな図を描いていますけれども、例えば最近議論されている、広い意味でのAI、人工知能技術について言えば、当然雇用への影響なり、あるいは先ほど寡占、独占という話がありましたけれども、データの寡占、独占をベースにしたある種の社会的格差といったようなことが問題になります。あるいは、安全だとか、それから安全保障に関わるセキュリティの問題のリスクというのもありますし、それから先ほど申しましたように、単にマイナスだけではなくて、プラスを可視化するということは、社会が研究開発を支援して、実装していく上で極めて大事になってくるわけです。
 また、これは特に人文学に関わるかと思いますが、ある種の価値観にも関わってくる話であります。AIということで単純化した話ですが、労働の必要性が減るということになれば、そもそも労働ということが生きがいなのか、それからむしろ解放されることが生きがいなのかといったような、人生観の問いというものが出てくるわけです。あるいは、ロボットがある意味である程度インティメートな、親密な対象になった場合に、ある種の倫理的地位を与えるのかということが問題になるわけで、これはある意味で、動物をどう扱うかということで、人間が考えてきたことのある種の繰り返しでもありますけれども、同様の議論をする必要があります。
 あるいは、エンハンスメントというふうに書かれていますけれども、こういうある種の機械を、人間の能力向上のために使うことが、倫理的に認められるのかどうかということも問題になるわけであります。これも頭の体操ですけれども、誰も眼鏡を使うことが問題だとは言わないわけですけれども、例えば機器を体内に埋め込む場合にはどうなのかというようなことは、ナノテクについて議論をされましたし、あるいはそれほどのことでなくても、例えばスポーツのような分野はドーピングということで、こういう問題に極めてセンシティブであるわけで、そういう意味で言うと、どういう状況で、どういうエンハンスメントが問題になり、どういうものが許容されるのかということも、恐らく詰めて考える必要があるんだろうと思います。こういうものを基礎に、制度設計なりいろんなコラボレーションなりということが進められていくということになるわけです。
 私自身の専門が政治というのが対象であることの絡みでは、例えば社会的影響の一つとして、政治なり社会的な意思決定に対する影響ということも、恐らくいろいろ考えるべきことがあるんだろうと思います。いわゆるAIというのは、単に労働を委任するということではなくて、意思決定、あるいはコミュニケーションを委任するということになります。これはある意味では、人間の尊厳の基礎になる、自律性自身に影響を及ぼすということで、潜在的に根源的な話になり得るわけです。これはあくまでも頭の体操的な事件のラフな話ですけれども、例えば政治活動というのは、一番複雑な人間の意思決定過程であって、最後に人間に残された領域だという、こういう側面は確かにあるわけであります。多様な価値なり利益を扱って、その中でどういうある種の同床異夢なり合意形成を行って、どう決断するのかというのは、特定の場に即した意思決定、Virtue(徳)という言い方をすることもあるようですけれども、そういうものである、極めて技の世界であるわけです。
 とはいえ、他方、政治とか司法の場であっても、ある種の定型化された判断というのもあるわけで、行政だったり司法の世界の話というのは、場合によっては一定のデータセットを学習すれば、AIでも対応可能な話なのかもしれないと思います。
 あるいは、これはヨーロッパの会議で議論していて面白かったんですけれども、Interaction fatigueということを言っていた人がいて、要は熟議をするということは大事なんだけれども、いつも熟議をしていたら疲れると。ずっとやり続けるわけにいかないと。つまり、時々は任せて、重要なことに集中することが大事だということを言われていて、これもなるほどなという側面もあるわけであります。
 あるいは、政治というのは、人間がやるからうまくいくという側面もあると同時に、人間はいろんな局面でいろんな経緯なりしがらみもありますから、いろいろややこしくなることもあるわけですね。これは嫉妬としての政治への対応と描いておきましたけれども。むしろ非人格化された方が、淡々と進められていいという面があるのかもしれません。
 論点で同じようなことが議論されている一つの興味深い局面は、兵器の利用に関して、AIを認めるかどうか。これは結構ホットな議論であります。一方で、機械にこういう意思決定を任せてはいけないと。機械は淡々とコストベネフィットを考えて、躊躇(ちゅうちょ)せずに人を殺してしまうという、こういう批判はあるわけですが、他方、人間が判断する方が、限られた情報で判断せざるを得なくなったりとか、あるいは場合によっては、いろんな激情、感情にかられて意思決定をするということもあるので、むしろ人間に任せない方がいいと、こういう議論というのもあります。
 同じような議論として、例えば介護の意思決定を人間がコミュニケーションするべきだという議論もありますし、他方、介護される側(がわ)の観点に立つと、むしろ人である方が羞恥心を感じたりして非常に面倒くさいと。むしろロボットの方がいいという考え方もあるわけで、こういう社会的意思決定にどういうふうな影響を及ぼすのかというのが、一つの局面であります。
 これは少し具体的な例の話ですけれども、恐らくここで少し考えなきゃいけないことの一つは、何が新しい話で、何が必ずしもそうではないかということを、多少距離を持って見る必要があるんだろうと思います。多分それができるのが、人文学・社会科学の一つの意義なんだろうと思います。
 例えば、今のAIに対するデリゲーション(委任)について言えば、例えば私自身、行政学という分野を専門にしていますので、組織をどうやって動かすのか、組織運営をどうするのかというのは一つの基本的なテーマなわけですけれども、そういうふうな観点から考えると、機械に委任をするというのは、確かに新しいチャレンジではありますけれども、組織生活というのは、人間は他の人間にいろんなことを委ねるわけです。当然トップの人は、全てを見るわけにはいかない、いろんな人に委ねるわけで、意思決定を委ねることもあれば、上がってくる情報のスクリーニングを委ねるということもあるわけです。そうすると、当然情報のフィルタリングということが起こるわけです。そうすると、機械への委任と人間への委任というのはどこまで本質的に違うのか、あるいはどこまで共通なのかということがあり得るわけで、こういうことは恐らくいろいろ議論すべきことがあるんだろうと思います。
 確かに機械に委任した場合には、通常は恐らく今の技術だと、機械はなぜこうやったのかという説明をしないというのがしばしば問題として言われますが、ただ、人間に任せて人間が何かしでかして説明しても、要領を得ないということはしばしばあるわけなので、そうするとそれも人間と機械どう違うのかということになるわけです。あるいは、人間の情報理由について、個々人がふだんどういう情報を見ているかによって、個々人向けにターゲットされた情報が来る。例えば、これが投票行動に影響を及ぼすような情報だったりすると、政治的自律性に影響を与えるという、これは深刻な問題だということが言われます。これもある意味では全くそうなのですが、他方、これまでのメディアも、あるいはこれまでの広告と言われる活動も、ある種ターゲット化して情報を流しているわけなので、これもどこまで本質的に違うのか。つまり、マニピュレーション(操作)をするときに、人が直接やるのと、半ば自動化された機械が介在することでどこまで違うのかという、これは詰めて考えるべきという話なんだろうと。そういう意味では、全てが新しいということではないだろうというふうに思います。
 確かに考えるべきことは幾つかありまして、8ページ目、9ページ目あたりですけれども、一つは確かにバイアスの問題というものをどう考えるかというのはあります。これはしばしばエコチェインバーとかフィルターバブルというふうに言われますけれども、通常アクセスしている情報と近いものが送られてきて、ある種の信念みたいなものがどんどん強化されると。で、無意識的にある種の権力関係が埋め込まれるという可能性も確かにあるわけです。ただ、これも私には技術はよく分からないところがありますが、そうではない、違ったタイプのものを推薦するというアルゴリズムを作ることはできるようなので、補正自身が技術的にできないということではないんだろうと思います。
 更に詰めて考えると、そもそもバイアスというのは本当に悪いのかどうかというのも、いろんな考え方があり得ると思います。この下駄を履かせる裁量という書き方をしましたけれども、社会にいろんな意見があるときに、数のバランスでしばしばいいということだけではなくて、むしろ場合によっては少数派の意見に下駄を履かせても、社会的に可視化をすると。これはやり過ぎると少数派にビート(拒否権)を与えることになるわけですが、ある意味では多少脚色をするということは、社会的に必要だということもあるわけで、こういう問題というのは、恐らく考えざるを得ない問題だろうと思います。
 それから、もう一つは9ページ目ですけれども、しばしば言われる責任の問題であります。確かに機械は説明をしないという、そういう違いはあるわけですけれども、そうはいっても、例えば機械が何かしでかしたときにその責任をとるというようなスキームというのはないのかというと、ないわけではないわけでありまして、自然人以外が責任をとるとり方というのは、法人責任のような仕組みというのもありますし、それをある意味ではサポートするような保険制度というのもあります。あるいは、例えば動物、ペットが何かしでかしたときに、主人がどういう責任をとるのか。あるいは、昔で言えば奴隷ですね。奴隷が何かしでかしたときに、主人がどういう責任をとるのかというのも、ある種の類似の議論をしてきたわけで、これも蓄積のない話ではないというふうに思います。
 ただ他方、AIに関する議論を横で見ていて、若干確かに新しいなと思うのは、関与者の数が極めて増えているんですね。例えば、AIであれば、ソフトの開発者だけではなくて、誰がデータを持ってきて、誰が学習させるのかとか、最終利用者がまた別にいるとか、かなり重層的な構造になっていて、そこの間の相互関係なり、場合によっては責任の在り方というのが曖昧になっていて、それをどうするのかなんていうのは、恐らく新しい話なんだろうというふうに思います。
 以上、一つの例でありまして、AIだけが必要なわけではなくて、先ほどお話のあったようなジーンエディティング(遺伝子編集)のようなものも、まさにこういう前線の分野であるわけですけれども、この分野は、ある意味では面白いのは、実際にいろいろな形でのテクノロジーアセスメントというのは、実践でかなりなされているというところがあります。第5期の基本計画に書くぐらいの段階で、私自身もテクノロジーアセスメントの研究をしていて、こういうのは制度として入れるべきだということをいってああいう形になっているわけです。その際には、若干畳の上の水練みたいなところがあったんですけれども、ここ一、二年の出来事というのは、ここに幾つかの例を10ページのところに例示して書いておきましたけれども、極めて分散的にいろいろな活動がなされているわけです。
 内閣府の懇談会がまず総括的なものとしてあり、経産省に第四次産業革命に向けた横断的制度研究会。これは独禁法のような、独占の問題が極めて大きな問題になるわけですが。それと、保健医療分野での活用、それから自動運転。それから、総務省では、情報通信政策研究所というところが若干距離をとって、包括的なアセスメントをするというふうなことをやりましたし、文部科学省でも大臣懇談会ということで、こういうことをやっています。あるいは、各研究機関もこういうことを自主的にやっていて、例えば理研のAIPセンターの中には、社会と人工知能研究グループというのがありますし、それから、JSTの社会技術研究開発センターの中には、人と情報のエコシステム、こういう領域が設定されているわけです。あるいは、企業やアカデミクスがグローバルにネットワークを作って、こういう課題に取り組むというのも、ここに二つ例を挙げているわけですけれども、あるわけです。
 ある意味では、こういう分野が実際に応用され、実際に多くの比較的若手の法律家だとか、社会学者等が実際に関与しているわけで、こういったものというのは、ある意味ではきちっと生かしていくべき資産なんだろうと思います。むしろ40代以下ぐらいの人がいろいろな形で関与しているのではないかなという印象を、私自身は持っています。
 少しちょっと一般的なレベルでいうと、仕組みとしてはテクノロジーアセスメントということをお話ししたわけですが、最終的にはこういうことを考えていく上では、やはり技術者にとっての社会的リテラシーというのも重要なんだろうと思います。先ほどの大竹先生のお話で言えば、人文・社会科学的な研究なり教育というものは、人文・社会科学だけに寄与するのではなくて、むしろ技術者の意思決定の質を改善するためにも役立っていて、そういう意味での社会的便益があるんだという、そういうことになるんだろうと思います。
 例えば、先ほどもちょっと御紹介したIEEEという技術者の標準化機関で、Ethically Aligned Designという議論をしているわけですけれども、そこではAIに関わるデザインのある種の原則として、Value-based methodologyということをいうわけです。これはどういうことかというと、言葉にしてしまえば他愛のない話ですけれども、いろいろな意思決定は当然いろいろなバリュー(価値)に関わってきて、当然トレードオフもあると。コストもアドバンテージもあると。それをどうやってバランスするかということが大事なんだということで、答えはないわけですね。だけど、バランスするような思考パターンを持てということを言っているわけです。
 このガイドラインの中では、外部から倫理の専門家を連れてこいみたいな議論もあって、Chief Ethical Officerを置けとか言っています。これは、例えば生命科学の分野である院内委員会ですね、Internal Review Boardのようなものを置けという話もありますが、最後はある意味では技術者自身がこういうことをどう考えるかということが重要になってくるわけです。先ほどもお話ししたように、多分技術者自身がいろいろな多様な価値があって、トレードオフもあって、その中でどういう決断をし、それをどう説明するのかということは大事で、これは技術と社会との関係だけではなくて、恐らく技術のいろいろな分野間の関係でも大事なんだろうと思います。そもそもエンジニアリング・ジャッジメントというようなことをいわれますが、これはむしろ定量化できない話ですね。コストとか品質とかいろいろな要素を全体としてどうバランスするかという話なので、むしろこういうことと、例えば社会的にバランスを考えるという社会的リテラシーというのは、かなり連続的な世界であって、いわゆる理系と文系という形で明確に分かれる世界では、むしろないのではないかなと思います。
 あるいは、次の12ページは、もう少しより一般的な話ですけれども、例えばAIのようなものが一定の役割を果たすような社会においては、どういう基礎的な能力が人間にとって大事かというと、一つはある種の史料批判能力なんだろうと思います。先ほどお話をしたフィルターバブルだとかエコチェインバーという話もありますが、いろんなバイアスを持った情報が出てくるといったときに、結局何が必要かというと、それをお互いに吟味して見定める能力ということになるわけです。組織で言えば、中間者を排除するとか、情報のチャネルを複数化するだとか、あえて違うことを言う人を周りに置くだとか、そういうことになってくるわけで、これもまさに先ほどの比喩で言うと、組織の上にいる人が、都合のいい情報だけが上に上がってくるんじゃないようにどういうふうに工夫するかという話と、恐らくAIの社会の中で、情報の取捨選択をどうするかというのは、かなり近い話なんだろうと思います。あるいは、いろいろな関係者が関与してくる中で、協働的な解決能力というのを高めるというのも必要な一つの能力ということになろうかと思います。
 余り時間がないのですぐやめますけれども、もう一つ第5期の基本計画に入っている移行管理(Transition management)についても少し触れておきたいと思います。社会において、技術や制度というのはしばしばロックインをするわけです。固定化されることになるわけです。そのようなロックインから抜け出すために、社会の中で技術だけではなくていろんな制度もセットにして、どうやってシステムを構造変化させるかということがトランジションになるわけです。恐らく具体的な課題で言えば、再生可能エネルギーを入れるとか、新しい医療システムを導入するというのは、こういうトランジションが必要になってくるわけで、このプロセスをどうマネージするかというのが移行管理(Transition management)であるわけです。
 そこではある種のトップダウンとボトムアップ双方が大事になると同時に、いろんなシステムはいろんな要素で構成されていますので、いろんな要素がCo-evolution、共進化するということが重要ですし、そうやって共進化させていくときには、どうやってルーティンのアクターではないアウトサイダーを入れてきて、非公式な場でそういう人たちからインプットを得て変えていくのかということが重要になるわけです。
 最近の議論で言えば、Responsible Research and Innovationということが言われますけれども、これはある意味では、いろいろな多様なステークホルダーを参画させることによって、技術開発だったり、技術の社会実装の方向性を適切な方向に導いていく、こういう試みだろうと思います。もちろん何が適切かという定義に踏み込むところは厄介になるわけですけれども、そういうことであるわけです。
 そういう中で、一つは人文・社会科学の役割、一つはこういうプロセスというのをきちっと記述をし、分析をする。ある種実践的なインプリケーションを導き出すということであるわけで、しばしば次の、ちょっと説明する時間がないので飛ばしますけれども、大きな構造のランドスケープの技術が埋め込まれたレジュームがある中で、どうやっていろんなニッチで実験を入れながら変えていくのかという、こういうプロセスを記述したり、あるいは分析をしたりということがなされるわけで、こういう面でも一つの貢献はできるんだろうと思います。
 最後に2枚スライドを用意しましたけれども、ここまでは大きな流れとしては、人文・社会科学も一定の社会的要請に応えるということは必要だろうし、いろんな枠組みがあり、既にいろんな実践の蓄積もあるんだ。それを生かす素材があるんだということをお話をしたわけです。ただ、そうはいっても、先ほども社会に役立つという概念が日本の場合狭いというお話がありましたけれども、多分その役立つということと適度な距離感を持つということとの、この微妙な頃合いというか間合いの取り方というのが、研究コミュニティとしては極めて重要なんだろうと思います。
 例えば、社会に研究の結果をフィードバックするといってもいろんなやり方があるわけで、何が問題であるのかを提示するというやり方もありますし、オプションを提示するというやり方もありますし、認識枠組みを提供するというのは、昔の言葉で言えば啓蒙で、これはこれで一つの極めて重要な機能であるわけですね。
 これまでの具体的ないろいろなプロジェクトなんかを見ていると、例えば理系をベースに、社会技術研究なんていうものがなされてきていますが、ここはかなり実装までやれというようなことをいっていて、ここはかなり狭い社会貢献のイメージを持っているわけです。ただ、これは政治プロセスの研究者の目から見ると、そもそもどういう解があり得るかというオプションの流れと政治的機会の流れというのは本来別物なので、これをプロジェクトの中で政治的機会のマネジメントまでやれというのはかなり無謀だという側面があります。
 同じような問題が実務家との距離で、実務家にいろんな問題意識を提示してもらったりということは必要ですが、他方、実務家が今時点で思っていることをやることが、本人にとっても社会にとってもいいとも限らないという部分があって、ここも適切な距離をとることが必要なんだろうと思います。
 先ほどもお話ししたように、最後のページですけれども、人文学・社会科学系の研究。特に人文学系の研究の場合には、特定の解を提示するというよりかは、認識枠組みを提示する。いろんな価値の候補を提示するという側面はあるわけで、こういう一定の距離感を持ちながら、社会課題につき合うということも、この分野においては極めて重要なんだろうというふうに思います。
 私自身が若干関わらせていただいた例で言うと、この人社振興の一環で、2003年から2008年まで、略称人社プロジェクトといっていましたが、課題設定型研究というのをやらせていただきました。このときの議論を思い出してみると、当時の委員会で、政策提言をやるべきだという議論もあったんだけれども、ある意味では多少押し返して、課題を設定すること自身が目的だという、そういう問題設定をしたというふうに記憶をしています。そういう意味でいうと、課題を解決するのではなくて、課題を探すことがこの分野の極めて重要な機能だということになるわけです。そういう意味でいうと、人社振興のプロジェクト研究もその後いろいろな形で実施されていて、現在の形はちゃんと理解していませんが、先ほどもちょっと御紹介があったように、課題設定による研究ということになっているので、課題を探すのではなくて、課題を提示した上でそれをやってくださいというふうになっているという側面が若干強まっているのかなと思います。そのあたりの距離感は、恐らく考えるべきことではないかなと思います。

【西尾分科会長】  誠にすみませんが、時間の関係でそろそろまとめていただけますか。

【城山委員】  はい。最後ですけれども、これは先ほど大竹先生のお話にもありましたが、こういうことをやっていこうと思うと、ベースとなる専門分野は大事なんですけれども、同時に他分野だとか現場についての理解をしようという、そういう意欲と能力を持った若手の研究者というのは極めて大事で、ここだけはやっぱり人がいないと、理系と一緒で実働部隊がいないと回らない話なわけであります。ある意味では、博士終わった後に少し違う分野を勉強したり、いろいろなところで社会経験を積むような、キャリアパターンを積むような、そういうタイプの人文学・社会科学研究者の育成というのも、こういうことを支える上では必要ではないかなというふうに思います。
 済みません、若干長くなりましたが、以上問題提起とさせていただきます。

【西尾分科会長】  貴重なお話どうもありがとうございました。特にAIの時代的な要請の中での人文・社会科学系との様々な関わりということでお話しいただきました。
 いろいろ御意見がおありかと思うのですが、どうぞ。

【五神委員】  この後、5分ぐらいで退席しないといけませんので、先に発言させていただきます。
 城山先生が示された14ページの絵は、要するにパラダイムシフトをどう乗り越えるかというところで苦労して描かれた絵だと思うのですが、このトランジション自身は、グローバル化の中でどこから起こってもおかしくないということで、日本がそのトランジションを主導できるかどうかというのはかなり怪しい状況になっています。とはいえ、日本は非常に特殊な要因がたくさんあり、後追いになったときには極めて劣勢になるので、先取りするためにどれだけ高いビジョンを持つかが非常に重要だということは、私が今、東大総長という立場でそういうことばかり日々考えているからということもありますが、切実に感じています。
 その上で、やはり人文系、社会科学系、理系というものの連携は不可欠であると考えます。ですから、今その大事な要素を衰えさせるというもったいないことをしてはいけなくて、それをどうやって最大活用するかということをきちんと我々自身が、アカデミアの場にいる者として、説明していく必要があります。
 一番大事なことは、文系、理系の人たちが集まるような場を作って、それがおもしろいと思うようなことを設定することです。例えば東大では、やや逆説的ですが、企業との組織対組織連携という場を設定してみたところ、企業は東大のいろんな学知を使いたいということで、文系も理系も関係なく、意欲的な人たちを集めます。そうすると、企業も非常にハッピーになりますが、何よりも人文・社会科学系の先生方から、こういう場がよかったという声が上がります。これが本来、大学の中で自発的にできなければいけないわけですが、このような仕組みを積極的に作っていく中で、新しい課題、あるいは人文学・社会科学がパラダイムシフト後に向けてどういう価値を出せるのかということを明確化していくことが重要です。例えば、社会システムについても、ブロックチェーン技術というのは一例ですが、それがあるのとないのとでは法的な仕組みも全然違ってくるわけで、それは理系の人たちだけでいくら議論しても答えは出てこない。そういう場を作るということを意識的にやって加速する中で、社会科学・人文というものが欠くことのできない重要な要素であるということが明確化していくのだろうと思っています。

【西尾分科会長】  それでは、簡潔にコメントをお願いします。

【城山委員】  どうもありがとうございました。まさにいろんな多様な人が出会う場というのは極めて重要だというのは、そのとおりだと思います。ここの説明で言えば、アウトサイダーが関与するような非公式な場という、まさにそういうイメージなわけです。
 あるいは、最後にちょっと御紹介させていただいた、昔やっていた人社プロジェクトの総括をやったときに考えたのは、本来であれば、昔は研究室の中の異分野の研究者が茶飲み話ができたんだと思うんです。みんな忙しくなって、研究室の隣の人と話をしないという状況になって、ましてや学部を超えると、一緒に昼飯はなかなか食わないという中で、従来であれば、日常的に茶飲み話ができていたり、あるいは出版社がある種そういうプロモーターの機能を果たしていたんだと思いますが、特に文系の場でいうと。そういうのがなくなったときに、多少そこは制度的にやる必要が出てきて、仕掛けを作るかということが必要がでてきたのかなのと思います。それから、若干文系の利害的な立場でいうと、これはある種の労働集約型産業なんですよ、手間がかかる。お金はそんなに要らないけれども、やっぱり人と手間は要る世界なので、そういう人と余力をどうやって確保するかということは、システムとして考える必要があるのかなという気がします。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。
 ほかに御意見とか。どうぞ。

【小林委員】  大竹先生と城山先生は、良い意味で非常に高度な抽象的な議論であったと思います。何の異論もございません。ただ、少し補足させていただきますと、もう少し具体的な現実的なことで、社会科学は役に立っていることがあるという補足だけさせてください。人文学は私は、分かりません。
 社会科学は二つの意味で、まず一つは、人材育成です。法学部があれば、裁判官、検事、弁護士になる人材を養成する。それから、商学部や経営学部であれば公認会計士や税理士になる人材を養成する。こういう人たちが、まず社会で必要ないのかどうかということが1点あります。
 もう1点。研究面でいいますと、例えば今、韓国のサムソン1社で、日本の家電メーカー7社の利益の合計より大きい利益を出しています。この違いはどこにあるかというと、マーケティングの違いです。私はある別の役所で何回か報告したことがありますけれども、誰も結局は耳を貸していただけませんでしたが、日本の家電7社の社長さんが全員理系だったことがあります。理系の方は、私、実はある国立大の大学院理工学等研究科の教授もしていましたので、理系の方は驚くほど良いものを作ろうと思っています。良いものを作るのが、会社の使命と考えています。すばらしいものを作ることが正しいことだと思っていらっしゃいます。
 サムスンはそうではなくて、売れるものを作っています。ですから、具体的に言うと、人口5,000万の国でサムスンの商品はさばけないので、結局人口が増えているインドやインドネシアで売れるものを作る。それはハイエンドのものとは限らないわけです。日本の家電メーカーは、ハイエンドのものを作る。しかし、それは結局コストがかかり過ぎて、インドやインドネシアでは売れない。だから、サムスンはミドルエンドのものを作りました。ローエンドのものは現地の会社が作っていますから。結果的に、それでも日本のメーカーは、いや、サムスンの技術は大したことないよといっていたのが、今や結局、利潤が上がったので研究開発が進み、ハイエンドのものも作って、アメリカのマーケットでも大きなシェアを持っています。
 もう一つの事例で言いますと、やはりマーケティングの問題ですが、日本はエネルギーをどこから持ってくるかというのはとても大きな問題です。原発をなかなか新設する状況ではないと思います。そうすると、某商社は中東のサウジから持ってくる。これは非常に安定的ですけれども、それだけでは足りません。別の商社が、インドネシアのある地域の採掘権を契約しました。そのときに私は、それは非常にリスキーだからやめた方がいいということを申し上げましたが、やはり耳を貸していただけませんでしたが、ほどなくその契約は駄目になりました。
 なぜかというと、結局その地域はインドネシアから独立したからです。それから、更に別の商社は、ホメイニ革命前にイランの原油を輸入するためにJPCを作りました。しかし、ホメイニ革命で、うまく調整しながらも、トランプ大統領の核合意から離脱で、イランからの原油輸入をやめろという要請をしています。だから、やはりマーケティングという意味でも、社会科学は意義があります。理系の方がどんなにいいものを作られようと売れなければ仕方がないし、エネルギーは持ってこなければ日本に生き残れないので。そういう意味で、社会科学というのは、地政学的な面でとても役に立つのです。
 私は社会科学の中の政治学ですが、理系の方は政治学は政治家になるための学問だと誤解している方もいますが、そうではなくて、いろいろな地域の地政学的なことを研究しています。そういう意味で、抽象的な役に立つということは、全くそのとおりですけれども、現実的にも実は大変役に立っているということは、理系の方には御理解いただきたいと思います。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。先生御自身が御経験なさったところからの御発言で、自然科学系と社会科学系の物の見方というようなことに関する一つの例かと思います。
 ほかにございますか。どうぞ、小安委員。

【小安委員】  私、随分前ですが、この人文学・社会科学の振興についてという議論に参加したことがあり、そこにも記録が出ています。今回、どこを目指すのかというのは、これまでの議論を伺っても余りはっきりしていないように思います。今、議論されているお話は非常に具体的であり、重要な問題だという認識はできますが、これをどういうふうにまとめていくかが見えません。
 事務局の作ったペーパーの中で、評価の在り方ということが出ていますが、これはたしか前も同じように議論に上がっていて、結局全く解決していない問題のような気がします。個々のお話を伺っているときには、納得できるお話をいろいろ聞かせていただくのですが、最終的にどこをゴールにするのかということを、もう少し明確にしていただかないと、何をこれから我々発言していったらいいのかちょっと分かりません。そこを是非事務局と座長にお考えいただきたいと思います。

【西尾分科会長】  今日も最初、議論に移る前に、そのことを明確にしないと、今後の議論がきっちりとした実りあるものになりません、と申し上げました。その議論を進める前に、時間の関係もありましたので、人文学・社会科学の分野から本分科会の委員として御参画いただいている方から貴重な講演を頂きました。
 今、まさに小安先生からおっしゃっていただいたことを、これからきっちり詰めなければならないと思っています。それで、事務局としてそのことに関して考えがあればおっしゃってください。
 一つ大事なことは、先ほど来、何回も出てきているんですけれども、なぜ今、人文学・社会科学系の振興のことをこの学術分科会で議論していくのかというところですね。それの位置付けをしっかりしないと、貴重な時間を割いて本分科会に御出席いただいている方の今後の議論の方向性が定まらないことを懸念します。

【春山学術企画室長】  本当に今、本日の御議論も踏まえてということだと思っておりますが、御説明させていただきました資料2-4の1ポツのところで、現代の今のこの時点の学術研究の動向を踏まえた人文学・社会科学の役割というような形のことだというふうに考えております。今、まさに本当に城山先生からも御発表いただいたこととか、ここで今御議論があったような、そうした人文学・社会科学だけに光を当てるんじゃなくて、全体の中でどういう役割を果たしていくのか。それはまさに今、議論されているような、ここに書いてあるような例がございますが、そうした観点は一つあろうかなと思っております。

【西尾分科会長】  そうしましたら、私としてお願いしたいことがあります。資料2-4には、論点例が記載されています。これに対して、五神先生からも新たな視点というようなことで幾つかおっしゃっていただきました。また、今日のお二人のプレゼンテーションの中からも、今後議論すべき課題をお話しいただきました。これらは事務局の方できっちりと論点整理をしていただきたく思います。そこで、皆様にお願いしたいのは、資料2-4に記載されていないことで、この分科会としてきっちり議論すべきというようなことがありましたら、是非論点として挙げていただければと思います。
 大枠としては、今事務局から説明していただいたとおりですけれども、頂きました追加の重要論点も踏まえて、今後議論すべき方向性を、私と事務局の方で再度調整していきますので、是非おっしゃっていただければと思います。ただし、議論のプロセスにおいては、小林委員からもおっしゃっていただいたように、人文学と社会科学をひとくくりにして議論することがよいことなのかどうかということは、きっちりと考えなければなりません。そのことも、今日おっしゃっていただいた御意見として重要な点です。
 どうでしょうか。ここに書いてあること以外で何かありますか。どうぞ。

【井野瀬委員】  ここに書いてあること以外というよりも、ここに書かれている言葉の表現方法そのものが、今は問われている気がします。先ほど少し大竹先生と議論させていただいた、社会に届く説明、デジタル革命が進行し、AIを含めて、変わりゆく社会の中で「届く説明」とは何か、という問題です。ただ単に「発信」と書かれても、今の時代に通じる表現がされていないと思います。だから、課題の表現方法が、少し前にあった小林先生の言葉を使えば、具体的な姿を想像させるようなものであればと思います。

【西尾分科会長】  それは内容的ということよりも、ここで議論したことの発信の仕方、どう届けていくかということの仕掛けをどう考えるのか、ということをきっちり考えてほしいということでよろしいですか。

【井野瀬委員】  そうです。課題の書き方として、ここにある「人文・社会科学の特性・意義及びその発信」と言ってしまうと、そこまでですが、この言葉には収まらないものが今問われている、ということを突きつけないと駄目だと思うのです。

【西尾分科会長】  貴重な御意見どうもありがとうございました。どうぞ。

【庄田分科会長代理】  先ほどのNISTEPの定点観測のお話、さらに、今の議論と少し関連付けて、「人文学・社会科学の振興」に関する議論、報告という形の中で、最終的には文部科学省の施策に結び付いていくことが大事であると思います。また、その施策自身が、研究者ソサエティ、あるいは、現場の研究者の方の共感を生むものであるのかどうかも重要です。先ほどのNISTEPの定点観測の最後のところに、現場の研究者の施策の意義の理解、あるいは共感が薄いといった御指摘があったと思います。評価の在り方というよりは、最終的に、振興のためにはどういう施策をとっていくかというところに結論がいくべきであると考えております。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。要は施策としていかに魅力あるものにするのか、ということですね。

【庄田分科会長代理】    特に実際に研究を行う人たちにとってです。

【西尾分科会長】  研究者にとって、どれだけ魅力あるものになるかということをきっちり考えていくということですね。どうぞ。

【城山委員】  恐らくは、人文学・社会科学の振興に何をやるべきかというのが結構先ほども御議論がありまして、かなりもう議論をされてきています。恐らく常に出てきているのは、1ポツの具体的討議の観点の例の三つ目ですね。諸学の連携の話と、社会連携の話と、グローバル化。多分、ここ自身が余り変わることはないんだろうと思います。逆に言うと、それを本当にやろうとするために、どういうツールを使うのがいいのかというレベルの多分議論というのは必要です。例えば、それこそ研究費部会での科研費の議論もありまして、グローバル化とか国際化なんていうのは、人文・社会科学だけではなくて理系も含めてどうするかという手当はそれなりにしています。他方、諸学の連携と社会貢献のあたりは、規模は大きくないけれども、課題設定のもとでのプロジェクトみたいなやつを少しずつリニューアルしながら、十数年やっていますという中で、例えばそのような仕組みの在り方をどうするのかですね。そこもちゃんとそれこそ理系と組んだようなものをもっとやるみたいなこともあり得るでしょうし、それから、若干思うのは、連携プロジェクト特出しでやるというのがいいのかどうかとも思います。
 例えば、科研費の本体のようなところで、むしろそういう今度単位が大きくなりましたけれども、そうはいっても近いところでまとまっちゃっているので、むしろ違う科目に所属するような人たちが連携するようなものを支援する、例えば科研の枠を作るということもあるのかもしれないし、あるいは実質的に今の科研Bの特設分野なんていうのは、ある種そういう機能を果たしているんだと思うんですね。グローバル化だとか、テーマを設定していろいろな分野の人が融合して出せますと。そうすると、だからそういうものを作った方がいいのかとか、多分そのレベルでの制度設計の余地というのは比較的幅があると思うので、そういうところが多分一つの論点になるのかなという気がいたします。

【西尾分科会長】  実は前回、一番新しい報告書が作られたのはどういう経緯があるかというと、これは第5期の科学技術基本計画が間近に立案されていくという時期に、文部科学省としては、基本計画の中に、今までの要請研究、戦略研究だけではなくて学術研究をきっちり位置付けるのかという視点で、文部科学省において学術研究の重要さをきっちり議論するということが大事だという位置付けで審議を行ったところです。
 ですから、今回の報告書を出すに当たって、先ほどまさにおっしゃった、科学技術・学術施策にどう生かしていくのかということに関するビジョンはあるのですか。

【春山学術企画室長】  具体的なものはございません。具体的な方向性というのは、今、我々は持ち合わせているわけではございませんで、ここでの議論を踏まえてということだと思っております。

【西尾分科会長】  そうですか。それでは、私も局長ときっちりと議論したいと思います。安西先生からもおっしゃっていただきましたが、予定しているような報告を出すに当たっては、きっちりと施策に反映されるということが重要です。今、このタイミングで我々が議論することの意義の一つとしては、先ほど城山先生もおっしゃったように、AI時代において、人文学・社会科学系で議論しなきゃならない範疇が広がり、従来にはなかったいろんな課題が出てきている。例えば、それを踏まえて何らかの報告書を提示して、人文学・社会科学系の振興にどのように生かしていくのかという、そのような道筋ですね。そのことを小安先生はおっしゃっているのだろうと思っています。

【安西委員】  今、西尾会長が言われたように、第5期科学技術基本計画に初めて学術という言葉が入りましたが、ここで人文学・社会科学の振興ということが議題に上っておりますのは、その上で更に人文学・社会科学について、学術としての振興を我が国が進めていくにはどうすればよいかという具体的施策に向けての議論を、この学術分科会でされるということだと理解しております。
 その理解が正しければ、やはり人文学・社会科学といっても非常に広範囲にわたっておりますので、これから多少の時間をかけてでも、多くの第一級の研究者の方々に、何が「パイプの詰まり」なのかということを聞いていただく必要があるのではないかと思います。
 理系の予算立てと、人文学・社会科学系の予算立てとは全く違いますし、また、制度や手続など、いろいろなことが違っています。そういうことをきめ細かくバックアップして差し上げるのが、やはりこれからの学術振興にとっては大事なことだと見ております。私自身も北海道大学文学部の社会心理学講座の助教授をしておりましたし、人文学の真っただ中で仕事をしていたものですから、いわゆる技術系との違いというのは肌で分かるつもりですが、やはり人文学・社会科学系の方々が、どういうことをバックアップしてもらうと自分たちの研究がもっとはかどると考えているのかを、十分聞いていただく必要があるのではないかと思います。やはり場を提供して、そういう話を聞かせていただくことが第1に大事なことなのではないかと思っております。

【西尾分科会長】  安西先生、本当に貴重な御意見ありがとうございました。
 小林先生、どうぞ。

【小林委員】  あと、事務局にお願いしたいのは、本日の資料の1-3、NISTEPのこの調査ですが、3ページを見ていただくと、調査対象は現場の教員・研究者(理学、工学、農学、保健)とあり、人文・社会科学は入っていません。せめて人文・社会科学は調査対象に入れていただけないでしょうか。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。
 今日、御意見をいただけなかった委員の方々もいらっしゃいますが、定刻になっております。今日は、今後の議論を実りあるものにするために、皆様からいろいろ御意見を頂きましたことに感謝すると同時に、そのために本当に貴重な時間を頂いたことを誠に恐縮に思っております。本日は、どうもありがとうございました。
 先ほど安西先生にも言っていただきましたように、人文学・社会科学系の学術研究ということに関して、もう一度、我々国の施策としても理解を深め、それをどう振興していくのかに資するような報告書を、今後、我々は策定していきたいと考えております。
 それでは、事務局より連絡があればお願いいたします。

【春山学術企画室長】  失礼します。次回の日程につきまして、資料5を御覧いただけますと幸いです。次回は、9月28日金曜日の10時から12時を予定してございます。それ以降につきましても、資料5の方に具体的な日程、調整中の部分もございますが、お示しをしております。詳細につきましては、また改めて御連絡をさせていただく予定にしております。
 また、本日の議事録につきましては、後日メールで御確認をお願いいたしますので、そちらの方につきましても併せてどうぞよろしくお願いいたします。以上です。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。
 それでは、本日、本当にお忙しい中、また、大変暑い中、貴重な時間を頂きましてどうもありがとうございました。心よりお礼申し上げます。

                                                                  ―― 了 ――

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